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第二話【男子高校生の日常】

投稿しました。

どうぞ~^^

 ――ぼくが免許を取得してから、一週間ほど経った。


 放課後には馬鹿みたいにダンジョン通いをし、休日には丸一日ずっとダンジョンに潜るような生活をしている。

 学校にいる間も常にダンジョンのことを考えてしまうため、これは俗にいうダンジョン中毒というものかもしれない。免許を取ったばかりの若者にありがちなのだとか。


 そんなわけで、ぼくが今いるのは学校だ。

 お昼休みには、皆が弁当やらパンを机の上に並べ、電子タブレットで漫画や雑誌なんかを読みながら会話に花を咲かせている。

 ぼくなんかも、『ダンジョンウォーカー』なる無料配信雑誌を読みながら、購買部で買ったパンをむしゃりと頬張っていた。


「――ほら見てみろよ。俺がアップした動画の再生数すごいことになってんだぜ!」


 教室にいる全員に聞こえるような大声で喋っているのは、男子の猪又真也というやつだ。


「「きゃ~、猪又君ってばすご~い!」」


 そんな猪又の周りには、きゃっきゃと楽しそうに騒ぐ女子が何人も集まっていた。

 まったく羨ましくはないが、、彼の親はかなりのお金持ちらしく、親に買ってもらった仮想体でダンジョンを探索していると自慢げに話していたっけ。

 まったく興味はなかったが、嫌でも聞こえてくる情報をもとに、ぼくは電子タブレットで猪又の動画とやらを検索してみた。


 なるほど……再生回数が一万を突破している。

 豪快に魔物を倒す様子がいかにも「ばえ~」な感じで、自慢したくなる気持ちもちょっとわかる。


「だろだろ? すごいっしょ。お前らも仮想体作ってさ、俺と一緒にダンジョンで一狩り行っとく?」

「え~、だって仮想体のコアクリスタルって高いじゃん。気軽に買えるものじゃないし……」

「大丈夫だって。親父のコネで特別に安く購入できるルート知ってるからさぁ」

「「きゃ~」」


 はい、ぶっちゃけすごく羨ましいです。

 コアクリスタルが格安で手に入るのなら、猪又の周りにいる女子と一緒になってぼくも黄色い声を上げたっていい。野太い声で「ぎゃ~」って叫ぼう。


 ……まあ、もう自分で購入しちゃったけどさ。


 とまあ、猪又を見ているとストレスが溜まってくるため、ぼくは視線をすぅっと横にスライドさせた。


 するとそこには、椅子に座って静かに本を読んでいる女子の姿があった。

 教科書すら電子化されているこのご時世で、ブックカバーが付いた紙媒体の書籍を手にしている姿は、少し興味を惹かれるものがある。


 ……彼女の名前は、七瀬紗也。

 ちょっと前にうちの高校へ転校してきたのだが、他の人と喋っている姿はあまり見かけない。

 転校生が周囲となかなか馴染めないのは、たぶんどこでも一緒なのだろうが、彼女のほうも積極的に友達を作ろうとは思っていないようだ。

 それだけで本当に足りるのか? と疑問に思うほど小さなお弁当をもくもくと食べた後は、ああやってずっと読書をしている。


「……?」


 ぼくの視線隠蔽技術はかなり高度だと思うのだが、七瀬さんがこちらを振り向きそうになったので、ごく自然な素振りで手元のタブレットに目を戻す。

 ……まあ、時期外れの転校生に興味を持つのは普通だろう。


 ちなみに、ぼくはまだダンジョン内での動画をアップしていない。

 というのも、やはりあの〈拡張現実〉というスキルを見せびらかすような真似はしないほうがいいと判断したからである。


 帰宅してからネットで散々検索したが、やはりそれらしいものはヒットしなかった。

 Augmented  Reality――オーグメンテッド・リアリティ。

 人が知覚する現実環境をコンピュータにより拡張する技術。

 本当に、仮想体の能力を現実にも適用させることができるのか……?


 結論としては――YES。


 仮想体が強くなれば、生身のぼくも強くなるという最初の仮説で正解だった。

 この一週間、中毒といえるほどダンジョンに通い、ひたすら魔物を狩っていたぼくは、魔力以外のパラメータをFからEへとランクアップさせた。

 そうすると、顕著に感じられるほど力が向上したのだ。


 ダンジョン内で複数のミニゴブリンに襲われると苦戦していたのが、危なげなく倒せるようになった。

 襲いかかる敵の動きをしっかりと捉え、機敏な動きで回避し、一刀両断する。

 爪の一撃が命中してもほとんど痛みはなく、体力ゲージもわずかに削られる程度。


 そうして能力アップの効果をダンジョン内で実感できた後は、現実にも適用されるかを検証してみたのだ。

 〈拡張現実〉のスキルを発動させると、それはすぐに明らかになった。


 生身であるはずのぼくの体は、ダンジョン内と寸分変わらぬ動きを可能としたのだ。

 もちろん、目にも止まらぬ速度で走れるほど人外な動きではない。

 まだまだ成長途中なのだから。


----------------------------------------------------------------

名前:コウヅキ・アキラ(クラス:剣士)

クラスレベル:1

適合率:EX

【筋力】F(87/100)→E(92/100)

【敏捷】F(73/100)→E(87/100)

【耐久】F(52/100)→E(23/100)

【器用】F(78/100)→E(89/100)

【魔力】--

スキル:〈拡張現実〉

----------------------------------------------------------------


 ……一週間前と比べると、今はこんな感じだ。

 さすがに教室内で「システムコマンド」とかつぶやくと変態扱いされるので、これはぼくが覚えてる数値だけども。


 というか、スキルを発動させることによって、ダンジョンの外でもシステムコマンドなどの補助機能を使用できる上、なんと仮想体の武器である剣さえも実体化できることが検証でわかっている。


 これが、ぼくが動画を軽々しくアップしなかった大きな理由だ。

 仮想体の武器は、ダンジョン内の屈強な魔物にも対抗できる強力な武器だ。

 当然、動画を閲覧した人は思うだろう。


 ――こいつ危険じゃね? と。


 将来的には人外な能力値を獲得するかもしれず、凶悪な武器を実体化させることができる存在が、ダンジョンの外を自由に闊歩しているのだ。

 もしぼくが政府の偉い人だったら、間違いなくこう言う。


『ちょっ(笑)。誰かあの危険人物捕まえてこい』と。


 幸いなことに、仮想体のコアクリスタルを購入する場合は公的機関への登録が必要だが、発現したスキルまで詳細に報告する義務はない。情報提供は強制ではなく、あくまで任意の範囲に留まっているため、秘匿しようと思えば可能である。


 というわけで、動画をアップするのは止めておいた。

 今は、このスキルをどう有効利用しようかと模索中である。

 適合率についても、EXというインパクトは動画視聴者にウケるかもしれないが、公開はひとまず保留にしておいた。




 ――放課後。


 ぼくは今日もダンジョンへ赴こうとして、いそいそ帰り支度をしていた。

 運動場の横を抜けていけば、校門までの近道だ。


 おや、あれは……。

 足早に通り抜けようとしていると、一人の女子が目に留まった。

 歩きながら読書を嗜むという器用な真似をしているのは、転校生の七瀬さんだ。

 ショートヘアから覗ける彼女の横顔は、完全に本へと固定されている。


「あ……」


 ぼくは間の抜けた声を出してしまった。

 というのも、運動場から野球ボールが真っ直ぐ飛んできたからだ。

 嘘だろ……こんなベタベタな展開。漫画でしか見たことないぞ。


 あ、でも、これ当たるんじゃね?

 いや、ぼくじゃなくて。


 ――……七瀬さんに。


 ギュンっとすごいスピードで向かってくるボールは、確実に七瀬さんの頭部へとクリーンヒットする軌道を描いている。

 というか、もう当たる。

 ぼくは反射的に〈拡張現実〉のスキルを発動し、行動に出た。

 数メートルの距離を全力で詰め、飛来するボールをなんとか無事にキャッチする。

 これぐらいなら、そこまで怪しまれる異常な動きではない……と思いたい。


「…………」


 当たり前だが、今ぼくの目の前には七瀬さんがいる。

 そして彼女は、固定していた視線を本から離していた。

 間近で見たことはなかったが、七瀬さんはとても整った顔をしていた。


 本ばかり読んでいる大人しそうな女子――……という印象だったが、こちらをじっと見つめてくる彼女と目が合うと、ぼくのほうが先に目を逸らしてしまう。

 凛とした顔立ちはどこか人を寄せつけない空気をまとっており、もしかするとクラスの女子もそれで話しかけづらいのかもしれない。


「……ありがとう」


 ぼくが手に持っているボールを眺めつつ、状況を理解したっぽい七瀬さんは、ぺこりとお辞儀してから感謝の言葉を述べた。

 そうして、すたすたと何事もなかったかのように歩いていく。


「――……すいませ~ん」


 遠くのほうから、野球部員の声が聞こえた。

 どうやら、強打者のボールが運動場の端からここまで飛んで来たようだった。


 ……とりあえず、ぼくは全力で送球して打者をアウトにしておいた。

お読みいただきありがとうございます!

面白い、これから面白くなりそうだと思っていただけたなら、

感想やブクマ、評価をしていただけると嬉しいです。

励みにいたします^^

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