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ミラクルマンダッシュ!  作者: 木下源影
14/25

続々々々々々々々々々


     14


「新たなお便りが続々と送られてきています。

 ではお読みします。

 …そこはミラクルマンの星じゃないんですか?」


「ゼルダ様の星」と冬美が説明していたので、子供たちは大いに疑問に思ったようだ。


春之介はカメラに向かって笑みを浮かべた。


「まず、星の名前はないよ。

 それから星の持ち主はゼルダ様。

 俺たちはここに住まわせてもらっているんだよ」


「ゼルダ様は現在、お食事中です。

 ゼルダ様の一番のお好みは、

 春之介様が手間暇かけたお料理なのです」


冬美の言葉に、カメラはテーブルに向けて、ゆっくりと振られた。


春之介の仲間たちも食事をしているので、誰なのかよくわからないし、ゼルダは浩也の影に隠れてしまっていてほとんど確認できない。


この撮影方法には理由がある。


「すっごく偉い方で、それに恥ずかしがり屋さんなので、

 ご紹介ができないことをご了承ください」


ひと通りテーブルを移し終えてから、冬美を狙っているカメラに向かって頭を下げた。


「欲を持ってここに来ると消えるから」


春之介の無碍な一言に、「…消えるのではなくて、元の場所に戻されるのですぅー…」と冬美は大いにフォローして言った。


「だから最低でも、

 欲を持っていない俺の仲間たちが、

 これほどここで過ごせていることになるね。

 だから俺たちがスカウトに行けるように、

 みんなも頑張ってもらいたいんだ」


「…肉体的にも精神的にも人を傷つけない…

 …相手の立場に立って考える…

 …欲を持たない…

 そして、自分自身も傷つかない…

 あ、いいこととかしなくていいんですか?」


冬美の質問に、「相手の立場に立って考えた時、もしできることがあれば、それがいいことにつながることもあるさ」と春之介は笑みを浮かべて答えた。


「ですが、親切の押しつけはご迷惑かもしれませんので、

 よく考えてよく確認してから行動しましょう。

 それから、欲がある希望は叶えない方がいいです。

 人間は大いに増長しますから」


冬美は言って笑みを浮かべてから番組を終えると、春之介は大いに腹を抱えて笑っていた。


「俺の爺ちゃんたち、大いに苦笑いを浮かべていたはずだよ」と春之介が言うと、「…絶対その通りって思ったからイヤだわ…」と春菜は大いに嘆いた。


「…親族だからこそ、ある程度は我慢して、

 ある程度は容認する、よね?」


優夏は笑みを浮かべて言って夏樹を見た。


「…うー…」と夏樹はうなっただけで、言葉を発することはできなかった。


しかしここは何とか、「…お仕事でここにいるんだもぉーん…」と夏樹は体裁を繕うように言った。


「メイドと教師の募集をかけるよ。

 母さん、入れ替わることも覚悟しておいた方がいいよ」


春之介の無碍な言葉に、夏樹は大いに脅威を抱いた。


「常駐の悪魔は10名ほど。

 それ以外は同行でいいか…

 まあ必要であれば入れ替え制…

 できれば、優夏か春菜が教育係としてここに残って欲しいところだね」


春之介の言葉に、優夏と春菜は真奈を見た。


「まだまだ修行中だからダメ」と春之介が言うと、真奈は素早く頭を下げて、「リーダーになってもいいの?」という真奈の言葉に、誰もが怯えていた。


「優夏にはもうその術は届かないかもしれないけど、

 春菜は微妙だなぁー…

 だから真奈もそれなり以上に威厳はあるさ。

 将来は防衛軍の隊長として、

 この星に根を下ろしてくれてもいい。

 もちろん、伴侶とともに」


春之介の言葉に、「…は、伴侶とともに…」と真奈は言って顔を真っ赤にして動かなくなったので、「…冬美よりもロボットだな…」と春之介は眉を下げて言った。


名指しされなかったので、麒琉刀の機嫌が悪くなることはない。


それにまだまだ修行の必要があるので、今すぐにという無碍なことを春之介は言わないと自信を持っている。


しかも本来のこの星の持ち主でもあるゼルダの能力は高いし、星の守り神のフォレストもいる。


さらには天照大神と変わることなく能力の高いレスターと、その妻の桜良もいることで、留守番役は充実している。



「早かったなぁー…」と春之介は言って、子供20名と大人5名をこの星に引き寄せた。


「…クビは秒読み…」と夏樹は眉を下げて言って、大人5人を見入った。


もちろん25名は全員目を見開いて、驚きを表現している。


しかし春之介自身が全てを念話で伝えているので、怯えている者は誰もいない。


そしてようやく春之介を見つけて、「…ミラクルマンがいるぅー…」と小さな声で言ったが、全く動かない。


春之介は立ち上がって、挨拶がてらスキンシップをすると、ようやく体が動くようになって、子供たちは春之介に少し遠慮がちに抱きついた。


「宇宙人も大勢いるが、みんなも同じ人間だから。

 毎日しっかりと勉強して、

 楽しく遊んでくれていいからな」


子供たちは一斉に笑みを浮かべて、「はい! ミラクルマンッ!!」と一斉に叫んだ。


大人5人とも挨拶程度に話をしてから、男女ひとりずつを除いてレスターに引き渡した。


「…お仲間さん?!」と優夏が陽気に言うと、春之介は正確には大人ではない少女を優夏の隣に立たせた。


「優夏の執事兼アイドルのパートナー」


春之介の言葉に、優夏は大いに陽気になってガッツポーズをとって、少女の手を取って陽気に踊り始めた。


するとニ子がうなだれたので、「ニ子は修行が先だ」と春之介が言うと、二子は蘇って、「はいっ! 春之介様っ!」と叫んで笑みを浮かべて頭を下げた。


「アイドル職はニ子の希望に任せるから」という春之介の言葉に、ニ子は大いに苦笑いを浮かべていた。


「もちろん、フランシス・カーターさんも修行は必要だけど、

 それなりの実力者だから、

 それほど問題はないだろう。

 芽大瑠のライバルだろ?」


春之介の言葉に、「…見たことあるって思ってたぁー…」と芽大瑠は今更ながらに言って、フランシスカに気さくにあいさつを始めた。


「そして、こちらの男性は、メイド」と春之介が言うと、誰もが大いに眉を下げていた。


「真由夏、早速厨房で働いてもらって欲しい。

 ルーク・ホプキンスさんだ」


ルークは25才で、地球ではイタリアの二つ星レストランで下積みをしていたのだが、成長が大いに停滞していた。


まさにもったいないと思い、春之介がスカウトしたのだ。


もちろん、それなりの意味のないイジメにあっていて、さらには天涯孤独の身だ。


よってここに来た25名は、誰もが似たり寄ったりの不幸も背負っていた。


「ニ子もメイド修行から」という春之介の言葉に、「はっ! ありがとうございます!」とニ子は大いに喜んで、真由夏の後ろについて歩いた。


「…私も手伝うぅー…」と春菜は春之介の顔を見ながら、ニ子の後ろを歩いた。


「…心底、浮気者だわぁー…」と優夏が小声で言うと、誰もがくすくすと笑っていた。


そして春之介が夏樹に顔を向けると、大いに目を見開いて驚いている。


「何人でもいいのでメイドを調達してきて欲しいんだ。

 もちろん、通いでも構わないし、

 ここに定住してもいい」


「…ママ、大変なことになっちゃったわぁー…」と優夏が脅すと、「…春君が選んで欲しいぃー…」と大いに嘆いたが、見抜く力はここに住み着く条件でもあると察したので、夏之介を連れて社に入った。


「…ふーん… 夏之介に頼る…

 話しでもできるのかな?」


春之介の言葉に、「…猫、生んじゃったんだもの…」と優夏は春之介を見て言うと、「それは大いにあるね!」と春之介は陽気に笑った。


桜良は早速、機嫌よく様々な施設の増築を始めた。


こうやって小出しにすることで、桜良が暇になることはそれほどない。


そして子供たちは、桜良のふたりの赤ん坊の面倒を見る仕事を与えられた。


もちろん冬美がいることで何も心配はしていないので、レスターとともに思う存分働いている。


そして、10才を超えている子供たちは、半数ほどは涙を流していた。


その感情は、もちろんうれしい気持ちもあるが、その逆に情けなさと不甲斐なさがある。


「今はね、できることをきちんとすればいいのよ」という冬美のやさしい言葉に、「はい、女神様ぁー…」と女の子たちは涙声て言ったが、笑みを浮かべていた。


そして今回連れてこられた子供たちの中の男女ふたりは、うれしい気持ちだけを持っていて、今のこの状況を楽しむことに決めた。


全てのことがよくわかっていのだが、比較的後ろにいて、手の足りない所などを手伝う。


さらに時には、邪魔にならないように、工事現場の桜良の手伝いをこっそりとする。


「…あら?」と桜良は笑みを浮かべて、今は人間にしか見えない悪魔ゲン・ミラールを見て、「…助手にしたいけど、今は我慢するわ…」と小声でゲンに言ってから作業を再開した。


もうひとりの悪魔鳥飼利理子(とりかいりりす)は、少し背伸びをして赤ん坊を覗き込んでいる。


そして意味ありげにうなづいて笑みを浮かべた。


すると利理子にゲンが近づいてきて、赤ん坊を覗き込んで、「…ふたりとも将来有望だよね…」と小声だが気さくに話した。


「…鍛えたいところだけど、お勉強も大切だし、それに…」と利理子は言って、春之介に笑みを向けて、小さく頭を下げた。


「…仲間として、最低でもみんなを守らなきゃ…」とつぶやくと、ゲンも笑みを浮かべてうなづいた。


そしてゲンは修練場を見上げた。


「…先生に認められたら、お願いしよ…」と小声で言うと、「…私もそうしたい…」と利理子は小声で答えた。


「…あとで一緒に行きましょう…」と優夏がふたりの肩を抱いて小声で言うと、ゲンも利理子も大いに緊張したが、ここは心を解放して、「…はい、優夏ちゃん…」と小声で言って、小さく頭を下げた。


「私がおっぱいをあげると、すぐに大きくなるわよ!」と優夏が陽気に言うと、「あげちゃダメぇ―――っ!!!」と桜良が遠くから大いに叫んで拒否した。


「あら、残念だわ…

 翔春ちゃんのように2才児ほどになっちゃうのに…」


子供たちは翔春のことはもう知っているし、生まれてすぐに大きく成長していることも聞いていて知っている。


まさに天使の中でも一番のアイドルで、子供たちにも愛想がいい。


しかし今日は美佐のそばにいたいようで、腰に手を回してしがみついている。


姉の中でも一番大きいので、母親の優夏に甘える代わりに姉に甘えているのだ。


この行動は、初めの子供たちを春之介が引き寄せてからこうするようになった。


そうしないと、誰もが優夏に甘えるようになってしまうからだ。


よって比較的小さい子は、美佐はもちろんのこと、春子やベティーに甘えに行く。


三人はここで暮らす天使たちや子供たちの姉でもあるのだ。


そして男の子たちはというと、「かっこいい姉ちゃん」と言うと、春子がすぐさま緑竜に変身して相手をする。


そして今回来たここに来た子供たちを守るように、大きな翼で抱え込んだ。


子供たちは笑みを浮かべて、あまりの清々しさに半数以上が眠ったが、翔春が、『パンッ!』と手を叩くとすぐに目覚めて、緑竜に笑みを向けて見上げた。


この儀式をするだけで、ちょっとした修行になっていたことをゲンも利理子も理解していた。



春之介は販売された映像が気になったのでまずは確認することにした。


本来ならばひと言あってもよさそうなものだが、フリージア星での仕事としては、肖像権はすべて源一に委託されている。


もちろんそういった契約をしているので、細かいことには口出しをするべきではないし、報酬も受け取っている。


そしていまさらながらだが明細書をさらに確認すると、『報告があとになって申し訳ない』という、源一の直筆で書かれていた。


「…源一様も達筆だ…」と春之介は文字にだけ注目していた。


よって、源一は話さなかったのではなく、映像販売のプロジェクトは源一の知らないうちに走り出していたと言える。


この件に関しては、今までにお勉強した中に出てきていた、御座成翔樹の仕業だろうと納得していた。


翔樹は宇宙をまたにかける貿易商で、春之介たちは直接会ったことはない。


よって春之介たちの試合の全ては全宇宙に配信されていると確信した。


やはり3チームでは少ないと思ったようで、野球の達人を集める道具と同時に、商売にもしたんだろうと察した。


そしてダイジェストでその映像を観ると、試合だけではなく、差し支えない個人プロフィールも比較的詳細に載っていて、三枚の記憶媒体だけで、選手とその仕事などは手に取ってわかるようになっていた。


やはり中でも特異なのはドズ星軍で、宇宙の平和を守る仕事にはついているが、長をランス・セイントとして行動している。


情報によると、源一ほど広い範囲での仕事ではないが、生命を持つ星が多すぎることで、わずかひとつの大宇宙の管理だが、それほど楽な仕事はしていない。


それはまた別の勢力のセルラ星を拠点とするその地の長の、メリスン・ランダの管理する大宇宙と条件はほぼ同じだった。


野球に関しては、選手は所属していないが、簡単な説明だけは載っている。


そして春之介は、大いに興味深い人物を発見した。


「…ダルダイル…」とつぶやいて、大いに苦笑いを浮かべた。


ダルダイルは、今は源一の友人として基本的には人型として行動しているが、元はドズ星出身の巨大な岩の塊のような草食恐竜だった。


皇源次郎の伝で、まずはセルラ星で仕事をして、大昔から関係のあった源一と再会を果たした。


この映像媒体は、野球だけではなく、春之介がお勉強したこと以外のことを大いに知ることができるバイブルのようなもので、まずはその勉強を始めた。


人物相関図は大いに頭に入ったので、春之介はダルダイルとの再会を大いに期待して、同じドズ星出身のマリオンを呼んだ。


マリオンも岩の塊のような皮膚だが、その姿は雄々しき獅子だ。


「…へー… ダルダイルと知り合いだったんだぁー…」とマリオンは子供のような声を発して、親し気に春之介に体をぶつけた。


春之介は、丸いざらついた石を出した。


「…あー… ダルダイルの石、持ってたんだぁー…」とマリオンは感動したように言って、さらに春之介に体をぶつけた。


「今になってよくわかったよ。

 俺はこの石のおかげで、今の俺になった。

 きっと、ダルダイルの初期の作品だと思う。

 ダルダイルのヤツ、

 絶対に創り直す!

 って、気合を入れていたからね」


「うん! 今はつるんつるんの素晴らしい石に変えられるよ!」とマリオンは嬉しそうに言った。


そしてマリオンから、源一とダルダイルの過去の話を聞いて、「…ちょっと、怖いな…」と、春之介は苦笑いを浮かべて言った。


「大丈夫さ。

 ボクだって、ベティーちゃんだってここにいるほどなんだから」


マリオンはさも当然のように言って、小動物たちに囲まれながら散歩に行くことにしたようで、すたすたと小走りに走り始めた。


「…草食獣の恐竜も欲しいぃー…」とすべてを見ていた優夏が言うと、「…源一様と戦争はしたくないけどね…」と眉を下げて言った。


「戦力としてはまだまだ必要だもの。

 ドズ星人たちもここで面倒を見てもいいの」


「さらに面倒になりそうなことはしないでくれよ…」と春之介はさらに眉を下げて言った。


「だけどね、あちらさんだって、その映像を観たのよ?」


優夏の言葉に、―― 一理ある… ―― と春之介は一瞬で納得した。


まさに源一が一年前に創り上げていた少数精鋭部隊が現在の春之介の部隊になっている。


興味が沸いてこの星を目指してくる者は確実にいると感じている。


しかし今のところは、正確なこの星の大宇宙の位置も星の位置も公表されていないので、源一を通すか、春之介に直接コンタクトを取る必要がある。


すると春之介に早速ジュレから念話があり、快く迎え入れることにした。


春之介から飛び出してきたメンバーを見てすぐに、「みなさん、いらっしゃい」と友好的に言って、ダルダイルの石を屈強な男性に向けた。


「…ようやく出会えた…

 ゼルダ・ミストガン…」


ダルダイルは言って笑みを浮かべた。


「…ゼルダ・ミストガン…

 そうですか…

 さらに、騒がしくなりそうですね…」


春之介は言って大いに眉を下げた。


「そうでもないさ…

 ミストガン一族はそれなり以上に高尚だからな」


ダルダイルは言って、春之介を握手をすると同時に、ダルダイルの石を一瞬にして変化させた。


「胸の支えが降りた気分だ…

 それに、興味深いな、この石…」


「…丸いオウム…」と春之介が眉を下げて言うと、「その通りだっ!!」とダルダイルは大いに叫んで上機嫌で笑った。


今までは単色が多く、白または黒で、このようなカラフルな変化をしたのは春之介が初めてだったようだ。


「まさに波乱万丈だったはずだ。

 きっと誰よりも濃い修行を積んだと確信した。

 さらに、白と黒がほくろでしか存在していない…」


ダルダイルは言って、笑みを浮かべてその黒点に指をさした。


「…知っている色が、すべてここにあると思うほどカラフルだ…」と春之介はダルダイルの石に向けて笑みを浮かべた。


「…それ、なんなのよぉー…」と優夏は眉を下げて言った。


「優夏様」とダルダイルは言って、ごく一般的な薄茶色の石を渡した。


優夏はすぐに受け取って、「…これはすごいわっ!!!」と大いに高揚感を上げて叫び、黒い物体に変化したがすぐに元に戻って、自分で人間を着た。


「…うふふ… 早業でしょ?」と優夏が言うと、春之介以外は全員が目を見開いていただけで、心にダメージは受けていなかった。


「…うふふ… まさに黒いわ…

 そして、白い点がひとつ…」


「…さすが、優夏様…」とダルダイルは言って、苦笑いを浮かべて頭を下げた。


「お礼はなんでもいいわよ。

 どんなことでも協力するから」


これほどに積極的な発言は、今までの優夏にはなかった。


よって今の言葉は、優夏がもらったダルダイルの石が言わせたのだ。


ダルダイルは遠慮なく、「その時が来た時にお願いいたします」と胸を張って言った。


「今度は花蓮を拳でぶっ飛ばしてもいいの…

 あ、もちろん、組み手だから…」


優夏は穏やかに言ったが、その実力は第六修練場でもう証明済みで、『唯一神』の称号を得ていた。


まさに最高級の称号で、今までに誰も達成していないものだった。


優夏は右腕一本で、石人形の全ての攻撃を止め、倒すことなくこの称号を手にしていた。



すると夏介から念話があり、春之介から飛び出した。


そしてジュレたちを確認して、「…まさかですけどぉー…」と夏介は言って、最終的にはダルダイルを見ていた。


「今やっている仕事が終わったら、

 ここに住まわせてもらうことにした。

 俺の妻も役に立つと思うからな」


「あら、朗報だわっ!」と優夏は大いに喜んだ。


ダルダイルの妻は悪魔でミスティーと名乗っている。


するとジュレたち勇者組は大いにうなだれていた。


「俺の爺ちゃんは、

 今のランス様は一旦今の生涯を閉じるべきと言っていたから。

 今の生涯は、次の生涯の糧にしろっていうことだよ。

 だけど、人間としてまだ30だからね。

 人生を終えるのはまだ早いと思う。

 みんなを困らせる存在のようだから、

 それなりの手出しはしたいけど、

 きっとそれがランス様の狙いだから」


春之介の言葉に、優夏は大いに笑って、「そうそう!」と叫んで腹を抱えて笑った。


「単身、春子を送り込んでもいいとだけ伝えて欲しい。

 もちろん、主従関係はその時に思い知ると思うけどね」


春之介の言葉にジュレは大いに苦笑いを浮かべて、とんでもない威厳を持っている緑竜春子に苦笑いを浮かべて頭を下げた。


「…存在感はビルド様以上かとぉー…」と言って、ジュレは涙を流した。


「全然本気じゃないから。

 ここは修行として、

 春子本来の威厳を知ってもらってもいいよ」


「…パパに嫌われるかもしれないからイヤだぁー…」と緑竜は大いに尻込みした。


「俺の修行でもあるさ」と春之介が言うと、「…だったら…」と緑竜は言って、ここにいる者だけを結界で囲んでから、うろこが逆立つほどの雄々しき存在感となった。


「…うっわぁー… 春子、怖ええー…」と春之介は言ってたまらずゼルタウロスに変身した。


「あ、そうでもない」とゼルタウロスが言うと、「…俺は脅威に思ったがな…」と黒い物体の優夏が言った。


「悪い心が全く見えない。

 まさに大自然だと感じたよ。

 だから自然界は厳しいっていうことだよ」


ゼルタウロスは言って、まさに命を絶たれそうになっているジュレたちの気付けをした。


「ダルダイルさんはすごいけど、

 やせ我慢も程々だから…」


「…気を抜けねえぇー…」とダルダイルはうなってから、その姿を巨大な岩の恐竜に変えて、春子に頭を下げた。


「…想像通りで詰まんなぁーい…」と緑竜は言って、春子に戻って結界を解いた。


「…うふふ… みんな、強くなってよかったね!」と春子が朗らかに言うと、息を吹き返したジュレたちは、「…ありがとう、ございました…」と何とか笑みを浮かべて言った。



「球場ではなく、この大自然で野球をしたいと思ったんだ。

 どうかな?」


春之介の気さくな言葉に、ジュレは、「喜んでっ!」と叫んで、肉体を本来の雄々しき姿に戻した。


「…参加しますぅー…」と夏介は大いに苦笑いを浮かべて言った。


「…まさに草野球…」と優夏は笑みを浮かべて穏やかに言った。


「…遊びだけど、普通の人間が参加できないのは悲しいかなぁー…」と春之介は肩を落として言った。


「経験させることは重要だわ」と優夏は胸を張って言った。


「…防具を着せれば問題ないか…

 まあ、心折れる人がほとんどだろうけどね…

 その中から一人でも抜け出る人がいれば儲けものかなぁー…

 俺たちのレギュラーって、

 たった12人しかいないからなぁー…」


「…その12人がとんでもないわよぉー…

 半数が普通に人間なのに…」


ジュレが気さくに言って少し笑った。


「大勢連れてくると収拾がつかないから、

 まずは近い仲間から招待しよう。

 だけどまずは、

 その中で何人ここにいられるかが大問題だけどね…」


「…大問題だけど、はっきりしていいわ…」と優夏は眉を下げて言った。


春之介は、まずは春咲高校野球部に白羽の矢を立てた。


そして条件なども正確に佐藤に念話で伝えると、『…俺がここに戻されるんじゃないか…』と大いに嘆いていた。


話しは終わって、翌日の放課後にミラクルマンスタジアムに迎えに行くことに決まった。


佐藤が引退した三年生も含めて草野球の話をすると、生徒一同は、「…忘れられていなかったぁー…」と大いに感動して言った。


「…一番に声をかけてくれたことが俺は嬉しい…」と佐藤も感慨深く生徒たちにその心情を伝えた。


そして春之介はある計画をジュレたちに話すと、「…プレイが小さく見えちゃうぅー…」などと言いながらも、満場一致で春之介の意見が採用された。


もちろん今回の春之介の計画は草野球だけのものなのだが、もしも今までの野球よりも熱中できることが確認できれば、スタジアムを新たに創ることにした。


このスタジアムが完成すると、収容人数は今までの5倍以上となる。


早速神たちがいとも簡単に山のふもとにフィールドだけを創り上げると、「でっかっ!」と春之介は叫んで腹を抱えて笑った。


「…ここでまずは遊ぶわけね…」とジュレはかなり嬉しそうに言って、「あ、練習練習…」と言って、仲間たちとともに飛んで行った。


もちろん、一輝とその仲間たちもこの星で暮らしているので、敵味方関係なく大いに練習を楽しんだ。


そして春之介、一輝、ジュレの三人が、新たな野球のルールを創り上げて、守備は何人出場しても構わないことに決まった。


しかし、守備についた者は必ず打席に立つ必要があるとしたので、それほど甘いルールではない。


よって春之介たちは全員が出場する必要があるので、今のところは実戦ではこのスタジアムは使わないことにした。


ダイヤモンドは一周400メートルあるので、塁間は100メートルもあることになる。


ピッチャーマウンドからホームベースまでは50メートル。


投手は毎回、少し短めの遠投を強いられることになる。


そして両翼200メートルあるので、春之介が本気で打ったとしても届かない可能性も大いにあるし、届いたとしても確実に打球は失速するので、簡単にキャッチされてしまう。


「…やる気が出るグランドだぁー…」と優夏は大いに気合が入っていたが、あまりにも早いボールを投げすぎて、キャッチャーミットに収まるまでにボールが蒸発した。


「ボールはこのままでいいだろう」という春之介の言葉に、「…強化しろぉー…」と優夏はうなったが、そのギリギリを狙って投球練習を再開した。


精神的には子供の総勢48名の大人たちは、大いにこのグランドで汗を流した。


「回を短くして、アウト数を増やすのもいいかもな…」


春之介の意見に、今のところは誰もが賛成した。


出場選手が確実に多くなることで、これはまさに現実的変更点だ。


現在の練習風景の映像を地球に送ると、野球選手を目指している子供たちの反応は薄かった。


しかし、観戦する分には歓迎されたようで、練習でもいいので球場に行きたいという書き込みが多く上がってきた。


「明日、地球人で15才以下のいい子の順に10万人を招待」


春之介が言って書き込みをすると、子供たちは大いに嘆くような書き込みで返してきた。


「…試合前に、気合が入るぅー…」と天照大神は言って、本来の姿になって、地球から千名ほどを誘拐したが、約十秒後に消えた。


「…何も問題ないわぁー…」と天照大神が気合を入れてうなって胸を張ると、誰もが大いい拍手をしていた。


「…はは、春咲高校の一年生部員が数名いたな…」


春之介が苦笑いを浮かべて言うと、「…いたわね…」と優夏も眉を下げて答えた。


「…努もいた…」と浩也が言って、大いに苦笑いを浮かべた。


「…スカウトしよう…」と春之介が言うと、「…きっと、いい子じゃなくなったかもな…」と浩也は言って苦笑いを浮かべた。


「この程度で揺らぐものかぁー…」と天照大神が浩也をにらみつけて言うと、さすがの浩也も、「申し訳ございません」と言って頭を下げた。


「その証拠に、誰もが平常心だ。

 いきなり消えて姿を現したから、親の方が驚いている」


浩也はすぐに、電話をして詳しい事情説明をしたが、もうきちんと察していたので、すぐさま電話を切った。


「…精神的には努の方が俺よりも上か…」と浩也は苦笑いを浮かべて言った。


「なんだったら、子供たちのリーダーとして、

 ここで暮らしてもらってもいいけど、

 友人と離れるのは問題だろうね…」


「…いい子にはいい子が寄り添うものだぁー…」と天照は威厳をもってうなってから、幼児の姿に戻って、「…疲れちゃったぁー…」と肉体に合わせて言って春之介に甘えた。


春之介は天照大神を抱きしめて頭をなでながら、「ここの住人をもう少しだけ増やそう」と言って決意した。



親がいる子は親の許可を得てから、その順に次々と春之介の前に姿を現した。


浩也の弟の努は、ほぼ同時期に3人の友人たちと姿を現した。


4人とも両親がいるのだが、快く送り出されてきたようで、すぐに集合して笑みを向けあった。


「ふーん… ひとりだけ女子…」


春之介がつぶやくこともなく、誰もが大いに気になっていた。


「…まあ… リーダー?」と浩也が苦笑いを浮かべて言うと、―― そういう関係か… ―― と誰もが思って、一斉に真奈を見た。


幼馴染と言えばその通りで、物心ついた時から常に4人が中心になって、多くの友人たちに囲まれて同じ時間を過ごしていた。


ここには色っぽい話はなく、4人はまるで兄弟のようにして同じ時間を過ごした。


春之介との挨拶もそこそこに、この4人が中心になって子供たちとコミュニケーションを取り始めた。


この4人が子供たちの太陽になっていて、子供たちの統率がとれたと言っても過言ではなかった。



「さて…

 とりあえずこの星に関しては何の杞憂もなくなったから、

 杞憂があることに手を出そうか」


春之介の言葉に、新しい住人たちとコミュニケーションを取ろうとしていた優夏が走って戻ってきた。


「…放っておけばいいじゃない…」と優夏が眉を下げて言うと、「使えるのにもったいないじゃないか…」と春之介は眉を下げて言った。


春之介は言ってから立ち上がり、右腕を優夏に差し出した。


優夏は眉を下げながらも、春之介の右腕を抱きしめて、すでに察して眉を下げている一輝に向かって歩を進めた。


そして恭司たちも一斉に眉を下げたので、春之介は少し笑った。


「話は聞いていて、なんとなく察しはついているつもりです」


春之介の言葉に、一輝は、「…半身だった当時の俺が、今の源次郎のようになってしまっている…」と答えた。


皇一輝は、12年前まで、皇一輝と、住良木一輝という、ふたりの人物が同化して、今の皇一輝になっている。


これは大昔の魂をふたつに分けて修行としていて、ようやく出会うことになり、元の魂の戻った。


ひとつに戻った一輝は、まずは源次郎の仕事の手伝いに従事したのだが、まずは源次郎の右腕だった前田慶造が他界した。


年齢は68で、鍛え抜かれていた慶造が他界するような年齢ではなかった。


慶造は、当時の生涯に満足して昇天したのだ。


そしてその魂は源一の部隊に寄り添っている。


さらには左腕でもあった一輝も源一に寄り添って、恭司たちとともに星救済の仕事に奔走を始めたので、源次郎は両腕をもがれたも同然となった。


さらには春之介の母のベティーも、元はと言えば、源次郎の部隊にいたのだが、今はゼンドラド・セイントの部隊にいる。


そして、源次郎が面倒を見ていたダルダイルも源次郎から離れた。


さらには火竜ベティーも春之介に寄り添ったことによって、源次郎は多くの強い力を失ったことになる。


さらには娘としてかわいがっていた安藤サヤカも、今は結婚して源一に寄り添っている。


少し前の源次郎であれば、『魂の絆は固い』を信じて待つことをしていたのだが、どう考えても戻ってくることは考えられない、


さらには、部下や娘の実力が源次郎を上回ってしまっている。


よって源次郎の心がついに曲がってしまったのだ。


その腹いせに、試合でボールを春之介にぶつけてやろうなどという、子供のいたずらのようなことを実行しようとしたのだ。


よってそれを見抜いた球審も、源次郎よりも格上ということがよくわかる。


もっとも、命の危険につながることでもあるので、球審が見抜けなかった場合は、源一が処分していたはずだ。


「直接引導を渡しましょう。

 今よりも強くなれと。

 その方法はわかっているはずです」


春之介は言って、ここにある修練場を見た。


「…あいつは誰よりも強かったのになぁー…」と一輝は懐かしそうな目をして言った。


「仲間が離れたら、俺もそうなるかもしれません」


春之介の言葉に、一輝は何も言わずに頭を下げた。


「だけど、ならないかもしれません」と春之介は言って優夏に笑みを向けた。


「…雛の能力低下が、源次郎にも現れているわけだ…」と一輝は言って何度もうなづいた。


その能力低下は、仏の世界の崩壊にある。


「今まで最高に強かったのは、

 仏という特殊な世界の恩恵だと勉強はしました。

 越前雛さんは、古い神の一族ではないようですけれども、

 源次郎さんは古い神の一族の一員です。

 ここは源次郎さんがリーダーをやらないから、

 行き詰ってしまっていると思いますね。

 それが源次郎さんの優しさだとすれば、

 間違っている優しさでしょう。

 それに几帳面すぎると思います。

 時が経てば、メンバーが入れ替わることなど当り前ですから。

 その努力も怠っていると思いますね。

 当事者の一輝さんが一番よくわかっていると思います」


一輝は何度もうなづいた。


「…半身だった時、俺はあいつに命をもらった…

 だが、今はどうだ…

 あの当時の源次郎はもういなくなってしまった…

 …結局は、女があいつを変えてしまったようだ…」


一輝が嘆くように言うと、「大いにモテていたわけですね」と春之介が聞くと、一輝は一度だけうなづいた。


「御座成功太と同じ道を行ったわけですね。

 もっとも、弱くなってから女に走ったと言っていいように思いますから、

 御座成功太の方がまだマシだと思います」


「…そうなるな…

 だから、俺以外の強い力は、

 源次郎よりも松崎拓生に走った。

 だが不思議なんだ。

 源一に走ったのはなぜか俺だけ」


一輝の言葉に、春之介は少し考えて、「…おかしいですね… 万有様が拒否したのでしょうか?」と聞いた。


「聞いたことがないから、そうかもしれんな…」と一輝はため息交じりに言った。


「ですが、源次郎さんも、松崎さんの星で暮らしているんですよね?」


「それはつい最近だ。

 少しは以前のように強くなりたいと思っているようだから、

 外の世界を見ておこうと、重い腰を上げたようだ」


春之介は何度もうなづいて、「予備知識はこの程度でいいでしょう」と言って、一輝に礼を言って、松崎拓生に念話を入れた。


都合よく今はくつろいでいるようで、春之介と優夏は遠慮なく、松崎の母星のフェアリー星に飛んだ。


すると、目の前に、松崎拓生がいるのだが、目を見開いていた。


そして大勢の者たちは一斉に走って逃げて行った。


春之介が振り返ると、「なんだ、ついてきたんだ」と言って、巨大化している秋之介に笑みを浮かべて言った。


「秋之介、人型」と春之介が言うと、秋之介はすぐさま人型をとったが、身長は3メートルほどあるので、まだ誰もが怯えていた。


「護衛だよ!」と幼児姿の天照大神が陽気に言った。


「…私の出番がないじゃない…」と優夏は眉を下げて苦情を言った。


天照大神は言って、「…たくさん死んじゃうよ?」と小首をかしげて言った。


「…言い返せないわぁー…」と優夏は眉を下げて答えた。



春之介は松崎に挨拶をしてから、「皇源次郎さんについてお話を聞きに来たのです」と言った。


「源に嫌われたからここにいるんだよ」と松崎は眉を下げて言った。


するとどこで話を聞きつけたのか、松崎から源一が飛び出してきた。


もちろん花蓮もいて、まずは優夏に丁寧にあいさつを始めたので、春之介は少し笑った。


どうやら、第六修練場の成績について聞いていたことで、この態度に出ているようだ。


優夏はごく自然に、花蓮とあいさつを交わしている。


「…だけど、一輝さんも含めて、少々薄情ですよね…

 特に、永遠の命を持っている人にとって、

 源次郎さんは恩人でしかないのに…

 わずか10年ほどで、

 手のひらを返したように離れてしまうものなんですかねぇー…

 源次郎さんにも、

 越前雛さんにも覚悟がなかったと言えばそれまでですけど」


春之介は視界の端に、後ろを向いて座っている、一組の男女の肩が揺れていることに気付いている。


「…なるほど…

 うちのチームの人間と何も変わりません。

 ちょっと面倒な能力を持っているようですけど、

 それほどでもないですね。

 ダルダイルの石も割れてしまったようですし」


「えっ?!」と源一と花蓮は言って、すぐさま後ろ姿の源次郎を見た。


「ここには4つしか石がありませんから、

 すぐに気づきました」


松崎は苦笑いを浮かべて頭を振った。


「…そんなの、悪でしかないじゃない…」と優夏が嘆くように言うと、花蓮は何度もうなづいて賛同した。


「誰もが成長して巣立っていった。

 自分がずっとみんなの王様でいたかった。

 そんなことができるわけがありません。

 時が経てば、誰だって自分の歩みたい道を歩むでしょう。

 妙な術に依存するから、こんなお粗末な結果になったのですよ」


春之介が少々辛らつな言葉を吐いたが、優夏は喜んでいた。


しかし松崎たちは大いに困惑している。


「…隔離、だな…」と源一は言って、源次郎と雛に結界を張った。


そしてまた別の術を放つと、源次郎がのたうち回り始めた。


「…暗黒宇宙の悪と直接つながってるね…

 あとは、源次郎さん次第だろうなぁー…」


源一は眉を下げて言った。


雛が振り返って燃えるような瞳を源一に向けた。


雛の顔には深い皺が刻み込まれていて、年齢以上に老婆になっていた。


「源次郎さんの部下だった人は、誰も心配していませんね。

 できれば消えて欲しいなどと思っているようにしか思えない…

 なかなかの、薄情者の集まりですね」


春之介は言って、ここに一輝を強制的に連れてきた。


そして事情を説明した。


さらに、「今度は一輝さんが源次郎さんを救う番です」と春之介が言うと、一輝は真剣な顔をして源次郎に歩み寄った。


その源次郎には、黒い焔のようなものが上がっている。


結界内にいる雛は、「…源ちゃん…」とつぶやいて涙を流した。


一輝は神の力を使って結界内に入り込んで、源次郎の肩を掴んだ。


すると、源次郎から黒い塊が沸き上がって消え、源次郎の意識は断たれた。


「…さすが神…」と春之介がつぶやくと、天照大神は大いに悔しそうな顔をしていた。


そして春之介は二本のペットボトルをサイコキネッシスで操ってテーブルの上に置いた。


「水竜の水です」と春之介が言うと、一輝はラベルを確認してから、まずは雛に渡した。


「源次郎が目覚めたら、若返った顔を見せてやってくれ」


一輝の言葉に、「…うん…」と雛はつぶやいてすぐに水を飲んだ。


浸透力に勢いがあり、一瞬にして20代前半の越前雛に変貌した。


一輝は源次郎を支えて上を向かせて、ゆっくりと水を飲ませた。


するとまた黒い霧が噴出したがすぐに収まった。


とりあえず悪いものはすべて出て行ったのだが、この先また溜まれば、今回と同じことになる。


そして花蓮から一輝のパートナーの南条南が飛び出してきて、すぐに一輝に寄り添った。


「…明日は我が身…

 でも、私がああなっちゃったら、

 この宇宙は消え去るわ…」


優夏の言葉に、「…そうなるだろうね…」と春之介は真剣な眼をして同意した。


「…進路は、心の底から当人たちの意思に任せるべきだろうね…

 俺たちは、今が最良の時なのかもしれない…」


春之介の言葉に、「…心底思い知った…」と源一も真剣な眼をして言った。


「…デヴォラルオウが生んだ子は、こんな人ばかりのようですね…」と春之介が眉を下げて言うと、「…まあ… 本意じゃない子ばかりだからだろうね…」と源一は大いに同情して言った。


デヴォラルオウは生んだ父と強制的に夫婦となった。


御座成功太も皇源次郎も、デヴォラルオウが望んで産んだわけではない。


デヴォラルオウの兄であるセイント、現在の結城覇王と添い遂げたかったのだ。


デヴォラルオウの父であり夫は、名前がなかった。


これが全ての元凶だったように、春之介は感じていた。


しかし現在は、転生してから名前をもらってフリージア星で石人形のような姿で、動物として過ごしている。


春之介は松崎に頭を下げた。


「お騒がせしました。

 では帰ります」


春之介言葉に、松崎は、「…ありがとう…」と感情を込めて答えた。



春之介は星に戻ってから、「勇者がふたりいたはずだけどいなかったね」とここで初めて疑問を口にした。


「元いた星にいるんじゃないのかしら?」と優夏が答えると、「そうか、平和の維持も必要だからな…」と春之介は答えて納得していた。


仏の世界の崩壊により、ほとんどの者の能力は奪われ、普通の人よりもかなり強い超人でしかなくなっていた。


さらには松崎に寄り添ったわけではなく、10年前の中心人物になりかけていた結城覇王に寄り添っていたと言っていい。


仏の世界を崩壊させたのは松崎拓生なので、それほどいい感情が沸いていないと春之介は感じていたからだ。


その結城覇王、古い神の一族の第二期の長兄は大きく能力を削られていた。


その元凶は仏の世界にあった虚無地獄だ。


ここに連れてこられた者の魂は、完全に消滅するという、まさに理不尽この上ないものだった。


それが根本にあり、松崎は仏の世界を消し去ったのだ。


当時のセイントとセイラレスの恋愛感情のもつれによりる大げんかにより、ふたりは虚無に落とされた。


その時に妖怪が魂に便乗して、セイントもセイラレスも半妖怪となっていた。


その妖怪を松崎と源一が退治したのはいいが、結城覇王と安藤麗子が廃人となってしまった。


しかし、セイントがバックアップとして当時のセイントと同じ魂を創り出していたので、本来の神の力は復活した。


だが長年の積み重ねは消え失せたので、古い神の一族の中でもそれほどの力はない。


「あー… 一度ここに来たリスがセイントだった…」と春之介は思い出して言うと、「…リスなのに話せるし、それなりの威厳もあったわ…」と優夏はあきれるように言った。


「だが、母星にいるはずの源次郎さんの妹の皇澄美さんと

 雛さんと源次郎さんの息子の大樹さんは、

 どうして何も言わなかったんだろうか…

 これも修行としたんだろうか…

 しかも、かなり危険な存在だったことはわかっていたはずだ…」


「ボールをぶつけてやろうっていう小悪党でしかなかったから、

 放っておいたんじゃないの?

 だからそれほど余裕を持った生活はしてないんじゃ…」


ここまでの話はふたりの想像でしかないし、皇家の話でもあるので、この会話はここまでにした。


しかし、源次郎たちが住んでいた星の現在の様子の確認を春夏秋冬を使ってすると、「…すっごく平和…」と優夏は言って笑みを浮かべた。


「維持が大変そうだな…

 勇者二人が目を光らせて、造反者を捕らえ罰するようにしているようだね。

 星の住人80億人…

 こりゃ、かなり大変だ…」


しかし軍隊などはどこにもなく、危険な武器も存在していない。


物理的で大きな不幸はないだろうと、春之介も優夏も理解した。


源次郎の家はこの星なのだが、仏の世界の崩壊により、強かった仲間たちのほとんどが一般的な人間の生活に戻っていた。


この状態では、この星を維持するだけで、宇宙を旅して星を救うことなど、夢のまた夢だ。


さらには大勢力となっている万有源一の出現によって、源次郎に大いに欲が沸いたと言ったところだ。


「…神話のような神がいないところが、俺たちとは違うわけだ…

 能力者だけで、なんとか維持する必要があるから、

 星を離れられない。

 …管理者は平和じゃないよな…」


春之介のつぶやきに、優夏は真剣な眼をして同意して、天照大神たち神を抱きしめた。


「…力の上乗せをする術はよくないのかもね…

 それを使う時は、生死を分ける戦いのみ…

 危ういと思ったら逃げることが精神修行…」


優夏のつぶやきに、春之介は笑みを浮かべてうなづいた。



「春夏秋冬、もうひとつの面倒事…」


春之介の言葉のに、ランス・セイントのプロフィールと現在の様子を映し出した。


「…んー… 万有様に相当面倒になっているようだから、別にいい」と春之介が言うと、「…牙の折れた魔王は、あまり興味ないわ…」と優夏は言って、春之介の意見に同意した。


「だけど、結城覇王はまだしも、

 松崎拓生とは話をしてもよかったんじゃないの?」


優夏は大いに興味を持って春之介に聞いた。


「…あのね…」と春之介が眉を下げて言うと、優夏はすぐに気づいて、「時と場所を考えろ…」と言って苦笑いを浮かべた。


春之介としては松崎拓生には大いに興味があった。


だができれば、松崎がこちらに出向いてもらえば一番いいと思っているようだ。


興味があるなどという単純なことではなく、できれば、お近づきになった方がいいと思っているからだ。


「ボスが一番の大物。

 しかも、特に部下は必要ない。

 できれば万有様と切り離して、

 別の星を与えて、好きに過ごしてもらいたいほどだよ…

 今までに出会ってたんじゃないの?」


春之介の言葉に、「…うっ…」と優夏は小さくうなってうなづいた。


「結城覇王と安藤麗子は、源次郎さんに引き渡してもいいほどだけど、

 このふたりの方が松崎さんに忠誠を誓っているからね…

 うまくいかないもんだよなぁー…

 出会った当時はどんな感じだった?」


「…うー…」と優夏はさらにうなり始めたので、春之介は大いに苦笑いを浮かべていた。


優夏の今の立場が少々まずくなるような付き合いだったのだろうと思って、春之介はこれ以上は聞かないことにした。


「…優夏のせいで親交を深められないようだね…」と春之介が笑みを浮かべて言うと、「…ほんと、もったいないわぁー…」と優夏は他人事のように言って苦笑いを浮かべた。


「違うかもしれないけど、

 万有様と同じような目にあった、とか?」


「…教えたげなぁーいー…」と優夏はかわいらしく言った。


春之介は何度もうなづいて、「ぶん殴ったら昇天してしまって、大いに後悔した、とか…」とひとりことのように言った。


「…弱いからきらぁーい…」と優夏はさらにかわいらしく言った。


「俺の場合、直接殴られてないからなぁー…

 殴られていたら松崎さんと末路は同じ。

 だけど違うのは、俺を殴るか星を殴るか…」


「…あー、よかったっ!」と優夏は言って、春之介の右腕に抱きついた。


最終的な結果はほとんど同じだが、私怨はないことになるので、扱いとしては格差がある。



「…あのぉー… 春之介様ぁー…」と冬美が申し訳なさそうにして、背後から声をかけた。


その手にはタブレットが握られていた。


「あ、反応があったようだね」と春之介は笑みを浮かべて言った。


冬美はすぐに春之介にタブレットを向けると、すぐさま悪魔三人が冬美の隣に立っていた。


「ご両親の反対を押し切った悪い子」


春之介が三人の少女悪魔に向かって言うと、三人とも眉を下げて小さく手を上げた。


しかし優夏はもうすでに三人を子供にしたようで、三人を一挙に抱きしめた。


「…俺がご両親に叱られるんだけどなぁー…」と春之介は芝居なしに言うと、「…うう…」と優夏もすぐに反応して、三人と同じように眉を下げた。


「ここは、さらって来た責任として…」と春之介は言って電話を始めた。


三人の少女の悪魔は、少し飛び上がるようにして喜んで、優夏の腕をしっかりと握りしめている。


「人間はめんどくさいよね…」とゼルダが言って、春之介の頭上で素早くホバリングして翼をたたんでから肩に止まると、三人の少女はすぐさまゼルダに頭を下げた。


「よくぞ見抜いたって感心したからよ」と優夏は控え目な声で言うと、「…よかったぁー…」と三人の少女はほぼ同時に言った。


書き込みも同じようなもので、『えらいコウモリさん』というワードが入ってた。


よってミラクルマンではなく、ゼルダの従者としてこの星に来たかったようだ。


もちろん、ミラクルマンと優夏とともに生活したい想いは大いにある。


そして天照大神もやって来て、「バットちゃんは通いよ」というと、「…はいぃー…」と三人の真ん中にいた、バット・ミスタはすぐに答えてうなだれた。


「みんなに怖がられてるんだから、ここで暮らしたっていいじゃん…」とゼルダがフランクに言ったが、様々な状況を考えて三人はそれほど喜ばなかった。



春之介は三件の電話を終えて笑みを浮かべた。


「君たちの動物たちに感謝した方がいいぞ」


「はいっ! ミラクルマンッ!!」と三人は叫んで、肩の上にいる小動物たちをやさしくなでた。


もちろん、三人のそれぞれの肩にはコウモリがいる。


よって少女たちは動物から得た情報をメールに認めたのだ。


三匹のコウモリたちがゼルダに頭を下げまくっているので、春之介は少し笑った。


「聞いたと思うけど、バット・ミスタは通いだが、

 今日は泊っていいそうだ」


春之介の言葉にバットは大いに喜んで礼を言った。



「ムッ!!」とゼルダがいきなりうなった。


「なんか来たね…」と春之介が眉を下げると、「大気圏に入れないようにしたからいいんだ!」とゼルダはかなり怒って言った。


春之介は笑みを浮かべてから、春夏秋冬に宇宙船との通信回線を開かせた。


モニターには少年が映っていて、大いに眉を下げていた。


「星の持ち主が拒否しました。

 お初にお目にかかりますが、どなたです?」


「…あー…」と桜良がため息をつくように言って映像を観ている。


「…御座成、翔樹と言いますぅー…」と申し訳なさそうに言うと、「まあ、商売人ですから、欲があって当然ですが、ここの掟ですので、この星にお迎えすることは叶いません」と春之介は言って、面会を断った。


「…エサを渡して、大物を釣ろうって思ってるんだよ…」とゼルダがかなり怒って言うと、翔樹は大いに戸惑っている。


「込み入ったお話があるのなら、次にフリージア星に伺う時にでもどうです?」


春之介の進言に、翔樹は、「は、その時に… どうかよろしくお願いします」と答えたので、春夏秋冬は回線を切った。


「エッちゃん、何が欲しいって思う?」


春之介の言葉に、「高級なお人形… それに、また別の商品の提案にも来たんじゃないのかなぁー…」と桜良は答えた。


高級着せ替え人形は一万セット程しか造っていないので、その催促もあるだろうと春之介は察した。


「抱き人形とかぬいぐるみ…

 もしくはそこから離れた商品、とかかなぁー…

 何かそのヒントってない?」


春之介が春夏秋冬に聞くと、その候補の映像を出した。


すると、大勢の子供たちが一瞬にして集まってきたので、春之介は少々考えてから、子供たちが見入っているものを創り上げた。


「仲良く見るんだぞ」と春之介が言うと、「はいっ! ミラクルマンっ!!」と子供たちは素晴らしい返事をして、この星に住む動物たちの立体図鑑をまじまじと見入り始めた。


さすがにひとつでは足りないようだったので、追加で5個創って渡した。


「…生態とか、よく調べたね…」とゼルダが言うと、「できれば嫌われたくないからね」と春之介は笑みを浮かべて答えた。


「…まさか… 人身売買…」と桜良がつぶやくと、「誰も外には出さないわ」と優夏はごく自然に言って、お気に入りのペンギンに抱きついた。


「子供向け商品が多いね。

 あとはキャラクターのカバンに洋服、か…

 …あ、これかぁー…」


春之介は言って貴金属類を見入った。


「誰かがペラペラと話したのね…」と優夏が少し怒って言うと、「今は、どんな感じなんだろうか…」と春之介は大いに興味を持って、椅子から降りて地面に手を付けて地中を探った。


「…あ、ダメだ、ひとりじゃできない…」


春之介の言葉を聞いてすぐに、優夏が覆いかぶさるように春之介を抱きしめた。


「じゃ、じっくりと創るから」と春之介は言って、丁寧に作業をして、約二分後に、仰々しいリングケースを出した。


「…腹減ったぁー…

 だけど、前ほどじゃない…」


春之介は言って優夏にリングケースを手渡すと、優夏はすぐにケースを消して厨房に立った。


「…優ちゃんのマネしなきゃいけないぃー…」と春菜はうなるように悔しそうに言った。


春之介と優夏はテーブルについて楽しみながら食事をした。


ほかの者たちは春之介が創り上げたリングケースの中身が大いに気になっているようだが、ここは大いに我慢した。


「…あー、うまかったぁー… ごちそうさま」と春之介は優夏に言って頭を下げた。


優夏ははにかんだ笑みを浮かべて、リングケースを出して春之介に渡すと、春之介は笑みを浮かべて受け取って、優夏に向けてリングケースを開けた。


「…ああ、すごいぃー…」と優夏は言って、リングをまじまじと見ている。


春之介はリングを手に取って、優夏の左手の人差し指にリングをつけた。


「…ああ、本当に素晴らしいわぁー…」と優夏は感慨深く言ってから、黒い物体に変身して、まだリングを見入っている。


もちろん、この場にいた全員が席を立って退避したので、誰もリングを鑑賞することができない。


春菜だけは何とか頑張ったのだが、そばにいることは叶わなかった。


「…なにも、変えないから…」と黒い物体がつぶやいてから優夏に戻った。


「それが一番いいことだと思う」と春之介は笑みを浮かべて答えた。


「宝石が外れることもリングに傷がつくこともないから。

 人を殴る時は注意しないと、相手が簡単に昇天するから」


「…拳では殴らないわぁー…」と優夏は言って、まだ指輪を見入っている。


そして優夏はついに、春菜から順に見せびらかしに回った。


もちろん、「結婚指輪よ!」と堂々と言っている。


「…結婚したいけど相手がいないぃー…」と春菜は大いに悔しがって言った。


「あら、彼氏に創ってもらわないと…」と優夏が言うと、―― その通りかもしれない… ―― と春菜は思って言い返さなかった。


すると真由夏が浩也を素早く見入ると、浩也は大いに苦笑いを浮かべて首を横に振った。


「三人だったらどうだろうか…」と春之介が言うと、「お兄ちゃん! お試しの確認で!」と浩也を引っ立ててやってきた。


真由夏は浩也と春之介にしがみついた。


「…ん? ああ、これは… かなり難しい…

 だけど楽はできそうだ」


春之介の言葉に、真由夏は大いに喜んで踊り狂っている。


「難しい部分」と春之介が言うと、真由夏はすぐに春之介に笑みを向けた。


「ふたりのレベルをきちんと合わせて欲しい。

 まあこの場合、

 真由夏の想いに兄ちゃんが合わせるべきだろうね」


「…修行のようなものだな…」と浩也は苦笑いを浮かべて言うと、早速真由夏はどうすればいいのか考え始めた。


「…なかなかえらいね…」と春之介は小さな声で言った。


「うん、えらいって思う…

 普通はお兄ちゃんに聞くもんだから…」


ゼルダの言葉に、「意地を張っていないところが素晴らしいね」と春之介が言うと、「あ、それが一番だ!」とゼルダは陽気に言った。


「…ふむ…」と春之介は言って、席を立って厨房に行ってから、冷えてもうまい料理をかなりの数造って、テーブルに置いてから、また瞑想を始めた。


「…よっし、できた…」と春之介は言って、ゼルダの両足首に円筒形のリングをはめた。


「うお! うお!」とゼルダは叫び、春之介の肩の上で飛び跳ねたが、春之介はお構いなしに料理を食べ始めた。


「…何もかも、簡単にできる自信が沸いたぁー…」とゼルダはうなってから大人しくなった。


「自信もあるんだろうけど、実際に能力が上がるから。

 特に術者には装飾品は必需品だから」


春之介の気さくな言葉に、「…そうだったんだぁー…」とゼルダは感慨深く言ってから怯えた。


春菜がまじまじと、ゼルダの足環を見入っていたからだ。


「大家さんを驚かせるんじゃない…」と春之介が眉を下げて言うと、「…私って、コウモリ以下の存在…」と春菜は言ってうなだれた。


「今のこの星の現状からみて、

 順当だと思うけど?」


春之介の言葉には春菜は一応は納得したが、釈然としない部分もあるようだ。


「翔樹君が欲したのはこのジュエリーが本題だったと思う。

 だけど、市販品として創るつもりはさらさらないから。

 …あまりやりたくないけど、春菜に仕事を依頼するよ…」


「…見つけてくればいいんだなぁー…

 手足、もぐか?」


春菜は大いに気合を入れて黒い物体に変身した。


「反省だけさせればいいから…」と春之介が眉を下げて言うと、春菜に戻ってから秋之介を抱いて夏介の手を取って社に入って行った。


もちろん、春之介のリングの存在をリークした者に罰を与えるためだ。



ほんの10分後、春菜は宇宙船に乗って戻ってきた。


そして白目をむいている花蓮を地面に転がした。


「…王女様だったかぁー…」と春之介は大いに苦笑いを浮かべて言った。


すると源一が花蓮から飛び出してきて、春之介にひたすら謝った。


「…初めてぶん殴るのが、万有源一だったとはなぁー…」と優夏は言って、黒い物体に変身して源一に指輪を見せつけた。


「…うっ!!」と源一は叫んで、胸を押さえつけて、地面に両ひざをついた。


「やりすぎだ…」と春之介は言って、魂たちにお願いして源一の気付けをした。


「後ろめたさがある分、手加減しろよ…

 しかも、万有様は何も知らされてなかったんだぞ…」


春之介の言葉に、黒い物体は優夏に戻って、「やっちゃったっ!」と桜良のように明るく言って、自分の頭に拳を落とした。


「でもでも、夫婦両成敗…」と優夏はアイドル口調でかわいらしく言うと、春之介は苦笑いを浮かべて優夏を見ただけだ。


「野球の試合、できなくなるぞ…」と春之介がいうと、「…それは困るぅー…」と優夏はすぐに答えた。


もちろん場所を変えてもいいのだが、大勢の人を集めて面倒がない場所はフリージア星しかないのだ。


警備も何もかも任せられるので、野球をする場合は雇われている方が都合がいい。


優夏は源一を叩き起こしてから誠心誠意謝ったが、―― この態度はどうだろう… ―― と春之介は思って眉を下げた。


ここは春之介の手料理で、源一と花蓮をもてなした。


非は花蓮にあるので、源一が大いに謝った。


もちろん花蓮はいろんな意味で落ち込んでいた。



春之介たちは最終的には朗らかに談笑してから、源一と花蓮は帰って行った。


「…ご褒美ぃー…」と春菜がさっそく催促してくると、優夏が春菜を後ろから羽交い絞めにして、春之介の肩に手を置いた。


「うん、十分だ」と春之介は言って、すぐさまリングを創り出し、優夏に渡して、残っていたご飯を握り飯にして食べた。


「…なんか、それほどいいものじゃないようなぁー…」と春菜は言って、優夏から指輪をもらって、「…また小指用…」と言ってうなだれた。


「叔母さんだもの…」と優夏が全く説明できないことを言うと、春菜はさらに落ち込んだが、左手の小指にリングをつけると背筋が伸びた。


優夏は陽気に拍手をしている。


春菜はリングを見て、「…全然違う…」とうなるように言って、小指のリングをまじまじと見入った。


「大いに仕事に生かして欲しいね」


春之介は言って、大口を開けて握り飯を口に放り込んだ。


「…無謀なことはできないようになってるわ…

 リミッター?」


春菜の言葉に、「…あー、そういうのもあるのかもぉー…」と優夏は今更ながらに言って、目尻を下げて指輪を見入った。


「星を壊されるとたまったものじゃないからな」


春之介の言葉に、「はい、ごめんなさい」と優夏はすぐに謝った。


「だから、花蓮様には必要かもね。

 宇宙の母の能力を上げて、

 無碍な懲らしめはしない。

 そうすれば、優夏が宇宙の母にならずに済むから」


「あ、都合のいい時に」と優夏は言って笑みを浮かべた。


「それから、本来の能力を確認したい時、

 外さなくても消せるから」


春之介の言葉に優夏がすぐに反応して指輪を消してまた出した。


「あー、便利だぁー…」と言って、また指輪を見入った。


「指輪に依存しないように鍛え上げて欲しいね。

 できれば野球の試合中は消しておいた方がいいかもな」


「失くすことがないからそれがいいわ」と優夏は陽気に言った。


「…魔法の増幅器ってわけじゃないのね…」と春菜は感慨深く言うと、「増幅というよりも蓄積、だね」と春之介が言うと、「…あー… そうだぁー…」と春菜も優夏も言って納得している。


そして一気に解放できないので、無謀な考えを持っていても本来の術よりも弱いものしか放てなくなるのだ。


花蓮は嫌がるかもしれないが、源一は必ず賛同すると春之介は考えてる。


そして指輪ごと消すことが可能なので、縛り付けるわけではない。


まさに画期的な魔法道具でもあるのだ。


春之介はまた厨房に立って、とんでもない量の料理を作ってテーブルに並べて、子供たちを呼んで抱きしめてから、女子には指輪を、男子にはブレスレットを創ってつけさせた。


見た目は同じだが、悪魔と天使にはまさに優夏と春菜に渡したものと同じ効力があるものを創っていた。


春之介は食事をしながら装飾品を創っている。


ここは悪魔も子供たちも天使たちも号泣しながら春之介に寄り添った。


まさに、親子の絆の逸品に、優夏はさらに子供たちをかわいがった。


大きさは違うが、「おんなじぃー…」と女の子たちは言って優夏に抱きつく。


そして悪魔たちには念話を使って簡単にレクチャーをした。


「…お兄ちゃんって、子供たちには甘いわ…」と真由夏は言って眉を下げた。


「わかりやすい家族の絆じゃないか…」と浩也は眉を下げて言うと、「ちょっと、嫉妬しちゃった!」と真由夏は陽気に言った。



「おー… 働いたぁー…」と春之介はうなってから、残った料理を黙々と食べ始めた。


子供たちは満面の笑みで春之介を囲んで、雄々しき優しい父を羨望の眼差しで見ていた。


特に悪魔たちはおもちゃではないことは十分に承知しているので、さらに気合が入っている。


まだ子供だが、春之介に認められた仲間でもあるのだ。


春之介と優夏は大勢の子供たちと風呂に入ってから就寝した。



「…いつもひとりというのもどうなんだろ…」と春之介はつぶやいて、少々近代的な街中にある公園の木陰にいた。


いつものように、現在は夢見中だ。


「皇源次郎の星、地球だよ」と春夏秋冬が言うと、「地球… このネーミングが多いけど…」と春之介が一番の疑問を言った。


「フリージアはネーミングとしてつけたようだけど、

 ほかの星の名前の意味は全部地球だから」


「…納得だ…」と春之介は言って苦笑いを浮かべて春夏秋冬の頭をなでた。


「源次郎さんから仲間を取り上げないようにしないとなぁー…

 今回はまさに修行だなぁー…」


春之介は少し気合を入れながらも、その対象者を探した。


「今までここにいたような…」と春夏秋冬が言って、「ああ、いたな… 多分勇者だ」と春之介は答えて、この辺り一帯を子細に探った。


「意味不明の者が現れたから隠れたってところだね。

 勇者と能力者…」


そして春之介は正確にその場所を見入って、「八丁畷春之介と言います」と名乗ると、勇者と能力者は目を見開いて姿を現した。


「驚いてしまいました」と春之介と同年代の男性が、春之介に握手を求めたので、快く握手を交わした。


春之介はすぐさま事情を話して、「…今回は俺たちの何かが変わるんですね…」と皇大樹は眉を下げて言った。


影を通じで情報は仕入れていたようで話は早かった。


大樹の傍らにはかわいらしい少女がいる。


確実にデート中だったと春之介は思って、「邪魔をしてごめんなさい」と春之介が言って頭を下げると、「…今回が私たちだったなんて、信じられませんー…」と姿通りのかわいらしい声で言った。


「申し訳ないんですが、あなたの情報が何もありません」と春之介が言うと、「御陵クレオです」と大樹が紹介した。


春之介は改めてあいさつを交わして、「…勇者だったのに後退してしまった…」とつぶやくように言うと、クレオは悲しそうな顔をしてうなだれた。


「何かがすっぽりと抜け落ちてますね。

 常識的に考えて、仏の能力部分…」


春之介の言葉に、「…やはりそうだったのですか…」と大樹は言ってクレオを見た。


「大樹さんはその仏の術の部分を自分のものにできていたようです。

 ですので能力は何も変わっていないと思います。

 クレオさんはそれができなかった…

 大樹さんに少々甘えすぎなのでは?」


春之介の少し厳しい言葉に、「…私のせいだった…」とクレオは自分の甘さを後悔して、悲しそうな笑みを浮かべてうなだれた。


「ですが、能力者には変わりありませんから、

 誰よりも勇者に近いです。

 ここからは甘えず、大いに鍛え上げてください。

 勇者がふたりと三人とでは大いに違いますから。

 そして、酷なことを言ってもいいですか?」


春之介の言葉に、「…武者修行に出せと…」と大樹が言って悲しそうな目をクレオに向けた。


もちろん、クレオも大いに戸惑って大樹を見上げた。


「いろんな意味で逆効果かもしれませんが、

 万有源一様にお願いすることが一番です。

 心がけ次第で、明日にでも返り咲けるかもしれません。

 あ、決して甘いことは言っていませんよ。

 万有様にはそれほどの力があると言っているんです。

 もうひとりいます。

 それは松崎拓生様です。

 ですがさすがに、元の仲間がいる星を勧めることはできません」


「…ああ…」とクレオは一旦は喜んだのだが、しおれるように悲しそうな顔をしてうなだれた。


「…その感情がダメなんじゃないか…」と大樹が眉を下げて言うと、「…すごい人たちしかいないから怖いもぉーん…」というクレアの言葉に、春之介は大いに笑った。


「勇者を解かれたことがさらに心細くさせてしまったようですね。

 特に無理は言いません。

 あとはクレアさんの心次第でしょう」


春之介はまだここから消えない。


よって、何かを言ってクレアを納得させる必要があると考えた。


「俺にとっても修行になってしまった…」と春之介はうなるように言って考え始めた。


「…ご迷惑をおかけします…」と大樹は言って頭を下げた。


「いえ、これも俺の試練ですから、

 迷惑などと思っていません。

 あ、俺の部隊と合流するというのもなしですから。

 源次郎さんがまた荒れるので…」


「…さらにご迷惑をおかけしていました…」と大樹は申し訳なさそうにして頭を下げた。


春之介は形式だけ頭を下げて、「誰か見込みのある人がほかにいませんか?」と春之介が言った途端、全く別の場所に飛ばされた。


「…中途半端…」と春之介が苦笑いを浮かべて言うと、春夏秋冬は愉快そうに笑った。


「ベティーさんの息子の皇虎次。

 虎と人間の半獣人だよ」


春之介の言葉に、「あ、それはいいね!」と春之介は陽気に言った。


そして辺りを見回した。


「…暗黒宇宙…」と春之介はうなるように言った。


まさにそれに近い星で、地表面は大いに荒れていた。


空の色が灰色で、暗黒宇宙に近い場所だろうと春之介は察した。


そして戦争の嫌な臭いとさらに輪をかけた腐敗臭が辺りに立ち込めている。


「…助けろとでもいうのか…」と春之介は大いに嘆いてから、考えることなくこの星の魂たちに訴えた。


すると、この辺りだけ雰囲気が変わっていた。


多くの人が倒れていたのだが、わずか三名しかいなくなっていた。


死体などはすべて土に返ったということでよさそうだと思い、女性二名と男性一名を宙に浮かべてそろえて並べた。


「できれば連れて帰りたくないね…」と春之介は言って、獰猛そうに見える三人の獣人を眉を下げて見入った。


三人は目覚めそうになかったので、食料だけを置いて、戦いのある場所に向けて歩き始めた。


しばらく歩くと、また同じような場所に出たので、魂たちにお願いして回った。


すると今度は、かなり広範囲に大地がきれいになったと春之介は感じた。


「…協力者が増えた…」


春之介は歩き出そうと思ったが、それは叶わずに、また別の星に飛んでいた。


「…今回もまた中途半端…」


「戦い、終わったんじゃないの?

 魂たちが止めて回った、とか…」


春夏秋冬の言葉に、「そうあって欲しい」と春之介は言って笑みを浮かべた。


今回はそれほど何もない場所に出たが、人の気配はする。


「…ここかぁー…」と春之介は言って大いに苦笑いを浮かべたが、春之介が嫌がった者は就寝中のようだ。


そして唯一起きている女性を見つけて、「こんばんは」と春之介は穏やかにあいさつをした。


女性は目を見開いて、「…どうやって…」と言って目を見開いた。


「夢見屋です」と春之介が言うと、女性はけらけらと陽気に笑った。


「雷竜、サラ・セイント様」と春之介は言って頭を下げた。


「今回のターゲットはたぶんあなただと思いますけど、違うかもしれません。

 ここでランス様が起き出すと、

 俺はここから立ち去れなくなるかもしれませんね」


「…鉄槌、落とすから…」とサラは恥ずかしそうにひどいことを言った。


するともう終わりのようで、また別の星にいた。


「…自主性を出せ…」と春之介がつぶやくと、「…多分そうだろうね…」と春夏秋冬はあきれ返って言った。


「俺が気にしていた星ばかりに飛ぶね…

 まあ、この星がこの夢見の本題のようだけどね…」


春之介は言って、目を見開いて春之介を見上げている少女に笑みを向けた。


「天使ちゃん」と春之介が笑みを浮かべて言うと、「ピノ、ですぅー…」と言った瞬間に、寝室の天井を見ていた。


春之介は術を使って、春之介にしがみついている子供たちを移動させて、まさに天使でしかないピノを見入った。


その頭にはエンジェルリングが燦然と輝いていたからだ。


「例のチノさんの双子の天使?」と春之介が言うと、「わかんないけどね、転生していたと思うんだ」と春夏秋冬が答えた。


天使チノは今は桜良の赤ん坊になってしまった御座成功太の関係者で、関係は血のつながっていない親子だった。


現在は源一の元で、御座成功太と縁の深い母である元悪魔デヴィラの配下として星の復興に従事している。


デヴィラは数々の修行の末、ついに悪魔を脱ぎ捨てて、全く別の種族の次元解として生まれ変わっていた。


しかしこれが本来の姿だったようで、デヴォラルオウの呪いによって悪魔にされていたそうだ。


「まさに、本物の天使」と春之介は言って、ピノをやさしく抱きしめた。


すると寝ぼけ眼の優夏がピノをやさしく奪って抱きしめてからまた眠った。


春之介は、―― やれやれ… ―― と思って寝室を出て、朝食の準備を始めた。


するとメイド長の真由夏がすぐにやって来て、「大騒ぎになるわよ」と眉をひそめて言うと、春之介はくすくすと笑って、料理を作り始めた。



「春之介っ! 天使を生んだぞっ!!」と優夏が大いに高揚感を上げて、寝ぼけ眼のピノを抱いて外に出てきた。


「んなわけないだろ…」と春之介がいうと、春夏秋冬がその時の状況の再生を始めた。


「…春之介が生んだ…」


「それも違う…」と春之介はあきれ返って言った。


「…連れ去りライバル…

 今回はかなり強敵だぁー…」


春子がうなると、「みんな一緒だぞ」と春之介は言って春子の頭をなでた。


「…うー… かわいいし叱られちゃうぅー…」と翔春が言って眉を下げていた。


ピノは天使で、翔春は堕天使相当なので、まさに翔春の上司になることは確実だ。


ピノは何とか優夏から逃れて、起きてきた者たちに陽気にあいさつしている。


まさに分け隔てないところが天使でしかなかった。


しかし翔春の杞憂は簡単に過ぎ去った。


「すごいすごい!」とピノは叫んで翔春に抱きついたからだ。


ここはお互い穏やかにあいさつしをして、もうすっかり姉妹のようになっていた。


「…天使の統率がさらに取れた…」と春之介はつぶやいて喜んでいる。


「…忙しかったようね…」と優夏は言って、春之介の目の前にあるかなりの量の料理を見入った。


「…いろいろあったぞ…」と春之介は嘆くように言って夢見の内容を話した。


「…雷竜はガンデがいるから必要ないけど…」と優夏が言うと、「まあ、何とかして来ようとするだろうね…」と春之介はため息交じりに言った。


「今日は星の復興に出るから邪魔されるかもな…」


「問題ない」と優夏は胸を張って言ってから指輪を見つめた。



「いってらっしゃぁーいっ!」という、大勢の子供たちに見送られて、春之介たちを乗せた宇宙船は星の外に飛び出した。


「ふんっ!」と優夏が一声気合を入れた。


「宇宙船二隻消失…」とクルーの情報管理官のジャスミンが苦笑いを浮かべて報告した。


「どこの船?」と春之介が眉を下げて言うと、「ランス軍と、世界の騎士団の船籍でした」とジャスミンが答えた。


「バカじゃないだろうからもう来ないだろうね…」と春之介は言って、今日の仕事先の指示を出した。


星をひとつ救ったあとに、春夏秋冬が出している、宇宙の空気の状態の確認をして、「少々早いかもしれないけど、一度行っておこうか…」とつぶやいてから、「進路、暗黒宇宙!」と気合を入れて言い放った。


「了解っ!!」と船長のミラルダも気合を入れて答えた。


宇宙地図を見上げている春夏秋冬が、「あ、この星だよ!」と指をさした。


名前はなく、便宜上、『ANK212TB23UE003』という符号の星を指さした。


ジャスミンはすぐさまその星の情報を映し出し、「…比較的、平和です…」とあ然として答えた。


「昨日の夢見と同じことを試すから、近くの別の星…」と春之介は言って、ここから10光年ほど離れた星を指示した。


春之介は比較的生体反応がない小さな大陸に宇宙船を移動させて、魂たちに語り掛けた。


春之介は目を開いて、「…諦めてる…」と言って苦笑いを浮かべた。


「…ふーん、怪獣のような獣が戦ってるな…

 人間たちは逃げまどうばかりだ…

 魂までもが凍り付く、か…」


優夏はつぶやくように言って、両手のひらを地面につけて、「はっ!」と短く気合を入れた。


「…おっ いけるか…」と春之介はつぶやいてからまた魂たちと交信を始めて、化け物たちの動きを止めることに成功した。


「一時的な対策でしかないけど、

 化け物と人間を引き放す」


春之介の決意の言葉に、「おうっ!」と仲間たちは大いに気合を入れて答えた。


一番大きな大陸に化け物たちを飛ばし、次に大きな大陸に人間たちを飛ばした。


獣たちはさらに戦い始めたが、人間たちはほっと胸をなでおろしていた。


春之介たちは多くの人々が生活できる環境を創り出して、この星の状況をさらに見据えた。


「いいんじゃない?」と優夏が明るく言うと、「これ以上は過保護だな」と春之介は言ってから、宇宙船を大気圏外に飛ばして、夢見で行った星に移動させた。


ここからは体力仕事で、大きな空き地があり条件がいい場所だけに農地を造り上げた。


様々な場所で大いに高揚感が上がった。


作業を終えて宇宙に飛び出して、春之介はまた、宇宙の空気の様子を探った。


「100年ほどはこれでよさそうだね」という春之介の言葉に、「十分だって思う…」と春夏秋冬は眉を下げて答えた。



今日の仕事はこれで終わって、ゼルダの星に戻った。


子供たちも勉強から解放されていて、泥だらけの春之介たちに寄り添って、「おかえりなさいっ!」と感情を込めて叫んだ。


「…きれいにしない方がいいこともある…」とピノは言って笑みを浮かべた。


まさに働いてきた証拠のようなものなので、ピノは春之介の指示通りに、作業員たちに対しては拭去の術は使わなかった。


しかし、仕事が終わった宇宙船はまるで新品のようになるまで術を放った。


現地での人命救助と宇宙船の清掃が、天使たちの主な仕事となった。


春之介たちは子供たちと風呂に入って、遅い昼食を摂った。


悪魔たちはこっそりと集合して、春夏秋冬が出している小さな映像を見入って今後の糧としている。


そして誰もが指輪やブレスレットに笑みを浮かべてなでた。



緑竜春子は大勢の子供たちを従えて花壇の整備を始めた。


もちろん、先生や大人たちも巻き込んで、まるで現場監督のように指示を出す。


しかし子供たちはみんな満面の笑みで花壇づくりを楽しんでいる。


さらには農地に移動して、雑草などを抜いたり、乾燥した実を石臼で曳いたりと忙しい。


そのご褒美として、おやつと言わんばかりに甘い果実にかぶりつく。


まさに子供たちは、―― ここって、天国… ―― と誰もが思っていた。


その作業はそれほど甘くはないのだが、子供たちはそれに気付いていない。


辛いことが気付かない程に楽しいのだ。


さらには春之介たちが野球の練習を始めると、一斉に透明のボードで守られている簡易スタンドに走って応援をする。


そして誰もが野球好きになっていた。


特に子供でも悪魔たちは大人顔負けの動きができるのだが、ここはぐっと我慢した。


しかし、「悟! マリン!」と春之介が叫んで大きなポーズで手招きをした。


ふたりはすっ飛んで行きたかったが、ここは子供レベルの早さに抑えて走り、春之介に寄り添った。


「まずはふたりに助けてほしんだ」と春之介は言って頭を下げた。


ふたりは礼を言うよりもまずは号泣した。


最後まで言わなくてもわかっていたのだ。


ゼルタウロス軍はメンバーが12人しかいない。


ふたりが入ることで、余裕ができることは確実になる。


悟もマリンもすぐに涙をぬぐって、「よろしくお願いします!!!」と目一杯叫んだ。


ふたりはまだ12才程度の少年少女でしかないが、体の大きさとその体力を春之介が調べて抜擢したのだ。


人間の超人レベルであれば、その力は出せると判断して仲間に加えた。


もちろんほかの悪魔たちも望みは捨てていない。


このゼルダの星に呼ばれている悪魔の中で、体力的にはふたりが秀でていたことはわかっていたのだ。


自分自身がグランドに立つ日を夢見て、悪魔たちは仲間たちの応援を始めた。


「…あら、みんなすごいのね…」と優夏は子供たちの背後から言って、全員を抱きしめた。


ほんのわずかだけでも我慢すれば、このように褒美がある。


しかも全員、同じように褒美をもらえるのだ。


―― ミラクルマンや優夏ちゃんのようになりたい! ―― と子供たちはさらに心に決めていた。



そして子供たちのライバルがこのバカでかい球場に現れた。


「…おいおい嘘だろ…」と春之介の級友であり球友たちが大いに嘆いて大いに苦笑いを浮かべている。


「新ルール」と春之介はひと言で説明すると、「やってやるぞっ!!」とキャプテンの真鍋が叫んで、高校球児たちに気合が入った。


早速練習試合が始まって、「キャッチまでが遠いぃー…」と真鍋は大いに嘆いたが、ここは全力で投げ込む。


『キィ―――ンッ!!!』と一太のバットの快音が轟いたが、外野フェンスの手前で失速して、ライン際の守備についているレフトがわずかに下がってキャッチして大喜びしている。


この野球の最大の敵は空気抵抗だと誰もが理解した。


まさに打たせて捕る、塁を溜めて得点するしかない野球に、誰もがのめり込んだ。


しかしさすがに守備範囲も走塁距離も長いので、人間としては顎が上がってくるが、ここは持ち前の根性をもって、なんとか5回を終えた。


人間は敵も味方もふらふらになってその場に倒れ込んだが、満面の笑みを浮かべていた。


「8対ゼロ…

 なかなか野球らしい試合だね」


春之介は上機嫌で言った。


もちろん、悪魔ではあるがまだまだ体力が足りない悟とマリンも肩で息をしている。


「…人間なのに普通じゃない…」と悟は言って、グランドに倒れている仲間たちを見まわした。


「ミラクルマンのお仲間さんたちですもの…」とマリンは悟に同意して笑みを浮かべた。


「…浩也さんは根性で立ってるね…

 能力者でも楽じゃないのに…」


悟は言ってから、春之介の指示で、転がっている仲間たちを抱きかかえて柔らかい芝生に寝かせた。


悟は一番最後に浩也に駆け寄って肩を貸した。


「…少しは人間っぽく振舞った方がいいぞ…」と浩也に言われて、「…あはは、そうでした…」と悟は今更ながらに言ってから、浩也を芝生に寝かせた。


「…ありがとう… あー、最高だぁー…」と浩也は言ってから背伸びをして、笑みを浮かべて瞳を閉じた。


その隣で浩也の弟の努はブランケットに包まれていて、もうすでに眠っていた。


「…同年代で、きちんと試合にも出ていた…

 努君もすごい…」


悟は大いに感心していた。


「一回程度なら十分に使えそうだ」と春之介が言うと、「悔しいでしょうけどね…」と悟は言って春之介を見上げて笑みを浮かべた。


「夜はその体力づくりだ。

 ひと月後には使い物になるさ」


「はいっ! ミラクルマンッ!!」と悟は大声で叫んだがすぐに手のひらで口を押えて辺りを見回した。


「誰も起きないから気にすることはないさ」


自力で動ける者はその足で風呂場に行った。



「戦ったのっ?!」


春之介たちが風呂から上がると、ジュレが挨拶代わりに春之介に向かって叫んだ。


もちろん優夏たちに聞いていたのだが、ここはあえて自己主張したようだ。


「練習試合だよ」と春之介は眉を下げて答えた。


「…スコア…」とジュレは機嫌が悪そうに聞いてきたので、「5回8対ゼロ」という春之介の回答に、「…ありえない…」とジュレは大いに嘆いた。


「基本はできているから。

 俺の打率も随分と下がった。

 だけど、人間向きの野球じゃないことは確かだね。

 見て楽しむ野球だろう」


「…試合、見せて…」とジュレは眉間に皺を入れて言って、誰が見ても大いにご機嫌斜めだ。


春夏秋冬が記憶媒体をジュレに渡すと、ジュレは仲間たちとともに芝生に腰かけて、3Dモードで観戦を始めた。


「怖い女勇者様だ」と春之介は言って少し笑った。


「嫌なことでもあったんじゃないの?」と優夏が聞くと、「まあ、あったんだろうなぁー…」と春之介は答えてランスとサラの顔を思い出していた。


「ここに来るには、万有様の許可が必要。

 これには例外はないから」


「…ないわね…

 あるとすれば、花蓮に賄賂…」


優夏が嘆くように言うと、「もうしないと思う」と春之介は答えて少し笑ってから、つまらなさそうな顔をしている春菜を見た。



春之介たちはまだ寝ている者たちを風呂に連れて行って放り込んだ。


ここからは仲間たちで何とかするだろうと思い、現実時間では一瞬で勉強を終えてからまた風呂に行った。


春之介はかなりしゃきっと背筋を伸ばした仲間たちとともに夕食の席についた。


「…うまい飯が食えるのは、すべて春之介様のおかげです…」と浩也はつぶやいてから大いに食らい始めた。


もちろん嫌味などではなく本心から言っていた。


するとその近くにいた者たちが箸を止めて、浩也のマネをした。


さらにはすべてに広がったので、ついに、「やめてくれ…」と春之介は嘆くように言った。


「何を言うか。

 春之介を心の底から慕っている者たちへの礼でもあるんだ」


浩也の言葉に、―― それは大いにある… ―― と春之介は考えて、浩也に詫びてから、この星にいる魂たちがかなり協力的になっていることに気付いた。


グランド整備は食後にしようと思ったが、ここは魂たちにお願いして、少しだけ働いてもらった。


すると、小動物たちがグランドに入り込んで、外野の芝を食べ始めたので、魂たちがやんわりと追い出して、食堂に近い場所に同じ芝が一気に芽吹いた。


小動物たちは急ぎ足で芝をうまそうにして食べ始めたが、何かが足りないようで、またグランドに移動を始めた。


「…一体、なんだ?」と春之介は事情が分からず動物たちを見ていたが、ここはゼルタウロスに変身して、「そういうこと…」と言ってから、春之介に戻って手早く食事を済ませて、湧き出てきた芝生地帯に両手をかざした。


すると動物たちは一斉に駆け寄って来て、芝に反応してうまそうにして食べ始めた。


「どういうことなの?」と優夏は白いペンギンを抱いて放すと、ペンギンも大勢の動物たちの仲間になった。


「俺たちの汗がうまいらしい」と春之介が言うと、優夏は眉を下げてから、「ミネラル分が…」とつぶやいた。


「ガツンと効き目があるミネラル分なんだ。

 タブレットを分解して柔らかく芝に流した。

 あとは、魂たちが真似をしてくれるだろう。

 食事はこの芝でいいんじゃないのかな。

 食事を与えるよりもこれが自然だろう」


春之介の言葉に、優夏は納得して笑みを浮かべた。



一輝たちパラダイス軍も戻って来て、早速食事にありついて笑みを浮かべている。


「ああ、そうだ、春之介、なんかやったのか?」と一輝が聞いてきたので、「強制的に夢見でね…」と春之介が答えると、「…そういうこと…」と一輝は納得して言ってから、大口を上げて飯を食らった。


「虎次とクレアが源一に弟子入りした。

 源次郎のヤツは春之介のせいだと決めつけた。

 ま、今頃は源一に説教されてうなだれているだろうな。

 勇者以上じゃないと、師匠は務まらないからな。

 それに、雷竜サラにも久しぶりに会ったが、

 白目をむいて倒れていた。

 まあこの件は、雷竜ライディーンが鉄槌を落としたんだと思うけどな」


「ああいたね。

 姿は幼児だったけど…」


春之介は源一の大勢いる子供たちを思い出していた。


「ライディーンは源一と花蓮の第二子だ。

 前世は統括地の創造神手前の魂だったそうだぞ」


「最低でも宇宙の創造神以上の実力者…

 すごい家族だな…」


「宇宙の創造神や星の創造神だった者も10人ほどいるからな。

 いつでものれん分けは可能だけど、まだまだ子供だ。

 それよりも、ここの環境がかなり良くなったように思うんだが…」


一輝が空を見回して言うと、春之介が今日の仕事の話をした。


「…こっちの手伝いの方が充実できそうだが…」と一輝が言うと、南に肘鉄を食らわされた。


源一を裏切るわけではないが、まさに濃厚な時間を過ごせそうだと思って判断しただけで、欲はまるでない。


「王様に上申しよう」と一輝は言って、源一に念話を送った。


すると源一と花蓮がすぐさまやって来て、「さらに良くなっている…」と源一は感動して言った。


「いらっしゃい」と春之介が笑みを浮かべていうと、源一と花蓮は最敬礼するように頭を下げた。


「…うふふ…」と優夏が不敵に笑って、花蓮に指輪を見せつけた途端、花蓮はへなへなと地面に腰を落とした。


源一は目を見開いて、「…これか…」とつぶやいて、まじまじと優夏のリングを見入った。


「あら? 花蓮のように倒れないの?」


優夏の言葉に、「…はは、それほどに欲はないので…」と源一は穏やかに言った。


「結婚指輪、なのぉー…」と優夏は大いに感情を込めて言って、左手を抱きしめた。


「…自分で造ったダイヤの、数万倍の威厳はあるね…」と源一は言って苦笑いを浮かべた


「ああ、そういえば…

 木炭などを一気に凝縮して人工ダイヤを…」


春之介はお勉強した内容を話すと、「松崎さんが量産を嫌がったからね…」と源一が答えて、その宝石類の映像を影のイカロス・キッドが宙に浮かべた。


「うっ! 純金プレート入りのダイヤモンドッ?!」と優夏が叫んで春之介を見た。


「…修行が大変そうだ…」と春之介は大いに嘆いた。


「…持ち主書いてるから転売できないぃー…」と優夏が言った。


「売れないし奪えない。

 最高の証拠だよね。

 逆に証拠がない方が流通はするね」


などと春之介は言いながらも、試作品を優夏に渡した。


「…でっかい…

 でもダイヤだし、プレートが入ってるぅー…」


優夏は上機嫌で言ってから、春之介に抱きついて、「ネックレスにするのぉー…」と言ったのですぐにチェーンと台を出した。


春之介は追加の食事として、握り飯を10個ほど作って食べ始めた。


「…比較的軽いのね…」と優夏が眉を下げて言うと、「それ以上だと入れ込んだプレートが溶けるから、かなり手加減した」と言って、大口を開けて握り飯に食らいついた。


「…宇宙の母、辞めるぅー…」とついに花蓮が嘆くように言い始めたので、春之介は大いに食事を作ってから、源一に事情を話して、花蓮用の指輪を造り上げた。


花蓮は大いに喜んで、春之介に礼を言って、優夏の目の前に立って、まさにライバル心をむき出しにした。


「…負けるから…」と源一が言うと、「…うー… 否定できない私がいるぅー…」と花蓮はうなって、「引き分けだっ!」と優夏に向かって指をさして叫んでから消えた。


「みっともなぁーい…」と優夏が言うと、源一はすぐさま頭を下げて謝った。


「花蓮様は今まで以上に常識的見解を持って行動してくださると思います。

 何もかもが軽くなったはずですので」


「十分に理解できたよ…

 まさに、究極の魔法道具だね…

 不幸はほとんど起きないようになってるようだし…」


「指輪を壊して泣く方が早いと思います」


春之介が少し笑って言うと、源一はすぐさま頭を下げて消えた。


「…駄々っ子ね…」と優夏はあきれるように言った。


「俺が春菜を取っていたら?」という春之介の言葉に、「現実は違うからいいもぉーん!」と優夏は比較的陽気に答えて逃げた。


よって、その辛さもわかっていると春之介は察した。


「…あれは今となって考えると、ときめいたと思う…」と春之介が感慨深く言うと、「春夏秋冬ちゃん…」と優夏が穏やかに言った。


「実際の映像じゃないけど…」と春夏秋冬はまず断ってから、映像を宙に浮かべた。


『お嫁さんになるためにここに来たんだもんっ!!!』


春之介と優夏が再会した次の日の校庭でのひとコマだ。


映像で残っていたわけではなく、すべては春之介の記憶を映像化したものだ。


「…あー… こんな顔をして叫んでたのね…

 心底必死だわ…

 だけど、ほんと、いい思い出だわぁー…」


優夏が落ち着き払って言うと、まずは子供たちに大人気になった。


まさに優夏の信念が春之介に通じたと、子供たちは感じたようだ。


「…照れないのね… それに、逆に武器にしちゃったぁー…」と春菜はつぶやくように言ってうなだれた。


春菜は、―― チューした瞬間… ―― などと思ったが、確実に逆襲されて落ち込むことになると思って、余計なことは言わないことにした。


「…優夏がストーカーしてたとこ…」と春之介が小声で言うと、「それはいいのっ!!!」と叫んで拒否した。


さすがに付きまとい映像は優夏の意に反したようだ。


しかし春菜がその時の状況を思い出して陽気に笑った。


「三太に、どこかの組の姫様って言われてたわよ」


「…うー… 確かに…

 春之介を一瞬で見失って、悔しくてなにか叫んだなぁー…」


優夏は言って大いに苦笑いを浮かべた。


「…春之介って当時から足がすっごく速かったんだもぉーん…」と優夏がかわいらしく言うと、特に女子たちはホホを真っ赤にしていた。


優夏のこのかわいらしさは見習うべきだと感じたようだ。


いつもは映像でしか見ていないが、今は本人が全てをあけすけにして説明してくれる。


まさに、家族になったんだと感慨深く思って、感受性の強い子は涙を流し始めた。


優夏はそんな子から順に抱きしめて、「春ちゃんをとっちめた映像とか観て笑っちゃう?」と言うと、「見せなくていいのっ!!!」と春菜は大いに怒鳴った。


子供たちは種族を違わず、優夏を母にした。


一方の春之介の方はというと、父というよりもミラクルマンなので別格のようなものだ。


しかし悪魔たちは春之介を父と慕い始めた。


特にまだ5才以下の子には、「…焦らずゆっくりと成長してくれ…」と小さな声で耳打ちをする。


力は十分にあるのだが、問題なのは持続力だ。


どう考えても、登山道のような道を走っている春之介たちに追いつくことは叶わない。


よってここは大人しく、幼児用のかわいらしいランニングロードで鍛えることにした。


しかし春之介も優夏も、こういった子たちとコミュニケーションを取る。


自分の訓練の合間に、幼児用のランニングコースも走りに来るのだ。


これで頑張らない子は誰もいない。


まさにスポーツ一家のような生活のリズムだが、ここに来た子供たちは春之介たちの仕事に誇りを持っている。


学校の授業でも、その映像を道徳の時間に観て、その意味を知っているのだ。


―― ここに来ることが目的じゃなかった ―― と、子供ながらにみんなそう思っている。


父と母の仕事を手伝い、あとを継ぐことが、子供たちの道となっているのだ。



訓練が終われば、子供たちと一緒になって遊ぶ。


その時間は短いが、子供たちは笑みを浮かべて眠りにつく。


春之介たちも、そんな子供たちの寝顔に癒されて眠りにつくのだが、春之介はまた夢見に飛ばされていた。


「…さて、今夜はどんな人なんだろうね…

 今回は誰もいそうにないんだけど…」


確率としては比較的低い、全く文明文化がない星に飛ばされた。


しかし、動物もいれば人間もいるようで、まずは一番近い魂のある場所に歩いて行った。


だが、まるで磁石の同局のように、近づくと離れていくのだ。


そして止まると相手も止まる。


「逃げずに止まる…

 ということは、相手も魂を探れて、

 俺に興味がある、

 ということでよさそうだね」


「…あー… そういうことになるね…」と春夏秋冬は少し計算してから答えた。


「ということはだな…」と春之介は言ってから、大きく息を吸い込んで、「逃げるのなら帰るぞっ!!!」と大声で叫ぶと、春夏秋冬は腹を抱えて笑った。


「おっ きたきた」と春之介は上機嫌で言うと、とんでもない地響きとともに、ティラノサウルスに似た恐竜の頭が見えた。


「…はは、食われそう…」と春之介は眉を下げて言ってから、ゼルタウロスに変身した。


すると、恐竜は大いに戸惑って、足を止めた。


恐竜の体高は10メートル近くあり、恐竜というよりも怪獣のようだった。


その怪獣は、前に進もうか戻ろうかと思案するようにうろうろと始めた。


『話でもしようぜ!』とゼルタウロスが叫ぶと、怪獣は警戒するようにゆっくりと近づいてきた。


『人間というやつじゃなかったのか…』と怪獣が歩きながら言うと、『両方』とゼルタウロスは答えた。


『空、飛べるのか?』


『ああ、飛べるぞ。

 危険を察知したら飛んで逃げることもできるし、

 走るのも早いぞ。

 それに…』


ゼルタウロスは言って、サイコキネッシスを使って怪獣を宙に浮かべた。


『う… 前に進まない…』と怪獣が言うと、ゼルタウロスは愉快そうに笑った。


そして、術で操ってわかったことがある。


『変身できるようだね』


『ああ』と怪獣は言って、宙に浮いたまま人型をとった。


「ふーん、巨人族…」とゼルタウロスが人間の言葉で話すと、「動物が人語を話すな」と巨人は大いに文句を言った。


巨人は恐竜よりも大きく、体高は20メートルを超えていた。


重量がほぼ同じなのではないかと思うほど、少々スレンダーな巨人で、性別は男だ。


ゼルタウロスは春之介に戻って、「何か困ったこととかない?」と聞くと、「ん? 願いの夢見か?」と聞いてきたので、春之介は笑みを浮かべてうなづいた。


「願いの夢見を知っているということは、

 経験者か、もしくは神。

 まあ、巨人族だから、神の方が確率は高そうだね。

 あとは願いの夢見かと聞いてきた。

 願いの夢見の存在は知っていたけれども、

 出たことがない、とか…」


「…物知りのようだ…」と巨人は言ってから地面に座った。


「もしよかったら何か食べる?」と春之介は言って非常食をたんまりと出して、まずは春之介が野菜の干しものを口にした。


「ありがたい」と巨人は言って、春之介と同じものを口にしてから、止まらなくなったようで手当たり次第に食べ始めた。


「…うまい…」と巨人は空を見上げて感動した。


すると、匂いを嗅ぎつけたようで、動物たちが近づいてきた。


「乾燥してても匂うからなぁー…

 さすが動物…」


春之介は言って、干しものなどをひょいひょいと間引きして手に取って、かなり遠くに分散するように投げた。


動物たちはそれほどケンカをすることなく、エサにありついている。


「信用できないようだけど、

 あなたが納得した時点で俺は消えると思うよ。

 俺としてはあなたを狙ってここに来たわけじゃないんだ。

 あ、俺は八丁畷春之介と言うんだ」


巨人は何度もうなづいて、「クレオ・アレキサンダーだ」と巨人は名乗った。


「あー… そういうことだったんだ…」と春之介は言って、納得の笑みを浮かべてうなづいた。


「あ、あなたとはそれほど関係ないことだから。

 もし、また会うことがあればお話ししますよ」


「…そうか…

 その日を楽しみにしよう」


巨人は言って笑みを浮かべて、両手に干しものを取ってうまそうにして交互に食べた。


「セイント、セイラレス、セント、セイレス。

 こう言う名前の人知ってる?

 あとはデヴォラルオウ」


「…デヴォラルオウ…」と巨人は言って目を見開いて、干しものを手から地面に落とした。


「…エッちゃんの隠し子だぁー…」と春之介が言うと、春夏秋冬が、当時の顔写真入りの家系図を出した。


「うっ! やっぱりかっ?!

 おまえ、ゼルタウロスッ!!」


巨人が叫ぶと、「そう正解。だけど、俺にはあんたの記憶はない… というよりもまだ過去の記録を探ってない」という春之介の言葉に、「…思い出さなくていい…」とクレオは言ってそっぽを向いた。


「エッちゃんの子供はちょっと不良が多くてね…

 だけどあなたはそれほどでもなさそうだ」


春之介が指をさすと、「記憶にないから、俺が産まれるかなり前だろう」とクレオは言った。


「となると、なかなか優秀かもしれないね。

 今の全宇宙の支配者は、エッちゃんの息子だった人がしているから。

 血筋上、あんたの兄か弟」


春之介は言って、わかりやすいように、デヴォラルオウの転生した道筋を色分けして、源一の古名に印をつけた。


「…神ではない者が、宇宙の覇者なのか…」とクレオは嘆くように言った。


「面倒なことを押し付けてるって感じ。

 俺が知った時にはもうすでに高い能力を持っていたから。

 俺の妻はここ」


春之介は言って、印をつけると、「第一期の先祖…」とクレオは言って大いに苦笑いを浮かべた。


「能力差は歴然だよ。

 第二期の初期に生まれたクリスタルよりも強いから。

 そのクリスタルが宇宙の母で、宇宙の覇者が宇宙の父だよ」


「固有名詞は聞いたことがある程度の知識しかない。

 まさに伝説級の話だ…」


クレオは言ってさらに苦笑いを深めた。


「特に願いとかはないわけ?」


「…この星はいい…

 まさに、退屈であふれているからな…

 時々、お前のような外来種を蹴散らす程度の仕事しかしていないけどな」


クレオは言って大声で笑った。


「うーん、俺が消えないということは、

 何かを確認しなきゃいけないんだけど…」


「ここにいればいい」とクレオは真剣な顔をして言った。


「残念だけどね、時間切れの場合は消えるけど、

 また今日と同じ時間に来るはずだから。

 俺としては夢だから」


「…それでいいかぁー…」とクレオは言って、眠くなったのか横になって、高いびきを始めた。


「…うう… マジで寝ちまった…」と春之介は言って大いに苦笑いを浮かべた。


「だけど、なんかイヤな予感…

 連れて帰ってしまうかも…

 子供たち、うまく逃げてくれたらいいんだけど…」


春之介が言ったとたんに、寝室の天井を見ていた。


しかし、クレオはいない。


ほっとしたような残念なような、そんな気分にさいなまれたが、春之介は宙に浮いて住居の外に出た。


起床時間までまだ6時間もある。


これは敷かれたレールだろうと思って、ブランケットをかぶって眠った。


すると、まだ高いびきをしているクレオが目の前にいた。


「何もしないというのも退屈だ」と春之介は言って宙に浮かんで、この星の散策に出かけた。


所々に宇宙船の残骸がある。


だが、犠牲者は見当たらない。


すると、クレオの城なのか、初めて建造物を確認できた。


「こりゃでけえなぁー… 魔王城…」


春之介がつぶやくと、「そんな趣だよね…」と春夏秋冬も同意した。


「人間らしき魂多数…

 捕まえて牢屋にでも入れてるのか…

 いや、普通に動いている…」


春之介は中庭に出て、「こんにちは!」と叫ぶと、わらわらと人間が出てきた。


「…願いが、通じた…」と数人が言って、地面に膝をつけて、春之介を拝んだ。


「あ、願いの夢見じゃないよ」と春之介が言うと、城にいる者たちは大いにうなだれた。


春之介は地面に降りて、「今の願いの夢見はね、生死の境目にいないと叶わないから」と春之介が言うと、まさに無碍な言葉だったようで誰もが大いにうなだれた。


「そもそも、どうしてここに来たわけ?

 侵略?」


どうやら、そういう者もいたようで、バツが悪そうな顔をしていた。


「ここの主も、あんたたちをどう扱えばいいのか悩んでるんじゃないの?

 今の様子だと、それほど不幸じゃなさそうだ。

 奴隷には見えないからね」


「…ああ、そういう目にはあっていない…」とひとりの男が言った。


「助けが来ないということは、

 あんたたちは見捨てられたんだと思うけど?

 この城の主が怖いから」


どうやら図星だったようで、誰もがうなだれてしまった。


「宇宙船が来たから、この星の位置、判明したよ」と春夏秋冬が報告したとたんに、別の星に飛ばされた。


「…クレオさんは寝てたけど大丈夫だろうか…」と春之介は大いに心配した。


「動物たちが騒いだら起きるんじゃない?」と春夏秋冬が言うと、「あ、それはあるね」と春之介は答えて安心した。


「星の位置がわかればそれでよかったわけだ。

 古い神の一族だし、

 あの存在感は宇宙に出て働いてもらいたいね」


このあと、5回ほど星を移動して、春之介はうっすらと明るくなった空を見上げて目覚めた。


「…外で寝るのもいいなぁー…」と春之介は言って背伸びをして身支度をしてから厨房に立った。


そして料理をしながら、「…巨人族で恐竜? 万有様も、だよな?」と春之介が言うと、「重要人物かもしれないよね」と春夏秋冬が言った。


春之介は何度もうなづいて、「あの星の座標は報告したんだよね?」と聞くと、「今からするよ」と春夏秋冬はバツが悪そうな顔をして答えた。


「クレオさんなら、自分の道は自分で決めるさ」



春之介たちが朝食を摂っていると、『悪いな…』と申し訳なさそうな声で源一から念話があった。


「クレオ・アレキサンダーさんの件ですか?」と春之介は聞いた。


『そういうこと…

 できれば雇いたかったんだけどな…

 春之介に会わせろと言ってな…』


「恐竜に変身しました?」と春之介が聞くと、『なっ?!』と源一はかなりの勢いで驚いていた。


「源一様の恐竜よりも威厳がありますよ」


『…マジか…』と源一はつぶやいた。


よって、小物には用がないということなんだろうと、源一は察した。


「朝食が終わったら会いに行くと伝えておいてください。

 あと30分程で訪問しますので」


『わかった。

 しばらくここにいることにしたよ…』


源一は言って念話を切った。


「仕事以外に仕事が入ったから、まずはそっちに行くことになったから」


春之介の言葉に、春夏秋冬が映像を出して説明した。


「みんな食べられちゃうぅー!」と優夏が子供たちを脅したが、笑みを浮かべて言ったので、本気ではないと簡単に悟られてしまっていた。


「エッちゃんの子らしいけど、心当たりある?」


春之介の言葉に、「…お試し君、かなぁー…」と桜良はかなりひどいことを言って、大人たちから顰蹙を買った。


「巨人族で恐竜。

 体高20メートルに10メートル。

 巨人族としては普通だけど、恐竜というよりも怪獣だったよ。

 となると、完全体が万有様」


春之介の言葉に、「…うん、そう…」と桜良はごく普通に答えて、みんなに白い目で見られている。


「…お試しで、御座成功太の方をバッタボックスに立たせる…」


春之介の冷静な言葉に、「ごめんなさいっ! もうしませんっ!!」と桜良が息せき切って謝ると、レスターまでもが肩を揺らして笑っていた。


「…打っちゃうかも…」と優夏はしれっというと、桜良は赤ん坊ふたりを抱え込んで優夏を見入っていた。



朝食を終えて、春之介たちは目的の星に飛んだ。


「おっ! 来た来たっ!!!」とクレオは叫んで、空に向かって両手を振った。


宇宙船は攻撃されることなく、歓迎しているクレオに出迎えられた。


挨拶もそこそこに、「星を出る決心はついたのですか?」と春之介は真っ先に聞いた。


「おまえとだったら絶対に楽しい!」とクレオは胸を張って言い放った。


「日々やってることは万有様たちとそれほど変わりませんよ?」


「決めた理由はほかにもある」とクレオは言って、花蓮を見てから優夏を見た。


「同じだが、まるで違う。

 俺は見る目がある方に寄り添いたいんだ」


「…ひどいな…」と春之介が苦笑いを浮かべて言うと、「中途半端な発言は好かん!」とクレオは叫んで大声で笑った。


花蓮としてはひと言言いたかったようだが、源一に制止されて何も言えずにいた。


「この星を放棄するのはもったいないですから、

 俺たちで管理しよう。

 ここはクレオさんの家でもあるから」


「…う… …あ、ああ… ありがとう…」とクレオは礼を言って頭を下げた。


「捕まった奴らは強制送還するから」と源一は比較的明るく言って、城に向かって歩いて行った。


花蓮は何度も振り向きながらクレオと春之介をにらんでいる。



春之介たちは宙に浮かんで、城の中庭まで飛んだ。


「この辺りでいいか…」と春之介は言って、巨大な社を建てた。


「俺の仲間の神の意思で、

 別の社に飛べるから」


「…おー… すごいことができるんだなぁー…」とクレオは大いに感心していた。


「この社があることで、星の異変もすぐにわかるから。

 もし、誰かが不当占拠しようとしたら、すぐにわかる。

 その時は俺たち全員で追い出すから」


クレオは仲間になる者たちを見まわして、「今日ほどうれしい日はない!」と胸を張って叫んだ。


そして妙に低姿勢になって丁寧にあいさつを始めた。


春之介にとってクレオはまさに頼りになる兄のように感じていた。


そしてついに、巨大化している秋之介と恐竜に変身したクレオの猛獣対決が始まって、しばらくはにらみ合っていたが、いきなりお互いが抱きついて、友情を確認しあった。


そして秋之介が小さなクマに変身すると、クレオもつられたように小さくなって、ふたりして社に入って行った。


「…なかなかの能力者だった…」と春之介は言って苦笑いを始めた。


「となると、巨人族だが伸縮自在か?」と浩也が大いに苦笑いを浮かべて聞いてきた。


「できればそうあってもらいたいね。

 野球仲間としても生活してもらいたいから」


春之介は比較的陽気に答えた。



ここからは春之介たちは源一たちの仕事を遠くから確認した。


どうやらこの星から外に出たくない者も数名いるようだが、主がいない城に住まわせるわけにはいかないと源一が説得して、百人ほどいる全員を宇宙船に乗せた。


「万有様! まだいます!」と春之介が叫ぶと、源一がすっ飛んでやってきた。


春之介は今建てたばかりの社の裏にゆっくりと歩いて行くと、源一はその逆側に歩いて行った。


ふたりで挟み打ちにするようだ。


すると、少し高くなっている社の階段の脇から、小動物が飛び出したが、優夏によってその動きが止められた。


「…この星の動物じゃなさそうね…」と優夏は言って、異様に愛らしい白いロングの体毛を持ったキツネを見入った。


「女性だと思う」と春之介が言うと、「クレオが好きなのかしら…」と優夏は笑みを浮かべて言った。


源一は宇宙船に戻って事情を聞くと、置き去りにされたが、ある星の第八王女ということが判明した。


部下たちは王女の想いを察して、できればここで暮らしてもらいたいと思っていたようだ。


春之介は秋之介に念話をして、クレオを連れてきてもらった。


小さな恐竜は巨人のクレオに変身して、「…あんた、そんなことができたのか…」と大いに苦笑いを浮かべていた。


「クレオさんに恋い焦がれているそうだよ」という春之介の言葉に、「なにも話さないぞ、この女…」とクレオは言って苦笑いを浮かべた。


「じゃあ、コミュニケーション不足として強制送還でいいと思う。

 そのあとに、万有様が雇ってもそれほど問題はありません」


春之介の言葉に、「そうさせてもらうよ」と源一は眉を下げて言って、白いキツネを拘束して宇宙船に乗せた。


「…完全には切れてない… 頑張って欲しい…」と優夏は祈りを込めるように感情を込めて言った。


「…つんけんしていけすかねえヤツだ…」とクレオはわずかに憤慨して言ったので、クレオにとっては魅力のない女性のようだ。


「世の中にはツンデレという資質を持った女性もいるんだよ」


春之介はその説明をすると、「…まあ、悪い気はしないが、声すら聞いたことがないからな」とクレオはさも当然のように言った。


「あ、ところで、その巨人って小さくなれないの?」


春之介の言葉に、クレオはするすると小さくなって、「これが今のところは限界」と言って、春之介よりも頭ひとつ大きい男性となっていた。


よって、春菜の眼が光ったが、優夏に拘束されていた。


スレンダーで高身長なので、女性にはモテるだろう。


さらには顔も女性受けする優男だ。


「俺のおばちゃんが興味津々だから、

 あとで話しでもしてやって欲しい」


春之介の言葉に、クレオは少し振り返って、「…猛獣のようだけど…」とクレオが言うと、春之介と優夏が大いに笑った。


「優夏と同じで悪魔という存在だよ。

 それなり以上に強いから」


「ん? 春之介のおばちゃん?」とクレオが聞いてきたので、『年下の叔母』の説明をした。


「…あの女と同じように王女様なわけか…」とクレオは言って、眉を下げていた。


「…脈なしだわ…」と優夏が嘆くように言うと、春菜は動けないが心の中ではうなだれていた。



「ところで、大勢子供たちがいたが…」とクレオが少し眉を下げて春之介に聞いてきたので事情を説明した。


「…そうか… 次代を担う若者なわけか…」とクレオは感慨深く言って何度もうなづいていた。


ここからは本来の仕事に行くことにして、クレオにも手伝ってもらった。


クレオは浩也に託して、春之介は本来の司令官職に戻り、星を三カ所回った。


天使たちは心根がやさしいクレオにメロメロになっていてそばを離れなくなっていた。


星に戻ると、天使たちと同じように、子供たちもクレオに大いに懐いた。


クレオも悪い気はしないので、比較的子供たちの言いなりだったが、春之介と優夏ににらまれ始めたので、その想いを程々に変えていた。


あまりにもまとわりつくと、クレオの自由がなくなるからだ。


―― 相手の立場に立って… ―― と子供たちは一斉に考えて、クレオに自由を与えた。


「…少々驚いたが、助かった…」とクレオは言って、春之介の前の席に座った。


「子供たちにとっては憧れでもあるはずだから。

 ここには本格的な能力者はそれほどいないからね」


「そうだ、それが一番の謎だ」とクレオは言って浩也と一太を素早く見た。


「ふたりは勇者になる行程にいるようなものだから。

 ある意味能力者だよ」


春之介の言葉に、クレオは何度もうなづいた。


すると桜良がやって来て、「…クレオちゃんも先生になって欲しいし、お手伝いもお願いしたいんだけどぉー…」とかなり控えめに言った。


「クレオの思うように過ごしてくれていいよ」と春之介が言うと、桜良は喜んだが、「しばらくは春之介に同行する」とクレオが言い放ったので、桜良はまさに花がしぼむようにうなだれた。


すると、悪魔の子供たちが桜良を囲んで連れ去った。


「…今、よくわかった…」とクレオは目を見開いて言った。


「ほとんど即戦力だけどね。

 まだ人間の子供でもあるから」


クレオは納得したように笑みを浮かべて何度もうなづいた。



クレオはここからは春之介に付き合って、今は巨人の姿になって、柔らかいマットの上で子供たちに抱かれたまま眠っている。


「…簡易テントでも建てるか…」と春之介は言って巨大な透明のテントを創り出して建てた。


「…悔しいけど、野球もうまくなりそうだわ…」と優夏がライバル心を燃やして言った。


「スタミナは十分にあるからね。

 今はスレンダーだけど、

 横にも大きくなるんじゃないのかなぁー…

 クレオも人間をまだ持っているから、

 身体的成長はあると思う」


「…捨て子、だったなんて…」と優夏は眉を曇らせた。


「親としては化け物を生んでしまったと思ったんだろうね…

 きっとどこかの王子様だと思うよ…」


「…王子、様…」と春菜がつぶやいて、ふらふらと立ち上がって、巨大な王子様に添い寝した。


「…王子様症候群になったな…」と春之介が眉を下げて言うと、優夏は陽気に笑った。


「…第八王女…」と優夏がつぶやくと、「まあ、兄妹という線が妥当だね」と春之介は答えた。



翌日の仕事中に、春之介に源一からビデオメッセージが届いた。


第八王女は源一が雇ったのだが、クレオを返せとその王国から詰め寄られたそうだ。


もちろん事情を聞いて、「捨てたんだろうがぁー…」と花蓮がここぞとばかりに威厳をさらすと、すべてを寝かしつけてしまったそうだ。


もちろん、春之介はクレオに事情を話すと、「俺の居場所はここだ」と堂々と言った。


「少し覗きに行くかい?」という春之介の誘惑には負けてしまったようだが、「置き去りにするなよ!」とクレオはかなりの勢いで怒鳴った。


「するもんかい…

 全てを確認すれば納得できるだろ?」


「…うう… 怒鳴って、済まなかった…」とクレオは申し訳なさそうにして、すぐさま春之介に詫びた。


エメラルド星はその澄んだ名とは逆に、大地は荒れ果て、至る所で戦いが行われていた。


まさに、強い力があれば、簡単に領土を広げることが可能だ。


だが、源一は戦いを止めなかった。


その理由は簡単で、戦争は戦場だけで行われていて、一般の住人たちには軋轢がかかっていなかったからだ。


長い歴史の中、ずっと戦っているようで、その中にオカルト的な話もある。


『望まれぬ子は生かして星から放り出せ』


この伝説的な言葉だけを信じて、クレオはこのエメラルド星から放り出されたそうだ。


望まれぬ子とは、忌み嫌われるこという意味で、いきなり恐竜として生まれたクレオは捨てられて当然のようなもだった。


この星の種族はごく一般的な人間なので、動物が生まれることなど考えられないことだ。


クレオの母親はショックの末、産後の日立ちが悪く他界していたということらしいのだが、『胡散臭い』と源一は映像の中で語っていた。


「その記録はないよ」と春夏秋冬は調べ上げて言った。


「第八王女は今回は派遣じゃなくて追放だよ。

 まさに、忌み嫌われる子だったから」


「だから無条件で雇えたわけだ」と春之介は言って納得していた。


「拒否するのなら、クレオの口から答えてくれ」と春之介が言うと、「…それが一番よさそうだ…」とクレオはすべてに納得して答えた。


春之介は小さな恐竜を抱いて、目的の城に飛んで、中庭に降り立った。


そして恐竜を地面に置くと、巨人のクレオにその姿を変えた。


「王よっ! 出てきやがれっ!!」とクレオが叫ぶと、すぐさま屈強な城の衛兵がやって来て、クレオに向かって弓を引いた。


「おまえら、王子に弓を引くのかぁー…」とクレオがうなるように言うと、「お前など王子ではないっ!」と衛兵長が叫んだ。


「王が欲していると言ったらしいが?」


「兵士としてに決まっているっ!」


「何だこいつら…

 この城、破壊してやろうか…」


クレオは言って鼻で笑うと、春之介は苦笑いを浮かべて首を横に振った。


「春之介、もういいか?」とクレオが言ったが、「王に直接話をした方がいいと思う」と春之介は冷静に言った。


「王を呼んできやがれ!」とクレオが叫ぶと、衛兵長は今度は何も言わずに唇を震わせていた。


「クレオが怖いんだな」と春之介が言うと、「城を壊しででも会うぞ!」とクレオは言って怪獣に変身した。


その恐ろし気な風貌に、「放てっ! 放てっ!」と衛兵長が叫んだが、誰もが弓を下ろして、床に片膝をついた。


「おまえだけ仲間外れ」と怪獣は言って、衛兵長を体とは反比例しているような小さな指ではじいた。


「こらこら、死ぬぞ…」と春之介が言うと、「かなり手加減したが吹っ飛んだな…」と怪獣は言って愉快そうに笑った。


「次に偉いヤツ、王を連れてこい」


怪獣の命令に、一番前にいた者がすぐさま立ち上がって頭を下げて、衛兵を三名連れて行った。


ほどなく、「やめろっ! やめろっ!!」という叫び声が聞こえた。


そして怪獣を見た途端失禁して失神した。


「失礼な奴だ…」と怪獣がうなって、王らしき男を指で突いた。


「うっ!」とうなって男は目を見開いて、「…くっ! 来るなっ! 来るなぁ―――っ!!」と泣き叫んだ。


「おい、お前ら。

 こんな王でいいのか?

 情けないだろ…」


「この者はどこかの星に捨てましょう。

 まさに望まれぬ王です」


副長は言って、王をにらみつけた。


「おまえが王をやれ。

 それで俺の役目は終わりだ。

 そして、また俺や第八王女のような者が生まれたら、

 実力を見極めて王にすればいい」


すると副長は懇願する目を怪獣に向けた。


「こんな星ひとつで満足すると思っているのか?」


クレオの言葉に、「次のご帰還を楽しみにしております!」と副官は言って頭を下げた。


「面倒な政治家と占い師と王家の者たち」とクレオが言うと、王代行の指示ですぐさま引っ立てられてきた。


ほとんどの者が卒倒したが、怪獣がすぐに起こした。


「こやつが王だ、認めるよな?」と怪獣が言うと、誰もが怯えた目で王代行に目を向けた。


「…こんな田舎者に…」と王家の者が言うと、「俺の見立てにケチをつけるかっ!」と恐竜が叫ぶと、また失神したのでまた起こした。


「認めるよな?」と怪獣がまた言うと、もう誰も反対しなかった。


怪獣は王代行に顔を向け、「仲間は多いか?」と聞いた。


「はっ 申し分なく!」と王代行はすぐさま自信をもって答えた。


「では、さらに奮起せよ」と恐竜は言って巨人に戻った。


「これでいいよな?」とクレオは春之介に聞いた。


「ああ、誰もが認めたからな。

 裏切りがあった場合、俺たちが友軍となって、

 手伝わせてもらおうか」


春之介は言って、この辺りに転がっている武器を数個粉砕した。


「…おー…」と衛兵たちはうなってから、すぐさま春之介に頭を下げた。


「…何やったの?」とクレオが眉を下げて聞いてきたので、「あとで説明するから…」と春之介も眉を下げて答えた。


「じゃ、帰るから」と春之介は言って、クレオの腕を取って宙に浮いた。


「…本物の神だった…」と衛兵たちはつぶやいて、春之介たちを見上げて笑みを浮かべていた。



「銃や火器を使わない戦いなんだな…

 まさに原始的…」


春之介の言葉に、「あ、そういえばそうだった…」とクレオは今更ながらに納得していた。


宇宙船を建造するほどの科学技術を持っている星だからだ。


「ま、いろいろと事情があって、

 戦ってもいいが星を傷つけるなということのようだね」


春之介は星を見て笑みを浮かべた。


「俺や、第八王女が生を受けたのは、星の恩恵か…」


「たぶんそうなんだろうけど、

 二人を追い出したことで、

 星の願いは人間によって踏みにじられた、

 といったところだろうね。

 クレオが戦場に出れば、誰も傷つかずに、争いは終わるんだろうね」


「…嫌なこと言う…」とクレオは言って春之介をにらんだ。


「星の様子は手に取るようにわかるから。

 魂たちにお願いをして小さな社を置いてきた。

 俺やクレオが行くまでもなく、

 天照たちが喜んで働いてくれるから」


「…ご褒美、なあに?」と天照大神が小首をかしげてかわいらしく聞いてきた。


「希望があれば考えておけばいいさ」と春之介は言って、天照の頭をやさしくなでた。


「…無茶なことは言えないなぁー…」などと天照大神は言ってインゴレッドたちと相談を始めた。


「…絶対に見た目に騙される…」とクレオは緊張して言った。


この様子を見ていた春菜はほっと胸をなでおろしていて、クレオに笑みを向けていた。


するととクレオがすぐさま振り向いて、「妙なことを考えるな!」と春菜に向かって叫んで背筋を震わせた。


「…あーあ、ライバルもいないのに振られちゃったぁー…」と優夏が嘆くように言った。


「…こいつら、ぶん殴りたいぃー…」と春菜は悔しそうにうなった。


「欲を出し過ぎなのがまだわからないのか…

 おまえ、宇宙船から放り出されるぞ…」


春之介の冷静な言葉に、「…地球に帰ろうかなぁー…」と春菜は大いに嘆いていた。


「ああいいぞ。

 きちんと監視ができるからな。

 前とは条件が違う」


春之介の冷静な言葉に、まだここにいる方がマシと思って、「…ごめんなさい…」と比較的素直に謝った。


するとクレオが目を見開いて春菜を見てから春之介を見た。


「…おまえ、やっぱりすごいな…」とクレオはマジマジと春之介を見て言うと、「…いや、よくわからないんだけど…」と春之介は大いに困惑していた。


「こんな猛獣に謝らせるとは…」とクレオが嘆くように言うと、優夏は腹を抱えて大いに笑った。


「…猛獣…」と春菜はつぶやいて大いにうなだれた。


春之介と春菜の関係を赤裸々に説明すると、「いや、それでも格違いには違いないんだぞ!」とクレオは堂々と叫んだ。


「俺は優夏にも守られているからね」と春之介が答えると、「…ま、まあ、それは大いにある…」とクレオは納得していた。


「…力があるのに使えないことが辛いぃー…」と春菜は大いに悔しそうに言った。


「同じ神から生まれてるんだから、結婚しちゃえばいいじゃないっ!」と優夏が陽気に言うと、クレオは大いに考え始めた。


そして、「…俺は春之介と同じか…」とクレオはうなだれて言うと、「…妙な納得の仕方をしないで欲しいね…」と春之介は眉を下げて言った。


「尻に敷かれるのも本望!

 だが、今は無理っ!!」


クレオの叫びに春菜は一瞬喜んだが、すぐにうなだれた。


「お尻に敷いてなんていないわ。

 春之介が気を使ってくれているだけよ」


優夏が明るく言うと、「…ああ、よーく理解できたと思う…」とクレオは言って優夏に頭を下げた。


「これで夏介もあえて自由の身だな」と春之介が言うと、夏介は笑みを浮かべて頭を下げた。


すると春菜が夏介をにらみつけた。


「…ふん、浮気者め…」とクレオに言われてしまったので、春菜は立場がなくなって、肩をすぼめて小さくなっていた。


「最適なパートナーを選ぶにも競争が激しいからね。

 やはり人間の恋は能力よりも相性を重視するから。

 今の春菜だと、見合う相手がいても振られるだろうね」


「…自覚、できましたぁー…」と春菜は春之介を上目づかいで見た。


「…獲物を狙う目…」とクレオが言うと、春之介と優夏が腹を抱えて笑った。


源一からの念話で、第八王女がクレオに会いたいと言ってきたのだが、「クレオとは実の兄妹」と春之介が源一に伝えてもらうと、大人しくなってしまったそうだ。


もちろん王女も察していたようだが、はっきりと聞かされて納得もできたという。


「だか、覚醒状態で言えばかなり弱いし、春菜のように青天井ではないぞ」とクレオが堂々と言うと、春菜は極力控え目に喜んだ。


「…まあ、それほどにいい魂が見つからなかったんだと思うよ。

 クレオははっきり言って、

 確率的にも奇跡のようなものだと思う。

 エメラルド星で育った場合、今とは違う運命があったはずだし。

 だから第八王女エメラルドと同じように、

 自分で成長のフタをしたのかもしれない」


春之介の言葉に、「なっ?!」とクレオは驚きの顔を春之介に見せてから優夏を見た。


「平和ボケっていうフタね…

 だけど、源一と花蓮の仕事について回るんだったら、

 フタが外れるのも簡単だって思うわよ」


「役に立つ存在っていう意味だから。

 だけど花蓮様や優夏の…

 半分以下?」


春之介が言って優夏を見ると、「…私から見れば… アリンコ?」と答えて陽気に笑った。


「最大でも、俺に追いつくかどうか、かなぁー…」と春之介が言うと、「まあ、その時は、満足しきって、ほぼ確実に昇天していることだろう…」とクレオは真顔で言った。


「高尚な話もいいが、訓練いくぞ」と浩也が気合を入れて言うと、春之介は笑みを浮かべて立ち上がって、子供たちを抱きしめて回った。



数日間は何事もなく充実した日々を過ごしたのだが、かなり暗い声で源一から春之介に念話があった。


「なぜ同時なんです?」


『どっちにとっても都合がいいから』


源一の回答に、春之介は少し笑った。


「おふたりは仲間のようなものですからね。

 しかも調べたんですけど、

 俺の母は源次郎さんの側室じゃないですか…」


『今は全く交流はないけどな…

 さらにその息子、虎次が春之介に会いたがっているんだよ…』


時代は違うが、同じ母から生を受けているので兄弟といっても過言ではない。


春之介はなぜだか喜んでしまったのだ。


「休んだばかりですけど、明日観光旅行に行きますよ。

 気に入らなければ、

 ランス様も源次郎様も俺の目の前から消えると思います」


『それでいいと思う。

 何度も繰り返せば、そのうちわかると思うから…』


春之介は念話を切って笑みを浮かべてから、「…兄弟、か…」とつぶやいた。


「連れて帰っちゃうぅー…」と優夏が言うと、春之介は大いに眉を下げていた。


「勇者になりかけてる能力者だから。

 その時は誰かを差し出す必要があるはずだ」


春之介の言葉に、優夏が春菜を見入ったことに、誰もが思わず大声で笑った。


「もう! 優ちゃんっ!!」と春菜はここは本気で怒った。


「簡単に正して戻って来ればいいじゃない…

 戦力、もらい得?」


「そうはいかないだろ…」と春之介は眉を下げて言った。


「フリージア星ならいろんなメリットもあるんだろうけど、

 そのほかの星ではたぶんないと思うし、

 デメリットばかりが目立つ」


春之介は実際に関係する星を見てきただけに、この話には信憑性がある。


「まあ、誰か思いがけない人を引き上げて虎次さんを連れ帰る、とか…

 二人ほどいれば十分だと思うけどね。

 もし、虎次さんが俺たちとともに仕事をしたいと思ってくれていたら

 一番いいんだけど…」


「…うふふ…」と天照大神が意味ありげに笑った。


「何が欲しいんだい?」と春之介がやさしい言葉をかけると、「あのね、あのね…」と天照大神は慌てて言ってから、春夏秋冬を使って、楽しそうなおもちゃなどの一覧の映像とスペックを宙に浮かべた。


「…なるほど…

 この程度ならあってもいいだろうね。

 みんなと遊ぶんだぞ」


春之介は言って、仕様書を見入ってから、とんでもない勢いで、30ほどの様々なおもちゃなどを創り出した。


まさに沸いて出たと言っても過言ではなかった。


「パパァー… ありがとぉー…」と天照大神は誠心誠意礼を言って、春之介に抱きついてから、早速神たちがおもちゃなどの動作確認をして、合格が出たものから順に子供たちに渡し始めた。


「…天使たちの癒しが異常…」と春之介が眉をしかめると、春菜から黒い煙が沸き始めてすぐさまこの場を離れた。


「どうすればいいのかよくわからないけど、修行不足?」と涼しい顔をしている優夏に向けて聞いた。


「春ちゃんは、暗黒宇宙で100年ほど修行してきた方がいいと思う…」と優夏は言って眉をひそめた。


「そんなに修行したくないわよっ!!」と何とか肉眼で確認できるほどに離れていった春菜が叫んだ。


この天使の癒しの嵐の中でも、子供の悪魔たちは涼しい顔をしている。


まだ人間でもあるし、専属の動物たちも守っているからだ。


「あ、そうか…」と春之介は言って、三匹の動物を春菜に飛ばした。


春菜はいきなり目の前に現れた動物を見入って、すぐにしゃがんで頭をなでた途端に気付き、三匹を抱きしめて大急ぎで戻ってきた。


「…何とかなったぁー…」と春菜は言って、そこそこ大きく育ったゴールデンレトリバーのシュタインリッヒ、虹色ペンギン、黒い大きな袋ネズミを抱きしめた。


「虹色ペンギンはオールマイティーかもな。

 なかなか個体の能力が高い」


悪魔の子供たちはもうすでに知っていたようで、近くに必ず虹色ペンギンがいる。


このペンギンが天使の癒しの避雷針のようになっていた。


「…なんだか悔しいんだけど…」と優夏は言って苦笑いを浮かべた。


「まあ、春菜を外に嫁に出さなくて済んだようだから我慢してやって」と春之介が眉を下げて言うと、「春之介の行動に文句はないわ」と優夏は穏やかに言った。



翌日、春之介たちは観光旅行と称して子供たちも連れてフリージア星に渡った。


もうすでに、天照大神たちは雄々しき神の姿でスタンバイしている。


よって、春之介たちにバリアが張られているようなものだ。


特に秋之介は動物の姿で巨大で、両腕で春之介たち全員を包み込むことができる。


そして秋之介は何を思たのか、遮光器土偶の姿に変わった。


この辺りにいた半数以上がもうろうと始めた。


その半数は意識を断たれ、床に倒れ、テーブルに突っ伏した。


「なんだかよく理解できたよ」と源一は言って春之介と握手を交わした。


「秋之介は魔除けですので。

 特に何もしていません」


「セイント師匠の弟子のクマにも着せるかな?」と源一は言って、頭を抑え込んで地面にうずくまっているクマを見た。


するとリスが勢い勇んで走って来て、幼児の姿に変身した。


「セイント様、こんにちは」と春之介が気さくにあいさつをすると、「うん、こんにちは!」とセイントは機嫌よく叫んで挨拶を返した。


「秋之介、ほんと、すごいなぁー…」とセイントは言って遮光器土偶姿の秋之介を見上げた。


「ほんとはね、住まわせてもらおうって思ってたんだけど、もういいや」とセイントは陽気に言って、うずくまっているクマに術を使って遮光器土偶と同じ服を着せた。


クマは驚いたように首を上げ、おもむろに立ち上がって、後ろ足だけで立った。


「あ、魔除け効果が出ましたね」と春之介が笑みを浮かべて言うと、「すっごく戦力アップしたよ!」とセイントは上機嫌で言った。


すると、エメラルド・アレキサンダーが修練場から走ってやってきたが、ダブルの魔除け効果のあおりを食って地面に倒れた。


「クレオは別行動でもいいよ」と春之介が笑みを浮かべて言うと、「俺は観光に来たんだ」とクレオは堂々と言った。


「さあっ! みんなっ! 行くよっ!」と桜良が陽気に叫んで、子供たちの引率を始めた。


「俺の仕事はなくなったようです」と春之介は言って、意識を失っている源次郎とランス、そして御座成翔樹を見た。


「失礼な人たちだ…」と源一は言って苦笑いを浮かべた。


花蓮はこうなることがわかっていたのか、ここにはいなかった。


源一も同行するようで、春之介の隣に立ったり、クレオとコミュニケーションを取ったりと忙しく動き回っている。


「…存在が春之介のようだ…」とクレオは機嫌よく言った。


「総勢、300人の長だよ」と春之介が言うと、「内容の濃い300人だったな」とクレオは言って笑みを浮かべてうなづいていた。


「だけど、本隊が300人で、予備軍が一千万人だから」という春之介の言葉にはクレオは大いに目を見開いていた。


「…それで今の言動は普通だったらありえない…」とクレオは嘆くように言った。


「それなり以上にすごいお方なんだよ」


「おまえにもその資質は大いにある!」とクレオは言って力任せに春之介の背中を叩いて大声で笑った。


「そうかい、ありがと…」と春之介は言って痛む背中を何とかさすっている。


まさに観光旅行なのだが、見るべき場所はかなりある。


しかし、それほど急ぐことなないので、子供たちとも大いにコミュニケーションを取りながら、美術館から水竜博物館に移動した。


すると高龗の機嫌が大いに悪くなって、春之介に向かってすっ飛んできた。


「同じもの建てろって?」と春之介が聞くと、高龗は天照大神たちに連行されていった。


その二階にある愛と感動の博物館出張所は誰もが大いに感動していた。


謎に包まれていた品々を、源一と花蓮によって解明したものを展示してあるのだ。


すると優夏がすぐに春之介を見入ったが、また天照大神たちが連行して行ったので、春之介は小声で笑った。


「…美術品としても素晴らしいし、さらに鑑定士…

 というか探偵かぁー…

 源一様はかなりユニークだな…

 俺も何か考えよ…」



春之介たちは博物館の外に出た。


そして、一瞬だが天照大神は鼻をつまんだので、春之介は辺りを見回して、この場所からは見えないのだが、かなり離れた場所に大きなごみ収集所があるようだと感じた。


「源一様、ここにあるごみ、もらっていいですか?」と春之介は集積所に向かって言うと、「それなりの代金を支払うよ」と源一は機嫌よく言った。


春之介は辺りを見回して、ここにあってもおかしくないものと、ごみからの宝として女の子用のアクセサリー類を大量に造り上げた。


「はは! こりゃすげえっ!」と源一は大声で叫んで大いに喜んだ。


「本物にしか見えないところがすごいね…」と源一は言って指輪やネックレスを見入った。


「本物が何個かあります」という春之介の言葉に、家族たちは一斉にアクセサリーの鑑定を始めた。


「こらこら…

 ほかの観光客用だ」


春之介の無碍な言葉に、誰もが大いにうなだれていた。


「猫かぶっているヤツはすぐに見抜ける」と源一は巨大な台を出して、アクセサリー類を一瞬にして並べた。


そして、『無料 ひとり一点 本物もあり』と看板を建てると、「あははは…」と春之介は空笑いをした。


もうすでに観光客たちに囲まれていたが、体の大きいクレオと秋之介が怖いようで遠巻きにして見ているだけだ。


「師匠、水の城の監視をお願いします」と源一が言うと、リスを先頭にして動物軍団がすっ飛んでやってきた。


体高3メートルの遮光器土偶もいたので、誰もが一気に大人しくなった。


「もう安心ですね」と春之介は言って、源一とともに王都の食堂に戻ることにした。



ランスも源次郎も翔樹もまだ意識を断たれたままだった。


もちろん二人だけではなく、ほかにも数名眠っている者もいるし、もうろうとしている者もいる。


「もっと威厳を放った方がよかったか…」と秋之介が言うと、「十分だと思うよ」と春之介は言って、秋之介の背中を軽く叩いた。


「ああ、十分だよ。

 ほとんど予想通りだった…

 各部隊長も大いに考えるだろうね。

 礼をまとめてしたいけど、普通の報酬でもいいし、人材でもいい」


源一の言葉に、「では、なかなか素質のありそうな、死にそうになった人3名を」と春之介が言うと、「…追放しようと思ってたんだけどな…」と源一は大いに苦笑いを浮かべて答えた。


「目覚めると別人になっている場合もありますから」


「ああ、それは十分にあるね」と源一は陽気に同意した。


「死人を蘇らせたんだ。

 俺からは何も言うことはないから」


源一の友好的な言葉に、「鍛え甲斐もありそうです」と春之介は言って対象者の男性三人を起こして回った。


三人とも死後の世界の住人で、死神という種族だ。


一度は死んだのだが、悪魔によって肉体をもらった高い素質のある魂を持った種族としてさらに生きることになった。


もちろん、人間当時の記憶を持った幽霊と言ってもいい存在だ。


死神になると、基本的には空を飛ぶことができる。


そして長年修行を積むことで、勇者の道や神への道も開かれる。


その境遇によっては、天使にも悪魔にも転生することが可能となる。


永遠の命を得ることになるのだが、平均的な寿命は500年ほどだ。


どうしても長い生涯の中ですべてに納得するようで昇天する。


しかし実際は満足するケースはほとんどなく、ぼけて昇天するケースが、昇天の原因の99パーセント以上と高くなっている。



死神三人は事情を知って、まっすぐに立って姿勢を正して春之介に頭を下げている。


「ここに残っても構いませんし、

 環境を変えて俺の住む星に来てもらっても構いません」


春之介の言葉に、三人は躊躇することなく、顔を上げて、「よろしくお願いします!」と心の底から高揚感を上げて叫んで頭を下げた。


「野球人としても頑張ってもらうから」という春之介の言葉に、三人は大いに苦笑いを浮かべて顔を上げた。


「訓練は、野球のためだけじゃありませんから」


三人は納得してさらに頭を下げた。


すると妬みが流れてきたことを秋之介が察知して遮光器土偶に変身すると、また数名がその場で意識を断たれた。


「…悪化したね…」と春之介は辺りを見回して言った。


「いろんな環境で修行を積みたいだけで、

 それほどあくどいことは考えてないわ」


優夏の言葉に、春之介は笑みを浮かべてうなづいた。


「あ、そういうのもいいな…

 向上心といったところか…

 ふさわしい者を選定しておくよ」


源一の気さくな言葉に、「はい、お待ちしています」と春之介は笑みを浮かべて答えた。


その中で数名でも仲間になれば、春之介としては儲けものだった。


「夏介は預かったままでいいんですか?」と春之介が聞くと、「部隊を持たせたいんだ」と源一は心からの笑みを浮かべて、夏介のステップアップについて口にした。


「それはいい!」と春之介は大いに賛同したが、夏介はかなり微妙な笑みを浮かべていた。


「何事も経験だ。

 やれることは今のうちにやっておけばいいさ」


春之介の気さくな言葉に、「…追い出されるわけじゃなさそうなので、従いますぅー…」と夏介は渋々言った。


「追い出すもんかい。

 チームメイトとしては今まで通りだからな。

 都合がついたら野球にも参加してほしい」


「都合よく、スケジュール管理しますから…」と夏介は言って頭を下げた。


クレオはこの様子を見ていて、感慨深く何度もうなづいている。



昼食を摂ろうと席についていたのだが、クレオが子供たちに連れ去られた。


今はフリージアと春之介の子供たちの連合軍で席についていた。


「…まあなんと、軍隊以上だね…」と春之介はフリージアの子供たちを見て言った。


「悪魔ちゃんたちと同じよ」と優夏はわが子自慢のように言い放った。


「牙の抜けた悪魔があれほど強くなるとはね…

 生まれたばかりでまだまだ子供なのに…

 できれば、ひとりだけ試してもらいたいのだが…」


源一が申し訳なさそうに言うと、「どなたです?」と春之介が聞いた。


「ロストソウル軍の元総司令官、万有アイリス」


「なかなかの強敵になりそうだわ」と優夏が陽気に言った。


そして源一は、アイリスのいる場所を見て、春之介はすぐに察して、「案外資格がいるものなんです」と言って、魂たちと相談した上、三匹の白い動物たちをアイリスに抱きつかせた。


「なんだなんだなんだっ?!」とアイリスはいきなり叫んで飛び上がると、源一は腹を抱えて笑い始めた。


「ここからです」と春之介が言うと、源一とその周りにいる者たちが固唾をのんだ。


「…なんだ?」とアイリスは言って、立ちすくんだままつぶやいた。


「…ちょっと厳しいか…

 虹色ペンギンがいた方がやはり強力なようですね…」


虹色ペンギンを持っているのは、今は春菜しかいない。


「…いい子になったお礼をするわ…」と春菜は言って立ち上がって、アイリスの元に行くと、眉を下げて春菜と挨拶をかわした。


アイリスは春菜に、―― 仲間がいた… ―― という目を向けていた。


「誰でもいいというわけではありませんし、

 都合よく相性がいい動物がいるとは限りませんから。

 アイリス様はついていたと思います。

 花蓮様の場合、虹色ペンギンを外せないと思います」


すると風に紛れるように花蓮が姿を現して、「…優夏の星に行くぅー…」と眉を下げて源一に言った。


「私としても、さらに強くなってもらえば都合はいいの。

 だけど、星を抱えてるんでしょ?」


優夏の気さくな言葉に、「…どーしよー…」と眉を下げて言ってすぐに、「みんなも鍛え上げられたから、ひとりくらいいるんじゃないの?」と優夏は春之介に聞いた。


「まだ袋の中だけど、一家ごとついてもらえば可能かな?

 虹色が濃い子がいる一家だよ」


「…あー… 一番かわいい子をお嫁に出すのね…」と優夏は言ってうなだれた。


「いや、無理なことは言わないけど…

 優夏さんの態度がやけに柔らかいね…」


源一が眉を下げて聞くと、「宇宙の母と天秤にかけてますから」と春之介が少し愉快そうに答えた。


「ありがたいことだ」と源一は言って、春之介と優夏に頭を下げた。


「問題はゼルダが許可するかだけにかかっています。

 ですが、説得の材料は今話したことだけで十分です」


春之介が言ったとたんに、その虹色ペンギン一家が花蓮にしがみついた。


そして、花蓮の目の前に、小さな白いポニーと翼を持った白い猫が姿を現した。


「…こりゃまた…」と源一は言って苦笑いを浮かべた。


どちらの動物も源一と花蓮のお気に入りだった。


さらには花蓮の肩の上に、ウサギのようなネズミが姿を見せた。


「仕事になっちゃったっ!」とウサネズミが言葉を発すると、「…強く、なったわぁー…」と花蓮は薄笑みを浮かべて言って、動物たちにやさしく接した。


「あら、随分とステップアップ…」と優夏は眉を下げて言った。


「まさに穏やかだ…

 春之介、本当にありがとう。

 今の花蓮さんに惚れ直した気分だよ。

 もう返し切れないほどの恩を受けたから、

 俺も本気になって、鬼ともなろう」


春之介は言って、ランス、源次郎、翔樹を消した。


「そのうち、改心するでしょう。

 松崎拓生様の腕の見せどころといったところですね」


「改心させる、ピンポイントの相手が必ずいるはずだからね。

 俺では無理なようだから、

 しばらくは監督してもらった方がよさそうだ」


春之介は瞳を閉じて、「…実は困ったことにここにいるのですよ…」と眼を開いて言った。


「ほら、帰ってきました…」と春之介が言うと、源一は母屋を見て、「…それは言えるね…」と言ってから立ち上がって、安藤サヤカとデッタに向かって歩いて行った。


「…源次郎の娘に説教させるのね…

 だけどランスは?」


「花蓮さんと、そのお友達一同…」と春之介がつぶやくと、「任せて」と花蓮は胸を張って言ってから、動物たちとともに消えた。


「ランスさんは強敵だからね。

 最高の部隊をもって説教するしかないと思う。

 セイラ・ランダ様と松崎カノン様は関係者だし。

 俺たちのように、青春を謳歌した仲間だ。

 それで改心しなきゃ、ほかを当たるしかないね。

 なんだったら、ふたりのセイント様、

 ふたりそろって説教してもらってもいいほどだから」


「なかなかの強力タッグね…」と優夏は眉を下げて言った。


「問題は、ふたりが融合するかもしれないと考えられることだけだ。

 できれば接触させない方がいいのかもしれない。

 融合すれば、優夏の強敵になりそうだぞ」


「…超えられてしまうかもね…」と優夏は感情を一変して、今の姿のまま畏れを流したが、すぐに止めた。


「平和であればそれでいい」と優夏が穏やかに言うと、春之介は笑みを浮かべてうなづいた。



食後も、桜良の引率で観光地を巡る楽しい時間を過ごしたが、まだまだ見るべき場所はかなりある。


夕方になった時に、ようやく半分回れたといったところで、できれば長期間滞在したい場所もある。


ホテルもそのひとつだし、素晴らしい人口のキャンプ場もある。


桜良が陣頭指揮をとって造り上げた施設なので、かなり機嫌がよくなっていた。


「ゼルダ君の星にも創るよ!」と桜良が陽気に言うと、「暇つぶし程度でゆっくりでいいから」と春之介が言うと、「…もう、帰るぅー…」と桜良が言い始めた。


「夕食は帰ってしようか…」と春之介は言って、源一と花蓮を探したがいなかったので、タクナリ・ゴールドと挨拶をかわして帰る意思を伝えた。


しかしタクナリは大いに興味を持って春之介を見入って、「ひとつだけ教えていただきたいのです」と言ってきた。


「ええ、構いませんよ、ふたつでもみっつでも」


春之介の気さくな言葉に、タクナリは苦笑いを浮かべて首を横に振ってから、真剣な眼を春之介に向けた。


「あなたの、最大の武器は何でしょうか?」


「仲間と家族と、大勢の魂たちです」


春之介が即答したので、タクナリの腰が引けていた。


「俺自身なんて大したものじゃないです。

 みんなのおかげで持ち上げられて成長できただけですから」


「…やはり、そうだったのですか…

 あ、いや、失礼…」


タクナリは失言だったと思ってすぐに謝ったのだ。


さらには眉が上がっている優夏が怖かったようだ。


「威嚇すんなよ…」と春之介が眉を下げて言うと、「…かなりの常識人だから許しちゃったわ!」と優夏は機嫌よく言った。


「ほかにはありませんか?」と春之介が催促したが、「この先は、俺のわがままですから」とタクナリは言って頭を下げた。


「そうでもないと思いますよ」と春之介は言って、優夏の指輪に指をさした。


「あなた方は特に、この指輪が欲しいはずです。

 術を大きくすることが、

 タクナリ様のお仲間たちの能力をさらに上げる原動力になるはずだからです。

 花蓮様に大いに嫉妬しているお仲間もいるようですから」


「申し訳ございません」とタクナリは言って頭を下げっぱなしになった。


「誰に創って上げるのかが、すっごく問題になるわね…」と優夏は言って指輪を見つめた。


「そうだね、資格のない人が多すぎるのも問題だね…」という春之介の言葉に、タクナリは頭を下げたまま、心もうなだれていた。


「タクナリ様のパートナーが現れてからでもいいと、俺は思っています」


「えっ?」とタクナリは言って頭を上げて、困惑の眼を春之介に向けた。


「おかしいですね…

 パートナーはいないと思っていたのですけど…」


「真のパートナーじゃないからよぉー…」と優夏が眉を下げて言った。


「この場面で、タクナリ様の隣にいないことがおかしいんです」


「…はい、おっしゃる通りでした…」とタクナリは少し悔しそうに言ったが、大いに後悔もしていた。


見る目がまるでないと、痛感していたのだ。


「万有向日葵様は、それほどでもなかったようですね…

 さすがに離婚はできないでしょうが、

 仕事の上でのパートナーは必要でしょう。

 しかし、俺たちの何が怖いんでしょうか…」


春之介は言って、テーブルの下に隠れてしまった向日葵がいた席を見入った。


「天照ちゃんたちに当てられちゃったのよ…」と優夏はさも当然のように言った。


「その威厳だけで昇天しそう、か…」


「いいように言えばその通りね…

 まだ産まれて二年ほどだもの、

 当たり前と言えば当たり前。

 あと10年ほど、長い目で見た方がいいのかもね…

 その間に、指輪の適任者も増えると思うわよ。

 だけど、もう駄目なのかも…」


タクナリの部隊はもう崩壊寸前だと春之介は感じていた。


「優夏と離婚だけはしないようにしよう」と春之介は言って、タクナリに頭を下げて、母屋の隣に建ててある社に入って行った。



「…フリージア星に行きづらくなったな…」と春之介が言うと、「この程度のことを気にしてちゃ、何もできなくなっちゃうわよ」と優夏に言われて、「そりゃそうだ!」と春之介は陽気に言って、子供たちと追いかけっこを始めた。


「…ああ、素敵なパパでよかったわぁー…」と優夏は感情を込めて言った。


「…第三者的視点で見ると、春之介が壊したようにしか見えない…

 だが、悪い膿は今出しておくことが重要…」


「さすがお兄ちゃん!」と優夏は浩也に陽気に言った。


「すべては源一が抱えればいいだけなの。

 夏介はその右腕になれるから」


「夏介は一気に王様かい?」


「源一がその意思を示したじゃない、部隊を持たせるって決めた時点でね」


「ひとつ消したが、ひとつ生まれたか…」と浩也は言って笑みを浮かべた。


「源一だって普通じゃないわよ。

 絶対に敵にはできないの。

 だから、距離を取って生活することは重要なの。

 さらに、その実情も知っておくべきだったの。

 もしここまで計算していたんだったら、

 春之介を怖く感じるわ…」


「偶然や幸運も実力のうち」


浩也の言葉に、優夏は大いに納得して、心配そうな顔をしている真由夏に浩也の隣に立たせた。


「いつも堂々として、そばにいてあげて」と優夏がやさしい言葉を投げかけると、「うん! お姉ちゃんっ!」と真由夏は叫んで、優夏を抱きしめた。


真由夏は浩也とともにいることを望んで、厨房に連れ込んで夕食の準備を手伝わせた。


「…あんた、詰まんなくなっちゃったわね…」と優夏がクレームがあるように春菜に言うと、「…今が真の私…」と春菜は穏やかに答えて、シュタインリッヒに抱きついた。


「犬もいいわね…」と優夏が言うと、夏之介がすっ飛んできたのですぐに抱きしめた。



「こらっ! 天照っ!!」と源一が今までないほどの勢いで叫んだ。


確実に緊急事態だと思って、誰もがすぐにやってきて春之介を囲んだ。


「…お願いされたからぁー…」と天照大神は言って悲しそうな顔をした。


「源太様も源太様です!」と春之介は天照大神の肩にいる小人に向かって叱った。


「源一様に伝えてここに来たんでしょうね?」


「…今伝えたぁー…」と源太が言ったとたんに源一が源太から飛び出してきた。


「また迷惑をかけてしまった」と源一は言って春之介に頭を下げた。


「…あー、よかった…」と春之介は言ってほっと胸をなでおろした。


「誘拐したなんて思ってないさ」と源一は気さくに春之介の肩を叩いた。


「…反対するもーん…」と源太が言うと、「当たり前だ!」「当たり前です!」と源一と春之介が同時に叱った。


「おー…」と源一と春之介が同時に感動してうなって握手を交わした。


「別にいいじゃん、穏やかだよ?」とゼルダがのんきそうに言うと、「そうは言っていられないんだよ」と春之介は少し眉を上げて言った。


「…ふーん… 重要人物ってことは理解できていたけど…」


「源太はフリージア星そのものなんだ」と源一が言うと、誰もがすぐに春之介を見た。


「…俺とはお仲間だよ…」と春之介はため息交じりに言って、苦笑いを浮かべた。


「逆だったら怒り狂うわね」と優夏がさも当然のように言うと、誰もが一斉に源一に頭を下げた。


「俺たちは別にいいんだ。

 だけど、源一様たちの部下たちの心情を考えて

 行動してくださらないと困るんです!

 誰もが人質に取られたと思うはずなんですから!」


源太はようやくそれに気づいて、「…ごめんなさい…」とうなだれて謝った。


「もうこの時点で、源一様の側近は疑ったはずです!

 そして俺に頭が上がらないような約束をさせたなどと考えたはずですから!

 それなり以上の猛者たちが動くと、戦争にもなりかねないんです!」


「花蓮さんに探らせて固めたから…」と源一は眉を下げて言った。


「この件を悪用して迫ってくる者もいるんです」と春之介がさらに言うと、「…出入り禁止にするぅー…」と源太は言って、上目遣いで春之介を見た。


「何人かはやってくるな…」と源一は言って苦笑いを浮かべた。


「妬む心はいつ沸いてもおかしくないんです。

 平等だからこそ、穏やかな感情を維持できている者もいるはずです。

 この件だけは、そう簡単には未来を予測できるものじゃないんですから」


「一輝さんも、源次郎さんもランスさんもその典型だったよ…」と源一が眉を下げて言うと、一輝は大いに苦笑いを浮かべていた。


「ご迷惑でしょうけど同情します」と春之介は言って源一に頭を下げると、「わかってもらって光栄だ」と源一は陽気に言って、春之介と肩を組んだ。


「じゃ、今度は俺が春之介を誘拐するから。

 源太、帰るぞ」


源一が言った後すぐに三人は消えた。


そして神たちは社に入って、ここからフリージア星の様子を探り始めた。


フリージア星に姿を見せると、護衛付きになってしまうからだ。


「ここはパートナーとしては我慢のしどころね…

 春之介のヤツ、この短時間で浮気とかしないかしら…」


「そっちの心配かい?」と浩也は言って陽気に笑った。


「もし誘拐されても、強い味方は大勢いるから。

 春之介に指一本触れられないわ。

 神たちも飛び出す準備はできてるし」


すると春之介は社から出てきた。


天照大神は必死になって謝っているが、春之介は笑みを浮かべて抱き上げた。


するとゼルダが飛んできて、「人間ってめんどくさい」と言うと、春之介は大いに笑った。


「悪意のないちょっとした行き違いが大戦争を引き起こす場合もあるんだ。

 ゼルダも星の管理者として正してもいいんだぞ」


「今は問題ないから別にいい」と言って機嫌よく春之介の肩に止まった。


「赤い実の果実増やして」とゼルダが言うと、誰もが大いに笑っていた。


「ああ、そうしよう」と春之介は言って厨房に向かって歩いた。


「…子供か弟扱いだな…」と浩也が陽気に言うと、「この平和な星が好きだわ」と優夏は言って、機嫌よく虹色ペンギンを抱きしめた。



夕食中に、「優夏の弱点ってないようだね?」と春之介が聞くと、「春之介」とさも当然のように優夏は答えた。


「…なるほど… それは嬉しいね…」と春之介は言って優夏に満面の笑みを向けた。


「…恋人、欲しいー…」と春菜は大いにうらやましがった。


「そんなものは大人になってからでいい」とクレオが言うと、「生き甲斐が沸くじゃない!」と春菜は大いに反論した。


「あんたはまずは、

 ここにいる緑竜フォレストのようにひとりで生きるべきじゃないのか?」


孤独の第一人者のクレオの言葉には重みがあるので、さすがの春菜も反抗できなかった。


「面倒事になりそうでイヤだけど、春菜にとっては必要かもね」と春之介も同意した。


「…自信を持てない私がいるぅー…」と春菜は言って頭を抱え込んだ。


「甘いけど、上司部下として夏介の配下に下るのは第一歩としてはいいと思うね。

 いきなりひとりになると、何をどうすればいいのか全くわからなくなって、

 正しい道を見つけられないかもしれない。

 こじつけでも、少しずつひとりになれる知恵などを蓄える必要があると思う」


春之介の言葉に、クレオは大きくうなづいた。


「…追い出すの?」と春菜が春之介に聞いてきたが、「そんな面倒なことは本当はしたくないほどだと言ったぞ…」と眉を下げてめんどくさそうに答えた。


「帰る場所はここでいいの?」と今度はゼルダに目を向けて聞いた。


「好きにしていいよ」と小人のゼルダは言いながら、赤い木の実をほおばって幸せそうな顔をした。


「…それほど頼りにされてない…」と春菜が言うと、「春之介のお願いを聞いているだけだもん」とゼルダが言うと、誰もが大いに苦笑いを浮かべた。


「重ねて言っておくが、ここは俺の所有する星ではない。

 ゼルダの保有する星で、

 動物たちにも頭を下げて住まわせてもらっていることを忘れないように」


春之介の言葉に、誰もが一斉に頭を下げた。


「…あはは… 春之介はそういう人だからね。

 だから好きだ」


ゼルダの言葉に、春之介は笑みを浮かべてゼルダの頭をなでた。


「…私たちって、動物たちのペット…」と優夏が嘆くように言うと、「そこまでは考えてないから…」とゼルダは眉を下げて言った。


「朗らかに共存する、でいいんだよ」と春之介も眉を下げて言った。


「…うふふ… 優ちゃんが壊れてきたわ…」と春菜が嬉しそうに言って仲間ができたように喜んでいる。


「地球でもここでも、春之介に住まわせてもらってる…」と優夏は言って、春之介の右腕を抱きしめた。


「…べたべたすんなぁー…」と春菜は悔しそうにうなった。


「人の行動を気にしすぎ…

 だからこそ、孤独になる必要もあるんだよ。

 本当の世間の厳しさを知って来ればいい」


春之介の少し厳しい言葉に、「…わかったわよぉー…」と春菜は言って上目づかいで春之介を見た。


「今夜、帰ってくるに一票!」と優夏が陽気に言うと、「意地でも帰ってこないわよっ!」と春菜は大いに憤慨して叫んだ。


「追い出されて帰ってくるに一票」とクレオが言うと、「…シャレになってないから…」と春之介が眉を下げて言った。


「…最低でも、追い出されて帰ってくることにするわぁー…」と春菜は気合を入れて言った。


「ホームシックになって帰ってくるに一票」と浩也が言った途端、春之介と優夏が大いに笑い転げた。


「…そんなことはないと言い切れない私がいるぅー…」と春菜は言って、悔しそうな目をして浩也をにらんだ。


「動物たちの存在を忘れんなよ」と春之介が釘をさすと、「…真の孤独じゃないだけマシ…」と春菜は言って、笑みを浮かべて動物たちをやさしくなでた。


「誰にでも心のよりどころは必要だから。

 全くの孤独を味わった人はそれほどはいないから。

 その世界で暮らした時、いいものはまるで見えてこないように思う。

 だけど、その世界で生きた人はいるんだよ。

 食べられる植物と生物は自分一人だけ。

 その世界で15才の時から60年…

 とんでもない修行だよ…」


「…普通、曲がっちゃうわよ…」と優夏が嘆くように言った。


「その人を見つけて師匠にすればいいさ」という春之介の言葉に、春菜は、「聞いて回るわっ!」と高揚感を上げて叫んだ。


「何の罰だ?」とクレオがさも当然のように春之介に聞いた。


「面倒な存在だったから閉じ込められたそうだよ。

 もちろん、悪いことなど何もしていない。

 未来に、とんでもない魔王になることがわかっていたそうだ。

 信じられない話だよな?」


「…未来を見てきたようなことを…」と優夏は言ってハタと気づいて、「クロノスの仕業かぁー…」とうなって、ここにいる山王恭司をにらみつけた。


「あははっ! ごめんねっ!」と恭司は陽気に叫んだ。


「やってはいけないことをやった典型だから、

 大いに教訓にするように。

 そのしりぬぐいは、自分ではなく誰かに振って沸いてくるものなんだよ」


「…春君が叱られちゃう…」と春菜が悲しそうな顔をして言った。


「…迷惑かける気満々だな…」と春之介は眉を下げて言った。


春之介たちはまずは春菜をフリージアに送り届けて源一に事情を話した。


今回は騒ぎになることなく星を離れて仕事に出かけた。



今回も充実した星の復興をこなして、春之介たちは子供たちが待つゼルダの星に戻った。


「…春菜は追い出されなかったようだ…」と春之介がほっと胸をなでおろして言うと、「…きっとね、部下を作っちゃったはずよ…」と優夏はさも当然のように言った。


「…自慢するために帰ってくる…」と春之介が大いに苦笑いを浮かべて言った。


「もしその通りになったら、また説教されるだけなのに…」と優夏は眉をひそめて言うと、「孤独をどう生きるかの修行なんだけどな…」と春之介はため息交じりに言った。


「伝えたよ!」と天照大神が胸を張って言うと、春之介は天照大神を抱きしめて頭をなでた。


「で、どんな感じだったの?」


「お話の通りだったよ!」と天照大神は陽気に答えると、春之介と優夏は顔を見合わせて苦笑いを浮かべた。


「だけど、仕事中じゃなかったの?」と春之介が天照大神に聞くと、「源太君の息のかかった人に伝えてもらったの!」と陽気に答えた。


「…神のネットワークはもう構築されたようだね…」と春之介は眉を下げて言った。


「あ、相手は夏介だよ!」と天照大神は陽気に言って、春之介の腕から離れて子供たちに合流した。


「…夏介は確実ににらまれただろうな…

 まあ、司令官としてはこれは試練だから別にいい…」


春之介の無碍な言葉に、優夏は夏介に同情して眉を下げた。



数日後、春之介たちは試合をするためにフリージア星に渡った。


今回はチームがひとつ増えたので、新設したミラクルゼルタウロススタジアムで二試合を行うことになっている。


第一試合はドズ星軍とイチガン軍で、第二試合でゼルタウロス軍とレディーエンジェル軍が戦う。


春之介の相手選手は、チーム名のごとく全員女性だ。


食卓で全選手200名ほどと顔合わせをした時、「…なめてはないと思うけど…」と春之介は眉を下げて言った。


レディーエンジェル軍のキャプテンは皇澄美で、しかもオーナーでもある。


だが選手のほとんどが一般人でしかありえなかった。


中心選手は、澄美を含めて6人ほどしかいない。


「…野球、それほど好きじゃないのにぃー…」とひとりの女性が甘えるように澄美に言った。


「何事も経験よ」と澄美は薄笑みを浮かべて言った。


しかも、力を持つ者には野球の素人が3人いた。


練習はしたのだろうが、明らかに嫌がっている。


「…演技じゃないわ…」と優夏は眉を下げて言った。


「死ぬことはないから大丈夫だろう。

 だけど、恐怖は感じるはずだから、

 審判に退場を言い渡されるかもね」


春之介の声が聞こえたようで、澄美は目を見開いた。


そして春之介たちに近づいて、「そんなルール、聞いておりません!」と澄美は胸を張って言った。


「まさか、今回の改訂版しか読んでないんですか?」という春之介の言葉に、「…そうだったのかぁー…」と澄美は大いに悔しがって言った。


「基本的には通常の野球のルールで、

 その他決め事は何も変わっていないので」


春之介は言って、厚みのある冊子三冊を澄美に渡した。


「…源次郎の奴ぅー…」と澄美はうなってから、頭を下げて冊子を受け取った。


そして、『ゲーム進行上のモラル』を開いてすぐにその文面を見つけた。


「明らかな実力不足者は確認次第即退場…」とつぶやいてからうなだれて、「…こんな簡単なミスを…」と大いに悔しがった。


「万有様にお願いして、野球好きの猛者たちを借りた方がよさそうですね」


「…源一は敵ぃー…」と澄美は小声でつぶやいたが、この星から消えることはない。


敵と言ったがライバルという意味だ。


「今すぐだったらその道しかないと思います」と春之介が言うと澄美は納得したようで、春之介に頭を下げて、チームメイトのもとに戻って行った。


「…うずうずしてる人多いわよ…」と優夏が陽気に小声で言うと、「参戦を狙っていたと思う」と春之介も陽気に答えた。


源一としては願ってもないことだったので、50名ほどの猛者たちを澄美に託した。


まさに試運転にはもってこいだったようだ。


「…はは、見た目はかなり怖ええ…」と春之介は言ったが、「…ま、俺たちの相手ができるのは数名だな…」と優夏は言って不敵に笑った。


「万有マサカリ様…

 万有様の左腕で、かなりの能力者。

 そして、鍛え上げる必要がないほどの猛者。

 なんだか、すごい修行を積んだようだね。

 実戦というよりも、また別の何か…

 ああ、そうか…

 悪竜退治用の鍛冶職か…」


春之介は始めて夢見に出た時の悪竜退治用の道具を思い出していた。


「パワーは誰よりもある。

 ただ唯一、ボールをスタンドに運べる実力者には違いなさそうだ。

 速球勝負の俺の出番はない」


優夏はにやりと笑って春之介を見た。


「…引き受けるさ…」と春之介は小声だが、その言霊には畏れが乗っていた。


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