狂気
「さぁ、始めようか?」
とても綺麗な笑顔で、囁かれた言葉。
囁きの筈なのに、とても良く響いた。
彼の笑顔は、切なくなる程綺麗だったけれど、その瞳は・・・
全てを切り裂く様に冷たい光を湛えていた。
ずっと傍に居て、笑って怒って、喧嘩も悪戯も共にして来た相手。
そんな相手なはず、なのに、今目の前にいる彼は・・・
俺の全く知らない存在のようで・・・
俺に向かって手を伸ばしてくる。
その瞳に、狂気を抱いて。
その手に、凶器を抱いて。
ゆっくりと俺に近付いてくる。
頭の奥でガンガンと警報がなっている。
逃げろ。
逃げろ。
逃げろ。
逃げろ。
逃げろ。
殺れ・・・
俺は、咄嗟に駆け出した。
逃げる間も脳を埋め尽くすのは、警報と警告と狂気。
どこから変わった?
いつから変わった?
何が彼を変えた?
いつから彼を変えた?
何が彼にそれを選ばせた?
何が彼をそうさせた?
どこから狂った?
いつから俺を憎んでいた?
そもそも彼の思いは憎しみなのか?
彼に会うたび
彼の狂喜に染まる瞳を見るたび・・・
彼とのアノ日の邂逅以来思う事。
考えても解らない。
解けない迷路に入ってしまった。
始まりはあまりにも曖昧で、どこからが始まりなのかは解らない。
けれど解るのは、ひとつだけ。
今の現状の始まりは・・・
彼が始まりを告げた時。
その夜の出来事が確かに・・・
その時が狂気の日々の幕開けだった。
いつ終わるのか解らない彼の狂気の狂喜の日々の始まりで・・・
俺の狂気に苛まれる苦悩の日々の幕開けだった。
fin?