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2 俺と弟、覗き行為にビビる。

「いや、やっぱまずいよ兄ちゃん」


 言葉がちょっとおぼつかない妹分と、母性ばかりが溢れている見た目少女な姉分の裸を拝みに俺達は歩いていた。

 いや、文字に起こすとやべーヤツ等だわ俺達。その自覚はある。

 二人はちょっと離れた泉で水浴びをしている。

 こんな異世界に季節という概念があるかは不明だが、気候は日本の夏を思わせる過分に湿度を孕んだ不快な暑さが肌にまとわりついてくる。

 清潔さを売りにしていない俺だってひとっ風呂浴びたいくらいだ。


「ダイジョブだって、男女交代で水浴びするって約束だっただろ? ちょっと時間間違えちゃいましたてへぺろとかでイケるって!」


 妹分であるカゲは別に裸体を見られてもなんら反応を示さないだろうし、姉分であるカーヤはどうせ母性を持て余している。

 ちょっと窘められるくらいで済むと俺は読んでいた。


「いやいやイケないって、どういう計算をしたらイケるって思えるのか逆に不思議なくらいだよ!?」


 わかってる。俺だってわかっている。見積もりはどうしようもなく甘い。

 でも溜まりに溜まった性がそれらの判断力を著しく低下させている。と思いこんで、それのせいにして、もう行っちまおう。


「なぁ弟よ。異世界だぞ? もっとこう、なんつーの、なんか色々あってもいいと思うんだ、ご都合主義の無双とか、ラッキースケベとかさぁ。

 今までそんな事あったか? 一回ッ!!! 一回だけでいいんだ。どうか俺にこの肥溜めみたいな世界がクソじゃない可能性がほんのちょっとでもあるかもしれないと信じさせてほしい。

 具体的には女体を拝むことでッ、そう思わせてほしいッ!!!」


 心のどっかで無茶苦茶言ってんな、とか。なに言ってんだコイツ、とか。俯瞰で自分に突っ込んでいる俺がいるが、こうしてパッションに身を全任せしている俺も間違いなく俺自身だ。三十路おじさんだ。

 弟はそんな俺に理論は通じないのだと悟ったのだろう。伝えたい言葉は届かないと至ったのだろう。


「いい? ちょっとだけだからね。ちょっと見たら帰るからね?」


 なんだかんだ乗ってくれるムッツリ弟くんなのだった。



 というわけで歩いていく。

 幼女と少女の裸体を拝むべく歩を進める。

 メンバーは俺と弟の二人であるが、二人とも徐々に口数が減っていく、緊張しているのだった。飲み込む唾の音すら響いている気がする。

 当然俺達は日本でのぞきや盗撮といった犯罪行為をしたことがない。また、マンガとかアニメとかでありがちな女湯を覗きに行くといったイベントを体験したこともない。

 犯罪とは無縁で生きてきた、と思う。

 一歩一歩ごとにのぞきという行為に対する罪の意識というやつが鎌首をもたげる。

 考えなしの行動ではあったが、日本で学んだ規律がそれをぎりぎりで静止させてくるのだ。

 いや別にそれが悪いことだとは言わないケド。

 最初の一歩を踏み出してしまったが故に、やっぱり止めない? とたった一言のチキン発言が出来ない俺。

 性欲が暴走一歩手前のお兄ちゃんのガス抜きになるのならこれは致し方ないと、いやいやながらもうっかり承諾してしまった弟。

 こうして二人はたった一言を発しきれないままここまで来てしまった。

 幼女と少女が水浴びをしている湖までたどり着いてしまった。

 草陰に隠れて、覗かぬように少女たちから背を向けて、頼む、やっぱやめない? って言ってくれと互いに変なけん制を目線で行っている。

 なんだかんだ俺達は血の繋がった兄弟だ。けんかの後、お互いに謝りたいのに謝れないあの微妙な空気感にも似た今、どちらももう覗きに消極的なのはなんとなくわかっている。

 でもお互いに心が読めるわけではないので、それが確信でない以上動き出すのも躊躇われる。そんな状況。

 背面では少女たちがキャッキャウフフと水をかけ合っているのが聞こえる。

 俺達の心情なぞ露知らずと楽しそうな声が響いている。

 それらの声を聴いても、もういまいち乗り気ではない。むしろなぜさっきまであんなに怖いもの無しなほどに乗り気だったのかも思い出せない。教えてくれさっきまでの俺。

 もう全部無かったことにして帰りてぇええ。


「ねぇ兄ちゃん、やっぱ止めない?」


 ふと、弟がそう切り出した。

 そうとう勇気を振り絞ったのだろう。先に言いだす勇気が如何に尊いものか俺は今、こうして実感している。心がじーんとしている。


「…しっかたねぇなぁ。他でもないかわいい弟の為だ。そうしよう」


 一応俺はこいつのお兄ちゃんである。

 ここまできて何を今さらと思うかもしれないが、兄としてのプライドがほんのちょっとある。それを守る為に、弟がそう切り出したから兄である俺は折れてあげてそれに従ったというポーズだけも取る。

 弟に気を使ってもらっている時点でそんなもん皆無であるのはわかっているが、それでも貫きたい変な誇りとやらがあるのだ。


「うん、ありがとう兄ちゃん。じゃあ、さっさと戻ろう?」


 あくまでも俺を立ててくれる非常に出来た弟様が、戻るぞ、と手でジェスチャーし先行する。

 俺もそれに従い、少女たちに見つからないようにバックれるだけである。

 とりあえず少女たちの目線から外れるまでは四つん這いでここを去ろうと一歩目を踏み出した。

 なにかがポケットからポロリと落ちるのを感じた。いや、何かがじゃない、入っていたのはライターだ。

 この異世界で当然魔法なんてつかえないあまりにも非力な俺達を何度も助けてくれたスーパーお助けアイテムだ。

 しかし、今はそんなおたすけアイテムに向ける感情は怒りしかない。

 なんで今落っこちやがるんだよ、しかも後ろに、うまいことライターの角が地面にぶつかって転がっていくんだよ。

 ウソだろと血の気がサァっと引いていく。いやまだ大丈夫、草むらが俺達と少女達の間にある、目隠しとなってくれている。

 さっさとライターを回収してずらかろう。

 ライターは転がっていく、まるで意志があるかのようだ。あんな小さな長方形がうまい事転がっていく様になにか誰かの悪意すら感じる。

 そのままライターは俺達と少女の中間。目隠しとして機能してくれている草むらに入ってしまった。

 こうなるともうこれ以上引く血の気も残ってない。

 弟に助けを求めようと前を見ると、何やってんだよ!? と呆れたような怒っているような顔をしていた。ああ、これは助けなんて求められる状態ではない。

 仕方ない。もう本当に仕方がない。

 こうなれば、少女達の裸体を覗かないように草むらに手を突っ込んでライターを回収するしかないので、草むらに手を突っ込んだ。


「痛った、ウソ、なにこれ痛ぇ、いてぇええええ!!!」


 幸いにして、ライターはすぐに回収できた。

 だが、俺にとってなにより誤算だったのはその草むらには鋭いトゲが生えていた事。

 そこに無防備に手なんか突っ込んじゃったモノだから、そりゃあ手はズタズタになる。そりゃあ、痛みを訴える叫びも出る。


「兄ちゃん、ちょっと声抑えて!!!」


 彼女達に聞こえてしまう。それを危惧して弟が俺を窘めるが、それを聞き入れるほどの余裕なんて皆無だ。だって腕めっちゃ痛いんだもん。

 痛い事への反射行動。手を突っ込んでトゲが刺さって痛いのだから、思わずそこから勢いよく腕を引っこ抜く。


「いでぇええええええええ!!!!」


 さらにトゲが俺の腕に突き刺さった。

 もう声なんて抑えられない、いやこれムリ、叫んじゃうこんなん。

 更に痛みに耐え切れず、俺は跳びあがっていたらしい。


「…………」

「…………」


 水浴びしていたカゲとカーヤにがっつり目が合っていた。

 弟は、あちゃーと手のひらで顔を覆っている。

 いや、あちゃーは俺のセリフだけど? 今それを言って良いのは俺だけど?

 俺の乱入に対して、カゲは別になんらリアクションを起こさない。ああ、にーちゃ来たんだ。くらいである。

 だが、カーヤは違った。

 目に見えて顔が紅潮し、胸を隠し、思い切り目を瞑って。


「きゃあああああああああああああああああああああ!!!」


 この世の終わりくらいに叫んでいた。

 こんなん思わずビクンて体も跳ねる。

 そしてカーヤを中心として水面が揺れる、そして跳ねて、次の瞬間、なんかすごい光が一直線に俺を貫いた。と思うたぶん。

 体に電撃のようなものが走り、身体の箇所箇所が四散されようとバタバタ暴れ、あれコレ死ぬ? もしかして死ぬ?

 気を失うのを止められるはずがないじゃん、こんなん。


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