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7話 君が、好きだ(練習)

「はい?」琴音の突飛な提案にぽかんとする。


「練習ですよ練習。本番の時噛んだりしたらまずいじゃないッスか」


「たしかに?」


「だから告白の練習するッスよ。私を好きなひとにみたてて」


「なるほど?」


「とりまやってみましょ。ほら」


「告白……セリフって何言えばいいんだろう? 君の瞳に恋した、とか?」


「それはキモ……いやヤバイっス。告白というか口説きですし、センパイのキャラじゃないッスね」うぇ、という表情をしながら言う。そんなにまずいセリフなのだろうが。


「なら月が綺麗だね、とか?」


「悪くはない……ッスけど、ギザっぽいっス。それに初詣行って夜までいるんです? 昼間そのセリフ言ってたらシュールっすよ」


「普通に、君が好きだってのは」


「うん、いいっすね。 シンプルイズベストが一番かもっス。とりあえずためしてみたらどうっすか? 練習なんで何回かやってもいいですし?」


「わかった」僕は琴音の方に向き合い、一度目を閉じる。


 想い人を、思い浮かべる。ゆっくりと、目を開けた。


「……ぷぷ」何故か琴音は頬を少し膨らませて堪えている。


「え……何……?」


「いや、なんか真面目な表情の先輩見てたら笑いが……ぷぷ……」


 僕は黙って彼女のほっぺを左右に引っ張る。


「いででででで!!」

 

 ゆっくりと上に持ち上げる。


「いだいいだい!! すひません! もふわらわないっふから!! ゆふして!! ごへんなさい!!」僕の腕を掴み涙目を少し流しながら謝る。


 許してあげることにした。ぱっと手を離す。


「んひぁっ」情けない声をあげながら琴音は後ろに倒れ込んだ。


「うぅ、すみません……笑うつもりはなかったんス……」つねられたところを手のひらでさすっている。


 まあ、気持ちはわからないでもない。


「もう絶対笑わないッス。センパイの気持ち、しっかり受け止めますから」起き上がり、正座をして僕の方に向き合う。


「いや練習だけどね?」


「よし、かかってこいッス」ぱんぱん、とほっぺを軽く叩き真面目な表情になる。


 なるほど、笑いそうになる。僕のせいだけれど、ほっぺが少し赤くなってるのも相まって笑いがこみ上げてくる。


「……ぷ」と思わず漏れそうになる。


「え、センパイ? いま笑いかけませ」ゆっくり琴音は僕の頬に両手を持っていく。


「いやいやいや! ふぅーって仕切り直しの溜息ついただけ!」ふに、と軽くつままれながら僕は慌てて言い訳をする。


「ふーん、そうッスか」琴音は手を離しつつも訝しげな表情だった。


「ごめん、笑いそうになった……誤魔化してごめん」と、僕は正直に謝る。そして「いいよ、思い切りつねって」と言う。彼女の両手を自分の頬に持っていく。


「センパイ、もしかしてMッス……?」ちょっと引きかけた表情だった。


「いや、ことねに酷いことしたのに、自分が逃げるのは違うなって」


「酷いことされたのは私が悪いからいいっスけどね……。じゃあ遠慮なく」手のひらで僕の頬を掴みぶにー、と引っ張る。あんまり痛くない。


「ふふっ変な顔ッス。そうだ、センパイ私のスマホで自撮りしてくださいよ」一度手を離しカメラを起動し、スマホを渡す。僕は言われるがままにカシャ、と

とる。


「晒したりしないでよ」


「大丈夫っス。自分用に永久保存しますから。まーこれぐらいで許してやるっス」そう言って手を放した。



 仕切り直す。僕と琴音は立ち上がり向き合った。



「告白いつでもどうぞッスー」


 再度、好きな人を想い浮かべる。


 僕の想い人は氷のように静かな人だった。琴音と対極で雑談はほとんどしなかった。彼女の瞳の奥は、悲しみに佇んでいるように見えた。僕といるのが苦痛というわけではないはず……学校で会う時も同じ瞳だったから。


 そんな氷の瞳を思い浮かべ、目を開ける。まっすぐ相手の瞳だけを見つめる。相手もしっかり見つめ返してきた。


 少しの沈黙。ゆっくりと相手の両手を取り、自分の両手で包み込む。


 ――そして、告げる。


「君が、好きだ」

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