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第七話【防衛戦に向けて】

投稿しました^^

どうぞ~

 ぼくが滝本さんのチームに入ってから、数日が経過した。


 あれから毎日が激変した――ということはなく、ごく普通の毎日を送っている。

 歪みから魔物が発生したときの防衛戦に協力するという話だったが、そこまで頻繁に歪みが発生しているわけではなさそうだ。


 ただ、毎日のようにダンジョンへと通っていたぼくの日常に、一つの変化はあった。


「――上月君、前方からオークが二匹。続けて魔狼とボブゴブリンも突撃してくるわ。あなたは先にオークを始末して。あいつらの足止めはわたしがやるから」

「「ブギィィィッ!」」


 ダンジョンに落ちていたであろう木を棍棒代わりにして装備したオークたちは、けたたましい唸り声を上げながら突進してくる。

 ぼくは油断することなく剣を構え、オークが振り下ろした棍棒を回避した。


 豚頭をした魔物の体つきは脂肪が多いように見えるが、実はけっこうな筋肉質で、力はかなり強い。

 しかしあまり器用ではないため、棍棒を振り回す程度の攻撃ならばさして脅威ではない。

 ぼくはオークの腕を切り飛ばし、そのまま首も切り落とす。


「プギャァァァァッ」


 もう一匹が興奮してのしかかるように飛びかかってきたが、足払いをかけてやると地面へと盛大にすっ転んだ。

 すぐさま起き上がろうとするオークにトドメの一撃として剣を突き刺し、時間差で突撃してきていた魔狼とボブゴブリンのほうを見やる。


 ――が、その二匹がこちらに向かってくることはなかった。

 どちらも的確に手足を撃ち抜かれており、すでに無力化されている。


「……せいっ」


 魔狼とボブゴブリンにも剣を振り下ろし、ひとまず戦闘は終了した。


「うん。やっぱり近接戦闘タイプの人が前衛にいると、頼もしいかも」

「いや……七瀬さんだったら、さっきの魔物たちが距離を縮める前に全部始末できちゃいそうだけど」


 実際、彼女のステータスならば余裕だと思う。

 今ぼくたちがいる場所は、いつもの初心者ダンジョンの地下四階だ。

 ぼくにとってはちょうどいい修行場かもしれないが、七瀬さんにとっては少し物足りない魔物ばかりだろう。




 なぜ、ぼくが彼女と一緒にダンジョンへと潜ることになっているのか。


 ――あの日、ぼくのステータスを閲覧した滝本さんと七瀬さんは、やはりぼくの適合率について興味を示した。

 現在確認されている適合率はSが最高ランクだったため、適合率――EX? みたいな空気になったのだ。


 能力パラメータ自体はまだ初心者ともいえる平凡なものだったが、仮想体を手に入れてからわずかな期間でここまで成長できたことを告げると、滝本さんは少し考えるようにしてから、とても良い笑顔をこちらに向けてくれた。

 たぶん、思わぬ拾い物をしたことが嬉しかったのだろう。


 そうして、ぼくは滝本さんのチームに入ることになり、七瀬さんとタッグを組むことになったのだ。


 当然、同じチームにいるのだから、力を合わせて防衛戦に挑むことになる。

 ぼくのクラスは剣士で前衛向き、七瀬さんは銃士で後衛向き。相性は悪くない。


 連携した動きができるよう、二人で戦うときの感覚を掴んでおくのも大切だろうということで、最近はこうして一緒にダンジョン探索をしているのだ。

 とはいえ、現段階では七瀬さんのほうが圧倒的にぼくより強い。


----------------------------------------------------------------

名前:コウヅキ・アキラ(クラス:剣士)

クラスレベル:1

適合率:EX

【筋力】D(66/100)→C(37/100)

【敏捷】D(45/100)→C(11/100)

【耐久】E(62/100)→D(2/100)

【器用】D(48/100)→C(15/100)

【魔力】--

スキル:〈拡張現実〉

----------------------------------------------------------------


 ……ここ数日間における成長は、こんな感じか。

 我ながら急成長しているが、まだ七瀬さんには及ばない。

 タッグを組んだとはいっても、ぼくに合わせてもらっていては、彼女の成長を阻害しているみたいで気が引けるのだが……。


「どうかしたの?」


 ぼくがそんなことを考えていると、七瀬さんは不思議そうな顔をして覗き込んでくる。


「いや、この階層の魔物を相手にしていたら、七瀬さんのパラメータはあまり成長しないんじゃないかと心配で」

「それはそうかもしれないけど、上月君はわたしと一緒に防衛戦で戦ってくれるんだよね?」

「うん、そりゃあね」


 危険だと判断した場合は逃げていいと言っていたけど、もしドタキャンとかしたら滝本さんは自宅まで押しかけて来そうだ。


「それなら、二人の力量はできるだけ近づけておいたほうがいいと思うの。どちらか一方が強過ぎても、弱過ぎても、連携しづらくなるでしょ?」


 たしかに……両者に力の差があり過ぎると、足を引っ張るだけの役立たずになってしまうだろう。


「だから、今は上月君に強くなってもらうことが最優先。あなたの成長速度は、悔しいけどわたしよりも早い。きっとすぐ追いつくだろうから」

「……なんというか、七瀬さんってすごいよね。もしぼくが自分よりも適合率の高い人と一緒に戦うことになったら、たぶん追いつかれないように必死になるんじゃないかな。成長を手助けする気持ちにはならないかも」


 それこそ、妬みや嫉妬で邪魔をしてしまうかもしれない。


「……まあ、そういった気持ちも少しはあるかな。だけど防衛戦は命の危険を伴うわけだし、そうも言ってられないじゃない? わたしだって死にたくはないし、上月君にだって死んでほしくない。そうならないためには、感情に足を引っ張られてる場合じゃないと思うの」


 凛とした顔でそう言った七瀬さんのことを、ぼくは素直に格好良いと思った。

 というか、ぼくの心のなんとも浅ましいことよ。


「まあ、そう簡単に追い抜かされるつもりはないけどね」


 彼女はクスッと笑いながら、遠くに見える下り階段を指差した。


「今日は地下五階まで行ってみない? 今の上月君なら大丈夫だと思うけど」

「そうだね。だいたいのパラメータはCまでランクアップしてるから、無茶をしなければ大丈夫だと思う」


 この初心者ダンジョンは、最深部が地下五階となっている。

 地下五階には以前苦戦させられたオーガが生息しており、いわゆる初心者の壁と言われているような階層だ。


 だが、ぼくの筋力や敏捷などのパラメータはすでにCまでランクアップしているため、適正範囲といえるだろう。

 自分で言うのもなんだが、適合率EXという規格外の成長速度から見れば、Cなんてまだまだ低ランクじゃね? と思ってしまいそうになるが、パラメータがCに到達していれば、そのクラスレベル内においては一人前といえるのだ。


 適合率は下はFから始まり、上はSまで(※EXは例外)存在している。

 数的比率はSを頂点としたピラミッド型になっており、適合率がCもあれば万々歳で、せっかく仮想体を作ったのに、適合率がFとかEだったと嘆く人は後を絶たない。


 適合率が低いと、成長速度が遅いだけではなく、能力の限界値も低くなってしまうのだ。

 わかりやすく言えば、適合率Cの人だと、筋力などの各種パラメータがCランクまでしか上がらない。クラスアップすれば全パラメータがFへとリセットされるが、そこからもCランクの壁は存在し続ける。


 七瀬さんのように適合率Sだと、F→Sまでパラメータを成長させることができて、クラスアップすれば、またF→Sまで成長させることができる。

 伸びしろが圧倒的に違うのだ。

 将来的には、非常に大きな差が生まれてくるだろう。


 まあそういうわけで、この初心者ダンジョンは、クラスレベル1でも各種パラメータがCランク程度あれば、最深部を探索できると言われている。

 だからこそ、初心者向けなのだ。




 ――地下五階へと下り、ダンジョン探索を続けていると、以前に見たことがある鬼の姿が見えた。


「ゴアァァァッ!」


 あらためて正面から相対すると、かなりの迫力だ。

 どすどすどす、と地面を踏みしめる大きな音を響かせながら、真っ直ぐにこちらへ向かってくる。しかもそれが二匹。


 七瀬さんが射程距離に入ったオーガの足を銃で撃ち抜き、ぼくはすかさず動きが止まったオーガへと疾駆する。

 敏捷値がCランクにもなれば、まるで風にでもなったかような身軽さで動ける。

 足を引きずりながらも鋭い爪で応戦しようとしたオーガへと、横薙ぎに剣を振り抜いた。


 分厚い筋繊維を断ち切る際、かなり強い抵抗が剣を通して伝わってきたが、なんとか胴を切断することに成功。さすがに生命力の強いオーガも絶命したようだったが、もう一匹のオーガは標的を七瀬さんに変更したようだ。


「ウガァァァッ!」


 後衛を潰すぐらいの知恵はあるようで、機敏な動きで七瀬さんへと襲いかかる。


 ――ドンッ!


 近づかせまいと頭部を狙い撃った弾は見事に命中した――……が、そのオーガはなんとか耐えきってみせたではないか。

 以前は一発で頭を吹き飛ばしていたというのに……あのオーガは普通よりも硬いのかもしれない。


「ガッ!? グゲッ!? ッ……」


 さらに数発、まったく同じ箇所に銃弾が撃ち込まれると、さすがのオーガも足が止まった。

 そうして彼女は装備していた銃をしまい、すぐさま炎の剣を具現化させる。


 あれは七瀬さんの魔法――〈フレイムタン〉だ。

 魔法といえば遠距離攻撃といったイメージが強く、実際そういった魔法を好む者も多いが、彼女の場合は逆だ。

 クラスが銃士のため、基本的に遠距離攻撃を主軸にした戦いが得意なのだが、懐に入られた場合の対策として魔法を活用している。


「はっ!」


 燃え盛る炎の剣が、銃撃によって脆くなっている頭部を貫き、オーガは一瞬で燃やし尽くされてしまった。

 後に残ったのは、ブスブスと煙を上げる炭の塊のようなものだけだ。

 しゅごい。


 ……こいつは、ぼく一人だと苦戦したかもしれないな。

 手強かったオーガの死骸へと近づき、胸元辺りに剣を突き刺した。


 ――おや? これは……。


 ぼくの修行に付き合ってくれているお礼にと、七瀬さんが倒したオーガからも魔石を取り出したのだが、普通の魔石と違って綺麗な色が付いている。

 これってもしや……属性魔石ってやつかな。


「そっか。なんだか普通のオーガよりちょっと強い気がしたけど、属性魔石を体内に持ってる個体だったのね。そういえば上月君、まだ魔法を使えないみたいだし、それを使ってコアクリスタルに魔法紋を付与してみたら?」

「え、いいの!?」


 ぼくは綺麗な琥珀色をした魔石を宙にかかげながら、七瀬さんのほうをガン見した。

 小さな属性魔石だけど、換金すればかなり高額になるだろうに。


 七瀬さんのように魔法を使うには、この属性魔石を加工してコアクリスタルに魔法紋を付与するという特殊処理が必要になってくる。

 属性魔石をもらえたのは飛び上がるほど嬉しい……のだが、加工して付与する費用がまたびっくりするぐらい高いんだよなぁ……。




 ――ダンジョン探索を終えて地上へ戻ってくると、ちょうど七瀬さんの携帯端末に滝本さんから連絡が来た。


 ちなみに、ぼくも真新しい携帯端末を支給されている。ダンジョン内でも電波が入る仕様になっており、特殊合金製で軽量かつ丈夫さを追求したハイエンドモデルとのことだ。

 一般に市販されている端末は電波が地下まで届かず、そもそもダンジョン内に持ち込めば魔物との戦いですぐに破損してしまうだろう。


「はい――……はい、そうですか。わかりました。上月君も一緒にいますので、わたしから伝えておきます」


 ……ついに来たか。


「例のやつ?」

「うん。三日後だって。場所は奥多摩ダンジョン付近。他のチームと協力して防衛にあたるみたい」


 これが……ぼくにとって初の防衛戦となるわけか。

 覚悟はしていたが、いざとなると緊張するなぁ。

 よほど不安そうな顔をしていたのだろう。

 ぼくを見た七瀬さんは、小声でぼそっとつぶやいた。


「……あなたは死なないわ。わたしが守るもの」


 ズギュウウウウウン!!

 とハートを撃ち抜かれそうになったが、今のセリフはどこかで聞いた覚えがある。


「七瀬さん、それってもしかしてアニメの……」


 彼女は恥ずかしそうにして、顔を真っ赤に染めた。


「ごめん。今のは忘れて。最近読んだ漫画に影響されて心にもないこと言っちゃた」


 あ~、そういえばあのアニメ、漫画化もされてたっけ。

 ……いや、心にもないって! それはそれで傷つくんだけど!?


「でも意外だな。七瀬さんも漫画とか読むんだ?」

「もちろん。日本の漫画は文化だから、日本に帰ってきてから読みまくってるわ」


 彼女は、ビシッと親指を上に向けてサムズアップした。


 ……いつも静かに本を読んでいると思っていたけども、あれ漫画だったのかな。

 なんかすごく親近感湧いてきたわ。

お読みいただきありがとうございます。

面白い、これから面白くなりそうだと思っていただけたなら、

感想やブクマ、評価をしていただけると嬉しいです。

励みにいたします^^

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