国士無双十三面待ち
マージャンを知っている人なら、誰でも知ってるだろうけど、『国士無双十三面待ち』って役は上がる事がかなり難しい。技術がどうこうってのじゃなくて、単純に揃う確率が異常に低いんだ。だから、もし上がれたら、どころかテンパイできただけでも、けっこーそれだけで奇跡的な事、なのだけど、どーいう訳だか、ある時にその奇跡の極上が起こってしまった。
その四人… Aと、Bと、Cと、Dは(この物語では、名前なんかどうでもいいので省略します)、マージャンを打っていた。で、どうした訳か四人が四人とも、手が悪かった。で、それで、偶々四人とも国士無双を目指したんだ。そうして、なんと四人が四人とも『国士無双十三面待ち』をテンパイしてしまった。それこそ、天文学的な確率で。
だけど。
マージャンってのは、一つのパイにつき四個までしかない。でもって、国士無双ってのは、一と九と字牌(これをヤオチュウ牌といいます)の13種を13個と、更にそこに、そのヤオチュウ牌内のどれか一つが加われば完成となる。で、四人がそれを一個ずつ持っているって事は… そう、つまり、余分なパイは一つもなくって、誰も上がれないって事になるんだ(マージャンを知らない人は、イメージし難いかも。ごめんなさーい)。
四人とも、もちろん、緊張していた。絶対に出る。何しろ13個も待ちがあるのだから。そう思っている訳だ。でも、誰も捨てない。すると、少しずつだけど、皆が皆、疑心暗鬼になっていった。
A、
……おかしい。こいつら、後ろで誰か通しでもしてるのじゃないか? 確かに、国士無双っぽな雰囲気はあるかもしれないが、誰も捨てないってのはおかしい。
B、
……おかしい。
絶対に誰か捨てるはずだ。
C、
……ここAの家だからな、まさか、こいつが仕組んでイカサマでも。
D、
……。
A、
……もし、裏でなんかやってるのなら、絶対に主犯格はCだ。こいつ、オレに彼女がいる事を妬んでたからな。
B、
……イカサマだとすると、どーやって見破ってるのだろうな? 鏡か?
C、
……イカサマだとしたって、十三面待ちだ。ツモってやる。
D、
……。
A、
……かまかけてみるか。
「そういや、オレ、今度の日曜はデートでさぁ その資金の為に、絶対負けられないのよね、このマージャン」
……どうだ? 反応は?
B、
……なんだ? 今の台詞は、突然。不自然過ぎないか? もしかして、今のが何かのサインか? それで、皆に何かを通してるのか?
C、
……こいつ、ここに来て、彼女自慢かよ。頭来た、絶対ツモってやる。
D、
……。
A、
……微妙な反応だな。分からん。
B、
……サインだとすると、なんだ?
C、
……ツモれ〜
D、
……。
A、
……まだ、誰からも出ない。やっぱり、絶対におかしいぞ。
「オイ、いい加減にしろ、お前ら」
B、
……あ、なに言ってるんだ?こいつ。
「何の事だよ?」
C、
……うん?
D、
……変だな。
A、
……もう、我慢の限界だ。
「キタナイ事、しやがって」
B、
「あ?」
C、
……なんだ? まさか。
D、
……やっぱ、変だ。
A、
「イカサマしてるんだろ!」
B、
「は? そりゃ、こっちの台詞だろうが!」
C、
……こいつら、まさか、喧嘩始めて、このマージャンを有耶無耶にして、俺に国士を上がらせない気じゃないだろな。
D、
……うーん。
A、
「なんだと?」
B、
「やんのか?」
C、
「お前ら、その手には乗らないからな。喧嘩なんかして、誤魔化すな!」
そこまで来て、興奮状態の臨界点。三人がぶつかり合いそうになったその瞬間だった。そこに、妙な間ができた。
で、
D、
「……あのさ」
そのタイミングで、Dがこう言ったのだ。
「誰も、ヤオチュウハイ捨ててないぜ。今まで。これ、おかしくないか?」
その言葉で、三人は顔を見合わせた。そして、その瞬間に、三人とも、まさか、という顔をしたのだった。そして、四人はなんとなく、察した。この事態を。
それぞれの手を倒してみる。
国士無双十三面待ち。四人テンパイ。まさしく、奇跡だった。
でも。
これくらいに意味のない奇跡も、珍しいかもしれない。