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1-8 命を弄ぶケモノ

「あっぶねえ‥‥‥」


 九死に一生を得た。ファンタジーすぎて原理はよくわかんねえけど、これだけはわかる。

 間違いなく今、臨死体験していた。

 あのまま、うわぁ光の珠キレイだな~。なんて空に昇っていくそれを見続けていたらお亡くなりになっていた。

 そして自分の危機を乗り越えて周りを見渡すと辺り一面に光の珠が浮かんでいた。

 さっき弟が殺めた村人たちの命であると思われる。

 それらがゆっくりと弟の方へと向かっていく。

 宙に浮かんだ光の珠が流れていく様子はひどく幻想的でこんな極限状態でなくれば嘆息していただろう。

 ただ、窮地は脱したとはいえいまだ吐き気自体は収まっておらず俺の命も隙あらばあの流れに参列したがっているようだ。

 なんとか飲み込んだ俺の命も参列したいらしく、ひたすら体の中で暴れる。

 死にたくねーのに、命が勝手に死に向かいたがっている。

 そのうち磁石に引きつけられるように俺の身体がズルズルと弟の方に引っ張られ始めた。


「ざっけんな、ぜってえ離さねえからな‥‥‥」


 そう強く思うことででなんとか踏みとどまり、命が弟に流れていくさまを見ながら弟のほうへずるずると引っ張られていく。

 そうして弟から10メートルほどの所で俺以外の命が全て手中に収まったようで俺の身体はようやく止まった。

 命が暴れることも終わった。マジ助かった。

 弟に対する安全距離をわかってたつもりだったけれどまだまだ見積もりが甘かったと、弟の化け物ぶりにうすら寒いものを覚える。

 命の珠は弟が何気なくのばしたてのひらに集約されていく。

 命を刈り取ってそれを集める‥‥‥死神かよお前。

 不快な振動はいつの間にかなりを潜め、後に残るは嫌になるくらいの静寂。

 弟は歩き始める。

 目は相変わらず虚ろなまま、ただその足取りはしっかりとしている。目的はどうやら明らかなようだ。

 たどり着いたのは弟がブチ切れた場所。トカゲニンゲンのコドモが虐殺された現場だった。

 弟は片膝をつき空いた手でぼろ雑巾のようになったトカゲニンゲンのコドモを抱きかかえる。

 よくあんなにボロボロになっちまった生物に触れんなアイツ。自動車にひかれた動物には触りたくない派の俺はそんなくっだらないことを考えていた。

 そうして、弟はコドモトカゲニンゲンに光の珠を押し付けた。

 村人すべての命をたった一人の個体に与える。

 ゆっくりとコドモトカゲニンゲンに吸収されていく命。

 こうなると弟がやろうとしていることは、村中すべての命を使って被害者であるトカゲコドモニンゲンを生き返らせようとしているということであって。

 命の復活、もとい誕生という字ずらだけならばひどく感動する場面であるはずなのに、俺が思ったのは、抱いてしまったのは勝手に命を奪って勝手に命を復活させるという強者の強者たる生殺与奪に対するなんとも言えない嫌悪感だった。

 まあ、俺がそういうのを抱こうが抱くまいが押し込まれた命はこれなんかようわからん理屈で作用し始める。

 コドモトカゲニンゲンの肌には艶が戻り。ビクンビクンと壊れたおもちゃみたいに暴れはじめた。

 ゲームとかだと呪文一つで蘇る命。聖職者に金を払えば戻ってくる命。

 蘇らせるのにこんなに犠牲を払うものなのだと、なんか呆れた。

 でもまぁ壊すより作るほうが圧倒的に難しいのは自明の理で。そういうものなのだろう。

 俺は今、生命の誕生を見ている。いや命への冒涜か? まぁどっちでもいいか、大差ねぇーし。

 必死に産声を上げるソレ。

 コドモトカゲニンゲンからボロボロとウロコが剥がれていく。押し込まれたヒトの命が記憶しているカタチへと変化していく。

 ウロコはところどころ剥がれてそれでもいくつかは残って、顔つきはヒトのカタチを模り、指はヒトとトカゲニンゲンの中間である4本へと、地面を擦るほどだった尻尾は半分以下に小さくなり。

 どちらかというとヒトに寄ったトカゲニンゲンといった様相だった。

 そしてそこまでを見届け、コドモトカゲニンゲンの復活を見てようやく安堵したのか、命を弄ぶケモノこと我が愛おしのマイスイートブラザーは気を失った。


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