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1-3 俺、交渉を試みる。

「なにが望みだ?」


 俺の言いたいことを覚ったようで老人は相も変わらず無愛想でいかつい表情のままこちらを値踏みするように見上げて告げる。

 ただその瞳には、ようやくこの得体のしれない俺達の目的がただの報酬とわかって、自分の理解できる倫理観に基づいているようで少し安心しているようにも見えた。

 ふむ、それにしてもさて、報酬である。

 どれくらいもらうのがこの異世界的には正しいのか?

 ちょっとふっかけるくらいがちょうどいい、そんで値切られながらこの世界の価値観を計ろう。

 こういう交渉を弟にするともう悲しくなるくらいロハでやってしまう。こういう疑い深い世界において逆に疑われるような価格設定でやってしまう。

 そんなわけでこの手の交渉は弟には任せられなかった。

 まあ、どうせ弟にはこの異世界語がわからないのだから、出来ないのだが。


「なあ」


 騙しそうな悪人ヅラして弟に告げる。


「なに。兄ちゃん」


 弟が答える。騙されそうな聖人ヅラして、呆れるような全幅の信頼をもって俺に答える。

 お前はもうちょい人を疑え、と思いつつ、俺がその善意に思いっきりおんぶにだっこなためそこは思いつつ思うだけである。


「俺は今からこの長老と報酬の件でちょっと長話になるから、そこらへんを散策でもしておいてくれ」


「え、報酬なんていいよ。助かった人がいました、めでたしめでたしでいいんじゃない?」


「ここが日本ならそれでいいんだろうけど、このスーパー他人を信じないクソ異世界じゃあなんかかえってタダのほうが疑われるんだよ」


「??? そうなの?」


 やっぱこいつは聖人だわ。

 無自覚に人を堕落させる、ヒトの成長っていう意味ではダメなタイプの聖人だ。


「そんなわけだから、救った権利として義務としてお礼を請求しなければならないのだ。だから、お前はちょっと散策しててくれ」


 弟は確かに言葉が理解できないが、変に勘がするどいのと、表情から俺がふっかけたのを悟られたくないのでこういう場面ではなるべく離すようにしていた。


「わかったよ兄ちゃん。僕にはこの世界のことばがわからないから、任せるよ」


 あっさりと納得する弟。

 俺だってこの世界のことなんてわかりゃしない。もうちょっとヒトを疑ったほうがいいと思う。


「ただし、俺から離れすぎるなよ。俺を守る奴がだれもいなくなるからな。いっとくがな俺はこの世界で誰よりも弱い自信があるからな」


「そんなのをそんな自慢げに言われても‥‥‥」


「いいから、散策をしつつ。お前にとって唯一無二の肉親であるこの俺を守れる位置にいるのだぞ、マイスイートブラザーよ」


「はいはい、わかりましたよ、麗しのお兄様よ」


「いや、お前はまだわかってない。俺がどんだけ弱いかまだわかってない」


「いやいや、わかったよ。もう十分に伝わったって、兄上を守護できる位置からこの不肖弟がお守りいたしますよ」


「うむ。くるしゅうない」


 なんだこのやりとり‥‥‥。


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