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ミラクルマンダッシュ!  作者: 木下源影
13/25

続々々々々々々々々々


     13


翌朝は春之介の言葉通り、マグマ炊きの飯を大いに炊いたが、さらに追加で炊くことになった。


特に女子たちには不評で、「…太っちゃうぅー…」と苦情を言いながらももりもりと食べた。


よってただひとり春菜だけには、いつもの炊飯器で炊いたご飯を出している。


「…その喜びを分かち合えないことが辛いぃー…」と春菜は大いに嘆いたが、春夏秋冬が作った料理は絶賛した。


そして神たちは本来の姿に戻って、いつも以上にもりもりと食べている。


「…これは何かお礼をしないと、罰が下りそうだ…」と巨体の益荒男がうなった。


「俺の組み手の相手のお礼」という春之介の言葉に、「…あいわかった…」と益荒男は言って笑みを浮かべた。


本人が納得できればいいようで、今のところは機嫌よく納得したようだ。


「…私もなにかしたぁーいぃー…」と幼児サイズの水竜姿の高龗が言うと、「あ、そういえば、水竜が吐いた水は美肌効果があるとか」と春之介がいうと、「あー…」と水竜は言ってからコップの水を飲みほしてから、コップに水を吐いた。


「…まあ、妙な気分だろうけど、出した水の出所は胃袋じゃないから…」と春之介は眉を下げて言うと、誰もが眉を下げていた。


水竜から吐き出された水は無色透明で匂いもしない。


春夏秋冬が水質検査をして、「大いに、美肌効果が認められます」と言ってから、ティッシュを軽く濡らして、夏樹に渡した。


「…臨床実験ってわけね…」と夏樹は大いに苦笑いを浮かべて手の甲を拭いただけで、「あら?」と言ってもう効果が出ていることに驚いて、腕にも塗って優夏の肌と比べ初めて大いに喜んでいる。


「飲むと内臓が若返りますが、

 飲み過ぎると太ります」


春夏秋冬の言葉に、「…飲まない方がいいのかもぉー…」と食事の量と飲用することを大いに天秤にかけて考えて女性たちは嘆いた。


「女性が幸せになる水だね。

 飲用不可として小さなスプレーで販売してもいいかもね。

 水竜高龗の美肌神の水」


「…お願いされないと売らないぃー…」と水竜が言うと、女性たちは一斉にお願いをした。


まだまだ若い女子高生が使うと、その肌はまるで赤ちゃん肌のように柔らかくなったことで大いに喜んだ。


特に真奈の場合は顔つきまでがやさしく変わって、麒琉刀が大いに赤面していた。


「…学校で売るぅー…」と優夏が言い始めたので、「まずは近いところから臨床実験でもいいと思う…」と春之介は言って、30ミリリットル入る小さなスプレーを出して、水竜の水を入れてラベルを張った。


「試供品だから無料配布でもいいけど、

 臨床実験だから100円だけでももらっとく?」


「少しでも恵まれない子供たちのために…

 500円」


優夏の言葉に、「試せば効果がすぐに見えるからね」と春之介が言って、500円で販売することになった。


ここに教師がいることで、校長にも許可を出してもらいやすい。


まずはそれをクリアにしてから、早ければ今日の昼休みに販売することになった。


しかし実際は一時限目が始まる前に、女性教師が一年一組にやって来て、500円を支払って水竜の水を買い、その効果を実感して大いに喜ぶと、一組の生徒全員が購入した。


もちろん男子が購入したのは、母親や姉、祖母、叔母のための土産のようなものだ。


「絶対みんなに何か言われちゃうぅー…」と沙耶夏は大いに喜んで、スキップを踏んで教室を出て行った。


「例外なく、誰でもなんだな…」と春之介は言って大いに苦笑いを浮かべた。


「人体に対するアレルギーや肌の負担になるものは何も配合されていません。

 その浸透力がどんな化粧品よりも素晴らしいんです。

 これも神通力の効果だと思います」


「売り上げ、もう二万五千円…」と優夏はぼう然として言ってからすぐに笑みを浮かべた。


「ふむ…」と春之介は言って、一番効果的なことを考えてすぐに春拓にメールをした。


「今度は何するの?」と春菜が聞くと、「児童保護施設で売ってもらって、売上金はそこで使ってもらう」と春之介が言うと、クラスメイトたちは、「それが一番確実だ!」と大いに賛同した。


「時間が経てば悪いことを考えるヤツも出てくるから、

 地元の警察にも協力してもらって、

 警備と相談を強化してもらえばいい。

 防犯はこれだけでもいいし、

 地元の魂たちが守ってくれるはずだし」


春之介の願いは、魂たちには届きやすい。


さらには仕事をもらうことにで大いに喜んで満足感を得て、魂によっては転生するものもある。


「もし、肌に障害が出た時、

 根本的な解析も即座にできるから。

 誰にも文句は言わせない」


春之介の堂々とした畏れが乗った言葉に、クラスメイトたちは大いに眉を下げていた。


「…春之介は社長業も簡単にできちゃうと思う…」と麒琉刀が眉を下げて言った。


「だけど、容器に詰めるだけでもそれなりの労力よ?」と春菜が聞くと、「俺が高龗を抱えておけば瞬時に量産できるから、昼休みだけでも一千万個ほどは簡単に用意できる」と春之介は豪語した。


「全部、売り切れると思うぅー…」と優夏は言った。


「配達は神たちに頼むから、

 今回はまるで経費は掛からない。

 この商品だけはこの扱いでいいと思う。

 足りなければいつでもいくつでも量産するから。

 日数が経って古くなれば効果が薄れるから新鮮第一の面もあるんだ。

 まあ、ひと月ほどは問題なさそうだけどね」


「販売店が比較的どの町にもあるから便利だわ。

 それに、きっと幸せになれる子もいると思う」


優夏が笑みを浮かべて言うと、「そうだね、売り子として多くの人と接することで、見染められて里子に出る子も大勢できるはずだからね」と春之介はすぐに答えた。



春拓から折り返し連絡があって、長官が興味を持ったので商品を送ってもらいたいと言ってきた。


春之介は天照大神を呼び出して、高龗を抱きしめて瞬時に山ほど商品を創り出して配達を頼んだ。


「このラベルを読めないと効果が出ないようにしちゃうぅー…」


高龗の言葉に、「…まあ、難読漢字には違いないな…」と春之介はラベルを見て言った。


製造と販売は、着せ替え人形と同じで、『八草ものづくり工房』となっている。


「…あ、俺って社長だった…」と春之介は今更ながらに気付いた。


「私、社長夫人だったわぁー…」と優夏は陽気に言って、上機嫌で春之介を抱きしめた。


社長という言葉の響きだけに反応しただけで、特に他意はない。


「寄付金の世界第一位の企業となりました」と一太が言うと、「最近の売り上げはほとんど、寄付に回ってるからね…」と春之介は苦笑いを浮かべて言った。


「なんだったら、

 一般的な幸せ以上のものを今の若さで簡単に手に入れることもできるけど、

 どうする?」


春之介の言葉に、その対象者の一部は少し戸惑った。


「今回の件は春之介の手柄でしかないから、

 老後の心配をしなくていいようにだけして欲しい」


麒琉刀の現実的な言葉に、「そうしておこう」と春之介は言って笑みを浮かべた。


「メイドたちの半数ほどは考え込みそうだからなんかイヤ」と春之介が言うと、「それも当然だと思うわよ」と優夏はさも当然のように言った。


結局はVIP待遇を受ける場合、金持ちになれば認められる面もあるからだ。



春之介が注意事項を数点書いて天照大神に渡すとすぐに、天照大神と高龗は消えた。


すると数秒後に、『とんでもないお方を遣いに使うな』と、春拓からの短いメールが届くと、春之介は腹を抱えて笑った。


その数分後に天照大神たちは帰ってきたのだが、「欲を持ったから鉄槌を落としてやったわ」と大いに憤慨して言った。


「金銭面じゃないと思うけど?」と春之介が聞くと、「長官のヤツがひとり占めしようとしたのっ!」と天照大神が叫んだ。


「長官の弟に言いつけてやる」と春之介が言うと、誰もが大いに笑って、バツが悪そうな顔をしている健太郎を見た。


この件については各自治体を通して当日中に連絡は完了したので、施設側は商品を受け取るだけとなった。


すると翌日の早朝に、新聞配達ではなく各施設に天照大神が現れて、手渡しで商品を渡して回った。


その地域によって数は様々なので、特に都心に近い施設は山のように商品が積み上げられた。


もちろん、地元の警察にも連絡が行っていたが、誰もが半信半疑だった。


だが夕方から販売が始まり、試供品を試すと飛ぶように売れ、販売は児童保護施設だけという情報も正確に伝わり、次々と完売する施設が出た。


もちろん千葉県でも販売を開始して、新設した児童保護施設は大勢の子供たちが販売員を務めた。


ネクストキオスタジアム周辺は、まさに芋の子を洗うような騒ぎとなっていた。


春之介は今日の修行を商品の製造にすることにして、売り切れた施設の補充分だけを創り上げ、午後7時にすべての販売を終えた。


「今日のところは、ゴージャスな夕食を食べさせてもらえるだろうね」


春之介の言葉に、「貧富が逆転したかもぉー…」と天照大神が眉を下げて言った。


売り上げが一番少ない施設でも、わずか3時間で100万円ほどは売った。


よってそれなり以上に潤ったはずだし、水竜の水の効果は一日から一週間ほど維持できるので、なくなればまた買いに来る。


購入は一日にひとり一本と決まっていて、この管理は魂たちが正確にしているし、ごまかせば販売を拒否することに決められている。


騒ぎになれば警察が飛んでくるので、今日のところは騒ぎは起きなかった。



『ジャパンミラクル!!』とテレビ画面に大きな文字で報道され、日本人以外の外国人が世界中に大いに広めたのだ。


どの国もやはり若々しさは大切なようで、各国の首脳から日本国に対して問い合わせがあった。


よって春之介にも連絡があったので、「日本の特産品」と不愛想に答えた。


欲しければ日本に来て買って帰れということだ。


そうすれば、観光客でさらにごった返して、多くの外貨を稼ぐことができる。


それでは不平等なので、神たちが思い入れがあり堅実な街にだけ商品を送った。


これでさらに児童保護施設の運営資金は潤って、貧富の差はほぼなくなっていた。


本来ならば、ドズ星軍とイチガン軍の試合を見に行くはずだったが、春之介と優夏だけは辞退した。


よって春菜が団長になって観戦に行き、イチガン軍が10対8で勝利した。


もちろん春之介と優夏は映像で観ていたので、この勝利の差が投手力にあったことはよく理解できた。


「…春君と優ちゃんが来てないから、源一のヤツ元気がなかったわよ…」


春菜の言葉に、「男に惚れられてしまったな」と春之介は言って少し笑った。


「…地球はもういいだろう…」と春之介は言って、決意の眼を仲間たちに向けた。


「高校生活を続けようと決意したばかりだけど、

 俺たちが住む星を探しに行くことに決めた」


ついにこの日が来たと、春之介に近い者から順に頭を下げた。


「まず作戦としては、万有様のご機嫌取り」と春之介が言うと、誰もがくすりと笑った。


「宇宙船と乗組員を選定して旅に出る。

 だけど、ここでイレギュラーが発生する場合があるかもしれないから、

 臨機応変に対応する。

 そのイレギュラーは、フリージア星は万有桜良様が創られたことにある」


さすがに誰もが大いに驚いていた。


この件に関しては誰もが初耳だったのだ。


「しかし、今の桜良様にそれほどの能力はないと思うんだけど、

 その代わりの宇宙の妖精がこの地球にいる。

 もし、都合のいい星を見つけられなかった場合は、

 都合のいい宇宙を見つけ出して、そこに太陽系を創ってもらおうと思う。

 本来なら住めるようになるまで数億年はかかるはずだけど、

 猛春の話によると、ひと月ほどで住めるようになるそうだ。

 もちろん、安全確認は入念にするから、

 早くてふた月後と言ったところかな?」


壮大なスケールの話だが、誰もがある程度以上に知識を持っているので、否定したり意見する者は誰もいない。


「さらには爺ちゃん…

 ヤマ様にも住んでいただくことになる。

 よってそれほど安全な宇宙に俺の星を持つわけじゃないから。

 あまり言いたくないが、

 命懸けの移住になると思う。

 その時に各々、俺たちとの同行の件を考えておいて欲しい」


「ふたりっきりがいいぃー…」と優夏が言うと、「不合格」と春之介は言って、翔春たちを見た。


「…大失敗だぁー…」と優夏は大いに嘆いて、子供たちのご機嫌を取り始めた。


「…欲を持つからよ…」と欲の権化のような春菜が言うと、春之介は少し笑った。


「まだ問題があるんだ。

 それは移住先の俺の巫女だ。

 この地球は今まで通り潮来様に任せることにして、

 その次の候補の保は能力は高いがまだ赤子同然だ。

 巫女がいないと、俺の能力をフルに発揮できないから、

 慎重に決める必要があるんだ。

 巫女が見つからないことで、

 この計画は先送りになるかもしれない」


春之介の言葉に、誰もが安どの笑みを浮かべた。


もう少しだけ、この平和な地球に住んでいたいと誰もが思ったからだ。


しかし、能力開花が近い一太と浩也は、春之介について行く決心はもう終えていた。


「だから都合よく空き家に巫女候補がいれば、すぐにでも移住するから」


春之介の少し軽い言葉に、誰もが大いに眉を下げていた。


「空き家の可能性」と春之介は言って、麒琉刀を見た。


「自分たちの愚かな欲によって、生物の絶滅。

 天変地異などによる、生物の絶滅。

 外敵の攻撃による、生物の絶滅」


春之介は笑みを浮かべてうなづいた。


「そういった好条件の星がないとは言い切れない。

 運転手を見つけたら、訓練がてら星を巡る旅に出るから。

 だけど、実はもうその星はあるかもしれないんだ。

 そこは、腹に袋を持った、

 猫やブタのような生物が住んでいる動物の星だ」


「小型宇宙艇を十機置いてきましたが、

 まだ特定できません」


春夏秋冬の言葉に春之介は笑みを浮かべてうなづいた。


「たぶん、ここから奥まった場所にある大宇宙で、

 暗黒宇宙に近い場所だから、

 こっちから出向いて見つける方が早いような気がするね。

 小型艇がうろうろしていたら、見つけたも同然だからな」


「次に行ったら、さらに宇宙艇を配備しますので」と春夏秋冬は言って頭を下げた。


「あれ以来、一度も行ってないからね…

 嫌われたもんだ…」


春之介はため息交じりに言った。


「ペンギンのような動物がいて袋があって…」と優夏は恍惚として表情になって、大いに興奮して体を震わせていた。


「あのさ、どうしてそれほどペンギンが好きなの?」


春之介の素朴な質問に、優夏は大いに考え始めて、「…飼っていたのかなぁー…」と言った。


「フォルムがいいっていう単純な理由じゃないの?」と春菜が聞くと、「少々常軌を逸した愛し方だからね」と春之助は眉を下げて言った。


「…それなりの理由がある、かぁー…」と春菜は言って何度もうなづいていた。


「創って?」と優夏が異様にかわいらしく言ったので、腹に袋を持っているぬいぐるみのペンギンを創り出した。


腹から三匹の子ペンギンが顔を出していることが一番のチャームポイントだ。


「キャーキャー!!」と優夏が大いに黄色い声を上げて、今にも失神しそうなほどに喜んだ。


そして翔春たちが指をくわえるようにして優夏を見入っている。


ここはひと言言おうかと春之介は思ったが、全く同じものを翔春にも創って渡した。


「…ダメなお母さんだ…」と春之介が言うと、翔春は強く首を横に振って、優夏の膝の上に座ってペンギンのぬいぐるみを大いにかわいがった。


「…ここは平等に…」と春之介は言って、天使たち全員にペンギンのポシェットとぬいぐるみを創って渡した。


天使たちは号泣しながら、「あどぅのずげざま、あでぃがどうごだいますぅー…」と何とか聞き取れるほどに大いに喜んで礼を言った。


もちろん、優夏と翔春にもポシェットを創って渡した。


するとようやく優夏が、これほどに興奮する理由を大いに怪訝に思って、真剣な眼をして考え始めた。


そして、「…ペンペン…」とつぶやいて、強く首を横に振った。


さらに、「…ペルペル…」とつぶやいて目を見開いたがこれも違うようだ。


「…ペリュペリュ?」と翔春が舌足らず気味に言うと、「そうそれだわ! ペリュペリュ!!」と優夏は叫んで号泣を始めた。


「この真ん中の子よ!」とペンギンのぬいぐるみの腹から顔を出している子ペンギンに指をさした。


「…あー、ペリュペリュ… 久しぶりねぇー…」と優夏は大いに現実逃避したように言うと、誰もが大いに眉を下げていた。


「となると、やっぱり飼っていたということなのかな?」と春之介が言うと、「…お友達…」と優夏はつぶやいてから涙を流した。


「…今度はその別れを悲しみ始めたわけだね…」と春之介は眉を下げて言った。


「ペリュペリュは死んでないもん!!」と優夏は大いに叫んだ。


「きっとまた… 戻ってきてくれるもん…」


「まあ、ここにいるようだけどね」と春之介は言って、翔春の肩にいて目を見開いてペンギンのぬいぐるみを見入っている小春を見た。


「…先生?」と翔春が小首をかしげて言うと、「…ネズミでごめんなさい…」と小春が言って、優夏に向かって頭を下げた。


優夏は目を見開いて小春を見入って、「今世はお話しできるぅー…」と大いに喜んで、小春を手に取ってやさしく頭をなでた。


「優夏が俺を吹っ飛ばした意味がさらにはっきりした。

 こんな偶然はまずありえないから。

 もちろん優夏は無意識だけど、

 大いに幸運がある。

 ここは万有様にお願いしようか」


「あ、呼んだよね?」と源一が言いながら姿を見せた。


「願いの夢見中のようですね」と春之介が眉を下げて言うと、「そう、正解」と源一は言って、「さあ、願いを言えぇー…」と大いに雰囲気を出して言うと、源一の大勢の仲間たちも姿を現して、ここはまず挨拶を始めた。


春之介が願いを言うと、優夏と小春を探って、「共通点はここ!」と宙に浮かんだ宇宙地図に指をさした。


「春之介様っ! コンタクト取れました!

 これでいつでも行けます!」


春夏秋冬が大いに陽気に叫んだ。


「食事でもして行かれますか?」


「あ、頂いて行くよ」と源一は遠慮なく春之介の好意を受けた。


そして桜良にごちそうした料理とご飯を出すと、「悔しいけどかなりうめぇ―――っ!!!」と大いに叫んで食らっている。


「桜良様にお聞きになっておられなかったのですか?」


春之介が眉を下げて源一に聞くと、「何か企んでるな…」と源一は言って怪訝そうな顔をした。


「きっと、今回のお願いと関係があると思います。

 フリージアを出て、

 これから俺たちが暮す星に来ようという企みかと…」


「いや、それでもいいんだ。

 困った時には助けてもらうから。

 エッちゃんとレスターさんは自由にしてもらっていた方が、

 何かと便利なんだよ。

 戦力にしたいのはふたりの赤ん坊だから。

 かなり先の話だけどね」


「実はまだお願いがあります。

 当分の間は宇宙船とクルーをお貸しいただきたいのです。

 条件が合えば、その星に移住しようと考えているのです。

 その理由ですが…」


春之介は夢見での話を源一にした。


源一は真剣な顔からすぐさま眉を下げて、「危険じゃないのかい?」と大いに心配した。


「試されていると感じています。

 そして誘われなくなったのは、

 見つけてみろという挑戦、かと…」


「…それは大いにあるね…

 俺の戦力を同行させようと思ったが、

 大勢いても役に立たないかもしれないし、

 刺激しない方がいいと感じたから、

 宇宙船とクルーだけを貸すよ」


源一の言葉に、大勢いる仲間たちのほとんどがうなだれたように見えた。


今の話のような星に出くわしたことがなかったからだ。


そして春之介は食事の状況を確認してから、「ありがとうございました」と礼を言うと、「…まだお代わりするんだぁー…」と源一が叫びながら消えて、その仲間たちも一斉に消えると、春之介は腹を抱えて笑っていた。


すると春菜が大いに悪だくみがある顔をしたが、神が来ることはなかったので落ち込んだ。


もちろん、春之介との関係を今以上のものにしようと企んだのだ。


少々欲が先行する場合、神に願いが届くことはない。


最近は特にそうなってきていた。


春之介がしたような願いが届くのは稀で、ほとんどの場合は直近にある生死についての願いばかりなのだ。


よって相当な判断力が要求され、神が来たとしても願いが届くとは限らない。


しかし源一はその状況下に立った時、すべてに結界を張って確実に命を落とさせないように覚悟を決めて夢見に出ている。


その方法で大勢の人たちを助け、自分たちも傷つかないように細心の注意を払っている。


春之介も古い神の一族の一員なので、願いの夢見を主宰してもいいはずだがそれはない。


産まれた魂が動物の場合は、今までの統計上、願いの夢見を主宰することはない。


よって能力の高い春之介は、それ以外の仕事を託されたと言っていい。


しかも誰かを従えて夢見に出ることはまだない。


ひとりで何とかしろという、少々過酷な夢見だが、緊急性があるものは比較的少ない。


しかし正確な判断力が必要なことばかりだったし、その対象者を仲間として連れ帰ることもある。


だが、今のところは、仲間を支える力は連れて帰ったが、春之介の横に立って戦う者は皆無だった。



この日の春之介の夢見で、「なんだか要求したら叶ったって感じ…」と見覚えのある景色を見て眉を下げて、ゼルタウロスに変身した。


景色は穏やかな風景から一変して、緑が少ない過酷なものとなった。


―― 動物たちが、安心して暮らせるように… ―― とゼルタウロスが願ったとたんに、湧いて出るように緑濃い大地に変貌した。


「はは! これはいいっ!! みんな! ありがとう!!」とゼルタウロスは広い場所に出て走り回った。


少々寒い場所に移動すると、動物の種類が変わり、ゼルタウロスは大いに期待した。


やはりペンギンは寒い場所を好むようで、甘い香りがする小さな実をついばんでいた。


地球に住むペンギンとの違いはかなりカラフルで、まるでその姿はオウムとなにもかわりがない。


よって、さらにかわいらしさが増している。



ゼルタウロスは星中を飛び回ったが、新たな発見のようなものはまるでなかった。


人間はおろか、神の気配も感じない。


よって、―― 動物の神がいる… ―― という結論に達して、それほどいい予感が湧いてこなかった。


しかし、威厳がありそうな動物には出会わなかったので、地中か山の洞穴などにいるのだろうと思い、何十カ所もあった候補地に飛んで子細に探った。


もうそろそろ夢から覚めるはずと思っていた時、もうろうとしている手のひらサイズの黒い蝙蝠を発見した。


「…はあ… あなたでしたか…」とゼルタウロスが言ったとたんに、いつものように天井を見ていた。


「…何か食べさせてぇー…」と黒蝙蝠は言って翼を広げて春之介にしがみついた。


その幼児のような言葉に、男か女かは確認できなかった。


「ええ、ごちそうさせていただきますよ」と春之介は言って、ふわりと宙に浮いて食堂に行って、まるでおままごとの食事ような小さな料理を作って出した。


食べやすいように、すべては細かく刻まれて、彩も鮮やかだ。


半分以上は果物だが、もう半分は手の込んだ料理とご飯だ。


「…あー… おいしそうだぁー…」と黒蝙蝠は言って、皿に顔を近づけて大いに食らい始めた。


そして仲間たちが続々とやって来て、優夏が春之介に寄り添って眉を下げて、「…会いたくなかったようなぁー…」と嘆いた。


「もうどうでもいい!」と黒蝙蝠は言って、人型の小人に変身して手づかみで食べ始めた。


「巫女を見つけたよ。

 本当によかった…」


春之介は感慨深く言って、男子に見える小人の頭をなでた。


「男だけどいいの?」と小人が言うと、「巫女はただの呼称で、男でも女でもいいんだよ」とフランクに話した。


「だけど、とんでもない能力だね…

 あるものをないように見せかけるのは、

 誰にでもできることじゃないと思う」


「…すっごい抵抗を受けちゃって…」という小人の言葉に、春之介は大いに苦笑いを浮かべた。


「このおばちゃんがいなくなったから、

 ボク一人であの星を何とかして守ろうと思ってね」


小人の言葉に、春之介は大いに笑った。


「…おばちゃん、言うなぁー…」と優夏は大いに怒ってうなった。


「では、動物と機械の眼をごまかしていたと…」と春夏秋冬が言うと、「正確にはふたつあると言っていいようだね」と春之介が答えた。


「ああ、なるほど…

 人間には好条件のものを見せて、

 それ以外には悪条件のものを見せる」


「だけどそれは俺が見た目だから。

 ほかの人間だとその逆になっていたかもしれないね」


「もちろんだよ…

 デヴォラルオウ様のお願いで、

 どれほどの人なのか試したんだ」


小人は言って、その雇い主の名前をついに語った。


「デヴォラルオウ…

 星はエッちゃんに管理してもらおうかな。

 エッちゃんが気に入るように」


春之介の言葉に、「…まだ姿を見てないんだけど…」と小人は言って怯えていた。


「それなりに怖い人だけど、

 普段はあきれるほど穏やかで陽気な人だから。

 何も心配する必要はないよ」


「…ゼルタウロスを信用するよぉー…」とまだ自己紹介もしていないのだが、小人は春之介の別名を知っていた。


もちろん、探って察したわけではなく、デヴォラルオウこと、万有桜良に聞いていたからだ。


「君の名前は?」と春之介が聞くと、「ゼルダ」と小人が不愛想に答えると、春之介は大いに苦笑いを浮かべた。


「今気づいたよね?」とゼルダが春之介をにらみつけて言うと、「当時の姿のままで生きていたとは思わなかった…」と春之介は言って頭を垂れた。


「…まあ… おいしかったし復活できたからもういいんだけどぉー…」と言って、ゼルダは笑みを浮かべて春之介を見た。


「そんなことよりも」とゼルダは言って優夏をにらみつけた。


「…春之介と出会った星だったぁー…」と優夏は嘆くように言ったが、「…違うに決まってるじゃないか…」とゼルダは大いに憤慨しながら反論した。


「こんな悪いヤツと一緒にいていいの?」とゼルダが優夏に指をさして春之介を見て言うと、「改心できたそうだぞ」と苦笑いを浮かべて答えた。


優夏は大いに苦笑いを浮かべてふたりの話を聞いているだけだった。


「…言わないでぇー…」と優夏が言うと、「教えてっ!」と春菜が叫ぶと、「…ここにも悪い人がいたぁー…」とゼルダが怯えて言うと、春菜は大いにうなだれた。


「…同じ穴のムジナ…」と春之介がつぶやくと、ふたりは何も言えなくなっていた。


ここは先に新聞配達に行くことにした。


だがこの生活も終わりにすることに決めた。


よって春之介の決意は、第一に新聞配達所の社長に告げることになった。


社長はもうすでに覚悟はできていたようで、「いい思いをさせてもらいました」と笑みを浮かべて言ったことだけが、春之介の救いとなった。


仕事を終えて朝食中に、「学校ともおさらばだなぁー… まあ、学校を創ることになるんだけどね…」という春之介の言葉に、誰もが大いに目を見開いた。


春之介は今日が最後の登校と決め、ミラクルマンスタジアムに移動した。



春之介に話を聞いた校長は大いに慌てた。


春之介だけではなく、優夏、春菜、一太、そして浩也までもが学校を辞めるという。


「理由は俺の星に住み、俺の街を創り、俺の学校を創るからです」


ここまで言われてしまうと、引き留めることはできないと思い、校長は、「頑張って欲しい」とだけ言って、5人の退学を認めた。


春之介たちはその足で、神と子供たちを連れてフリージア星に渡った。


今はまだ夜で、「仕事でもしようか」と言って、警備ロボに話しをして、源一たちが就寝している部屋に案内されて雑魚寝をした。



「うおっ?!」と源一が叫んだことに、春之介は大いに笑って、「さすがに今回は見学です」と言うと、「ああ、それでいいさ」と源一は快く言って、いつものように願いを叶えて回った。


ほんの二時間ほどだが、春之介は願いの夢見を体験した。


それは目が回るほどの忙しさで、そう簡単にはマネできないし、手を出すことすらはばかられた。


毎晩のようにどれほど多くの願いを叶えても、不幸は少しも少なくならない。


だが、ひとつでも不幸がなくなれば、平和に近づけるのだ。


まさに宇宙レベルの人助けに、春之介は大いに気合を入れた。



目覚めてから、春之介たちは源一たちとの朝食中に、「部隊をひとつ連れて行って欲しい」と源一にお願いされた。


「はい、星しか見ていないので、

 必要になるかもしれませんので。

 ありがとうございます」


春之介は素直に源一の好意を汲み取った。


「…拒否されると思ったぁー…」と源一が眉を下げて言うと、「行先が判明して、協力的だったことが一番の理由ですから」と春之介は言って、肩にいるゼルダを見た。


「ま、とんでもない動物なのは知ってたよ」と源一は少し残念そうに言った。


「…ついて行くのぉー…」と桜良がうなるように言うと、「春之介がご所望だから」と源一が眉を下げて言うと、桜良は大いに喜んで、赤ん坊たちを抱き上げて陽気に踊った。


「そしてここからが大変だ。

 春之介たちは大いに注目されている。

 まずは宇宙船のクルー。

 そして同行する部隊。

 できれば、平和的に決めたいんだけどなぁー…」


源一の想いとは逆で、この場は大いに殺伐としていたが、それはライバル心だけで、悪い思いは何もない。


春之介は魂たちにお願いして、春之介の性格にあう最高の部隊を知った。


「浅田直樹さんの部隊」と春之介が言うと、「はっ! 自分が浅田直樹です!」と春之介の遥か後方からひとりの男性が立ち上がって叫んだ。


「…どうやって決めたの?」と源一は大いに眉を下げて聞いてから、うなだれてしまった王族軍数隊を見て眉を下げた。


「俺に見合う人をこの地の魂たちに選定してもらったんです。

 誰からも苦情が出ない、一番の方法だと思いましたので」


「…それは大いにあるね…

 じゃあ、クルーもその方法で決めてもらっていいよ」


「はい、ありがとうございます」と春之介は言って、すぐさまクルーの選定を済ませて、「船長ミラルダ・カタロフさん」とすぐさま言った。


「…え―――っ?!」と今回もかなり遠くから声が上がって、ミラルダが立ち上がった。


「…いや、それはちょっと…」と源一は大いに眉を下げた。


「船長に問題があることはわかっています。

 ですが、補佐についている方が少々特殊です」


春之介の言葉に、「…ギルティーのヤツ、黙っていやがったかぁー…」と源一は大いにうなって、そして大声で笑った。


「まるで俺たち夫婦を見るように、心強いじゃないですか」


春之介が陽気に言うと、「あのヤロー、気弱な姿しか出してなかったことを怪しんでいたんだ…」と源一はまたうなりながら言った。


「先見の明があったと思っておけば腹も立たないと思います」


「…まあな… それほどに優秀だということには違いないからね…」と源一はここは素直になって折れた。



春之介は直樹の軍と、クルーのミラルダとコミュニケーションを時間をかけてとった。


直樹の軍はこのフリージア星では中堅レベルの部隊だった。


特に目立った功績は上げていないが、どの部隊よりも優秀な面はある。


それはクルーからの信頼が厚いことに尽きる。


よって、春之介としては部隊とクルーの相性を一番に考えたのだ。


もちろん、直樹が何度もミラルダを雇っていたことが大きかった。


そしてこの集まりの一番の重鎮のギルティー・ドレスに、春之介は笑みを向けた。


「源一様が怒っておられました」


春之介の言葉に、「この日を待っていたので別にいいんだ」と初老で白髪頭のギルティーはにやりと笑って言った。


「ですが、優秀な部隊も多いので、

 取り付く島はあったように思うのですが…」


春之介は言って、顔が大いに高揚しているミラルダを見た。


「姫に見合う仕事相手が第一だから」


ギルティーはまるで娘を見るような目でミラルダを見た。


「だが! 今日からは大いに口出しさせていただく!」


ギルティーが叫ぶと、「…久しぶりに雷が落ちた気分…」とミラルダは大いにうなだれて言った。


「春之介様の部隊には、姫様に見合う殿方も多いはず。

 今は、残念ながらいらっしゃらないようだ…」


「今回は少数精鋭ですので。

 彼女がいない仲間もいますから、

 期待しておいてください」


さすがに、春之介に優夏がいることは知っていた。


あの花蓮と肩を並べるほどの雄々しき者は、春之介のパートナーであることは誰にでもわかることだ。


よって、一太と浩也にその目は釘付けになっている。


「決まった方がおられるに決まってるだろ…」とギルティーが眉を下げて言うと、「…だよねぇー…」とミラルダは言って大いにうなだれた。


「こちらから斡旋せてもらいますので」という春之介の言葉に、ミラルダは大いに喜んでいた。


「…早く星に行きたいぃー…」と桜良が言うと、レスターが眉を下げて桜良の説教を始めた。


「…早くペンギンたちに会いたいぃー…」と優夏も言い始めたので、春之介は眉を下げて、「じゃあ、行こうか」と言って立ち上がった。


ミラルダは春夏秋冬から星の座標をもらって、「…未開拓の宇宙…」と大いに嘆いた。


「そんなもの当然だ!」とギルティーはすぐさまミラルダを叱るように叫んだ。


「あっ! 爺ちゃんも来るっ?!」と春之介が叫ぶと、巨大な山が瞬時に消えた。


そして一匹の小さなゾウが飛んでやってきた。


「…はは、爺ちゃん、やっぱすごいね…」と春之介は言って、ゾウを抱きしめて肩に乗せた。


「あ、居心地、いいね」とヤマは幼児のように気さくに言ったが、誰もが大いに畏れていた。


「あ、春子ちゃんに連れて行ってもらうんだったね」


ヤマの気さくな言葉に、「どうか、特等席で宇宙の旅を堪能してくださいぃー…」と春子は大いに尻込みして言った。


「はは、今日はそうさせてもらうけど、

 ゼルタウロスの娘だったらもっと堂々と」


「…はいぃー… ヤマ様ぁー…」と春子は何とかぎこちない笑みを浮かべて答えた。


「まともに付き合える人ってそれほどいないわよ」と優夏は言って、ヤマの頭を乱暴になでた。


「…まあ、普通じゃない奥さんだよね…」と今度はヤマが苦笑いを浮かべて言った。


「自分が住んでいる星を吹っ飛ばしたからね。

 それなり以上の力はあるから」


春之介の言葉に、誰もが大いに目を見開いた。


「…もうやらないもぉーん…」と優夏は言って、恥ずかしそうにその身をねじった。


「…当時、本当に融通の利かない神だと思っていた。

 数回口答えしたら、星を吹っ飛ばしたんだよ。

 当時の俺は優夏に殺されたわけだ。

 だからあの口喧嘩は俺の不戦勝だな」


「…土俵を壊しちゃったら戦えないからね…」と優夏は言ってうなだれた。


「大昔、源一様も花蓮様に殺された黒歴史があるそうだから、

 それほど珍しいわけじゃないよ。

 それほどに、関係が深かったと思うべきだ」


春菜はいつ優位に立とうかと狙っていたが、この春之介の言葉に、有利どころかさらに不利になった。


必死になって探っているのだが、今のところは過去に春之介と春菜の接点は見つかっていない。



宇宙船は異空間航行を使い、安全と判断された場所に一気に飛んだ。


そしてこの場でこの先を探り、安全を確保できる場所だけを選んで、小宇宙と統括地の宇宙を飛んだ。


得られた情報はすぐさまロストソウル軍に伝えられて、まずは優秀な部隊である機動部隊が星々を巡る。


もちろんここで戦闘なども行われ、安全を確保できたと同時に復興部隊が飛んでくる。


そして、見た目だけだが平和な時間を過ごしてもらうことになる。


真の平和を得るのは、その星の住人たちの考えによる。


せっかく苦労して復興しても、個人の欲によって、また物理的な不幸もやってくる。


よって宇宙を正す者たちは、数百年後にはまたその星に飛ぶことにもなる。


やはり人間とは平和ではないと、この仕事についている者たちは悟りを開けるほどに理解していた。


源一はまだ人間も持っているが、大勢いる仲間の9割以上は死後の世界の住人だ。


人間だったその死後の世界の住人たちも、今になって大いに反省することは多々あるのだ。



目指す星の宇宙の環境はいいと言えた。


宇宙船を保有している星がないからだ。


しかもこの方が珍しいのだが、生物がいる星は目指す星しか存在しないこともわかった。


ほかにも生物が誕生しそうな候補は数カ所あるのだが、まだ若い太陽系で星の表面が固まっていない。


宇宙船は大いに時間をかけて、目的の星にやってきた。


「…まさに、奇跡の星、だわ…」とミラルダは感慨深く言って、外に見える素晴らしい環境の星を見入った。


「…ここに住みたぁーい…」とミラルダがつぶやくと、「専属になれるように頑張ることだな」とギルティーに一蹴されて、大いにうなだれた。


宇宙船はすべてのチェックをして、一番条件がいい大地に向けて星に飛び込んだ。


平地で近くに山もあり、大きな川が流れている。


これだけでも、何もしなくても普通に生きて行ける。


地面も硬く、しかも水はけはいいようだ。


さらには今日は快晴で、まさに清々しい空気が流れている。


「…パラダイス…」と優夏はつぶやいて、一番に宇宙船から飛び出した。


ゼルダはもう能力を切っているので、大地の様子は人間の見た目も動物の見た目も同じになっている。


桜良は早速春之介と相談して、まずは住処を建てることにした。


春子は指示を受けることなく、この地の植物を探って、栄養価の高い植物の農地を造り上げていく。


その準備段階として、火竜ベティーが大地を焼いて、水竜高龗が雨を降らせてすぐさま冷やす。


そして天照たち神たちが、まるで怪獣映画のように大地を大いに荒らして肥やしていく。


まさに好条件の農場に緑竜春子は大いに喜んで、農地を整えてから種や苗を植えていく。


家の方は今回の注文はさすがの桜良も大いに考え込んで、「…過ごしよさが動物にしかわかんないぃー…」と言って、人懐っこく寄ってくる動物たちに触れ回る。


「基本、猫屋敷でいいから」という春之介の言葉に、猫であるクレオパトラと美佐は大いに喜んだ。


「あとはペンギン部屋。

 空調を利かせるから、

 それなりの保冷対策をして欲しい」


「…優夏ちゃんのご機嫌取りね…」と桜良は眉を下げて言った。


「優夏、見つけに行くぞ!」と春之介が叫ぶと、優夏はすっ飛んでやってきて、仲良く肩を並べて北に向かって飛んだ。


だがすぐに戻って来て、「キャーキャー!」と大いに黄色い声を上げて優夏がペンギンたちに触れ回る。


ここはさすがに天使たちも目の色を変えて優夏に寄り添って、ペンギンたちと触れ合った。


春之介は試運転とばかりに、透明な囲いがある大きな部屋を創って空調を利かせてドアを開けると、ペンギンたちはすぐさま部屋に入って動かなくなった。


まさに涼しくて心地いいと言ったところだ。


平地は今は涼やかな風が流れていて、冬から春になったという空気だが、太陽光が暑く感じるので、この涼しい部屋はペンギンたちにとって興味深い場所になっていた。


「このペンギンたちは丘で暮らしていた。

 水浴び程度はするんだろうけど、

 いた場所から推測して泳ぐことはしないらしい。

 だから、少々怖いことを思いついたんだ」


「…海には、獰猛な生物がいるぅー…」


優夏が正しく春之介の言葉を理解して大いに嘆くと、「あははっ! いるよ!」と春之介の肩の上にいる、人型の小人のゼルダは陽気に言った。


今のところはその姿が春之介にどことなく似ているので、気に入った人間のマネをしているようなものだ。


春之介は手のひらをゼルダに向けると飛び乗ってきた。


「陸に上がってくるヤツは?」


「今のところいないよ。

 その逆はいるけどね、水陸両用。

 だから甲羅や硬い皮膚を持っているんだ。

 そのペンギンは、純粋に鳥から進化した。

 というよりも怠惰になったって感じ」


「陸には天敵がいない」という春之介の言葉に、「あははは… わかるよね?」とゼルダは陽気に言った。


「それに、地球人と比べて、繁殖は鈍いんだ。

 だからそれほど増えすぎない。

 寿命はほぼ地球に住む動物と同じだから、

 このペンギンたちで30年ほどだね」


もちろん比較対象の情報は、もうすでに天照大神たちとコミュニケーションを取って確認済みだった。


「…少々長生きだな…

 まあ、天敵がいなくて平和で空気もよくて食べ物もある。

 それが普通だろう。

 袋があるのは愛情の証と言っていいような気がするね」


「そうなるね。

 守るんじゃなくて常に抱えておきたいんだ。

 まさに人間の愛情表現と同じと言っていいんだ。

 だからこそ、優夏はその姿だけじゃなく想いが好きだったんだ」


春之介は辺りを見回して、「猫も犬もイノシシもブタもウサギもネズミもいるけど?」というと、「頭を冷やしに頻繁に北に飛んだから」とゼルダが大いに苦笑いを浮かべて言うと、春之介は大いに笑った。


「…過去のことはもういいじゃない…」と優夏は眉を下げて言ってから、機嫌よくペンギンを抱きしめた。



ヤマは住居になる場所から二キロほど離れて、本来の姿に変わって、様々な情報収集を始めた。


春之介は魂たちとコンタクトをとり、やはり人間である春之介にはほとんど見向きもしないと感じたが、前回よりも興味を持ったようで、石を積む程度のことはやってのけた。


そしてゼルタウロスに変身すると、打って変わって従順になり、素晴らしいほどの農地用の作業小屋が完成した。


もちろんイメージはゼルタウロスからもらっているので、細かい部分までゼルタウロスがイメージしたそのものだった。


そして山に近い場所に修練場も創り上げ、そこを周回できるランニングコースも創り上げ、至る所に、『動物出没注意!』の看板を建てた。


人間たちはこの星に住まわせてまらっているという意味も持たせている。


「じゃあ、そろそろ収穫して、

 食事会でもしようか」


春之介の言葉に、収穫は神たちが大いに働き、そのほかは全員で料理をして、いとも簡単にうまい料理にありつけた。


「あ… 野菜のはずなのに肉だぁー…」と春之介は大いに喜んで大いに食った。


フリージア星にも同じようなドドンガという名前の動物の肉のような実がなる植物があり、大人ひと抱えあるほどに大きく楕円形の形をしている。


しかしこの星のものは弁当箱のように立方体に近い実がなり、実ひとつで、大人一人前ほどの実に育つ。


収穫量が一番多いのはこの実になるように春子は考えて植えていた。


しかも脂分が多く、食感はカルビのようで、大いに食が進む。


春夏秋冬が食材や料理のカロリー表を出しているので、特に女性は比較的控えめに食べている。


コメも地球と同じで、広い農地が必要だが、稲穂のようなものではなく実がなって、その中に百粒ほどのコメができる。


実を開けば簡単に収穫ができ、もみ殻などもないので軽く洗えばいいだけだ。


小麦のようなものもあり、地球と同じように乾燥させて粉にして、調理食材として使用する。


塩は、高龗が水を飲むついでに海水を分解して、様々なミネラル分や香辛料などを抽出した。


「…おいし過ぎるぅー…」と優夏は大いに上機嫌で言って、もりもりと食べる。


もちろん動物たちにも与えることは忘れないが、外敵から逃げる必要がないので、比較的少食で、欲張って食べ続けることはない。


「…動物たちと共存できるようでよかった…」と春之介は心底感慨深く言って安堵の笑みを浮かべた。


すると農地に、多くの動物たちが姿を見せたので、ここは神たちが楽しむようにエサやりを始めた。


しかし、食材自体にミネラル分が少ないことで、調理済みの食べ物を好むようで、ここは春之介が腕によりをかけて動物たちをもてなした。


もうこの時点で、春之介はこの動物の星の王となっていた。


宇宙船が飛んでくる可能性も低く、好条件の宇宙だったことに、春之介はこの幸運に大いに感謝した。


だが、この宇宙の場所はというと、大宇宙の端の暗黒宇宙と紙一重の場所にある。


よってこの周りから、宇宙の平和を維持していく必要が大いにある。


その情報も春夏秋冬が出していて、「…運動に行かねえか?」とまずは優夏が言ってきた。


「このパラダイスを壊されるわけにはいかないから、そうしようか」と春之介はすぐに賛同した。


「ママたちはお仕事に行ってくるわ」と優夏は動物たちに言って、大いにかわいがってから、春之介とともに宇宙船に乗り込んだ。


ミラルダはこれ幸いと、満面の笑みを浮かべて、春之介の指示で別の宇宙に飛んだ。


やはりこの辺りには飛行物体は皆無だ。


しかし、大宇宙の中心に行けば、それなりに文明文化が栄えている星もある。


だがここに来るまでに、人間一生分を丸まる使う以上に遠いので、今すぐに攻め込まれることはない。


宇宙船はそれぞれの宇宙をつなぐ小宇宙に出た。


「…不穏な空気は感じないね…

 行くとすれば、十二時の方向。

 そこの統括地の創造神に挨拶に行こうか」


小宇宙からトンネルをくぐって統括地の宇宙に出たが、太陽系が存在しない。


「この状態は珍しくありませんが、さらに十二時の方向から、

 よくない空気が流れているように感じます。

 できればこの統括地に、神を置く必要があるように思います」


春夏秋冬の判断に、「妖精たちを雇う必要があるな…」と春之介が言うと、「どうか、お任せを」と猛春が姿を見せて頭を下げた。


本来であれば肉体は持てないのだが、天照大神によって、肉体ももてるように能力を授けられていた。


「ここは猛春に頼もう。

 だけど、この辺りにはそれほど妖精はいないように感じるんだけど…」


「いえ、地球からついてきた妖精たちがいるのです。

 今は春之介様の星でくつろいでいるようです」


「ああ、それで…

 人間の俺の言うことを聞く魂がいると思ったら、ヤツからか…」


春之介は言って苦笑いを浮かべた。


「ほんの四つしかありませんが、

 太陽系を創る程度なら簡単にやってのけるでしょう。

 では、行ってまいります」


猛春は言ってすぐに消えたが、もう姿を現した。


「すぐそこで出くわしました」と猛春が言うと、春之介は笑みを浮かべてゼルタウロスに変身した。


「…いや、君はまずいだろ…」とゼルタウロスは言って眉を下げた。


「ボクは自由だからいいんだよ」と道着のような服を着ている人型の妖精が胸を張って言った。


「…マーカス様は、自由な妖精ですので…

 ヤマ様に同行してこられたようです…」


春夏秋冬の言葉に、「報告はしておいて欲しい…」とゼルタウロスは嘆くように言った。


ほかに四人いて、火、土、水、緑の妖精がいたことで、計画的にここに来ていたことがよくわかった。


さらに竜たちも参戦するようで、春子を先頭にして高龗とベティーが宇宙に飛び出した。


ここからは宇宙の大スペクタクルを堪能して、巨大な水素の塊が核融合を起こし、明るい太陽になり、真っ暗だった宇宙に光が照らされた。


そして何かが飛んできたとゼルタウロスは感じて、生物が住める星を見入った。


「統括地の創造神になる魂がやってきたと思う」


ゼルタウロスの言葉に、優夏はゼルタウロスを抱きしめて星を見た。


ゼルタウロスは戻ってきた妖精たちを大いに労った。


「…もう、空気が澄んできたような…」と優夏が言うと、「感じるね…」とゼルタウロスも賛同した。


すると、優夏から花蓮が飛び出してきて、「くっそっ! 遅かったっ!」と叫んで大いに悔しがった。


「せっかく来られたのですから、

 小さな太陽で構いませんから浮かべてください。

 さらにこの辺りの空気がよくなると思いますので。

 お礼は俺たちができることだったら、

 極力用意することにします」


ゼルタウロスの言葉に、花蓮は大いに身をねじって、「…ペンギンちゃん…」と言ったので、ゼルタウロスは大いに苦笑いを浮かべた。


「…生物はやらねえー…」と優夏がうなると、「たくさんいるからいいじゃなぁーい…」と言ったが、「ここは優夏の言葉を俺も支持します」とゼルタウロスも賛同したので、花蓮は大いにうなだれた。


「マリオン様を連れて来て、

 コミュニケーションを取らせてください…」


ゼルタウロスが眉を下げて言うと、「その手があったわ!」と花蓮は大いに喜んで、黒竜に変身して宇宙船の外に出てから、太陽系の重力の妨げにならない程度の太陽を浮かべてから消えた。


「…もう、今日の仕事は終わりでいいと思う…

 みんな、本当にお疲れ様…」


ゼルタウロスは言って春之介に姿を戻した。


すると花蓮とともに、源一と岩の塊が優夏から飛び出してきた。


「源一様、マリオン様、いらっしゃい」と春之介は気さくに言った。


「…暗黒宇宙が間近にあるのに、この空気は信じられないな…」と源一は大いに嘆いて言ったのだが笑みを浮かべていた。


挨拶もそこそこに、宇宙船はゼルダの星に戻った。


「ははっ! すごいすごい!」とコウモリの姿のゼルダは大いに喜んで飛んできて、春之介の肩に止まった。


ゼルダも宇宙の空気が澄んだことを感じたようだ。


もちろん、こうしてもらうこともゼルダの願いでもあった。


「…ああ… 魂がすっごく増えてきた…」と春之介は笑みを浮かべて言った。


「大宇宙の端のはずだが、ここが中心のように感じるほど素晴らしい環境だ」と源一は言って大いに納得していた。


そしてマリオンは眉を下げながらも花蓮の希望通りの動物を産み続けながら、「おいしいおいしい!」と叫んで食事も摂っていた。


次から次へと生まされるので、腹が減って当然だ。


その花蓮は上機嫌で、生まれたばかりの動物たちを大いにかわいがっているのだが、優夏は少しふくれっ面になっている。


「…とられたわけじゃないからいいじゃないか…」と春之介が小さな声で言うと、「…白い子もいいぃー…」などど言って、結局はマリオンに頼んで、白いペンギンだけ生んでもらって上機嫌になった。


するとマリオンがすたすたと春之介に近づいてきて、「…ここに住んでいい?」と小さな声で聴いてきたので、「その願いは叶わないように思いますよ」と春之介は大いに眉を下げて言った。


「…ご飯がすっごくおいしいし、それに…」とマリオンは人型のベティーを見た。


「…お知り合いでしたね…」


「…ドズ星を出て、すっごく変わったって思うぅー…」とマリオンは春之介にねだるように、体をぶつけてくる。


「万有様、困った問題が発生しました!」と春之介がすぐさま報告すると、「…必要な時に呼ぶから好きにしな…」と源一は大いに投げやりにマリオンに言った。


「ヤマ様に挨拶に行ってくるよ!」とマリオンは陽気に叫んで、とんでもない速さでヤマめがけて走って行った。


「春之介、いろいろと悪いな…」と源一が礼を言うと、「いえ、まるで問題ありませんから」と春之介は笑みを浮かべて答えた。


「それに、動物の場合はさらに大歓迎ですから」


「…また面倒なヤツが来るぞ…」と源一は春之介を大いに脅すように言った。


「母ちゃんよりも面倒な人はそれほどいないと思いますから」


「まあな… 動物たちは確実にここで過ごしたいと思うはずだ。

 フリージア星よりも、何もかも立地条件が最高になった。

 しかも、近くに人間がいないことも大きい。

 そして食い物がどこよりもうまい。

 まさにここは宇宙の大自然、

 動物たちのパラダイスと言ってもいいはずだ」


「…ブラックマルタの人間、追い出しちゃうぅー…」と花蓮が言い始めたので、温厚な源一もさすがに怒り始めた。


すると白竜フォーサが大気圏を突入してやってきて、すぐさま春之介に挨拶をして、体の中からツヨシを出して、柔らかい芝の上に寝転んだ。


「…獣人だからな…」と源一は眉を下げて言って、フォーサとツヨシを見入った。


「…千客万来ぃー…」と優夏も眉を下げて言った。


迷惑というわけではないのだが、ここをリゾート地と勘違いしていると感じているようだ


源一は山のふもとにある深い森を見入って苦笑いを浮かべた。


すると源一から動物たちが飛び出してきた。


「…どうして呼ばないんだよ…」と一匹のリスが大いに源一をにらみつけて言った。


しかも今度はトラ、ゴリラ、クマ、恐竜などの猛獣もいる。


さすがこの辺りにいた動物たちは大いに驚いて、すべてが春之介に寄り添ってきた。


よって、春之介は動物の鎧を着たようになって、誰よりも高身長になっていた。


「…何も言われてないのに叱られた気分…」とリスは大いに嘆いて、猛獣たちとともに消えた。


「あの方がセイント様ですか…」と春之介は大いに苦笑いを浮かべて言った。


「…今日のところは帰るよ… ほんと、迷惑をかけた…」と源一はこれ以上の騒ぎになる前に、説教をするためにフリージアに戻ることにした。


よって、花蓮とフォーサ、ツヨシも強制的に消えた。


動物たちは居心地がいいのか、まだ春之介に寄り添ったままだ。


「さあ、自由にしていいぞ」と春之介が言うと、動物たちは一斉に春之介から離れて、この辺りの散策を始めた。


「大変なことになりそうね…

 きっと、あの子はここに住むと思うわ」


優夏は言って、春子を見た。


「うん、多分来るね。

 だけどそれがフォレスト様のためになると思うから。

 春子のように、

 ひとりでも団体生活でも何も問題ないほどまで成長できるはずだから。

 だから、留守番として雇ってもいい」


「あら、それだったら役に立つから問題ないわ」と優夏は笑みを浮かべて賛成した。


「その前に、雇った部隊が暇そうだから、

 本来の仕事に行こうか。

 実力を見極めることもできるし、

 もちろん、俺たちもだ」


「そうね…

 それは重要だわ…」


春之介と優夏の意見が一致したので、また全員で宇宙船に乗って、春夏秋冬のナビゲーションで隣の大宇宙の宇宙に飛んで、生物が住んでいる星までやってきた。



「不幸のにおい…」と春之介は言って眉をひそめた。


人口はそれほど多い星ではないのだが、ひとつの大きな大陸だけ、至る所に黒煙が上がっている。


文明文化はそれほど発達していなくて、まだ電気を使っていないようだ。


そして星がやせているように春之介は感じた。


よって緑がそれほどないようなので、「食糧問題かなぁー…」と春之介は考えながらもほぼ断定して言った。


「一生懸命に働いても、食うや食わずの生活…」と優夏は眉を下げて言った。


「では、第一の俺たちの仕事の作戦を話す!」


春之介が堂々と言うと、仲間たちは一斉に頭を下げた。


「まずは俺の能力を確認するから、

 みんなの出番はたぶんない」


春之介は大いに無碍なことを言ったが、その実力を見ておく必要もあると感じたので、すぐさま頭を下げた。


さらに言えば、ここにきて知った情報で、生物が住む星はここだけではない。


この先、出番は大いにあると、誰もが思って春之介に頭を下げた。


宇宙船は気付かれないように機体を透明化して大気圏に飛び込んだ。


そして誰もいない場所に宇宙船を下ろして、春之介が大地に立つと、視界に見える範囲の風景が一変した。


植物の全てが一気に成長して素晴らしい空気が漂い始めた。


「多くの命が失われた分、その想いも強いね…」と春之介は眉を下げて言った。


「さあ、さらに植物たちの成長を促して欲しい。

 この星の未来のために!」


春之介の心からの叫びと同時に、風景は四季を現すような変化をして、最終的には実りの秋として、辺りは多くの作物で埋め尽くされた。


「今回はこれでいいと思う。

 今は大勢で宴会でもしているはずだ」


「大人は怖がって動かなくなった…

 だから子供たちがその証明をして大いに食べ始めたよ」


春夏秋冬が報告すると、「じゃ、ここは終わりだ」と春之介は言って宇宙船に乗り込んで、近場にある星に移動するように告げた。


「…今までで、どの部隊よりも一番早かったぁー…」とミラルダが大いに嘆くように言うと、「そんなもの、当り前だ」とギルティーはさも当然のように言って、春之介に笑みを向けた。



次にやってきた星でも争いは絶えないようだが、大きな戦いが一カ所だけで行われていた。


「さあ、浅田さんたちの出番です!」と春之介が言うと、「はっ! すぐに戦いを止めてまいります!」と直樹は叫んで仲間たちとともに宇宙船から飛び出し、武器を持っていないのに細いレーザービームを打ち出して、武器の破壊を始めた。


両軍とも大いに驚き、武器を放り出して砦に戻った。


直樹たちは武器をすべて破壊して戻ってくると、入れ替わるように天照大神たちが飛んでいって、まず戦場を農地にするために、ベティーが大地を焦がし始める。


体は小さいのだが、その炎は全くかわいらしくない。


ほんの数秒で、戦場は黒焦げになった。


ここからは春之介たちも農地予定地に出て、大地を大いに耕した。


整地をしてから、高龗が雨を降らせた。


そして春子がせっせと種まきや苗を植えて、一気に成長させた。


「ここはこれでいい!

 次は近隣の村に行くぞ!」


春之介が叫ぶと、「おうっ!」と泥だらけの仲間たちは陽気に叫んだ。


ここは自力で移動を始めると、死後の世界の住人の直樹たちは、浩也と一太を見て目を見開いた。


「普通に、人間だった…」と大いに嘆いた。


ふたりだけが誰よりも早く走り始めたからだ。


まさに空を飛ぶよりも早い人間だった。


ここは春之介たちも地上に降りて浩也と一太の仲間になった。


到着した村の農地を造り直して収穫できる状態に変えた。


それと同時に、死の淵にいる者たちの命を救って回る。


基本的には飢餓が原因で、ここは天使たちが大いに働いて命を救っていく。


この星の不幸をすべて幸運に変えて、春之介たちは宇宙船に乗り込んで、ゼルダの星に戻った。


「お疲れ様っ!!」と陽気な声で桜良に出迎えられて、春之介たちはまずは風呂に入って、お互いの労をねぎらった。


そして生で食べられる野菜で多少の腹ごしらえをしてから料理を作り始め、また大宴会が始まった。


過酷な試練のような復興だが、誰もが笑みを浮かべている。


「メイド、雇おうかなぁー…」と春之介が言うと、「…斡旋できるけどぉー…」と桜良がバツが悪そうな顔をした。


「オーディションでもしようかなぁー…

 希望者は多いと思うから。

 ここで働きたい理由を主張させる。

 そして特技を見せてもらう、とか…」


「楽しい子たちが一番だわ」と優夏は陽気に言った。



春之介は春夏秋冬を見た。


「俺たちが地球を出てから現在までのダイジェストの映像を放映してもらって欲しい」


春之介の言葉に、優夏は大いに困惑気に眉を下げた。


「地球を捨ててここに来た報告のようなものさ」と春之介が言うと、「捨ててなどいないさ」と大飯を食らいながら浩也が笑みを浮かべて言った。


「そうだね」と春之介は言って、食事中の高龗を抱きしめた。


もちろん、水竜の水のスプレーや着せ替え人形などを創って地球に送り続けている。


「…どっちの面倒も見るのね…

 潮来様も怒っちゃうかもしれないしぃー…」


優夏が眉を下げて言うと、「放っておけば怒られるな」と春之介はさも当然のように言った。


春之介自身が地球なので、完全に捨てることはできないのだ。


「あとは、後続する仲間たちに対してのマニュアルだ。

 自信があれば何か言ってくるだろうし。

 その前に、家族との話し合いも重要だから」


「名誉職」と浩也はなんでもないことのように言い放った。


「心強い兄貴がいて助かるよ」と春之介は笑みを浮かべて言った。


「休日があれば親兄弟に顔を見せるが、

 それ以外はほとんど必要ないから、

 仕事をしていた方がマシだ」


浩也は笑みを浮かべて言って、思い出し笑いをした。


「現地の子供たち、目を丸くしてたよね」と春之介も愉快そうに言った。


「本当の意味の丸い目を初めて見たね。

 まさに夢を見ているっていう心境だったと思う。

 そして春之介は少々見落とした」


「それはないよ」と春之介はさも当然のように言った。


「…そうか… それは俺が甘かった…」と浩也は言って、春之介に頭を下げた。


「始めの候補は500人ほどいたけどね。

 今のところ10人まで激減した。

 平和になれば、やはりその地が住むべき場所なんだよ。

 だけど平和になっても溶け込めない子がいることも事実。

 そして俺たちへのあこがれ。

 自分自身の平和よりも、

 それほど楽をしていない俺たちを認めてくれたんだ。

 ここに引き寄せいないなんていう、

 残酷なことはできない」


春之介の言葉とともに、8名の子供たちが姿を現して、また丸い目をしたので浩也は大いに笑い転げた。


「やあいらっしゃい。

 俺たちの星にようこそ」


春之介の言葉に、子供たちは一斉に笑みを浮かべて、春之介に挨拶をした。


そして席につかせて、春之介の自慢の料理を食べさせると、まるで飢えていた動物のように食らい始めた。


「…おいおい、食ってなかったのか…」と浩也は言って目を見開いた。


「それほどに、思い入れがあったんだよ。

 食べるよりも、ここに来たいという思いが上回っていたんだ」


「…ふたり、足りないけど…」と優夏が眉を下げて言うと、「親族がいるからね」と春之介は常識的見解を述べると、「…俺はある意味薄情者…」と浩也は卑下して言って頭をかいた。


「そんなの、俺も同じだよ」と春之介が答えた。


「だから、ビデオレターも役に立つわけさ」


「…ああ、納得だ…」と浩也は笑みを浮かべて言ってから、「だったら、必要な人材は条件次第では地球から引き寄せることもできるわけだな?」と春之介に聞いた。


「そこは自主性を試すから。

 まずはどうやってコンタクトをとるのか、

 というところから考えてもらう」


「…厳しいな…」と浩也は言って少し笑った。


「おっと、早かった。

 麒琉刀と芽大瑠が二人そろってくることにしたようだ。

 そして条件付き…」


春之介が苦笑いを浮かべて言うと、「通いにして欲しい」と浩也がいうと、春之介は笑みを浮かべてうなづいた。


「想いは兄ちゃんと同じだよ。

 映像だけじゃなく、

 元気な顔を直接親たちに見せるだけ。

 ふたりとも学校を辞めたから、決意は固いね。

 いい先生がふたりも手に入った」


そして浩也はあることを思い出して、神たちを見て苦笑いを浮かべた。


「神崎先生がいない…」と浩也が言うと、「しばらくは運び屋だね」と春之介は答えた。


神人としては春之介たちとともに働きたいのだが、天照大神のお達しで、しばらくは地球に留まるように言いつけられていた。


エジプトのようにまだ地球で働いている神もいるので、連絡係程度は残しておく必要があるのだ。


「じゃ、その扉を建てようか」と春之介は言って、厨房の隣に社を建てた。


するとすぐさま、神人を筆頭にして、麒琉刀と芽大瑠が顔を見せた。


春之介はふたりを歓迎して握手を交わした。


「…潮来様は神使いが荒い…」と神人が眉を下げて言った。


「巫女はね、ある意味神よりも忙しいし、

 それほど穏やかじゃないから。

 修行として、保をここに連れてきてもいいほどだ」


「…私が一番薄情かもぉー…」と優夏は眉を下げて言った。


「学校、小さいのでいいよねっ?!」と桜良が陽気に言って、その完成予想図を出すと、「ええ、これで構いません」と春之介はすぐさま答えた。



「…ここは、なんかすごい…」と麒琉刀は笑みを浮かべて言って、辺りを見回した。


「さすがに真奈は尻込みしたようだね」と春之介が言うと、「…初めは毎日帰って来いって言われてたんだ…」と麒琉刀は言って、大いに眉を下げた。


「…遠距離恋愛は、それほど報われないわぁー…」と優夏が言うと、春之介も麒琉刀も眉を下げていた。


「麒琉刀の場合は真奈の許可待ちだったわけだ」


「親よりも、威厳はあるね…」と麒琉刀は眉を下げて言った。


「お呼びだ…」と神人は言って社に走って行った。


「…来るね…」と春之介が言うと、「…解放感はほんのわずかだった…」と麒琉刀は少し嘆くように言った。


「真奈の場合、初めからここにいてもいいほどだったからね。

 さすがに、親を説得する必要があるから、

 うかつなことはしなかっただけ」


すると神人は、真奈とともに真由夏も連れてやってきた。


「…メイド一号…」と春之介は眉を下げて言った。


「…いや、俺をにらんでるんだけど…」と浩也は言って苦笑いを浮かべた。


春之介もその事情は分からなかったのだが、春之介がここに引き寄せた女子たちが、浩也に熱い視線を送っていたことが原因だと気づいた。


「やあ真由夏、今日もかわいいよ」と浩也が冗談ぽく言うと、春之介は大いに笑った。


「…恋人を置いて行くなんて信じられない…」と真由夏は浩也を見て大いに憤慨している。


すると、引き寄せた女子たちが一斉にうなだれた。


真由夏はそうなるように仕向けるためにはっきりと言ったのだ。


真由夏はすぐに春之介を見た。


「ミラクルマンが地球にいないことで、

 みんなすっごく不安になってるわ」


「しばらくこの生活を続ければ慣れるさ。

 それに、野球の興行はするから。

 時間があれば、野球教室もしたいからね。

 今度はこっちから指名してね」


真由夏はため息をついて、「…もう、その先を見据えているのね…」と言った。


「特別扱いなどとは言わせない。

 資格があるから指導をするんだ。

 ここからでも手に取るようにわかるからね。

 引き寄せたいところだけど、

 今は我慢してもらう。

 それは精神修行という意味だ。

 この程度で変わってしまう子は、

 それだけの器しか持っていなかったことになる」


「そうね… 説明は必要だわ…」と真由夏は言って、「あら、電波届いてるわ」と、真由夏はスマートフォンを見てからタブレットを出した。


「ミラクルマンは誰も見捨ててなんかいないの!」


真由夏は笑みを浮かべて叫んだ。


「…ここにきてインタビュー…

 我が妹ながら逞しいね…」


春之介は苦笑いを浮かべて言った。


「仕事も学校もやめてきたけど、

 勉強、教えてくれるのよね?」


真由夏は春之介と浩也を交互に鋭い視線を向けて言った。


「もちろんだよ」と春之介は言って、真由夏の頭をなでた。


「何もかも捨ててくる覚悟も必要だから。

 メイド候補者の選定は厳しいわよ!」


真由夏の言葉に、「…メイド長に認定…」と春之介は大いに眉を下げて言うと、「…尻に敷かれそうで、なんだか嫌…」と浩也は言って苦笑いを浮かべた。



住む場所が変わっただけで、自由時間は今までと何も変わらない。


学校に通う代わりに、この近場の宇宙の星々を平和にして回る。


この宇宙がある大宇宙は、まだ公には源一たちが抱える部隊のテリトリーではないので、この大宇宙で働いているのは春之介の部隊だけだ。


大きな組織の場合、まずは安全第一となるので、大宇宙と大宇宙の接続部分の平和をまず平定する必要がある。


よって源一たちはその作業の奔走を始めていた。


ゼルダの星がある大宇宙は8つの接点があるので比較的安全だと言える。


しかもすでにそのうちの二カ所は源一たちによって安全の確保を終えていた。


ほかの6カ所はまだ確認していなが、大宇宙の連なりから考えてそれほど危険はないと源一は判断していた。


しかし最優先でこの作業を終わらせることにしている。


それはただただ、ゼルダの星がまさに素晴らしい宝石のような星で好条件の立地なので、それを守るためだけに動いているようなものだ。



「…不安か… まあ、それはわからないわけでもないな…」と春之介は言って、春夏秋冬にまだ小さなこの街の数カ所に宇宙艇を浮かべさせて撮影させた。


そして地球に映像を送り続けるように指示した。


「…今までよりも贅沢だわ…」と真由夏は言って、大いに苦笑いを浮かべた。


「ひとりでも不安にならないように。

 俺たちはきちんと生きているし、

 地球とはきちんとつながっているという証明だ」


春之介は笑みを浮かべて宇宙艇に向けて手を振った。


「…さて、今度は特別な修行を始めようか。

 まさにサイコビームとも言っていい、

 攻撃の訓練」


春之介の言葉に、仲間たちは大いに気合を入れた。


「…ようやく我の出番が来たぁー…」と猛春が言って立ち上がって巨大化した。


「ん? 例の、魔法の杖を使うんじゃないの?」


春之介が聞くと、直樹は大いに眉を下げて猛春を見上げていた。


「こちらのお方の方が高性能のように思います…」と直樹は大いに嘆くように答えた。


「フリージア星で、その訓練を見ておったが…」と猛春は言って鼻で笑うように、『ふん!』と鼻を鳴らした。


「じゃあ、俺が実験体として手本を見せるよ」と春之介は言って、猛春の太い後ろ足を軽く叩いた。


まずは射撃ブースを創ることになり、桜良が額に汗して創り上げた。


「…ぶー…」と天照大神は唇をならした。


もちろん、仕事をとられて大いに気入らないようだ。


「星の建築物はエッちゃんに任せたからな。

 天照は俺たちの立場でいろ」


春之介の言葉に、「…はぁーい…」と天照大神は大いに不服だが、ここは口答えしなかった。


春之介と猛春はブースに入ってほんの一分ほど話し合ってから、ブースごとに備えられている装置を使って的を出した。


春之介は右手を拳銃のようにして、「バンッ!!」と叫ぶと同時に、的を簡単に射抜いた。


誰もが大いに拍手をしていて、そしてその情報の一部始終が春夏秋冬によって映像として閲覧できた。


よって何をどうすればいいのかは理解できていた。


「…細かい…」と直樹は言って、仲間たちと顔を見合わせている。


そしてミランダたちクルーも仲間になって、猛春から直接レクチャーを受けた。


そして約三名、まさに競うようにとんでもない球を撃ち出していた。


優夏、春菜、真奈の三人だ。


「…死にそうになったら助ける…」と春之介は言って大いに眉を下げた。


「だけど、武器を壊すのなら、石を投げるだけでいいと思う」


春之介は言って、サイコキネシスを使って、固そうな石を正立方体に切り開いて、たくさんある不規則な的に正確に撃ち込んだ。


直樹たちは大いに喜んで手を叩いている。


優夏たちは春之介が目立ち始めたので、なにをしているのか大いに気になって偵察にやってきた。


「…くっ… その方が確実に疲れねえし、省エネ…」と優夏は言ってマネを始めた。


しかし春菜と真奈はまず石を割ることができない。


さらにサイコキネシスが弱すぎてまともに飛ばない。


まだ人間である一太たちも体験したが、小さなものを一発撃つだけで大いに疲労感を感じる。


だがこれも日々の積み重ねと思い、今は我慢した。


するとミラルダが、「宇宙で襲われた時、どうされるのですか?」と春之介に聞いた。


「あ、逃げて」と簡単に答えられてしまったので、「…はいぃー… 了解ですぅー…」と眉を下げて答えた。


するとギルティーが、「どういうことだかわかるか?」とミラルダに聞くと、「危険な場所からの早々の離脱。伏兵の存在の検知。思わぬ不幸を招かないため」と宇宙での安全策三カ条をを述べた。


「春之介様の一番強い想いはどこにあると思う?」


ギルティーの言葉に、ミラルダは大いに考えてから、「…身の安全の確保…」とつぶやくと、「不合格!」と春之介が叫んだので、ミラルダはすぐさま首をすくめた。


「そんなもの、ただの一部に過ぎない。

 まずは逃げ、安全を確保できたら、

 神たちが宇宙船から飛び出して、

 対処なさるに決まっている」


「そういこと!」と春之介は上機嫌で答えた。


「…えー… 危険ですぅー…」とミラルダは大いに眉を下げて言った。


「神の守りは鉄壁だから!」という春之介の陽気な言葉に、「…ずるいですぅー…」とミラルダが言うと、春之介は大いに笑った。


「それはおまえの知識不足だ。

 ここは大いに恥じろ」


ギルティーの厳しい言葉に、「…はぁーい…」とミラルダは眉を下げて答えた。


春之介は汗を拭きながらブースを出て、ミラルダの前に立った。


「もちろん、その時の状況によって、

 対処方法は多少は変わる。

 星の近くでの戦闘は、できればしたくないからね。

 大きな星が崩壊した場合、

 いくら神であってもただでは済まない場合もあるから。

 だから基本的には逃げる。

 そして救うべき存在がある場合は、神たちが何とかして救う。

 というよりも、天照ひとりだけで、あっという間に終わると思うね。

 悪いヤツだけに、神の鉄槌を落とせば船は簡単に止められるはずだ」


「…最近になって、何度も見ましたぁー…」とミラルダは大いに嘆いた。


「爺ちゃん…

 ヤマ様が最近は機嫌がいいそうだからね」


春之介の言葉に、「…欲を持たないように気をつけますぅー…」とミラルダは言って背中を丸めて小さくなった。


「雷竜ガンデも神の鉄槌を使えるから抜かりはないからね。

 春子は使えないの?」


春之介の言葉に、ここで遊んでいた春子はしっかりと話は聞いていた。


そして眉を下げて春之介を見上げた。


「何とかして使えるようにして欲しい」と春之介が懇願すると、「…頑張るのぉー…」と春子は言ってすぐに天照大神に寄り添った。



今日のところはそれほど根を詰めて修行に励むことなく、春之介たちはリフレッシュをしてからくつろいでいると、秋之介を抱いて夏樹が社から出てきたので、春之介は大いに眉を下げていた。。


「俺だけ親を呼んだみたいになっちゃったじゃないか…」と春之介が言うと、「…招かれざる客?!」と夏樹は叫んでから、春之介をまるで無視するように遠回りして、優夏のそばに歩いて行った。


「…何を考えてるのか全く分からない…」と春之介は言って大いに眉を下げた。


「秋之介!」と春之介が叫ぶと、夏樹から逃げ出せないようで、『グゥ―――…』と悲しそうな声で泣いた。


「天照、鉄槌!」と春之介が叫ぶと、夏樹はもうすでに秋之介を放していた。


秋之介は勢い勇んで春之介に駆け寄って来て、人型をとった。


そして背筋を伸ばして、「寂しいそうです!!」と秋之介は声を張り上げて報告した。


「…ふむ…」と春之介は短くうなって、「早速、教師の募集」と言うと、「はいはいっ!!」と息を吹き返した夏樹と、便乗してきた桜良が勢い良く手を上げた。


「…うまく逃げ切ったな…」と浩也が小さな声で言って少し笑った。


「…これで、みんなの親御さんたちも招かないわけにはいかなくなったよ…」


春之介の言葉に、「まあ、来たがるだろうから、一応は抵抗する」と浩也は言った。


「校長の一ノ瀬優介さんの指示に従うように」


春之介の言葉に、「はいっ! 王様!」と夏樹も桜良も調子よく言って、子供たちに向かって駆け寄って行った。



春之介は潮来と交信して、この星に設置したカメラの映像が功を奏したようで、全く騒ぎが起こらなくなったと聞いてほっと胸をなでおろした。


そして就寝したのだが、やはりまた夢見に誘われた。


「…さて、今度はどんなドラマかな…」と春之介は言って、どう考えてもかなり近代的なビル群を見上げた。


「春夏秋冬、おかしいだろ?」と春之介が聞くと、「…ここ… 以前願いの夢見で神が訪れています」と春夏秋冬は答えてその情報を出した。


春之介はその情報を確認しながら、「機械は機能してないんじゃない?」と聞くと、「永久ループに陥ったようです」と春夏秋冬は何が原因なのか探りながら答えた。


「人間を虫に変えたか…

 その虫が、機械を止めたんじゃない?」


春之介は言ってから、ゼルタウロスに変身して、魂たちに虫の魂を探らせた。


「…生物は植物だけ残ったようだ…

 これも、ひとつの平和か…」


しかしその植物も雨が降らないせいか、街に植えられていたものはすべて枯れていた。


ゼルタウロスは宙に浮かんで、360度確認すると、街以外は緑濃い森のようになっている。


この街を離れて別の場所に飛んだのだが、やはり生物は植物だけだった。


「こういった結果もあるわけだ…

 そして植物も、そのうち絶滅するような気がするね…

 だがそのうち、新しい生物も誕生するだろう…

 俺もこの星は手出ししないことにしよう…」


だが、ゼルタウロスが出した解答は不正解だったのか、この場に留まっている。


「…機械を相手にしろってか…」とゼルタウロスは大いに苦笑いを浮かべて言って、「メインコンピューターがある場所に行こう」とゼルタウロスが言うと、イカロスキッドがわかりやすくこの星にあるコンピューター関連の見取り図を出した。


ゼルタウロスは、元いた街に戻って、メインコンピューターが備え付けられている巨大な施設まで簡単に足を踏み入れた。


全て電気仕掛けなのだが、コンピューター制御されていないので、難なくメインルームにやってこられた。


「…源一様だったらどうするんだろうなぁー…

 でも、ロボットが好きだから、

 また別だろうなぁー…

 …おや?」


ゼルタウロスは言って、妙に厳重そうな金庫のような戸棚に近づいた。


「…お宝が入っているような気がする…

 それに、何かがざわめいているような気がするが…」


しかし、生命体がいるわけではないとこの地の魂たちは言っている。


「…化学物質で、生物が蘇るのか…」とゼルタウロスは言ってから春之介に戻って、難なく金庫を開けた。


「…このメインコンピューターの研究成果のようだな…

 だが、試してみないと、正解はわからない…

 永久ループの原因、わかったかい?」


春夏秋冬は、「一部ショートしています」と言ってその部分の映像を出すと、黒焦げになっている数匹の虫がいた。


「…一矢報いてコンピューターを止めたんだな…

 あの虫たちは元は人間…」


春之介は映像に頭を下げてから、10台あるキャスター付きの装置を外に持ち出した。


あとは春夏秋冬が装置の理解を終えて、たくさんのケーブルを地中に埋めた。


「…あ、魂たちが騒ぎ始めた…」と春之介が言った途端に、別の星に飛ばされていた。


今回は、見渡す限りのかなりの大自然で、文明文化はまるでないようだ。


「…きちんと結末を見られないことがなんだか悔しいね…」と春之介が言うと、「あの星はここと何も変わりません」と春夏秋冬は苦笑いを浮かべて言った。


「ここには虫も動物も人間もいるけど、どちらも外と交信できない」


春之介の言葉に、「はい、その点は同じです」と春夏秋冬はすぐに認めた。


しかしそれは見渡した見た目だけで、どう考えても文明文化があったと思わせるものが、軽く土や枯葉が積もっていて足元にある。


春之介は地面から手で銀色に光っているものを持ち上げて、「飛行機などの装甲板?」と春之介が言うと、春夏秋冬がその金属片に触れた。


「はい、軽量化された金属ですね。

 航空機のものだと思われます。

 しかも厚みがありますので、

 航空機ではないと推測します」


春之介は、―― 宇宙船… ―― と思い、何度もうなづいている。


「…埋まってはいなかった…

 まるで、緑のオーラを流して植物で隠したように感じるけど、

 術をかけた気配は感じない…

 若草が枯れてる程度だから、

 そんなに大昔じゃなく数か月前に、

 この残骸はここに転がった。

 その割には、辺りに何もなさすぎる。

 ここは人間と接触して聞くか…

 …いや… なにか、嫌な予感が…」


春之介は言って、魂たちに偵察を頼むと、「…外来種… 占領されたのか…」と言ったが、「ですが、宇宙船がありません」と春夏秋冬は断言した。


「…少々ヤバい宇宙人をここに捨てた…」


春之介の言葉に、「…あり得ますぅー…」と春夏秋冬は大いに怯えるように言った。


「…だけど、その宇宙船の残骸…」と春之介は言って、宇宙船の残骸の一部に顔を向けて苦笑いを浮かべた。


「…だけど…」と春之介は言って笑みを浮かべた。


この星の空気も雰囲気もなかなかいいと感じている。


よってひどいことは起こっていないと思い、安心してこの星の魂たちとコンタクトを取った。


「…異星人? え? 違うの?

 …それはどうも…」


春之介は比較的丁寧に魂たちに礼を言って、「…ロボットだそうだ…」と春之介は言って、春夏秋冬の頭をなでた。


「…リンクできる気配がないので、

 それほど高性能のものじゃないと思いますぅー…」


「まあな…

 ヒューマノイドじゃなくてロボット…

 だがなぜかここに捨てに来て、

 宇宙船は大破してこの星で散った…

 そして残虐なことをするわけではなく、

 動物たちをかわいがっているそうだぞ」


「…あはは…」と春夏秋冬はあいまいな表現のひとつの愛想笑いをした。



春之介はロボットがいる場所まで飛んで、簡単に発見した。


確かに、動物たちと遊んでいるようだが、肘の上からの手がない。


「…ロケットパンチ…」と春夏秋冬がつぶやくと、春之介は愉快そうに大いに笑った。


「置き去りにされたくないから、

 腕を伸ばす代わりに腕を飛ばして、

 ついつい宇宙船を撃ち落としてしまった…

 だが、廃棄処分じゃなく捨てられるというところがみそだ。

 壊すことができないのか…」


春之介は魂たちに話しかけ、変わったものが落ちていないかを聞いて、初めに姿を現した場所とここのほぼ中間点に妙なものがたくさん落ちているという情報を得た。


一旦ここはその地点に向かって、5メートルほど浮かんで地面を見ていると、まさにロボットの腕が落ちていたので、大いに苦笑いを浮かべた。


そこから100メートルほど離れた場所にも落ちていたので、春夏秋冬が興味津々に調べて、「燃料切れだと思います」という回答を得た。


「かなり上空でパンチをお見舞いしたんだろうね。

 宇宙船は地面に落ちるまでに、

 ほぼ燃え尽きたんじゃないのかなぁー…」


「はい、先ほどの金属片ですが、

 多少溶けているように見える場所もありました」


春之介は両腕をもって、女性タイプのロボットの目の前に立った。


「落とし物だと思いますけど」と春之介が言うと、春夏秋冬は大いに笑い転げた。


ロボットは動きが緩慢で、ゆっくりと顔を上げて、「…ドロボー…」とつぶやいたので春之介は大いに笑った。


「盗っていません。

 あなたが両腕とも発射したんでしょ?」


春之介の言葉に、「…あー…」と言って固まった。


「燃料切れです」と春夏秋冬は言って苦笑いを浮かべた。


「言語回路は暴走していませんね。

 それなりに優秀なロボットだと思います。

 燃料は高エネルギー体のようですが、

 タンクが空っぽです」


ロボットは洋服のようなものを着ているが、上下とも短いものだ。


身長はそれほど高くなく、150センチほどなので、人間の女性で言えば小柄な方だと言える。


顔はまさに人間にしか見えない。


地球の種族で言えば、西洋人と日本人のハーフのように感じる。


顔立ちはかわいらしく、その姿はスレンダーで、造られた星の定番の姿かたちだろうかと春之介は何となく考えた。



春夏秋冬がロボットの脇腹を指で突くと、皮膚が盛り上がったように見えて、瓶のふたのような、金属質のようなものが出てきた。


春夏秋冬が右に回すと簡単に外れて、透明な筒状のものが出てきた。


「できるだけ安全な高エネルギー体を創れませんか?」


春夏秋冬の言葉に、「…普通、そういったものって、危険なものだよね?」と春之介は言って大いに苦笑いを浮かべた。


しかしここは試練として、今までに創ったもので何かヒントはないかと大いに考えた。


「最終的には電気に変換するんだよね?」


春之介は言って、筒状のものの先端にある、ふたつの接点を見入った。


春夏秋冬はロボットを探って、地球にあるものに置き換えて、その映像を出した。


「…直流55ボルト、35アンペア…」と春之介は言って、まずは三つの金属を創り出してから、筒に入れ込めるエンジンを創り上げ、初めに創った金属をはめ込んだ。


「軽くなった…

 ピラミッドエンジン…」


春夏秋冬は言って、電力部分の計測をして、女性のロボットの腹に入れてふたをした。


すると、表面は元通りになり、人間の肌と何も変わらないように見えた。


「ゴムのようなものかい?」と春之介が言うと、「はい、この部分だけ、かなり柔らかいシリコンに近いものを使っています」と春夏秋冬は答えた。


「…多分、この人を連れて帰ることになると思うね…

 さすがにここに残るなどとは言わないと思うけど、

 その時はこの星の場所を聞き出して欲しい。

 多分知っていると思うから」


春之介の言葉に、春夏秋冬は苦笑いを浮かべてうなづいた。


するとロボットの眼に力が宿って、「動作確認… 異常」とつぶやいた。


「あ、体重が軽くなっているはずだから、

 それは問題ないよ」


ここからは春夏秋冬が全ての説明をすると、春夏秋冬はこのロボットの先生になっていた。


ロボットとヒューマノイドの場合、この関係は成り立つので何も問題はない。


「夢見が終わらないということは、事情を聞けということらしいね…」と春之介が言うと、「…私、出来損ないらしいのですぅー…」とロボットは悲しそうに言った。


「何か、ひどい目にあったの?」と春之介は人間に接するように聞いた。


「私をマグネットで吊り上げて、

 地面に激突させたのですが、

 その程度で私は壊れません」


「あー、すごいなぁー、強いんだなぁー…」と春之介は感慨深く言った。


「どころで、どうして君を壊そうとしたの?」


「戦いの場所に連れて行かれて、

 人間たちを倒せと言われたので拒否したのです」


「君に命令した人が君を造ったんじゃないの?」


「私を造ったロボットが戦えと言ったので、

 イヤだったので宇宙船を奪って逃げたのですが、

 たどり着いた星でも同じように言われたのです」


ロボットは悲しそうな顔をした。


「君、名前ってないの?」


「ATNA型FYMタイプ初号機です」


「アテナ… 冬美…」と春之介が言うと、春夏秋冬は大いに苦笑いを浮かべた。


「アテナ… フユミ…」とロボットはつぶやいて満面の笑みを浮かべた。


「こういう文字で表す」と春之介は言って、長い半紙にその名前を書いた。


アテナはさらに笑みを深めて、やさしく半紙を抱きしめた。


「あ」と春之介は言って、リクリエーションルームの天井を見ていた。


「理解不能」とアテナは言って、すぐに安心しきってまだ眠っている小春を手に取って、やさしく体をなでた。


春之介は半身を起こして、「ここでいろいろと勉強してほしい」というと、「はい、マスター」とアテナは言って頭を下げた。


「俺は八丁畷春之介。

 こういう字を書く」


春之介は言ってまた半紙を出して筆で書いた。


「こういう字ばかりの方が美しいと思いましたぁー…」とアテナは言って、『アテナ冬美』と書かれている半紙を眉を下げて見た。


「じゃあ、こうしようか」と春之介はまた半紙を出して、『女神冬美』と書くと、冬美はさらに喜んだ。


「女神冬美と読むんだ」


「女神冬美…」と冬美は復唱して、春之介に恭しく頭を下げた。


「ここには様々な取り決めがあるから、

 まずは春夏秋冬の話をしっかり聞いて勉強してほしい。

 ここでは君を破壊する者は誰もいないから気にしなくていい。

 春夏秋冬の言葉だけを信じていろいろと知ってくれ」


「はい、先生のおっしゃることだけをしっかりとお聞きします」と冬美は真剣な眼をして春夏秋冬に顔を向けて頭を下げた。


「春夏秋冬、今は最優先でここの常識を叩き込んで欲しい。

 それまではここを離れないから、

 終わったら教えて欲しい」


「はい、了解しました」と春夏秋冬は言って、まずはふたりして外に出た。


「…まさかだけど…

 ロボット、連れて帰ってきちゃった?」


優夏の言葉に、「ロケットパンチを撃ち出せるロボ」と春之介が言うと、優夏は大いに眉を下げていた。


「戦闘用ロボとして造られたんだけど、

 本人が嫌がって星から逃げたんだ。

 なぜそうなったのかは、

 詳しいことは春夏秋冬が聞きだすと思うから問題はない。

 人間に置き換えていえば、かなり優しいようだけど、

 ロケットパンチで宇宙船を打ち落としているからな。

 その辺りの常識的ことをかなり確認と指導する必要はあると思う。

 打ち落としたのは結果で、置き去りにされると思って、

 手を伸ばしたに過ぎないと思う」


「…捨てロボット…」と優夏は言って眉を下げた。


「ここの児童保護施設に保護したということになる」


春之介の言葉に、優夏は笑みを浮かべてうなづいた。


「…だけど、だったら…」と優夏は言って大いに考え込んだ。


「源一様はもう知っているはずだ。

 だから興味を持ってやってくるはずなんだけど、

 その気配を感じられない」


「…ロボットの神なのに、神が尻込みしてる?

 春之介があの子を連れ帰ったことに理由があるから…」


優夏のつぶやきに、「あのロボットには、源一様の威厳は届かないだろう」と春之介はほぼ断定して言った。


「素人の俺から見ても、あの子は高性能だと思う。

 それなのに、春夏秋冬とリンクが取れない。

 だから取れないように計画的に造ったように思うんだ。

 目で見て耳で聞かせて、

 基本的な常識を認識させるような仕組みなんだと思う。

 だからあの子は、自分をロボットと認識していないと思う。

 さらに、少々微妙な発言があった。

 春夏秋冬を先生と呼んだんだよ」


優夏はすぐに理解して、「…確かに微妙だわ…」と言って何度もうなづいた。


「ロボットの教育係を先生と呼んでいたんだろう。

 全てをオンラインにして、情報共有するのはいいと思うけど、

 もし一体でも奪われた場合、

 全員を奪われることに等しくなると思うんだ。

 もちろん、影たちも馬鹿じゃないからオフラインにするんだろうけど、

 強制的に分解されたら一巻の終わりのような気がするね。

 人間を洗脳することと何も変わらないし、

 人間よりも質が悪い、オンラインという危険なシステムは、

 ヒューマノイドやロボットの場合、

 本当はない方がいいような気がするんだ。

 冬美が造られた星でそれがあったから、

 冬美はオフライン専用として造られた。

 あの子はあのタイプの一号機だそうだ」


「…源一、落ち込むわね…」と優夏は言って少し笑った。


「宇宙の父も宇宙の母もわかっていなかったことを

 俺が見て確認して検証しているはずだからね。

 だから、源一様たちの常識は大いに覆ってくるはずなんだ。

 さらに、新しい事実も次々に判明している。

 宇宙の父も宇宙の母も、

 これからはさらに大変なことになるような気がするね。

 星にいて教師をやっていることは正解のような気がする」


「だけど影の場合、できればオンラインの方が、

 情報の引き出しは早い… けど…」


優夏はここまで言って失速してうなだれた。


「例えば、

 常にオンラインじゃなくていいような気がするんだ。

 宇宙船や、星の決まった場所だけで接続して情報を得るようなやり方。

 もちろん、これもセキュリティーを上げる必要はあるけど、

 もしも影を奪われても、その技術を知ることはできるけど、

 データ解析はそう簡単にはできない。

 できれば影は星の外に出さない方がいいのかもしれないね。

 ひょっとしたら、今回の俺の夢見は、

 その警告の意味もあるのかもしれない。

 冬美が造られた星がその被害を被って、

 冬美を創り上げたという事実を知りたいけど、

 きっと冬美がその事実を知っているような気がする。

 今頃春夏秋冬は、大いに考え込んでいるかもしれないね」


『影と警備ロボをすべて回収することに決めた』と春之介と優夏の頭に源一の声が聞こえた。


「はい、了解しました。

 冬美はどうします?」


『悪いが、できれば会いたくない、かな?』と源一は言って少し笑った。


「では早速、俺と優夏が責任をもって送り届けますので」


『ああ、よろしく頼む』と源一は言って念話は切れた。



春之介と優夏は、地球にいる三体の警備ロボを回収して、春夏秋冬と冬美を連れて宇宙船に乗り込んで、フリージアにやってきた。


食卓には200を超える影たちと警備ロボが大集合していた。


「…はは、すげえ…」と春之介は大いに嘆いた。


しかし優夏は、かわいらしい影を見つけては笑みを浮かべて抱きついていたことに、春之介は大いに眉を下げた。


「…オンラインは危険ですぅー…」と冬美は言って眉を下げている。


「冬美の先輩たちは全員乗っ取られちゃったわけだ」


「はい、そう聞いています。

 ですが、その対策は施してあったので、

 敵に私たちの技術は渡りませんでした」


冬美は元気がなくなったようにうなだれて言った。


「…最後まで言わなくてもわかったさ…」と春之介は答えた。


オンラインとは独立した別経由の破壊装置でも抱かせていたのだろうと察していたので、源一がどのような回避システムを構築するのか大いに興味があった。


源一の仲間たちは何も聞かされていないようで、大いに眉を下げて影たちを見ている。


「冬美は生まれてからどれほど勉強したんだい?」


春之介の言葉に、「1年と183日です」とごく自然に答えると、春之介は何度もうなづいた。


「主に軍人教育としてだと思うんだけど、

 冬美はそれは受け入れられなかったわけだよね?

 どうして拒絶したんだい?」


「統一性のない命令は、すべて平和に近い方を選択したからです」


「…ふむ… それはよくわかる…」


よって、守るべき者と攻撃するべき者がいた場合、攻撃はしないという判断を冬美は独自の計算によって導き出したと言える。


「だから使えないとして処分されようとしたわけだ。

 悲しいことだけど、

 だからこそ、いろいろと考えて生きて行く必要はあるぞ」


「…はい… 私… 仲間たちを壊しちゃいましたぁー…」と冬美は言って大いにうなだれた。


「そうか… 大反省だな…」


「はいぃー…」と冬美は答えてさらにうなだれた。


よって冬美が壊した宇宙船にはロボットだけが乗っていたんだろうと春之介は察した。


「冬美はこれがから何をして生きて行きたい?」


「子供たちと遊びたいです! あ、動物たちもかわいいです!」と冬美は息を吹き返したように叫んだ。


「そうだな、それでいいよ」と春之介は言って、大いに陽気な優夏を無理やり宇宙船に乗せて、ゼルダの星に戻った。



しばらくは冬美に付き合うのもいいだろうとして、春之介と優夏は、子供たちとともに遊んだ。


そのついでに、新しい中継システムを構築して、潮来に確認を取った。


オンラインではあるが映像だけの一方的な送信なので何も問題なかった。


その中継経路はヤマの能力に便乗しただけだ。


スマートフォンもパソコンも、地球にいる時と同じように普通にアクセスできる。


もちろん、いきなり映像が切れた説明をホームページ上に書いておいたので、それほどの騒ぎにならなかったようだ。


アクセス数は相変わらず高く、パソコンで調べると30億もあったことに、春之介は眉を下げている。


もちろん書き込みも多く、様々な希望が寄せられている。


「…うーん… 性格も感情も人間…」と天照大神は言って、笑みを浮かべて冬美を見ている。


「肉体が人間じゃなくて魂を持っていない生物」


春之介の言葉に、「…すっごく難しい存在ぃー…」と天照大神は眉を下げて言った。



ほどなくして、また源一から連絡があり、春夏秋冬を迎えに行くことになった。


ついさっきここに来た時とは大いに雰囲気が変わっていて、春之介に敵意を向けている者が大勢いる。


「…招かれざる客…」と春之介が苦笑いを浮かべると、『タン! タン! タン!』と数十発の神の鉄槌が食卓にいる者たちに落ちた。


春之介の横にいた雄々しき姿の天照大神が落としたようで、厳しい顔をしている。


「縁を切ってもいいんだぞ!」と今度は優夏が黒い肉体に変身して叫ぶと、二千人ほどいる屈強な猛者たちの半数以上が意識を断たれた。


すると、源一の右腕と左腕のタクナリ・ゴールドとマサカリ・ウィリアムスがすぐさまやって来て頭を下げた。


そして、「素晴らしい教育に感謝します」というタクナリの言葉に、春之介は大いに眉を下げていた。


「ここから放り出されなくなったはずですのでね」とマサカリが笑みを浮かべて言った。


「…くっそ、こいつらは強ええ…」と黒い物体がうなるように言うと、「ムキになる必要はないさ」と春之介が言って、黒い物体の腰を抱くと、すぐさま優夏に戻って、自分で結界を張った。


「優夏ほど対抗心を持ったら、

 見ておくべきものを見られなくなるぞ」


「…気づいたわよぉー…」と優夏は眉を下げて言った。


「先にやられたかぁー…」と今度は人型のビルドがやって来て、真剣な顔をして天照大神を見上げた。


「春之介様、お願いがあるのです」とビルドが言うと、笑みを浮かべてビルドの横にいるフォレストが、「…独立するので協力してください…」と頼りなげに言ってきた。


優夏がフォレストを抱き上げて、「さあ、帰るわよ」と言ったので、「ああ、そうしよう」と春之介は言って、何の変化も見られない春夏秋冬の頭をなでて、タクナリたちに笑みを浮かべて頭を下げ、宇宙船に乗り込んだ。



ゼルダの星に帰ってから、春夏秋冬がとんでもないことを言い出して、「…いる…」と春之介は言って、春夏秋冬に重なっている妖精を見入った。


「…よろしくお願いしますー…」と桃色のオーラを放っている妖精が恥ずかしそうに言った。


「重なってる必要ってあるの?」と春之介が聞くと、「…居心地がいいのでついつい…」と妖精は言って春夏秋冬から出て来て頭を下げた。


「君が連絡係にされちゃったわけだ…」と春之介が嘆くように言うと、「…お仕事をもらえて光栄ですぅー…」と春之介のほぼ逆の感情で嬉しそうに言った。


「…そうか… そうだよな… その気持ちは俺にもよくわかった…」


春之介は従ってくれる魂たちをこの妖精を置き換えて考えたのだ。


「じゃあ、中心にいる妖精たちは大変だよね?」


「あちらにもたくさんいますので、

 みんな喜んでますし、

 お勉強にもなりますぅー…」


「もちろん、入れ替え制だよね?」と春之介が言うと、「はいぃー… 不平等なのでぇー…」と妖精はここは悲しそうに言った。


「こっちから希望を言うこともあるかもしれないから、

 それほど悲しまなくてもいいさ」


春之介の言葉に、妖精は笑みを浮かべて顔を上げた。


「配下の妖精がやっている人もいますぅー… あ…」と妖精は言って、両手のひらでかわいらしくその口をふさいだ。


「今のところは君を配下にする理由がないからね。

 どれほど春夏秋冬の担当なの?」


「仲良くなれる直前の時期の、10日間ですぅー…」と妖精はまた悲しんでうなだれた。


「…俺たちが率先して君を知って、

 仲間に加えるか協議すればいいだけのことだ。

 そして誰にでもできるようなので…」


春之介が小さくなって肩にいる猛春を見ると、「できます」と猛春は言って、現在桃色の妖精の交信中のデータなどの映像を宙に浮かべた。


まさに無数と言っていいほどの、とんでもない情報の受信を行っていて、送信は今のこの場の状況だけのようだ。


「妖精ならだれでもいいってわけじゃなさそうだが…」


「あ、はい、その資格は必要です。

 まずは、仲間であることが第一ですぅー…」


「それはその通り…」と春之介はにやりと笑って言った。


「源一様は、できれば雇っていただきたいと思っておられているようだ」


猛春の言葉に、「適材適所であてがってきたわけか… なるほど…」と春之介は答えて何度もうなづいた。


「猛春、冬美と相談して情報の開示を」と春之介が言うと、「心得た!」と猛春は仕事をもらって大いに喜んで、冬美に向かって走って行った。


「…いつ会っても、すごい人ぉー…」と妖精は嘆くように言った。


「ところでさ、大いに疑問があるんだけど。

 君の能力」


春之介の言葉に、桃色の妖精は大いに驚いてからうなだれた。


「いじめちゃダメよぉー…」と優夏が眉を下げて言ったが、「何もできないことがおかしいんだよ」と春之介はすぐさま答えた。


そしてさらに、「実は、周りにいた者は君の能力に気付いていたかもね」と笑みを浮かべて言ったのだが、すぐさま眉を下げた。


「マーカス君!」と春之介が叫ぶと、子供として遊んでいたマーカスがすっ飛んできて、妖精の隣に立って笑みを浮かべて春之介を見上げた。


「お勉強した中で、桃色の妖精は出てこなかったんだけど、

 何か知ってる?」


春之介の言葉に、「…そういえばそうだ…」と優夏は言って何度もうなづきながら妖精を見た。


「うん、知ってるよ!」とマーカスはフランクに答えただけで、その理由は話さなかった。


「…口にしてはいけない…

 全ては察しろ…」


「あはは! うん! そうだよ!」とマーカスが陽気に言うと、「…できれば説明してほしいぃー…」と優夏は大いに眉を下げて言った。


「そのうち気付くさ。

 身の危険はないし、何も問題ないから」


「…うん… だったらいいんだけど…」と優夏は言って、妖精をまじまじと見入った。


「口に出して願いを言ってはいけないということによく似てるね。

 ほとんど根拠がないことだけど、

 口にして願いことをした時。

 周りにいる者たちはどんな気持ちになるのだろうか…

 賛同する者もいれば、反抗する者もいる。

 その想いのために、

 願いが届きやすくなったり届かないことがあるから、

 安全策として口に出してはいけないんだよ」


「…うう… なんだが、長年の疑問が解決したように思っちゃった…」と優夏は言って、この件は納得して、さらにこの妖精がそれに近い存在なのだろうと理解した。


そして徐々に目を見開いて、「…察しなきゃいけないぃー…」と優夏は大いに嘆いたが、この妖精の存在意義を確信した。


「ところで、名前はあるの?」と春之介が妖精に聞くと、「はい、ホプピスと言います!」と妖精は胸を張って答えた。


優夏はすぐに両手のひらで口をふさいだ。


春之介は笑みを浮かべて、「よろしくな、ホプピス」と言った。


ホプピスは笑み浮かべて、本来の仕事に集中を始めるために、春夏秋冬と同化した。


ホプピスは、この星の言語で訳しても平和の象徴ともいえる名前だった。


「…むー…」と今の一部始終を見ていた春菜が大いにうなった。


春之介と優夏が大いに穏やかになったと思って気に入らなかった。


もうここに真実が見えているのに、今の春菜ではまだ気付くことはない。


春之介は春菜を見て、「ホプピスに弟子入り」というと、「…予想もしないことだったぁー…」と春菜は大いに嘆いた。


「言葉は使わず見ているだけ。

 それですべて理解できすはずだ。

 これから行く先々で、確実に気づくだろう。

 ホプピスのその能力についてね」


一太と浩也はもうすでに察していて、春夏秋冬に笑みを向けていた。


「…聞いちゃいけないって、理不尽ー…」と真由夏は大いに嘆いたが、もちろん春之介の言葉を無碍にはしないので、聞き出すような行動は起こさなかった。


麒琉刀はずっと怪訝そうな顔をしていて考え込んでいるが、芽大瑠はいつもの様子と何も変わらない。


芽大瑠場合、すべてを自然に任せる方法を取るので、この中で一番安全な人間と言っていい。



春夏秋冬が帰ってきたことで、春之介たちはまた宇宙に飛び出して星々を巡る。


今までの癖なのか朝が早いので、夏樹は春之介の仲間たちの家族一同を連れてきたのだが、緑竜の姿のフォレストに出迎えられて、大いに背筋を伸ばしている。


しかし話をするとまるで子供のようだったので、大人たちは大いに安心して、ほっと胸をなでおろした。


すると桜良が学校から戻って来て、「こんにちはっ!」と陽気に夏樹たちに挨拶をした。


その後ろには学校の生徒たちが、怪訝そうな顔をして大人たちを見ている。


桜良はまるで子供たちを自分の子供のように接して安心させた。


そしてレスターもやって来て、大人たちと挨拶を始めた。


さらにレスターがお茶の準備を始めると、夏樹がすぐに手伝い始めた。


大人たちは桜良が何もしないので、―― 主婦逆転夫婦… ―― と思っておくことにした。


「みんないい人のようだから、特別扱いしてもいいと思うんだけどぉー…」という緑竜フォレストの言葉に大人たちは大いに食いついた。


「ダメだよ。

 確実に騒ぎになるから」


レスターが諫めると、「…すっごくたくさん人間が住んでるからダメなんだぁー…」とフォレストは言ってうなだれた。


「気になると思いますので、少し講義をしましょう」とレスターが言うと、大人たちは大いに食いついた。


レスターは火竜、土竜、緑竜の沸かした水と水竜の水についての説明を始めた。


まさに神のなせる業で、すべてが若返りにつながるものばかりだったのだ。


「…完全に若返るのも魅力的だけど、

 大騒ぎになっちゃうわ…」


夏樹は大いに眉を下げて言ったので、ここは欲を持つべきではないと、ほとんどのものがそう思っていたが、秋菜だけはすべてを試してみたいと思い、何とかならないかと思って計画を練り始めた途端、その姿が消えた。


「やってしまいました…

 八丁畷秋菜様は、もうこの星には来られないと思います」


レスターの言葉に、夏樹たちは大いに目を見開いた。


「春之介君の意思が、この星に宿っているので、

 欲や策略を持つと放り出されるのです」


「…だから言ったのにぃー…」と夏樹は言ってうなだれた。


「この星はそれほどやさしくありません。

 普通の人間では長期間の滞在は難しいと思います。

 次にはじき出されるのは、春菜さんかもしれません」


まさに、春之介の親族に対しても厳しいと誰もが思い、ここは夏樹と相談して引き上げることに決めた。



春之介は泥だらけになりながらもこの事実を知って、「やっぱ、お嬢様はダメだな…」とつぶやくと、近くにいた春菜が大いににらみつけた。


しかし、ゼルダの星で何があったのかを聞くと、「…ダメなお母さんでごめんなさい…」と春之介に頭を下げた。


「女性は若々しくいたいと、いつまで経っても思うものだからね。

 特に、潮来様に会ったことがある人は、

 みんな欲を持つように思うよ。

 90才なのに、見た目は二十歳そこそこ…

 竜が沸かした水と同じ効果がある若返りのようなものだから」


「…でも、潮来様の場合は、春君の都合だから…」と春菜は何とか言った。


「潮来様が放り出した弟子たちが何も言わないのが奇跡のようなものだよ」


もうすでにその奇跡を知っている者がいる。


だが騒ぎが起きないことで、天照大神が鉄槌でも落としたのだろうと、春之介は想像していた。


「子供に甘えてるの。

 親だからこそよ」


優夏の言葉が一番真実に近いと春之介は思っていた。


もちろん春菜もそう感じたが、優夏に反抗的な目を向けた。


だが、―― これがいけない… ―― と今回は反抗的な態度も言葉も発せずに、目の前の仕事を黙々とこなした。


「あははははっ!」と翔春が大いに笑いながら、作業を終えた泥だらけの春之介たちを一瞬にしてきれいにしていく。


天使の術で、拭去の術という。


多くの天使たちもその神髄はわかっているのだが、まだ十分に発揮できない。


しかし、春菜のように落ち込むことなく、笑みを浮かべて翔春について行く。


「…私、全然ダメだぁー…」と春菜は思い、眉を下げてうなだれた。


そして、朗らかな真由夏を見た。


―― 素直さ… ―― と春菜は思い、真由夏をうらやましく思ったが、うらやましく思われるのは自分の方だとさらに考え、さらに落ち込んだ。


春菜は何ひとつ不自由なく育ってきた。


春之介とのことは、幼いとはいえ、お互いの不手際だと言っていい。


―― 明るい道を歩くには… ―― と、春菜はついに、お嬢様を脱却しようと、大いに気合を入れて背筋を伸ばした。


すると、現地人の女の子たちが、春之介たちに花の王冠を差し出して笑みを浮かべている。


まさに心がこもった礼だと思い、春菜も笑みを浮かべて受け取った。


そして頭に乗せた瞬間に、春菜は自分を抑え込んだ。


―― 今はダメだっ!! ―― と自分に強く念じた。


―― 現地人たちを怖がらせたくない! ――


ただただそれだけを一心に思って、宇宙船に駆け込んだ。


「あら? 早かったわ」と優夏は穏やかに言って、春菜の背中を見ていた。


「遅いほどだよ…」と春之介は眉を下げて答えてから、「姿はさておき、性格が変わっているだろうねという言葉に、優夏は少し眉をひそめた。


「…エッちゃんのように心の底から明るくなった春ちゃん…」


「それなり以上に魅力的だと思うね」


「…さらに、強敵になっちゃった…」と優夏は眉を下げて言った。


「幼いころのチューが勝つか、

 永遠の誓いのキスが勝つか…

 今の段階では俺には全くわからないし、自信がない。

 だけど、それを感じさせない春菜になっていたら、

 俺は春菜に惚れ直して、

 そして振られるんだろうなぁー…」


「…そこまで行っちゃうわけね…」と優夏は言って苦笑いを浮かべた。


「だけど、心構えができた。

 春菜のために、何とか素晴らしい伴侶を探そう。

 実は、もう目星はつけているんだよ」


春之介の言葉に、「どっち?」と優夏が聞くと、「今のエッちゃんが生んだ方」と笑みを浮かべて答えた。


「…15才年上女房も悲劇よぉー…」と優夏は眉を下げて言った。


「宇宙船に入って、俺たちはさらに驚くことだろう。

 春菜の能力の高さに。

 サンノリカとサンロロスもやっていたことだよ」


「私、その術は持ってないわ…」と優夏は言ったが悔しがってはいない。


優夏の性格上、湧いて出る術ではないからだ。


すると、翔春が心配になったのか宇宙船に駆け込んですぐに、「パパァ―――ッ!!」と大声で叫んだ。


「なんとなくわかった…」と春之介は言って、あるものを創り出して手に持った。


そして優夏とともに宇宙船に向かって歩いて行った。


宇宙船に入ると、天使たちの中央に花の冠を乗せた裸の幼児がいた。


「…戻れないぃー…」と幼児の春菜が眉を下げて言うと、春之介は大いに笑って、創り出した下着と服を着せた。


これは春之介と春菜の兄妹の儀式のようなものだった。


「そのうち戻れるさ。

 仕事ができる自信はある?」


春之介が聞くと、「うん、できると思うぅー…」と春菜は眉を下げて答えた。


「…うっ! 園児服…」と春菜は言って、鏡を見て大いに戸惑ったが、今はこれでいいのか、翔春たちの仲間になった。


優夏は床に散らばっている春菜の服などを回収して異空間ポケットに納めた。


「気が合いすぎて怖くなっちゃいそうだわ…」と優夏が眉を下げて言うと、「なりそうだな」と春之介はすぐに答えた。


仲間たちも幼児になってしまった春菜を見て目を見開いていたが。春之介と優夏が笑みを浮かべて見ていたので、問題はないのだろうと察した。


この星で朗らかに食事会をしてから、次の星に飛んだ。



「どうなることかと思ったわ…」と元の姿に戻った春菜は大いに眉を下げていた。


「やり過ぎないようにな。

 できれば術はまだ使わない方がいいぞ。

 かなり怖いことになりそうだからな」


「…星を壊すとかやっちゃいそうだわぁー…」という春菜の言葉に、誰もが苦笑いを浮かべていた。


到着した星では、性懲りもなく至る所で中世的な戦いをしていた。


春之介はここは指示を出すことなく、春之介の能力を試した。


戦場の砂を舞い上がらせ、竜巻のように兵士たちを囲んだのだ。


まさに視界ゼロになり、「撤退ぃ―――っ!!!」と兵士が叫び、何とか間違えることなく、自陣の砦に戻った。


「きれいになった」と春之介が言うと、誰もが一斉に頭を下げていた。


この先は、それぞれが単独や複数で、戦場で試したいことを確認するようにして戦いを止めて回った。


そしてその戦いの事情を確認しながら、双方のためになるような対策を講じた。


この星は肥えた土地のおかげで、食糧不足は皆無だった。


戦いの理由は領土を広げたいという欲だけだった。


「それでも構わないんだけどな、

 あんたたちよりも強い者が現れたら、

 あんたたちはその僕になるだけだからな。

 好きにすればいいさ」


原住民たちは春之介たちを神と崇めたので、不服そうな態度をとることなく、防衛だけを考えて、領土を高い塀で囲むことに決めた。


さらにはそのついでに、山賊などの成敗も始めた。


今までに見向きもされない存在だったので、あまりにもいきなりのことで、山賊たちは四散して逃げた。


さすがに軍隊と戦って勝てるとは思っていなかったからだ。


春之介はこのようにして多くの人々とコミュニケーションを取って、数名の老若男女にロックオンした。



春之介たちはゼルダの星に戻って、現在は風呂に入ってリフレッシュしている。


「今日で何人ほど?」と浩也が春之介が見抜いた成果を聞くと、「両方の星で子供15人、大人が3人だよ」と春之介は気さくに言った。


「子供は前回と同じで養育だけど、大人は俺たちの仲間か…」と浩也は嬉しそうに言った。


「できれば、星に残ってリーダになってもらいたいんだけどね。

 そんな気概がないようだから仲間にしたいと思たんだよ。

 今の仲間にいないタイプだから、

 きっといろんな意味で興味が沸くと思う」


浩也はかなり考え込んで、「…ひとりはすぐに思い至ったな…」とだけ言ってまだ考え込んでいる。


こういったことだけでも大いなる精神修行になるものだ。


「最初に行った星の王に仕える小姓のような人だよね?

 男か女か全くわかんなかった」


麒琉刀の言葉に、春之介も浩也もすぐさまうなづいた。


「俺たちに大いに興味を持ったからね。

 それに実力もあるけど、

 使い物になるのは少々鍛えてもらってからだね」


「あとは、別の戦場の志願軍の中にいたよ。

 どうして正規部隊に入らないのかよくわからなかったし、

 誰よりも逃げ足が速かったけど、

 最終的には殿だったことが、

 かなり不思議だった」


「…ああ、そうだ、いたな…」と浩也は思い出してうなづいた。


「逃げる道を示したんだよ。

 だけど俺たちを危険だとは感じていなかったようだ。

 今までに彼のおかげで命を拾った人は多いと思う。

 最後の方に逃げた屈強な戦士たちは、

 できれば戦いたかったようだけどね。

 最終的に逃げたということは、

 今までに命を拾った覚えがあるんだろうね」


春之介の言葉に、ふたりは大いにうなづいた。


「あとひとりはたぶんわからないよ。

 人間の姿をしていなかったから」


春之介の言葉に、浩也と麒琉刀は顔を見合わせていた。


「今回の最大の収穫は彼だ。

 まさに俺と同じで、動物に変身できる人間だから。

 彼は俺をしばらくじっと見ていたよ」


「二つ目の星の後半ですね」と一太が言うと、「うん、そうだよ」と春之介はすぐに認めた。


「ああ、それは覚えているが… どっち?」と浩也は眉を下げて聞いた。


「大人は犬の方で、小型の馬は子供」と春之介が答えると、「…両方だったかぁー… 犬は中型犬だが兵士と言っていいほど勇ましかったと思う」と浩也は力強く言った。


「兄ちゃんが威嚇したから怒ってるかもね」と春之介が愉快そうに言うと、「お前が砦に石をぶつけて壊せって命令したからだろ…」と浩也は大いに苦情を言った。


まさにその通りをやって、その動物たちもさすがに怖かったようで大急ぎで逃げて行ったのだ。


「大砲の玉よりも威力がありました」という一太の言葉に、「修行が大いに役に立ったな…」と浩也は少し嘆いて言った。


「よく肩が抜けないものだって感心したよ」と麒琉刀が気さくに浩也に言うと、「専用のサポーターを創ってもらったんだ」と答えて春之介を見た。


「投げても残存感を残す代物だから。

 そのサポーターもそれなりの重量があるから戦闘用と言っていいね。

 試合の時に使ったら、金属バットは曲がるだろうし、

 キャッチのミットに穴が空くと思う」


「…戦場でも鍛えているようなもんだ…」と浩也は言って苦笑いを浮かべた。


「あと大問題のなるのは骨の厚み、硬さ、柔軟性。

 死後の世界の住人ならいいんだけど、

 さすがに人間の場合、鍛錬方法が難しいから、

 筋肉の鍛えすぎはそれほどよくない。

 お勉強した中にそのヒントもないから、

 これから知って行かなきゃいけない。

 だから鍛えるんじゃなくて維持だけをして欲しいんだ。

 兄ちゃんも麒琉刀もそろそろ頭打ちだから、

 これからは無理なことは言わない」


「ああ、了解だ…」と浩也はすぐに、ため息交じりに答えた。


「…根本的な人体改良の必要があるんだ…」と麒琉刀は少し嘆くように言った。


「試作品はあるよ。

 サポーターのようなものだけどね。

 筋肉が骨を圧迫しないように、

 鎧の方にパワーを分け、別動力で力を得る方法。

 フリージアのエイリアン・ウォーリアをもらってもいいんだけど、

 パワードスーツだから結局は人体を鍛えることにもなるんだ。

 鍛えないように骨、筋肉、鎧に力を分散させる方法を取ろうと思ってね。

 だから動く仕組みが少々ややこしい。

 腕の鎧の稼働は腰のねじりと足の動きを使うんだ。

 タイミングよく動かさないと、逆に負担になるから要注意だよ。

 だけど投げるような単純動作は、

 ほとんど気にしなくていいほどだから」


春之介の言葉に、浩也も麒琉刀も大いに興味を持って、「早速訓練する」と浩也はすぐに答えた。


「装甲服も興味があったけど、

 できれば自分の力だけで仕事に励みたい」


麒琉刀の言葉に、春之介は笑みを浮かべてうなづいた。


「今となってはパワードスーツはそれほど必要じゃない。

 危険な場所には、普通の防護服だけでも十分だから。

 あとは空を飛べるシステムはちょっと考えようと思うけど、

 小さな宇宙艇でも構わない」


「服に仕込んで、自分でコントロールして飛べって?」と浩也は言って苦笑いを浮かべると、春之介はすぐさまうなづいた。


「この先、空を飛ぶ時の参考にもなると思うよ。

 さすがに海を越える時と山を昇る時は空を飛んだ方がいいから」


「さらにやる気になった!」と麒琉刀は大いに高揚感を上げて叫んだ。



食事を摂ったあとに、仲間たちは修練場に集合して、春之介特製の防具を受け取った。


今まで使っていた防護服と何も変わらないが、わずかに重いと感じるが、苦になるほどでもない。


「着てもらって普通に散歩をして欲しい。

 まずは日常生活でその違いを知ってもらいたいからだ。

 それから空も飛べるから。

 基本的には首の動きだけで方向転換のコントロールができる。

 起動停止は右肩。

 スピード、高度調整は左肩。

 起動したら宙に浮いて、

 体重移動だけで動けることがよくわかるから。

 スピードを出さずに飛んで、

 遊園地のアトラクション気分で楽しんで欲しい」


春之介は興味を持って見ている子供たちにもスーツを渡した。


もちろんリミッターをかけていて、1メートルほどしか宙に浮くことはできない。


やはり興味があるのは空を飛ぶことで、誰もが一斉に宙に浮かんで子供たちと同じ顔をして喜んでいる。


そして全員で楽しむようにして空の散歩を楽しんだ。


「自力で飛ぶよりもこの方がいいぃー!」と優夏は言って、子供たちとともに鬼ごっこを始めて、自然に空を飛ぶためのコーチになっていた。


やはり、器用不器用が大いにあって、一太はもうすでにすべての確認を終えていて、空を飛ぶのはもうやめて、射撃ブースで石つぶてを投げる訓練を始めていた。


「機械音痴…」と春之介はつぶやいて、ひとりだけ置いて行かれた春菜を見ていた。


「…みんながおかしいんだもぉーん…」と春菜は言ってうなだれた。


ここは春之介が講師になって、手取り足取り教えて、戸惑いながらもなんとか普通に飛べることを確認した。


「…自力で飛ぶことが、怠惰につながるように感じてきたぁー…」


「それはあるよ。

 空を飛ぶのはイメージングだからね。

 このスーツは簡単だけどコントロールする必要がある。

 怠惰になると思うのも間違いじゃないよ。

 戦場じゃない場所は、このスーツを操作して飛んだ方がいいと思う」


春菜は納得して、ここは優夏に合流して子供たちと遊び始めた。


もちろん船のクルーも戦闘部隊員たちも体験していて、大いに考え込んでいた。


機械仕掛けだが、空を飛ぶことが今までと違うと感じていたのだ。


ある程度の確認を終えて、直樹たちは高度とスピードを決めて組み手を始めた。


―― スピード調整はもっと操作が楽な場所に配置するか… ―― と春之介は思いながら、高度調整も同じようにできるようにと考え始めた。


そしてその試作を創って、仲間たちから少し離れて検証した。


エイリアン・ウォーリアもこの方法を採用していて、視線でスイッチのオンオフをする操作もある。


視界の端の方の右端にスピート、左端に高度調整のゲージを表示させている。


視線を使ってボリューム調整のように可変させるのだ。


相手の動きの視認がおろそかになるが、距離を取って作戦を練ってその通りに動けばほぼ問題はない。


春之介はギルティーを誘って組み手を始めると、「実験台にすんな!」とギルティーは叫んでから陽気に笑った。


春之介の動きに全くついてこられないことで春之介は自信をもって、新しいスーツをギルティーに渡した。


地上に降りて素早く着替えてから、高度とスピード調整の確認をして、「…春之介のようには無理…」と苦笑いを浮かべて言ったが、春之介と楽しみながら組み手を始めた。


「不利だと感じれば、本来の飛行術も入れ込んで飛べばいいんですよ」


「うう… それは言える…」とギルティーは今更ながらにそれに気づいて試したのだが、振り回される思いがして、どちらか一方ではないとかなり厳しいことを知った。


しかし春之介は両方の利点を利用して、目では追えないほどのスピードを出して、上機嫌になっていた。


もちろん、浩也たちが気付かないわけはない。


大いに苦笑いを浮かべて、春之介たちを囲んでいた。


「このスーツは許可制だから。

 さらに修練を積んで」


春之介の無碍な言葉に、仲間たちは大いに眉を下げていて、ギルティーただひとりが大いに笑った。


もちろん、許可されたことを喜んだのだ。


「そろそろ降りた方がいい。

 一部の者はまさに宇宙飛行士の想いを体験できるはずだ」


春之介の言葉に、誰もが大いに目を見開いて、恐る恐る地面に降りてから停止ボタンを押すと、誰もが一瞬屈伸をした。


「…体重が増えたように、一瞬だけ思った…」と浩也は嘆くように言った。


そして大いにはしゃいでいたギルティーは地面に寝転んでいた。


「…このスーツはこれほどにワシを楽しませたか…」とギルティーは嘆くことなく陽気に言った。


「高速の移動は考えられないほどの圧力がかかりますからね。

 どんなこともそれほど夢中にならない方がいいです」


春之介はさも当然のように言った。


しかし子供たちは全員が地面に寝転んでいて、大いに苦笑いを浮かべていた。


「…どーして優ちゃんは平気なのよぉー…」と地面にはいつくばっている春菜は大いに苦情を言った。


「時々地面に降りて切っていたから」となんでもないことのように言うと、「…後先考えない私のせいだったわ…」と春菜は諦めるように言った。



すると春之介に夏介から念話が入ってきた。


『戻りたいのですが戻れなくなってしまいましたぁー…』


夏介の情けない声に、「源一様にお話すればいいじゃないか…」と春之介が答えると、夏介は黙り込んだ。


「どうせ、何か余計なことをやられたりやったりしたんだろ?」


『まさかの伏兵が現れて…

 好きになってしまったのですが、

 その正体は春菜様と同じでしたぁー…』


「あ、ひょっとして、鮫島ちあきさん?」


春之介の言葉に、夏介は黙り込んだ。


「タイムラグ?」『それはないと…』と夏介は大いに嘆いて言った。


「人間として、30ほどだと思ったんだけど…」


『…確認しておくべきでしたぁー…』と夏介は大いに嘆いた。


「皇一輝様とお話は?」『えっ?』と夏介はもうすでに知っていた名前を聞いて驚いている。


「ちあき様のお父様だよ、一輝様は。

 知らなかったということは、

 お父様に言いつけてみるものいいかもしれないね。

 ボール、捕ったんだろ?」


『今回、初めて会話をしましたぁー…

 それに、それなり以上に気合の入った球を投げられますぅー…』


「それもあって抜けられないの?」


『…実は、捕手はいるんですが、

 もうひとり欲しかったようなのです…

 次のゼルタウロス戦では、

 イチガン軍の一員として出て欲しいと…』


「そっちの王様、佐伯大和様だね?

 試合にはDHで出ていた」


また夏介が何も言わなくなったので、「暇ならこっちに来れば?」と春之介が言うと、夏介はすぐさま春之介から飛び出してきたが、もうひとりいた。


「ちあき様、こんにちは」と春之介が挨拶をすると、「えっ?!」と夏介は叫んで振り返ってバツが悪そうな顔をした。


「許可なく来てしまった無礼をお許しください」とちあきは穏やかに言って春之介に頭を下げた。


「いえ、話が早いので構いません。

 できれば、お父様もお連れしていただきたいのです」


するとちあきは大いにバツが悪そうな顔をした。


「…パパに叱られちゃうぅー…」と優夏がからかうように言うと、「…政治的戦略でしたぁー…」とちあきはここは素直になって暴露した。


「興味があるのは、

 佐伯大和様が捕手なのに仕事をしていないことにあるのですが、

 まさか過保護…」


春之介の言葉に、「…そうですぅー…」とちあきは答えてうなだれた。


「…真奈美お姉ちゃんがさせないんですぅー…」とまた嘆くと、「…どこの世界も、マナミは面倒だな…」と春之介は言って苦笑いを浮かべた。


春夏秋冬が、佐伯一族の関係図を出して、そしてさらにもうひとりいる面倒な真奈美の関係図を出すと、春之介は大いに笑った。


「真奈美連合でも作ればいい…」と春之介は言ってまた笑った。


「一輝様の弱みは皇源次郎様と親友でもあること。

 そして源一様の部下でもある…

 妻の、南条南さん…」


「あ、南さんは、源一様の執事長をされていたハイレベルなお方です」と夏介が関係図にない補足説明をした。


「…フィル様に追い出されたって感じ…」


「はい、結果的にはそうなりましたが、都合はよかったようです」


春之介は何度もうなづいた。


「ここは、本来の師匠の源一様に話を通しておくべきだろう。

 夏介、お前からすべての事情を話してこい」


春之介の厳しい言葉に、「はっ! すぐにっ!」と大いに気合を入れて消えた。


「…うふふ… 捕虜を獲得したわぁー…」と優夏が言うと、ちあきは大いに苦笑いを浮かべていた。


「何もないところですが、くつろいでいってください」と春之介が友好的に言うと、ちあきはすぐさま笑みを浮かべて頭を下げて、「…みなさん、疲労困憊ですね…」と眉を下げて言った。


「熱中して遊び過ぎた罰ですよ。

 他力本願の場合、こうなることにもなるぞという戒めです」


春之介は胸を叩くと、「あら、防具…」とちあきは言って、優夏の防具に触れた。


「人間でも空を飛べるわ。

 エイリアン・ウォーリアだと、

 ちょっと都合が悪いから、春之介が考案したの。

 その試乗会をしていたのよ」


「ですが、ほとんど体に負担がかからない、

 まさに無敵になる防具じゃないですか…

 機械仕掛けの部分は、

 飛行としての小型のピラミッドエンジンだけ…」


ちあきは大いに興味を持って言った。


「発電機としても使えるので、電気が使えない星ではかなり有効です。

 星の復興には欠かせないでしょう。

 ちあき様はパラダイス軍に所属ですよね?」


「ここがいいぃー…」とちあきはついにお嬢様を大いに出して、優夏とともにペンギンをかわいがっていた。


すると夏介から念話があったので、春之介は許可して、招き入れた。


「…あー… ここがいいぃー…」と姿を現した途端、山王恭司が言った。


「欲を持つと放り出されるぞ…」と皇一輝が言うと、「…幸太郎対策でもあるよ…」と恭司は眉を下げて言った。


「…ふむ…」と春之介が少しうなってから、「深山幸太郎さんと源一様はそりが合わないんですか?」と恭司に聞いた。


「…どうやら俺の仲間全員の一致した意見のようで…」と恭司は眉を下げて言った。


「俺の妻の優夏も悪魔なのはご存じかと」


「…全然、女王様じゃありません…」と眉を下げて優夏を見て答えた。


「何もかも、俺に任せてくれているからですよ。

 いつでも女王様になるんでしょうけど…

 ならないかなぁー…」


春之介は答えて少し笑った。


「うちの女性たちはもうすでに優夏様のファンですから」


「歓迎するわよ」と優夏は言って、復活した女の子たちとアイドルダンスを始めた。


「…あのぉー… お試しで連れてきていいですか?」と恭司が眉を下げて聞くと、春之介は夏介とともに戻って、源一に話を通しておくように言うと、ふたりは消えた。


「…女王様の存在だけがネックのようですね…

 ほかは何も変わらないと思いますけどね…」


「いや、ここの方が何もかも優しいと、俺は感じたな…」と一輝は言って、朗らかな子供たちを見た。


そして一輝は、「失礼」と言って、柔らかい芝生に寝転んだので、春之介は少し笑った。


「…もう… お父様ったら…」とちあきは言ったが、ここは一輝の隣に寝転んで瞳を閉じた。


「…フリージアでは、なにか、物足りなかった…」と春之介は言って、子供に混ざって遊んでいる桜良を見た。


「明確な理由は誰も語れないと思うのです」とレスターが春之介を見て頭を下げた。


「…唯一違うのは…

 俺はこの星の王ではありません」


春之介の言葉に、「…そうだ、そうです、それでした…」とレスターは言って大いに納得していた。


「王はゼルダのようなものですけど、

 本人も動物として生活していますし…」


ゼルダは大いに野生に戻って、小動物たちと戯れている。


「彼らの星、パラダイス星と同じ空気なのだと察します」とレスターが言うと、春之介は納得するようにうなづいた。


「王がいないと統率は取れない…

 だけど、その王がいることで、

 星は平和にはなれないのか…

 あいまいにしておくべきなのか…」


「仲間が王と認めるだけでいいのではないでしょうか?」というレスターの言葉に、「王と認められた者が、王の威厳を出してはならない…」と春之介は言って何度もうなづいた。


「本当に難しい問題だと思いますが、

 この星はまさに好条件の星だと思っています」


レスターは笑みを浮かべて頭を下げてから、桜良に向かって歩いて行った。


「旦那様は隣に立てとおっしゃいました。

 それが全てだと私は思っています」


一太が笑みを浮かべて春之介に頭を下げた。


「…あの時の俺、いいこと言ったなぁー…」


春之介の言葉に、ふたりは大いに笑った。



夏介たちが戻って来て、さすがに全員が眉を下げていて、鮫島詩織と南条南がちあきと一輝を叩き起こして春之介に頭を下げた。


「居心地がいいのなら、自由にしてもらって構いませんから」という春之介の言葉に、パラダイス軍の中心になっている恭司たち8人が春之介に挨拶をした。


朗らかにあいさつをかわしたのだが、「あさひ様は?」と春之介が聞くと、「あっ!」と恭司が叫んでバツが悪そうな顔をした。


「俺と同じでパラダイス星そのものですから。

 彼女がいれば何も変わることなく、

 ここから直接、パラダイス星に飛べますよ」


まさにパラダイス軍ではこの星は必要だったと恭司は思って、夏介とともに消えた。


「源一と何が違うのかよくわからないのです…」と深山幸太郎が、少し嘆くように言った。


つい今しがたレスターとした話をすると、「…そういうことだったのですか…」と幸太郎は穏やかに言って、春之介に頭を下げた。


「納得した今、源一様とも普通に付き合えるように思います。

 どう思われます?」


「…はい、なんだか納得できないのですが、その通りかと…」と幸太郎は大いに眉を下げて答えた。


「パラダイス部隊がこの先どうするのかは、

 また気を抜いている一輝様と話し合いをして決めましょうか…」


春之介は、ミイラ取りがミイラになった詩織と南を見て眉を下げ、笑みを浮かべて寝転んでいる4人を見まわした。


「…申し訳なく思います…」と幸太郎は大いに眉を下げて謝った。


「特に何も急ぎませんので、自由にして過ごしてください」


春之介の甘い言葉に、7人は一斉に頭を下げて、ここは一輝に倣って20名ほどいる仲間とともに芝生に寝転んだ。


その20名もユニークで、半数が獣人だった。


なかなか素晴らしいチームだと思い、春之介は直樹に寄り添った。


「正式にここで働いてもらえますか?」


「はっ もちろんです!」と直樹は言って素早く頭を下げた。


そして隣にいたミラルダにも同じように言った。


「春夏秋冬、報告と契約を」


「…ちょっと、雲行きが怪しいようなぁー…」と情報を精査して春夏秋冬が言った。


「…王だからこそだろう…

 俺はそうなりたくないね」


「あ、正常化しました」と春夏秋冬が笑みを浮かべて言うと、「…ほんと、程が難しいな…」と春之介は言って、春夏秋冬の頭をなでた。


「ホプピスも正式採用な」と春之介が言うと、「うれしいですぅー…」という声だけが聞こえた。


「ホプピスは誰かに仕えていたことがあるの?」


春之介は世間話程度で聞いたので、ホプピスは全く構えることなく、「お母さんだけですぅー…」と答えた。


「そのお母さんはここにいるわけだね。

 まあ、大体わかったけどね…

 ホプピスも春菜も、

 大いなる修行を課せられたようなものだね…」


「春菜ちゃんがお姉ちゃんですぅー…」とホプピスは大いに感情を込めて言った。


「そりゃよかった」と春之介は笑みを浮かべて言って何度もうなづいた。



春之介は魂たちからの報告を聞いて、子供9人と大人ひとりをここに引き寄せた。


もちろんいきなりのことで全員が目を見開いている。


「そろそろ限界だと感じたので、ここに引き寄せました」


春之介は10人に笑みを向けて言うと、誰もがぎこちない笑みを浮かべたがそれは一瞬で、満面の笑みに変わっていた。


そして大人だが中型犬が小走りで走って来て、春之介に体をぶつけてきた。


その逆に、ポニーのような馬は、もうすでに子供たちのアイドルになっていて、短く逞しい足に抱きついている。


その中に桜良、優夏、春菜もいたので、「大人は少し我慢しな」と春之介は笑みを浮かべて陽気に言った。


「ボクもうれしいからいいんだ!」とポニーが言うと、「話すなって言っただろ」と犬が言って、バツが悪そうな顔をして春之介を見上げた。


「別にかまいませんから」と春之介は言って、ゼルタウロスに変身すると、「…すっごく偉い人だったぁー…」とポニーは言って頭を垂れた。


犬は大いに苦笑いを浮かべて、ホホの筋肉が引きつっていた。


「馬の君はまだ子供のようだけど、

 俺たちの仕事を手伝ってもらいたいんだ。

 だけど、遊び優先でも構わないから」


「ううん、きちんと働いて、それ以外の時間に遊ぶからいい…」とまさに子供のように答えた。


しかしポニーには自由が与えられないのか、子供たちよりもこの星の動物たちに気に入られたようで、クレオパトラを筆頭にして、多くの動物たちがその背に乗っていた。


「仕事も遊びもできないようなことをしてるんじゃない…」


ゼルタウロスの言葉に、動物たちは一斉にポニーの背から飛び降りた。


「…はは、そりゃそうだ…」と犬は少し笑って言った。


犬はマッド、ロバはチークと名乗った。


どちらも雄で、まさにゼルタウロスの友人となっていた。


そして同種の小春がマッドの頭に飛び乗って、先生のようにこの星のしきたりを語り始めた。


このふたりは小春に任せて、子供たちに接しようとゼルタウロスは思ったが、もうすでに桜良たちが相手をしていたので、ゼルタウロスの出番はなくなったと思い春之介に戻った。


よって神たちは姿通りの遊びを始めていた。


「春之介はただの運び屋よ」と優夏は寄り添ってきて朗らかに言った。


「その方がいいようだ」と春之介は言って、さらに陽気な雰囲気になったこの町を見まわした。


必要なものはすべてそろっていて、非の打ち所がない。


「暇だから修行に行こう」と春之介が言ったとたんに、仲間たちは一斉に立ち上がって春之介の後ろに立った。


唯一横にいるのは機嫌のいい優夏だけだ。


「修練場までデートで」と春之介は言って、右腕を差し出すと、優夏は笑みを浮かべて腕を絡めて、修練場とは逆の方向に歩き始めた。


ここは付き合うことにして、「先に行ってて」と春之介は振り返って仲間たちに言った。


「…いやらしいことするかもしれないからついてくぅー…」


春菜の言葉に、特に女子は賛同したが、優夏は変わらず機嫌よくゆっくりと歩く。


そして辺りを見回して、「殺風景ね…」と優夏が言ったとたんに春子が緑竜に変身して働き始めた。


「それほど急がなくていいの。

 みんなと楽しく花壇でも造って」


優夏の言葉に、「はーい! ママ!」と緑竜は機嫌よく答えた。


「エッちゃんが確実にとんでもない花壇を創ると思う…」


「別にいいじゃない…

 さらに良くなるわ」


「純粋に、家族がいい…」と春之介は笑みを浮かべて言って、清々しい青空を見上げた。



しかしいざ修練場に行くと、春之介は大いに汗を流す。


特に人間に付き合って、常に一番後ろにいる。


これがプレッシャーに感じるようで、誰もが眉を下げるが、―― これも修行… ―― と誰もが思い、少しでも今の実力を上げようと大いに奮起する。


しかしここは、全員が春之介の動向を見守る。


春之介は手本とばかり石人形の前に立って、今回は一瞬にして体当たりをして石人形を吹っ飛ばした。


防具のテストのようなものなので怖いものなしだった。


「宇宙の覇者!」と麒琉刀が陽気に叫んだ。


「防具がいいからね!」と春之介は叫んで、地上に向かって飛び上がった。


そして麒琉刀が真似をしたが、簡単に捕まって組み手場の外に飛ばされた。


悔しがってはいるが、怪我をすることはまずないので、また列に並ぶだけだ。


そしてここで、春之介は一輝に組み手をして欲しいと懇願した。


もちろん断るはずはなく、ふたりは組み手場の中央に立って、軽く頭を下げた。


「なっ?!」


一輝が叫んだ時、春之介の姿を確認できなかった。


残像が見えるばかりで、まるでつかみどころがないのだ。


しかしその残像を先読みして手足を出すが、まるで当たらない。


ここは見えない敵を想定した組み手と心に決めて、顎が上がるまで攻撃を繰り返した。


一輝はついに肩で息を始め、「降参だ」と言った。


春之介は一輝の前に立って、「戦場でも使えそうです」と言って、誇らしく胸を叩いた。


一輝はあることに気付いて地面を見た。


「…俺の足跡しかない…」と嘆くと、「このスーツの能力の確認ですから」と春之介が機嫌よく言った。


「今の早さで操れることがおかしい…」と一輝は苦笑いを浮かべて、春之介と肩を組んで機嫌よく大声で笑った。


「ところで、源次郎がレッドベティーのことを気にしていたんだ。

 それに、ここにいないようなんだが…」


一輝の言葉に、「いえ、いますよ」と春之介が言うと、「いや、魂がない」と一輝が反論した。


「俺も多分ありません」と春之介が言うと、一輝が目を見開いた。


そして探ると、「ない…」と言って大いに嘆いた。


「ベティーも俺の仲間なので。

 ベティーの存在感はドズ星にあります。

 で、肉体はここにあることになりますね。

 フリージア星の源太君と同じです」


「…今度、確認しよ…」と一輝は言って、特に子供たちを探って、「見つけた」と言って、人型のベティーを見入った。


見つけた言ったのは、魂がない者を探った結果だ。


そして、天照大神たちも魂が見えないことに眉を下げた。


「神たちも一応同じ扱いにしています。

 土着として生まれた者もいますので」


春之介の説明に、一輝は笑みを浮かべてうなづいた。


「源次郎を呼んでもいいか?」と一輝が懇願の眼を春之介に向けると、「構いませんが、源次郎さんの心ひとつで決まるでしょう」と春之介がまるで問答のように言った。


「欲を持つと戻される」と一輝は言ってから、源次郎に念話を送って事情説明をした。


すると源次郎が一輝から飛び出してきたが、すぐさま消えた。


「なめてますね…」と春之介が言うと、「ほんと、申し訳ない…」と一輝は言ってここは頭を下げた。


「だが、春之介は何もしていない。

 この星が拒否したと言っていい…

 俺たちは、拒否されていない…」


一輝は言って笑みを浮かべた。


「自然の優秀な警備員のおかげで、

 それほど警戒する必要はありません。

 それに…」


春之介は何かを言いかけて空を見上げた。


「宇宙からやって来ても、神たちが確実に追い返す」と一輝は言った。


「住まわせてもらっているので、

 星を第一に守る必要がありますから。

 ところで、竜が必要なのはわかりますが、

 普通は誰にも従いません。

 竜が気に入ってくれないと寄り添うことはないでしょう。

 それに、気になるのはベティーの態度です。

 源次郎さんがいたことはフリージアで確認していたはずです。

 それに、一輝さんともまるで接触しようとしていない」


春之介の言葉に、一輝は大いに眉を下げた。


「俺の場合は源次郎とはまた別だろう」と言って一輝は昔話をした。


「…なるほど…

 現在は警戒中、といったところですか…」


春之介は何度もうなづきながら言った。


「分魂をしていたしっぺ返しのようなものだよ…」と一輝は苦笑いを浮かべて言った。


「一番最悪なパターンですね…

 誰も気づかなかった…

 俺も気を付けた方がよさそうです。

 大勢の仲間たちを地球に置き去りにしてきましたから」


「いや、ほとんどの者がわかってくれているはずだ。

 ここに来たって足手まといになることはわかっている」


一輝の力強い言葉に、春之介は温かい気持ちになって頭を下げた。


「となると…

 足手まといにならない者は連れてきた方がよさそうです…

 本人はそうなりたくて産まれてきたわけじゃない…

 悪魔という人間が、100人ほどいるのです」


一輝は大いに苦笑いを浮かべて、全くコメントできなかった。


「もちろん、更生は終わらせて今の生きがいなども持っています。

 ですができれば、ここで働きたいと思ってくれていると思うのです。

 しかも、全員がリーダー候補なのです」


春之介がその事情を話すと、「…さすが悪魔はめんどくさい…」と一輝がつぶやくと、春之介は少し笑った。


しかし、潮来が何も言ってこないので、春之介が聞いたのだが、『今のところは大人しい』という回答を得た。


ということは、そのうち騒がしくなると思い、まずは面接にでも行こうと思って予定を立てた。


その該当者全員に念話を送ると、全員が大いに喜んだことで、―― 連れてくる必要あり… ―― と春之介は思い決意した。


しかし、家庭などの事情で移住したくてもできない者のもいるのだが、通いも可能なのでそれほどの面倒はない。


悪魔が住む国の神が担当することになり、さっそく神からの言葉を伝えた。


悪魔も神には弱いようで、春之介相手とそれほど変わらず対応をした。


そして誰もが優夏のように陽気だという。


「生きる希望を得たということか」と春之介は言って笑みを浮かべた。



翌日、まるで観光旅行のように、全員で地球に戻った。


仲間たちは大いに喜んだが、即戦力の調達と聞いて誰もが大いにうなだれた。


神たちの話し合いにより、面接の順番は簡単に決まった。


そしてほとんどの悪魔が、もうすでにリーダーだった。


それは家族の中の家長としてリーダーだ。


よって悪魔が何をどうしようが従わなくてはならない。


春之介は大いに苦笑いを浮かべたが、春之介も同じようなことをしているも同然なので、指摘すらできなかった。


今日の面接を終えて、ここは親族孝行と思い、短い時間だが顔を出した。


もちろん、春之介だけではなく、仲間たちもそれに倣った。


そして春之介の親族でひとりだけ、春之介の秘書のように夏樹が大いに胸を張っている。


―― 一番めんどくさい… ―― と春之介は思ったが、さすがにこの若さでぼけて欲しくないので、ここは我慢することにしている。


もちろん、母への愛もあるので、さすがに無碍な真似はできない。


そして新たに、ニ子も連れて行くことにっ決まって、真由夏とふたりして喜びあっている。


そしてついに、我慢の限界となったのか、「御屋形様にお暇をいただきました」と佐伯三太が言って春之介に頭を下げた。


「…いろいろと心配事ができたけど…」と春之介が眉を下げて言うと、「青年団に任せましたので」と三太は胸を張って言った。


その中には未来の秘書候補も多いので、春之介は、―― 心配し過ぎも程々か… ―― と今のところは思っておくことにした。


三太は底辺からの参入となったが、わずか一日で中堅レベルまで這い上がって来て、誰もが大いに驚き、そして自分の不甲斐なさにさに奮起した。


「…まあ…

 三太さんもある意味、

 能力者のようなものだってずっと思ってたからね…」


この春之介の言葉に、大勢の仲間が救われた気分になっていた。


その中で同じ底辺のニ子は、独走の底辺だったことに大いにうなだれていたが、真由夏という強い味方がいることで、それほど落ち込むことなく、子供たちとコミュニケーションを取り始めた。



翌日からは通常の仕事に行くことになり、真由夏とニ子も同行したが、秋之介と夏之介がふたりに寄り添って守ることになった。


やはり場数を踏むことが第一なので、現場にいることだけでも成長はある。


そしてその目で本当の不幸を見て、この日のふたりは大いに落ち込んでいる。


地球で実際にある最低最悪の不幸を背負った人がごく普通に大勢いるのだ。


しかし二人は目を背けることなく、涙を流しながらも簡単な手伝いだけを必死になって熟した。


「…地球の不幸なんて不幸じゃないわ…」とマイクを持った真由夏がぼう然とした表情で言った。


「こらこら、それほど刺激するんじゃない…」と春之介は大いに眉を下げて言った。


「どれほどなのか、映像を見せつけたいほどよ…

 自分が不幸だと思っている人、

 あなたの数倍の不幸が、宇宙のどこかで起こっていて、

 しかも信じられないほど大勢いるの。

 毎日普通に眠れてご飯を食べられることに感謝した方がいいわ」


「…ふーん…」と春之介は言って、今日はディレクターの尚が出しているタブレットの映像を観た。


視聴数はわずか一億までに激減していた。


「…だけど、まだまだ多いな…」と春之介は笑みを浮かべてつぶやいた。


しかし、春之介たちが地球にいて欲しいとまだ思っている純粋なファンはまだまだいると思い、恥ずかしいことだけはしないようにと心に誓っていた。


今日は真由夏の体験した感想を述べただけで、ミラクルマンインタビューを終えた。


そしてSNSの書き込みはほんのわずかだ。


『スカウトしてもらえるように頑張る!』という力強いメールがほとんどだった。


そして、『面接、早く来てぇー…』という、悪魔たちからのメールも多い。


できればすぐにでもここにきて働きたいと思ってくれているようだ。



翌日はまた仕事をこなして、ようやく息抜きの日がやってきた。


春之介たちは宇宙船に乗り込んで、予定通りフリージア星に行った。


この日を狙っていたのか、フリージア星は観光客でごった返していた。


どう考えても、観光客だけで百万は下らない。


しかしもうチケットは売り切れているのだが、源一が考慮して、空き地に巨大マルチモニターを5セット設置していて、チケットが買えなかった観光客たちを誘導していた。


「…こりゃ、実力以上のものを出さないと申し訳ないな…」


春之介は大いに気合を入れて言った。


「…ここからは敵か…」と一輝は苦笑いを浮かべて言った。


「うちは選手が少ないので、こっちに入ってもらってもいいですよ」と春之介がにやりと笑って言うと、「…次までに考えておく…」と一輝は苦笑いを浮かべて、恭司を伴って佑馬たちと合流した。



両チームとも熱が入った練習をして、来場者たちを大いに喜ばせた。


まさに超人たちの野球に心躍っていて、お気に入りの選手の名前を大声で叫ぶ。


イチガン軍の捕手はやはり夏介で、どうやら手放すつもりはないようだ。


この件に関しては、夏介が何も言ってこないので、春之介から話を聞くことは控えていた。


練習を終えて、春之介たちは守備に散った。


今日の先発は春之介で、投球練習ではチェンジアップしか投げなかった。


相手チームは大いに憤慨していて、誰もがベンチを出て猛然たる勢いでバットを振り始めた。


―― もう何も心配することはない! ―― 春之介は大いに自信をもって投げ込んだ。


捕手は優夏ではなく一太で、優夏はサードにいてスタンドに向かって愛嬌を振りまいている。


もちろん、捕手が一太なのは事情があるからだ。


春之介はボールをもてあそんで、球審のプレイを待った。


一番打者は恭司で、バッターボックスに入る前は笑みを浮かべていたが、構えた途端に真剣な表情に変えた。


「プレイッ!!」という球審の言葉に、春之介は大きなフォームで、全力で投げ込んだ。


―― 好球必打っ!! ―― と恭司は思い、ど真ん中の絶好球を見逃がさずバットを振ったが、『バシィ―――ッ!!』という非情な音が聞こえた。


「ットライィ―――ッ!!」という球審の非情のコールに、恭司は信じられない想いだった。


確実にバットに当たっていたはずなのに、結果は空振りだったのだ。


そしてそのリプレイを素早く見て、「…なんて角度で曲がってるんだ…」とここでようやくバットから逃げて行く超高速カーブを投げてきたことを知った。


春之介は体を壊さない自信があるので、本来のカーブを投げてきたのだ。


しかも、かなりの回転をかけているので、時速200キロの超高速カーブだ。


それを一瞬で見抜くのは、ここには春之介しかいない。


「悔しいけどナイスボールッ!!」と叫んだ優夏の言葉に、春之介は優夏に顔を向けてにやりと笑った。


二球目は回転をかけたライジングボール、三球目はフォークボールで、強打者の恭司を三球三振にした。


「…初めて三振したぁー…」と恭司は大いに悔しそうに言って、バットを引きずってベンチに戻った。


二番の佑馬、三番の菖蒲もきりきり舞いさせて、春之介は9球で三人をアウトにした。


「ナイスピッチッ!!!」と全員が大いに陽気に叫んで、春之介を湛えた。


春之介はバットを持って、意気揚々と打席に入った。


投手は皇源次郎で、大いに春之介をにらんでいる。


―― よくここにいられるもんだ… ―― と春之介は少し呆れていた。


すると球審が念話を始めてすぐに、「投手退場っ!」と叫んだと同時に源次郎が消えた。


誰もが大いに戸惑ったが、当然その事情説明があった。


『皇選手は故意の危険球を狙っていた事実が発覚したので退場とした!』


球審のアナウンスに、観客たちはイチガン軍を大いに責め立て、ヤジが飛んだ。


春之介は大いに苦笑いを浮かべていた。


そして交代の投手は、苦笑いを浮かべている一輝だった。


―― 審判も大会委員も能力者だからこそだよなぁー… ―― と春之介は今更ながらに思って、一輝の投球練習の見学をしている。


投法は浩也によく似ていて、体中のバネとその筋力を使って重い球を投げてくる。


しかもスピードは浩也以上だ。


よって鋭いスイングと強烈なバットの巻き込みが要求される。


まさにこの対決は力比べのようなものだ。


よってバットの重心で叩きつけないとまともに飛ばないと考え、ボールだけに大いに集中した。


―― やはり、ほとんど回転してない ――


時速180キロを超えているので、普通の人間では捉えることは不可能だが、春之介にはよく見えている。


―― 俺も、マネしよ… ―― と、春之介は陽気に思って、投球練習を終えたことを確認してバッターボックスに入ってすぐさま大きな構えを取った。


前回の試合では8割は一輝が抑え込んでいた。


それなりに点を取られたのは、やはりドズ星人たちの機動力の成果だ。


グランドに転がれば、高確率で塁を勧めることができる。


だがここは、思いっきり振って、会心の当たりを体験したかった。


―― いや、普通に振ってはダメだ! ―― と春之介は思い、一球目は見逃すことに決めた。


一輝は渾身の力を込めて投げ込んできた。


『ドォ―――ンッ!!!』という、とてつもない音がして、「ットライィー!!!」と球審が捕球音に負けじとばかり気合を入れてコールした。


春之介は、―― 今! ―― と思い、半歩下がった。


一輝にも夏介にも悟られなかったはずだ。


そしてイメージングをして、足の裏のスパイクの土の潜り具合を確認した。


そして右足のつま先に大いに力を入れて抜いた。


ここは空振りも覚悟して、春之介はボールだけに集中した。


一輝は大きく振りかぶって、ダイナミックなフォームからボールを投げた。


―― アウトコース低めっ!! ―― と春之介は判断して右足を軸にして右手一本でバットを持ち、そしてコマのように回り、『ゴォ―――――ンッ!!!』というとんでもない快音とともにボールを撃ち返した。


打球は目にもとまらぬスピードでバックスクリーンに文字通り突き刺さり、今頃になって飛行機雲が浮かんでいた。


春之介は大いに喜んで、少し飛び跳ねながらダイヤモンドを一周した。


まさに賭けのようなスイングだったので、喜びもひとしおだったのだ。


「…さすが、お師匠様…」と夏介は敵だが、ここは穏やかに大いに喜んでいた。


一輝は投げたポーズから動けなかった。


まさかこれほど完璧に打たれるとは思いもよらなかったからだ。


だがここは気を取り直して、硬直した体をほぐす様にして直立した。


そしてリプレイを見て、―― 右足を軸にして回転しているが、していないようにも見える… ―― と思い、大いに苦笑いを浮かべた。


これがバットスイングを一番のトップスピードにする方法だったからだ。


しかも遠心力ではじき返すので、まともに当たれば今の打球の勢いもうなづけた。


今の打球に、野手は全く反応できなかったのだ。


そして二番は曲者の一太だ。


―― 春之介と同じことをやってくる! ―― と、一輝は確信した。


入念なサイン交換のあと、一輝は大きく振りかぶって、インコース低めに投げた。


これならば遠心力は使えない。


だが、一太の方が一枚上手で、なんとバットを水平にして、ボールをバットの先端に当て、そのまま全体重をかけてボールを押すようにして打った。


『ドンッ!!』というような打球音に、野手はまた誰も動けず、ボールはレフトの手前に着弾して、なんと高く跳ね上がったのだ。


これはボールの回転によるものだった。


レフトが戸惑っている間に、一太は二塁を回っていて三塁に滑り込んだ。


そして素晴らしいボールがキャッチャーに返球されていた。


「ナイスジャッジ」と一太は三塁コーチャーズボックスの浩也に笑みを浮かべて言った。


「普通の人間だったらホームは楽々だったけどな。

 さすがにこの相手だと気は抜けない」


浩也は言って、一太と拳を合わせた。


「…この三番は重責だ…」と優夏はうなって、バッターボックスに入った。


春之介と同等の好打者の登場に、一輝は大いに苦笑いを浮かべていた。


そして右投手の一輝にとって、一太は大いにいやらしいことを始めた。


なんと、とんでもない距離のリードとバックを繰り返して、打者に集中させなかった。


隙を見せればホームスチールもあり得るような勢いに、一輝も夏介も大いに眉を下げていた。


「…うー… 期待されていないような気が…」と優夏はうなったが、―― これもチームプレイ… ―― と思って、ボールだけに集中した。


そして打ち上げないことだけに集中してイメージングした。


やはりセオリー通り低めを攻めてくることはわかっていた。


一輝はランナーは無視して、セットポジションから押し出すようにボールを投げた。


ボールは一輝のイメージとは違う場所に放たれたが、ほっと胸をなでおろした瞬間、『カァ―――ンッ!!!』という快音を聞いた。


ボールはライナーでセンターの頭上を超えそうだったのだが、飛び上がって、『バシッ!!』という強烈な音をさせた捕球した。


「よっしっ!」と一輝は叫んだのだが、線審の腕が大きく回っていた。


捕球したのはいいのだが、選手ごとスタンドに飛ばされていたのだ。


「…さらに化け物になってるじゃないか…」と一輝は言ってうなだれた。


優夏は陽気に踊りながら、ゆっくりとダイヤモンドを回った。


一輝が投げたボールはホームベースに直撃していたのだが、優夏は強引に打ったのだ。


球の勢いが死んでいたことで、本来の馬鹿力も作用して、野手を吹っ飛ばすほどの打球力を生んでいたのだ。


「ナイバッティンッ!!!」と春之介たちは優夏を大いに湛えてベンチに招き入れた。


しかし、開き直った一輝は蘇り、失点はこの三点だけで後続を断った。


三回裏にもゼルタウロス軍にチャンスがあり満塁にしたのだが、一輝はバックの堅い守りによって後続を断った。


しかし生も根も尽き果てた一輝はベンチに引っ込んだ。


一方、春之介の両腕は冴え渡り、現在まで出塁を許していない。


なんとかして打ち崩して、優夏を引きずり出したいところだがそれが叶わない。


変化球を持っていない優夏の方が、打ち崩すことは簡単なのだ。


春之介のまさに反則級の本来の変化球は、魔法がかかっていない方がおかしいほどだった。


一番翻弄されたのは、高めから一気に低めまで落ちてくるカーブだ。


この変化には確実にバットが間に合わない。


もちろん春之介自身もこのボールを打つ自信がないほどの変化をするのだ。


よって本来の210キロのスピードボールも生きてくる。


春之介と一太のバッテリーは、打者の心理をしっかりと読んでいた。



5回に春之介は拓馬と対峙して、その一球目を左中間を襲うライナーを放ち、そのままスタンドに突き刺さった。


走っても空を飛んでも追いかけられないライナーにスタンドは大いに沸いた。


もちろん、スタンドには客席には直接届かないような仕組みが施されていて、ボールは一旦宙にとどまって、ポロリと落ちてくるので、観客が怪我をすることはない。


これが攻撃の狼煙となり、ゼルタウロス軍は一挙に5点を上げた。


「タクちゃんっ! なに打たれてんのよっ!!」と味方ベンチから檄が飛んで拓馬たちを迎え入れた。


「だったら姉ちゃんが投げろよ」と拓馬は眉を下げて言った。


「…出ようかしらぁー…」と真奈美はうなった。


「ボスのボールは夏介じゃ受けられませんぜ」と一輝が言うと、「…大和ちゃんを壊したくないぃー…」とまさに子煩悩な真奈美は言って眉を下げていた。


「母さん、大丈夫だって何度も言ったよ」と大和は言って余裕の笑みを浮かべている。


「…私が捕るわよぉー… イヤだけどぉー…」とここは菖蒲が言って重い腰を上げた。


「夏介君、今までありがとう」と拓馬は誠意をもって頭を下げると、「…できれば夏介君にもいて欲しかったんだ…」と大和にも言われてしまって、夏介は大いに戸惑っていた。


「…結婚してあげるからここにいなさいぃー…」と世界がうなったが、拓馬と大和は世界を隠して、「聞こえなかったことにしてくれ」と拓馬は眉を下げて言った。


「…実は、野球以外の件で、ゼルダ様の星に戻りたいのです…」と夏介は言って一輝を見た。


「戻ってくればいい。

 俺も同じスタンスを取るからな。

 もちろん恭司も含めて俺の部隊全員、ゼルダの星に住むことに決めた。

 だから夏介は、このチームにいてもいいし、

 ゼルタウロス軍に戻っても構わないさ」


一輝の言葉に夏介は笑みを浮かべて、「次の試合までに決めますので」と快く言って拓馬に頭を下げた。



春之介たちの7回の攻撃で、ついにイチガン軍の本来のエースが登場した。


今までに登板経験はないが、異様な雰囲気を醸し出している真奈美がマウンドに上がった。


そして捕手が菖蒲に代わっていたので、「その話し合いをしていたわけだ…」と春之介は眉を下げて言った。


「…む… ライバル登場…」と優夏は言って真奈美をにらみつけた。


神人がバッターボックスに入った第一球、真奈美はリリースの瞬間に、「ハッ!!!」と気合を込めて叫んだ。


するとボールは手を離れた直後に加速するように、キャッチャーミットに収まったが、球審がコールをしない。


そして試合を止めて、大会委員と協議を始めた。


「気合を飛ばして、ボールを押したな。

 反則のようでそうでもないかもしれないということだろう」


「…俺もやるぅー…」と優夏がうなったので、「じゃ、ありでいいんじゃない?」と春之介は笑みを浮かべて言った。


しかし、「気合を入れて打球の勢いを殺すこともありになるな」と春之介が言うと、秋之介が大いに胸を張った。


「さらに、気合を入れてバットを振れば、後押しすることも可能なんだろ?」と浩也が聞くと、「一番気合を入れやすいから、追い風は吹くね」と春之介は笑みを浮かべて言った。


「…気合合戦になるわね…

 気合入れすぎて自滅しないようにした方がよさそう…」


春菜の言葉に、「それは大いにあるね」と春之介は賛成した。


そして球審がベンチに相談に来たので、春之介が今の話し合いを話すと、球審はそれを持ち帰ってまた協議を始めた。


そして、ゲームを止めた原因と今後の対応を球審は説明して、この試合のみ、気合を入れてボールに作用することは認められることになった。


「…なんだか損したかもぉー…」と真奈美が大いに嘆くと、「…あっちだってできちゃうことはわかってたじゃないぃー…」と菖蒲も嘆いて言った。


しかし、これ以上の得点を積ませないためには、今の作戦を続けるしかなかった。


そして神人は益荒男に姿を変えた。


―― かなり、やばいかもしれないぃー… ―― と真奈美は思って、第二球は気合の後押しなしにボールを投げた。


そのボールは200キロを超えていたが、「…はぁー…」という、低く威厳のある益荒男のため息に、ボールは一気に失速して、『カァーン!!』と快音を残したと同時に、外野スタンドの上空まで飛んでいた。


―― ヤブヘビだったぁ―――っ!!! ―― と真奈美は大いに嘆いてマウンドに膝を突いた。


今回はお試しなのでこのまま試合は続いて、神たちは大いに威厳を発揮して25対ゼロでゼルタウロス軍は快勝した。


試合が終わると、神たちは大いに胸を張って、全員がヒーローになっていて、土産物が飛ぶように売れた。


中でも一番パーツが多い変わり種の秋之介のフィギュアは完売御礼となっていた。


「野球もそれなり以上に楽しくできて、副業でも儲かった」と春之介が現実的なことを言うと、誰もが眉を下げていた。


そして、遮光器土偶のキーホルダーはまだ量産している。


安くて誰もが手にできる値段だからだ。


もちろん全員のプロフィールも公開されているので、まさに魔除けとして買っていく観光客が長蛇の列を作っていた。


そして、「…パパァー… 私のお土産も創ってぇー…」と天照大神は大いに春之介に甘えていた。


「…ペリュペリュのキーホルダァー…」と優夏が甘えて言うと、「これは売れそうだね」と春之介は言って優夏に小さなキーホルダーを手渡した。


「絶対かわいいぃー…」と優夏は笑みを浮かべてキーホルダーを手のひらでやさしく包んだ。


もちろん、天照大神をデフォルメしたキーホルダーを天照大神に渡して、もうひとつ創って春之介が笑みを浮かべて持っていることで、「もう創んなくていいぃー…」と天照大神は言って笑みを浮かべていた。


まさに、親子の絆のキーホルダーになっていた。



今回の報酬は、個人的なものは前回と同じだが、土産物の売上金と合わせてその倍ほどの金貨を春之介は手にしていた。


その明細を見て、「…映像商品売り上げ…」と春之介は眉を下げて言った。


「さらに強いチーム募集ぅー…」と優夏はなんでもないことのように言った。


「そういうことならありがたくもらっておこう」と言って、仲間たちと宴会を始めた。


「現在、祝勝会中のゼルダ様の星にお邪魔していますぅー…」と女神冬美がマイクを持っていて、カメラに向かって言った。


「あ、新鮮だね、頑張って!」という春之介の明るい言葉に、「しっかりとお伝えしますぅー…」と冬美は大いに頼りなげに言った。


まずは自己紹介をして、冬美がロボットであることを簡単に明かして、「早速、お便りをお読みしますぅー…」と言ってから、意見、質問の多いものをカウントダウン形式で第五位から発表を始めた。


ちなみに今回の中継は前回と同様に60億アクセスとなっていたので、ミラクルマン人気は全く衰えていない。


そしてここにきてようやく神の威厳を大いに思い知っていた。


「そして注目の第一位はっ!!」とここは冬美は今日一番の高揚感を上げて叫んでから、「…遮光器土偶のキーホルダーが欲しい…」と眉を下げて言った。


「…何票?」と春之介が眉を下げて聞くと、「23億3423万3533票ですぅー…」と冬美は眉を下げて言った。


「じゃあ、現在のルートで販売決定。

 高龗の水と同様で500円で」


「…ペットに負けたぁー…」と天照大神は言って大いにうなだれたが、親子の絆のキーホルダーを見て、機嫌よく笑みを浮かべていた。


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