表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/212

1--5 0:100で被害者/加害者ってまぁないよね

「なんじゃ、どうした!」


 じーさんと一緒にその破裂音がした方へと駆けだす。もうその表情に厳つくしたたかさは全く無い。

 たどり着くとそこには弟がいた。こんな惨劇の中心に。


「なんじゃあこりゃあ‥‥‥」


 さらに、そこにはトカゲニンゲンだったものたちが転がっていた。

 そのかつてトカゲニンゲンだったモノたちは、先ほど弟が相手取った個体より明らかに小さくて全体的に丸みを帯びたフォルムからも恐らく子供だというのがなんとなくわかる。

 そしてそのコドモトカゲニンゲンだったものはいくつも杭が突き刺さっていた。

 まるで吸血鬼に対する処方のようだ。

 あらゆる箇所にそれこそ執拗に打ち込まれた木製の杭。

 地面にはコドモトカゲニンゲンが杭を突き刺された激痛からのた打ち回った跡が地面に色濃く残っていた。

 どう見てもオーバーキルだ。


「なあ、じーさん。あんたたち被害者なんだよな?」


 思わず聞いてしまっていた。

 いや、先ほどのトカゲニンゲンの「これは正当な報復である」の言から多少なりとも咎められるような責は負っているとは思っていたが‥‥‥。

 ここまで加害者の様相を呈しているとは思わなかった。


「当たり前じゃ、このクソ忌々しいリザードマンがワシらの畑を荒らしておったから駆除したまでじゃ」


 ちょっとクラッと眩暈がした。


「いやだって、これ明らかなコドモのトカゲニンゲンじゃん。子供なんてそりゃあ多少はルールをやぶるって、粗相するって、そこは大人として寛容にみてやろうぜ‥‥‥」


 正直、どちらが悪いのかはわからない。

 このヒトとトカゲニンゲンのご近所トラブルの落としどころについてナイスな案がある訳でもない。

 ただ、殺す。というこのもっとも短絡的で直接的な方法だけは正解ではないがする。


「コドモ? なにを訳の分からんことを‥‥‥。害虫の芽は摘めるときに摘まにゃあ、いつ手痛いしっぺ返しがくるかわからんからな。村長として今後のリスクになり得るモノほ放置など出来ん」


 コミュニケーションはとれない。二足歩行。道具を使う。なんらかの言語で種族間の情報共有が可能。

 パッと見、違う点なんて皮膚とウロコ。ガタイの良さくらいだろう。

 けど、こいつらはお互いに分かり合うなんて選択肢を端から考慮していない。

 コイツ等ヒトがそうなのだ、あの時のトカゲニンゲンの様子からも、互いが互いをそう思っているのだろう。

 僕たちは分かり合えるようにできている。

 それが俺達が、日本で、共通で掲げる倫理観だ。

 確かに、世界的に見れば人の命は地球よりも重いなんて極論はお笑い種かもしれない。

 でも多少なりともそれに則って生きてきたのが俺達だ。

 だから、正直言ってこのどうしようもない種族間の溝は信じられない。絶句である。

 無能な俺はその無能さ故、絶句のち棒立ちが精々なところだ。

 おおよそ万能な弟は?

 行使できる力があり、ラブアンドピースが行動原理であり、潔癖症のきらいがあり、ヒトの本質が善であると信じて疑わなくて、ちょっと情緒不安定の弟は?

 こんな悪意の塊みたいな、自己を一生懸命正当化するクッソきったないヒトの側面を見せられた弟は?


「うわああああああああああああああああああああああああああああああ」


 弟の悲鳴が響く。痛烈な悲壮な強烈な叫び。

 よく知りもしないコドモトカゲニンゲンに向けた悲鳴。


「あ‥‥‥やべ」


 俺は即座に駆けだした。

 弟から離れるべく、くるりと回れ右して一目散に走り出した。


「おい、どこに―――グパァ」


 俺の動向に探りを入れる途中で村長だった老人の声が不自然に途切れた。

 怖くて振り返れないが、たぶん死んだ。

 そしてその後に鳴り響く先ほどと違わない轟音。おわりのおと。

 惨劇に理性をフリーズさせた弟が暴れている。

 沈まれの俺の右腕! とか、ヤツが‥‥‥ヤツが‥‥‥来るっ。とか、厨二病の見本市のようではあるが。今の弟の状態は紛れもない沈まれうんたらかんたら状態だった。

 弟は普段、修行と称してなんらかの古武術と相対していた経緯上、その動きはその「なんとか流」の流れを汲んだ「なんちゃって古武術」なのだが。

 こうなった―――意識を手放して戦闘を行う弟の沈まれ俺の右腕スタイルはケモノのそれだ。

 原理のよくわからん遠距離攻撃とこれまた理屈のよくわからん一撃必殺を携えた分類上くくることができないであろう弟という絶対無二のケモノだ。

 そして途切れることなく、響く誰かの悲鳴。あと何かが壊れる音。


「あ~あぁ。こりゃあダメだわ‥‥‥」


 結構な距離逃げて、安全を確保し、木に登って村を見て、俺は思わずそう呟いていた。

 いろんな惨劇が見える。

 子供を先に逃がそうと弟の前に立ち塞がる親。子供ごと何かに貫かれて絶命。

 眼前で大切なヒトを殺されて激昂し投石するも、羽虫を除けるようにはじかれて絶命。

 戦いを放棄して命乞いをするも、言葉が通じず潰されて絶命。

 罵詈雑言を投げかけるも、千切られて絶命。

 ただ恐怖に突き動かされて逃げるけれど、弟が軽く手を振ったら絶命。

 ひたすらに絶命劇場が広がる。R-18Gの映画くらいに簡単に人が死ぬ。

 ただ、映画と違うのはその死に順番なんてない。別に死亡フラグを立てようが立てまいが死ぬ。

 内ポケットに家族の写真とかなにかしら忍ばせていてもそんなん関係なしと死ぬ。

 あらゆる善行も悪行も加味されず死ぬ。

 どこかに向けて必死に祈るヤツもいるがいずれ死ぬ。ってか祈るって万国共通なんだな。

 まだ生きている人間もいるが、時間の問題だろう。

 俺にはどうしようもない。

 どうにかしようとするような親しいヤツもいないし。

 まーどーにでもなれってな感じである。結局諦め精神って大事だよね。

 そうして、俺は何かに言い訳して、惨劇が止むまでぼうっと村を見ていることにしたのだった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ