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1弟が無双するはなし

兄弟があーだこーだ言いながら異世界で苦労しながら生きていくおはなしです。

毎日ちょっとづつ更新します。

よろしくお願いいたします。

 自分が主人公であったと錯覚してのはもうかれこれ10年ほど前の黒歴史で、今の俺は言えば自分がオンリーワンとかでもナンバーワンとかとも思っちゃいない。三十路の無気力おじさんです。

 俺みたいな路傍の石ころほどこのオンリーだかナンバーだかワンってやつにはなんらかの思いを馳せがちだが‥‥‥。

 そういうこと思うヤツほどそんなもんには程遠い。

 そんなヤツほど代替のきく凡品だ、と。俺はわかっている。わかってしまっている。

 そんないっそ無情な現実を俺に叩きつけたのは我が自慢の弟である。

 そしてそんな自慢のソイツは戦っていた。


「うおおおおおおおおお――――」


 こんな剣と魔法きらめく異世界においても天が選んだオンリーだしナンバーワンな主人公である俺のブラザー、弟は無双していた。

 弟つえぇーーーーってヤツである。

 弟がその腕を一薙ぎすれば、相対する20だか30いるリザードマン? トカゲニンゲン? どっちでもいいや。まぁそんなヤツラがなんやこれようわからん一撃で吹っ飛ぶ。

 トカゲニンゲンもその身に分厚い鱗を纏い、背の高さは2mをゆうにこえ、筋肉量はどう考えても人間には追随を許さぬ天性の戦闘民族っぽいのに‥‥‥。


「はぁっ!」


 弟のようこれわからん一撃に圧倒されていた。

 ようわからん原理でようわからん能力が働いてようわからん過程があってようわからん結果としてトカゲニンゲンの全滅がそこに転がっている。


「なんなんだよぉ‥‥‥」


 運よく難を逃れたトカゲニンゲンが呻く。

 自分たちが喧嘩をふっかけた存在がどういう存在かを理解できないようで、こんな現状を受け入れられないようで――――。


「いったい、テメエはなんなんだよぉぉぉぉお!!!」


 そう叫ぶ。

 ヒトリの? 一匹の? トカゲニンゲンの叫びは恐怖となってほかのトカゲに伝染する。


「あーめん、なみあみだぶつ、いや、異世界ならではの弔いがあんのか‥‥‥まあいいっか」


 とにかくははは、理不尽すぎて笑いしか出てこねえ。ホントご愁傷様。

 俺はちょっと離れた木の陰から合掌を捧げる。

 弟はきっと敵対したトカゲニンゲンを皆殺しにするだろう。

 そうするだけのバックボーンが弟の眼前に広がっている。

 ここは人間の村であり。

 トカゲニンゲンに面白半分に殺された人間や犯された人間や喰い散らかされた人間が転がっている。

 誰が加害者で、誰が被害者が一目瞭然だ。

 トカゲニンゲンも村人を殺しながら「復讐だ!」とか「これは正当な報復である!」とか声高らかに暴れている以上、おそらく村人も一方的な被害者ではないだろうが。

 主人公であり俺の誇りである弟はこんな惨劇を見逃しはしないし。許しはしない。

 そんでそれよりも致命的なのは弟にトカゲニンゲンはおろか、この村の人間の言葉すらその意味の一切が届かない。

 弟は海外語に堪能ではねーし、知っている言語は日本語と高校レベル英語程度だ。

 異世界語なんて当然知識の外側だ。


「うわああああああ」


 そうこうしてるうちにトカゲニンゲンは強者に相対した野生としては至極当然な逃亡を選んだ。

 辛うじて生き延びた8匹がバラバラに誰かが襲われている内に逃げられるように蜘蛛の子を散らすように。

 いや、作戦は悪くないがそんなチンタラ逃げてるようじゃ、皆殺しコースだろう。

 現に弟は腕を振り上げ‥‥‥。いけっ。


「あれ?」


 そして振り上げた腕を勢い良く振り下ろさず、トカゲニンゲンを手にかけることもなくその戦闘行為を終わらせてしまった。


「ちょちょちょ、なんでやめちゃうんだよ~」


 まわりにトカゲニンゲンがいなくなったのをよく確認してから俺は木の陰から飛び出し弟に駆けよりそう言った。


「あとはトドメさすだけだったろ。ど~すんだよ、これでアイツらお前の顔覚えたぞ、報復とかされたらど~すんだよ!?」


 ぶっちゃけ俺には自衛手段は皆無である。だからトカゲニンゲンとの戦闘も隠れていたくらいだし。

 できたはずの危機管理を怠ったせいで報復されてその結果弟が死んでしまったりなんかしたら、俺のこの異世界生活は詰みである。

 だが俺の心配を余所に弟は。


「大丈夫だよ。その時はその時だし、逃げるヤツを背中から襲うのってなんかイヤじゃない?」


 そんなわけのわからないクソの一円にもならない倫理観を振りかざすのだ。


 ああ、そうだ。こいつは主人公だった。

 行動理念の結構優先順位の高いところに人としての倫理観が位置づいているのだった。

 そんないっそ高潔ともよべる歪んだ生き方はこんな剣と魔法のセカイでもいっさい揺るぎがなく、だからこそこいつはどこまでいっても眩く輝く主人公なのだった。

 呆れる眩さを放つ、完全でもなければ無敵でもない、ただ清く正しく強いだけの主人公なのだった


つたない文章ですが、よろしくお願いします。

毎日午前には投稿する予定です。

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