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ミラクルマンダッシュ!  作者: 木下源影
15/25

番号付きの来星と伝説の動物


     15


大勢の野球人たちは家族たちとともに陽気に食事を摂り始めた。


食べた後すぐに運動ができるはずがないと言われてしまうほどに大いに食らった。


「やっと話ができますよ」と万有マサカリが陽気に言って、春之介の席に近づいてきた。


その傍らには幼馴染で妻の万有ロロカがいる。


「いろいろと忙しかったので」と春之介は立ち上がって、マサカリと握手を交わした。


優夏はロロカと握手をして、「あら、寝ちゃったわ!」と言って、力を失ったロロカをマサカリに渡した。


「申しわけありません。

 言っておいたんですけどね…」


マサカリは言って、意識を断たれたロロカを、弟のナギナタに託した。


「あなたもパートナーを替えた方がよさそうよ」と優夏が穏やかに言うと、「…そろそろ考えるべきでしょう…」とマサカリはため息交じりに言って眉を下げた。


「しかし、野球は脇に置いて…」とマサカリは言って、幼児姿の春子を見た。


「ドラゴンバスターとでもいうのか?」と春子は幼児らしくなく畏れを込めてうなり、マサカリをもうろうとさせた。


「おまえはまだ弱い」とさらに言葉を重ねると、マサカリはついに意識を断たれた。


「相変わらず怖いな…」と春之介は倒れてきたマサカリを支えたまま春子の頭をなでた。


「試そうなんて思うからだもぉーん…」と今度は幼児らしく言って、春之介を上目使いで見ている。


「まあ試すのはよくないが…

 俺にはこれほどになるまでは感じないことが不思議だ…

 ああ、そうだったな」


春之介は言ってマサカリを椅子に座らせてから春子とベティーを抱き上げた。


「俺の娘だからな」と春之介が堂々と言うと、ふたりの娘は大いに喜んでいる。


「竜に武器を与えるなんて邪道だもぉーん…」と春子が言うと、「ああ、ドラゴンハウンドのことかい?」と春之介は思い出して聞いた。


「そんなの、普通に持ってて当たり前だもん」と春子はさも当然のように言ったが、ベティーは悲しそうな顔をした。


「もうできちゃうよ?」と春子はベティーに言うと、ベティーは目を見開いていた。


「体も、本来の竜にしちゃったから、一緒に訓練しよう!」と春子は陽気に言って緑竜に変身してふわりと竜に浮かぶと、ベティーも変身して、緑と赤の二柱が雄々しく空を飛んだ。


「…ベティーがデカくなったぁー…」と何事にもほとんど動じない春之介が嘆くようにうなったが、満面の笑みを浮かべていた。


「すごいわっ!」と優夏が叫んで、すぐさま飛び上がって、二柱を追いかけて体に触れ回り始めた。


春之介の視界の隅にビルドを捕らえた。


「ビルド様!」と春之介が叫ぶと、ビルドがすっ飛んでやってきた。


「ベティーですが、なかなか素晴らしい成長をしているようですが、

 どう思われます?」


「はっ 申し分ないかと!」とビルドは叫んで頭を下げた。


「…言っておきますが、

 あなた方はこのフリージアで万有様を守っていただきたい…」


春之介の小さな声には畏れが乗っていたようで、ビルドは体を震わせたが、「…はっ そのように…」とビルドも小声で答えた。


「それが一番平和なのです」と春之介が笑みを浮かべて言うと、「お話しいただいて、本当に光栄に思っています」とビルドは堂々と言ってから雄々しき火竜に変身して春子たちを追いかけた。


「…春子に自慢しに行ったな…」と春之介が苦笑いを浮かべて言うと、「…ああ、そうか… 命令されたと受け取ったか…」と浩也は言って納得していた。


「春子にはなんて命令しよう…」と春之介は言って大いに眉を下げた。


「自然に仲良くしろ、でいいんじゃないの?」と真由夏も眉を下げて言うと、「そうだな、それしかなさそうだ」と春之介は言って、真由夏の頭をなでた。


「マサカリにしてはうかつだな…

 春子が大きすぎて判断できなかったようだ」


源一が近づいてきて言うと、「上には上がいることを思い知ったでしょう」と春之介は答えて眉を下げてマサカリを見入った。


するとアリスは水竜に変身して、春之介に威嚇しようとしたが、ここは高龗が水竜となって立ちふさがった。


「おっ! 水竜対決!」と春之介は陽気に叫んだ。


すると、『ドォ―――ンッ!!!』というとてつもない音とともに、水竜アリスに神の鉄槌が落ちた。


落とした者は、雄々しき雷竜となっているライディーンだった。


ほとんどは弾き飛ばされたが、やはりダメージがあったようで、水竜アリスは地面に膝をつけたが、まだ水竜高龗を見入っている。


すると、『タァ―――ンッ』と軽い音がしたと同時に、水竜アリスはその場でうずくまった。


血相を変えて戻ってきた緑竜春子が水竜アリスに神の鉄槌を落としたのだ。


「竜同士の説教合戦…」と春之介は眉を下げて言った。


「竜たちは大いに成長したさ」と源一は言って春之介と肩を組んだ。


「…手が出せなかったことが残念だ…」と雷竜ガンデがつぶやいて苦笑いを浮かべた。


「ガンデが出しゃばると、春子と高龗にどやされるぞ」と春之介が言うと、「…心に刻んだ…」とガンデは答えて、人型に戻った。


秋之介は怖かったようで、小さなクマに変身していて、天照大神に抱かれていた。


これほどのハイレベルな竜たちの比較的穏やかな戦いを見ること自体それほどないからだ。


「今日の客たちはラッキーだ」と源一は陽気に言って、南側を見ると、観光客たちは怯えながらも竜たちを見入っている。


「子供たちは、イベントと思っているようですよ。

 妙にワクワクしてるようです」


春之介の言葉に、源一は機嫌よく大声で笑った。


すると竜たちはすぐさま人型に戻って、源一に頭を下げた。


―― 今の笑い声は、大いに勉強になった… ―― と春之介は思って、星に帰ったらマネしようと考えていた。


「…学校の先生は、もう終わりにした方がよさそうだ…」と源一は少し残念そうに言って、また宇宙の旅に戻る決心をした。


「また教職に戻れる日が必ず来ます」と春之介は胸を張って答えた。


「ああそうだ。

 パラダイス軍も預かってくれないか?

 あの宇宙をさらにいい空気に変えて欲しい」


「はい、喜んで。

 一輝さんから上申でもありました?」


「いや、怖くて言えなかったそうだぞ!」と源一は愉快そうに笑った。


「一輝さんは心中穏やかではないと思いますし…

 しかも、南条様の尻に敷かれているようです」


「…俺たちと同じさ、恐妻家…」と小さな声で早口で答えた。


「…それが、一番平和なのかもしれませんね…」と春之介も小声で答えた。


「タクナリ様とマサカリ様はパートナーを間違えていた…

 この先、大変そうですね…」


春之介は大いに同情していた。


「妻の座は別に今のままでいいさ。

 だが、戦いの場に出た時のパートナーは必要だ。

 秋之介たちのような優秀な神が欲しいところだね。

 …拓生さん…

 松崎拓生さんと相談した方がよさそうだ…」


「そういえば、そちらの地球にも神がいるそうですね。

 天照大神様もいらっしゃるそうで」


源一は幼児の天照大神を見て、「こちらのお方をかなり優しくしたような方だけどね…」とため息交じりに言った。


「…うふふ…」と天照大神が源一を見上げて笑うと、「…全然違う…」と大いに嘆いた。


「仕事をしていただければ、成長は望めるでしょう。

 うちの神たちは、初見の俺を大いに疑っていたほどですから。

 俺が近親者で助かったようなものです…」


「そうだ、それが大いにうらやましいね」と源一は言って春之介の肩から腕を放して椅子に座って念話を始めた。


―― 松崎拓生様と接触することになるかも… ―― と春之介は淡い期待を抱いた。



肝心の野球の試合だが、泥仕合にならないように工夫されていて、ハードな攻防によって超人ぶりを発揮できないと審判員一同が判断した場合、その裏の回の攻撃終了時点でコールドゲームとすることは決められている。


ドズ星軍対イチガン軍だが、その5回の裏の攻撃でもうすでに泥仕合化していた。


しかし、観客は元気で、両軍を大いに応援する。


試合経過時間はまだ二時間なのだが、両軍とも疲労困憊だった。


後攻のドズ星軍は、ここでついに代打攻勢に出たが、色濃い疲労は隠せない。


「…あと一点、あと一点…」とジュレは祈るようにつぶやいている。


全ては化け物でしかない、佐伯真奈美と佐伯菖蒲のふたりにその差を見せつけられた。


しかしその二人は既にギブアップしていて、ベンチ内で眠りこけている。


人間だが超人でもある佐伯佑馬は、まるで魂を乗せているかのように渾身のボールを投げてくるが、もうスタミナが切れかけている。


いい当たりをされると確実に進塁を許すはずなので、全く気を抜けない。


さすがにキャッチャーまでの50メートルはかなり厳しいが、「ウラァ―――ッ!!!」という掛け声とともにボールをリリースした。


しかし非情にも、「キィーンッ!!」という子気味いい音とともにボールは内野を超えて、センターからライト寄りの深い位置までボールが転がっていく。


外野手たちは疲労困憊で思ったように走れなくなっている。


走者はボールの行方を見ることなく懸命に走るとスタンドが大いに沸いている。


二塁を回った時、三塁コーチャーの腕が、まさに抜けんばかりに回っている。


佑馬は中継に回るため、セカンドベース付近で待ち構えた。


これはクロスプレイになると誰もが思っていた。


まさにその通りとなり、打者が本塁に突っ込んだ時、キャッチャーがボールを捕った時点で、「セーフッ!!」と球審の非情のコールがあった。


そしてもう誰も動けなくなっていた。


審判が集合して、「7対6で、ドズ星軍勝利っ!!」とコールがあったが、ジュレはこのコールを聞いて笑みを浮かべて、心地良い眠りに誘われた。


「…辛そうだな…」と春之介は眉を下げて言った。


「基礎訓練が足りないだけよ」と優夏はなんでもないことのように言って、スタンドからふわりと浮かんで、遭難者たちの救出に行った。


もちろん、春之介たちも倒れ込んでしまった者たちを救護室などに運び込んでから練習を始めた。


観客たちは、―― まだ終わってなかった… ―― とここで改めて思い直して、化粧室やら売店やらに駆け込んだ。



春之介と優夏は入念に打ち合わせをして、春之介がマウンドに立った。


まさに打たせて捕る投球になるので、投手は春之介の方がふさわしい。


そして簡単に5人を打ち取って、余裕の笑みでゼルタウロス軍はベンチに戻ってきた。


「高めが武器になるとはね」と春之介が陽気に言うと、「まずホームランなんて打てないもの」と優夏は陽気に言った。


いい当たりはするのだが、外野手は6人いるので、すべてを簡単に補給できる。


しかも高めに投げることにより、ライナーかフライにしかならないので、さばくことは簡単だった。


よってこの乱打戦の様相に、観客たちは大いに沸きあがっていた。


もちろん、攻撃の方がかなり疲れるのだが、ゼルタウロス軍は足腰には自信がある。


しかし、タクナリとマサカリたちをチームに加えたレディーエンジェル軍も十分に走り込みはやっている。


特にタクナリは疲れ知らずのスタミナを誇っているので、どれほど走っても5回程度では音を上げることはない。


そのタクナリとマサカリは外野手として守備についている。


まさに足を生かした守備になるはずだ。


塁間は狭く見えるが、今までの9人野球と同じで、内野の間を抜くことは可能だ。


どのチームも内野手は6人置いている。


これが守備範囲としては順当だった。


よってゼルタウロス軍は叩きつけるバッティングを心掛け、ノーアウトで満塁の場面で、大いに気合が入っている四番の優夏の出番がやってきた。


そしてそのあとには春之介がネクストバッターサークルにいる。


まさに今回はセオリー通りのオーダーを組んだことがいい方向に顕著に現れた。


優夏はサインを出したが、敵チームは気付かなかった。


そして投手が投げた途端に、走者は一斉に走った。


『キンッ』と大人しい音がして、ボールはホームと三塁手の間に転がっている。


もちろん、三塁走者はホームインして、優夏も快足を行かして生きた。


まさに力を抜いた素晴らしいチームバッティングに、「ナイバッティンッ!!」と春之介は陽気に叫んだ。


まさかスクイズをやってくるとは思わなかったようで、―― 次もある… ―― と誰もが思い、サードとファーストは比較的前進守備を取った。


そして春之介に対しての一球目、『キィ―――ンッ!!!』という目の覚めるような快音に、第一ショートはグラブを構えたが、なんとボールがホップした。


レフト方面の外野手は第一ショートがブラインドになっていてボールの行方を追えなかった。


しかも、確実に第一ショートが捕ったと思っていたからだ。


そしてレフトスタンドが大いに沸いて、グローブでキャッチした女子が飛び上がって喜んでいる。


線審の腕が大きく回ると、春之介はガッツボースを取って、ゆっくりとダイヤモンドを回り始めた。


「なんつー打球だ…」とネクストバッターサークルにいた浩也は大いに嘆いている。


そのリプレイを見たのだが、カメラがボールを追えていなかった。


第一ショートの目の前でボールがホップしたことは確認できたが、次のシーンはレフトスタンドのフェンスの近くにいた女子がボールを捕った瞬間だった。


春之介は上から下に叩きつけて、猛烈なバックスピンをかけていた。


しかも弾道が低くなるようにコントロールされていたので、第一ショートの手前で一気に上昇して、さらには風に乗ってスタンドまで届いたのだ。


春之介は自然の力も武器にして、満塁ホームランを放ったのだ。


ファーストにいる澄美は、大いに悔しがっていて、大いに沸いているゼルタウロス軍のベンチをにらみつけた。


そしてまた、塁間を抜くヒットの嵐で、簡単に8得点を上げた。


このままでは打たれっぱなしになると思い、澄美自らがマウンドに立った。


さすが勇者で、そのボールには勢いがあるし、コントロールも確かだ。


しかしゼルタウロス軍の猛攻は止まらない。


どれほどの剛球でも、ホームベースまでの50メートは遠いのだ。


打球は巧みに塁間を抜いて、ついには打者一巡となった。


アウトを5つも取ることは、まさに夢のまた夢だった。


ゼルタウロス軍はさらに15点を上げ、疲れ果てた澄美はベンチに引っ込んだ。


澄美は打席に立っていないので、これもルール上、試合復帰はできない。


ようやく猛攻が終わった時、得点は50点となっていた。


レディーエンジェル軍はもうすでに満身創痍だった。


このままでは、審判員によるコールドゲームは目に見えている。


もちろん、タクナリとマサカリは余裕だったのだが、ふたりだけではどうすることもできない。


そして簡単にアウトを5つ献上して、また守備に散った。


ゼルタウロス軍は二回の裏にも35得点を上げた。


春之介たちはまさに余裕だったが、タクナリとマサカリには言い知れぬ疲労が見え隠れしていた。


右に左に走らされ、さらには超遠投を強いられる。


これほどハードなスポーツはないと思い知っていた。


そして三回裏の攻撃途中でゼルタウロス軍は100得点となり、特別ルールによりゼルタウロス軍の勝利となった。


しかも試合時間も2時間45分だったので、これが潮時だった。


まさに大人と子供の試合だったのだが、勝てばうれしいし負ければ悔しい。


両軍は全く相反した感情で、ミラクルゼルタウロススタジアムを後にした。



王都の食卓では、「…うらやましい…」と松崎拓生が言って、春之介に握手を求めてきた。


春之介は満面の笑みを浮かべて握手を交わした。


「今日も大いに楽しんでしまいました!」と春之介は高揚感を上げて叫んだ。


ここは選手一同を風呂に連れて行き、松崎と側近たちは選手たちをねぎらった。


「もう野球というスポーツじゃないな!」と五月大河が叫んで、選手たちの背中を流す。


「…おい、とんでもない人だぞ…」と浩也が春之介に向けて小さな声で言うと、「…鬼という種族ですから…」と小声で答えた。


「…鬼…」と浩也は復唱して、大いに苦笑いを浮かべた。


その反面、春之介は満面の笑みを浮かべている。


風呂から上がれば、選手一同は源一自らの素晴らしい食事をたらふく食った。


そして今回の報酬はまさに破格だった。


前回の十倍ほどの報酬をチームキャプテンたちは恭しく受け取った。


すると、まだ何もしていないのだが、大いにふらついて御座成翔樹が春之介に近づいてくる。


だがその直前で力尽きて床に倒れた。


「…執念に近いね…」と春之介は眉を下げて言った。


「お金儲けばかり考えてるからじゃない…」と優夏は言って、左手のリングを見て笑みを浮かべた。


「…指輪の特殊能力ぅー…」とジュレが大いに嫉妬して言うと、「出したらわかっちゃうから。試そうか?」と優夏が穏やかに言うと、「…うー…」とジュレはうなってこれ以上は何も言わなかった。


「…うーん… これはまた面妖な…」とひとりの男性が言って、優夏の指輪を見入っている。


「佐藤様、こんにちは」と春之介は少し緊張して挨拶をしたが、優夏は、「ふーん…」と怪訝そうに言って佐藤俊介の顔を見入った。


「青空ちゃんのパートナーもしています」と俊介は言って、幼児の姿に変身すると、青空がすっ飛んでやってきた。


「あら? 素晴らしいパートナーだわ!」と優夏は言って、ふたりの頭をなでた。


「古い神の一族のセント様だ」と春之介が説明すると、「それなり以上よね…」と優夏はうなるように言ってうなづいている。


「どなたも孫が一番出世するのかしら?」と優夏が言うと、「そういうめぐりあわせなんだろうね!」と俊介は陽気に言った。


そして、「欲しい?」と俊介が青空に聞くと、青空は春之介の天使たちを見入った。


そして青空は自分の指につけている指輪を見た。


「ふたつは持てないぃー…」と青空は大いに嘆いた。


「たぶん、術が暴発するので、計算して創るしかないですね。

 もしくはおもちゃで我慢してほしい」


春之介は言って、本物そっくりの指輪を青空に渡した。


「あー… きれー… 偽物なのにすごぉーい…」と青空は感動して、リングを左手の小指につけた。


俊介も指輪を見入って感動している。


「…固まったけど、解決できたようだ…」と春之介が小声で言うと、優夏はくすくすと笑った。



食事会も佳境に入った時に、松崎が側近たちを連れてやってきた。


「実は、春之介君にお願いがあるんだ」


「はい、喜んで引き受けます」という春之介のいきなりの回答に、大いに注目していた者たちが大いに目を見開いた。


そして松崎の能力の高さを何も見ないで判断したと、春之介を大いに畏れた。


「話が早くて助かった…」と松崎は言って、天照大神たち神を見まわして、「まさにうらやましい…」と松崎は言って春之介に笑みを向けた。


「ですが、神たちに自由を与えることにもなるんですよ?」


「追い出すもぉーん…」と天照大神がやんわりというと、「もちろんそうしていただきたいのです」と松崎は言って、天照大神に頭を下げた。


「…うふふ… 嫌われなくてよかったぁー…」と天照大神は言って、春之介に笑みを向けた。


「地球にいる天照大神は、あなたほどではありません。

 その威厳を少しだけでも分けていただきたいほどです」


天照大神は上機嫌になって、春之介に満面の笑みを向けた。


「天照が機嫌よくなったので、今から行きましょう」


春之介が言って立ち上がると、大勢の家族たちもすぐに立ち上がった。


「…みんなも来るの?」と春之介が眉を下げて聞くと、「…観光旅行…」と浩也がつぶやいた。


「全然いいわ! みんなで行きましょう!」と優夏は陽気に言って、春之介の右腕を抱きしめた。



一行は母屋に入って黒い扉をくぐって、一旦地下室に出たが、別の扉をくぐるとそこはパラダイスだった。


「拓生様っ!!」と叫んで、ひとりの女性がすっ飛んできた。


すると天照大神がすぐさま見抜いて、その雄々しき体をさらした。


この地球の天照大神は、一瞬にして地面にひれ伏した。


「…同じ国も神でもこれほどの差があるんだよ…」と松崎は苦笑いを浮かべて春之介を見た。


「いえ、かなり成長されるはずですから」と春之介は言って、ひれ伏している天照大神の肩に右手で触れて、左手に金色の球を持っていた。


「持ってみてください。

 かなり重いですよ」


春之介は言って、松崎の手のひらに金色の球を乗せた。


すると、松崎の手が地面に引き寄せられるようになったが、何とか堪えた。


「…これが、この星との絆…」と松崎は感慨深げに言った。


「おあつらえ向けに火山がありますから、

 火口の中にでもお祀りしておきましょう。

 誰も持ち出せませんし、誰も入れません。

 ここはビルド様にお願いしましょうか」


「はっ! ありがたく!」とビルドは言って、松崎から金色の球と春之介から三方を受け取って、雄々しき火竜となって飛び、火口に突っ込んでからすぐに出てきた。


「張り切ってるなぁー…」と春之介が大いに感心して言うと、松崎は愉快そうに大声で笑った。


そしてあと四柱の神の魂の絆もビルドが同じようにして火口に祀った。


「…はは、すっごく強そうです…」と春之介は子供にしか見えない少年を見入った。


「神の中でも長兄で、ランドルフという」と松崎が紹介した。


そのランドルフは、松崎はまるで無視していて春之介に興味津々だった。


「ダメ」と天照大神が言うと、「…怖いおばちゃん…」とランドルフが口答えすると、春之介も松崎も大いに笑った。


「ところで、神たちを誰が生んだんでしょうねぇー…」と春之介が言うと、松崎は大いに希望を持った。


「あ、もちろん、自然発生したことも考えられますから」と春之介が言うと、松崎は少しだけ気落ちしていた。


春之介が住んでいた地球と同じ条件だとは限らないのだ。


春之介は、大地に手のひらをつけて、魂たちと交信した。


「…混乱してます…」と春之介はすぐに言った。


「…自分自身をわかっていない…」と優夏がつぶやくように言うと、春之介は地面から手を放して、「そのようだ」と言って立ち上がった。


「ですが、多くの魂たちの興味は、

 かなり北の方に向いているんです。

 北極近くには誰も住んでいないと思うので、

 海洋生物かもしれませんね。

 その辺りを少し飛んでみますか?」


「ああ、連れて行って欲しい」と松崎は言って頭を下げた。


春之介、優夏、松崎と神たちはそのまま飛んだが、ほかの者たちはこの楽園の島で休息することにした。


ここには巨大な遊園地があるので、子供たちが大いに興味を示したからだ。


よってここは、浩也と真由夏が保護者代表として子供たちに付き添うことになった。



春之介たちは国境を越えてさらに北に向かって飛んだ。


「この辺りだね…」と春之介は言って、巨大な氷山に足をつけてから、手のひらをつけた。


そしてゼルタウロスに変身すると、海面が大きく揺らいで、氷山ごと揺らした。


ゼルタウロスは春之介に戻って、「覚醒する意思をまるで持っていないようですね…」と眉を下げて言った。


「そして、怒ってます」と春之介が言うと、「地球の環境が悪いからか…」と松崎は言って、少しうなだれた。


「今の海面の揺らぎは驚いたことと憤慨と両方の意思がありました。

 そして、この星では確認ができていない生物だと思います。

 もしくは、古代恐竜の生き残りかもしれません。

 今はあの氷山の真下にいます。

 この氷山には怖いものがいるそうですから」


春之介の言葉に、誰もがくすくすと笑った。


もちろん、春之介を畏れて退避したのだ。


「さらに、温暖化を止め、クリーンアップを推進することに決めた。

 今回は、手加減なしだ」


松崎は大いに威厳をもって言ってから、春之介に礼を言って、この星のすべての人類に語り掛け始めた。


春之介たちの出番は終わったので、もといた場所の天照島に戻った。


「みんなっ! 帰るぞっ!」と春之介が叫ぶと、浩也たちが人員確認をして全員を連れてきた。


そして子供たちは懇願の眼を春之介に向けた。


「次の旅行は、フリージア星の隣にある、アーリア星の遊園地に行こう。

 ここの遊園地よりもかなりでかいそうだぞ」


春之介の言葉に、子供たちは大いに陽気になっていた。


「星に創らないのね…」と優夏が眉を下げて言うと、「商売としてなら建てるだろうね」と春之介は答えた。


「近くに夢中になる楽しい施設があるのも問題だと思う。

 飽きるのも早いからね」


「そういうこと」と浩也は言って、子供たちを見まわすと、「…お兄ちゃん、ごめんなさい…」と子供たちはすぐに謝った。


「今ある遊具施設も撤去するか…」と春之介が少し意地悪く言うと、子供たちはさすがに春之介に懇願の眼を向けた。


「みんなの考えひとつで撤去もあり得るから注意するように」と春之介が威厳をもって言うと、「はいっ! ミラクルマンッ!!」と機嫌よく返事をした。



春之介たちは源一と花蓮、そして野球人たちに挨拶をしてから、宇宙船に乗ってゼルダの星に戻った。


桜良は暇だったようで、子供たちが好みそうな簡素な施設を建てていた。


まさに建物自体が芸術品で、「こりゃすごい…」と春之介はうなった。


基本的には図書館のようだが、本はほとんどない。


ここは春之介が様々な子供受けしそうな本をわらわらと出すと、子供たちが率先して書棚に並べ始めた。


そしてさらに、浩也を筆頭にして、大人たちの肩に触れて、またわらわらと本などを出した。


「これだけあれば、かなりの秀才になれる」と春之介は言って辺りに散らばっている本を満面の笑みを浮かべて見まわした。


マンガなどもあるが、もちろん感動の物語だ。


都合の悪い場所などは、春之介が脚色して書き換えてある。


極力、残虐なシーンなどは、今は見せる必要はないという判断だ。


しかし、もうすでに悪魔の子供たちの数名はその体験があるので、この子たちに教育を任せたようなものだ。


もちろん教師たちもフォローする。


その教師たちも大いに興味を持って、絵本などを手に取って、子供たち以上に夢中になって読み始めた。


まさに教育熱心な証のようなものだ。


「…絵がきれいになってるわ…」と夏樹がつぶやいて笑みを浮かべて絵本を読んでいる。


もちろん、春之介独自の美的感覚で、それなりの修正もしてある。


よって子供たちも夢中になって、本を手に取って読み始めた。


「…遊園地で遊びほうけることよりも有意義…」と浩也は苦笑いを浮かべて言った。


「…ある程度は、メリハリがあった方がいいからね…」と春之介は笑みを浮かべて言って、図書館の外に出た。


春之介がまた図書館の建物をまじまじと確認していると、源一から念話があり、労いの言葉とともに、松崎からのメッセージを伝えられた。


『断らないよなぁー…』と源一が寂しそうに言うと、「源一様はどうした方がいいと思われます? もちろん、パートナーの意見も組み入れないと意味はないと思います」と投げかけた。


『今までの花蓮さんだったら反対だろうけどね、

 今までにないほどに機嫌がいい…』


源一がため息交じりに言うと、春之介は少し笑った。


『やはり、俺たちに世話になっている想いが大いにあるから、

 松崎さんたちはその星で暮らしてもらった方がいいように思う。

 もしくは、クレオが住んでいた星の番人替わり、とか…』


「そうですね、その件を含めて話を進めてみます。

 今回はエッちゃんも協力するように思いますから。

 となると、フェアリー星は世界の騎士団だけが住むことになりますね。

 さらには、あとから松崎さんに寄り添った人たちの進路も

 はっきりさせた方がいいでしょうけど、

 威厳が上がった神たちが決めると思います」


『それも、大いにうらやましいね…

 このフリージアには妖精はいても、

 土着の神はいないから…』


「源太様に生んでもらえばいいんでしょうけど、

 産まれたばかりというのは、少々考えものですね」


『だろうなぁー…

 だけど、人が大勢住むことで、

 それなりの考えも沸いているようにも思う…

 この件は慎重に考えてみるよ。

 源太の意思もあるだろうから。

 あとは困ったことに、タクナリ・ゴールドが、そっちの移住を望んでる。

 もちろん、俺の娘の向日葵も同様だ。

 さらに修行を積みたいそうだ』


「また人質のようで嫌なんですけど…」と春之介はため息交じりに言った。


『あ、そうだった…

 改心させるための武器にするか…』


源一は言って少し黙り込んだ。


『タクナリから離れたくないだけのようだ…

 これでは弱いし、タクナリのためにはならないな…』


「ここは別居もお勧めだと思います。

 タクナリ様単身でここに来ていただいていいように思いますね。

 タクナリ様のこの先の修行としては、

 孤独をさらに磨きをかけてもらってもいいような気がします。

 そんなイメージがあるので」


『そう、正解。

 5才から10才まで生けるしかばねだった。

 きっとな、俺や春之介と肩を並べるはずなんだ。

 向日葵との婚姻の件は時期尚早だったようだが、

 きっと別れることはないだろう。

 このカップルも、どちらかと言えば姉さん女房だから』


春之介は愉快そうに笑った。


春之介は念話を切ってから松崎に念話をした。


そして松崎はこの先の方向性を春之介から聞いたが、春之介の町に住んでから決めたいと言ってきた。


「では、いつでも来てくださって結構です。

 ここには、人を見る目が厳しい神がいますので、遠慮はいりませんから。

 気に入らなければ星に入れません」


『…宇宙船で行ったら、宇宙空間に放り出されるの?』と松崎は大いに困惑して聞いてきた。


「元いた星に戻されるだけです。

 そこまで非情じゃないようですね。

 ですが試していないので、本当にそうなるのかは微妙です。

 この条件を付けて、天秤にかけることもお勧めのように思います」


『…それは言えるし、神たちがその威厳を放った…

 残ったのは俺と妻、俺の父、五月大河、結城覇王、

 あとは子供たちと、神たち…』


「…かなり減りましたね…

 残った人は合格点が出るまで、

 フェアリー星で頑張ってもらいましょうか」


『俺はさらに鬼となろう…

 この話、もうしばらく保留にして欲しい』


「はい、構いませんよ。

 いつでもいらしてください」


『神たちがさらに厳しくなってしまった…』と松崎が大いに嘆くと、春之介は大いに同情して念話を切った。


「今は来ないんだ」と桜良がまず春之介に聞いてきた。


「留守中に来るかもしれないから、

 住居だけ建てる準備をしておいて欲しいんだ」


春之介の言葉に、「うん! 任せといて!」と桜良は陽気に答えた。


「まずはここで力をつけて、クレオの星で暮らすのが順当のようね」と優夏は穏やかに言った。


「そうなるだろうね。

 俺だってこの星は借りものだから、条件は同じだ。

 やはり同じ星に住むには、俺たちにとって狭く感じるはずだ」


そして春之介はクレオにも話をしたが、「元々俺の星ではない」と言って簡単に認めたし、別荘の番人ができることは歓迎している。


よって松崎は誰にも遠慮することなく、クレオがいた星で威厳を持って生活ができる。


全てがうまく回りそうだと思った時、春之介にタクナリから念話が来た。


春之介が許可をすると、春之介からタクナリと向日葵が飛び出してきた。


「やあいらっしゃい。

 そしてお姫様、いらっしゃいませ」


春之介の言葉に、向日葵はホホを赤らめてタクナリの影に隠れた。


「向日葵、帰るか?」とタクナリが厳しい言葉を投げかけると、「帰りません!」と叫んだ。


そしてタクナリの隣に立った。


「今は、妹さんのようにしか見えませんね。

 ですが、実力はそれなり以上。

 さすが、花蓮様のお子様です」


向日葵は何とか春之介と優夏に向けて頭を下げた。


「父のこと、お認めになっておられないの?」と向日葵が聞くと、「目に入れても痛くない子は、弱点にしかなり得ません」と春之介は答えた。


向日葵は少し飛び上がって喜んだが、最終的には釈然としない顔をしていた。


「溺愛も程々だということです。

 俺は考えを改めることにしました。

 だけど、家族の中では一番親しく接する俺の娘だとさらに認識できました」


春之介は真剣な眼をして言ってから、春子、翔春、ベティー、美佐を抱きしめた。


「美佐ちゃん…

 すっかりここの子になっちゃったのね…」


向日葵が笑みを浮かべて言うと、「フリージアとは一味違うわよ」と美佐も笑みを浮かべて言ったが、その言霊には想いが乗っていて、向日葵は背筋を震わせた。


「…怖い猫ちゃんに変身しそう…」と向日葵は眉を下げて言った。


「あっ! そうそう!」と美佐は陽気に言って、大きな赤い猫に変身すると、まずは優夏が陽気になって抱きしめた。


「おっ 翼が…」と春之介は言って笑みを浮かべて赤い猫の頭をなでた。


まだまだ小さいが、背中にふたつ翼を確認できた。


「…うふふ、かわいぃー…」と優夏は赤い猫の翼をやさしくなでた。


「おっぱい飲ませると、すぐに大きくなっちゃう…」と優夏が言うと、赤い猫は眉を下げて優夏を見上げた。


「その前に、大人の女性にもなってしまいそうで嫌だ」と春之介はここは大いに拒否した。


「…優夏様にも愛されてる…」と向日葵は言って少しうなだれた。


「ここにいる子供たちは、みんな私のかわいい息子や娘よ」と優夏は堂々と言ったが、図書館を見て、「今は絵本に夢中だから、さすがに邪魔はできないわ…」と優夏は少し寂しそうに言った。


真由夏がティーセットを持ってやってきたので、ここは穏やかに席について、今後の話をした。


「…お母さんよりも随分と気さく…」と向日葵は言って少しうなだれたが、ここは胸を張って優夏に愛想を振りまいた。


「悪魔だけど、ちょっと違うから。

 私の場合は悪、って言った方が正しいわ。

 ああ、春ちゃん… 春菜も同じよ」


「…えっ…」とタクナリも向日葵もつぶやいて固まってしまった。


「まあそうだね。

 人種で言えば新しく発見した悪という存在だろう。

 本来は人型としては存在できないはずだから」


春之介が比較的陽気に言うと、「…危険すぎる…」とタクナリはつぶやいた。


「もちろん、この悪が暴れたら危険じゃ済みません。

 全てが無に帰して当然ですから。

 だけど同じように危険なことを万有様と花蓮様はされています。

 …おや? 知らなかったのですか?」


春之介はタクナリと向日葵の顔色から判断して聞くと、「基本的には、宇宙の母と宇宙の父が肉体的に交わることは許されないわ」と優夏が言うと、ふたりの腕には鳥肌が立っていた。


「いつこの宇宙がなくなってもおかしくないんです。

 優夏と春菜がいることなど大したことじゃないんです。

 源一様と花蓮様の誤算は、優夏と春菜が現れたことですから。

 止めるのなら、

 まずは万有様と優夏様とすぐに話をするべきでしょう。

 高確率で、現在の宇宙すべてはなくなってしまいます。

 都合よくそれなりのことをやっているはずですが、

 それは危ない橋を渡っていることと同じです。

 宇宙の母は、向日葵様がされることが一番いいでしょう。

 もちろん、あまりの重圧に動けなくなると思いますけどね」


向日葵は大いに戸惑って、眉を下げて春之介たちを見ている桜良を見た。


「エッちゃんは人間なので、確実に無理ですから。

 できるとすれば、人間を終えてからの方がいいので、

 あと60年は先の話です。

 向日葵様は、生まれた時から妖精だった。

 これは、お母さんの代わりを務めるために生まれたと考えても問題ありません。

 そして、宇宙の父の交代も考えた方がいいでしょうけど、

 適任者がひとりしかいません」


「佐藤俊介ね?」と優夏が聞くと、春之介はすぐにうなづいた。


「…ヤマ様や八丁畷様ではいけないのですか?」とタクナリが聞くと、「動物は自然界の一部で、重複が起りますから不可能です」と春之介が答えると、「…まさかだった…」とタクナリは嘆いてから、素早く源一と優夏に頭を下げて向日葵を連れて消えた。


「人間ごときが宇宙の父にはなりえない、か…」と春之介は言って苦笑いを浮かべた。


「宇宙の母は花蓮でいいんじゃないの?」と優夏が聞くと、「確実に無謀なことをするじゃないか…」と春之介は眉を下げて優夏を見入った。


「…う… そうだったぁー…」と優夏はようやく気付いて、大いに苦笑いを浮かべた。


「春菜が挑発してなきゃいいんだけどね…」


「問題ないわ」とここは優夏は胸を張って言った。


「ぜーんぶ伝えたから、こっちに帰ってこようと何度も試してたわ!」と優夏が言って、楽しそうに大声で笑った。


「…どこにいても同じなんだけどな…」と春之介は大いに苦笑いを浮かべた。



宇宙が消え去ることはなく、宇宙の父は佐藤俊介に引き継がれた。


源一の前の宇宙の父が俊介だったので、特に問題はないのだが、俊介は幼児の姿で青空を連れてゼルダの星にやってきた。


「…集中したいから…」と俊介は申し訳なさそうに春之介に言った。


「はい、よくわかります。

 先日お会いした時とは別人になられています。

 どうかここで、穏やかにお過ごしください。

 そして、できれば、後継者を育てた方がよろしいかと」


「…ランス君だなぁー…」と俊介は言って大いにうなだれた。


「私も、できれば協力したいと思っていますので」と春之介は誠心誠意言って、俊介に頭を下げた。


「だけどね、これが本来の正しい姿だと思うよ。

 あ、宇宙の母も代わったよ」


俊介は陽気に言って、青空とふたりして手をつないで、図書館に走って行った。


「…あー… 私もあんな思い出が欲しぃー…」と優夏がないものねだりをした。


「できるよ。

 だけど、俺の場合はその知識があるだけで、

 源一様にお願いする必要があるけど…」


春之介は言って桜良を見た。


すると優夏は桜良に向かってすっ飛んで行ってから、手に白い布をもって戻ってきた。


「幼児化するわっ!!」と優夏は叫んで、大いに苦笑いを浮かべている春之介に天使服を渡した。


「優夏とは違うわけけだね」と春之介が言うともうすでに優夏は幼児化していて、「うんっ! そうだよっ!」と陽気に言った。


春之介は渋々天使服を着て幼児化した。


「…春ちゃんが絶対邪魔するって思うんだけどぉー…」と春之介が言うと、そんなことはお構いなしに、優夏は春之介の手を握って、特に大人たちを中心にしてあいさつ回りを始めた。


浩也たちは大いに苦笑いを浮かべていたが、特に春之介を大いにかわいがった。


―― 嫌がらせかなぁー… ―― と春之介は思ったが、感情としては愉快二割で八割は現在からの脱却だった。


どうやら、今までよりもその存在感に威厳が出ているようだ。


ヤマが小さなゾウに変身した時と理屈は同じで、小さくなればなるほど、術などを放たなくても威厳が上がる。


よって、幼児姿の天照大神たちは、大いに眉を下げている。


だか、家族の絆が強いので、意識を断たれるほどではない。


近づくだけで、大いに修行になるのだ。


春之介と優夏は遊園地の乗り物に乗って、「いつまでこのままなの?」と春之介が聞いた。


「ずーっとっ!!」と優夏が楽しそうに言うと、春之介は大いに眉を下げた。


「野球、多分退場になるよ?」と春之介が言うと、優夏は悲しそうな顔をして眉を下げた。


「…野球の時だけ戻るぅー…」


優夏は欲張りだった。


体力が幼児レベルになるだけで、能力的には何も変わっていないので、星救済の仕事はそれほど問題なく行える。


特に戦闘の場合は、今までよりも都合はいい。


今までよりも素早く動くことが可能だし、大人の影に隠れてサポートに徹することができる。


だが春之介とは違い、優夏の肉体的積み上げは大人の姿とそれほど変わらない。


この先は春之介自身の修行とすることにした。



ふたりは乗り物を降りて、優夏が、「猫ちゃん!」と叫んだので、春之介は大いに眉を下げてゼルタウロスに変身した。


「…優夏っ!! 近づいてくるなっ!!」と真っ先に浩也が叫んで、大人は全員、食堂から厨房に避難した。


「…猫ちゃんのせい…」と優夏が悲しそうに言って、「…修行が行き届いてなくてごめんね…」とここはゼルタウロスが謝った。


本来の姿であるゼルタウロスの若返り… というよりも昔返りは、とんでもない威厳があるようで、ここはヤマも小さなゾウになって、三人で大いにはしゃぎまわった。


「…光景としてはなごむが、空気の重さが半端ない…」と浩也が嘆くと、誰もが大いに同意した。


しかし、子供たちも天使たちも悪魔たちも子供の場合は問題ないようで、虹色ペンギンがみんなを守りながら大いに遊んだ。


今日のところは優夏は満足したようで、遊び疲れて眠ってしまった。


「…ああ、自由だ…」と子猫のゼルタウロスは言って、幼児の春之介に戻ってから天使服を脱いだ。


「…色々と、上がったな…」と春之介はすべてを確認してから、仲間たちに歩み寄った。


「…どうなることかと思ったぞ…」と浩也が眉を下げて言うと、「さすが、旦那さまでございます」と一太が大いに高揚感を上げて言った。


「修行にしてね…」と春之介はため息交じりに言って、家族たちに頭を下げた。


「面倒な人と会う時は都合がいいよ…」と春之介が言うと、家族たちはその対象者たちを不憫に思い始めた。



翌朝、優夏は昨日のことを忘れたかのように、悪魔用天使服を脱いで肩を回している。


「…だるぅーいぃー…」と優夏は言って、またころりと寝転んだが、ほんの5分後に簡単に復活した。


「…危険だわ…」と優夏は嘆いて、眉を下げて悪魔用天使服を見入った。


「きちんと時間を決めて短時間だけ。

 みんなに大いに迷惑だから」


春之介の真面目腐った言葉に、「…よーく、理解できましたぁー…」と言ってみんなに謝って回った。


しかし子供たちは何も迷惑は掛かっていないし、素晴らしい時間を過ごせた。


だが、子供と大人とでは感じ方が違うこともわかっているので、ここは我慢してその日の成り行き任せにするように決めた。


そして優夏は、春夏秋冬に昨日のふたりの幼児姿の画像数十枚をスマートフォンに送信させて、「はっきりと記憶がある、素晴らしい思い出だわ…」と感慨深く言った。


春之介は眉を下げていたが、―― なかなか合理的… ―― とも思っていた。


「…悔しそうな春ちゃんの画像も欲しいわ…」と優夏が言うと、―― 徹底してるな… ―― と春之介は思いながら食事を楽しんだ。



一日の仕事は何事もなく終わってゼルダの星に戻ったのだが、―― 空気がそれほどよくなっていない… ―― と春之介は思い、春夏秋冬にその原因を探らせると、「暗黒宇宙も回った方がよさそう…」と、少し嘆くように言った。


「いや、そうしよう。

 まずは暗黒宇宙に行って、

 一カ所でもいいので星の救済をして、

 こっちに戻ってニ三カ所回る。

 場合によってはその逆でもいい。

 空気が悪くなっているわけじゃないけど、

 放っておけば、この星もまた巻き込まれそうだからな。

 100年は長いようで短いはずだ」



春之介たちが野球の練習をしていると、タクナリから念話があった。


春之介はすぐに人がいない場所に移動すると、春之介から飛び出したのはタクナリだけだった。


「向日葵様はさすがに来られませんか…」と春之介が眉を下げて言うと、「花蓮様が付きっ切りでレクチャーしています」とタクナリは眉を下げて答えた。


「それに、花蓮様も告白されました。

 まさに、春之介様の考えられていたことが起こっていたはずだと。

 負けず嫌いも罪だとおっしゃって、肩を落としておられました。

 さらに、源一様が心の底から感謝しておられました」


「ん?」と春之介が怪訝そうな声を上げると、タクナリは、―― 余計なことを言ってしまった… ―― と後悔した。


「源一様はそれほど機嫌がいいとは思っていません。

 どんなことでも、必ず連絡をくださっていましたが、

 今回の件ではノーコメントのようです」


「…表面的には、そう見えるように、俺たちに言っていたのか…」とタクナリは言って春之介に頭を下げた。


「あ、メッセージ来たよ」と春夏秋冬は言って、小さな映像を春之介だけに向けた。


まずは、春之介に対する不義理を詫びた。


そしてその時の心中をつぶさに語って、春之介を納得させた。


やはり、我が子向日葵が苦しんでいることが、父親としては心配でたまらないようだ。


「ここは協力しよう」と春之介は言って、優夏を呼んで、タクナリにつぶさにリングの観察をさせた。


そしてタクナリの肩に触れて、「おや?」と春之介が言ったとたんに、手にはリングケースがあった。


「まさか失敗したんじゃ…」と春之介は思ってケースを開けたが何も問題はない。


「まさか、昨日のイベントだけで、これほどに上がったのか…」と春之介は少し困惑していたが、工法も出来栄えも、今までと何も変わっていない。


「少々心配なので、今回は立ち会わせてもらいます」と春之介は言って、優夏とタクナリとともに、源一の魂に向かって飛んだ。


挨拶もそこそこに、春之介はタクナリにリングケースを渡した。


「薬のようなものです」と春之介が言うと、向日葵は力ない笑みを浮かべたが、タクナリがリングケースを開くと、向日葵は目を見開いた。


「様々な効能がありますので、よく確認して使ってやってください」


「…はい、きっと、この苦しみは簡単に去ります…」と向日葵は言って、タクナリに向けて左手を差し出した。


タクナリはリングをもって、向日葵の薬指に指輪をはめると、向日葵の顔色が昨日と同じように復活していた。


「あ、調子に乗りそうだったわ!」と向日葵は言って、陽気に笑った。


「…うー… 私よりも要領がいいような気がするぅー…」と花蓮は大いに嘆いた。


春之介はほっと胸をなでおろした。


もし不良品であれば、これほどの変化はなかったはずなのだ。


すると源一が頭を下げて、「何から何まで、本当にありがとう」と礼を言った。


「いえ、俺はまだまだなので。

 昨晩、少々思い知ったことがあったので…」


春之介が説明すると、「…またそれは過激で過剰な変化だね…」と源一は感慨深げに言った。


すると、夏介の部隊が帰還してきて、春菜が何事かと思い優夏に寄り添った。


優夏はすぐに春菜に悪魔用天使服を着せて、自分も服を着て、春之介に強制的に天使服を着せてから、春之介と手をつないだ。


まさに幼児の春菜は泣きそうな顔をしたので、優夏はすぐにふたりの服を脱がせ、春夏秋冬にピンナップ画像をスマートフォンに送信させて、「…ああ、高揚感の沸く思い出だわ…」と感慨深げに言って画像を見入っている。


「…なに?」と春菜が大いに目を吊り上げて春之介に聞くと、事情説明をした。


「…幼児期の思い出の記念写真撮影…」と春菜は言って大いに苦笑いを浮かべていたが、「私を出汁にすんなっ!」と春菜は優夏に向かって大いに叫んだが、優夏は、「ごめんごめん!」と口先だけで謝った。


まさに強者の余裕を見せつけただけに過ぎない。


「…絶対に、春君よりもいい男を捕まえてやるぅー…」と春菜はうなって、大いに憤慨しながら風呂に向かって歩いて行った。


「…ふーん… なかなか変わったね…」と春之介は言って夏介を見ると、「…女春之介様です…」と夏介は言って春之介に頭を下げた。


春之介は何度もうなづいて、「役に立っていてよかったよ」と言って、夏介の肩を軽く叩いた。


すると夏介は顔面から床に突っ込んだ。


「ん?」と春之介は言いながらも、魂たちにお願いして、春介を健康な状態に戻してもらった。


「…春之介、ひどいわぁー…」と優夏は言って、夏介の脇を掴んで立たせた。


「…何をすれば、今のようなとんでもない変化が現れるのですかぁー…」


夏介にはもう痛みはないが顔を歪めて大いに嘆いた。


「天使服で幼児化して、幼児化した優夏と遊んだだけ」


「…さすがお師匠様…」と夏介は言って頭を下げたが、春之介は疑問に思わない我が弟子を少し不憫に思っているが、そういうことにしておいた。


「普通、一日程度ではそれほどの効果はないけど…」と源一は怪訝そうに言ったが、思い当たることがあったようだ。


「もちろん、ゼルタウロスも昔返りをしました」


「…そうだ、それだ…」と源一は言って納得していた。


「古い神の一族特有のものだから、

 誰もができることじゃない。

 その古い神の一族でも、それほどの変化は起こらないはずだ。

 さらに俺の場合は威厳が上がるだけで、

 何の修行にもならない」


源一は眉を下げ、残念そうに言った。


「…そうだ、昔返りも修行…

 しかも、俺以外にも効果はある…

 …やります?」


「おうっ! 望むところだっ!」と源一が叫んだので、春之介は結界を張って天使服を着てから、ゼルタウロスに変身した。


『ナァーン…』とゼロタウロスが頼りなげに鳴くと、源一は背筋を震わせて、まるで金縛りにあったように動けない。


「…さすが源一だわぁー…」と優夏は言って、もうろうと始めた花蓮の体を支えた。


夏介とタクナリはすでに眠っていた。


「…これが、本来の神の威厳か…」と源一は何とか言葉を発することはできた。


ゼルタウロスは幼児の春之介に戻って、天使服を脱いだ。


「…大いに迷惑なのはよくわかりました…」と春之介は眉を下げて言った。


源一はほっと胸をなでおろして、「悪竜だったらその場でのたうち回るだろうな…」と苦笑いを浮かべて言った。


春之介は夏介とタクナリに気付けをして立たせた。


「…お師匠様はとんでもなかったです…」と夏介は言って頭を下げた。


「少しでも、優夏に近づけたことがうれしいんだ」という春之介の言葉に、「…あんまり強くなって欲しくないかなぁー…」と優夏は大いにわがままを言って、春之介の右腕に抱きついた。


「ひとりの春之介には負けないわ。

 だけど、春之介は戦場ではひとりでは戦わない。

 その時点ですでに強いから。

 それが春之介の強さの秘密なの」


優夏は満面の笑みを浮かべて春之介を見た。


「調子に乗りそうだから自重しよう…」と春之介は苦笑いを浮かべて言った。


「…持って生まれた、神の資質…」と向日葵はつぶやいて、すべてのことに納得した。


「それが動物だから、ほかにできる者は…

 美佐くらいかなぁー…」


源一のつぶやきに、「小さな翼が生えました」と春之介は早速娘自慢をした。


「…変化が現れるとは思いもしなかった…

 同居してすぐに、その兆候が現れるなんてね…」


源一はため息交じりに言った。


源一は改めて、タクナリと向日葵を春之介に預けることにした。


タクナリの魔王軍は、源一が従えているので問題はないのだが、もうすでにかなりの成長を遂げた元ボスに、魔王軍のメンバーは大いにうなだれていた。


その中にはタクナリの実の妹までいる。


しかし今は、離れて暮らすことも修行として我慢した。



春之介たちはゼルダの星に戻って、お勉強していなかったことについてタクナリに有力な話を聞いた。


「…エッちゃんが作ったぬいぐるみが生命体になった…」と春之介が言うと、「すごいじゃない!」と優夏は大いに喜んだ。


もちろん、作っただけではそのようは変化は現れるはずがない。


動き出したのは二体あって、どちらも微妙に条件は違うが、もちろん同じシチュエーションもある。


どちらのぬいぐるみも見本品として店頭に置かれていて、手垢などで薄汚れていたものを、ランスが術できれいにしたことは同じだった。


よって、桜良が作ったぬいぐるみと、ランスが放った天使の拭去の術という条件は同じなのだ。


春之介は少し考えてから、地面に両手をつけた。


ここは魂たちと会話が始まったのだ。


「うっ! そうなのっ?!」と春之介はいきなり驚きの声を上げた。


「…物知りの魂もいたもんだ…

 きっと、今すぐにでも生命体として俺たちのそばに来てくれるだろう…」


「経験を大いに積んだ子は、それほど興味はないかなぁー…」と優夏は春之介の言葉を否定した。


「そう簡単には蘇らないさ。

 それまでは大いにかわいがらせてもらうから」


「それはそうね…」と優夏はすぐに春之介に同意した。


春之介は桜良に顔を向けて、「ぬいぐるみの材料で変わった生命体のものを使ったよね?」と聞くと、「えっ?!」とまずは桜良が驚いて目を見開いた。


「きっとほとんどがその生命体の構成物質で作られていたと思うんだけど?」


「…う、うん…

 あの当時はセルラ星の海に住んでいたクラゲの体を使って、

 糸や布や綿とかボタンも創り出してたのぉー…

 増えすぎちゃってたようで、

 海から追い出されてクラゲの死体がたくさんあったから…

 ほとんどは、おいしく食べちゃったけどぉー…」


春之介は納得して何度もうなづいた。


「まさに無駄なくほとんどをすべて効率的に使った。

 その恩恵が一番だと俺は思っているんだ。

 確かに、お金を出して買ったランスさんの持ち物には違いないけどね」


「…人身売買はんたぁーい…」と桜良がつぶやくと、春之介はここぞとばかりに威厳を放って大声で笑った。


「おいっ! 今度は魔王にでもなったかっ?!」と優夏は比較的喜んで叫んで、春之介の背中を力を込めて叩いた。


「…手加減してくれ…」と春之介が眉を下げて言うと、「…飛んで行かなかった…」と優夏は大いに嘆いた。


「構えていても、痛いものは痛いんだ」


「はい、ごめんなさい…」と優夏はここは素直に謝った。


そして春之介は辺りを見回して、「一太の根性はすごいな… 兄ちゃんは油断していたようだ…」と嘆くように言って辺りを見回した。


大人はほぼ全員、目を見開いたまま意識を断たれていたのだ。


ここは春之介が気付けをした。


「松崎様のマネだよ」と春之介が言うと、「その数倍はあったぞ、威厳…」と優夏は答えてホホを赤らめた。


「何考えたんだ…」と春之介は言って優夏の頭をなでると。優夏は嬉しそうな笑みを浮かべた。


「…人間の方はさらなる修業が始まったって思わない?」


「それを探るために、いろいろと試すことにしたんだよ」


「…勝てなくなったら、うれしいなぁー…」と優夏は言って、顕著な成長が見えてきた春之介に向けて涙を流した。


「優夏に勝つには魔王以上の力が必要だけど、

 その魔王が怯えてるからもう終わりだ」


春之介の言葉に、「わかったわ」と優夏は機嫌よく言って、大いにうなだれているタクナリを見て言った。


その横で向日葵が献身的に慰めている。



「クラゲという生物だけど、

 どの星に行っても同じで、脳がない」


春之介の言葉に、半数以上はお勉強をしてその事実は知っていた。


「しいて言えば、海を漂う植物と生物の間と言っていいし、

 ほとんどのものが合体して体を大きくするんだよ。

 よって、その部位ごとに細胞の性質を変えたものが合体して、

 芸術的ともいえる体になるんだ。

 エッちゃんの作りだしたぬいぐるみは、

 魂さえあれば動けて当然だったように思うんだ。

 あとはその魂が高尚であれば、

 体内期間を生物と同じように造り変えればいいだけ。

 その資質がある魂だけが憑依できたと言っていいね」


「サンドルフ様とサンサン様の魂は、確かに高尚です…」とタクナリはつぶやくように言った。


「だから二番目は天使たちの想いの強さだ。

 それがいいクッションになって、魂が定着できた。

 ぬいぐるみをきれいにしたのはその一部でしかないから、

 拭去の術が直接関与したわけじゃない。

 心情的には、このふたりの母は、エッちゃんだと俺は判断するね。

 ランスさんはこれにも胡坐をかいてるんじゃないだろうかと考えた」


「…異議申し立てをして奪ってきちゃうぅ…」と桜良は珍しくうなるように言った。


この件に関してはかなり悔しかったようだ。


「もっとも、この程度のことに気付かなかったエッちゃんも悪い」


春之介の言葉に、「だーれも聞いてくれなかったもんっ!」とここは少しだけ怒って言った。


「他力本願も程々だよ」とレスターがやさしく諫めると、「はぁーい…」と桜良は答えて肩を落とした。


「今更の親権争いもないだろうけど、

 真実を伝えて欲しい」


春之介の言葉に、「ふたりとも大いに混乱を始めたよ…」と春夏秋冬が眉を下げて答えた。


「あとは、ふたりの誠意に託すよ。

 あとは、動物として自然に生まれるか、

 非生物として生まれるか…

 試すわけじゃないけど…」


春之介が言い終わると、虹色ペンギンのぬいぐるみを持っていた。


するとああっという間に目を見開き、小さな翼を羽ばたかせて、春之介を見上げた。


「やあ、生まれてくれてありがとう」と春之介が笑みを浮かべて言うと、優夏がすぐにさらって抱きしめた。


「…なんかすごかったけど、すごくもなかった…」とゼルダがぼう然として言って虹色ペンギンを見ている。


「一番難しいのは、全く想いを入れないことだよ。

 産まれた今は、誰を頼るのかは、この子自身が決めることだ。

 …あの魂がない…

 やはり資格があったようだ」


そして優夏の手をするりと抜けて、春之介の影に隠れた。


「なんか出したぁー…」と優夏は言って、両腕を水平に上げた。


「今回は、クラゲのような生物と、粘りのある植物を組み合わせてみた。

 この成分が優夏からの拘束から身を助けたわけだ。

 もちろん、細胞組織に適合性があるから組み込んだ。

 檻に入れても、常識的な隙間だったら抜け出るかもしないね。

 動物には、この程度の特殊能力があった方が普通に動物らしい」


「…うう… なんだか微妙…」と優夏は言って一瞬にして服を着替えた。


「動物たちはみんな迷惑をこうむっていると思うから、

 過分な感情を抑え込めということだよ」


「…はいぃー… 守りますぅー…」と優夏だけではなく子供たちも言って頭を下げた。


「…早送りであの当時の再現をされたとおっしゃるか…」とタクナリが嘆くように言った。


「特に証明する必要はないからね。

 俺だけが確信できて納得できればよかったから」


春之介が穏やかに言うと、タクナリも心穏やかになって頭を下げた。


すると桜良がとんでもないスピードでぬいぐるみを造り始めたので、春之介は大いに笑った。


「欲を乗せすぎ」と春之介が言うと、「うっ!」と桜良は言ってから、せっかく作ったぬいぐるみを消すと、子供たちは眉を下げて桜良を見ていた。


「今のぬいぐるみたちは毒にしかならない。

 だからエッちゃんは消したんだよ。

 誰かが手に取ったとたんに自分のものにしたかったはずだ。

 そしてここで、戦争が始まっていたように思うね」


春之介の言葉を子供たちは軽視しない。


よって、「…ミラクルマン、ごめんなさい…」と子供たちはすぐさま謝った。


「いや、作ったものに欲を乗せたエッちゃんのせいだ。

 ここは大人として悪者になってもらおう」


春之介の言葉に桜良はホホを膨らませたが、レスターにやさしくお説教をされ始めた。


「考えなしで調子に乗るからよ」と優夏が言うと、「説得力はないね」と春之介が言って少し笑った。


「それに、適合できる魂はもうないと思うから、作っても多分無駄」


春之介の言葉に、桜良は大いにうなだれた。


「見た目は本物そのものですが、構成物質がまるで違います!」


春夏秋冬は陽気に叫んで、その違いを映像としてグラフ化して宙に浮かべた。


「ある意味、少々不幸だな…

 子孫を残せないかもしれないが…」


「あ、いえ、無受精出産ができそうです」と春夏秋冬は言って、この星に住んでいるそれに似た生物の一覧を映像として浮かべた。


半分以上は単細胞生物だが、一般的な生物もいるし、なんと虹色ペンギンは無受精出産動物だったようだ。


「誰もペアがいなかったことがすっごくよく分かったわ!」と優夏は言って、虹色ペンギンたちを抱きしめ始めた。


「…なんだかうらやましいわね…」と尚が言うと、誰もが一斉に尚に目を向けたが、バツが悪そうな顔をしてそっぽを向いた。


「…だって、八郎さんとやっと付き合い始めたばかりなのに、

 こっちに来られないなんて…」


尚が嘆くと、優夏たちは必死になって慰め始めた。


「本人に来る意思があってもね、

 まだまだ鍛え上げる必要があるんだよ。

 時にはあっちに戻ればいいじゃん」


春之介の言葉に、「自分自身の修行もあるもん…」と言って、少し寂しそうな顔をした。


ギリギリではないが、尚の場合は最低でも今を維持しないとここでは暮らせないことはよくわかっている。


まさに浩也、一太、麒琉刀を大いにうらやましく思っていた。


さらには後ろから追いかけてくる三太とニ子は、尚にとって恐怖対象の存在でもあった。


三太の場合は、もうすでに尚と並んでいると言っていいほどに、体力的には余裕がある。


さらには浩也の弟たち4人のグループも、野球の試合に出ているほどだ。


いくら人が足りないからと言って、春之介は無謀なことはしない。


資格があるからこそ、春之介は使っているのだ。


「それほど思い詰めることはないさ」という春之介のお気楽な言葉に、尚は少しにらんだが、考え直してから、「…ヒントちょうだぁーい…」と昔のように甘えた声で言った。


「…二重人格…」「違うわい!」と幼馴染さながらの会話が繰り広げられた。


「そろそろ話そうと思っていたんだ。

 尚は、一日訓練したら一日休んだ方がいい。

 休むというのは、根を詰めて訓練をしないということで、

 一般の女子高校生のようにふるまうということだから。

 だまされたと思って一週間続けてみればよくわかるさ。

 もちろん仕事には来てもらうけど、

 空き時間は地球に戻って八郎さんに会って来ればいい」


「…う―…」と尚は大いにうなった。


まだまだ修行不足なのに休んでいいものなのかと、当然のようにどうしても考えてしまう。


「ふーん… みんなとは違うんだぁー…」と優夏はあることに気付いて納得して何度もうなづいた。


「…調整が失敗したら春君を怨んじゃうぅー…」とうなるように言ったが、ここは春之介を信用することにしたようだ。


「ほかの人たちは尚とは違って普通だから、

 今まで通り、最低でも維持する訓練はしなきゃいけないよ」


春之介のこの言葉に、尚はようやく自信を持てたようだ。


「じゃ、帰ってくるわ!」と尚は陽気に言って、尚に飛びついた秋之介を抱いて社に入った。


夏之介も走って行ったのだが、秋之介が早かったようで少しうなだれると、優夏たちが慰めていた。


「…動物たちの方が早いぃー…」と天照大神がうなるように言った。


「…尚は神たちにそんなに人気者だったのか…」と浩也は嘆くように言うと、「尚は異常だから」と春之介は上機嫌で言った。


「…俺や春之介とは違う方法で、飛躍的な進歩をするとでもいうのか…」


浩也がまた嘆くように言うと、「まずは明日の仕事の時によくわかるから」と春之介は陽気に言った。


「だけど問題がひとつ。

 八郎さんに付き合ってはハードワークをしたら意味はないね。

 本当に理解できるのは、二週間後からだと思う」


「いや、だからこそ、きちんと説明してやる必要があるんじゃないのか?」


「意識しちゃダメなの」と優夏がさらに謎かけのようなことを言うと、「尚の性格にも関係することなんだよ」と春之介がフォローした。


「それに尚の場合、女性としてはうれしい効果もあるんだ。

 鍛え上げてもムキムキにならない」


「その方法教えてっ!!」と真奈が叫ぶと、「尚は特別だって言ったよね?」と春之介が眉を下げて言うと、「…そうでしたぁー…」と真奈はつぶやいて矛を収めた。


「尚はね、自分の体の鍛え方がよくわからないんだよ。

 それを考えさせるために一日休ませるという意味もあるんだ。

 そうやって尚は自分の体が人とは違うことがわかってくるはずなんだ。

 きっとね、普通にデートしてて、おぼろげながらに気付くと思う。

 そして訓練をすると元の木阿弥。

 極力時間を空ける必要があるんだよ。

 仕事はね、別にいいんだ。

 ある程度は緊張しているものだから」


「…だったら常に緊張しておけば…」と浩也は言って首を横に振って否定した。


ずっと緊張できないからこそ休む必要がある。


「…休息、緊張、自己解決…

 なんとなくだが、わかってきたような気がする…

 俺たちにもある程度は言えることだ」


「…ああっ! そうかっ!」と一太と麒琉刀が同時に叫んで、ふたりともすぐさま口を手のひらでふさいだ。


「双子の兄弟のようだ!」と春之介は叫んで大声で笑った。


「ここのランニングで、尚に勝てる人」と春之介が言うと、優夏だけが手を上げた。


「…そうか… そういうことだったのか…」と浩也も納得して笑みを浮かべて何度もうなづいた。


「…スタミナの化け物」と芽大琉が言ったとたんに、口を手でふさいだ。


「大正解」と春之介は穏やかに答えた。


「まだ人間の人の中で、

 尚が一番の化け物だと俺は思っているんだ。

 この二週間で、尚はさらに化け物になって、

 人間ではいられなくなるように思うね。

 人間を追い出されて能力者?」


春之介の言葉に、優夏は陽気に笑って、「そんな人誰もいないわ!」と叫んだ。


この話に、特に男性陣は大いに気合が入っている。


だが怪我をしては元も子もないので、できれば春之介に何かアドバイスをもらいたいと思っているようだが、その兆候はないので、今のまま持久力をつけようと、まずは練習に行った。


すると、どう考えてもボールが重い。


誰もが試合の後遺症だと思い、力を抜いて遠投のキャッチボールを始めた。


その距離はほぼ200メートルで、もちろんダイレクトで投げられるのは優夏だけだが、『パス』という情けないグラブ音しか聞こえないほどに失速する。


「ボールが重いぃ―――っ!!!」とグラブからいい音が出ない分、優夏が叫んだ。


「ああっ! 倍の重さにしてるからなっ!!」と春之介が叫ぶと、誰もが目を見開いた。


「本気で投げたら肩が抜けるだろうがぁ―――っ!!!」と優夏は激怒して叫んだ。


「そんなもの、説明しなくても見抜けっ!!!」と春之介は叫び返した。


誰もが夫婦喧嘩のような言葉のキャッチボールを聞いて、大いに呆れていた。


しかし、この訓練はやっていて当然と、浩也がまず確信して、初めに思ったようにかなり力を抜いて投げる。


ほんの五分後、浩也の相手の一太のグラブだけがとんでもない音を上げ始めた。


「兄ちゃんっ! さすがだっ!!」と春之介は陽気に叫んだ。


もちろん浩也は無理はしていない。


全身を使って丁寧に投げているだけだ。


その強靭な肉体が、力を抜いていても、剛球を生むサポートを始めていたのだ。


さらにはミサイルのようなボールもまれに飛んでくる。


「ナイスボールッ!!!」と一太は叫んで、キャッチングだけに専念を始めていた。


「縦の高速回転はまさに武器だなぁー…」と春之介は感慨深げに言った。


「ボールが溶けねえのがおかしいだろうがぁ―――っ!!!」と優夏は叫んで思いっきり投げてボールを蒸発させた。


「回転をかければかけるほど、空気抵抗が減るんだよっ!!!」と春之介は叫んで、新しいボールを投げ返した。


「トルネードを投げんなぁ―――っ!!!」と優夏は叫んで、後逸したボールを追って行った。


とんでもないキャッチボールに、ジュレも一輝も眉を下げて見入っている。


しかし、これほど楽しそうにキャッチボールをする野球人はいないと思って、誰もが気合を入れていた。



夏介はゼルダの星に帰ったが、春菜は帰ることができない。


よって、ひとりでいてしかめっ面をしているか、動物たちとコミュニケーションを取って笑みを浮かべているかのどちらかだった。


さらには、誰もが春菜が怖いので、話しかける者はほとんどいない。


―― 野球の練習ができないぃー… ―― と春菜は思って、何とかひとりでできる練習方法を考えた。


―― マンガのようなことができるかも… ――


春菜は修練場の裏手に回って、壁際にバットを転がして、50メートルほど離れた。


そして壁に向かって投げ、そのまま走って素早くバットを拾って打って、大急ぎで打球を追いかけてキャッチして大いに高揚感を上げた。


さらには腹を抱えて笑い始めた。


まさに、マンガのようなことができてしまう自分自身を愉快に思ったのだが、大いに空しくなった。


―― …ひとりでやっても詰まんない… ―― と、ここでようやく気付いた。


だが、孤独な野球もマスターしようと、投げて打って捕るという練習を繰り返した。


「姉ちゃん、ほんと、すごいなぁー…」という少年の声に、春菜は振り返った。


顔立ちは少し厳つい感じだが、身長は高くなく、140センチほどだ。


年齢で言えば12才程度だろう。


「あら、恥ずかしいわ…」と春菜は言って大声で笑った。


「そんなことないよ…

 誰にでもできることじゃないもん…」


「あ、だけどあなた、見ない顔ね?」と春菜が言うと、「あはははは…」と少年は大いに空笑いをした。


「春君のように動物のようね」と春菜が確信して言うと、「きっとね、姉ちゃんとは敵になっちゃうんだよねぇー…」と少年はうなだれて言った。


「ふーん…」と春菜は気のない返事をした。


優夏は少年の存在感だけである程度は見抜けた。


「イチガン軍の関係者ね。

 思い当たるのは、小さな岩の恐竜」


「はは、正解だよ…」と少年は言って、その体を体高50センチほどの岩の恐竜に変えた。


「ゼルタウロス軍が一番メンバーが少ないから、

 何とか混ぜて欲しいんだけどね…」


恐竜は言ってから姿を少年に戻した。


「みんなは、ガウルって呼んでたわね?」


「うん、そう…

 僕って、それなりにえらい存在なんだって聞いたけど、

 今はそれほどじゃないって思う…」


少年はうなだれて言った。


「…えらい、ねぇー…

 前世のことなんだろうから、

 聞かせるべきじゃないって思うんだけどね。

 だけど、春君や優ちゃんや私のことを考えたら、

 思い出した時に変わっちゃうかもよ?」


「それも、なんだか嫌だなぁー…

 今まで、ボクが生きてきたことに意味がないように思っちゃう…」


「あら、なかなか大人ね」と春菜は言って、ガウルと腰を据えて話をすることに決めた。


春菜は、古い神の一族で言えば、祖父と話をしているとは、全く気付いていなかった。


数十分間、容器に話をしてから、ガウルの希望でキャッチボールをした。


見込みがあるというレベルではなく即戦力だと春菜は感じて、一旦野球はここまでにして、120キロのランニングに出かけた。


まさにジョギング気分で簡単に周回して、二周目は少しスピードを上げた。


さすがにガウルは堪えたようで、二周目終了とともに、芝生の上に寝転がった。


「おっ」と源一が春菜と少年を見つけて声を上げたが、「壊さないでやってくれよ」と気さくに言って王都に向かって歩いて行った。


「壊れそうにないけどね」と春菜は言って、ほとんど眠ってしまっているガウルのホホを指でついた。


「硬いわね…」と春菜は言って、ガウルに触れ回った。


岩とは言わないが、人間の皮膚ではない。


まさに防具いらずの体をしていると感じた。


春之介に連絡しようと思ったが、ホームシックなどとからかわれそうに思ったので、何も言わないことにした。



ガウルは十数分後に目覚めて、バツが悪そうな顔をした。


「でも、一輝さんの軍はゼルダの星に行っちゃったから寂しいよね?」


「ううん、そうでもないよ。

 ひとりでもそれほど気にならないよ。

 動物のおかげでもあるように思うけど、よくわかんない…」


「私って、ひとりになる修行のためにここに来たんだけど、

 ガウルと友達になちゃったから、

 ここでの修業はもう終わりでよさそう…」


「…あー… その修行はありだろうね…

 恭司たちもその修行はした方がいいはずだ。

 あの16人って、もう20年ほど一緒にいるもん…」


「へー… 10才児程度の頃から一緒にいた幼馴染ってところね」


ガウルは小さくうなづいた。


「きっとね、とんでもない状況に追い込まれてひとりになったら、

 恭司以外は本来の実力がまるで出せないと思う」


「春君もそうかも…」


「ミラクルマンはそれほどやわじゃないって思う…」


「…はは… 悔しいけどそうかもね…」


春菜とガウルはまた様々な話をした。


そして夕食も同じように摂ってから、また野球の練習をした。


修練場は夜は決められた時間まで煌々と明かりが照らしているので、ナイター照明とほとんど変わらない程に明るい。


しかし、野球の練習はそこそこに、春菜は興味を持ってガウルの生活の話を聞いた。


その話は、確かに動物の一日だが、人間臭い話もある。


そして客観的に人々をよく見ている。


ガウルは友人というよりも、人生の先生のように春菜は感じていた。


「…やっぱり、親が金持ちだと、子供にそれほどいい影響は与えないようね…」


「そういった人、ここに何人もいたけど、もう誰もいなくなったね。

 姉ちゃんくらいだよ」


「褒められたって思っておくわ!」と春菜は陽気に言った。


「褒めるも何も、

 あの優夏ちゃんとそれほど変わんないんだからすごいって思う…

 みんな、姉ちゃんを怖がってるもん…

 妙なことばかり考えてるから怖いんだよ…

 あ、もちろん、姉ちゃんに関してのことじゃないよ。

 できれば、自分が好条件で雇われるってこと。

 そして、今の地位も意地できるように。

 そんな人間のような欲はいけないと思う」


「…耳が痛いわ…」と春菜は言って大声で愉快そうに笑った。


「あっちに帰るわっ!

 ガウルも行くでしょ?」


「…うー… 恭司たちの見る目が痛いかなぁー…」


「ほっとけばいいの!

 さあ、行くわよ!

 あ、さすがにここは挨拶しておかなきゃ…」


春菜はガウルと手をつないで、源一と花蓮に挨拶をして、ゼルダの星に帰ることを告げた。


「ところでガウルは仕事もするわけ?」と源一が興味を持って聞くと、「…少年の姿でも仕事はできそうだからね…」とガウルはバツが悪そうな顔をして言った。


「あっちに帰る必要があると思うわけ?」と源一が春菜に聞くと、春菜は今それに気付いて、「…それほどないわね…」という回答が頭に沸いてきた。


「今日は友人ができた報告だけしてきたいし、

 仲間たちもいろいろと気になるの。

 人間が多いからね…

 特に尚は、何かが湧いて出そうだから、

 できれば一番にお祝いを言いたいし…」


源一は感慨深げにうなづいて、「帰る意味はあったね」と心の底から喜んで言った。


「今まで通り、自由に過ごしてくれていいから。

 どちらも自分の家にすればいいさ」


「うん、ありがと、そうさせてもらうわ」


「それに…」と源一は言って辺りを見回すと、大勢の者たちが源一たちを見ないように目をそらせた。


「ここにいてもらった方が、

 みんなに気合が入っていい」


「それは大いに感じるけど、嫌われ者のようで嫌だわ…

 仕事をしても、それほど変わんないし…

 こんな感情で人を救っていられないように思うから、

 夏介とちょっと相談した方がいいように思ってるの。

 私が外れた方がいいような気がしてね」


「夏介も司令官としての試練だね。

 優秀なものを手放す時のその感情は、

 この先、大きな財産となるはずだ。

 …必死になって止めるかもな…」


どちらにしても春菜にとってもそれほど辛いことにならないと思って、今夜はゼルダ星でくつろぐことにして、春之介に念話をして、精神間転送で飛んだ。



「あれ? 友人になったんだ」と春之介は挨拶代わりにゼルダを見て言った。


もちろん、春之介はゼルダの正体を知っている。


ガウルは古い神の一族の第二期筆頭の名のない神だ。


よって、優夏の弟ということになる。


「ガウルをどうしようかと思ってね。

 私も一輝さんの軍に入れてもらおうかしら…

 きっと、迷惑がられるように思うけど…」


「俺としては賛成だけどね。

 ま、嫌がるだろうね。

 特にアドバイスはないよ。

 まずは居心地のいい部隊で、気持ちよく働いてよ」


「そうするわ」と春菜は言って、まずはゼルダを連れて、夏介に向かって歩いて行った。


春菜が夏介に自分の居場所について話をすると、「…すっごい痛手なんですけど…」と夏介はかなり残念そうに言った。


「時には雇ってもらいたいわ」と春菜が言うと、「はい、ぜひそうさせてください」と夏介は様々なことを考えて穏やかに言って、春菜の意思を汲んだ。


よって除隊ではなく、夏介の隊からの出向という条件付きで、春菜を雇い直した。


春菜は機嫌よく一輝に寄り添って、パラダイス軍のメンバーたちの感情を読み取った。


すると、ガウルが大いに気に入らないようで目を吊り上げた。


「だからみんなは成長しないんだ!」とガウルが叫ぶと、「…言いづらいことを言ったなぁー…」と一輝は言って、大いに苦笑いを浮かべた。


「花蓮様がいるようで都合はいいわね…」という南の言葉に、「あ、それは言える」と一輝は陽気に答えた。


「じゃ、明日は花蓮対策として同行するわ」


司令官と副官は大いに喜んだが、恭司たちは大いに眉を下げている。


「ボクは、ここじゃない方がいい!」とガウルが言うと、春菜は大いに眉を下げた。


「明日だけは我慢して」と春菜が言うと、「…わかったよぉー…」とガウルは言って、恭司たちをにらみつけた。


「ところで、この子は?」と一輝が大いに興味を持ってガウルを見たが、すぐさま顔色を変えて、「…ガウルだったぁー…」とつぶやくと、恭司たちは大いに驚いていた。


「さらに都合がいいわ」と南は言って、目を見開いている恭司たちを見て少し笑った。


「パートナーごとに仕事をしているからさらに都合はいい。

 その力の差を見せつけてくれるだけでいいぞ」


この一輝のコメントにはガウルは大いに喜んだ。


「あ、そういうのもありね…」と春菜は言って、明日はパラダイス軍に世話になることに決めた。



「ふーん… 俺たちを全く意識しないね…

 かなりの成長があったようだ。

 ガウルは春菜にとって良友になったようだね」


春之介が感慨深げに言うと、「色っぽい話はまるでなさそうね…」と優夏は少し眉を下げて言ったが、内心は喜んでいた。


「野球人仲間にもなると思うよ」


「どこに所属するのかしら…」と優夏は大いに期待して言った。


「ここは魂のつながりよりも、

 友人のつながりを取ると思うから、俺たちの仲間になると思う」


「今の感情のままならそうなりそうね」と優夏は陽気に言った。


ガウルはくつろぐために小さな岩の恐竜になって、動物たちの仲間入りをした。


その傍らで春菜は僕の動物たちをかわいがり始めた。


「…なんだか、穏やかになりすぎて腹が立ってきたわ…」と優夏は眉を下げて言った。


「春菜にとって、最高の経験になっていると思うね」と春之介は穏やかに言った。



すると、挨拶をするように子供の悪魔たちが春菜に近づいて行って、ガウルに寄り添うようになり、まるで親衛隊のようになってきた。


「あら、いいの?」と優夏が少し心配そうに言うと、「春菜の判断に任せるよ」と春之介は比較的陽気に言った。


そして子供たちに指示を出して、半数だけが残って、半数は子供たちのもとに戻った。


ガウルは気付いたのか気付かないのか、悪魔たちに朗らかに語りかける。


春菜は笑みを浮かべてガウルたちを見守っているだけだ。


そして、人間の女の子で、パトリシア・ジャンダが意を決したようにして走り出して、春菜の前に立った。


「春菜お姉さんのファンです!」とパトリシアが叫ぶと、「あら、希少だわ…」と春菜は機嫌よく言って、パトリシアを抱きしめた。


「まるでミラクルマンのようで、それに優夏ちゃんのようで、

 絶対すごい人だって思っていました!」


ここはさすがに、春菜は自慢げな笑みを浮かべて春之介と優夏を交互に見た。


「ここにはね、すごいって思う人しかいないはずよ」


「はいぃー… ここに来てすぐに、

 きちんと観てなかったって気づきましたぁー…」


パトリシアは申し訳なさそうに言って、麒琉刀たちを見た。


「夢中になっていた人がいてこそよ。

 でも、大歓迎だわ」


春菜の気さくな言葉に、次々と春菜に挨拶を始める。


そして子供たちは分散して、浩也たちとも改めてコミュニケーションを取り始めた。


「怪物たちが投げる球を取るんだもんね。

 本当にすごいって感心してたんだ」


ガウルの言葉に、「野球をまた初めてよかったって、初めて思ったわ」と春菜は礼とばかりにガウルを抱きしめたが、すぐに放した。


―― なんか、すごいものが見えた… ―― と春菜は思って辺りを見回し、恭司たちの中心にいる、メイドのあさひを見入ってから、ガウルに顔を向けた。


「まだ確認してないけど、あさひさんは無属性の竜なんだって?」


「うん、竜の中では物理的にも魔法的にも防御力がすっごく高い平和な竜だよ。

 あこがれちゃうよなぁー…」


「そうね、そういった存在が一番強いのかもしれないわ…」と春菜は感情を込めて言った。


「だから野球では、姉ちゃんは無敵の無属性の竜のような存在だから、

 みんなも慕うんだよ」


「…実際は違うけど、光栄だわ…」と春菜は大いに苦笑いを浮かべて答えた。


「それにね、姉ちゃんって、何か怖いものでも着てたの?」というガウルの謎かけのような言葉に、「…着ていたのかもしれないわ…」と、春菜はため息交じりに答えた。


春之介を失った春菜は、まさにパートナーばかり欲していた。


その鎧が、子供たちには怖いもののように見えていたようだと納得した。


今は、パートナーのような弟のようなガウルがいることで、落ち着いてしまったのだ。


「もし血族だったら、からかい甲斐があるわぁー…」と優夏が言うと、「古い神の一族的には親族だけどな…」と春之介は言った。


「あら?」と優夏が言うと、春夏秋冬が控えめに神の家系図を出した。


「…祖父と孫娘… ガウルは私の弟のようなもの…」と優夏は機嫌よく言って、ガウルにやさしい眼を向けた。


「無属性の竜がふさわしいほどだから。

 確実に今世で大成すると思うね。

 全ては春菜にかかっているようだけど、

 言わな方がよさそうだし、

 そのうち気付くだろうね」


「…パートナーを持つ者としても、ライバルになりそうだわ…」と優夏は穏やかに言ったが、その目は燃えていた。


「…春菜はイチガン軍に入ってもらうか…

 まあ、無理にとは言わないけどな…」


「バランスが取れていいわ…

 きっと試合が終わったら、大いに悔しく思うんだろうけど…

 …夏介はどうするのかしら?」


「今のところは俺たちのところでいいんじゃない?

 この先また新たなチームができたら、

 相性も考えて移籍するかもね。

 うちとしては、浩也兄ちゃんにも捕手として頑張ってもらう必要がある」


春之介の真剣な言葉に、優夏は何度もうなづいた。


すると、尚は秋之介を抱いて、嫌がる八郎の手を引いて連れてきた。


「待っていたぞ、我が親友」と浩也が冗談交じりに言うと、「…それほどの実力はない…」という八郎の尻込みをした言葉に、「だからここで鍛えるのっ!」と尚は年下だが、姉さん女房っぷりを発揮した。


「…練習してないから機嫌が悪い…」と春之介が言うと、優夏は大いに眉を下げた。


「就寝まで時間があるわ!

 行くわよ、八ちゃんっ!」


尚は昔のように八郎に言って、八郎を引きずるようにして修練場に誘った。


「…これはあり、コーチだからな…

 自分を鍛え上げるほど動き回るわけじゃない…」


「…そうなるのね…」と優夏は言って眉を下げた。


「ほかの番号付きの人って、みんなここに招いちゃうの?」


「できればそうしたいね。

 ひとりだけすぐにでも連れてきたい人がいる。

 まだ大学生だけど、赤塚十冴あかつかじゅうざ兄ちゃん」


「…ついに、十まで来たぁー…」と優夏は感慨深く言って喜んだ。


「ラグビーとアメフトやってるんだ」


「…よく体が壊れないわね…」と優夏は大いに感心して言った。


「もちろん、本気じゃないから。

 今は独自に野球の練習をしてるそうだよ。

 即戦力になることは自覚しているそうだし。

 捕球さえできればほとんど問題なく使えるから」


「…確かに、もうそういったレベルまで来たわね…」と優夏は言って納得していた。


「…あ、十冴姉ちゃん…」と春之介は今更ながらに言い直した。


「…くっそっ! 俺のライバルじゃあねえかぁー…」と優夏は大いに高揚感を上げてうなった。


「何もかも、いい勝負だと思うよ」と春之介がにやりと笑うと、「…容姿、淡麗…」と優夏は嘆くように言った。


「男よりも女にもてるし、少々変わった趣味もある」


「出会いが楽しみだわぁー…」と優夏は気合を入れてうなった。


「ちょいと、声かけてみようかと思ったけど…」と春之介が言うと、夏之介を抱いた夏樹がその十冴を連れてきたのだ。


「うっ!」と優夏はうなった。


もちろん、誰もが夏樹とスーツ姿の正体不明人物を見入っている。


タイトスカートなので、女性ということは何とかわかるし、腰に近い辺りまで伸びているつややかな長い髪が女性でしかないと思わせる。


春之介はすぐに立ち上がって、「やあ、十冴兄ちゃん、久しぶり!」と春之介が言うと、十冴は無表情で歩いてきて、春之介の頭に拳骨を落とした。


「十冴さんだっ!」とまるで男のような声で叫んだ。


「変わってないね、十冴さん…」と春之介は言って痛む頭をなでた。


「フェイスペインディング、落として欲しいんだけど…」


「気合が入るからこれがいいんだ!」とまるで魔除けそのものの顔の十冴が叫んだ。


「よく学校が許可してるよね…」


「この程度のことでごたごたいう大学ではない!

 今は、網膜認証が当たり前だからな!」


全くもってその通りで、指紋認証もあればさらに確実になる。


「照れ屋なのも程々だよ…」


「ほっとけっ!!」と十冴は叫んで腕を組んだ。


「スカウトされたようだけど、呼びに行こうって思ってたところなんだよ」


すると十冴は大いに態度を変えて、「…お手洗い、どこかしらぁー…」とまさに女性ぽく言うと、優夏がすぐに席を立って案内をした。


「どういうことだ?」と浩也が聞くと、「置いてけぼりを食らったって思っていたようなんだ…」と眉を下げて春之介が答えた。


「優夏もでかいが、輪をかけてでかいな…

 おっと、殴られそうだから、余計なことは言ってはならない…」


浩也は言って大いに反省した。


「かなり痛いよ」と春之介は言って、まだ痛む頭をさすった。


「いや、兄ちゃんと言いたい気持ちは手に取るようにわかったが…」


浩也は最後の十冴の言葉に、大いに女性を感じていたのだ。


「きっと、男性だったら確実に興味を持つから。

 俺との縁談の話もあったようだけどね…

 鼻たれガキの面倒は見たくないって言って断ったそうだ」


「…うかつ者でもあるようだな…」と浩也は言って少し笑った。


「今しか見ない人だから。

 だけど、優夏は十冴さんを認めてると思うよ」


すると、可憐なふたりの女性が歩いてきて、子供たちはまさにふたりに見惚れていた。


もちろん男性も例外なく、十冴の変貌ぶりに赤面して、女性は大いにあこがれた。


「…赤塚、十冴、ですぅー…」と心細げに挨拶をして頭を下げた。


「美人度がさらに上がったよね!」と春之介が陽気に言うと、「鼻ったれは黙ってなっ!」と十冴は顔を豹変させて叫んだ。


「褒めたのに叱られたよぉー…」と春之介が言ってうなだれると、「当然のことを言ってんじゃあねえ!」と十冴は叫んで、ホホを赤らめた。


「…自分をだますために言ってるのね…

 私を見るようですごいわ!」


優夏は叫んで、陽気に笑った。


「…優夏ちゃんには従うから…」と十冴は小さな声で言って頭を下げた。


「お相手は秋之介でいいんじゃないのかしら…」と優夏が言うと、秋之介は人型をとってふたりの前に立った。


「…鼻ったれもいいけど、秋之介様も素敵…」と十冴は感情を込めて言って、笑みを浮かべて秋之介を見上げた。


「ほらほら! 私、小さく見えるよ!」と十冴は陽気に叫んで、秋之介の腕を取った。


秋之介の身長は、今は三メートルほどあるので、確かに高身長の十冴が小さく見えるのは当たり前だ。


そして神たちが大集合して、十冴とあいさつを交わした。


「…生まれて初めて、彼氏ができたぁー…」と十冴は感慨深く言って、ワンワンと泣きだし始めた。


「忙しい人だが、わかりやすくていい」と浩也は言って拍手を始めると、誰もが祝福と歓迎の拍手を送った。


「…お姫様抱っこぉー…」と泣き顔の十冴が言うと、秋之介はすぐにその願いを叶えた。


そしてまるで子供のように、十冴はまたワンワンと泣きだした。


「また夢が叶ったぁ―――っ!」と叫んで、秋之介にしがみついた。


「ああ、秋之介様、クマのお姿も素敵だって思っています」


十冴は甘え上手だった。


秋之介は少し照れて、十冴を地面に降ろしてすぐに巨大なクマに変身して、十冴を抱え上げて肩に乗せた。


「私っ! 無敵だわっ!!」と十冴は上機嫌で叫んだ。


さすがにみんなは、大いに苦笑いを浮かべていた。


優夏だけがただひとり、ふたりに向かって祝福の拍手を送っていた。


「…秋之介がひと言も発言してないんだけどな…

 まあ、気に入っているようだからいいけど…」


「あら? そういえばそうね…

 肯定も否定もしていないわ…

 人間の戯れを許してるだけ…」


優夏の言葉に、「…確かに言えるな…」と浩也は優夏の意見に同意した。


「…遊ばれて捨てられるのよ?」と天照大神がかわいらしく言うと、誰もが大いに苦笑いを浮かべていた。


すると秋之介が、十冴を肩から降ろして、少し離れた場所に立たせた。


そして右腕を大きく振りかぶって、「フンッ!!」とうなって腕を振ると、椅子ごと天照大神が見えなくなるほど遠くに飛ばされた。


「おー…」と春之介は言って、秋之介に笑みを向けて拍手をすると、誰もが眉を下げて追従した。


「…あら、何かあったのかしら?」と十冴が秋之介に聞くと、「ハエがいました」という秋之介の回答に、春之介は腹を抱えて笑った。


「あら、そうだったの」と十冴は簡単に納得して、仲睦まじく秋之介と肩を並べて、修練場に向かって歩いて行った。



赤い大きな猫が天照大神を背中に乗せて戻ってきた。


天照大神には全くダメージはないが、大いに眉を下げていた。


その後ろにはシーサーと夏之介もいる。


「ご機嫌取りも大変だな…」と春之介は言って、赤い猫の頭をなでた。


赤い猫は変身を解いて、美佐に戻り、「誰かが迎えに行かないと、きっと怒っちゃってたから…」と眉を下げて言った。


「…まあ、普通にあるな…

 パトラは寝てるし…」


天照大神の巫女は、正式にはまだいない。


益荒男とツクヨミの巫女を拝借している節がある。


形式上は沖縄で見つけ出した小春なのだが、まだ修行中として、能力の高いクレオパトラを使うことが普通になっている。


そして春之介が天照大神の巫女としての資質を図ると、すぐさま修練場を見た。


「…軽口をたたくはずだ…」と春之介はつぶやいて納得していた。


「十冴は巫女なのね?」と優夏は確信を突いたことを言って眉を下げた。


「天照は手加減をしているといっていいね。

 巫女にしたが最後、十冴さんの性格が変わってしまう…

 その時が来るまで、今のままでいいんだろうと思う。

 最終的に天照には三人の巫女が就くことになるんだろうね。

 パトラ以上の巫女がいればいいんだけど…」


すると、今まで一太の肩の上で眠っていたはずのクレオパトラが首を上げて春之介を見ていた。


「…俺の巫女になろうと虎視眈々だ…」と春之介は言って大いに苦笑いを浮かべた。


「エジプトの巫女なのにね…」と優夏は言って眉を下げた。


「さすがに潮来様を超えるのは少々厳しいと思うけど、

 俺が動物だけになぁー…」


「相性はいいわけなんだ」と優夏は言ってぎろりと春之介を見てからクレオパトラを見た。


するとクレオパトラはすぐさま寝たふりを始めた。


「人型に変身できるようだわ」と優夏がほぼ確信して言った。


「…あまりイジメるなよ…

 機嫌を損ねると、本来の仕事に支障が出ることもあるから」


春之介は容認するようなことを言うと、優夏は目だけを悪に変えて春之介をみらみつけた。


「…怖ええな…」と春之介は言っただけで、精神的には何のダメージもない。


「揺らがないことがすごいわね…」と優夏は言って、目を元に戻した。


「男女関係のもつれが一番めんどくさいことは、

 多くの先人たちが証明してくれている。

 それにどう考えても、クレオパトラでは俺の伴侶としては役不足だ。

 その程度はわかっているはずだが、俺たちの知らない何かがあるのか…」


「昔のことを盾に取ろうとでも思ってるんじゃないの?」と優夏が言うと、クレオパトラの体が緊張した。


「…正解のようだぞ…」と春之介はあきれるようにため息交じりに言った。


「現れたネコ科動物をぶっ飛ばせばいいのね…」と優夏がかなり気合を入れて言うと、「かわいそうだからやめてやってくれ…」と春之介は眉を下げて言った。


「さっさと昔の記録を探りなさい!」と優夏が少し笑いながら言うと、「少々問題が発生してね…」と春之介は言って、大いにうなだれた。


「動物の記録はいいんだけど、

 人間の記録を探ると気分が悪くなるんだよ…

 この差がよくわからん…」


「たぶん動物特有のものね…

 それをクリアした時、私って捨てられるのかもぉー…」


優夏が悲しそうに言うと、「その根拠がよくわからないね」と春之介は少し笑って言った。


「動物などの野生の神じゃなく、高い知能を持った生物の神になるってことよ…」


「なんか、ランクダウンのようで嫌だな…」と春之介が答えると、「…心配して損した気分…」と優夏は機嫌よく言って、春之介の右腕をしっかりと抱きしめた。


「…ふむ… 仲間を頼るのはそれが根本にあるからか…

 できそうにないことは無理にはしないが、

 高い知能を持った神だと、自分で判断してやってしまう…

 それが正しければいいが、そうとは言い切れない…

 危ないことは触れない方がマシ…」


「そうね…

 だけど知能を持つ生物は、それをするのよ。

 だからどんどんおかしくなっていくの。

 …今のまま、何も変わらない方がいいなぁー…」


優夏は言って、春之介に大いに甘えた。


「あのー、お邪魔してもよろしいでしょうかぁー…」と春夏秋冬が言うと、「なになにっ?!」と優夏が大いに食いついてきた。


「あ、春之介様の魂の記録の件ですが、

 人間の部分はボクが解析できるのですが…」


「…そう、だったんだぁー…

 だけど、その差は一体何なの?」


春之介が聞くと、「古い神としての縛りがあるのです…」と春夏秋冬はその説明を図解して詳細に語り始めた。


「…この場合は、知能生物が動物を含むから…

 あ、だったら母ちゃんの場合も…」


「はい、今よりもかなり能力の上昇があるように思います」と春夏秋冬は自信を持って言った。


「…知能を持つ生物に近づくことになるわけだ…

 だけど、自ら解読するわけじゃないから、

 根本的には動物の神のまま…」


「はい、そういうことになりますね。

 知識と経験の蓄積だけになりますので」


春之介は大いにうなづいてから、「どうして敬語?」と春之介が聞くと、春夏秋冬はすこし慌てた。


「集積回路がそうしろと言っているような気がして…」とまさにロボットっぽく説明をした。


「無理に逆らうことはないさ。

 自然に対応してくれるのが一番いいから」


「あー… やはり、春之介様のおそばにいられて、

 ボクは本当に幸せだと感じました…」


春夏秋冬がまさに人間のような感情を流したので、春之介は、「あはは…」と空笑いだけした。


「一太も無理をしなくてもいいから。

 前に言ったマニュアルの改訂も、

 白紙に戻してくれていいから。

 無理難題を言って、一太の成長の妨げになっても困るからね」


「はっ! ありがたくっ!!」と一太が高揚感を上げて叫んだ途端に、優夏が大笑いを始めた。


「順当に勇者ね」と優夏が笑みを浮かべて言うと、「おー…」と誰もがうなって、自然に拍手が沸き上がった。


「…妨げになってたが…

 形式上虐げていたことになって、

 まさにこれはありだったのかもしれない…」


春之介の言葉に、「一太の今の高揚感を生んだのは、春之介のおかげだからね」と優夏は陽気に言った。


「…抑圧していて、それを一気に解放して、大いなる喜びに誘ったから…」


春之介がつぶやくと、「道は間違っていなかったの」と優夏は胸を張って言ってから、改めて一太に祝福の言葉を述べた。


「…俺の最大級の喜び…」と浩也が憮然として言うと、「…兄ちゃんなんだから自分で見つけてよ…」と春之介は眉を下げて答えた。


「…勇者にでもなれば大いに喜ぶだろうな…」と浩也が投げやりに言うと、春之介は腹を抱えて笑った。


「それだと、昇天する場合もあるから気を付けた方がいいよ」


「…うう… そういうのもあった…」と浩也は大いに嘆いた。


「少し先だろうけど、真由夏が子宝を授かったら、大いに喜ぶんじゃない?」


「…あ、そういうのは理想的だな…

 どのような事態でも、昇天するわけにはいかない…」


「野球だと、俺と優夏を連続で三振にした、とか…」


浩也は満足げな笑みを浮かべて何度もうなづいている。


「春之介の魔球をホームラン、とか?」と優夏が言うと、「…今の方が遥かに打てない… 打てる要素がない…」と浩也は大いに嘆いた。


プレートとホームベースの距離が長くなったことで、スピードボールを変化させることができるようになったので、特に手元で伸びてくる魔球は、かすることすら困難になっている。


「バットも長いものでもいいことにしようかなぁー…

 そうすれば、ホームランを打てる人が大勢出そうだ…」


「…一太の独壇場じゃない…」と優夏が眉を下げて言った。


スイングのヘッドスピードが一番早いのが一太なので、これは当然のことだった。


その一太は、勇者の術の確認に集中している。


もうすでに、ステップアップした時のレクチャーは受けていたので、春之介としては放任している。


「野球バカばかりだわ…」と春菜がため息まじりに言うと、一斉に攻撃を受けた。


「いや、春菜の言ったことにも一理あるかも…

 兄ちゃんの不得意なことの克服…」


春之介のつぶやきに、「克服するのなら、人見知り」という言葉に、優夏は大声で笑った。


そして、「大きな子供がいたぁ―――っ!!!」とさらに言って笑い転げた。


浩也はかなり怒ったが、ここは不甲斐ない自分に矛先を変えた。


「それ、もうできてるんじゃないの?

 子供たちには普通だけど…

 ああ、同年代と目上か…」


春之介の言葉に、浩也はさも当然のようにうなづいた。


「…これはかなりシビアだね…

 だけどね、相手だって多少は人見知りってあると思うんだ。

 だから、いつも朗らかに笑みを浮かべて、

 敬語に変える、とか…」


「…それは一理ある…

 自分を変えないと、先が見えないような気もするな…」


浩也は大いに考え込み始めた。


「…大いなる喜び、かぁー…」と今度は麒琉刀がつぶやくと、「身長、伸びたんじゃないの?」と春之介が言うと、「本当かっ?!」と麒琉刀は大いに叫んで、また優夏が大声で笑い始めて、「みんな単純すぎるぅ―――っ!!!」と大声で叫んだ。


「…また、置いて行かれた…」と浩也は言ってうなだれた。


ここは全員で麒琉刀を祝福してから、一太と麒琉刀はともに術の確認を始めた。


このふたりに、春菜と真奈も加わって、やけに楽しそうな雰囲気が流れてきたので、浩也はさらに焦った。


「…ふむ… 兄ちゃんに対して効果的な一言から考えてみよう…」


「…はい、よろしくお願いいたします…」と浩也は誠心誠意の言葉を放った。


「あれ?」と春之介が言うと、「…特殊仕様だったわぁー…」と優夏は言って、浩也の背中を思いっきり叩いた。


「…ふん… 痛くもかゆくもありません…」と浩也は言ってから、目を見開いた。


「ま、こうなることもあるような気がしていたよ…」と春之介は言って、黒装束の浩也を見入って言った。


「自分自身をいじめ過ぎてた…」と優夏は眉を下げて言った。


「男悪魔は希少だから。

 モテモテになるから気を付けた方がいいよ…」


「…身の危険を感じる…」と浩也は言ってから、人間の姿に戻った。


女子の悪魔たちが浩也を囲んでいたが、人間に戻った時点で興味をなくして子供たちのもとに戻った。


「…子供なのに、かなり怖かった…」と浩也は言って背筋を震わせた。


「悪魔に、子供も大人もそれほどないわ…」と優夏はごく普通に言ったので、「さすがに優夏様には効き目がないようです」と浩也は言った。


「私の場合はちょっと違うの。

 本気で戦いたくなったわ」


「遠慮します」と浩也はすぐさま言って頭を下げた。


そして、「春之介君、手伝ってください」と浩也は言って、悪魔の不器用さをあらわにして、春之介に頼った。


「みんなずるいぃー… 私だけ居残りみたいでいやだぁー…」と尚は甘えた声で大いに嘆いた。


今から10年ほど前に戻ったような口調だったので、春之介と春菜は懐かしく思って尚に笑みを向けた。


「笑ってないで何とかしてっ!」とここは現実に戻って、春之介に詰め寄った。


「みんなには説明してあるから」と春之介が言うと、「私のことなのに?!」と尚は言って、仲間たちの顔を見まわした。


そして最後に、浩也と目があった。


「尚さんにとって修行のようなものです」と浩也は穏やかに言って頭を下げた。


「…修行だったら仕方ないわぁー…」とうなるように言って、ここは意地にならないように、春之介に聞いた通りに、一日おきの訓練を守ることにした。


機嫌よく秋之介と戻ってきた十冴だが、「楽勝だって思ってたのにっ!!」と叫んで、今は忙しそうな浩也たちを見入った。


「あら、変化に気付くことはすごいことよ」と優夏が言うと、「えっ?」と十冴は言ってなぜ今のようなことを言ったのかを考え始めた。


「皆さんの雰囲気です。

 気功術の修練を少し積んだだけでわかるようになったようですね」


秋之介が穏やかに言うと、「…秋之介様、ありがとう…」と十冴は感動して礼を言った。


「春之介様の推薦の通りの力を見せられたまでです。

 できれば、この時間が長く続くことをお祈りしておきましょう」


秋之介は言って、天照大神をにらみつけたが、その天照大神たちは女の子たちと着せ替え遊びに興じていた。


「天照様と何かおありになったの?」と十冴が恐る恐る聞くと、「語らぬが華でしょう」と秋之介はやんわりと断った。


「…ああ、男らしいわぁー…」と十冴は言って、さらに秋之介を好きになっていた。


優夏もできれば、この幸せの時が長く続くように祈った。


クレオパトラを脅しておきたいところだが、さらにハイレベルな巫女を見つけた方がいいと思い、優夏なりにこの星を探ったが、魂の協力なしには無理だった。


しかし、かなり遠いが、優夏の雰囲気に怯えた魂が大勢いたことを確認できた。


「…暗黒宇宙の魂…」と優夏はつぶやいて、大いに苦笑いを浮かべた。


すると春之介がすぐにやって来て、「怯えさせないでやって欲しい…」と眉を下げて言った。


「…悪いことをしちゃったわ…

 あ、それよりも…」


優夏は知った事実を春之介に伝えると、何度もうなづいて、「なりたい姿で産まれてもらおう」と笑みを浮かべて言った。


「…適合者がいればいいわね…」と優夏は祈るように穏やかに言った。


「産んでみるかい?」という春之介の言葉に、優夏は涙を流したが拒絶した。


春之介はすべてに納得して、「それでいいさ」と穏やかに笑みを浮かべて言った。


優夏が子供を産むことは特別扱いになってしまうことを畏れたのだ。


だが、平和的に解決できるその方法はあるのだ。


「…あのぉー… 差し出がましいことですがぁー…」と春夏秋冬が言うと、「いい方法があるのっ?!」と優夏はさけんで、春夏秋冬の肩を押さえつけて揺さぶった。


「こらこら、壊れるから…」と春之介が言うと、春夏秋冬は目を回していた。


「…ああ、ひどいことをしてしまった…」と優夏は言って今後は十分に気を付けることを修行とした。


もちろんこの程度ではヒューマノイドは壊れない。


人間と同じで三半規管があるので、目が回っただけだ。


そして人間よりも復活は早い。


「語弊はありますが、

 最終的には春之介様と優夏様に後ろめたさが沸くことになりますので、

 まずはそれをクリアにしてからお産みになられるのがよろしいかと」


「ということは、産むと宣言して、みんなに同意を求める。

 その時の雰囲気で反対意見があれば、産まないことにする。

 だが、確実に誰かが嫌がることがわかっているから、

 優夏も産むことは否定したわけだ」


「…だけど、確認しておきたい…」と優夏は懇願するように言った。


「そうだね、それは重要だ」と春之介は言って、優夏に右腕を差し出すと、優夏は少し緊張して春之介の腕を抱きしめた。


春之介はみんなの前に立って、「みんな、少し注目してほしい」と穏やかに言った。


このようなことは今までになかったので、今の作業を中断して春之介に注目した。


「まずは、この映像を見て欲しい」と春之介が言うと、春夏秋冬が優夏の出産の件についての密談の映像を流した。


特に子供たちはショックだったが、優夏の気持ちはよくわかった。


だが、特に小さな子は絶対に勝てない子供が現れると思って拒否の感情を流している。


優夏の愛が、その子だけに注がれることを拒んだのだ。


優夏は、―― 愛されてる… ―― と大いに感じて、笑みを浮かべて涙を流した。


「優夏ちゃんっ! 泣かないでっ!!」と子供たちは叫んで、一斉に優夏に抱きついた。


「…ああ、悲しいから泣いたんじゃないの…

 みんなの気持ちがうれしかったから泣いたのよ…」


優夏はここまでなんとか気丈に言って、子供たちとともにワンワンと泣き始めた。


「優夏は、今の優夏と何も変わらない」と春之介が断言すると、「はいっ! ミラクルマンッ!!」と子供たちは一斉に叫んで、泣き顔を笑みに変えた。


「…うう… 私が拒否してもいいかしらぁー…

 自信、ないんだけどぉー…」


優夏の言葉に、「それでもいいんだっ!」と悪魔の子供たちが一斉に叫んだ。


ここにいる子供たちは優夏や春之介以外からも愛を受けたことはある。


やはり腹から生まれる子は特別だということはよくわかっている。


だが、その特別な子を産んだ優夏は、さらに優しくなると確信して叫んだのだ。


ここは春夏秋冬が、子供たちにも理解できる言葉で解説した。


そして、「…優夏ちゃんの修行…」と子供たちは言って、笑みを浮かべて優夏を見上げた。


「…裏切れないわぁー…」と優夏は大いに困惑して言った。


「なんなら、春菜でもいいんだ。

 単独出産だから、父親は生まれた子が気に入った人でいい」


「…第一子は私…」と優夏は大いに畏れを流して春之介に言うと、「…わかったよ…」と春之介は大いに眉を下げて言った。


そして春之介と春夏秋冬で、今回の出産の工程について具体的な話をした。


「…現実的な、願いの子…」と優夏と春菜はうなるように言った。


「その子の使命は決まっている。

 だから、それほど幸せとは言えないのかもな…

 だが、それも理解してもらったうえで産まれてきてもらうんだ。

 そして説得した内容を覚えていないから、

 少々残酷な結果にもなるかもしれない。

 だからみんなも、生まれてきた子に少しだけやさしくなってもらいたいんだ」


「…うう… それほど簡単なことじゃなかったぁー…」と優夏は嘆くように言った。


「神たちは願えば産まれると思って何人も生んだ。

 だけどその願いの子で大成できたのは、

 統計上1バーセント未満だ。

 古い神の関係者として生を受けるのだが、

 その割には能力が低い。

 というよりも、正しく能力を使わないんだよ。

 親の欲のせいと言ってもいいね。

 欲を持って産む、欲をもって創り出すことは、

 それほどいいことじゃないんだよ」


春之介の説明に、「ボクたちに教育係をご命令くださいっ!!」と悪魔のミリル・トーマスが叫んだ。


「そうだね、やはり教育係は必要だし、

 みんなのことは信頼している」


春之介の言葉に、悪魔たちは涙を流して喜んだ。


春之介はこの場を見まわした。


特に大人たちは、―― 産まない方がいい… ―― と考えていて、具体的な意見もある。


春之介はその意見をすべて聞いた。


「産まなければ何も問題は起らない。

 だけど産むことで、さらに素晴らしい世界になることも事実だ。

 翔春の命を救えたように」


春之介の言葉には大いに説得力があった。


もし翔春がここにいなければ、今のこの星や宇宙の平和はなかったかもしれないのだ。


「ひとりひとりがここにいる意味もあるはずなんだ。

 今回のこの件を教訓にして、

 ひとりひとりしっかりと考えてもらいたい」


大人たちの杞憂も晴れた。


よって翌日、暗黒宇宙に行って、出産の議を行うことになった。



「…私も生みたいぃー…」と春菜は朝からずっとうなっている。


今のところは、春之介が示唆したように、願いの子としては優夏と春菜しか適合者はいない。


そして春菜が出産することは、春菜自身の修行にもなる。


もちろんそれがわかっていて、ある意味駄々をこねているのだ。


「それほどの魂が二つも三つもないから…

 特に暗黒宇宙にある可能性は低い。

 ひとつもない場合は、

 優夏にもみんなにも諦めてもらうことは伝えただろ…」


春之介の諭すような言葉に、「…そうでしたぁー…」と春菜は言ってうなだれた。


そして宇宙船は暗黒宇宙に出た。


優夏はすぐさま魂たちと交信すると、「YGE234HER333に進路を」と映像に指をさして言った。


宇宙船は、今まで訪れたことがない星に飛んだ。


星は、まさに荒れ果てていた。


まずは一旦戦いを治める戦いをしてから、なんとか平穏な状態にした。


そして、原住民が誰もいない場所に移動して、優夏は心を静めて、魂たちと交信をした。


春之介はゼルタウロスに変身してすべてを見守っている。


「…迷子なのか、みっつもあるね…」とゼルタウロスが言うと、優夏は笑みを浮かべてうなづいた。


「一番普通そうな、この魂がいいわ」と優夏が言うと、ゼルタウロスも同意した。


「じゃ、定着させるから。

 母の心」


ゼルタウロスの言葉に、優夏の胸がいきなり大きくなった。


「…あんなことできないぃー…」と春菜はあまりのことに大いに嘆いた。


「胸は母性の象徴だよ。

 春菜は考え直した方がいいね」


ゼルタウロスの言葉に、春菜は大いにうなだれた。


「…きっと、いい子に育つわ…」と優夏が笑みを浮かべて言うと、悪魔たちが一斉に集合して優夏を囲んだ。


そして子供たちも集まって来て、優夏を見上げて笑みを浮かべた。


「生まれるのは今日の夕方から明日の朝にかけて。

 優夏はしっかりと食えよ」


「ええ、そうするわ」と優夏は笑みを浮かべて言った。


「それから、三つ子だから」とゼルタウロスがにやりと笑って言うと、優夏は大いに眉を下げた。


「…魂の選別をした意味がないじゃない…」と優夏は言ったが、まるで感情的にはならずに、母の愛をもって腹をなでた。


「心を入れ替えた、といっていいかな?」とゼルタウロスは言って春之介に戻った。


「そして、人型ではない可能性も大いにある。

 ゼルタウロスが父だと判断した魂がひとつあったから」


「…猫ちゃん、生んじゃうのね…

 ママと同じだからいいけど…」


優夏の言葉に、「その通りだっ!」と春之介は叫んで大いに笑った。


できれば、ゼルダの星で産みたいと優夏が言ったので、今日は強制的に休むことにして、それぞれの修行や確認作業に勤しんだ。



昼食時から優夏の腹が大いに目立つようになった。


優夏は穏やかに料理を大いに食べては母の愛を流す。


そして夕食も済ませると、優夏の腹ははちきれんばかりになっていて、そのほほに脂汗が流れた。


「…ママの愛を、思い知れぇー…」と優夏は大いに強がってから腹をなでた。


春菜は悔しそうだが、―― 今の私じゃ無理… ―― とここは大いに察してうなだれた。


「…早く出せ…」と春之介がつぶやくと、「…もう少しだけ…」と優夏は春之介に懇願した。


「俺が言ったんじゃなさ」と春之介が言って優夏の腹を見ると、「…もー… しょうがないわね…」と優夏は言って、春之介の手をとって、ふたりの手を腹に当てた。


すると、大爆発するような勢いで、辺りが真っ白になった。


優夏は涙を流して、三人の子を抱きしめていた。


「…はは、ピンク色の猫…」と春之介は言って、生まれた三人の子の頭をなでた。


「あなたは、ぶっ飛ばせばいいのね?」と優夏は笑みを浮かべて言って、ピンク色の子猫の顎をくすぐった。


やはり猫なので気持ちよさそうにしてされるがままだった。


ほかのふたりは人型で、どちらも悪魔の黒装束を着ていたが、身長は幼児以下なのでコスプレにしか見えないほどに愛らしい。


しっかりと親子のスキンシップを取ってから、優夏は子供たちを悪魔たちに託した。


優夏はもう言い聞かせていたようで、ふたりと一匹は、春之介に命名してもらった名前を言って、自己紹介を始めた。


「秋帆はニャンニャン鳴いてるだけのようで、よく聞き取れないわ!」と優夏は機嫌よく陽気に叫んで、大いに笑った。


「猫そのままだけど、そのうち慣れるさ。

 だから見た目もしぐさも一番かわいいね。

 それに翔春に寄り添った」


翔春がピンク色の子猫を抱き上げて抱きしめると、辺り一帯にとんでもない癒しが流れた。


しかし、春之介が創り上げた虹色ペンギンがリーダーになって、すべてを吸収したので、悪魔たちに実害は全くない。



一番の問題はクレオパトラで、どうすればいいのか大いに悩んでいるように春之介には見えた。


いつもであればどこかで眠っているのだが、今は翔春の周りをうろうろとしている。


すると、クレオパトラと秋帆の目があって、秋帆は興味津々でクレオパトラを見た。


翔春が何かを感じたようで秋帆を地面に降ろすと、クレオパトラに寄り添ってすぐに猫パンチを浴びせかけたので、誰もが大いに目を見開いた。


「どうしちゃったの?」と翔春は言って両腕を差し出すと、秋帆はすぐに翔春の腕に飛びついた。


クレオパトラはただただぼう然としていたが、少し肩を落とすようにして、小走りで母屋に入って行った。


「パトラは秋帆に命令したんだよ」と春之介が言うと、「…それを拒否したのね…」と優夏は眉を下げて答えた。


「秋帆は、クレオパトラをできの悪い母親と認識したようだ」


春之介の言葉に、誰もが目を見開いた。


もちろんそれは秋帆から見てであって、能力的には高いものを持っている。


しかし動物の世界では、そのようなことはお構いなしで、ボスと認めた者以外には従わない。


秋帆が春之介を見入っていたので、翔春はすぐに春之介に向かって走ってきた。


春之介が笑みを浮かべて抱き上げると、『ナァーン…』と甘い声で鳴いた。


「あとで言っておくから」と春之介が言うと、「…猫語はわからないぃー…」と優夏が嘆いたが、すぐに春之介が秋帆を優夏に差し出したので、かなり機嫌がよくなって、秋帆を抱いたまま踊り始めた。



春之介はそのまま母屋に入って、キャットウォークのてっぺんで丸くなっているクレオパトラを見つけて、ゼルタウロスに変身した。


『そろそろなんか言え』とゼルタウロスが動物語で話すと、クレオパトラは体を震わせた。


そして、『…私の子なのにぃー…』とクレオパトラは嘆いた。


『前世はどうあれ、今世は優夏の子だ。

 今と昔を混同するんじゃない。

 あまりむくれてると、天照が黙ってないぞ』


『はい、ご主人様…』とクレオパトラは言って、体を起こして身軽に地面に降りた。


『実はな、面白い猫の情報があるんだ』


ゼルタウロスの言葉にクレオパトラは立ち止まって振り向いた。


『…ご主人様以上に、素晴らしいお方はおられませんから…』とクレオパトラは寂しそうに肩を落として歩いて行った。


ゼルタウロスも身軽に飛び降りてから、この星にいる生まれたばかりの猫を呼び出した。


『ナンナンナン』と心細げに鳴いていたが、ぴたりと泣き止んで、ゼルタウロスに突進してきた。


ゼルタウロスは首根っこをくわえて外に出ると、もうすでに天使たちが大集合していた。


ゼルタウロスが異様に小さな子猫を地面に降ろすと、天使たちが一斉に寄り添って、面倒を見始めた。


すると、クレオパトラが猛然たるスピードで走って来て、『ニャンニャンニャン!』とまるで叫ぶように鳴いた。


天使たちはすぐに気づいたようで、クレオパトラと子猫の間に道を作ると、クレオパトラはその場で寝転んだ。


子猫はクレオパトラに寄り添って、腹の辺りを探って大人しくなった。


もちろん、授乳を始めたのだ。


ゼルタウロスは春之介に戻って、「もう少し大きくなったら遊んでやって」と言うと、天使たちは満面の笑みを浮かべて、「はいっ! 春之介様!」といつもよりも少し控え目に返事をした。


「…ちっさぁーい…」と優夏は言って、なんとか抱けないかと思ったが、さすがに小指ほどしかない猫なので無謀なことはやめることにした。


「親が寿命で死んでしまったようなんだ。

 あの子は母親の意思通り、強い子として育つはずだ。

 あの子一匹しか生んでないようだった」


「オス猫じゃなくて、子猫をあてがったのね…」と優夏は笑みを浮かべて言った。


「新しい生き甲斐になるさ。

 パトラのヤツ、

 私の赤ちゃん!

 って、何度も叫んでたんだ」


春之介の話を聞いて優夏は大いに感動して、猛スピードでクレオパトラに寄り添った。


そして子猫に優夏のおっぱいを与えようとしてので、天照たちがすぐに止めた。


ふたり産んだ悪魔の女の子は、もう赤ん坊ではないので、授乳の必要はない。


さらには秋帆にもやるわけにはいかない。


「ここは功太たちに…」と優夏がつぶやくと、桜良は猛スピードでベビーカーを押していなくなった。


そして悪魔の子ふたりが優夏に甘えるように抱きついた。


ふたりはまさに双子で、今は何もかもそっくりだが、春之介と優夏には見分けがつく。


ひとりは夏帆、もうひとりは春帆と名付けた。


夏帆の方が、少しだけ積極性が高くて元気なのだ。


ちなみに一番大人しいのは、猫の秋帆だ。


だが、芯の強いところは三人とも同じで、秋帆はその証明をしたようなものだ。


悪魔ふたりは、―― 秋帆ちゃんを見習わないと… ―― と思っていたようだ。


秋帆も夏帆と春帆を姉と認めているので、暇になればふたりに寄り添うのだが、天使たちと子供たちにすぐに連れ去られてしまうので、夏帆と春帆が秋帆に寄り添うようになってきた。


よって、親に甘えるようなしぐさはほとんどしなくなっている。


「…願いの子って、ほんと淡白だわ…」と優夏は大いに嘆いた。


「産んだ子には違いないけど、仲間になっていくもんだと思うよ。

 だから親の欲はそれほど出さない方がいいと思う」


「そうよねぇー…

 子供たちにとって迷惑だもの…」


しかし暇になれば甘えに来るので、この時ばかりは親となってかわいがる。


そして、五才児程度の子供たちも遠慮なしに一緒になって甘えに来るので、余計な心配がいらなくなっていた。


「…春くぅーん、私も生みたぁーい…」と大きな子供の春菜が言ってきた。


「産んでどうしたいわけ?

 はっきり言って、ほぼ仲間でしかないんだよ?

 産む意味って何かあるの?」


春之介に冷静に言われてしまうと、どうしても納得してしまう。


「魂救済の意味だったら、自分で探してきて欲しいね」


「…そんなことできないぃー…」と春菜は大いに頭を抱え込んで嘆いた。


しかし、「そもそも、どーして、優ちゃんができたのよぉー…」と春菜が問いかけると、「感じたんだもの。だから見て見ぬ振りができなかっただけよ」という優夏のドライな回答に、「…はぁ―――…」と春菜は深いため息をついた。


「優夏と同じことができて当然とか思ってるんじゃないの?」


春之介の言葉に、「…姿は同じなのにぃー…」と春菜は比較的穏やかにクレームを言った。


「見た目だけで、中身が違うって思わないの?

 種族としては別物なんだけど、言ったなかったか…」


春之介はバツが悪そうな顔をした。


「…はっきりとは言いたくないが、どちらも悪…」と浩也は言って、大いに眉を下げていた。


見た目と種族がこれほどに一致しているものはないと、あらためて思い知っていた。


「実はね、勇者や神の種族などを見分ける能力には個人差があるんだよ」


春之介の言葉に、「…統一規格じゃないわけか…」と浩也はうなって、何度もうなづいた。


「魂たちにお願いして探ってもらったら、大いに意見が分かれてね。

 どちらも悪と主張して人もいたし、

 別の意見もあった。

 その別の意見に、魂たちが納得して同意したんだ。

 だから探査の術は、

 個人の知識を上げれば、

 さらに精細な情報を得ることができると思うんだ」


「…もっと、勉強しよ…」と浩也は言って苦笑いを浮かべた。


「…じゃあ… なんて種族なのよぉー…」と春菜は大いに戸惑いながら聞いた。


「春菜は悪、優夏はシンアク。

 真実の真と善悪の悪で真悪」


「…私って、討伐の対象でしかないわね…」と優夏はごく自然に言った。


「そういう歴史もあったと思う」と春之介が豪語すると、「…だからこそ今がある…」と優夏は感慨深げに言って、春之介に甘えた。


春菜は言葉よりも先に、笑みを浮かべて虹色ペンギンを抱きしめた。


「そして素晴らしい部分がひとつあって、

 時々本来の悪に戻ることだ」


「…どーして悪の姿に戻ることが素晴らしいのよぉー…」と春奈が嘆くように聞いたが、優夏は笑みを浮かべてうなづいている。


「まずは、普通はそれを隠す」と春之介が言うと、「あっ!」と誰もがそれに気づいて納得の笑みを浮かべた。


「…そうね、隠すわ…」と優夏は穏やかに言った。


「後ろめたさがないから隠さないという意味もあるんだ。

 春菜はその修行中だと俺は思っている。

 仲間のような優夏がいたことがラッキーだったと思っておいた方がいい」


「…私って、心底の悪…」と春菜は言ってうなだれた。


「その証拠はある。

 優夏の真意はあると思うが、

 花蓮様とのキャッチ―ボールで、

 春菜の方が、ボールに倍の荷重がかけられていた事実」


「そうね、少し悔しかったわ」と優夏は言って、また目だけを悪にして春菜を見た。


「…夢に出そうだからやめてぇー…」と春菜は大いに嘆くと、優夏は愉快そうに笑って元に戻した。


「手加減をまだ知らない。

 それをきちんと調整できるのが優夏だ」


「…まだまだ何もかもが子供だって、よく理解できたわ…」


「…ふたりにだけずるいぃー…」と尚が小さな声で言うと、「…説明が難しいわね…」と優夏は真剣な顔をして言って尚を見た。


尚は少し考えて、「…重要だから、言葉を選ばなきゃいけない…」というと、「うん、そうなの…」と優夏は眉を下げて言った。


「優夏ちゃんを信じるわ!」と尚は気合を入れて叫んだ。


「それって、春之介の機嫌を損ねるわよ。

 全くそんな顔はしてないけどね」


尚がすぐに春之介に謝ると、「相手によって、最高の説得力があるなんでもない言葉もあるもんなんだ」と言うと、「…納得しちゃいけないけど、納得…」と尚は大いに言葉を選んで答えた。


「本来なら、私たちだって春之介に講義を受けちゃいけないほどなの。

 自分自身を知ること自体が修行だから。

 それは、覚醒しているかしていないかの差よ。

 春之介に講義を受けることで、

 自分自身を知ることはできるけど、

 新たな覚醒や能力の上昇はなくて、

 自分自身が納得できることだけなの。

 特に悪の種族はこれは重要だと思うわ。

 それに、放っておいたら、また悪に戻るかもしれないわよ」


優夏が脅すと、誰もが大いに眉を下げていた。


「…あんな、狭い世界はもう嫌…」と春菜がつぶやくと、優夏は賛同するように何度もうなづいた。


「悪は、ある意味最強の魔王だ。

 ふたりをランス様の教育係に任命したいところだよ…」


「絶命してもいいのなら」と優夏が言うと、―― 絶対そうなる… ―― と誰もが一斉に考えていた。


「賭けはできないんだけどね…」と春之介は言って、最高に納得する言葉を放った。


「…孫のサラの改心は、中途半端だった…」と優夏は言って、納得の笑みを浮かべた。


「春君と優ちゃんの言葉を信じるわ…」と尚が答えると、「慎重だな…」と春之介が言って少し笑った。


「…それに、春之介の言った通り、賭けはできないわね…」とさらに優夏が言うと、「…かなり考えて納得させる必要があるな…」と浩也が言った。


「それに、人格が変わるはずだ。

 まさに、転生したと思わせるほどに。

 そしてもう二度と、青い球は生まれないだろう。

 だけど、これにも杞憂があるんだよ。

 消えればどこかで生まれるはずだ。

 それが宇宙の摂理なんだ」


春之介の言葉に、「…面倒なことをしてくれたものね…」と優夏は大いに嘆いた。


「神が欲を持ってはいけない典型だと思う」


春之介の言葉に、事情を知っている者たちは何度もうなづいた。


「まだ早い子も多いけど、ここは全員に詳細を説明するよ」


春之介の真剣な言葉に、反対する者は誰もいなかった。



現在の結城カノンはランス・セイントの母で、ランスを生む際に、ある願い事をした。


それが、魔王を生む原動力となっていた。


カノンは、ランスを性対象でだけのパートナーとして生んだのだ。


初めは快楽の底にいて大いに楽しんだのだが、そのうち苦痛になってきた。


そしてある日、カノンは忽然とランスの目の前から消えた。


ランスには母のために働いていたという自信があった。


そしていなくなったことに、血の涙を流した。


その悔しさ恨みが、青い球を生んでしまい、ランスは魔王となった。


魔王は誰も信じない。


魔王を邪魔するものは、すべてを粉砕する。


相手の善悪などは関係なく、立ちふさがれば粉砕するのだ。


魔王は欲に対して大いに攻撃をして、すべてを壊してしまうのだ。


その魔王が生んだ子、現在のデゴイラがサラを生んで、長い時間をかけて、精神的には救った。


だが、青い球はまだ納得できていないので、まだランスの中にいる。


まだ何もない時代のことなので、ないものが湧き出て当然だった。


だが今となっては、完全に消すことは不可能で、春之介が言った通り、青い球は誰かに定着する。


魂ではないので、どこに行ったのかは誰にもわからないのだ。


「…魔王をぶん殴って完全に改心させる…」と優夏が言うと、「まあ、ただじゃ済まないね… ランス様が…」と春之介がにやりと笑って言った。


「春夏秋冬、参考資料として今の会話の映像ごと万有様に報告して欲しい」


「はい、送りました。

 あ、来るそうです」


春夏秋冬が言うと、夏介から源一と花蓮が飛び出してきた。


「…ようやく納得できたよ、ありがとう…」と源一は言って春之介に頭を下げた。


「押し付けるわけじゃないけど、

 秋之介が一番の適任だ。

 なんなら、ヤマに出張ってもらってもいいほどだ。

 確実に魔王よりも強いからね。

 だけど一番の問題は、やはり青い球の存在…」


「大いにめんどくさいですね」と春之介は言って少し笑った。


「だけどその時、ランスさんはかなり変わるだろうね。

 まさに想像できないほどに穏やかになってしまいそうだ…」


「太陽の球の威厳だけで、自分自身を壊してしまうかもしれません。

 青い球がそれを抑え込んでいるようにも感じます。

 だからこそ、青い球を消すわけにはいかないんです。

 ランス様が次に転生しても、すぐに死に誘われると思います」


この八方ふさがりの状況に、誰もがうなっている。


「…檻に入れておくのが一番面倒がないわ…

 罪人も同然なんだから…

 その檻にカノンを入れて、

 神様ごっこでもしておいてもらいましょう」


「…大いに平和になるね…」と源一は眉を下げて肯定した。


「…ふたりとも固めたわ…」と花蓮が眉を下げて言った。


すると、「ふんっ!」と源一が叫んで、何かの術を放った。


「あ、悪滅の術。

 暗黒宇宙の神髄にいる悪に作用するものだから、

 ここにいる優夏と春菜には影響はない」


優夏と春菜の腕に、鳥肌が立っていた。


術の効果はふたりにはないが、それを浴びていたと思うと消え去っていて当然だったと感じたからだ。


「それほどに、悪い心が沸き始めたようですね」


「ああ、両方ともにだ。

 この日を恐れていたと言っても過言じゃないね。

 だから、解決する義務ができた。

 どうか、協力してほしい」


源一と花蓮が頭を下げると、春之介は答えなかった。


「ノーリスクは閉じ込めることです。

 だが、悪が沸き続けるのも問題ですね…

 デゴイラさんも固めてください。

 無謀なことをしそうな予感…」


春之介の言葉に、花蓮がすぐにデゴイラも拘束した。


「…サラは… ま、能力は低いからね…」と源一が言ったが、「念のため」と花蓮は言って、サラも拘束して、四人を結界に閉じ込めた。


「どこがいいかしら…」と花蓮が言うと、「ここの隣の大宇宙の暗黒宇宙が一番よさそうだ」と源一がすぐに答えた。


「そこに行って、解決策を考えます」と春之介が言うと、「ああ、頼む」と源一は言って、春之介に深く頭を下げた。


「優夏と春菜と悪魔たちは来ない方がいい。

 悲劇が起こる可能性もあるからな」


「…いかないわよぉー…」と優夏が嘆くように言うと、春菜も悪魔たちも一瞬で理解した。


―― 消え去る可能性がある… ―― と誰もがすぐに察したのだ。


「…興味本位だけで、消えるわけにはいかない…」と浩也は大いに悔しがって言った。


「強い力を手に入れた代償のようなものだよ」と春之介は言って、浩也を慰めた。


「あ、そういえば…」と源一は言って、浩也たちを見入って、大いに苦笑いを浮かべた。


「一気にやったわけだ…」と源一が嘆くように言うと、「ひとりを除いてですが」と春之介は答えて尚を見た。


源一はすぐに察して、「…無言を押し通そう…」とつぶやくと、尚はさらに納得して笑みを浮かべた。



源一が一同を連れて飛ぶと、そこにはセイラ・ランダたちカノンの仲間がいた。


「昔返りのようね…」とセイラは言って、変わり果ててしまった親友を見入っている。


人型をしているが、その周りには悪がこびりついているように見える。


「野放しにしておいていいことはひとつもないからね」と源一が言うと、「わかっていたつもりだけだったわ…」とセイラは言ってうなだれた。


春之介はゼルタウロスに変身して、魂たちとコンタクトを取った。


すると一瞬にしてデゴイラ、カノン、サラが、今までの姿に戻っていた。


そしてカノンが大声で泣きわめき、「ごめんなさい! ごめんなさい!」と何度も叫んだ。


「この人、また何かやるよ」とゼルタウロスが言うと、「カノンはこのままだ」と源一が言うと、デゴイラとサラの結界が解けた。


その途端、カノンはまた面妖な黒い物体になっていた。


「我慢のないヤツ…」と源一がつぶやくと、「…ごめんなさい…」とセイラはまた大いにうなだれて謝った。


「…ふーん… いらない知識までもらっちゃったよ…」とゼルタウロスは言って、源一とセイラを交互に見た。


「俺は友人として付き合っていただけ」と源一が言うと、セイラは大いにホホを赤らめた。


「…この蒸し返しまで発生するのね…」と花蓮は眉を下げて言った。


源一と花蓮が結婚する前の話なので、怒るわけにはいかないし、花蓮とセイラは友人でもあるのだ。


「…ふーん… カノンって、魂たちではどうしようもないんだって。

 ここは、宇宙の父に責任を取ってもらった方がいいのかなぁー…」


ゼルタウロスの言葉に、「生まれてすぐの、唯一の過ち…」と源一がつぶやいた。


「…リスの方のセイント様と佐藤様を呼んで欲しい」とゼルタウロスが言うと、源一がすぐにふたりを引き寄せた


「…ひどいな… カノン…」と佐藤は眉をしかめて言った。


「…親として、責任重大だね…」とリスのセイントが言って、その姿を幼児の人型に変えた。


そしてセイントが天照大神を見上げて、「あ、思うようにやっちゃってもらっていいから」と言うと、天照大神たち神と巫女たちが集合して相談していると、この暗黒宇宙の空が青空になった。


「…はは、すげえ…」と源一は空を見上げて言って、大いに苦笑いを浮かべた。


そのとたん、『ドギャァ―――ンッ!!!』とまるで巨大怪獣の断末魔のような音がしたと同時に、カノンがまとっていた黒いものが消えて、カノンは地面に倒れていた。


「治ったわけじゃないよ。

 改心させるのは言葉でしかないから」


ゼルタウロスの言葉に、佐藤はカノンにい向かって歩いて行って、結界をすり抜けて中に入って、カノンを抱き上げた。


「…青空に謝らないとな…」と佐藤が寂しそうに言うと、「…その気持ちだけで十分だわ…」とカノンは言って、力を取り戻して、自力で座った。


「私、青空ちゃんに消されたくないもの…」とカノンは言って涙を流し始めた。


その隣にいる黒い物体でしかないランスは、立ち尽くしてぼう然としてこの様子を見ている。


そして、「はっ!」と気合を入れて、サンダイスに変身して黒いものを吹き飛ばし、結界を殴り始めたが、反射の結界なので、その力は倍になって返されるので、わずか一発で地面に倒れた。


そして思い直したようで、大人しくなってまた立ち尽くした。


「…本来の魔王になってるね…」とゼルタウロスが言うと、「なるほどね」と源一は言ってゼルタウロスの頭をなでた。


「ランスの結界、解くわよ」と花蓮が言うと、誰もが身構えた。


だが、魔王は首だけを動かして、辺りを見回してから、地面を踏み固め始めた。


「城を建てるそうだよ」とゼルタウロスが言うと、誰もが眉を下げていた。


「ランスさんはこのままでいいか…」と源一が言うと、デゴイラとサラの眉が大いに下がっていた。


「精神的な改善だけじゃダメなんだ。

 魔王の力を力でねじ伏せないと本当の改心にはならない。

 それに、青い球の問題があるんだ。

 今はかなりの大きさになってるね。

 魔王が戦いに負けた時、青い球が飛び出して、

 また誰かに憑依するはずだよ」


ゼルタウロスの説明に、「…力不足、思い知った…」とデゴイラは言って、ゼルタウロスに頭を下げた。


「…だから、このままにしておく意味がある…」とサラは言ってうなだれた。


「この星だけは、比較的平和になりそうだ…」と源一は覇気なく言った。


「だけどね、人間のランス様もいるんだよ。

 外に出たいけど出られない。

 まずはこれが間違ってるんだ。

 古い神のサンダイスが自己主張しすぎ」


するとまたとんでもない音がして、サンダイスに神の鉄槌が落ちると、その巨体を揺らして地面に倒れて、人間の姿のランスに変わった。


「何度もやんなきゃね…」とゼルタウロスが天照大神を見て言うと、「何度でも」と天照大神は胸を張って笑みを浮かべて答えた。


そして神の力に雷竜サラの力を加えた。


サラの修行でもあるし、家族として引き継がせるためだ。


ゼルタウロスは春之介に戻って、料理を始めると、源一と花蓮も手伝った。


まさに青空の下のピクニックでしかなくなっていた。


「あとは古い神の一族たちの自己責任で。

 災いがあった時、また同じことをするだけですから」


春之介の言葉に、「そうするしかなさそうだ…」とここは不本意だが源一も折れた。



ランスは何度もサンダイスに戻ったが、ランスになった時はテーブルについてうまい料理をたらふく食った。


サラも料理の修行を天照大神から受けていて、泣きそうな顔になっている。


「人間の必要欲がサンダイス様を変えればいいんですが…」


「その兆候はある。

 サンダイスに戻る時間間隔が伸びている。

 あ、ついにサンダイスまで食い始めた…」


源一は言って、大いに苦笑いを浮かべた。



すると、ランスの家族たちも一斉に飛んできて、ランスを囲んだ。


「…前にもやったのにぃー…」とサンノリカがつぶやくと、春之介と源一は目を見開いて顔を見合わせた。


「…面目次第もねえ…」とランスは言ってサンノリカに頭を下げた。


サンノリカは、どうしてもサンダイスと戦いたくて、ある出来事が切欠で錯乱したサンダイスを倒していたのだ。


「どれほど前なの?」と春之介が聞くと、サンノリカはかわいらしいポーズを取って考えて、「十年ほど前かなぁー…」と答えた。


「ランスさんに異変が現れたらそうしましょうか…」と春之介がため息交じりに言うと、「それでよさそうだ…」と源一も同意した。


「お父さん代えちゃうっ!」とサンノリカは宣言して、サンロロスの手を取って、春之介に向かって走ってきた。


「ふーん…」と春之介は言ってから、ふたりの頭をなでた。


「お父さんになってもらえるのっ?!」とサンノリカが陽気に叫ぶと、「欲があるとサンダイス星に戻されるけどそれでよかったらね」と春之介が言うと、サンノリカは大いにうなだれた。


「別にいつものように遊びに来ればいいじゃないか…」


「…認めてもらえるように頑張るぅー…」とサンノリカは眉を下げて言った。


「御座成功太の呪いのようなものだね…」と春之介が大いに嘆くと、「…あー…」とサンノリカは嘆いて大いにうなだれた。


春之介はサンロロスを見て、「いろんな意味で反面教師にしたわけだ」というと、「…あはは、はいぃー…」と恥ずかしそうに答えた。


ふたりの性格はほぼ真逆だが、お互いを信頼しあっているので、いつも寄り添って行動する。


サンロロスがサンノリカを見限らないこともすごいと、春之介は大いに感心していた。


やはり、閉鎖され同じ時間を過ごした三百年という長い時間が、ふたりの結束をさらに固めたのだ。


よって、誰もこのふたりに対して説教することはできない。


しいて言えば、長年生き続けている天照大神たち神になら可能だろう。


「…今は、お父さんはいいかぁー…」とサンノリカは諦めるように言って、機嫌よく春之介に抱きついた。


この三人は仲のいい親子のようにして食事を摂った。


「サンノリカッ!! そんなヤツになつくなっ!!」とサンダイスが叫ぶと、「またぶっ飛ばしちゃうっ!!」とサンノリカは叫んでけらけらと笑った。


「うー…」とサンダイスはうなって、ここは矛を収めたが、その拍子にランスに姿が変わった。


「…何度もやってっと、やけに冷静になって恥ずかしくなってくる…」とランスは言ってうなだれた。


「あ、そういえば…」とサンノリカは言ってランスを見入った。


「今は人間のランスさん自身だから。

 変身の超高速切り替えは使ってないから」


春之介の言葉に、「…でも、お父さんじゃなくてお兄ちゃん…」とサンノリカは笑みを浮かべて言って、春之介にもたれかかった。


「兄の要素の方が多いだろうね。

 だけど俺から見れば、サンノリカが姉」


「…あー、言えるわぁー…」とサンノリカもサンロロスも納得してつぶやいた。


「お父さんとしては、一番なんだけどなぁー…」とサンロロスは春之介にもたれかかったまま言った。


「源一様じゃダメなのかい?」と春之介が聞くと、源一は大いに眉を下げていた。


「源一様はすぐにお勉強っていうから嫌い」とサンロリカがはっきりと答えると、「俺の子になれば毎日勉強させるぞ」と春之介が少し笑いながら言うと、「えー…」とサンノリカは大いに嘆いた。


そして魅力的な女性に変身した。


「…優夏に殴られちゃう…」とサンノリカは言って姿勢を正して座り直すと、春之介は陽気に笑った。


「それほどに勉強がしたくないわけなんだ。

 術の行使は直感だよね?」


「…その方が正確だから…」とサンノリカは妙にもじもじしながら答えた。


「本格的にぶっ飛ばされるぞ」と春之介が言うと、サンノリカは幼児に戻って、「…お勉強、嫌だなぁー…」と言ってうなだれた。


「勉強嫌いには二種類あるんだ」と春之介が言うと、「おっ! それは大いに興味があるね!」と源一が大いに食いついてきたので、春之介は大いに苦笑いを浮かべた。


「まず克服できる方は、未来の自分を予想して嘆くパターン。

 勉強をしても頭に入らなかったり、

 テストの点が悪かったりと考えて嫌いになる場合」


源一は大いに賛同してうなづいている。


「そして治しようがない勉強嫌いは、その勉強の場が嫌なんだ」


春之介の言葉に、「…そっちの方ですぅー… あ、前の方もあるぅー…」とサンノリカはつぶやいた。


「よって、勉強を好きになってもらうように、

 初めは個人授業から始めるんだ。

 その生徒の思い描いている環境の中で勉強をしてもらう。

 もちろん遊んでいては勉強にならないから、

 勉強ができる環境を探し出す。

 簡単なのは好きな音楽を流す。

 気に入った部屋を選ぶ。

 教師も選ぶ」


「…大甘だけど、勉強を始めないことには意味がないからなぁー…」と源一は納得して何度もうなづいている。


「…ひそひそ話しちゃったら叱られちゃう…」とサンノリカが言うと、「普通に発言すればいい」と春之介が言うと、「えー…」とサンノリカは大いに困惑した。


「勉強から意識を外すことも重要だ。

 そういった生徒に耐えられる教師が必要になるわけだ。

 ここは教師としての修行だね」


「…うう… なんだか罪悪感…」とサンノリカが言うと、春之介と源一が顔を見合わせて笑みを浮かべた。


「教師としては勉強を教えることが仕事だから、

 それほど気に病むことはないんだ。

 サンノリカの好きなようにしてもらって、その合間に勉強を教える。

 遊んでいるわけじゃなく、少しだけ勉強をしてもらおうという、

 教師の願いと想いがここにあるはずだ。

 それを積み重ねていく。

 そうすれば、時間はかかっても、みんなに追いつけるはずだ。

 そしてサンノリカには、教師の高い資質があるはずだ」


春之介の言葉に、サンノリカは神の鉄槌を受けたように体を震わせて背筋を伸ばした。


「…私の、勉強嫌いが武器になる…」とサンノリカはつぶやいた。


「生徒の気持ちが一番よくわかる教師になれるはずだから」


―― サンノリカは目標と希望を得た ―― と源一は思って笑みを浮かべてうなづいた。


「…先生、まじめにお勉強しますぅー…」とサンノリカは言って春之介に頭を下げた。


「今は普通でいいぞ」と春之介が言うと、「よかったぁー…」とサンノリカは安堵の表情をして春之介に抱きついた。


「おまえっ! 何度も言わせるなっ!!」とサンダイスが叫ぶと、サンノリカは一瞬にして大人の姿になって春之介たちに愛想笑いを浮かべた


そして超高速移動して、拳でサンダイスをぶっ飛ばして満足してから、幼児に戻って超高速移動で戻って来てから、「蚊がいたのぉー…」と恥ずかしそうに言うと、春之介と源一は愉快そうに腹を抱えて笑った。


サンダイスはその巨体を数百メートル飛ばされて、白目を見いて地面に横たわった。


サンダイスが意識を断たれたことで、ランスに変身して走って戻ってきた。


「…神の再教育は楽じゃなさそうだ…」とランスは大いに投げやりに言った。


「今のランスさんには初めて会った。

 やはり、少々角が取れているように感じるね」


人間としてのランス・セイントは、サンダイスに追い出されてしまったように外に出られなくなってしまった。


だがここは何とか抵抗して、サンダイス、悪魔、天使の変身を超高速で切り替えて、人間のランス・セイントとして表面上は姿を現せるようになった。


しかし今は、そのような面倒なことをしなくても、本来の人間のランス・セイントがいる。


しかし、「…修行、一からやり直し…」とランスは言って大いに苦笑いを浮かべた。


ランス最大の武器で防御の、高揚感の結界を使えなくなっていた。


特に最近は高揚感が沸くことがなくなったせいでもある。


「反射の結界や、それを似せた防具にも組み込んだ、

 弾力性のある狭い範囲の結界だよ。

 高揚感持続中は無敵…」


源一の言葉に、「それはないと思います」と春之介が堂々と言うと、「はは! さすがだ!」と源一が言って、軽く春之介の背中を叩いた。


「体ごとボールのようにして弾ませた」と源一が言うと、春之介は笑みを浮かべてうなづいてから、控え目に笑った。


「マリつきみたいだったよ!」とサンノリカが陽気に言うと、源一も春之介も眉を下げていた。


「…でもね… 源一様は怖い…」とサンノリカが言うと、「あれだけ遊ばせといてそのセリフかい?」と源一は言って陽気に笑った。


さすがにここはサンロロスが眉を下げてサンノリカに指摘すると、「…楽しかったことは忘れやすいのぉー…」とサンノリカが言うと、「それはたぶん俺たちも一緒だ」と春之介が答えると、「ほらぁー…」とサンロロスが言って、「…重ね重ねごめんなさい…」とサンノリカは言って頭を下げた。


「それほど長時間じゃなかったら付き合うから、

 いつでも来ればいいよ」


春之介の言葉に、サンノリカは大いに喜んで、興奮しすぎて大声で泣いて、ついには意識を失っていた。


「…死んでないだろうな…」と源一が言うと、「…生きてますぅー…」とサンロロスは眉を下げて答えた。


「優夏のようだっ!!」と春之介は叫んで、大声で笑い転げた。


春之介はすぐに異変に気付いて、まずはランスの気付けをしてから、辺りを見回すと、もうすでに魂たちが気付けを終えていて、心臓が止まっていた者たちは苦しそうにして地面に寝転んだ。


「…それなりにすごいな…」と源一は眉を下げて言った。


「松崎様のマネをしただけなんですが…」と春之介が言うと、源一は笑みを浮かべてうなづいていた。


「かなり精巧なコピーだし、それ以上かもね」と源一は気さくに春之介の背中を軽く叩いた。


「戦場で今の高笑いをすれば、すぐに諍いは終わるさ。

 まずは魂たちとコミュニケーションを取っておけば、

 かなり安全だろうね」


源一が陽気に言うと、「はい… 十分に注意して使います…」と春之介は苦笑いを浮かべて答えた。


ここはランスの家族たちに任せて、源一はフリージアに戻り、春之介たちはゼルダの星に戻った。


「その顔色だと、なかなか手ごわかったようね…」と優夏は眉を下げて言った。


「…それなり以上に強情だけど、

 今までよりはマシだと思う…」


春之介は言って、椅子に深く座り込んだ。


「…パパ…」と翔春が心配そうな顔をして春之介に抱きついた。


「…あー… 癒されうぅー…」と春之介は言って、背筋が伸びていた。


「…私もできないかしらぁー…」と春子が言ってうなだれた。


「優しい緑の香り」と春之介が言うと、春子は小さな緑竜に変身して、天使の癒しに似た香りを穏やかに流した。


「…あー… 素晴らしい…」と春之介は言って、笑みを浮かべて瞳を閉じた。


「…何かお手伝いしたいぃー…」と火竜ベティーが言うと、春子に指示されて大地を焼いた。


「…あー… 生命力がみなぎってくるように感じる…」と春之介は瞳を閉じたまま言った。


家族たちのほとんどはすでにうつらうつらしている。


「…今日はもう休んで…」という優夏のやさしい言葉を聞いたとたんに、春之介は夢見にいた。


「…また働くんだけどな…」と春之介が苦笑いを浮かべて言うと、「隠れてください!」と春夏秋冬の声が飛んだ。


春之介はゼルタウロスに変身して、住居の植え込みの影沿いに走って、高床式になっている住居の縁の下に身を隠した。


「異物が混ざった! 探せっ! 探せっ!」と春之介たちがいた場所の近くから声が聞こえた。


―― 高い能力を持っている者がいる… ―― とゼルタウロスは考えたが、その位置は特定できないようだとさらに考えて、魂たちにお願いして、この星の事情を教えてもらった。


「…まさに、罰当たりな実験か…」とゼルタウロスは嘆くようにつぶやいた。


「なにっ?!」と男が叫んで、「そんなはずはなかろうがっ?!」とまた叫んだ。


すると、人間の気配が遠ざかっていく。


「…動物の魂は探れない… なるほどね…」とゼルタウロスはつぶやいて、用心深く辺りを探り、影伝いに高い木の上に昇った。


「…はぁー… 住居とは違い、街の方は近代化が進んでるね…

 さて、ここに来た理由…」


ゼルタウロスは眼下を見下ろすと、いつの間にか少女がいて、辺りを見回している。


「…仲間です…」


「…じゃ、敵なの味方なの?」


すると少女は街とは逆側に走って行った。


「走って行った方面の中継所から話しかけました」


「…なるほど、納得…」とゼルタウロスは言って眉を下げた。


「今は敵です」と春夏秋冬が言ったとたんに、人間らしき者たちが大挙して少女を追いかけ始めた。


「不正アクセス者を捕らえに行きました」と春夏秋冬が言うと、ゼルタウロスはくすくすと愉快そうに笑った。


「あのロボット少女をどうにかしろということかなぁー…」とゼルタウロスは言ってから、この辺りの生の魂で人間のものを探った。


「…いや、どうやら、人間の方をどうにかしろということらしいね…

 あの少女は護衛兼影武者といったところだ。

 さらに、大元の今の敵がここにいる」


ゼルタウロスは言って、高床式住居を見入った。


「…いい予感がしませんが…」


「…ああ、俺もだ…」とゼルタウロスは眉を下げて答えた。


「室内の見取り図を入手しました。

 中は近代的なもので埋め尽くされています。

 生存年数、8500年だそうです」


「…死にたくなかったようだね…」


すると今度は、少女を先頭にして人間たちは街に向かって走って行った。


「なかなかの脚力だな… 乗り物とかないのか…」


「あったようですけど、資源不足ですべて別のものに変わっています。

 ですのでここのように、見た目は木造建築物が多いのです。

 宇宙船もあったのですが、多くの者が逃げ出したそうです」


「…ま、逃げ出したくもなるかもね…」とゼルタウロスは同意した。


「中に入ると確実に見つかるだろうなぁー…」


「はい、見つかって捕まってしまうと予想できます」


「…それほどにここは守られているわけだ…

 焦らずじっくり考えよう…」


ゼルタウロスは緊張を解いて、太い幹の上で横になった。


「…あ…」とゼルタウロスはつぶやいて、魂たちにお願いすると、別の星に飛ばされた。


「…後味が悪いね…」とゼルタウロスが言うと、「真実を話したのですね?」と春夏秋冬は聞いた。


「…人間には違いないけど、あんたは脳しかないぞ…」とゼルタウロスは言って眉を下げた。


「あのロボットが人間の代わりだったのですね…

 目で見て手で触れて、足で走って…」


「…誘拐イベントの方が百倍楽だよ…」



ゼルタウロスは辺りを見回した。


今回はほっと胸をなでおろすほどに自然がいっぱいで、暗いと思っていたら森の中だった。


「…人間も動物も多数いるね…」とゼルタウロスはつぶやいてから、すたすたと歩き始めた。


小動物たちが警戒するようにしてゼルタウロスを見ている。


ここは特になわばりのない安全地帯のようで、かなり平和だとゼルタウロスは判断した。


すると、体の長いネズミのような動物が、木像の建物の前でうろうろとしている。


建物の方に行きたいようだが、深い堀があって渡るのは困難だ。


しかも堀には、獰猛そうな動物がいる。


「ここも水中動物は獰猛のようだね…」


「子供でも連れ去られたのでしょうか…」


「うん、そのようだね。

 三匹いたけど根こそぎ連れ去られたそうだ。

 どうやらこの危険地帯に入れということらしいけど、

 ただの人助けとは思えないから、

 連れ去りイベントかな?」


「…親は泣きますぅー…」


「…そうだよなぁー…」


などと話をしながらも、ゼルタウロスは簡単に堀を飛び越えて、立木を足掛かりにして建物の屋根に昇った。


「…以外にも、かわいがってたぁー…」とゼルタウロスが嘆くように言うと、「…まさかでしたぁー…」と春夏秋冬も同意した。


「だけどおかしいね…

 この家には人間がたくさんいるはずなのに、

 女の子がひとりしかいないように思える…」


「…捕らわれているんじゃ…

 動物を粗末にしたその罰、とか…」


ゼルタウロスは納得して、少々危険を感じたので、この家を離れてすぐ近くに感じる人間の村の近くまで移動した。


「…小動物が我が物顔…」とゼルタウロスが言うと、「…人間がよけてますぅー…」と春夏秋冬が嘆いた。


「動物愛もいいが、人間も動物なんだけどな…

 かわいがってはいたが、人さらいだし…

 だけど、この辺りの王というわけでもなさそうだ。

 さらに回りくどいけど、さらに人の多い場所にでも行こうか。

 どうやら城でもあるような雰囲気…」


ゼルタウロスは人間にも動物にも悟られないように、木の影を縫うようにして走って、城下町らしき場所に出た。


「ここは動物が入れないようにしている…

 あの女の子が、法の番人?」


ゼルタウロスは自問自答して、高い壁沿いに立っているやぐらを足掛かりにして塀のてっぺんまで登って身を伏せて、姿勢を低くして城下町を探った。


壁が赤く塗られていたので、都合がよかった。


城の旗印も赤を基調にしているので、この城のイメージカラーなのだろう。


しかし城は普通に石組みで、赤くは塗られていない。


「…重要な情報を入手しました…」と春夏秋冬が言うと、「よく聞こえたね…」とゼルタウロスは言って眉を下げた。


「あの少女が動物のボスのようです」


「…なるほど納得…」とゼルタウロスは答えたが、この状況をどうすればいいのかよくわからない。


「…捕らわれている人に重要人物がいる、とか…」


「はあ、その可能性は高いように思います。

 ですので、命の危険があるのではないかと…」


「…ボスのエサ…」とゼルタウロスは大いに苦笑いを浮かべて言った。


推測したのはいいものの、確信はない。


さらに捕らわれた人間を解放してもいいのだが、また捕まる可能性もあるのでうかつな真似はできない。


すると、西側から砂ぼこりが見えた。


「…マリア様に報告…」と春夏秋冬がつぶやくと、「ボスのお出ましか… 戦場で、人間を食うんだろうなぁー…」とゼルタウロスは言って、大いに眉を下げた。


すると、森の方向から、鬼のような獣が飛び出してきた。


その体高は三メートルほどある。


「…ダイゾだったかぁー…」とゼルタウロスは大いに嘆いた。


ようやく迫ってきた者たちの姿が見えた。


やはりメインの武器は長距離は弓のようで、数えきれないほどの矢が放たれた。


しかしダイゾの体は頑強だ。


矢じり程度では、体に刺さることはない。


だが、ダイゾに届いた矢が全て、『ドンッ!』という音を上げた。


矢に火薬を仕込んで放ったようだ。


そして、弓矢部隊の真ん中辺りでも爆発していた。


よってそれほど慣れている攻撃ではないと、ゼルタウロスは考えた。


あまりのことに、ダイゾは少し引いた。


しかし、退却する意思はないと、ゼルタウロスは察した。


今度は投石器から、石が放たれた。


「こりゃマズイッ!!」とゼルタウロスは叫んで、春之介に戻って耳をふさいだ。


『ドォ―――ンッ!!』というとてつもない音がして、ダイゾのいる辺りに、直径10メートルほどのきのこ雲が立ち上った。


さらには辺りに火がついた。


ダイゾは無傷のようだが、さすがに今回は500メートルほど引いた。


ダイゾはこのピンチをどうにかしようと思い、大きめの石を拾って、敵陣に向かって投げ始めた。


「おっ! ナイスボールッ!!」と春之介は大いに喜んだ。


「…選手の補強連れ去りイベント…」と春夏秋冬がつぶやくと、「それでもいいけど、ダイゾはこの星の神だからな」と春之介は言って、とりあえずはダイゾの味方になることに決めて、この位置から石や枯れ木などを上空高く放り投げ、敵陣に雨のように降らせた。


こうすることによって、どこから攻撃したのか判断できないようにするためだ。


攻めてきた者たちはあまりのことにすぐさま退却して行った。


城の外には赤い鎧の大部隊が控えていたが、敵が引いてしまったので、両手を上げて雄たけびを上げている。


そして、アリスを神として崇めるようにその名前を叫んでいる。


「…おっと、さすがに怪我をしたようだ…

 右足を引きずってる…」


すると気付いたのは春之介だけではなく、「救護班っ!」という声が飛んだ。


すると馬のようなものに乗った一団がダイゾめがけて走った。


するとダイゾが血相を変えて逃げたので、どうやら治療が痛いことを知っているようだ。


「…だが、この状況からどうしろというんだ…」と春之介は嘆いた。


「…ダイゾとコミュニケーションを取れ、でしょうか…」と春夏秋冬が言うと、「…気は進まないけど、たぶんそうかなぁー…」と春之介は言った。


しかし、ここは確認と思い、ゼルタウロスに変身して、攻めてきた軍が引いた方向に走った。


ただの侵略戦争なら問題ないが、ほかにも何かあるのだろうかと思って確認するために走ったのだ。


そして走りながら、ある程度の推測もできていた。


捕らわれている者が、この国の者だけではないのだろうという回答だった。


そして30キロほど離れた城の城下町で情報収集した結果、捕虜として捕らわれていると、表向きはそうなっている。


しかしそうではなく、スパイとして送り込んで、全員捕まっていたのだ。


まだ確定ではないが、少し試そうと思い、ゼルタウロスは春之介に戻って、『捕らわれたのは斥候たち』とわかるように掲示板に書いてから、ゼルタウロスに姿を変えて、平屋の建物の屋根の上から観察することにした。


すると案の定大騒ぎになり、兵士たちが大挙して城に押し入ろうと進軍を始めた。


「…なんだか冒険旅行のようだった…」とゼルタウロスは言って、ここから移動して、もといた森に向かって走った。


丁度治療を終えた医療班が城に向かって馬を走らせていた。


「二頭足りないから、居残りの看護係か…」


しかし、ダイゾがひとりになることもあるだろうと思って、家のそばにある立木から室内の様子を見ると、眉を下げて包帯をにらみつけているダイゾがいる。


しかし人間は一階にいるようだ。


「…ここから話をするか…」とゼルタウロスは言って、魂たちにお願いして中継してもらって念話を送った、


ダイゾは大いに慌てたが、動物の言葉なのですぐに落ち着いた。


『捕らえた人間を解放しないとまた来るよ…』


ゼルタウロスは調べた結果をダイゾに述べた。


するとダイゾは床を一度だけ叩くと、一階から二階に魂が移動を始めた。


「痛みますか?」と人間が聞くと、『ギ、ギギ』とダイゾは鳴いた。


人間たちは大いに眉を下げている。


「…ここは仕方ない…」とゼルタウロスは言って、一階にある便せんに事情を書いて、二階の部屋に飛ばした。


人間はすぐに紙の存在に気付いて、「…何という面倒なことを…」と嘆いてから、「…まずは隊長に連絡に行こう」と人間は言って、外に出て馬に乗って城に向かった。


「…姿は見せない方がいいんだろうけど、

 次の星に飛ばないし、目も覚めない…」


「…あのぉー… ダイゾを解放するために連れ去れってことじゃ…」と春夏秋冬が恐る恐る言うと、「…その可能性は高いね…」とゼルタウロスは答えた。


ダイゾは国の守り神ではなく、星の守り神だ。


ひとつの国に所属すると、こうなることは当たり前なのだ。


そして爆薬の開発によって、ダイゾは命を落としてしまうかもしれないが、今回の経験によって次があれば避けて通るだろう。


取り上げることが正しいこととは思えないが、春之介に仕事を託している者の意思なので、抗うことはできないし、時間切れになれば目覚めて、次の夢見はまたここから始まる可能性が高い。


「…エッちゃんに文句言ってやろ…」とゼルタウロスは言いながらも、屋敷に入り込んで、二階の部屋のドアを開けた。


『やあ、怪我の具合はどうだい?』


『…かすり傷なのに…』とダイゾはゼルタウロスに驚くことなく言って、眉を下げて包帯を見た。


『あら、いいわね、翼があるわっ!』とダイゾはゼルタウロスを見て言った。


『あんたと同じ種族で、翼を持っている人知ってるよ』


ゼルタウロスの言葉に、ダイゾは言葉を失った。


『あんたもそうなれるんじゃないの?

 あ、アリスって呼ばれてたよね?』


『…その人に、会いたいぃー…』とダイゾが答えた途端、春之介は寝室の天井を見ていた。


ダイゾは人型の少女に変身していて、すやすやと眠っている。


「どことなく、青空ちゃんに似てるな…」と春之介が言うと、「またさらってきたのね…」と優夏は言ってアリスを抱きしめたが、「…動物…」とつぶやいた。


「ダイゾだよ」と春之介が答えると、「…ラッキー…」と優夏は穏やかに言った。


「聖源君に大いに興味を持ったんだ。

 だから会うためについてきただけ」


春之介のそっけない言葉に、「…私の子にするもぉーん…」と優夏は駄々をこねた。


「会って納得すれば、あとはアリスの思うようにさせるから」という春之介の言葉には、優夏は逆らう術がなかったので、眉を下げただけだ。


「フリージアにはダイゾが3人もいるからね、四人目はないと思うよ…」


春之介の希望ある言葉に優夏は、「よっしっ!」と気合を入れてガッツポーズを取った。


「あら、この子ったらいやだわ…」と優夏は言って、アリスを見た。


アリスは優夏の胸を抱きしめていて授乳の意思を見せている。


優夏は春之介が止める間もなく、大きな胸を出しておっぱいを与えた。


春之介は三人を囲むブラインドの結界を張って、「でかくならないな…」と言って、まじまじとアリスを見た。


「ま、ダイゾがでかくなったか、翼が生えたか…」と春之介が言うと、「あら、だったら丁度よかったわ!」と優夏が陽気に言うと、アリスがぱっちりと目を開けて、「…ママがいたぁー…」とつぶやいて、優夏の豊満な胸に顔をうずめた。


優夏はアリスを抱いたまま家族を叩き起こしてアリスの紹介をした。


子供の悪魔たちの第一声は全員が、「うっ!」だったことに、春之介は少し笑った。


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