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風の鳴る頃  作者: フィング
9/9

9 悪戯に潜む霊

 テスト週間になると、作品を投稿するか悩むばかりです。

 時はしばし流れ、押し寄せるように来た疲労も幾分かマシになってきた。


「そろそろかな。復活するのは」


「できれば、こうなることを明確に教えてくれればよかったのだがな」


「そうピリピリしないでよ。ただまあ、悪戯心があったって事は認めるよ」


 おそらくこの言葉に嘘はない。ただ、言葉足らずなだけで。本当に食えないやつである


 そうしてふてくされたシーナだったが、それに構わず風鈴は彼女の手を引き、そして呼んだ。


「シーナさん、早速ですが散歩にでも行きましょう」


「突然だな……私は行きたくないぞ。外は暑いし」


「今のシーナさんなら、気温で不快感を覚えることはもう無いと思いますよ」


「………なに?」


 たとえ突拍子もない発言も、信頼の示すがままに信じると言いはしたものの、やはり疑心暗鬼にもなる。

 ただでさえ、疲れて熱を帯びているというのに、日差しが煌めくその下で立ちたいとは思わない。というより、この場所が快適過ぎるのだ。


「いや、死なないと言われてマグマに突っ込むやつがいるか! 私はいかないぞ」


「なんも大げさな……その当たり前な思考も、これからは仇になるだろうな」


「それはどういう……ってか、振りほどけない!?」


「無駄な抵抗はやめたまえ〜」


「止めろー!」


「………まるでシーナ様を子供扱い」


 外見も相まって、駄々をこねる大人を、少年が慰めながら外へ連れ出すといった不思議な構図である。

 そんな様子に呆れながらも、それを傍観するパロンもその後を追っていった。


 =☆☆=☆☆=☆☆=


 扉をくぐり抜け、外に出たという実感は、はじめ得られなかった。日差しは至って眩く火照ってるのに対し、それでいて肌が焦げる感触も、空気が温く感じることもなかった。


「どういうことだ。まさか外にいると見せかけて、まだ屋敷内にいるとか」


「第一声の感想がそれですか。どうも現実を受け止めきれてない様子ですね」


「当たり前だ。我が種族は熱への耐性が低いことで有名なんだぞ。なにも対策なしにここまで快適に過ごせるなんて革命だぞ」


「薄々感じてましたが、やっぱり種族的な問題だったんですね。汗もかかないようですし」


「いや、汗はかいてるぞ。ただ目に見えない蒸気として出ているだけで」


「植物みたいですね。ちなみに種族としての総称はなんて言うのですか?」


「ノーォメンだ」


「能面?」


ノーォ()メン()だ」


「宇宙言語って、言いにくいですね」


「逆に、この国の日本語は覚えにくいぞ」


 いったい宇宙人と異文化共有している人間がこの世にどれぐらいいるのだろうか。といっても、実際にシーナ以外に人と交流を深める地球外生命が居ようものなら、粛清対象となるようだが。

 今はまだ、あの者の存在を伝えるのはよしたほうが良さそうだ。


「……ところでシーナさん。なんとも視線があっちこっちに飛び回ってるようですが」


「ああ、なんとも言えない何体生物があっちこっちで飛び回ってるからに決まっている。あれは何なんだ?」


 彼女の目に映るもの。それは、人形あるいは犬にも鳥にも姿を変え、大きさや動きの活発さも個体によって違いが見えた。

 もちろんどの生態系にも当てはまらず、むしろ生物であるかどうかも疑わしかった。


 その内の一体が、流されるようにしてシーナに寄って来た。不意にそれを受け止めようと手をのばすが、冷ややかな感触を伴うだけで触れること自体はいとわず、すり抜けていった。

 さらに、悪戯にもそれは自分の荷姿を模し始め、遊ぶが餓鬼の如くも無邪気に動きを真似る。


「面白いでしょう。それが一般的に幽霊と言われる存在だよ」


「話には聞いていたが、こうも身近な存在だとは思わなかったな」


「こう見えて存在が薄く、霊感がある人でも見える者はわずかだよ。それが見えるってことは才能あるよ。それとも、生物的な特性なのかな?」


「なあ、これ纏わりついて取れないのだが。あとゾワゾワする」


「気に入られたみたいだね。試しにそれ、パロンに移してみたら」


「パロンに?」


「私にですか?」


 移すと言われても、どうすればいいのか、はたまたどうなるのか見当がつかなかった。そのはずなのに、不思議と手を差し出していた。


 初めて霊に触れた先程のように。


「……あれ? えっと問題、発生? 視覚機能に損傷……無し。じゃあこれ何?」


「ああ、落ち着けパロン。それが風璃の言う霊と言うやつらしい」


「承知しました。これより種族名『幽霊』の生態をインプットします。観測率0.2%です」


「あー、観測できるのか? できるなら頑張ってくれ」


「はい」


「天賦の才ですね。過去に飽き足らず、ですかね」


「過去に……確かに、似たような事を過去に何度も言われたな」


 感が良いというべきか。知るはずもない過去をこうして話題に出すのはなんとも違和感の拭えぬ言動だが、察しはつく。恐らく風璃の能力である『風の知らせ』によるものであろう。


「さて、触れ合いはこれぐらいにしましょうか。この霊について話して行きましょう」


「ああ」


 そうして、風璃は先導するように道を進み、人気のある場所までやってきた。また、人が増えるにつれて、霊の数も増えてきた。

 不器用ながらもそれは人と共存するかのように立ちふるまい、その様子からは少しばかりの和ましさを感じさせられる。


「この霊達なのですが、基本有害です」


「…………は?」


 唐突に話しだしたかと思いきや、先程まで触れていた存在を彼は、有害と言い放った。


「ふふ、いい顔しますね」


 そして、なんとも言えない気さくな笑みが湧き出る感情の正体を惑わす。怒りか、笑いかなどと、不意であるが故に判断できなかった。


 霊の異常性に気づくより先に、風璃の鬼畜さに恐怖さえ覚えることとなった。

次回はいつも通り未定。気長に待てれ

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