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1-2 救った人と救われた人

 村人を襲う恐怖のトカゲニンゲンを異世界モノによくある原理のよくわからんチカラで退け、村人が我が弟のもとへ駆けより美辞麗句を並べ立て英雄の誕生だワッショイワッショイ、となるかと思われだがそんなこともなく。

 物陰から怪訝な表情でこっちを窺うばかりで、恩人に対するアクションじゃねーな。


「なあ、ちょっとここの村人村を救った英雄に対する感謝が足りねーと思うんだけど、お前はどう思う?」


 傍らの弟に問いかける。

 弟はちょっと困ったような表情を浮かべ照れたように髪の毛をいじくりながら。


「いやぁ、いきなりこんなことになったら普通、びっくりしちゃうと思うんだよ。そりゃあ探り探りになるのも仕方ないと思うよ」


「お前はなんだい? 聖人かい? そんなん俺が此度の脅威をこうして取り除いたヒーローです。お礼に金と女と酒と金とあとえーと金を寄こせヒャッハ―と声高らかに叫んでも誰も文句は言わねーだろと思うんだよ俺は、どうよ?」


「いやどうよって言われても、まあ今回は全部を助けられなかったかもしれないけど、こうして確かに守れた命もあったわけだしそれでよしとしようよ」


 だ、そうです。

 呆れるほど無欲だ。うん、なんだ、こいつと俺は同じ人間か? 同じ国で同じような教育を受けたはずなのに、なんでこんなにあり方に差が出る?

 清らかすぎて吐き気がするね。

 個人の武力が軍団を凌駕できうるこんなファンタジーにおいて弟のそんな圧倒的な力があれば支配者側にだって容易になれると思うんだけど、つーか俺がそんな力持ってたらぜってぇ溺れる自信が120%あるのだが。


「そんなことより兄ちゃん。ようやく村の人がこっちに来るみたいだよ」


 探り探り、訝しげにこっちを窺っていた村人たちではあったが、これでは埒が明かないと踏んだのか、いかにも村長っぽい風貌の老人がこちらへと歩み寄ってきた。

 確かに御老体ではあるが、畑仕事で鍛えているからか杖なぞはつかず年齢による衰えはあろうがそれでも細マッチョと言っても差し支えないようなガタイのいい老人だった。

 村長っぽい老人は俺たちから2メートルほど離れた所で止まった。

 なんか距離感からしてはちょい遠い、近すぎてもウザいが、これじゃああまりにも警戒してますオーラが漏れ漏れである。


「このたびは忌まわしいリザードマンの襲撃を退けてくれて感謝している」


 顔は警戒色を色濃く出したまま口ばかりの感謝を口にする。

 もうちょっと愛想よくできねーものかね?


「それはどーいたしまして。それにしても感謝っていうわりには随分と厳つい顔をしてんだなじーさん。その顔は少なくとも救い主を見る顔じゃねーよ。せめてもうちょっと表情柔らかく崩せや」


 警戒されている俺も不機嫌を隠す気もなく、目上に対する礼儀とか知ったこっちゃないと吐き捨てる。


「ふん。それは悪かったの。生まれてこのかたこの顔じゃ」


 これだ。

 俺達はこの異世界に召喚? 拉致? されるまで日本という極東の小国にいたわけであるが、なんというかこんな異世界に拉致られて日本という国の人柄の良さを実感していた。

 なんつーかこの異世界のニンゲンはほぼ愛想が悪い。

 助けられたとりあえずありがとうございますだろうに。

 初めから疑ってかかれという共通認識でもあるのか、まず、最初に良い顔をされたためしがない。


「まあ、じーさんの無愛想で不景気な顔つきの話なんてどーでもいーか。それよりも俺達はこの村の脅威であるリザードマンを退けた。大切なのはそれだ」


「おれたち、なんていうがの若いの。実際に戦っていたのはお前ではなく後ろの小僧じゃないか?」


「いーんだよ、んな細かいことはさ。俺とコイツは兄弟、んで俺はコイツの兄貴だ。指示系統のいっさいを引き受けた司令塔だ、そこんとこオーケー?」


 実際は俺が指揮なんてしなくても弟は最善の方法で最高の結果をもぎ取るだろうが、そこは狭量と罵られようと弟の威を借りた兄でいさせてほしい。


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