伝説の借金取り
私、レイラ・ラ・ゴーレ公爵令嬢が庭で優雅なティータイムを楽しんでいた時、その男はやってきた。
「金返せ~」
「な…なんですの!? あなた!?」
突然現れた見知らぬ男に驚いて、私は席を立つ。
「工藤涼花! 五十嵐直正様から2002年2月9日に借りた五千万の借金が未完済だ!」
「五十嵐…? そんなの知りませ…! ま…まさか…!?」
「そうだ! 私はお前が借り逃げした金を取り立てに来たのだ!」
この男、私の前世を知っている!?
確かに私は前世で女社長をやっていて、苦しい運転資金を街コンで出会った自称資産家五十嵐直正に借りた。そしてその数か月後に、私はトラックに跳ねられて死んでしまったのだった。
「あれは五十嵐家が代々受け継ぐ大事な財産だ! それを減らすことなく次代へと引き継ぐことを補佐するのが我々中村一族の使命! 坊ちゃまときたら困っている人を見かけてはすぐに金を貸すもんだから、我々が回収しているのだ! 取り立てに関わる数々の困難を乗り越えるため、我々中村は代々魔法使いになっている! 地の果て、異世界の果てまで我々は追い続ける! その在り方から我々中村は『伝説の借金取り』と呼ばれているのだ!」
中村は拳を握って熱く語る。
「そんな…! 死んだら何もかも帳消しでしょう!?」
「そんなわけあるか! お前の借りた金はお前が返せ!」
中村は私の手を掴む。
「痛っ! 何しますの!?」
「もちろん、日本に戻って金が返せるまで働くのだ!」
「え!?」
「さあ、帰るぞ!」
中村が杖を振ると、地面に魔法陣が現れ光を放つ。
白い光に包まれて、私たちはこの世界から姿を消した。
そして――
「ひー。労働きっついですわー」
私は腰をトントンする。
なにせ18年ぶりの労働。
――都内某所のコンセプトカフェ『転生令嬢』では、借金返済のために連日働く本物の転生令嬢たちがいる。
「お金の借り所間違えましたわ…」
はあっとため息をつく。
隣のキャストたちも同様に深いため息をついた。
「わたくしもよ…。わたくし、ハッピーエンド直前でしたのに…」
「わたしは婚約破棄イベント中に乱入されましたわ…」
「わたしは追放後の大恋愛中だったのに!」
皆、前世でなんだかんだ借金をしていた転生令嬢仲間だ。
「そういうのは、借金のない綺麗な体になってからやってください」
眼鏡執事セバスチャン(本名:中村公平)は冷たい。
「5番テーブル! 『トラック跳ねられオムライス』入りました~!」
借金完済まで私たちの労働は終わらない。
ご利用は計画的に。