表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミラクルマンダッシュ!  作者: 木下源影
11/25

続々々々々々々々々


     11


春之介は多くの球をもって、恐山に飛んでお社に奉納した。


「…たまげたぁー…」と潮来が言って、お祀りをした三方に乗っている球を見入って言った。


「触れられるけど持ちあがらないから。

 盗まれることはまずないよ」


「誰にも触れさせません!」と潮来は豪語した。


「もしここに観光旅行に来た子供たちは、

 ここにミラクルマンがいる!

 などと言い出すかもしれない。

 その時は怒らずにうまく対処してやって欲しい」


「はい、仰せつかりました…

 きっと、私の仕事の手伝いができるお子様かもしれませんので、

 慎重に対応したします」


潮来は今がまさに最高に幸せな時と思い、姿と同じく若々しい笑みを春之介に向けた。


「本来の神の名としては星の神、あだ名はないのですか?」


潮来が穏やかに聞くと、「ここにいる神たちの神話が俺の一部だからね。正確な名前もあだ名もないよ」と春之介は笑みを浮かべて言った。


「万能の神ゼウスやイエス・キリストよりも上のあだ名がいいぃー…」と天照大神は言って春之介を見上げた。


「…核の中に何か読めるものがないかなぁー…」と春之介は言って、地球の核に意識を集中した。


「…ふむ… 何だこりゃ…」と春之介は言って、半紙と筆と墨を出して、横書きにして、複雑な記号のようなものを二文字書いた。


「…あ、描いたら読めた…

 ゼルタウロス…

 恐竜みたいな名前だな…

 雅春兄さんの絵が完成したら、

 この記号を名前にしておいて欲しい。

 読み方も正確に、ゼルタウロスで構わないから。

 猫っぽいところは変わってないと思うからいい名前かもしれない」


「雅彦さん、今は絵を描いておられるのね…」と潮来は眉を下げて言った。


「悟ったはずだから。

 さらに俺の親族一同も察したはずだよ。

 ほらきた」


春之介が言うと、春之介の魂から、夏介と春菜が飛び出してきた。


「潮来様!」と春菜は叫んですぐさま頭を下げた。


「あら? テレビの映像から知られていたようですね」


潮来の言葉に、「はい、お会いできて光栄です」と春菜が頭を下げると、夏介もすぐさま頭を下げた。


「今までと何も変わらないから。

 俺が宇宙を旅していても、

 この地球の様子は手に取るようにわかるから。

 だけどここ百年ほどは、外来種が来ること以外、

 変わったことはないはずだから」


「はい、油断しないよう見張っておきます」と潮来は言って、笑みを浮かべて頭を下げた。


「ここの神のシステムの方が素晴らしい…

 まさに神は単独では何もできない象徴だって感じた…」


夏介のつぶやきには、春之介は何も答えなかった。


「都合のいい時でいいので、万有様と会見をしたい。

 俺の時間が取れるのは、

 放課後だったらいつでもいい」


春之介が夏介に言うと、「はい、今すぐに確認します」と夏介は笑みを浮かべて源一に念話をすると、源一が夏介から飛び出してきた。


神たちと巫女たちは一斉に源一に頭を下げた。


「歓迎されたぁー…」と源一が感動して言うと、春之介は大いに笑った。


「…はあ、ここまで自力でやってしまうとはね…」と源一は言って、多くの金の球が乗っている三方を見た。


そして足元に視線を映して、「ゼルタウロス」と毛筆書きの絵を読んだ。


そして源一は何度もうなづいて、春之介のすべてを知った。


「春之介君の魂を生んだ母よりも大きな存在なのは確認できた。

 君の繊細さは、動物の始祖で君の祖父のヤマに近いね。

 …言葉だけではわかりづらいから…」


源一は言って、家系図のようなものの映像を宙に浮かべた。


「俺はここ。

 俺の魂は、人間として生を受けて今がある。

 君はここ。

 動物だが、神として生を受けた。

 この差は大きく、君の方がまさに偉い」


「家系図的にはそう見えるだけです」


春之介は映像を見上げたまま言った。


「ローレルさんも神。

 ですが、万有様の手下にしか見えませんでした」


「あ、もうバレたっ!」と源一は叫んで、大いに笑った。


「そして花蓮様も神。

 しかも、ローレル様よりもかなり上位のお方です。

 一般的な人間の家系の万有様と結婚されるはずがありません。

 人間として生を受けたが、とんでもないほどの経験を積み上げ、

 神に惚れられて婚姻したと考えた方が自然です」


「だからこそ、何とかまとめられたって言ってもいいんだよねぇー…

 神と人間を分け隔てなく付き合っていけるからね」


源一の言葉に、春之介は笑みを浮かべてうなづいた。


「ここまで覚醒した君は、すぐにでも悲しみに包まれる。

 そしてそれを回避する方法はあるんだ」


源一のとんでもない真実の言葉と映像を交えた説明に、春之介は大いに希望を持った。


「この先、俺の手に負えないとんでもない不幸が襲ってくる。

 その時には協力してもらいたいんだ。

 たぶん、十年ほど先になると思う」


「はい、喜んで。

 その時までに、俺の部下たちも鍛え上げておきますので」


「その部分は、穏便に、ね…

 普通、修行中に死ぬから…」


源一が眉を下げて言うと、「はい、夏介君に詳しくレクチャーしてもらいますから」と春之介は笑みを浮かべて言った。


「弟子が役に立って助かった…

 この地球を俺たちのモデルケースにしたいから、

 さらに平和にして欲しい」


「はい、最善を尽くして胸を張れるように平和にします」と春之介は言って頭を下げた。


「…はあ… 俺の出番がまるでなかったことだけが残念だ…」と源一はうなだれて言って、春之介に頭を下げたまま消えた。


「出番があってラッキーです!」と夏介が叫ぶと、春之介は大いに笑った。


「ところで、置き土産の君はどういう理由でここにいるの?」と春之介は床を見て言った。


正確には、春之介の影に向けて言葉を放ったのだ。


「…うわぁー… すごいぃー…

 ボクも気づかなかったのにぃー…」


夏介は大いに嘆いた。


すると、影から子供が姿を見せて、「…源一様も驚いてますぅー…」と言って眉を下げた。


「話の途中から気になっていたけどね。

 スパイだったら解体するよ?」


春之介の言葉に、春菜たちは目を見開いて男の子を見た。


「…スパイでもありますぅー…

 夏介様が、ほとんど連絡してこないのでぇー…」


男の子の言葉に、春之介は大いに苦笑いを浮かべて夏介を見た。


ここはバツが悪そうな夏介と男の子が説明をした。


「気軽にすべてを知れて助かるよ。

 大いに活用させてもらうから。

 君の名前は?」


春之介が男の子に聞くと、「はい、影255号で、源一様製造一号機です」と答えた。


「神自らに創ってもらったのか…

 しかもそれ以外に254機あるわけだ…」


「源一様は、春之介様専用として、

 本来の意思を曲げてボクを創ってくださいましたぁー…

 源一様はヒューマノイドは嫌いなのです…

 ですがロボットは好きです。

 ロボットの方が、まず壊れないので…」


「ロボットは行動の制約があるけど人間よりも強い。

 しかしヒューマノイドは細かいことができてしまう分、

 ロボットよりも弱い。

 ということでよさそうだね?」


「…あはは、はい、そうですぅー…」と影255号は言って頭を下げた。


「それからまだあるはずだ…」と春之介は言って考え込むと、「源一様はロボットたちを愛していますぅー…」と影255号は言った。


「…ロボットには戦わせない…

 だけど、ヒューマノイドはそうはいかないから、

 涙をのんで君を作った。

 君は、俺の護衛でもあるからだ」


「はい、その通りですぅー…」


春之介は何度もうなづいて、「はっきり言って君は必要ない」と春之介が言うと、「えー…」と言って影255号は大いにうなだれた。


「だから、連絡係と情報提供者として影としてそばにいて欲しい。

 君は戦うな。

 君の代わりに、この地球の魂たちが俺を守ってくれているからな」


「…はい、仰せの通りにいたしますぅー…

 …あのぉー… 名前をいただきたく…」


影255号が襲る襲る聞くと、「影に名前は必要ない」と春之介は豪語した。


「…うわぁー… 春之介様がきっと初めてだぁー…」と夏介が大いに嘆くように言った。


「…春君、名前、つけてあげてぇー…」と春菜が控え目に言った。


「…ちょっと、意地になり過ぎたか…」と春之介がにやりと笑うと、影255号は大声で泣きだし始めた。


「…感情豊かだな…

 まさに人間でしかない…」


春之介は大いに感心していた。


「八丁畷春夏秋冬で」


「季節、全部入れちゃったぁー…」と春菜が嘆いたが、まさに今の春之介の想いが全て入っていた。


「この地球で、感情豊かな四季を持っている土地は少ない。

 ヒューマノイドだが、人間でしかないように見える。

 万能なものに名前を付けるとなると、

 季節の全てを入れたくなるからね。

 まあ、あだ名は春ちゃんとかで」


「…春君が最近、私を呼び捨てにしてた理由もあったわけね…」


春菜が大いに嘆いて言うと、「妹として堂々と名前呼び捨てという理由だよ」と春之介はすぐさま答えた。


「それでいいもぉーん!」と春菜は陽気に言って、夏介の右腕を陽気に抱きしめた。


「春ちゃんと呼んでも誰もなにも疑わないからな。

 影だから、基本的には姿を見せないんだろ?」


「はい、それが使命のようなものですので…」


春夏秋冬は言って、その身を春之介の影と同化させた。


「…とんでもない技術だね…」と春之介は言って苦笑いを浮かべた。


「この科学技術を外に出さないことも、

 細心の注意を払っておられます」


夏介の言葉に、春之介はすべてを察してうなづいた。


「…神だけが使える神器と思っておいた方がよさそうだ…」


春之介の言葉に、夏介はすぐさま頭を下げた。


「春ちゃん、別に隠れている必要はないから。

 天照たちとともにいれば、

 また新しい神が増えたと誰もが察してくれる」


春之介の言葉に、「はい! 春之介様!」と春夏秋冬はすぐさま姿を現して、天照大神の執事のように、その左斜め後ろに立って笑みを浮かべて春之介を見上げた。


「それに、映像とか色々出せるんだろ?

 誰もが見てもまさに神としか思えないから都合はいい」


「…あはは…

 神の私たちがあんなことできないぃー…」


天照大神は照れくさそうに言ったが、落ち込んではいない。


まさに使える執事という意味なのか、春夏秋冬と腕を組んでおどけた。


「…あのぉー… 差し出がましいかもしれないのですがぁー…」と春夏秋冬が申し訳なさそうな顔をして、春之介を上目づかいで見た。


「何かまた面白そうなことのようだね」と春之介は大いに興味を持った。


「はい、春之介様でしたら、

 すぐにその存在の選別ができると思うのです。

 この地球にもきっといると思うのです。

 そして、僕としてすでに雇っておられるように思うのです。

 それは、宇宙の妖精という種族です」


「…そういうことか…

 妙に要領がよくなっていたのは、

 そういった妖精が何人もいたからか…

 しかも、最近は特に楽に仕事がこなせるようになっていた。

 俺の力ではなく、宇宙の妖精が手伝ってくれていたからか…」


「はい、きっとそうだと思います。

 心底、春之介様にお仕えしようと頑張っているんだと思います。

 さらに、地の妖精もいます。

 この妖精は肉体を持っているので、よくわかります。

 竜は、地の妖精の一種でもあり、神でもあるのです」


春之介は目を見開いて、そして大いに笑った。


「特に、高龗様は能力がお高いと思います。

 人型をとれる竜は、それほど多く存在していませんし、

 相当な修行が必要ですから」


「ほとんどないがしろにしていたが、よかったのか悪かったのか…」と春之介は大いに苦笑いを浮かべて言った。


「どんなことでも叶えちゃうから、甘やかしちゃダメなのぉー…」と天照大神が眉を下げて言うと、「それは大いにあるな」と春之介は言って、高龗の頭をなでた。


「いつもちゃんとしてくださってますぅー…」と高龗は眉を下げて言った。


「はは… そう言ってくれて助かった…」と春之介は言って高龗に笑みを向けた。


「また全世界を巡って、

 注意深く仲間を見つけておいた方がよさそうだ…

 ほったらかしにして、

 秋之介のようにへそを曲げてしまうのもかわいそうだからな」


春之介の言葉に、天照大神は大いに苦笑いを浮かべていた。


「…源一様がさらに感動しておられます…

 手下ではなく、仲間とおっしゃられたので…」


「表立っては説明が面倒だから一部は部下だけど、

 扱いは仲間でしかないから。

 俺はそれほど偉いなどと思ったことがないからね。

 どちらかと言えば、ごく普通の人間でいたかったほどだから」


「春之介様のような方の方が圧倒的に少数派ですぅー…」と春夏秋冬は笑みを浮かべて春之介を見上げた。



春之介たちは恐山から戻って来て、食堂でくつろいでいた。


「ゼルタウロス、か…

 猫のようだったが、違うのか…」


春之介は少々気になったので考え込んでいた。


「あ、そうだ、魂の確認…」


春之介はまた座禅をして瞳を閉じた。


目を閉じて魂に集中すると様々なものが見える。


そして一番気になった、丸い球がある部屋に入った感覚に陥った。


そこには白、黒、赤、黄、緑、黒赤、そして混沌とした球がある。


「…猫、いたぁー…」と春之介は言って、赤い猫でしかない黒赤い丸い球を見入ったが、少々違うようで、その球の先にその猫の神髄があった。


「変身、ということでいいのか…

 いや、俺が一番に生を受けた姿だ…

 雅春兄さんはこれが確認できるのか、すごいな…

 ゼルタウロス… 間違いなさそうだ…」


春之介が目を開けると、妙に視線が床に近い。


「ありゃ? 変身しちまったか…」と赤い猫が言うと、すぐさま優夏が陽気になって抱きしめた。


優夏は猫を少し体から離して、「一体、どんな仕組みなのよぉー…」と聞いた。


「俺の魂が初めてこの世に生を受けた時の体だよ」と猫は言った。


「あ、娘を産んでるな…

 俺と同じ姿…」


「万有美佐ちゃんが、同じ赤い猫に変身できます。

 きっと、当時のお嬢様だと思います」


春夏秋冬の言葉に、春之介は笑みを浮かべてうなづいた。


「…そうか、万有様の親族として過ごしているわけだ。

 よかった…

 …だけど、どうやって変身を解くんだ?」


猫の言葉に、優夏は大いに眉を下げていた。


「優夏、ちょっと離れて」と猫が言うと、優夏は赤い猫を床に降ろした。


「あ、人間の俺が眉を下げて見てる…」と猫が言ったとたん、その姿は春之介に戻った。


「あー… 驚いたぁー…」と春之介は言って大いに眉を下げていた。


「俺たちの方が驚いた!」と大人たちが大いに叫ぶと、春之介は、「ごめんごめん!」と言って大いに笑った。


春之介が球のある部屋のことについて春夏秋冬に聞くと、宙に映像を浮かべて説明した。


「攻撃に防御、気功術、太陽、植物育成、ものづくりに変身、か…」


「また別の部屋に、使える能力についての記載がありますので、

 安全な場所で確認していただく必要があります」


夏介の言葉に、「確認はしなきゃな…」と春之介はため息交じりに言った。


「だが、混沌の球がデカいな…

 無意識で使っていた証拠だな…」


春之介は言って、模型の児童公園を造り上げると、神たちが大いに興味をもって遊び始めた。


「…やっぱり、幼児になるぅー…」と天照大神は言って、幼児の姿に戻って遊び始めた。


「…まあ、いいか…」と春之介はため息交じりに言って一太に笑みを向けた。


「…ふむ…」と春之介は言って、真由夏のアナウンサー着せ替え人形セットを大量に出した。


「土産物、完成…」と春之介が言うと、誰もが目を見開いていた。


そして、遮光器土偶のキーホルダーも大量に出した。


「文化祭で売る」と春之介が言うと、誰もが大いに眉を下げていた。


「今回は腹が減らないな…

 少々まどろっこしいことをしていたせいか…

 そうか、特殊な製造は、多くのエネルギを使うから、だな…

 その相乗効果で、混沌の球が異様に大きくなったようだ。

 スタジアムが倒産しないように、今のうちに土産物で稼いでおこう…

 あまり安く売るのは問題だし、

 一般常識的な値段も買えない子もいるから問題だな…

 買えない子には配るか…」


「…真夏のサンタさんね…」と優夏は言って両手を出した。


「何セット?」


「ひとつでいいわよぉー…」と優夏は言った。


春之介はひとつだけ、優夏のユニフォーム着せ替え人形セットを出して、ネクストキオ球団の主要メンバーの着せ替え人形も作り出した。


「基本的には、最低でも3000円ってところだろうな…

 本来だったら5000円でも安いと思う…」


「…そうね、この質だと安いわね…」と優夏は早速箱を開けていて、ユニフォームから学生服に着せ替えさせていた。


「販売数人気投票でもするか…」と春之介が言うと、選手たちは大いに苦笑いを浮かべていた。


「紅白戦の時に、順位の奇数と偶数でチーム分けをする、とか…

 この場合、キャッチャーが要になるな…

 投手がすごくても捕手がいないと本気で投げられない、とか…」


「…面白くないけど、面白いわね…」と優夏は人形の着替えを終えて、ポーズをつけさせて喜んでいる。


「売り上げの半分は寄付に回すとして、

 5000円ほどで販売するか…

 売れ残ったら悲しいよなぁー…」


春之介の言葉に、特に大人たちが大いに頭を抱え込んでいた。


「ありゃ、落ち葉がなくなった…

 秋になってからにするかぁー…

 まあ、ほかの国に行って、掃除がてらに創ってもいいけどな…」


「なかなかのエコね」と優夏は言って、人形と同じポーズをとって、天照大神たちから拍手をもらっていた。


「まずは数量限定で、

 メタモルメイドの着せ替え人形の販売でも企画しようか…

 半分以上は大人相手だし、それなりに売れると思う」


「みんな、買ってくれるよ?」と天照大神は言って、大勢の人形たちをステージに立たせて喜んでいる。


「私センター」と優夏が言って、ステージの真ん中に制服姿の優夏人形を置いて喜んでいる。


「…ふむ… 企画書と同時に、まずは展示をしよう…

 その方が手っ取り早い…

 寄付の先は、とりあえずは文部科学省でいいか…

 児童保護施設向けのつなぎ程度にはなるだろう…」


春之介は言って、少し考えてから、二種類の企画書をテーブルの上に置いた。


一部はネクストキオスタジアム株式会社で、もう一部はマイティーカウル向けのものだ。


マイティーカウルへの企画書は、真奈美に手渡して、ネクストキオの企画書をもって、春之介は席を立った。


「…あのヤロー… 俺たちを見捨てるつもりか…」と常盤がうなるように言うと、「今すぐじゃないわ」と優夏がすぐさま言った。


「もし今春之介がこの地球からいなくなったら、

 この地球の子供たちの夢も希望もなくなっちゃうもの…

 だからできることを今すぐにやってみたいのよ。

 さすが、実業家の血が濃いって感心したわ」


優夏の言葉には春菜も賛成して、さらには夏介が興味深い話を始めた。


万有源一に至っては、金銭は必要ないので、慈善事業のような行動に出て、能力と自らの手、仲間の手を使って数々のものづくりをしている。


さらには宇宙を股にかける貿易商とも組んで、全宇宙にその商品を提供している。


当然商売なので金品の受け渡しはあるのだが、ほとんどが従業員の労働力への見返りとなる。


「…それに、先生の作品と何も変わらないと思っています…」と夏介は言って、ポーズをとっている優夏人形に触れた。


「…いや! この方がすごいっ!!」と夏介は叫んで、服を着ていない部分の腕をさすり、肩の関節を動かして、「…これは、先生、悔しがるなぁー…」と感慨深く言った。


「…うふふ… 夏介君はオタク?」と優夏が意味ありげに言うと、春菜が怪訝そうな顔をして夏介を見ていた。


「…あ…」と夏介は言って、自分の行動を恥ずかしくなっていた。


「イジメてやんな…

 幻の技術を流用したんだろ?」


柳川の言葉に、「まさに、人間の肌ね…」と優夏は言って、愛おし気に人形の腕をなでた。


「…人間の骨格に、人間の皮を着せているところが普通じゃありません…」と夏介がうなるように言った。


そしてサイコキネッシスを使って優夏人形を躍らせると誰もが驚いていたが、女子たちは大いに、「キャーッ!!」と叫んで、小さな舞台に釘付けになっていた。


「…小人が躍ってるとしか思えねえ…」と常盤はつぶやいて苦笑いを浮かべた。


「室内で使っても構わないボクの能力のひとつです」と夏之介が笑みを浮かべて言うと、「…素敵…」と春菜は手を組んで言って、夢見る乙女の眼を夏介に向けた。


すると春之介が健太郎を連れて戻って来て、「…はは、ここまではしないから…」と春之介はすぐさま言った。


「子供たちの希望になることはやらなきゃいけないって、

 全宇宙で決まっていることなの!」


優夏が叫ぶと、「ありゃ? そうなの?」と春之介は素っ頓狂な顔をして優夏を見て言った。


春夏秋冬がその証拠映像を見せると、「…商品山積み…」と春之介は言って、大いに苦笑いを浮かべた。


「全宇宙が相手ですので、三日で数億個ほど創ることもあるのです。

 源一様が星を移って二年ほどしか経っていませんが、

 出荷数は月間百品目で百億個ほどになっています」


「…ものづくりの仲間も作らなきゃな…」と春之介は笑みを浮かべて言った。


「そして問題は仕事に使う時間を無限にすることです」と春夏秋冬は言って、異空間部屋の説明を始めると、誰もが大いに驚いていた。


「…時間が進まない部屋…

 勉強し放題、働き放題…」


春之介は言って大いに苦笑いを浮かべた。


「ですので、新しい商品の開発なども、

 外から見ていると一瞬でできちゃうんです。

 ですがデメリットはあって、

 働けば働くほど疲れますから、

 休息は重要です」


「…はは、そりゃそうだ…

 楽しくて夢中になりそうだからな…」


「その予防策として、5時間使ったら、

 強制的に宇宙空間に戻されますので、

 きちんと休憩を取ります」


春之介は笑みを浮かべてうなづいて、「修練場と会わせて異空間部屋も創ってもらおうかなぁー…」と春之介が言うと、「呼んだよなっ!」と源一が陽気に言って夏介から飛び出してきた。


「…はは、いらっしゃい…」と春之介は大いに眉を下げて言った。


「…あー、こりゃすげえ…」と源一は春之介に挨拶なしに、優夏人形に触れまくっている。


「解析したいから、ワンセットもらえないかな?」と源一が言うと、真由夏人形の箱を源一に手渡した。


「おっ! これも同じだっ!」と源一は言って、箱を消したと同時に、全く同じ箱を出した。


「…こりゃすげえ…

 まだ完璧にコピーで来きてねえな…」


「優夏の父の研究の成果のたまものなのです」


春之介が自慢するように言うと、「ああ、その想いは感じたさ」と春之介は言って優夏の胸ポケットを見ている。


「…外に出たら連れ去られるぅー…」と優夏の母の一ノ瀬妙子が嘆くように言うと、春之介たちは大いに眉を下げていた。


「連れ去りませんから…

 あなた方は作られた存在だと思っているようですけど、

 その姿は必然です」


源一の言葉に、「えっ?!」と誰もが叫んで優夏のポケットを見入った。


「小人族という妖精に生まれ変わっていますから」


源一の言葉に、「…そういう種族もいるわけだ…」と春之介は言って笑みを浮かべた。


「ああ、巨人族もいるぞ。

 俺もそうだし」


源一がカミングアウトすると、誰もが大いに苦笑いを浮かべていた。


「じゃ、ここからは大人の話し合いということで」


源一は言って、健太郎とともに席について、この先の件を話し始めた。


春之介は慌ててその席に同席すると、もちろん一太も席に着く。


「さらに忙しくなりますが、

 さらに余裕の日々を過ごせるようになるはずですから」


夏介の言葉に、「…一日が24時間以上になっちゃう…」と優夏が目を見開いて言った。


「源一様は平均で、一日百時間ほどの時間の空間で生きておられます。

 時には一日で数十年という時もありますが、

 もちろん、休息と食事はきっちりととられていますので。

 そうしないとさすがに疲れ果てて病気になってしまいます。

 異空間部屋で就寝や食事をすれば、時間は進みませんので。

 そして特殊なお風呂に入ります」


春夏秋冬は言って、とんでもない映像を宙に浮かべた。


「…火竜のお風呂屋さん…」と優夏は嘆くように言った。


「この星には土竜がいますので、こちらの方が効果的です。

 誰もが若返りますので。

 潮来様が若くなったのもその効果のおかげですから。

 春之介様はその神髄も知っておられるのですよ」


「…そうだったんだぁー…」と優夏は満面の笑みを浮かべて言った。


「そして簡単ではありませんが、

 みなさんは春之介様と永遠の時を歩んでもらいたいと思っておられるのです。

 今の春之介様が一番希望していることですので。

 春之介様は不老不死の力を得ましたから、

 みなさんにもそうなっていただきたいと思っておられているはずです」


「…それほどじゃないと、真の平和を勝ち取れない…」と優夏が卓越した考えを述べると、「安心して死んでいられませんのでね」と夏介はすぐさま答えた。


「…もっともっと、鍛え上げるぅー…」と優夏が気合を入れていると、「優夏様はもう半分ほどその道を歩んでおられていますので、急ぐ必要はないと思います」と夏介が笑みを浮かべて言った。


優夏はこれ見よがしに大いに胸を張って、「はっはっは!」と妙にわざとらしく笑った。



「じゃ、場所は決まったから創っちまうから。

 春之介も手伝ってくれ」


もうすっかり気さくになった源一が言って春之介の肩を抑えて、「はは、もう完成」と春之介は笑みを浮かべて言った。


「俺、ほとんどなんもやらなかったな…」と源一は大いに苦笑いを浮かべて言った。


「いえ、強度や安全対策はすべて規格通り仕入れさせていただきましたので。

 これで夏介の力を借りられますし、

 彼にも鍛えてもらえます」


「…出番、きたぁー…」と天照大神が大いに喜んでいる。


神通力による可動部分が大いにあるので、神の力は必要不可欠なのだ。


「さらによろしく頼むよ」と春之介が天照大神に言うと、「…遊園地ぃー…」とおねだりをしてきた。


「…今度はどこがいいの?」と春之介が苦笑いを浮かべて言うと、「うふふ、ここに創って」と天照大神が言った。


「…申し訳ございません…」と春夏秋冬がいきなり春之介に謝ったので、「…勝手に情報を引き出すんじゃない…」と春之介は眉を下げて天照大神に言った。


「もうしないよ?」と天照大神が大いにかわいらしく言うと、源一は陽気に笑って、「素晴らしい親子だ」と言って春之介の肩を叩いた。


「修練場は部外者入場禁止だから、その中でいいよな?」


源一の言葉に、天照大神は大いに礼を言った。


「勉強部屋はもう異空間部屋に改造してあるから、

 思う存分勉学にも励んで欲しい。

 俺も実は教師をしているんだ」


源一が恥ずかしそうに言うと、「はい、きっとそうだろうと思っていましたし、夏介が先生と呼んでいることを不思議に思っていたんです」と春之介は笑みを受かべて答えた。


「ま、普通は師匠って呼ぶよな…

 俺の場合、勉学の方が厳しいようだから、

 先生の方が呼びやすいようだ」


源一は恥ずかしそうに言ってから、「今度来る時は美佐を連れてくるよ」と言って、頭を下げて消えた。


「…大昔の猫の娘か… 楽しみだな…」と春之介が笑みを浮かべて言った。


「おまえ、また浮気かぁー…」と優夏が大いに春之介をにらみつけて言うと、「まだ人間も持っていて11才の少女ですからぁー…」と春夏秋冬が眉を下げて答えた。


「…ああ、かわいい猫の妹が…」と優夏は態度を一変させて拝むような姿勢を取って言った。


「…ですが美佐様は、ここでは暮らさないと思います…

 源一様を本当の兄として慕っておられますので…」


「それはよくわかるよ」と春之介は笑みを浮かべて真由夏を見た。


その出会いの話を春夏秋冬がすると、「…なんていいヤツでお坊ちゃまなんだぁー…」と優夏は号泣しながら言った。


「…だが、発想の転換がすごいな…

 赤の他人にものを買い与えたいために、

 友人にも同じものを買い与えるとは…

 子供だったら仲間がいるからと思って快く受け取る。

 しかも当時はまだ普通の人間で10才だったのに…

 本当にやさしいお方だ」



話しは一段落して、春之介は就寝前に勉強をしようと思って勉強部屋に行くと、優夏たち学生もついてきた。


一気に5時間も勉強ができるので、ここは便乗しようと思ってきたようだ。


さらに春之介は、魂たちにこの日本中の落ち葉をそれなりに集めさせて、広大な敷地の修練場の建物内の一角に蓄えさせた。


そしてまずは見本の人形を創り上げ、ジオラマも創り出して並べ、アンケート用紙も創り出して、納得の笑みを浮かべた。


5時間後に外に放り出され、「本当に時間が経ってない…」と春菜は廊下に吊ってある時計を見て言った。


「さすがに腹が減ったな…」と春之介が言うと、「準備するよ!」と真由夏が陽気に言って走って行った。


「明日からはこの時間を修練場で使うことになるわけだ」と浩也が感慨深く言うと、「夕食までの二時間ほどだけど、ハードなのでその程度の時間でいいはずだよ」と春之介は陽気に答えた。


「…ハードなわけだ…」と浩也は大いに苦笑いを浮かべて言った。


修練場の実態を知っているのは春之介と神たちだけなので、修練場どころか施設そのものもまだ確認できていない。


学生たちは軽食を取ってからまた入浴して眠りについた。


しかし春之介は眠ったはずだが起きていた。


そして大いに緊張した。


ここは普通ではないと察知したからだ。


―― 猫に変身しろ! ――


春之介の魂が叫んだ。


春之介はゼルタウロスに変身して、飛ぶように走った。


すると少し離れて黒い影がついてきている。


「春夏秋冬か?!」と赤い猫が叫ぶと、「はい! そうです!」とすぐさま返事が聞こえた。


「なるほどな…

 おまえは俺の持ち物扱いだ」


赤い猫は言って少しだけ走るスピードを落とした。


すると前方に荒れ地と変わらない岩が見えたので、まるでフェイントをかけるように、岩から出たり入ったりを繰り返し、都合のいいことに小さな洞窟を見つけ飛び込んだ。


すると巨大な影が見え、『…グルルルル…』とまるで狂犬のようなうなり声が聞こえた。


赤い猫は何か確認ができないかと思い魂を探ると、この大地の魂たちが今の状況がどういうことなのか説明してくれた。


「…あれが、話に聞いていた悪竜か…」


赤い猫の言葉に、「…えー…」と春夏秋冬は大いに嘆いたが、すぐさま通報した。


だが、何の反応もなく、今はローカルになっていると察して、すぐさま赤い猫に報告した。


「現在位置の記録。

 なんでもいい、この辺りに来たことがあれば、

 詳しい座標がわからなくても探し当てられるはずだ」


「…宇宙船があります…

 潜り込めました…

 あ、繋がりました!」


春夏秋冬が言ったと同時に、見覚えのある宇宙船がやってきた。


そして源一が飛び出してきたが、とんでもなく恐ろしい顔をしていて悪竜をにらみつけ、そして動けなくした。


「…さすがだね…」と赤い猫は言って、その姿を源一が確認できる場所まで移動した。


「…この欲だらけの悪竜を更生させようって無謀なことを考えてるようだけど、

 できるんだよね?」


赤い猫は大いに苦笑いを浮かべて源一を見上げた。


「ああ、できるぜ。

 だがな、昇天してもやむなし」


源一は言って腰から注射器のようなものを出して悪竜に投げつけた。


悪竜は苦しそうなのだが動けない。


そして体液のようなものだけが流れ出し、地面に吸収されていく。


「…悪魔のストレス…」と赤い猫が言うと、「…はは、分析ができるんだ、すげえなぁー…」と源一は言って少し笑った。


「この星の魂たちが協力的なのでね。

 こいつが悪竜であることも教えてくれました。

 そして、猫に変身しろとも言ってきたはずです。

 多分、今の俺が人間の俺よりも能力的には高いからでしょう」


悪竜は悪竜ではなくなったが、その巨大な体は地面に墜落するように頭から崩れ落ちだ。


「…君たち、やさしいな…」と赤い猫は言って、魂たちが竜の手当てをしていることを感じた。


「…動き出すわけか…」と源一は言って10メートルほど下がって、赤い猫と並んで立った。


「…とんでもない夢を見ているもんだね…」と源一が苦笑いを浮かべて言うと、「…聞いていなければ慌てていました…」と赤い猫は言って眉を下げた。


「知っていてもこの状況は誰でも慌てるよ…」と源一は眉を下げて言ってから大いに笑った。


「…ビルド、来い…」と源一が小さな声でつぶやくと、源一から少年が飛び出してきて、すぐさま巨大な火竜に変身した。


「さすが、源一様…

 そして八丁畷春之介様…

 始めまして、ビルドと申します」


「…うちにいる竜と大いに違いますね…」と赤い猫はさらに眉を下げて言った。


姿は似たようなものだが、まず見た目で言えば、頭に無数にある角がその威厳を大いに現している。


高龗に至っては角はなく、アフリカにいる土竜は角なのか肌があれているのかわからないほどのものしか生えていない。


「我の場合は源一様のおかげでこうなれたのです。

 春之介様の星にいる竜たちも、

 きっと雄々しく成長することでしょう」


「帰ったら、遊ぶ時間も設けますよ…」と赤い猫は眉を下げて言った。



横たわっていた竜は何とか首を上げたが、体を起こすことはできないようだ。


そしてビルドを確認して死んだふりをしたので、源一も赤い猫も大いに笑った。


姿にそれほど差異はないのだが、その威厳がまるで違い、まさに大人と赤ん坊ほどの差がある。


「…今以上に強くなる必要があるのか?!

 それとも、うまいエサに吊られたか?!」


ビルドが怒鳴ると、寝転んで死んだふりをしていた火竜は小刻みに体を震わせた。


「ふん! 人間の言葉すら話せんか!」


悪竜だった火竜は何とか飛び立とうと必死に翼を仰ぐが、まるで力が足りないようで宙に浮くことすら叶わない。


しかし徐々に落ち着いて、なんとか地面に座って長い首をもたげた。


「…やさしい子もいたもんだ…」と赤い猫が言うと、「…死者の魂が諫めたか… 処分しようと思っていたが、その必要はないようだな…」と源一はごく普通に言ったのだが、火竜はまた暴れたが、すぐさま落ち着いた。


そしてビルドと火竜はコンタクトを取り始め、座ったままうなだれた。


「この宇宙ではないようです。

 この先はまだ未知ですので、

 この先きっと悪の権化に出会えることでしょう」


ビルドの言葉に、「急いで星を平和に保っておいて助かったと言ったところだな」と源一は苦笑いを浮かべて言った。


「あっ」と赤い猫が言ったとたんその姿は消えた。


「…また別の星に飛ばされた…

 春之介にとっては災難だな…」


「竜だけの居場所を察知できる、とんでもないお方です。

 まさにフォーサ様と変わらないほど繊細なお方…

 …おや?

 今回は、どうやら悪竜ではなさそうです…

 となると、無作為に竜を訪ねる夢見…

 …ああ、まさか…」


ビルドが嘆くように言うと、「動物だからね、それは大いに考えられる」と春之介は言って笑みを浮かべてうなづいて、人型に戻ったビルドとともに宇宙船に戻った。



「…連れてきてしまった…」と春之介は目覚めて眉を下げて言った。


人間で言えば幼児サイズの緑色の竜を抱いていた。


その竜は、気持ちよさそうにしてすやすやと眠っているが、その頭にはまるでビルドのように無数の角が雄々しく生えている。


しかし小さいので、妙にかわいらしくも見えるし、火竜よりも大人しいように感じる。


そして、この室内がまるで青々とした草原にいる錯覚を覚えるほど清々しい空気となっている。


「悪いがこれから仕事だ。

 君も連れて行くから起きてくれ」


春之介は眉を下げて言って竜の体を揺さぶると、竜はぱっちりと目覚めて、春之介の手を離れふわりと浮いて肩に止まった。


「着替えるから降りてくれ」と春之介が言うと、竜はすぐさまベッドの上に降りて人型をとった。


「…初めて変身したか…」と春之介は言って、混沌で緑色のワンピースを創って、裸の女の子に着せた。


「パパ、ありがと」と女の子は言って、はにかんだ笑みを浮かべて陽気にターンした。


「名前は…

 まあ、ないんだろうけど…」


「八丁畷春子!」と少女が叫ぶと、「…それでいいよ…」と春之介は言ってぎこちない笑みを浮かべた。


一太は起きていて、今の状況に対応ができず、目を見開いている。


「仕事から帰って来てから話すから…」と春之介が眉を下げて言うと、一太はすぐさま着替え始めた。



「…春子ちゃぁーん…」と優夏は春子を溺愛して離さなくなった。


新聞配達に出る前から優夏が独占して、ずっと体を触れ合っている。


もちろんその切欠は、「ママ、大好き」とあいさつ代わりに開口一番春子が言ったからだ。


しかも、度を過ぎるほどかわいいし、どことなく優夏にも似ていて美人でもあるので、気に入って当然だった。


「…高龗、怯えてやるな…」と春之介が眉を下げて言うと、「…止められませんー…」と高龗の声まで震えていた。


さらには天照大神ですらずっと苦笑いを浮かべている。


よってそれなり以上に威厳のある神でもあり、竜でもあるようだ。


「今日は一緒に学校に行こうね」と優夏がまさに母の言葉で言うと、「はい! ママ!」と春子は上機嫌で言った。


「まあ、誰にも預けられないからな…」と春之介は言って、優夏と春子に笑みを向けた。



「今日は子供参観日です!

 私が今決めました!」


優夏はホームルームで、堂々と担任教師の芥川紀夫に言った。


「…はい、承諾しました…」と芥川は言って、大いに眉を下げていた。


確実に何かあると感じていたので、余計なことは聞かないだけだ。


「…しかし、いい香りがするなぁー…

 なんだか、落ち着いて眠くなりそうなそんな感じ…」


すると、生徒の何人かはもうすでに眠っていた。


普段の勉強疲れが一気に噴出したと言ったところだ。


「…あー…」と春子が言って眉を下げてから、『パン』と音をたてて手を叩くと、誰もがすぐさま目を覚ました。


「あら、少し背筋が伸びたわ。

 春子、ありがとう」


優夏が笑みを浮かべて言うと、「えへへへ…」と春子は大いに照れていた。



授業中は特に変わったことは何もなく、二組の生徒たちはいつも以上に大いに勉強に励んだ。


そしてまるで草原で授業をしているような素晴らしい時間を過ごして、誰もが陽気になっていた。


「私がママで、春之介がパパ」と優夏は堂々と言って、大勢の友人たちに春子を紹介した。


「パパがね、迎えに来てくれたのぉー…」と春子が言うと、ここにいる半数ほどがもうすでに眠っていた。


春子は大いに眉を下げて、また手を叩くと全員が起きた。


「どう? 生まれ変わったように清々しいでしょ?」


優夏の言葉に、眠っていた者たちは誰もが優夏の言葉に賛同した。


「春子は何もしてないわ。

 春子の存在感が、そうさせているだけなの。

 あ、たまにはパパにだっこしてもらっていいのよ?」


優夏の言葉に、春之介は大いに眉を下げていた。


「はーい、ママ!」と春子は言ってから、体当たりするように春之介に抱きついた。


「…目が覚めたらいたから、ほんと驚いた…

 だけど、ついてくるだろうなぁーと、なんとなくわかっていたけどね」


春之介は笑みを浮かべて言って、春子の頭をなでた。


「神様がね、きっとパパが迎えに来るって教えてくれていたの!」と春子はかなり元気よく言った。


「でもさ、姿は全然違うよね?

 それでもパパなわけ?」


「パパだって、教えてくれたよ?」


「…はあ、わかったよ、納得…」と春之介は言った。


春之介と同じ職業の者が春子に教えたのだろうと察した。


よって春子の言った神とは、春之介が訪れた星自体だ。


「さあ、食事にしようか」と春之介は言って、行楽弁当のような春之介の家族だけの弁当を広げた。


「おいしそー…」と春子は愛らしく言って、優夏に食べさせてもらって喜んでいる。


まさにこの日を待っていたのだろうと、春之介は春子の心情を察した。


「万有源一っていう人知ってる?」と春之介が聞くと、「…あー…」と春子は言ってすぐさまうなだれた。


「火竜ビルドは?」


「ライバルだっ!!」と今度はまるで男の子のように叫んだので、春之介も優夏も大いに眉を下げた。


「まあ、春子に会う直前に火竜ビルドとも会ったからね。

 面識があったのなら、たぶんそうだろうって思ってたよ」


「ビルドは冷たいから嫌い!」と春子は大いに怒って叫んだ。


「竜とは本来そういうものだ。

 だから春子は、

 人間のやさしさに触れていた期間があったんじゃないの?」


「あいつ、人間を助けるなんて愚の骨頂って言ったんだよ?!」


春子は性格が変わってしまったように怒鳴った。


「だけどな、今は変わってるぞ。

 今言った、万有源一様とともにいる」


「…ふん! 根性なしぃー!」と春子は言って、箸を握って器用に食べ始めた。


「ゆっくりと味わって食べるんだ」


春之介の言葉に、春子は大いに反省して、「…はい、パパ…」と言って、すぐにゆっくりと味わって食べて、優夏に笑みを向けた。


「…火竜ビルド、ねえ…」と優夏は言って思案顔をした。


「春子と同じほど威厳があった。

 しかし火竜に対抗できる緑竜の方がすごいと思う」


春之介がほめると、「でしょでしょ?!」と春子は上機嫌で言った。


「ちなみに、万有源一様の存在は誰に聞いたの?」


「統括地の創造神の、タマエ・ローレッタちゃんだよ」


春子の回答に、「…大物の知り合いもいたもんだね…」と春之介は言って大いに眉を下げていた。


「星の創造神の上司の宇宙の創造神の上司…」と優夏は嘆くように言った。


「お勉強したことがさっそく役に立った。

 それに、源一様はその上だからね。

 何が気に入らないの?」


春之介が聞くと、「…パパの方がすごいのにぃー…」と春子は少し悔しそうに言った。


「俺がどれほどすごいのか、まだわかってないからな。

 もう少し待っていてくれ」


春之介の言葉に、「ううん! パパの方がすごいからいいの!」と春子は陽気に言って、春之介に抱きついた。


「…まあ、神の系列で言えば、俺は神、源一様は人間だからなぁー…

 だけど、何度も転生して、源一様は神以上の力を得ているからね。

 それに、今の源一様の仕事を俺に回されても少々困るからね。

 だけど、源一様の気持ちもわかる。

 本来なら俺たちと同じように、学生生活を謳歌していたはずなんだから。

 これも運命と言えばそれまでだけどな…」


「…怒ってばかりでごめんなさい…

 パパは、万有源一が好きなのに…」


春子は言って大いにうなだれた。


「そうだね、できれば誰に対しても悪口は言ってもらいたくないよ」


春之介は言って、春子の頭をやさしくなでた。


「もう絶対に言わないから!」と春子は陽気に言って、また味わいながら食事を再開して、幸せそうな顔を春之介と優夏に向けた。


「…きちんとパパしてるぅー…」と優夏は言って大いに眉を下げていた。


「そんなことはないさ。

 春子が素直だからそう感じただけだ」


優夏は首を横に振ったが、何も言わずに笑みを浮かべていた。


「…あのさ、多分だけど… とんでもない話してない?」と麒琉刀が大いに眉を下げて春之介に聞くと、「昨日寝てからの話をするよ」と春之介は言って、食事を摂りながら詳しい話をした。


「…神の夢見は現実…」と麒琉刀は言って目を見開いた。


「聞いていなけりゃ戸惑ってたね。

 それに、源一様が知らなパターンで俺は夢見に出ていたそうだ。

 竜を巡る夢見というか…

 竜は強い力を持っているからね。

 しかも、宇宙空間に出ても生きて行けるんだ。

 まさに万能の神だから。

 神だから生物じゃないともいえるし、

 物理的にも生物じゃなく、竜は物体、物質と言っていいんだよ。

 だけど、例外が春子のような、植物の竜の緑竜。

 だけど、修行次第では宇宙に飛び出せる。

 体にバリアを張っておけば可能だから」


「パパ、物知りぃー」と春子は陽気に言った。


「…やっぱり、竜なんだね…」と麒琉刀はって、春子に苦笑いを浮かべて見た。


「変身してもいいよ?」と春子が言うと、「…あ、今日の放課後にでも…」と麒琉刀が言うと、大勢の仲間たちが大いにクレームがあるような目をして見ていた。


「あ、修練場で修行を積む人限定でいいの?」


春子が春之介に聞くと、「その人たちはすべてを知っておいて欲しい」と春之介は胸を張って言った。


「修行の成果次第では、宇宙に出て仕事をしてもらうことになるからね。

 もちろん強制はしないよ」


「…ううん…

 自分の可能性をさらに知りたいから」


麒琉刀の力強い言葉に、春之介は笑みを浮かべてうなづいた。


「春之介が信用するほどなんだ。

 確実にとんでもない事実が多くあると感じているんだ」


麒琉刀の力強い言葉に、春之介は大いにうなづいた。


「修練場ですべて説明するよ。

 なんなら、世界中に詳細に公表しても構わないんだ。

 外来種に怯えるだけではなく、

 その現実を知っておいても問題ないし、

 探りに来る者たちを減らすことも簡単にできるから」


「ほんと、マスコミが面倒だからね…

 どんなことでもことを荒げて報道することはうなづけないよ」


麒琉刀が憤慨して言うと、「…あー…」と春子が言って、麒琉刀を見上げた。


「人間よりも、私の方がいいよ?」と春子が言うと、春之介も優夏も大いに眉を下げた。


麒琉刀は真剣な顔を春子に向けて、「すべてを知ってから判断するから」と堂々と言うと、春子は緑竜に変身した。


すると今までの比ではなく、とんでもない濃い緑の香りがこの場に充満して、ほとんどの者が眠りについた。


「…これが審査ということでいいか…」と春之介は言って、起きている者たちに笑みを向けた。


起きていられたのは、春之介、優夏、一太、麒琉刀、夏介、春菜、浩也で、尚、真奈、八郎、芽大瑠は起きてはいるがもうろうとしていた。


「予備軍もいるようで安心できたね」と春之介は言って、真奈たちに笑みを向けていた。


「…あっちの世界の人で、どれほど起きていられるのか知りたいほどです」と夏介は言って眉を下げていた。


「わかりやすくて助かった」と浩也はにやりと笑って言った。


「…田舎暮らしだったから眠らなくて済んだのかしら…」と優夏が言うと、春之介は大いに笑った。


すると、もうろうとしていた者たちはぱっちりと眼を開け、数名の者たちはその身を起こした。


「さらに予備の予備軍も確保」


春之介の言葉に、「顔と名前の記録を終えました」と春夏秋冬が言うと、「一太の仕事だったが… まあ、いいか…」と春之介は眉を下げて言ったが、一太は気にしていないようで笑みを浮かべて首を横に振った。


「…ちょっと、残念だったぁー…」と緑竜は言って真奈を見て春子に戻ってから、『パンッ!』と手を叩いた。


大勢の学生たちはぱっちりと目覚めたが、すべての状況を理解できたようでうなだれていた。


「全員を雇いたいところだけどね。

 選ばれた者たちをみんなの代表者として認めて欲しい。

 政治家よりも役に立つはずだから」


春之介の言葉に、誰もが大いに笑った。



その政治の件で、ついに八丁畷春太郎がネクストキオスタジアムに秋菜とSPたちを従えてやってきた。


春之介は帰ってきているはずだがどこにもいない。


「訓練中か…」と健太郎は言って、一部始終を春太郎に語った。


「…それは、大いに困る…」と春太郎は言ってうなだれたが、ここで春之介に意見をして得られるものは何もないどころか、縁を切られてもやむなしと思い、大いに怯えた。


「抵抗ができなくなることも思い知ったところだ。

 あんたも体験するべきだ。

 一瞬にして気持ちよくなったぞ」


健太郎が鼻で笑って言うと、「…春之介を外して、この先の日本を考える必要がある…」と春太郎は言ってから、大勢の者たちを伴って帰って行った。


「…俺はそばにいられるだけまだマシだ…」と健太郎が笑みを浮かべて言うと、権藤は笑みを浮かべてうなづいた。



その春之介たちは、とんでもない高い壁を昇っていた。


春之介が認めていた者たちは余裕でついてくるのだが、予備軍たちは苦痛に顔を歪ませている。


この地獄がいつまで続くのかと思うほど、この壁の頂上は遥か先にある。


だが救いなのは、落ちたとしても怪我をしないことだ。


よって命綱など、逆に危険になりえるもので身を守っていない。


ここは神たちがしっかりと監視をしていて、地面に激突するまでに助けてくれる。


しかし落ちるとさすがに怖いので、ここは慎重になってゆっくりと昇って行く。


さらにはこの施設にはほかにも5カ所も恐ろし気で楽しそうな場所があるので、それを走破する必要がある。


それをクリアすれば、ある程度以上に認められると聞かされて、あきらめる者は誰一人としていない。


さらには、ある程度以上に勉強もできる。


ここにいる学生の全てが、それを甘いエサとしていた。


そしてこの修練場を囲んでいる建物だが、外から見れば巨大な広告塔となっている。


さらには新しい技術を駆使して日照権の侵害が起こらない仕組みになっている。


その場所に住んでいる者たちは高い建物があるのに日が差していることを不思議そうな顔をして広告塔を眺めている。


巨大な広告面は8面あって、建物は八角柱になっている。


もちろん大手の企業も参画していて、ミラクルマンスタジアムもその一社だ。


さらには無音だがエンドレスでミキジュエリーのコマーシャルが流れている。


さすがに夜になると輝度を落として放映するが、この辺りが明るくなることで、住人たちは防犯につながるのではと、健太郎に進言していた。


エネルギー源は電気で、しかも太陽光を利用し、膨大な量のバッテリーも装備しているので、電力に困ることがなくなった。


逆に電気を売って電力会社からの収入も多く得ていた。


万有源一と春之介のおかげで、この先20年は資金的には何も困ることがなくなっていた。



源一たちは修練を終えて、全員で風呂に行った。


そして誰もが見てはいけないものを見たといった顔をしている。


「土の竜、土竜という種族で大夏と命名した。

 なんと、女子だぞ」


春之介の言葉に、土竜は恥ずかしそうに見をねじって、春之介に首をぶつけてくる。


「普段はアフリカの山の神として暮らしているけど、

 一日に一度だけここにきて風呂の火を入れてもらうことになったんだ。

 見た目怖いが、心根はかわいいから仲良くしてやって欲しい」


まさに今がその通りなので、誰もが気さくに大夏に触れる。


そして麒琉刀が触れた時、『…グロロロ…』とうなったが、「麒琉刀はダメ」と春子が言うと、大夏は大いにうなだれた。


「モテモテだな…」と春之介が冷かすと、「あははは…」と麒琉刀は笑ってごまかした。


「…隙あらば、私が旦那様にしちゃうぅー…」


春子の言葉に、真奈はすぐさま麒琉刀の腕を取った。


「男湯まで来るつもり?」


「…できればそうしたいぃー…」と真奈がかなり悔しそうに言うと、女子たちに強制的に連行された。


風呂から上がった時、誰もが清々しい気分を体験して、勉強部屋に入って大いに勉強をした。


5時間も連続で勉強できる状況が珍しく、誰もがさらに勉強好きになっていた。


そして夕食もいつも以上に食べる。


だが春之介が味の変化に気付いて、「半分ほどは、今までにないほどうまい…」と言うと、「…今日からなんだぁー…」と新参の学生たちが言って笑みを浮かべた。


そしてメイドの中に夏介がいることを春之介が発見した。


「料理もできるとはすごいね…」と春之介が言うと、春菜は大いに眉を下げていた。


「なぜか、あちらの料理長に気に入られていて…

 ボクを婿にしようと考えていたようで、

 丁重にお断りしましたが、修行はしっかりと積みました」


「まあ…

 あまりにも好かれるのも問題だよな…

 逃げ出そうと思うのは正当な理由があってこそのことだったようだ」


「…しかも、それなり以上に能力の高いお方で…

 しかも春之介様と同じく動物も持っていて、

 なんとその姿は白馬でペガサスなんですぅー…」


「翼のある馬、ってことでいいの?」と春之介が聞くと、夏介は苦笑いを浮かべてうなづいた。


「いずれは竜になる動物らしいのですが、

 今ですら竜や神を超えている能力を所持しておられるのです」


春夏秋冬がその映像を宙に浮かべると、「素敵…」と女子たちは手を組んで映像を見上げた。


そしてその人型もまさに王女のように素晴らしい魅力を持っている。


カールしている黒髪が、さらにその気品を上げているように感じる。


「源一様の信頼する第一の部下のマサカリ様のお姉さまです」


春夏秋冬の短い言葉に、春之介は大いに納得していた。


「その信頼のおける部下の一覧」と春之介が言うと、とんでもない数の人々が現れ、誰ひとりとして目が離せないほどの魅力があった。


「…それなり以上に素晴らしい人たちに囲まれているわけだ…」と春之介は感慨深く言った。


「…ライバル、いたぁー…」と高龗が言って、水竜のアリスを指さした。


「あー… 水竜は角はないんだね…」と春之介はここにきてようやく納得できた。


「万有様の第一の手下と言っていいほどその能力は高いようだな…

 まあ、その下についているナイトのマサカリという人がかなりのものだ」


「水竜部隊と魔王部隊はまさに別格で、

 王族部隊として、源一様の代わりも務められておられます」


「まさにすごい人たちだ。

 だからこそ、万有様はちょくちょくここに来られる時間があるわけだ」


「あはは… そうですぅー…」と春夏秋冬は眉を下げて言った。


「今は教師として授業中ですが、

 今すぐにここにきてて、手下自慢をしたいようですぅー…」


春夏秋冬の言葉に、春之介は大いに笑った。


「…俺も、手下自慢がしてみたいものだな…」と春之介が言うと、暫定で手下の学生たちは大いに眉を下げていた。


大人たちも修練に参加していたのだが、さすがに春之介たちについてこられる者はひとりとしていなかった。


だが、体を大切にしようと誰もが感じていたので、収穫がないわけではなかった。


「…気功術は魅力的だなぁー…」と麒琉刀が映像を見上げて言うと、「最低でもそれは手に入れたいものです」と一太が同意して言った。


「あっ あっ」と天照大神は妙に慌てたように言って、麒琉刀、一太、そして春之介を見ている。


「邪魔しちゃダメだぞ」と春之介が言うと、「…はいぃー…」と天照大神は何とか答えてうなだれた。


「天照は気功術を使えるようにできるそうだ」


春之介の甘い言葉に、「…邪魔じゃないけど、使えるようになってもうれしくなさそう…」と麒琉刀が常識的見解を述べると、「…やっぱりぃー…」と天照はうなだれたままつぶやいた。


「誰かにかければ疑似体験はできる」と春之介は言って、麒琉刀の肩を掴むと、春之介と同じ身長になったので、大いに喜んでいたが、5秒ほどで元に戻ったので、大いにうなだれていた。


「逆に体を小さくして修練を積む方が、

 何かと成長は早いかもしれないな…

 子供返りの術とかないかなぁー…」


「…誰かにかけたら戻れないぃー…」と天照大神は大いに嘆いて、子犬のシュタインリッヒを見た。


「それですが、実はないものねだりのようなものなんです…」と夏介が眉を下げて言った。


「それができるようになった時は、

 最高級の能力開花をした時、とか?」


春之介の言葉に、「はい、大正解です…」と夏介は眉を下げて言った。


「かなり高等な術のようだね…

 やはり、体を小さくして大いに鍛え上げるか、

 逆に最大限に大きくして重力に耐える、とか…」


「…春之介様はやはり厳しいですぅー…」と夏介がさらに眉を下げていうと、仲間たちは大いに怯えていた。


「怪我をしない程度で、まずは俺自身が試してみるさ」と春之介は言って、陽気に食事を摂り始めた。



そして夕食後の自主訓練の時に、春之介はいろいろと試して体育館で巨大化して自分の体重と大いに戦っている。


歩くだけでも重労働で、異様に体が重いのだ。


「巨人族の身長がそれくらいあります!」と夏介が叫ぶと、「あー、そうなんだぁー…」と春之介は大いに野太い声で言って、屈伸運動を始めた。


「だけどこれは、外でやるべきだった」と春之介は言って、体を元の大きさに戻して、「軽くなったっ!」と大いに喜んで飛び跳ねている。


「走ると、床が抜けますからね…」


夏介の常識的な言葉に、誰もが大いに苦笑いを浮かべていた。


「修練場に行くか…」と春之介が言うと、手下候補たちは春之介に便乗するようですぐさま寄り添った。


「あ、ついでに…

 あ、ありがとう」


春之介の言葉に、仲間たちは大いに目を見開いた。


春之介が礼を言ったのは魂たちで、春之介の手にはとんでもない量のアンケート用紙が握られていた。


「反響があって何よりだ」と春之介は言ってペラペラとめくり始め、「メタモルメイドは販売決定だ」と笑みを浮かべて言った。


「さっそくそれも創るか…

 あ、そうだ、商品コードが必要だな…」


「架空の工房を既に登録してありますので、

 商品コードの心配は何もございません」


一太の言葉に、「うん、ありがとう」と言って、春之介は一太からそのコードを受け取って説明を受けた。


「八草ものづくり工房…」と春之介は言って少し笑った。


「…八丁畷に浅草… ってことでよさそうね…」と優夏が眉を下げて言った。


「比較的平等ですので」と一太は言って笑みを浮かべた。


「苦情は受け付けないからこれで構わない」


春之介は陽気に言って、仲間たちを引き連れて修練場に飛んだ。



天照たちはとんでもない量の落ち葉の上で飛び跳ねて遊んでいる。


落ち葉が腐って熱が出ないように処理を施しているので、火災に注意する必要はない。


春之介はまずはアンケートを素早く読んで、素早く集計した。


そして、そのアンケートの備考欄にある、パティー、真由夏、優夏人形の希望がかなりあったので、まずはすべての許可を取ることにした。


もちろん、肖像権というものがあるので、販売する場合はそれなりの手続きが必要だ。


しかし、マイティーカウル所属のタレントであれば使っても構わないと秋菜からすぐさま連絡があった。


そして優夏も快く承諾したので、初回として千セットの着せ替え人形セットを創り上げた。


「楽勝楽勝…」と春之介は鼻歌交じりに陽気に言って、抜き打ちで検査をして問題がないことを確認した。


すると秋之介が、メイドの中の最年長者で、着飾っている佐東穂波を連れてきた。


もちろん、取材班としてカメラマンなどもいる。


「あ、丁度良かった」と春之介が言って、人形の箱の山に指をさした。


穂波は上機嫌で自分の人形の箱を取って、「正規の商品でしょうかっ?!」と大いに高揚感を上げて言った。


「社長の承認は終わってるから」と春之介が言うと、「…もう、インタビューはいいですぅー…」と穂波は言って箱を抱きしめて泣いた。


「その宣伝に来たんじゃないの?」と春之介が聞くと、「…アンケートが気になったというお便りがたくさん来ましたぁー…」と号泣しながらも何とか答えた。


「初回限定で千個創ったから。

 今回は不公平かもしれないけど、

 ネクストキオスタジアムだけで販売するからね。

 そして販売には条件がある。

 十五才以下の女子に限らせてもらうから。

 そして購入できるのはひとりひとつだけ。

 本人確認をさせてもらうからごまかせないからね。

 一度でもミラクルマンサイトにアクセスしてくれた人にはその情報を送ったから、

 購入する時に今送った画像を見せて欲しいんだ」


「少々厳しい取り決めがありますので、間違えないでね」とここはインタビュアーとして復活した穂波が穏やかに言った。


「販売期間は明日だけ。

 また日を変えて発売するので、

 手に入れ損ねることはないからね!」


「…なんだか、ながぁーく販売しようっていう、

 商業戦略が見え隠れしていますぅー…」


まさに穂波の大人の考えに、「今回は商売でもあるから」と春之介は言って笑みを浮かべた。


「そして売り上げ金額の半分は、

 基本的には全国の児童保護施設に寄付をするから。

 今回の大きな目的はこの件が一番だから、

 できれば売り切れる勢いで買ってね!」


春之介は大いに陽気に宣伝した。


「さらに、面白いことができるんだよね…」と春之介が言うと、カメラマンだけはもうわかっていた。


「みんなには、穂波さんが抱きしめている、

 着せ替え人形の箱が見えていないはずだよ」


春之介の言葉に、「えっ えっ」と穂波は言って、目の前にある箱を見入った。


「…映ってないの…」とカメラマンの真奈美が小声で言うと、「…えー…」と穂波は大いに嘆いた。


「カメラには映らないので、インターネット上での転売はできないから。

 もちろん、オークションにもかけられないことになるからね。

 だまされて高いものを買っちゃダメだよ!

 しばらくはネクストキオスタジアムだけで販売するからね!」


「…神の力の使いどころを間違っているような気もしますが、

 転売は犯罪となりますので注意してくださいね。

 箱にきちんと書かれてありますけど、

 映像に映っていないのでお見せできないことが残念です…」


「そろそろ祝日も明けると思うから、お父さんとお母さんにおねだりしよう!」


春之介が陽気に言うと、誰もが大いに眉を下げていた。


もちろん、明日に品切れになることはない。


売れ行きがいいものから順に量産することは決めていたからだ。


明日は土曜日なので、確実に売れることを見込んでいたのだ。



「さて、ここで大問題がひとつある」


春之介の言葉と感情に、その意味が分からない者は、ここにはひとりとしていなかった。


「購入する意思があるのに来られない子供たちだ。

 そういった子にはまた別のメールを送ったので、

 購入意思があることと、

 どの人形が欲しいのかを記入して送り返して欲しいんだ」


春之介が指をさすと、今にも踊り出しそうなメタモルメイドプラスアルファーの人形たちがステージに立っている。


「希望者には配達に行くから。

 何も心配しなくていいんだ」


春之介はまさに生きる希望を子供たちに与えたことになる。


「あ、早いね、もう返ってきたね…

 八丁畷優夏に一票」


春之介の言葉に、「公表しないでぇ―――!!!」と穂波が大いに嘆いた。


「会員ネーム保奈美ちゃん、明日の朝に配達に行くからね」


「…偶然でしょうか、同じホナミ…」と穂波は言って感動していて、「サービスで私のお人形も付けたぁーい!!」と穂波は大いに叫んだ。


「映像で見るのと実際に見るのとでは

 イメージが違うかもしれないからキャンセルもありだから。

 だけど…」


春之介が今度は天照大神たちに指をさすと、カメラはすぐさま着せ代え遊びをしている映像を撮った。


「ある意味、必死になって遊んでるよね!」と春之介は叫んで大いに笑った。


「きっと、みんな気に入ってもらえると思ってるから。

 お父さんやお母さんたちと相談してね!」


「…ミラクルマンがすっごく商売人のような気がしてきましたぁー…」


穂波が嘆くように言うと、「残暑厳しい真夏のサンタが現れるかも」という春之介の言葉に、穂波は笑みを浮かべていた。


「…プレゼントをもらえる子もいるんですね…」と穂波が感動して言うと、「さあ、それはどうかなぁー…」と春之介は大いにはぐらかした。


もちろん、児童保護施設には無条件ですべてをセットにして寄付することは決めていた。


これで、希望者の子供たちのほとんどが人形を手にできるはずなのだ。


あとは金銭的な問題なので、親に頑張ってもらうしかない。



「そして今回も気になるお便りがありましたので読みます…

 …ネクストキオ球団は、遠征には出ないのですか?」


穂波の言葉に、春之介は大いにうなづいた。


「申し訳ないけど、今は遠征に出られないんだ。

 だけど、いろんな場所で大規模な工事が始まったら

 期待してもらっていい。

 ネクストキオスタジアムの支店を建てる準備もあるから」


春之介の言葉に、「…とんでもないお坊ちゃまだから言える言葉ですぅー…」と穂波は大いに嘆いた。


「あ、俺の小遣いって月五千円だから。

 それほど金持ちじゃないよ」


「…高校一年生にしては、少々お安いように感じましたぁー…」


穂波は大いに同情してコメントした。


「だからここは大人に頑張ってもらうから。

 もちろん、試合が中止にはならないドーム球場を建てるし、

 ショッピングモールも併設するから、

 比較的便利そうな場所で、比較的田舎の場所になると思うよ。

 できればたくさんの子供たちに、

 俺たちの試合を観てもらいたいからね。

 それにスタジアムを建てるということは、

 一年や二年だけじゃない。

 体が動く限り、長い時間をかけて全国をじっくりと回るから。

 みんなが大人になって子供が生まれた時、

 子供たちと一緒に楽しんで欲しいから」


「…ミラクルマンはまさにミラクルなことをおっしゃいました…

 ですがここには真実しかありません。

 ミラクルマンは必ずみんなの期待に応えてくれると、

 私は信じています!」


穂波の熱く力強い言葉で、番組は終了した。


「…土地ってあるんですかぁー…」と穂波が聞くと、春之介は笑みを浮かべて、「必要としない国有地がわんさかと出てくるから」と陽気に言った。


「…あー… まさに今が、その選定期間中…」と穂波はその土地の目途がついたと納得してうなづいた。


「なんなら、空飛ぶ球場でもいいんだ」と春之介が陽気に言うと、誰もが目を白黒とさせていた。


「そうだなぁー… それが一番現実的だなぁー…」と春之介は笑みを浮かべて思案気に言ったが、―― それが一番非現実的だ… ―― と誰もが考えていた。


「試合中に、日本国中を巡るとか…

 旅行をしたことがない子供たちには受けそうだな…」


「創って浮かべちゃう!」と天照大神が陽気言うと、「呼んだよなっ!!」とここで源一が夏介から飛び出して言った。


「はは… 少し前にお会いしたいとは思ってました…」と春之介は大いに苦笑いを浮かべて言った。


「操るのは神で構わない。

 だが維持するには目を離せなくなるから大変だ。

 だから、地力で浮かせる」


「…ひょっとして、空飛ぶ円盤の大きいヤツってことでいいんですか?」


「この宇宙にはな、様々な浮遊島があるんだぞ」


源一は機嫌よく言って、その一覧の映像を宙に浮かべた。


さらにその機能や仕様を説明すると春之介が、「神、集合!」と叫ぶと、春之介の周りが神と巫女だらけになった。


源一も大いに機嫌よく笑みを浮かべてうなづいて、「おっ もうできた」というと、「…えー…」と誰もが言ってあっけにとられていた。


「インゴレッドスタジアムのそっくりさんだよ。

 今回はかなり頑張らせてもらって、

 電源設備も入れ込んで、

 今すぐにでも使えるから」


春之介の言葉に、神たちは胸を張って笑みを浮かべて春之介を見上げていた。


「…宇宙船も創っちゃうぅー…」と天照大神が言うと、「はは、もうできるよな…」と源一は大いに苦笑いを浮かべて言った。


「じゃ、まだまだ暑いから、

 次の試合は北海道で。

 問題は、このネクストキオスタジアムだよなぁー…

 もういらないほどだ」


―― お坊ちゃまの冷酷さが出たぁー… ―― と誰もが考えていた。


「じゃ、就寝前に見学に行こうか。

 空を飛んで行くぞ」


春之介の陽気な言葉に、誰もが大いに眉を下げていた。



全員で外に出ると、暗闇があるばかりで何もない。


しかし、上空から圧迫感を感じる。


すると、いきなり空が明るくなり、『天照大神スタジアム』という文字が浮かび上がり、宙に浮かんだ球場が浮き出てきた。


「さあ、行こう行こう!」と春之介が陽気言って、この場にいる全員を強制的に宙に浮かべて、開け放たれたスタジアムの天井から降りてグランドに立った。


スタジアムから確認できる夜景などが、広告塔やバックスクリーンに表示されている。


誰もがその映像を観て苦笑いを浮かべていた。


「普段は、千葉の東の端の海の上にでも浮かべておくか…

 邪魔にならない場所もあるだろう。

 観光名所になったりして…」


「…うふふ… いくらでもあるよ!」と天照大神は言って、この浮き島を移動させた。


「はい、到着ぅー…」と天照大神がすぐさま言ったので、全員で広告塔を見入って、「ほぼ真っ暗…」と大いに苦笑いを浮かべてつぶやいた。


すると、春之介のスマートフォンが鳴った。


画面を見ると、当然のように、発信元は春太郎だ。


「空飛ぶ球場が手に入ったよ!」


春之介が陽気に叫ぶと、春太郎は何も言えなかった。


「空き地になる土地の使い道は好きにしていいから、

 じゃ、切るよ」


春之介は春太郎の言葉を聞くことなく電話を切った。


球場タクシーでネクストキオ球場まで飛んで、今度は神たちが蛇腹の透明な軌道エレベーターを創り、球場同士をつないだ。


まさに誰もが地上に落下する勢いでネクストキオスタジアムのグランドに立った。


空飛ぶ球場は東に飛んで、今は海の上にある。


「…今回もそれほど出番がなかった…」と源一は言って苦笑い浮かべて春之介に挨拶だけをして消えた。


すると健太郎がすぐさまやってきたので、事情説明をすると、大いに苦笑いを浮かべていた。


「説明は文字だけで。

 詳細は明日でいいだろう。

 予定の変更もあるし。

 明日も早いからもう寝るよ」


春之介たちはいつものようにそれぞれの部屋に張って就寝した。



翌朝はまずは昨夜の言葉通り、買いに来られない子供たちのために、訪問販売をした。


もちろん誰もが春之介を引き留めるが、「君のような子がたくさん待っている」と言われてしまうと引き留めることはさすがにできない。


もちろん、駄々をこねる子もいたが、ここは親が厳しく教育して、春之介に苦笑いを向ける。


―― うちの子だけかも… ―― などと思っているようだ。


200通以上送って、ほぼすべてで何らかの反応があった。


よって、反応がなかった子供たちの訪問をすると、全員が死の淵にいた。


「これも何かの縁だから。

 俺が願い事をしたい」


春之介の言葉に、高龗がすぐさま反応して、子供たちに生きる希望を与えた。



今日の試合はネクストキオスタジアムで行うが、日曜は天照大神スタジアムを使うと春之介は公表した。


そして遠征場所は北海道の札幌市だ。


すぐさま北海道知事、札幌市長とコンタクトを取り、快い回答を得られた。


まさに大いにいい話題になることは確実なので、両手を広げて迎え入れるだけだ。


もちろん、イベントなどと低姿勢で言ってきたが、許可さえあればそれでいいことなので、それは丁重に断ったし、明日のことなので準備をする時間がないので渋々断念した。


もちろん地元の警察にも、イベント報告を行うと大いに驚かれたが、管理する場所は広大な公園の敷地内だけなので、それほど面倒ではなかった。


そして肝心の人形の売り上げだが、優夏人形がもう底を突きかけていたので、千個創り上げて補充した。


子供たちにとって、優夏が一番のアイドルだったことを誰もが思い知っていた。


試合の方はNBLの混成軍で、簡単に撃破してから紅白戦を行って大いに盛り上がった。


まさに充実した一日を終えて、春之介たちは就寝した。



「…俺、まだ学生なんだけど…」と九州九之助が大いに眉を下げて言った。


その後ろには、春之介たちの先輩が眉を下げて立っている。


今は天照大神スタジアムに誘われ、会議室で春之介の計画を聞いている。


「バイトだからそんなに緊張しなくていいよ」と春之介は気さくだ。


「…みんなはいいけど、俺は社長じゃないかぁー…」と九之助が嘆くと、仲間たちは大いに同情した。


「それなりに、名前に威厳がある九之助兄ちゃんしかいなかったんだよ。

 警備はうちの学校の柔道部と空手部に頼んだから、

 現金だけを管理してくれたらいいだけだから。

 もちろん、神が見てるけどね」


春之介の言葉に、「悪い人、いないよ?」と天照大神はかわいらしく小首をかしげて言った。


九之助たち大学生は、大いに苦笑いを浮かべていた。


「卒業後に就職したと仮定して、普通に働いてくれたらいいだけだから」


「少年少女たちよ。

 ここは腹をくくれ」


流暢な日本語を操る顧問弁護士のマッド・ドルエンは大いに苦笑いを浮かべて言った。


マッドは日本に来てすぐさま、天照大神たちにさらわれるようにしてここに来たのだ。


マッドの子供たちは、特にツクヨミと仲良く話をしていた。


そしてツクヨミがエジプトを呼ぶと、「神様!」と叫んで崇め始めた。


「…はは… 私も神様なんだけどぉー…」とツクヨミは大いに苦笑いを浮かべていた。



公にはしていなかったが、天照大神スタジアムの件がテレビで報道され始め、かなりの騒ぎになっていた。


どこからどう見ても巨大な宇宙船でしかなかったからだ。


隠形することもできるのだが、あえてそれはせず、今も千葉県の東の海の上に浮かんでいる。


対岸と空から報道のカメラが大いに狙って中継している。


もちろん野次馬も大勢集まっていて完全に過疎の進んでいた町が一気に蘇った。


町人などはこのスタジアムを拝むほどだった。


『あ、動かすから! ごめんね!』


春之介の明るい声がこだまして、スタジアムは上昇を始め、安全確認をするように停船してから消えた。


誰もが夢でも見ていたのかと思うほど目を見開いていた。


そしてスタジアムはもうすでに札幌市の広大な公園の上空に停船している。


地上ではロープが引かれていて、大勢の入場客が待っている。


その先には入場ゲートがあり、ここで料金を払って進むシステムになっている。


入場ゲートに向けて数多くの軌道エレベーターが下りてくると、大いにどよめいた。


スタジアムは浮かんだまま客を収容すると誰もが今知った。


『子供優先だと言っておいたけど、

 それを破っている人が大勢いるよね。

 だから制裁を加えるから特に問題ないから』


春之介の声が聞こえると、大勢の大人が宙に浮いて、公園の出口まで飛ばされた。


『この程度の取り決めが守れないから人間はダメなんだ。

 十分に余裕ができたから、子供たちは前に詰めて!』


料金を払っていないので全く問題のないことだ。


取り決めを守らないと手ひどいことになると子供たちは大いに知ったことになる。


『球場に入ったら混雑しないようにいろんな場所に出るから、

 保護者の人たちとはぐれないように場内では走らないように』


「はいっ! ミラクルマンッ!!」という子供たちの素直な返事に、この辺りには素晴らしい空気が流れていた。


『だけどね、迷子になっても大丈夫だ。

 さっきの大人のように宙に浮かべて、

 保護者の人を探すから』


春之介のアナウンスに子供たちはさすがに恥ずかしいと思ったようで、大いに苦笑いを浮かべていた。


入場は穏やかに始まって、大勢の人たちがスタジアムに吸い込まれた。


そして場内ではメイドの売り子が大勢現れて、「お人形買いませんかぁー!」と大いに叫んでいる。


まさかの展開に子供たちは驚いていたが、そのメイドたちの姿にも驚いている。


まるでラウンドガールのように、大きな看板を掲げているだけで、人形は持っていない。


興味を持った女の子が聞くと、メイドは丁寧に説明した。


そして言われた通り欲しい人形の絵に触れると、着せ替え人形の箱が現れた。


だがカネを払わないと箱は手に取れなくなっているので、ここは親が渋々払うことになる。


まだ練習も始まっていないので、丁度いい暇つぶしでもある。


暇つぶしはまだあり、男女ともに人気のある短編アニメ映画の放映が始まった。


映画が終わったと同時に、数球団の混成軍のプロ選手たちが練習を始めた。


知っている選手もいるようで、大いに叫んでいる。


しかし、今のところはスタンドは比較的静かだ。


だが、混成軍の練習が終わってベンチに引き上げ始めると、地鳴りのような声援が飛び始めると、春之介たちがグランドに飛び出してきた。


「ミラクルマァ―――ンッ!!」


春之介たちにとってまさに新鮮だった。


春之介たちに初めて会った子がほとんどだったので、その声援の質が違う。


『紅白戦の方がいいんじゃねえの?』


優夏の言葉に、会場内は拍手で大いに沸いた。


『相手を怒らせるようなことを言うんじゃない!

 さっさと投げろ!』


まるで夫婦漫才のような優夏と春之介のやり取りに、子供たちは大いに沸きあがって大いに拍手をした。


『みんなもマイクつけられたんだから、率先して話せよ!』


春之介の言葉に、スタンドからは大いに拍手が飛んできた。


『尊ぅ―――っ! 見てるかぁ―――っ!!』と柳川が第一声を上げて両手を振った。


『あれ? まさか来てるの?

 浮かべようか?』


春之介の言葉に誰もが拍手をしたが、『やめてやってくれ…』と柳川は大人しく言って春之介に頭を下げた。


「パパァ―――ッ! がんばれぇ―――っ!」という渾身の叫び声が聞こえたので、『あ、いたいた!』と春之介は陽気に言って、『お父さんが先発に変更になったから!』と春之介が叫ぶと、柳川はさらに大人しくなったが、スタンドからは温かい拍手が沸き上がった。


『くっそっ!

 俺はライトかっ?!』


優夏が叫ぶと、ライトスタンドが大いに沸きあがったので、優夏はすぐさま両腕を振り上げて機嫌は直っていた。


『火の出るようなバックホームを期待してるから』


『その前に飛んでこねえだろうがぁー…』


優夏はまた挑発したが、春之介は指摘しなかった。


混成軍のベンチは、もうすでに燃え上がっていた。



『ネクストキオ軍、新規メンバーのご案内をいたします。

 期待の新星、春野夏介君』


アナウンスがあると春之介がセンターに大飛球を放った。


夏介はボールを追い、超人的なジャンプ力でボールを掴むと、スタンドは大いに沸きあがった。


『走攻守、それに加えてイケメンの春野夏介君15才です。

 ですが、お付き合い中の女性がいますので注意してください!』


『絶対に渡さねえ!』と春菜が叫ぶと、今度は祝福の拍手が沸き上がっていたので、春菜はぺこぺこと頭を下げていた。



まずは混成軍が守備につき、一番バッターの春之介を緊張の面持ちで迎えた。


今日は一軍半が多いので、かなり手ごたえがあるだろうと春之介は期待していたが、甘い低めが来たので、簡単にスタンドに放り込んだ。


やはりネクストキオ打線はとどまることを知らない。


ひとつのアウトを取ることなく、投手が交代した。


結局は一時間持つことはなく、試合放棄でネクストキオ軍が勝利した。


そしてすぐさま紅白戦が始まると、スタンドは大いに沸きあがっていた。


「出番が消えたと思ったぁー…」と柳川はほっと胸をなでおろして、春之介とキャッチボールを始めた。


「いつものようにアウトにならなかったからだよ」


春之介の言葉に、「…あ、打者として出番はあったんだ…」と柳川は今更ながらに言って苦笑いを浮かべていた。


「だが、今度はアウトにならざるを得んな…」


柳川は絶好調の優夏をにらみつけた。


「夏介はこっちに欲しかったぁー…」と春之介が大いに嘆いた。


「ハンデハンデ」と柳川は陽気に言ってボールを投げた。


「今日は男しかいないから聞くが、

 女どもの月のものはどうなってんだ?」


常盤が聞くと、「意識的に止められるそうだよ」と春之介がなんでもないことのように答えると、「…弱点なしかぁー…」と柳川が大いにうなった。


「優夏は自慢気に言ってたよ。

 ほかの女子はさすがに聞いてない」


それは当然だろうと思い、大人たちは大いにうなづいていた。


「だからね、誰かが月のもの中…」


春之介の言葉に、「…それで優夏が三人とも連れて行ったか…」と片山は納得して言った。


「先発でわかったよ。

 尚だろうね」


大人たちは誰もが納得していた。


「体調不良で休んでもいいだろうに…」と桐谷が眉を下げて言うと、「そこは春菜が許さないようなんだ」と春之介も眉を下げて言った。


「根性で止めろって?」と常盤も眉を下げて言うと、「優夏を見習え、ってさ…」と春之介はあきれたように言った。


「…これが神が言っていた女性の進化系の第一歩か…」と柳川は燃えるような目を優夏チームのベンチに向けた。


「優夏の場合は病気になる兆候はないそうだよ。

 神たちがきちんと健康診断をしてくれているからね。

 その点は安心だから」


「妻自慢はいい。

 勝つための作戦」


常盤の言葉に、「そんなものあるわけないじゃないですか」と春之介はさも当然のように言った。


「鍛え方を間違っていない方が勝つ」という神人の言葉に、誰もが大いに眉を下げていた。


「180キロであろうが200キロであろうが俺は打ちますから」


春之介の自信満々の言葉に、「…ひとりだけ特訓しやがってぇー…」と柳川が悔しそうに言うと、「それを知って訓練して結果が出せなかったら落ち込みますよ?」という春之介の言葉に、大人たちは二の句を告げられなかった。


春之介は投球練習中の優夏を見ている。


調子が悪いわけではないはずだが、スピードが出ていない。


さらに球が走っていないわけではない。


「早速演技を始めましたね」


春之介の言葉に、「…調子が悪いわけじゃない…」と片山が嘆くように言った。


「とんでもない球を投げてきそうですね」と春之介は言って、バットを持ってベンチを出た。



主審の右手が上がり、「プレイッ!!」と言った途端に、優夏は今までよりも一段上のダイナミックなフォームで右足を上げた。


春之介は投げ込んでくるボールの軌道を先読みしてボールが手を離れる前にバットを振っていた。


『ゴォ―――ンッ!!!』


優夏の春菜も目を見開いた。


絶対に打てるはずがない優夏の渾身のボールを春之介は難なく弾き飛ばし、バックスクリーンまで運んだのだ。


「えー…」と子供たちは声援を送るよりも、今のプレイが見えていなかった。


そしてスコアボードの下部に、『初速230 終速210』の表示を見て目を見開いた。


そしてスローモーションのリプレイが始まってから、ようやく、「ミラクルマァ―――ンッ!!!」と誰もが大いに叫んだ。


春之介は三塁ベースを踏んでガッツポーズをとって大声援に応えた。



優夏は空を仰いで、「…さすが俺の夫…」とつぶやいたが、「…ちくしょ―――っ!!!」と大いに叫んでグラブをマウンドに叩きつけた。


ベンチの半数は春之介を笑顔で出迎えたが、あとの半分はただただぼう然としていた。


常盤たちベテラン組は、―― このチームにいてもいいのか… ―― とずっと考えていた。


「初めて弱みを見せたぞ!

 一太、続け!!」


「おうっ!!!」


一太は大いに気合を入れて叫び、右バッターボックスに立った。


優夏は頭に血が上りすぎていて、春菜のサインがよく見えていなかった。


そして一球目のように大きなフォームで振りかぶったつもりだが、体が縮こまっていた。


『カァ―――ンッ!!!』という子気味いい音でようやく目が覚め、「しまったぁ―――っ

!!!」と叫んで、レフトへの大飛球を見送った。


「高山ぁ―――っ!!」「一太ぁ―――っ!!」という大声援に、一太はすぐさまガッツポーズをとって大声援に答えるように右手を振り上げた。


一太がホームを踏んだことを確認してから、「タイム」と春菜が主審に言って、マウンドに走った。


「ごめん…

 プレーを止めるべきだった…」


春菜はすぐさま謝った。


「…いや、大いに思い知った…

 …今の一太の一点はかなり痛い…

 だが、あとは何としても抑える!

 自信をもってサインを出してくれ!」


春菜は笑みを浮かべて軽くミットを上げて戻って行った。


「立ち直ったから、手に負えなくなった…」


春之介のかなり呆れ切った言葉に、常盤は大いに眉を下げて、バットを持ってバッターボックスに歩いて行った。


優夏は後続の三人をすべて三振に打ち取って、胸を張ってベンチに戻った。


「…あの、負けず嫌いやろうめぇー…」と優夏がうなると、誰もが怯えていた。


「一度のアウトを何倍にもして返してくるのね…」と真奈が眉を下げて言った。


「投げる前に振ってました!」と今回試合に招待されていた春香が言うと、「…マジか…」と優夏は言ってから、「あ、俺の打席だ!」と叫んでからすぐさまバットを持って走って行った。


ここは本気で打ちとろうと、春之介も大いに気合が入っていた。


柳川は嫌な予感がして先発を春之介に譲っていた。


春之介としては願ったり叶ったりだったので、ここは優夏と勝負することにした。


そして一太の第一球目のサインは、なんとサラマンダーだった。


春之介は躊躇なく大きく振りかぶった。


優夏は初球は見ることにしていたが、いつでもバットを振れる準備はしている。


ボールは春之介の手から放たれ、大きな円を描いてボールが迫ってくる。


―― 振るなっ!! ―― と考えたが、体はもうすでにスイングをする体制に入っていた。


―― 振り切れっ!! ―― と優夏はまさに円軌道をしているボールを上段から振り下ろし、地面に叩きつけるようにバットを振ると、『キィ―――ンッ!!!』という大いに手ごたえがある音がして、スコアボートの上部の天井まで飛んで行ったことに、打った優夏が一番驚いていた。


「優夏ちゃん! すごいすごい!!!」という大声援で、優夏はようやく目が覚め、「打ったぞぉ―――っ!!!」と大いに叫んで、大声援に答えながらダイヤモンドを回った。


―― 偶然にやられちまったか… ―― と春之介は考え、大いに苦笑いを浮かべていた。


一太が優夏がホームを踏んだことを確認してからタイムをかけ、春之介に走り寄った。


「ツキが大いにあるようだ」と春之介は苦笑いを浮かべて言った。


「本当に思い切りはいいですね…」と一太は言ってほっとしていた。


春之介に打たれたショックはまるでなかった。


今のこの状況を大いに楽しんでいることがよくわかった。


「残りはすべて速球で構いませんので」


一太は言ってから戻った。


春之介は三人をすべて三振にして走ってベンチに戻った。


優夏はマウンドは譲らず投げ続け、春之介は二回からはマウンドを柳川に譲ったがセンターの守備についた。


特に外野席にいる子供たちはまさに得した気分で春之介を見入って、そのプレーに感動した。


そして三回のワンアウトで、また春之介が打席に立った。


春之介は第一打席と同じで落ち着いているが、優夏は、―― 次は打たせん!! ―― と大いに気合が入っている。


そして優夏はプレートを外して一度だけフォームの確認をして納得してからプレートを踏んだ。


春菜のサインは三球とも決まっていた。


ミットを二度叩き、大きく広げただけでサインを出さなかった。


優夏に好きなボールを投げてこいと言ったにも等しい。


優夏は目を吊り上げたまま大きく胸をそらして振りかぶり、足を天高く上げて腕をスムーズに振った。


『ドォ―――ンッ!!!』ととんでもない音がキャッチャーミットから聞こえた。


「ットライィ―――ッ!!!」と審判のジャッジにも気合が入っている。


春之介は真剣な表情から笑みを浮かべた。


もちろん春菜は見逃していないが、次もサインは出さない。


―― 振らなくて正解だった… ―― と春之介は思い、スコアボードのスピード表示を見た。


『初速233 終速220』


振っていたら確実に振り遅れていたと感じたのだ。


次も同じ球を投げてくると思い、春之介は空振り覚悟でボールの上を叩くことだけに集中した。


やはり次の球も同じ軌道だと春之介は悟り、渾身の力を込めバットを振った。


『ギンッ!!!』と短いが大きな金属音とともに、ボールはホームベース当たり、『ボンッ!!!』という破裂音ともに大きく跳ね上がると、春之介は猛ダッシュで一塁に向かった。


「何だとぉ―――っ!!!」と優夏は大いに慌てた。


ボールが、とんでもない高さまで上がっているのだ。


このままでは何もできないままホームインされてしまう。


スタンドからは、まるでホームランを打ったような大声援が聞こえる。


優夏が春之介を見ると、もう三塁に向かって走っている。


ボールは今ようやく落ちかけている。


このままではクロスプレイになることなくホームインを許してしまう。


優夏はこの一瞬、意識が飛んでいて、ボールを掴んだ時に意識を取り戻して、春菜に向けて渾身のボールを投げた。


まさにクロスプレイは必至だが、春之介は頭から滑り込んで、左手でベースにタッチした。


一瞬遅れて春菜のミットがホームベースをタッチして、「セーフ!!! ホームインッ!!!」という主審の非情の叫びを聞いて、春菜は大いに悔しがった。


優夏は今地面に足をつけて、「とんでもねえことすんな!!」と大いに悪態をついたが、春之介はスタンドに向けて両手の指をこれ見よがしに差していた。


声援が消えていて、誰もが目を見開いて優夏を見ていたのだ。


優夏はその意味が分からずに、注目されていることだけはわかったので、ここはアイドルダンスを披露すると、「妖精さぁ―――ん!!!」と誰もが陽気に叫んで拍手をした。


一方の春之介は優夏が少々滑稽に見えたので腹を抱えて笑っていた。


優夏には妖精の意味が分からなかったが、不思議と悔しさは沸いていなかった。


今のプレイに後悔はないからだ。


優夏は陽気に踊りながらマウンドに戻った。


一太は大いに苦笑いを浮かべて打席に立った。


さすがの一太でも、とんでもなく伸びてくる見えないボールを打つことはできずに、三球三振となった。


もちろん常盤も扇風機のようにバットを三回振って、大いにうなだれてサードの守備についた。


『4回表の紅組の攻撃が最後になります!』と非情のアナウンスがスタジアム内に響いたが、子供たちは大いに沸きあがって、「妖精さぁーん!!!」と「ミラクルマァーン!!!」の大声援を送っている。


今日二回目の優夏の打席だ。


「妖精様ぁー…」と春香は祈るようなポーズを優夏に向けていて満面の笑みを向けていた。


優夏は意味が分からず笑みだけを返して、バットを持って打席に向かって走った。


そしてダンスを踊りながら陽気にバットを振って、スタンドを大いに陽気にさせていた。


優夏はいつものようなダイナミックなフォームは見せずに、クネクネダンスを踊っている。


しかし春之介は真剣そのものだ。


どこに投げても打たれることは確実と思い、ここは思い切った作戦に出ることにした。


今回初めて、春之介からサインを出した。


一太は大いに驚いたが、すぐさまミットを構えた。


春之介はいつもと変わらずダイナミックなフォームからチェンジアップを投げた。


優夏はもう見破ていて、まだ踊りながらボールにだけ集中して、『キィ―――ンッ!!!』という子気味いい音を聞いた後すぐに、『バシィ―――ッ!!!』という、とんでもない捕球を音を聞いた。


打球の勢いは確実にホームランだったはずなのに、目と鼻の先に春之介が上を向いて倒れている。


「…うっはぁー… 怖ええー…」と春之介は言って起き上がって、グラブに入っているボールを優夏に見せた。


「…ア… アウッ!!」という主審の非情のジャッジに、「…普通に打っちゃ、ダメだったのねぇ~♪」と陽気に歌って踊りながらベンチに戻った。


スタンドからは大声援が飛んでいて、今の対決を大いに賞賛した。


春之介の手には問題はなかったが、ここはマウンドを常盤に譲ってベンチに戻った。


さらに自己診断して手に異常はなかったが、大いに赤くなっていた。


すぐにアイシングをして、「あー、痛かったぁー…」と言って穏やかな笑みを浮かべた。


「怖ええことしてんじゃあねえ…」と三条は大いに眉を下げて言った。


「スタンドに入る前に取っただけだから」と春之介は陽気に言って、ベンチの最前列に立って仲間たちのプレイを賞賛した。



第一回目の遠征は大成功を収めて、天照大神スタジアムを今回の対戦相手の宿舎に飛ばして送り届けてから、太平洋の海の上に戻ってきた。


「…なんだか、ずっと夢を見てる気分…」と優夏は笑みを浮かべて言った。


「…まあ… 反則勝ちでもよかったんだけどな…」と春之介が言うと、「ずるしてなもぉーん…」と優夏は言ったが、何かがおかしいと思って考え込み始めた。


春夏秋冬が苦笑いを浮かべて、その瞬間の映像を出すと、「…ああ、素晴らしいわぁー…」と優夏は手を組んで、夢見る乙女の顔をして映像を見上げたが、その笑みは徐々に苦笑いに変わっていった。


「今初めて確認したけど、透明の羽が生えてるな…

 どんな仕組みだ?」


春之介も大いに苦笑いを浮かべて言った。


「…あ… だ、だから、妖精って… みんな…」と優夏はぼう然として言ってから踊り始めた。


「誰も騒がなかったことが奇跡のようなものだ。

 子供たちはさすが優夏ちゃんということしか考えてないと思うけど、

 大人たちはそうはいかないと思う」


「…能力使ってごめんなさい…」と優夏は自覚して素直に謝った。


「少々急ぐ必要が出てきたね…

 俺たちの最終形態」


春之介は言って天照大神に笑みを浮かべてから、大人の仲間たちを見た。


大人たちは死刑宣告の言葉を拒否したのか、指を耳に突っ込んで聞くことを拒否した。


「ここが俺の居場所じゃないと思った人」


春之介の言葉に、誰もが目を見開いて、そう思った者だけが宙に浮いた。


ベテラン勢が全員だったことに、春之介は深いため息をついた。


「出て行けなどとは言わないけど、

 チーム分けが必要になったね。

 みんなには前座を頼むことにしたよ…」


春之介の言葉に、追い出されるわけではないと知って、誰もがガッツポーズを取っていた。


「もちろん今すぐじゃない。

 来年からだから。

 今シーズンは様子を見ながら試合をしていくから。

 なんなら、千葉ネクストキオをプロ球団にしてもいいんだ。

 その実力は十分にあるから。

 監督もコーチも雇えるし、

 何も問題はないし、

 さらに能力開花を認められたら、

 俺たちに合流してもらうこともあるから」


よって修練場でのトレーニングも今のままと知って、大いにやる気になっていた。


春之介は天照大神を見て、「どんな感じ?」と聞くと、「…あはは… まだ人間レベルゥー…」と苦笑いを浮かべて答えた。


天照大神の命令で、神たちも野球の訓練を受けている。


能力は高いのだが、プロ野球選手と同等ほどの実力しかないと、神の威厳が保てなくなるのだ。


試合の形態上、ボールに直接作用する術さえ放たなければ何をやっても構わない。


もちろん優夏のように空を飛ぶこともありだ。


空を飛ぶよりも走った方が早い神が多いので、まだまだ訓練が必要になるようだ。


「機会があったら、神たちと試合をするか…

 そうした方が成長は早いと思う」


「…お願いしますぅー…」と天照大神は眉を下げて言って頭を下げた。


「おっと、きた!」と春之介が言うと、宙に恐ろし気な映像が浮き出てきた。


雅春が大いに時間をかけて、奇跡の人の真の姿の絵を描き終えたのだ。


「…翼ってあったのっ?!」と優夏が興味津々で春之介を見ると、春之介は赤い猫に変身して、翼を広げ羽ばたき、ふわりと宙に浮いたのだが、「キャーキャー!」と優夏が黄色い声を上げて赤い猫を抱きしめた。


「こらこら!

 翼をたたませてくれ!」


赤い猫が言うと、「えへ! ごめんね!」と優夏は明るく言って赤い猫の口にキスをした。


「…ここで、キス、すんなぁー…」と春菜がうなるように言うと、「動物だもの… 春ちゃんもシュタインリッヒにしてるじゃない…」と優夏は眉を下げて答えた。


「じゃ、交代」と春菜がホホを朱に染めて言うと、優夏は赤い猫を抱きかかえたが、赤い猫は素早く逃げて春之介に戻った。


「挑発するんじゃない…」と春之介が眉を下げて言うと、「えへへ…」と優夏は陽気に笑った。


春之介は神のチームメイトにだけ、新しいエンブレムを創り出して渡した。


これが神のチームと人間のチーム分けにもなる。


「…ゼルタウロス、かぁー…」と優夏はエンブレムに刺繍されている神の文字を読んだ。


「来年からは俺のチームはゼルタウロスと名乗ろうか。

 誰にも意味わかんないだろうけど、

 恐竜ぽくて強そうでいい。

 あ、天照たちには俺が創るぞ」


春之介は言って、まさに恐ろしいほどの威厳がある、本来の姿の天照大神の横顔の映像を宙に浮かべた。


「…かわいい方がいいぃー…」という天照大神の要望に応えて、笑みを浮かべた幼児姿の天照大神の正面の顔をエンブレムにした。


だが春之介は気に入らないようで、「…魔除けにはならないな… 幸せにはなれそうだけど…」と思案していったが、天照大神が気に入ったので、春之介にねだってエンブレムを出してもらって、神と巫女に配った。


「…エラメルダ?」と天照大神は小首をかしげて言って、エンブレムにある絵記号を読んだ。


「天照の本名だ」


春之介の言葉に、天照大神は大いに喜んで、改めてみんなに挨拶を始めた。


「そうかぁー… 春之介が生んだから、

 天照ちゃんも古い神の一員なんだぁー…」


優夏は言って大いに納得していた。


「天照が生んだ神たちは俺の孫だから、

 みんなも古い神の一族の一員だから。

 もっとも、その能力が半端なく高いのは、

 秋之介だけのようだけどな。

 ちなみに高龗と大夏は、天照が召喚したようだから、

 家族じゃなくて家来」


「…そんな術も使えるのね…」と優夏は眉を下げて言ってから、「…早く涼しくならないかなぁー…」と笑みを浮かべて言った。


まだまだ暑いので、南極の神たちがここにいないからだ。


「ちなみに、天照は地球のゆく先を考えて動物ではなく人型として生んだが、

 天照が生んだ子は俺の意思を汲んで動物が多いね」


「…そういうことだったの…」と優夏は言って、足元にいた秋之介を抱き上げてほおずりをした。


「あとは予備軍と、予備の予備軍が成長すれば完璧だね。

 きっとまだまだいるだろし。

 だけどあまり引き込むと収拾がつかなくなるから、

 今のところは増やさないでおこう。

 あとは、バスケット部を創ってもらえばそれでいいだけだし」


「ドッジボール部も創るぅー…」と優夏が言い出したので、「それは遊びでいいじゃないか…」と春之介は苦笑いを浮かべて答えた。



いつもよりも盛大に宴会をやって、この日は就寝したが、春之介はまた竜を巡る夢見に出た。


「あれ?」と春之介が言って辺りを見回すと、異様に穏やかな空気を感じた。


第一に目に飛び込んだのは、見覚えがある少女だ。


「…水竜アリス…」と春之介はつぶやいて大いに苦笑いを浮かべた。


「…うふふ… 雇っちゃうぅー…」とアリスはすべてを悟ってすぐさま言った。


「さすがですね…

 うちの水竜がライバル心を燃やしてましたよ」


春之介の言葉に、この件は知らなかったようで、さすがのアリスも目を見開いていた。


「…あー、神様だぁー…」とアリスの隣にいる少年が言って春之介を見上げて笑みを浮かべた。


「君はナギナタ君だね。

 フィル様とマサカリ様の弟だ」


春之介とナギナタは自己紹介をしあって、すっかり意気投合した。


「ここには多くの竜の気配を感じるね…

 早くここに来いと、万有様が願われたのだろうか…

 おっと…

 魂たちがざわめいた…」


春之介は言って北に向かって指をさして、「この方角に学校があるの?」と聞くと、「うん、あるけど、今日はお休みだよ?」とナギナタが不思議そうに答えた。


「俺の会いたい人がいるようなんだけど、

 休みの日に学校で何をやってるんだろ…

 あ、万有美佐ちゃんのことだよ」


「…あー… だったら自由研究だよ。

 美佐ちゃんはすっごい勉強家だから。

 もう大人の人顔負けだよ?

 今は旅に出るよりも、勉強してる時間の方が長いって思う。

 …すっごく優しいんだけどね…」


どうやら美佐には悩み事があるようだと、ナギナタの様子から春之介は察した。


「おっと… 万有様に気付かれたな…

 アリス様が仕事に行っていないということは、

 万有様の手下はみんなこの星で待機中のようだね」


「お休みだからいろいろだよ?」とアリスはかわいらしく小首をかしげて言った。


春之介は赤い猫に変身してふわりと浮くと、「え?」とアリスは言って目を見開いた。


「じゃ、ちょっと行ってくるので」と赤い猫が言うと、その姿は一瞬にして消えた。


アリスはどうしようかと考えていると、源一が手下を引き連れて飛んできた。


「ん? 消えた…」と源一は言って地面に足をつけた。


「八丁畷春之介さんが来たんだけどね、赤い猫になって消えちゃった」


アリスの報告に、「赤い猫に変身すると探れないな… 影のヤツもローカルになっている」と源一は苦笑いを浮かべて言った。


「美佐ちゃんに会いに行ったって思うよ」とナギナタが言うと、「…余計に邪魔できなくなった…」と源一は大いに苦笑いを浮かべた。



赤い猫はあっという間に美佐を見つけて、前足で扉を開けて、音をたてずに美佐の背後に迫った。


ここは図書館で、美佐は本を読みながらノートを書いている。


妙に楽しそうなので、かなりの勉強好きなのはよく理解できた。


「マリアンナ」と赤い猫が言うと、美佐は背筋が伸びて、赤い大きな猫に変身した。


その大きさは中型犬と大型犬の狭間だが、猫にしては大きい方だ。


そして、自分の十分の一ほどの赤い猫を見入ってから、顔を近づけてほおずりするようにして甘えた。


「翼はまだのようだね。

 だけど今を楽しんでおけばいいさ」


「よくしてもらってるの」と大きな赤い猫は明るく言った。


「友人たちはそれほど勉強は好きじゃないのかい?」


「…一緒に遊ぶ方が楽しいのはわかってるんだけどね…」


「あまりひとりで勉強してると孤立するから、

 少しは遊びに付き合った方がいいぞ。

 日々、忙しいんだろ?」


「…うん…

 でもね、知りたいこともたくさんあるから…」


ふたりは自然に人型に戻っていた。


「学校の先生になりたいようだね、俺もだ」と春之介が言うと、「…私もぉー…」と美佐は言ってホホを赤らめた。


「今日はパパと遊ばないか?」と春之介が言うと、美佐は大いに賛成して一瞬春之介に抱きついてから、机の上を手早く片付けて、本を本棚に戻してカバンを持った。


ふたりは自然に手をつないで図書館を出てからふわりと宙に浮いた。


「こりゃすごいな…」と春之介は言って辺りを見回した。


「人がいるのはこの辺りだけか…

 あとは空き地のようだな…

 空気が異様というほどに素晴らしい…」


春之介は深呼吸をした。


美佐はカバンを屋敷に置きに行くと言ったので、この星の街の中心部に春之介とともに飛んで、ふたりは地上に降りた。


美佐はこの巨大なオープンカフェのような食卓の中心にいる源一に軽く手を振ってから、走って屋敷に入って行った。


残された春之介はすぐさま源一を見た。


「や、やあ!」と妙にわざとらしく源一が言って軽く手を上げると、「お邪魔しています」と春之介は笑みを浮かべて言って頭を下げた。


「次に飛ばないので、会うべき竜にまだ会えていないようです。

 都合がいいので、我が娘とコミュニケーションを取ることにしました」


「アリスだけじゃなかったわけだ…

 ビルドには先日会ったし…

 その次はフォレストだな…」


源一はここは真剣に考えて言うと、「フォレスト様は緑竜ですよね。実はあれから…」と春之介は言って説明すると、「…フォレストよりもハイレベルな緑竜…」と源一は言って大いに苦笑いを浮かべた。


「火竜ビルド様と知り合いのようです。

 出会ってしばらくして、

 八丁畷春子と自分で名前を決めました。

 確実に俺の思考を読んで決めたようです」


「…こりゃまたたまげた…」と源一はあきれるように言った。


すると美佐が眉を下げてやってきたので、「ここにいると俺はすぐにでも消えるかもしれない」と春之介が言うと、美佐は大いに慌てて赤い猫に変身して、春之介を背中に乗せて大慌てで走った。


「源一様を見ているようです」と源一の側近のタクナリ・ゴールドが笑みを浮かべて言うと、「俺なんかよりも落ち着いてるさ」と源一は言って苦笑いを浮かべた。



赤い猫はしばらく走ってから、「春夏秋冬、すべての情報提供」と春之介が言うと、春夏秋冬はすぐさまリンクを取った。


赤い猫はぐんぐんスピードを上げる。


そしてゆっくりと歩を緩めると、春之介は飛び降りた。


「この辺りでいいだろう」と春之介が言うと、赤い猫は美佐に戻って笑みを浮かべた。


春之介は今世で必要になることを赤い猫にまず告げた。


「…だから、翼が生えてこなかったんだぁー…」と美佐は悲しそうに言った。


「その事実は知らなかったから別にいいんだ。

 生えてこなくても能力は高いからね。

 …爺さんが見ているが…

 ここに定住してるようだから、

 まあ、挨拶はいつでもいいだろう…」


春之介は言って、とんでもなく巨大な山を見上げて頭を下げた。


「…チョモランマ様はひいお爺ちゃんだったぁー…」と美佐は陽気に言って、山に向かって手を振った。


「俺の母、そして美佐ちゃんにとっての婆ちゃんはここにはいないようだな。

 今はベティーと名乗っているフローラという猛獣」


「あ、お休みだからね、星に戻ってるの。

 …そうかぁー… お婆ちゃんもできちゃったけどぉー…」


美佐は言って苦笑いを浮かべた。


「それほど優秀じゃないことは知ってるよ。

 母さんは肉体ばかりに特化しすぎて、

 能力を御座なりにしたんだ。

 今はその罰を受けているようなものだから。

 俺たち神は、満遍なく好き嫌いなく鍛え上げてこそ、

 先が見えるものなんだ」


「…すっごくよくわかっちゃったぁー…」と美佐は言って春之介と手をつないだ。


ここからはこれまでの美佐の人生を語ってもらい、春之介は大いに悲しんでから大いに喜んだ。


美佐は春之介が怒らなかったことを怪訝に思っていたが、「できれば、人を憎みたくないんだ」という春之介の言葉に大いに感動した。


そして子供ながらに、―― 私… ひょっとして… ―― と美佐が考えたところで、「人の感情はそれほど気にしなくていいから」と春之介が穏やかに言った。


美佐はすぐに首を横に振って、「…私… 不幸を盾にしてたかもって…」と言って泣きそうな顔をした。


「そんなことがあるわけないじゃないか」と春之介が笑みを浮かべて言うと、「…パパと一緒がいいぃー…」と言って子供らしく泣きだし始めた。


「たぶんな、美佐はここからいなくなるかもしれないから、

 万有様にだけはお別れを言っておいた方がいいかもしれないね。

 もちろん、ここにきてみんなと遊んだっていいぞ。

 そこは俺も万有様も考えていることは同じだ」


美佐はすぐさま涙を拭いて、「はい、パパ」と言って満面の笑みを浮かべた。


「じゃ、ここに来た本題を終わらせよう。

 美佐は万有様と話をしておいてくれ。

 おっと、来てしまった…」


春之介が言うと、美佐はすぐさま赤い猫に変身して、街に向かって走って行った。


春之介は赤い猫の後ろ姿に笑みを浮かべてから、空に向かって手を振った。


何とも言えず壮観な空の眺めだった。


様々な色の竜たちが十柱ほどいたので、春之介は大いに苦笑いを浮かべた。


「ビルド様、こんにちは!!」と春之介が叫ぶと、雄々しき火竜が急降下してきてすぐさま人型をとった。


するとほかの竜たちも一斉にビルドに倣った。


「気合が入ります!」と春之介が言うと、「いえ、まさに心強い」とビルドは胸を張って言った。


春之介はビルドの隣の緑色の竜に目を向けて、「フォレスト様ですね」と穏やかに聞いた。


「…う、うん… そうだよ…」と言って急に挙動不審者のように戸惑い始めた。


春之介は何もしていないのだが、なぜだがフォレストの弱点とこの先のやるべきことがすぐに思い浮かんだ。


しかし、源一の手前、それを話すわけにはいかなかった。


決して道は間違っていないし、もうすでに本人も自覚していた。


そしてアリスとの関係などを鑑みて人型の竜たちを見ると、肝心のアリスがいない。


「…逆だな…」と春之介がつぶやくと、真っ先にビルドが反応して春之介に怪訝そうな顔を向けた。


春之介は大いに苦笑いを浮かべて、「皆さんもご存じだと思いますが、この竜のコロニーに大きな間違いがふたつあります」という春之介の言葉に、フォレストだけがすぐさま春之介を見た。


「…うう…」とビルドがうなって、その間違いに気づいた。


「王に進言してください。

 そうしないと、まずはアリス様が使い物にならなくなるはずです。

 フォレスト様には大きな変化はありませんが、

 いざという時に躊躇するはずです。

 まさに今のように」


「…ひとりで暮らさなきゃ…」というフォレストの言葉に、竜たちは一気にうなだれた。


「私が今言った件は、竜の習性ですので。

 生を持つフォレスト様は、仲間とともにいると、

 それほどいい効果が現れないのです。

 異様に甘えん坊になる」


春之介の言葉はまさに的を得ていて、ビルドは様々なことを思い出して、「源様に進言いたします」と言って春之介に頭を下げた。


「もうわかっていると思われますが、

 アリス様はその逆で、多くの同種族の仲間と暮らすべきなのです。

 だから今は大いに甘えん坊…

 何かとんでもないことが起きると、

 とんでもない駄々をこね始めますので要注意です。

 その出来事の大きさによって、

 その欲も膨れ上がるのです。

 今まで得られた能力が、

 何もかも解放されてしまうかもしれません」


「…ドラゴンハウンドが解けてしまう…」とビルドがつぶやくと、「ドラゴンハウンド?」と春之介が言った途端に、この場にいる全員が地面に倒れた。


「ん?」と春之介は言って、魂たちのアドバイスにすぐさま納得して、「ゼルタウロス」と言うと、竜たちの縛りが解けた。


「ゼルタウロスは俺の神の名です。

 この言葉が竜たちの縛りを解く唯一のものですから。

 ですが多分、私にしかできないと思いますけどね」


「…ご先祖様…」とビルドは言って、片膝をついて頭を垂れた。


「遊びに来ることは許可しますから」と春之介が言うと、「はい、ありがたき幸せ」とビルドが言ったとたんに、春之介は別の星に飛ばされ、隣に美佐がいた。


「きちんと言えた?」と春之介が聞くと、「…どうかなぁー…」と大いに考えながら言ったので、春之介は大いに苦笑いを浮かべた。


「連絡がつきました!

 美佐様の自由にしていいそうです!」


春夏秋冬の言葉に、「助かったぁー…」と春之介と美佐が同時に言ったので、大いに笑った。



春之介は辺りを見回して、「すげえ田舎だな…」というと、「ここって、ドズ星…」と美佐が言った。


「あ、竜がいるんだね?」


「う、うん…

 この星の守り神的存在…」


美佐は眉を下げて言って、大いに後ろめたさを感じた。


「指摘されてから悪いと思ったら謝ればいいだけだ。

 それほど気に病むと病気になるぞ」


春之介の言葉に、美佐は救われ、満面の笑みを浮かべて抱きついた。


「それに、この星にいる竜は呪縛が解けて自由になれるから、

 何も問題ないから」


春之介の言葉に、「よかったぁー…」と美佐は疑うことなく春之介の言葉を信じた。


春之介は美佐と手をつないでふわりと浮くと、「…はは、虎視眈々と狙われていたようだ…」と大いに苦笑いを浮かべて言った。


岩にしか見えない陸上生物が、春之介と美佐を狙うようにして岩陰に隠れていたのだ。


「…ここの動物たち、すごいぃー…」と美佐は眉を下げて嘆いた。


「気配を消しているとしか思えないね…

 油断しないで、本題の場所に行くか…」


春之介は遊覧飛行のように美佐と楽しみながら飛び、ついに囲いのある町を見つけた。


その高い場所に火竜を発見して、「ベティーちゃん」と美佐はつぶやいた。


「かわいい名前だ」と春之介は言って、その火竜ベティーの大歓迎を受けて地面に降りた。



「この星に縛られているわけですね。

 解放しても構いませんが、どうします?」


春之介の言葉に、「…えー… そんなことできちゃうの?」とベティーは眉を下げて聞いてきた。


「ええ、俺も星に縛られていたので、身代わりを置いています。

 金色の球ですけどね」


「…あー… 源太君もそうだぁー…」と美佐がつぶやくように言うと、「フリージア星自体も人型でいるわけだ」と春之介が言うと、美佐がその説明をした。


「…核融合させて、分離させた…」と春之介は言って、少し笑った。


「物理的に取り出す場合は、そうする必要があるわけだ。

 俺の場合は、魂の中身を探るだけ」


春之介は言って、金色の球を手のひらに乗せていた。


「これがベティー様とこのドズ星の絆です。

 どこか安全な場所に隠しておきましょう」


「あ、だったら、火山の中とかは?」


「大いに安全です。

 マグマ程度では溶けださないし、

 そう簡単に探しにも行けませんし、

 見つかっても重くて持ち上がりません」


春之介はベティーの案内で火山に行って、ベティー自らが火山に飛び込んで金色の球を隠した。


そして戻って来て、「…ボク、ふたりいるような…」と言って火山を見入った。


「そういうことになりますね。

 火山の中に置いてきた方もベティー様ですから」


「…あー… すっごく安心したぁー…」とベティーが言ったとたんに、春之介は目覚めた。


「…また増えた…」と春之介は言って、美佐とベティーを起こして、大いに苦笑いを浮かべている一太とともに新聞配達に出た。


そして美佐とベティーのふたりとも優夏に取られてしまったが、春之介は悠々と仕事を終えて、竜たちのコミュニケーションを微笑ましく見ていた。


ベティーはここに来るまでは人型をとれなかったのだが、緑竜春子の前に出た途端に、まるでインディアンのような女の子に変身して、インゴレッドに大いに気に入られている。


「雷竜も連れてこないとへそを曲げられるな。

 時間がある時に行くか。

 まあ、春子が教育するんだろうけど…」


すると魂たちが気を利かせて、その居場所は判明した。


「エベレストか…」というと、「家族旅行に行くぅー…」と優夏が自分の子供たちを抱きかかえて言った。


「逞しいお母さんだ」と春之介は言って、かなり着こんでから、神とその巫女たちも連れてエベレストに飛んだ。


「服着てなきゃ凍ってた!」と春子は陽気に叫んで雪で遊び始めた。


「ん? 高山病にならない…」と優夏が言うと、「さすがに人型の場合は、神でもなるけどな」と春之介は言って2メートルほど歩いて、『コンコン』と空気を叩いた。


「バリア、張ってるんだぁー…」と優夏は言って、春之介のマネをした。


「少しずつ気圧調整しているから。

 30分程はこのままの方がいいと思う」


「いえ、もう大丈夫のようです」という春夏秋冬の言葉に、「雷竜の力が及んでいるようだな…」と春之介は言って結界を解いた。


すると、黒い雲の中から、金色に光っているように見える巨大な竜が飛んできて、すぐさま地面に足をつけて頭を垂れた。


「遅くなって申し訳ありませんでした」と春之介が少し頭を下げて言うと、「いえ、近いうちに来てくださると聞いておりましたので」と雷竜は言って、逞しい人型の男性にその身を変えた。


「あら、モテモテになっちゃうわよ?」と優夏が言うと、「はっ ありがとうございます」と男性は言って優夏にも頭を下げた。


すると対抗するように秋之介が本来の姿に戻った。


「我が神、久しゅうございます」と男性は言って、巨大な人型の秋之介に頭を下げた。


『ゴロロロロ…』と秋之介はうなるように声を発した。


「大儀であった、だって」と春之介が通訳すると、「…すっごく偉かったわけね…」と優夏は眉を下げて言った。


「引き続きここを守ってもらってもいいんですけど、

 一度俺の仲間にも会ってもらえますか?」


春之介の言葉に、「はい、もちろんでございます」と男性は言ってから、「私、ガンデと申します」と自己紹介して頭を下げた。


春之介たちも自己紹介して、ネクストキオスタジアムに戻った。


「…むっ この気配…」と人型のガンデは言って一瞬だけ雷竜に姿を変えて人型に戻った。


「…ま、いっか…」と天照大神が言うと、「なんかすごいことやったよね?」と春之介は大いに苦笑いを浮かべて言った。


「かなりの欲を感じましたので、

 鉄槌を下しておきました。

 子供を言い聞かせる程度のものですので、

 命には別状ございません」


ガンデの言葉に、「そうですか… でしたら構いませんし、誰が叱られたのかはよくわかっているつもりです」と、春之介は大いに苦笑いを浮かべて言ったが、いい薬にもなったはずとも思っていた。


どうやらここにいる大人たちは気に入ったようで、ガンデはかなり温厚に頭を下げて挨拶をしている。


「…あなたはかなり微妙ですね…」とガンデは眉を下げて三条に言うと、春之介は指をさして大いに笑っていた。


「誰かに叱られるほどわりいことはしてねえよ」と三条が言うと、「あなた自身を大切にしないから心が曲がるのです」とガンデにやんわりと叱られて、三条はここは素直になってガンデに頭を下げた。


「…むう… 女子どもは変わった欲を持っておる…」とガンデは言って、厨房を見入った。


「向上心の少々過剰な感情ですよ。

 まさに欲と紙一重だと思います」


「ですが、一歩間違えれば戦争を起こし兼ねない感情…

 いや、それであれば天照大神様が放ってはおかぬはず…」


「あんたはそれほど気にしなくていいの」と今度はガンデが天照大神に叱られて素早く頭を下げた。


「どうやらここを気に入ったようですね」と春之介が言うと、「少々浮かれていましたので猛反省中でございます」とガンデはお堅く言って頭を下げた。


まさにこれ以上ないほどのいい人に、春之介は大いに好感を持った。


美佐は神たちが気に入ったのか、もうすでに友達になっていて、ゲームなどを楽しんでいた。


優夏としては話をしたかったのだが、春子もベティーも美佐の仲間になっていたので無理強いはできなかったので、寂しそうな笑みを浮かべた。


すると、「春之介様」と春夏秋冬が言って、眉を下げていた。


「ベティーを連れて来て、少々まずいことでもあったようだね」


春夏秋冬はすぐさまその関係者の映像を出した。


「ふーん… 万有様たちとは別の勢力…

 …ああ、そういうこと…

 人間らしい生活を捨てさせられたのか…

 この件については大いに怒ったってところだね…

 だからこそ、今の万有様があることも事実だ」


「ベティーちゃんをあてにしていたところもあったようなのです。

 ですが連れ去ったわけではなく、

 ベティーちゃんが望んでここに来ましたので、

 逆恨みのようなものです」


「松崎拓生に皇源次郎か…」と春之介が言うと、「鉄槌を落としても構わぬか?」とガンデが言ったので、「謝罪は終わってるようだから…」と春之介は眉を下げて言った。


「直接何か言ってきたら相手をするよ。

 どっちも大人なんだから、分別はついていると思うんだけどね。

 もっとも、身代わり以外で連れ出せたことに嫉妬でもしてるんじゃないの?」


「計算上では85パーセントの確率でその通りだと推測できます」


「残りの15パーセントの内訳を」と春之介が言うと、春夏秋冬はその一覧を出した。


「会ってみたい、手下にする、仕事を手伝わせる、万有様から引き放す…

 聞いてないからわからないけど、

 会ってみたいという理由以外の場合だと制裁が必要だよね。

 全然懲りてないと思う。

 だけど、万有様と争うわけにはいかないから、

 普通なら何のアクションも起こさないだろうね」


『鉄槌、落としたから』という念話が春之介に聞こえた。


「お爺様、ありがとうございました」と春之介はすぐさま礼を言った。


『君の出現で、この先の運命が多分変わったよ。

 面倒なことが起るだろうけど、

 そうならないように協力するから』


「はい、本当にありがとうございます」


『君はある意味、源一と同じ立場で

 宇宙の平和を守る必要があると思っているんだ。

 正しい道は、今のままが一番だろうと、

 ボクは思っているんだよ。

 鉄槌を下した二人は、

 今世の経験も糧とする必要があると思ってるんだ』


「…そうですか…

 あ、できれば、万有様にもお伝え願いたいのですが…」


『うん、わかったよ。

 さすがの源一も今は認めるだろうから』


ヤマの言葉に春之介は礼を言って念話を切った。


「…あー… 一番素晴らしいお爺様だ…」と春之介は感慨深く言った。


「ご挨拶したいわ」と優夏は言って、かなりそわそわとしていた。


「…旅行に行きたいだけじゃないか…」と春之介が見抜いて言うと、「…どんな方なのよぉー…」と優夏はここはそのひととなりを聞いておくだけにしたようだ。


「体高約一万メートルの首長竜」


優夏は大いに苦笑いを浮かべて、「…頼りになるお爺様だわぁー…」とここは大いに尻込みして言った。


「二百キロほど離れていたけど、よく見えたからね。

 首を上げて俺と美佐を見てたし。

 会釈したらすぐに首を下ろされたよ」


春夏秋冬がその映像を出すと、誰もが大いに苦笑いを浮かべて映像を見上げた。


「春之介様、源一様からビデオメッセージが届いています」


春夏秋冬の言葉に、「うん、出して」と春之介が言うと、宙に源一の姿が映し出された。


その眉は大いに下がっていて、困惑感が漂っている。


ある意味、春之介が源一の住む世界を荒らしたことにもなるからだ。


『直接連絡してもよかったんだけど、大いに時差が発生し始めたのでね。

 今回はこちらの現状で、少々困ってしまったことだけ…』


星の大きさはもちろん均一ではないので、こうなって当たり前だ。


ちなみに春之介の住む地球と源一の住むフリージア星の自転速度は違い、フリージア星の方が一日が短く、地球と比べるとフリージアは23時間45分で一回転する。


数日経てば数時間のずれが生ずるので納得できる話だ。


よってフリージア星の一週間は便宜上10日となっている。


『ヤマの説教にも屈しない、

 少々面倒な春之介の大昔の母親が春之介に会わせろとうるさくてね。

 その存在は』


源一がこういったところで、またヤマの神の鉄槌が落ちて、源一の後方で何かが光った。


『もう5度目だがまだあきらめないんだよ…』


「…母ちゃんは人に迷惑をかけることは筋金入りだな…」と春之介は大いに眉を下げていた。


『しかも、ヤマが行動を始めたことが珍しいことなんだ。

 今までに、ヤマ自らが何かを正すことなど一切しなかった。

 めんどくさいことは重々承知で伝えたいのだが、

 できればこちらに来てベティーに会って、

 春之介が直接説教をしてやってもらいたいんだ。

 ベティーが反省しないのは、ヤマは第三者だからなんだ。

 本当に申し訳ないがよろしく頼みたい』


映像はここで終わって消えた。


「…ふむ…

 もう一言あると思ったけど、

 さすがにそれは言えなかったのかなぁー…」


「春之介をフリージア星に住ませるって?」と優夏が少し眉を上げて言った。


まさに怒っているという感情に近い。


「いや、万有様は爺ちゃんが母ちゃんを殺さないかと心配しているんだと思う。

 母ちゃんも、今世の能力では更生不可ともう悟っておられると思う。

 できれば止めたいが、親子間の諍いに首を突っ込んでもいいことはまるでないから、

 その家族の一員の俺に穏便に済ませてもらいたいんだと思う」


「…今世では家族じゃないのにぃー…」と優夏が眉を下げて言うと、「知ったからには家族になってしまうんだよ」と春之介は大いに眉を下げて言った。


「そして親は子をそばに置きたくなるんだ。

 そして子も、親のそばにいたくなる」


春之介は眉を下げて見上げている美佐の頭をなでた。


「…うう… 後者は大いに理解できたぁー…」と優夏は嘆くように言って美佐を抱きしめた。


「…ママ…」と美佐が小さな声で言うと、「堂々と言えばいいっ!!」と優夏は号泣しながら言うと、「ママ! 大好きぃ―――っ!!」と美佐、春子、ベティーが叫んで優夏を抱きしめた。


「こうやって、新しい強い絆も生まれるんだよ」


春之介の穏やかな言葉に、誰もが笑みを浮かべていた。


「明日は学校を休んで家族旅行に行く」


春之介の決意に、優夏は三人の娘とともに陽気に踊り始めた。


「…あ、じゃあ、私もぉー…」と春菜が言ってきたが、「今回の件は無関係だ」という春之介の言葉に、春菜は大いにうなだれたが、「夏介を連れて行くんでしょ?!」と今度は目を吊り上げて怒って言った。


「いや、宇宙船をチャーターするから別にいい」


春之介の無碍な言葉に、「申請しました!」と春夏秋冬が上機嫌で言った。


「精神間転送でもいいんだけど、

 それじゃ旅行にならないからな。

 まあ、宇宙船に乗っても経過時間はそれほど変わらないけど、

 天照たちにはいい経験になる。

 さらには正当な道筋で、相手側の行為に甘えることもいいことだと思った」


「…天照ちゃんたちも家族…」と春菜は言って大いに悔しがったが、さすがに神に苦情を言うわけにはいかなかった。


「俺たちの護衛役という意味でもあるから」


春之介は言って、笑みを浮かべて天照を抱き上げた。


「一太も同行を許す」


春之介の言葉に、一太は笑みを浮かべて頭を下げた。


「優夏は自覚はまだないが、それなり以上に化け物。

 一太も同じような変化を期待しているんだよ。

 あのフリージア星で一気に開花する可能性もあるし、

 しなくても素晴らしい経験になるから」


「はっ ありがたき幸せ」と一太は真剣な眼を春之介に向けて頭を下げた。


「化け物じゃなくて妖精だもんっ!!」と優夏は堂々と言って胸を張った。


「そんなもの、普通の人間から見れば、神だって化け物だ」


春之介の常識的見解に、「…それはそうだけどぉー…」と優夏はつぶやいてうなだれた。


「また新たな災いを抱えてしまいそうだから、

 花蓮様のように堂々と」


春之介の言葉に、「…くっそぉー… 俺の弱点を…」と優夏はうなって、春之介をにらみつけた。


「新聞配達をしてから旅行に行くから。

 あ、宇宙船は大丈夫?」


「はい、こちらの都合のいい時間で構わないようで、

 実はもうこの近くの宇宙空間で待機しています」


春夏秋冬の言葉に、「望遠鏡に捉えられなきゃいいんだけどね…」と春之介は苦笑いを浮かべて言った。



騒ぎになることなく、春之介たちはまだ夜が明け切らない早朝に、天照大神スタジアムのフィールドに停泊している宇宙船に乗り込んだ。


「ご乗船、ありがとうございます」と船長のキースが言うと、「長い時間お待たせしてしまいました」と春之介は言って頭を下げた。


「いえいえ、全然かまわないんでさぁー

 これも仕事ですんでね」


春之介は気さくなこのキースを大いに気に入っていた。


「では、飛び立ちますが、

 飛べば一瞬で着きますが、

 それじゃあつまらんので、

 宇宙の神秘を堪能していただきやしょう」


キースの言葉に、特に神たちが大いに食いついて、キースに抱きついていた。


「…運転手として欲しいぃー…」と優夏が小さな声で言うと、「…同感だ…」と春之介も同意した。


キースはまさに船乗りとしてのいいプライドを持っていた。


誰もが知りたい場所、見たい場所に飛んで、補足説明も忘れない。


遠くで見えている宇宙から近づくとどうなっているのかを、映像を交えて分かりやすく説明する。


わずか30分程だったが、大いに宇宙を堪能して、フリージア星に到着した。


フリージア星は昼過ぎで、源一が直接出迎えて、春之介たちと固い握手を交わした。


「…みんな、確実に落ち込みそうだ…」と源一は言って天照たちを見た。


「俺の娘や孫たちですので」と春之介が堂々と言うと、「そういやそうだった!」と源一は陽気に叫んだ。


するとひとりのワイルドな女性が立ち上がって、「ゼルタウロスッ!!」と叫んで、フローラに変身した。


フローラは猫のような比較的小さな動物だが、その動きは機敏で狩猟を得意にしている。


だがここは、『フ―――――ッ!!!』とクレオパトラが大いに威嚇して、フローラをその気合だけで吹き飛ばした。


「あ、もう終わったかも…」と春之介が言うと、「終わったな…」と源一は言って大いに苦笑いを浮かべていた。


「クレオパトラは神の巫女ですが、神よりも怖いので。

 それに、それなり以上に従順です。

 念話を使えるそうですが、

 俺には話しかけません。

 言葉を交わすこと自体が畏れ多いと思ってくれているそうです」


春之介の解説に、「…そういった存在には初めて会った…」と源一は言って、小さな猫を見入って頭を下げた。


「あ、高級な猫缶とかありませんか?

 確実に仕事料として欲しますので」


「安上がりだ!」と源一は陽気に叫んで、缶詰を出して缶を開けて、クレオパトラに食べさせた。


するとここにいる基本的には白い小動物たちがクレオパトラに寄り添ってきて大渋滞が発生した。


「…人気者にもなった…」と春之介は言って大いに眉を下げたが、「キャーキャー!」と叫んで優夏が小動物たちをとっかえひっかえ陽気に抱きしめ始めた。


「…花蓮さんとは別物で、素晴らしい…」と源一は大いに感心していると、その頭に拳骨が落ちて来て、源一はその場でうずくまった。


そしてもうすでに、天照たちは結界を張って身構えていた。


源一に拳骨を落とした張本人が、古めかしく見える屋敷から姿を見せた。


「花蓮様、おはようございます!」と春之介が言って頭を下げると、「人妻に手を出そうとは許せないわ」と穏やかに言って、春之介と握手を交わした。


すると春之介の空いた手に優夏が握手をして花蓮をみらみつけた。


「あんたじゃ相手にならないわ」と花蓮がさも当然に言うと、「それはどうだろうかなぁー…」と今までで一番威嚇して優夏はうなった。


春之介はふたりの手をほどいて、「ほらグラブ」と言って優夏と花蓮に手渡した。


「超人的キャッチボールを見せて欲しいですね」と春之介が花蓮に言うと、「…うう…」とかなり困惑してうなった。


「さあ! やるぜっ!!」と優夏は言って素早く走って100メートルほど離れた。


「…くっ!」と花蓮は今度は悔しそうにうなって、優夏をにらみつけた。


もうこの時点で、普通の人間ではないと悟ったからだ。


優夏はダイナミックなフォームから、まさに火の玉を放つと、花蓮は逃げようとしたのだが、火の玉はそのグラブに収まって、グラブを弾き飛ばした。


「このへたくそっ!!」と優夏が叫ぶと、「…人間じゃあねえのかぁー…」と花蓮はうなってグラブを拾って、黒焦げのボールに触れてから、新しいボールを出した。


花蓮も大いに振りかぶって投げたが、スピードはあるが人間レベルだ。


優夏は難なく捕球してから、また火の玉を投げた。


花蓮は今度ははじかれないように両手でとったが、体ごと5メートルほど後退しして、地面にはレールのような二本の筋ができていた。


「肉体勝負では花蓮さんの負けだな…」と復活した源一が苦笑いを浮かべて言った。


「優夏は正体不明のものに変身しました。

 見た目は妖精でしたが少々違うようです。

 変身を抑え込んでいたと言っていいでしょうね」


「ほう!」と源一は興味津々に言って、「悪魔」とつぶやいた。


春之介は驚くことなくうなづいている。


まさに存在感は花蓮によく似ていたからだ。


「…花蓮さんはまた変わるだろうなぁー…」と源一は嬉しそうに言って、春之介たちを食卓のテーブルに誘った。


しばらくして、「ほどほどに!」と春之介が叫ぶと、真っ黒なふたりがすすにまみれて戻ってきた。


「なかなか見込みがありやがる」と優夏が言うと、「それはこっちのセリフだ!」と花蓮も負けずに大いに叫んだ。


「優夏、その姿のままじゃ、妖精どころかアイドルでもないぞ」


春之介の言葉に、「わかってる!」と優夏は叫んで、人間の姿に戻った。


「ようやく気付いた。

 俺は悪魔で、あの妖精の姿は変身だ」


優夏が少し興奮して言うと、「それならいいけど、気をつけないと怖がられるぞ」と春之介が念を押すと、「…相手が神だと自信がねえ…」と言って、春之介の隣に機嫌よく座っていたインゴレッドを抱き上げて椅子に腰かけた。


「…優夏もこっちのチームゥー…」と天照大神が眉を下げて言うと、「それだと相手チームがいなくなるんだけどな」と春之介は言って少し笑った。


するとこのオープンテラスのフィルたちメイド軍団が食事を運んできた。


「これは、大いに食欲をそそる!」と春之介が叫ぶと、「いたらきまふっ!」と優夏は言いながらもう食べていた。


大いに運動をしたので、これは当然だろうと春之介は思って、まずは香りと眼で料理を楽しんだ。


「いただきます」と神妙に言って料理を口に運ぶと、「これは、うますぎる!」と春之介は叫んでから、大いに料理を食らい始めた。


少し冷静になって食材を見ると、地球の食材と似たようなものは使われているが微妙に触感が違う。


当然だが食材はこのフリージア産のものだろうと、まさに常識的見解をはじき出した。


「帰ってから少し考えた方がよさそうだ。

 春子、頼んだぞ」


「うん! もう再現できちゃう!」と春子は陽気に答えて、春之介と優夏に負けないほど料理をむさぼった。


「おまえ、そんな菓子など食ってんじゃあねえ。

 だから非力なんだ」


優夏が花蓮を見て言うと、「…くっそ、こいつ、知ってやがる…」と花蓮は大いに悔しがって言った。


「俺は更生した悪魔だぞ。

 そんなもの当たり前だ。

 魂を食らう欠点のようなものはもうすでに克服済みだ!

 おまえがどれほど強かろうが偉かろうが、俺には勝てねえ!」


花蓮はわなわなと震えて、まんじゅうを箱に戻して、「フィルッ!! 煮つけっ!!」と大いに怒って豪語した。


「…ふーん、好物があるってか…

 まあ、これだろうけどな」


優夏は言って、ニンジンのような赤い根菜を箸にとって口に放り込んだ。


「うん、うめえ」と優夏は普通に言って、「帰ったら特製料理を食わせてやろう」と優夏は春之介に向けて言った。


「…食材だけでなく、調理方法までマスターしているというのか…」と花蓮は大いに悔しそうに言った。


「おまえ、経験不足過ぎるな。

 宇宙の母だと?

 大いに笑える」


優夏は言ってから、「お代わりだ!」とフィルに茶碗を突き出した。


「…こりゃ、教わることができたようだ…」と源一は言って苦笑いを浮かべた。


「へん! 教えてやんね!」と優夏は歯をむいて答えて、「お! サンキュー!」とフィルに陽気に礼を言ってドンブリを手に持って、大いに食らい始めた。


「慰問を急いだ方がよさそうだ。

 しかし、金儲けも必要だが…」


春之介が少し悔しそうに言うと、「メイドたちが頑張って、5億ほど稼いでくれましたので」と一太が報告すると、「…あの量をほぼ完売したの?」と春之介は目を見開いて聞いた。


「帰ってから、また創っていただく必要があります」と一太は言って笑みを浮かべて頭を下げた。


「一週間はもつだろうと思って量産しておいたんだけどね…」


春之介は大いに苦笑いを浮かべた。


「…ちょいと負担はかかるけど…」と春之介は言って術を放った。


「あ、大丈夫だった。

 軽い軽い。

 もう100個ほど売れた」


源一は何が起こっているのか全く理解できなかった。


しかし、源一はここにいながら製造をして、地球に飛ばしていることだけはなんとなく理解できる。


だが、その道筋は春之介の場合は精神空間を使う必要があるはずだ。


よって、協力者が必要不可欠になる。


精神空間は、魂しか行き来できないからだ。


「おまえ… バイト代が発生するようなことやってんじゃねえ!」


優夏の言葉に、「仕事をくれと言われたら断れないだろ?」と春之介は笑みを浮かべて答えた。


「それよりもだ」と春之介は言って、真剣な目を優夏に向けた。


「おまえがギリギリだった」と優夏は右の口角だけを上げて言った。


「拾ってくれてありがとう」と春之介は素直に言って頭を下げた。


「ギリギリでも適合者だ。

 しかもお前しかいないことは長い時間をかけて調べつくした。

 大昔、一度だけ会ったことがあったから、

 それほど時間はかからなかったがな」


優夏の言葉に、「…黒い人、か… 懐かしい…」と春之介は言って笑みを浮かべて何度もうなづいた。


「悪魔姿など偽物だ。

 本物はこう!」


優夏が言うと、まさに肌の色も黒一色に変身して、源一が大いに怯えた。


「…あいつ… 子を残していたのか…」と源一は目を見開いて黒い物体を見据えた。


花蓮も優夏の存在感に大いに怯えた。


「あんたは人間的に言えば、

 血のつながりはないが姪に当たるな、鼻ったれ」


優夏の言葉に、花蓮は大いにうなだれた。


「家系図のトップにいたな、ひとりだけ…

 子孫の確認はできていなかったということか…

 俺なんか下っ端だったわけだ」


春之介の言葉に、「春之介が使えて助かった」と優夏は言って人型に戻った。


「もちろん、こうなれた恩人はいるのよ。

 あの姿のままだったら、今のこの宇宙ってないもの…

 確実に、私が壊してたわ!」


優夏は言って、愉快そうに笑った。


「…まだ見つかっていない、木像から生まれた魂の四番目…」


春之介の言葉に、「先先言わないでよぉー…」と優夏は眉を下げて言った。


「だけど、ここにもいないわね…

 生物として転生したくないのかもしれないわ…」


「それで家族旅行か…

 恐れ入ったよ…」


春之介の言葉に、「すべてを知ったのは今よ」と優夏は答えた。


「ちょいと姪をいじめてたら湧き上がってきたの。

 それに、ひとり欲しい人がいるけど、

 無理にとは言わないけどね」


優夏は言って、遠くから優夏たちを見ている、赤ん坊をふたりあやしている万有桜良にロックオンした。


「サクラレスッ!!」と優夏が叫ぶと、桜良は飛んでやってきて、「…本当なら、私が偉そうにできるのにぃー…」と桜良は大いにうなだれて言った。


「その次の名前がデヴォラルオウ。

 その当時はもう私は闇に紛れて暗黒宇宙を創ってたわ」


「…悪い子だぁー…」と桜良が言うと、優夏は大いに笑った。


「開き直るわけじゃないけど、

 すっごく悪いヤツだって、私自身も思ってるわ。

 もっともそれが、私の常識だった。

 悪の正義」


「…私は、ここがいいもぉーん…」と桜良は言って、この素晴らしい街の風景を見て笑みを浮かべた。


「…実は私もぉー…」と優夏は言って、大声で笑った。


しかし花蓮の心境は大いに最低な状態だった。


「私は春之介に従うから今のままがいいの」


優夏の言葉には春之介すら答えなかった。



しかしまずは、「万有様」と春之介が笑みを浮かべて源一を見て言うと、「何でも言って欲しい」と源一は胸を張って答えた。


春之介が春夏秋冬の映像を交えてごく普通に話し始めると、「これはいい!」と源一は大いに賛成した。


「新しいここの名物になる!」


「創っちゃうよ!」と桜良が陽気に叫んだが、「いえ、ここは俺たちの神に頼みますので。桜良様、本当にありがとうございます」と春之介は丁寧に礼を言った。


春夏秋冬がこの上空から見た映像を出すと、「この北の土地を使っていいの?」と天照大神が映像に指をさして陽気に言うと、「ああ、構わないよ」と源一はさも楽しそうに言うと、天照大神たちは相談することなく術を放って胸を張った。


そしてここにも巨大な全天候型スタジアムが飛んできて、海に向かって飛んで行った。


「…でっけえ、空飛ぶ円盤だなぁー…」と源一は陽気に言って、スタジアムを見上げた。


「…すっごく速かったぁー…」と桜良は言って落ち込んだ。


一瞬にして芸術的な巨大なスタジアムが出来上がったので、こういった仕事が得意な桜良は大いにうなだれていた。


「…はは、俺の城がもうできた…」と春之介が嬉しそうに言うと、「予定は春夏秋冬に伝えておいてくれるだけでいい」と源一が陽気に言うと、「はい、ありがとうございます」と源一は笑みを浮かべて頭を下げた。


「ちょいと宣伝だけさせてもらうから」と源一は言ってそのコマーシャルを創り上げて、源一の影のイカロス・キッドがその映像を宙に浮かべて放映した。


映像を観終えた春之介も優夏も満面の笑みを浮かべていた。


まさに最高の宣伝だと感じていたのだ。


「じゃ、流してアンケートを取るけど、もう興味津々だ」


春之介は言って、ここから南側に見える巨大な透明な展望台を指さした。


ここに来る観光客は全員が宙に浮かんでいるスタジアムを見入っていたのだ。


「しかし、神たちが優秀なのはよくわかるが、

 今の短時間ではありえないほどの素早さだ。

 その原動力がよくわからなかった」


源一の言葉に、「メインの作業員は、この星に土着している魂たちです」と春之介が答えると、「…今までに経験したことも聞いたこともない製造方法だ…」と春之介は苦笑いを浮かべて言った。


「土産物はこんな感じで…」と春之介が言うと、メタモルメイドと野球選手たち、そして新規追加した神たちのジオラマフィギュアが現れた。


そして商品として箱入りのものがひと通り地面から浮き出てくると、白い衣をまとった天使たちと源一と花蓮の大勢の子供たちが大いに興味を持って箱を見入った。


「…もらっていい?」と源一が眉を下げて言うと、「ええ、もちろんです」と春之介は言って、もうワンセット創り上げた。


「今の地球では、それほど胸を張って出せるものはほとんど考えられないので。

 優夏の父が創り上げた

 このフィギュアの構成材料の製造技術が唯一だと思っています」


「ああ、そのようだな。

 まだ完全にコピーができないからなぁー…」


源一は大いにうなだれて言ったが、「ここではこんな感じ」と源一は言って、その見本を数種類出した。


「じゃあ、限定で…」と春之介は言って、グレードアップさせた着せ替え人形を百ほど出した。


「見た目は変わらないけど…」と源一が言って箱を開けた途端、「…こりゃ誰もが驚くはずだ… まさに高級品だ… 芸術品だ…」と嬉しそうに言った。


天照大神たちは天使たちとともに着せ替え遊びに興じ始めた。


源一の取り巻きたちも、春之介にはさらに一目置くようになっていた。


できれば話しかけたいし、願い事もできたのだが、今はさすがにその時ではないと思い我慢していた。



「ところで話は変わるけど、修練場ではどんな感じ?」と源一は大いに期待して聞いた。


「今は急がずみんなに合わせています。

 最後の石人形は、さすがに強敵のようですね。

 格闘については全く経験がないので。

 ですが少しずつ積み上げますよ。

 格闘に関しても、素晴らしいライバルがいるので」


春之介は言って、優夏を見た。


「…否定したいけど、できない私がいるわ…」と優夏は眉を下げて言った。


「それに、春夏秋冬が様々な映像を出してくれましたので、

 何をどうすればいいのかは理解できているつもりです。

 あとは体が動くだけにかかっています。

 スピードが一番大切なことは、

 大いに理解できているつもりですので」


「どう?

 それを体感してみない?」


源一は大いに下手に出て言うと、「はい、経験を積ませていただきます」と春之介がすぐさま答えると、「おー…」と源一の取り巻きたちが大いにうなった。


「…簡単に承諾されたぁー…」と源一は大いに感動して言って、完全防備の透明のスーツを出した。


「神たちとの野球の試合は、

 これを着こんでいなきゃいけないと思っています」


春之介はスーツに触れてからコピーを出した。


「どこに死球や打球を受けても痛くないはずだ」と春之介は言って今創ったスーツを優夏に渡した。


「思い切ったぶちかましもできそうね」と優夏は言ってスーツを着て、飛び跳ねたり地面に飛び込んだりと、スーツの強度の確認をした。


「これはいいものを知った。

 ありがとうございます」


春之介は上機嫌で言って、源一にもらったスーツを着込んだ。


そして唯一知っている空手の型を繰り出すと、「…達人にしか見えないが…」と源一は大いに眉を下げて言った。


「学校の空手部に警備を頼んでいるので、

 練習は見ていますから、

 それをコピーしただけです。

 天才ボクサーも知っているので、

 今度戦ってみますよ」


春之介が陽気に言うと、「…教えることはその場の雰囲気だけになりそうだ…」と源一は言って眉を下げていた。


「組み手の礼に、最高の野球軍団を紹介するよ」


源一の言葉に、春之介は大いに喜んだ。


「優夏ほどじゃないけど、時速三百キロの球を投げる生身の投手と、

 そのボールを取れるロボットもいる」


「それはすごい!」と春之介は大いに高揚感を上げて叫んで、「さあ、早く組み手をしましょう!」と春之介は組み手の先の優秀な選手の紹介に期待していて、源一を急かせた。


源一の取り巻きにその適応者がいることで、―― ラッキー!! ―― と大いに高揚感を上げていた。


野球好きの一団はこのフリージアには住んでいないが、相手がいないことで解散しているだけで、その相手がいると知れば必ずここに来る。


不思議なことに、人間の進化と同じように、野球のプレイ上のルールも戸惑うことなくまるで同じだ。


源一は頭ひとつ身長が低い春之介と並んで歩いて考えていた。


そして今回の台風の目のひとつの、皇源次郎もここに来るだろうと思うと、源一の集中力がそがれてしまったのですぐさま気合を入れた。


「野球好きはみんな友人ですから」


春之介に思考を読まれたように源一は感じたが、それはこの場の雰囲気がそうさせただけと思い、「面倒なことが起こりそうで、ちょっと気になった」と源一は言った。


「そんな人の実力はそれほどでもないでしょう」


まさに誰も疑わない春之介の言葉だった。


「春之介がそういうのなら、きっと変わるんだろうな」と源一は希望を込めて肯定した。



春之介と源一は土が丸く見えている整地された組み手場で向き合って頭を下げた。


春之介は両拳を軽く握って、左前にして拳を中段に構えた。


源一は何も変えずに、肩幅に足を広げて立っているだけだ。


春之介はここはリズムよく体を上下したが飛び上がってはいない。


いつでも春之介の動きについてこられる自信があると源一は感じ、いきなりトップスピードで間合いを詰めた。


「はっ!」という春之介の気合とともに、なぜか春之介の右の蹴りが、源一の右脇腹に突き刺さっていた。


源一にはダメージはないが、さすがに横から押されると体がぶれる。


源一はその衝撃を吸収するように、逆らうことなくその体を後方にいなして、春之介を正面に見た。


春之介のバランスはいいのか、まだ右足を上げたままで、今ようやく地面に降ろした。


―― さすが、足腰はしっかりしている ―― と源一は思いうれしくなった。


そして源一が得意の錯覚地獄を出すと、春之介は一瞬怪訝そうな顔をしたが、すぐさま距離を取った。


錯覚地獄とは、自然に動いているように見せて、実は時折素早く宙に浮いて、遠近感をつかめないようにする体術だ。


するとひとつの影が源一から飛び出して、組み手場の外に出た。


源一の影のイカロス・キッドが、源一の動きに追いつけなくなって、影の軌跡を残してしまうからだ。


すると春之介がすぐさま源一のマネをしてきたことに、源一が大いに目を見開いた。


お互いランダムに動いているので、この組み手場には不思議な雰囲気が漂い始めた。


すると春之介が空手の型を交え初め、その手や足が異様に長くなっているように感じ、源一は素早く下がったが、まるで追いかけるようにして春之介は目の前にいて笑みを浮かべている。


―― 戦闘センスは普通以上だ! ―― と源一は思って動きを止めて防御に徹したとたんに、手と足が子気味よく襲ってきた。


『パンパンッ』と軽い音が源一の頭と腰の辺りから聞こえたが、両方とも手で受け止めていた。


そして源一が手を出した瞬間に、源一は地面に寝転んでいた。


一体なにが起こったのかまるで理解できていなかった。


春之介はうつ伏せに転がされた源一の左腕だけを固めて動けなくした。


「合気道… 柔道か?!」と源一が叫ぶと、「柔道部とも練習をともにしていました」と春之介は言って固めた腕をほどいて立ち上がった。


「おこがましいが免許皆伝だ!」と源一は大いに叫んで、春之介と肩を組んだ。


「はい! ありがとうございました!」と春之介は陽気に叫んだ。


ここには組み手の勝ち負けはなく、ふたりは肩を組んだまま、歩いて食堂に戻って行った。



その頃、春咲高校では一部でひそかにパニックになっていた。


高校内でトップの春之介と優夏がそろって休んだことで、誰もが大いに困惑顔をしている。


特に誰もが春菜に聞きに来るため、大いに機嫌が悪くなっていた。


もちろん、行先も告げて休んでいるので、―― このまま帰ってこない… ―― と誰もが考えていたからだ。


春之介と優夏としては、ただの家族旅行として出かけているだけなので、保護者と学校にだけはきちんと説明している。


そしてこの事実が外に漏れた。


あっという間にネットの世界はパンクして、これが不幸の始まりだと誰もが信じかけていた。


「神がいないからね」といった春菜のこの言葉もさらに拍車をかけて、―― 見捨てられた! ―― と思った者が大勢出ていた。


しかしミラクルマンスタジアムとネクストキオスタジアムのショッピングモールでは、メタモルメイドの着せ替え人形がどんどん売れていたので、ここにいる者たちは全く疑っていなかった。


このモールの従業員がその事情を一番よく知っていたので、もし聞かれても胸を張って事実を伝える。


「売っても売っても、なくならないのです」


売れると自動的に補充されるし、その内容の通知も来ていたので、外の世界のただのうわさを一蹴した。


さらに言えば、金色の玉を残していることで神はいるのだ。


もちろん潮来にも政府から連絡があったが、「ここにおじゃる」と答えただけだ。


その中でわずかに数名だけはこの事態を静観していた者がいる。


春菜は当然だが、春之介が認めた者たちだ。


春之介と優夏の言動を信じない者は誰もいないからだ。


そしてふたりともがいなくなった時の疑似体験をしていると思い、どうなっていくのか興味津々で今日の授業を終えて、それぞれの放課後の時を過ごし始めた。



春菜たちがネクストキオスタジアムのグランドに出ると、春之介たちが練習をしていた。


そして見慣れない巨体が大勢いると思ってみていると、天照大神たち神の本来の姿だった。


春菜がすぐさま合流して、「大騒ぎになったわよ」というと、「ああ、途中で知ったから、ホームページだけに真実を書き込んでおいた」と春之介はさも当然のように言った。


「さらにだ。

 まずは神たちとチームをともにして戦うことになった。

 だから、使えないヤツは二軍だから」


春之介の厳しい言葉に、―― さらに厳しくなったっ!! ――と誰もが思い、必死になって神たちを追いかける。


「…優夏ちゃんが変んー…」と春菜が目ざとく優夏の変化を知った。


「いろいろとお勉強しただけよ」と優夏はいつもの調子で答えた。


そしていつもの優夏に戻っていることを春菜は察したが、言葉を放つ前と今とでは、まさに構えていると感じる。


なにか、大きなものを隠しているのではと感じるのだ。


「詳しい話を聞かせて!!」と春菜が春之介に向けて叫ぶと、「今日の夜にな」と春之介はいつもの調子で言った。


「なんだか、疎外感を感じるわぁー…

 まるで他人になったような気分んー…」


「そんなわけないだろ?

 春菜以外はそれほど興味を持っていないというか、

 気にしないというか、

 もうついていけないというか…」


春之介の言葉が一番の正論で、気の強い麒琉刀と浩也ですら、―― 二軍が今のポジション ―― ともうすでに悟っていた。


もちろん春菜も麒琉刀たちの仲間だが、優夏だけではなく春之介の変化にもなんとなくだが気付いているのだ。


ほかの者はその違いには気づいていないだけなのだが、この差は大きいのだ。


「…うふふ…

 悪魔と戦ったわ…」


優夏の言葉に、誰もが目を見開いて、「その先も話せ!」と春菜が叫んだが、優夏は笑みを浮かべてスピードを上げた。


一軍のこの先のウォーミングアップのスピードはこれ、と言わんばかりに、春之介と神たちは平気な顔をして優夏について行く。


100メートルダッシュをしているのと何も変わらないスピードに、もうこの時点で追いかけることは断念した。


しかも、ウォーミングアップが長い。


これも特別メニューだと思い、ここは春菜がリーダーになってキャッチボールを始めた。


そして守備練習を始めたのだが、春之介たちはまだ走っている。


ついにはこの時間の練習が終わってようやくペースダウンを始めた。


「あと二周で100キロです」


一太の言葉に、「ランニングコースを創んなきゃね」と春之介は苦笑いを浮かべて言った。


そしてランニングを終えた神たちは風呂に行ってから春菜たちと合流して勉強部屋に入って、大いに勉強をした。


よって、練習のメニューが変わっただけでそれ以外は何も変わっていないことに、春菜はこれ以上の心配はしないことに決めた。



夕食には、なんと浅草家当主と八丁畷家当主までもが顔をそろえて、春之介だけを見入っている。


「あのさ、言っておくけど、俺が養子のようなものだから」と春之介は言って優夏を見た。


「優夏の考えひとつで、何もかも大いに変わるから。

 誰も文句は言えないよ。

 ここは弱肉強食、だな」


「さすがに今すぐにはできないわ。

 乱暴な子供たちが増えちゃうから」


『いえ! 大丈夫でおじゃる!』と春之介と優夏の頭に潮来の言葉が響いた。


「そうですか、それは助かった…

 この地球の全権は潮来様に握っていただきますよ。

 俺たちが大いに楽ができるので」


『あい分かった!』と潮来は上機嫌で答えた。


「潮来様は神でも何でもなく人間だから。

 そして欲には大いに敏感だから気を付けて接触した方がいいよ。

 もうこの先は、親族などはそれほど関係ない世界になるから。

 俺と優夏に必要なのは、素晴らしい力を持つ仲間だけだ」


「…春之介言いすぎだ。

 それに優夏ちゃんは何に酔ってるんだ?」


浩也が大いににらみつけて言うと、「…さすがお兄ちゃん… 春之介、今はいつも通りで…」と優夏は眉を下げて言った。


「…優夏ちゃんが怖い…

 もしへそを曲げると、まさに春之介が言ったことが起きる。

 春菜ちゃんよりもさらに大きな女帝となった」


「…多分、そうなりますぅー…」と優夏は他人事のように申し訳なさそうな顔をして言った。


そして浩也が神たちを見ると、春之介よりも優夏に意識を向けている。


「食後に聞く、今後の予定を楽しみにしておくよ」と浩也が言うと、「…お兄ちゃんは連れてくぅー…」と優夏は言って春之介を見た。


「兄ちゃんにも都合があるから…」と春之介が言うと、「…真由夏ちゃんがまだ使えないからなぁー…」と優夏が大いに残念そうに言った。


「真由夏のせいのようなことを言わないでくれ。

 納得がいくことだったらおまえたちについて行く」


「お兄ちゃんは、もう学校に行かなくていいの。

 もちろん私たちも」


優夏の言葉には魔法がかかっているように浩也は感じた。


全く納得していないのに、頭を垂れていたのだ。


「私も源君も、あっちの王と女王に勝ったの」


優夏の言葉に、誰もが大いに目を見開いて、言葉を失ってしまった。


「ふたりとも、宇宙の神以上なの。

 そういった人が、人間ごときの学校に行く必要があるって思う?

 万有源一だって、私たちとほとんど年齢は変わらないのに、

 学校に行く必要はなくなっていた。

 私たちはそれをかわいそうに思っていたけど、

 今はその気持ちはまるでないわ。

 私たちはこの星を出て独立もできるの。

 もうあっちに、私たちの城を創ったから。

 春之介がその説明を後でするから、

 楽しみにしておいて」


優夏は笑みを浮かべて語ってから、今まで以上に上品に食事を始めた。


「…春君は優ちゃんに怯えてる…」と春菜が言うと、「ああ、その通りだ」という春之介の言葉に、もう誰も春之介と優夏を見なかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ