第三話【非日常の始まり】
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どうぞ~
台風が来ております故、皆様お気をつけください。
――週末を迎え、ぼくは休日の早朝からダンジョンへとやって来ていた。
最近は、おもに地下二階で魔物を狩るようにしている。
さすがに地下一階に生息しているミニゴブリンやスライムなんかが相手だと、ステータスの成長速度が遅くなってきたからだ。
今のステータスなら地下三階まで潜っても大丈夫だと思うが、そこは安全マージンを考慮して慎重に進めていきたい。
無茶をしてやられてしまうと、また最初からやり直しだ。
ちなみに、仮想体には保険も適用されない。
過去に保険機構が設立されたこともあったのだが、ダンジョン内での仮想体消滅に対して保険適用の基準を定めることが困難であったことや、成長させた仮想体が消滅したときの損失は、新品のコアクリスタルでは補填できないなどの問題があり、現在は新規購入に対してのみ国からの補助金が適用されるかたちだ。
とまあ、そんなわけでぼくは地下二階の探索を開始した。
「グルルウゥゥっ!」
暗がりから――……タッタッタッ、と等間隔の足音が近づいてくる。
「……さっそく来たか」
最初に見たときは正直すごく怖かったが、今ではもう慣れた。
――魔狼。
大型のシベリアンハスキーから愛嬌を完全に除去してしまったようなこいつは、かなり凶暴な魔物だ。
鋭利な牙を口元から覗かせながら、今もこちらを油断なく睨みつけている。
「ガルルゥッ!」と猛獣そのものの咆哮とともに突撃してくる凶暴な狼の一撃を、ぼくは転がるように横っ飛びで回避しながら急いで向き直った。
突進攻撃の直後、ほんのわずかな間だけ相手の動きが止まる。
無防備になった魔狼へと、ブォンっと勢いよく剣を振り下ろした。
肉を断ち切るような感触が手を伝い、重量感のある相手の体がズンッと横倒しになる。
「……ふぅ」
魔狼を倒すのもずいぶんと慣れてきたが、こいつらは群れで獲物に襲いかかってくることもあり、そうなるとちょっと怖い。
周囲に魔物の気配がないことを確かめつつ、ぼくは魔狼の体から魔石を取り出した。
いつもはそれで灰のように消え去ってしまうのだが、今日は珍しく灰の中にあるものが残っている。
「これって……魔狼の牙、かな?」
ダンジョンの魔物を倒すと、稀にこういったドロップアイテムが入手できることがある。
物によるが、魔石よりも高価買取してくれる場合もあるので、忘れずに回収しておきたい。
こういった素材が何に使われるのかをネットで検索したことがあるが、当初は素材研究が主だったらしい。
魔物という未知の生物が、どういった物質で構成されているのかを研究し、有効利用するために。
面白いところだと、スライムがドロップするスライムゼリーが研究され、優れた断熱効果を有していたため、住宅向けの新たな断熱材が開発されたなんて話もある。
魔石エネルギーによる恩恵だけではなく、現代社会は様々なところでダンジョンのお世話になっているのだ。
あと、魔物素材は現実での武具作成なんかにも利用されている。鋼よりも硬度と粘性に優れた物質も数多く発見されており、海外では軍式ナイフの刀身にも新素材を用いたものが支給されているのだとか。
「よし、と」
ぼくは魔狼の牙をポーチにしまいこみ、そのまま探索を続行する。
――早朝からずっと潜っていたが、お昼頃になるとダンジョン内に人が増えてきた。
「「きゃ~~、怖~い」」
――……どこかで聞いたことのあるような黄色い声が耳に入ってきたので、思わずそちらへ注意を向ける。
「げっ……」
ぼくは、自然とそんな声を出してしまった。
遠目に見えるのは、クラスメイトである猪又と取り巻きの女子たちだ。
……本当に仮想体を作ってダンジョンまで来ちゃったのかよ。
ダンジョンに娯楽目的で来るのも、今では珍しいことではないため、彼らのようにキャッキャウフフしながら楽しむのも悪いことではない。
ないのだが……いくら仮想体とはいえ、ここは危険な魔物が生息しているダンジョンなのだ。
こっちが真剣に魔物と戦っているのに、横でピクニック気分でいられると調子が狂う。
たぶん向こうから声をかけてくることはないだろうが、ぼくは全速力でその場からフェードアウトした。
言っておくが、羨ましいわけではない。
ダンジョンに潜るときはね、誰にも邪魔されず、自由で、なんというか救われてなきゃあダメなんだ。独りで静かで豊かで……――などと、電子アーカイブスで大好きな漫画のフレーズをもじっている場合じゃないな。
せっかく休日を費やしているのだから、できる限り能力値をアップさせておきたい。
「ギャゥン!」
「キャイン!」
狂犬病のように涎を垂らし、牙を剥く魔狼たちを次々と斬り捨てながら、慣れた手つきで魔石を取り出した。
さらに地下二階には、ミニゴブリンよりも一回り大きいゴブリンが生息しているので、遭遇すればこれも狩る。
ここは初心者向けダンジョンということもあり、ネットで調べると各階層にどんな魔物が出没するのか、その対策法なんかも詳しく載っている。
実際に対面すると最初は戸惑うかもしれないが、もはや地下二階の魔物に苦戦することはない。
「――ふぅ……はぁ」
夕方まで魔物を狩り続けていると、さすがに疲れてきた。
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名前:コウヅキ・アキラ(クラス:剣士)
クラスレベル:1
適合率:EX
【筋力】E(92/100)→D(66/100)
【敏捷】E(87/100)→D(45/100)
【耐久】E(23/100)→E(62/100)
【器用】E(89/100)→D(48/100)
【魔力】--
スキル:〈拡張現実〉
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今日までの頑張りで、多くのパラメータはDにランクアップした。
耐久が他のパラメータに比べてやや伸び悩んでいるのは、敢えて魔物の攻撃を受けるような真似はしていないからだろう。体力にも関連している数値なので、戦闘を重ねることで少しずつ上昇はしているようだが。
そろそろ切り上げようとエントランスに戻り、ぼくは仮想体から生身へと戻った。
専用カプセルの中で目を覚まし、仮想体は光の粒になってコアクリスタルへと戻っていく。
いつも思うけど、どういう仕組みになってるんだろうね?
そんなことを思いつつ、ぼくは本日の魔石を換金してもらった。
ドロップアイテムの売却額を含めると、約三万円という大金だ。
しかし、仮想体が消滅してしまった場合のリスクを考えると、これでも全然足りない。
仮想体のコアクリスタルを購入する場合は国の補助金が適用されるが、それは最初の一体のみで、もし消滅させてしまったときは、二体目から完全に自費購入ということになる。
補助金なしだと、コアクリスタルは高級外車がぽんと買えてしまうぐらいのお値段だ。
ダンジョン探索の興奮が忘れられず、借金をして自費でコアクリスタルを買い直した人なんかが、借金地獄で生身まで消滅させてしまったなんて話は、ネットでよくある笑い話である。
だからこそ、初めての仮想体は大切に育てていかなくてはならない。
――そんな決意を胸にして、帰路につこうとした。
「いや~、もう最っ高の動画が撮れたな、マジで。お前らさ、今度はもうちょっと仮想体にエロいポーズさせね? そうすればもっと再生数伸びると思うんだよな」
「「え~、やだ~。猪又君ったら~」」
……ブチィッ!
おっと、どうやらぼくの靴紐が切れ……もとい、ほどけてしまったようだ。
郊外にあるダンジョンから駅へと続く道は人通りもまばらで、静かなのものだ。
それゆえに、またもや偶然近くを歩いている彼らの声はよく響いた。
「お? なんだよ、ここ通行止めになってんじゃん」
来るときは普通に通れた場所が、今は一時通行止めになっていた。
特にそれらしい音が聞こえないため、工事とかをしてるわけではなさそうだが……。
「え~、めんどくさ~い。迂回したら時間かかるし、もうくたくたなのに~」
「だよな。面倒だし、無視して突っきって行こうぜ」
猪又たちは、通行止めの柵を押しのけるようにして先へと進んで行く。
うそ~ん。
もうなんというか、勝手にしてくれ。同じ学校の生徒だと周りの人に思われたくないよ。
ずんずん歩いていく彼らの後ろ姿から、そっと目を離そうとした――そのとき。
「……ん?」
なんだか、今とても変な感じがした。
背筋を誰かに触られたかのような、ゾワッとした感覚に襲われたのだ。
辺りを見回しても、特に変なことは何も――。
「え……」
最初は、目の疲れからくる錯覚かと思った。
ぐにゃりと空間が歪んだような気がして、霧のような実体のないものがふわふわと浮かんでいるようだった。
しかし、だんだん輪郭がはっきりしてくるのを見て、それが錯覚ではないのだと理解した。
猪又たちもようやく『それ』に気づいたらしく、かといってどう対応していいのかわからずに、完全に固まってしまっている。
基本的に魔物は階層を移動することはなく、地表へ這い出してくることもないはず。
「「グオァァァァ!」」
だがそれは、明らかにダンジョンに生息している魔物の群れだった。
「これって……」
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