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忙しいからやべかったよ···25日毎じゃなくて月一にしよう···うん。
ーーフォトル中央区の地下店『商品の寝床』ーー
「さて、どうしようか。」
そう言いながら階段をゆっくり降りる。一歩一歩お店のドアが近くなっていくが、こちらの考えはまとまらずに正解から離れていく。謝罪の気持ちとして、店長さんに荷物を渡せばなんとか機嫌を直してくれるのではないかと思い立ち、ここにやってきてはいたものの、大失敗した一回目の回避方法を全く思いつかずにいた。そうこうしてる内にもう扉は目の前に。だが一回目の出来事が頭の隅にチラつき、入るに入れない。せめてなにかを考えついていれば、もしも失敗しようとも首でも折ってやり直せるし、その失敗を反省点にして、もう一度作戦を練り直せるのだから。
「はぁ···スグハが居ればあの大混乱も落ち着かせられるんだろうし、そもそもあんな事が起きないように対応出来るんだろうなぁ。」
そう思いつつも、正直な所、スグハが居なくて寂しがっている自分がいた。死んで時間が戻ってから二、三時間経てば大体は町に現れるスグハに会えた。なのでずっと赤子のようについて行ってる節はあった。しかし、あいつが現れる兆し···というか日にちには程遠い事はもう分かっているから、こう一人で行動はしている。あれが居れば、いやあれが居たから。俺は何度でも諦めずに世界を繰り返して、心も折れる事無く頑張っていた気がする。あの時折寂しげな顔をする彼を。誰にも見つからないような所で仲間の死にすすり泣いていた彼を。救ってあげたいが為に、頑張っていたような気がする。あいつが居ないのが、会えないのが相当きているようで、全てが不鮮明に見えて、遅く感じる。獣人にもふもふを感じつつも、そこまで気にしてないのがその証拠だろうな。ちょっと気を引き締め直さなければ。第一に、俺はあいつを救う為だけに頑張ってるのではなく、この俺を、サザナミ・ナギサを勇者として、英雄として世界中に名を轟かせないといけないのだから。
···とかなんやら考え込んでいたら、中から少し声が聞こえる事に気づく。もしかすればなにか糸口になるかも知れない。少し申し訳なさを感じながらも、扉に耳を当てて、研ぎ澄ます。
「··················それでよろしく頼む。いい感じに撹乱しておいてくれ。」
そう最初に聞こえだした。ジイルさんでもタマさんでもないが、何度か聴いた声。
「はい、毎度ありーっとニャ。でもでも、こんなはた忙しい一端の情報屋をこき使うなんてニャー、国王陛下さんも人使い···いや猫使いが荒いですニャ?そこまで私は優遇されてるのかニャ?」
この少し高い女性の声がタマさんだろう。言い終わると同時にさっきの声がまた聞こえる。
「ああ、優遇してるつもりは無いよ。でもその点に関して自覚はしてるんだけども、思わず口が。なにせとっても楽で、癖になっているようで。こうやって使える人材を端から端まで使うのがもう俺の趣味の一環なのかもしれないな?また口からペラペラ頼み事が出てきそうな気がするよ。」
なんだそりゃ。
「うへえ、タチが悪いな陛下さんは。色を付けとけよって言ってるのにじゃあこっちはもっとこき使ってやるって返すのかよ。おお怖い怖い。」
こう嫌味のように言ってるのが多分ジイルさんだ。多分三人で話してるんだろう。
「いいやタチなんて悪くないさ。ただ、友として信用を寄せて言ってるに過ぎないよ。こう情報操作しろって言われたんです〜とかバラしたらお前の身体もバラしてやるって脅された〜なんて何処かにメソメソするような奴だって思ってないからな?すごく信用してるのさ。だからこの俺のこんな特殊趣味だってお前らに言ってしまうくらいにな。」
いやだからなんだそれ。とんでもなくわざとらしいな。スグハみたいじゃな···
そこまで思った瞬間に、何かを考えるより先に扉を開けていた。そして、
「スグハッ!!」
思わず叫んでいた。
中の三人の目線は、全て俺に向いていた。彼らは真ん中にある筈のショーケースを端っこに寄せて、可愛らし白い机と椅子を用意し、お茶会でもするようにカップを並べて仲良く座っていた。その一人は猫。突然の来客に驚いた顔をしている。一人は犬。いつでも戦闘は出来るぞと言わんばかりに短剣を構えている。
もう一人は、黒目黒髪をしている、何を考えてるか分からない表情まで、俺がよく知った顔にそっくりな青年だった。違うのは服ぐらいなものだろう。一目見ただけであからさまに偉い人なのだなと分かるマントや服は着ておらず、代わりに俺が着ているような、新入りの勇者に渡される服を纏っていた。上から下まで白が混じったように明るい茶色の服。着ているジャケットやズボンは色々改良してるようで、俺の服よりポケットが多くあった。そして頭には王冠などたいそれたものじゃなく、俺と同じ帽子が乗っていた。
ここまできて、ふと我に返った。
あれ、こいつはスグハではないのではと。確かに声も顔も似てるが、違うのではないかと。いやでも、さっき国王陛下って聞こえたから絶対そうだろうと。
そんな事を思い慌てる俺をよそに、スグハもどきは笑った。
「あはははは!!まさか自分自身でもそっくりくりそつベイベベイ野郎とは思ってたけど、まさか叫ばれるなんて思わなかったよ!!すげーはっずっかっしっい!!そして気まずいっ!!!!」
笑いながらババババと早口で話し出すスグハもどき。ん、というかこれはホントに別z
「いやーごめんねめんごですいませんよースグハ国王をお探しなら回れ右して町を散策した方が発見できるんじゃないかニャニャンニャンニャニャン?うんうん、彼を探すならそうすべきだよパトラッなんとか君!!というかなんでここ発見できたの?偶然?必然?計画通り···って奴かなドンドコドン?」
ダメだ、考える時間すら与えてくれない。てかもう明らかにスグハではなくなった。もう誰だこいつ。そして黙ってるって事は話せという事だろうな。
「えっと、店長さんの荷物を受け取りに来たら、スグハの声が聞こえたと思ってつい···」
正直に言ったら、これまた馬鹿正直に頷いて彼は言う。
「ほうほう?ああ成程ちみが店長のとこに泊まってる勇者君君なんだね!!なら大丈夫だね!!ジイルもタマも戦闘態勢を解除し、武器も収納するのじゃよジョニー!!!」
そう叫ぶや否や、ジイルの短剣を全て奪い去り短剣で······あー······確か···多分ジャグリング?をし始めた。
しかしその横で二人は震え始める。
「あれの客···?取りに来た···?ぶっぶぶ無礼な事をして申し訳」
と謝りはじめる二人に高速でもどきさんはデコピンをやってのける。
「バーロー!!!あのシイリャ···ゲフン!!シイラギさんが謝罪を好むとでも思っているのかいベイベー!?そんなのしてたら、その間に三回斬られてお陀仏だぜバーロー!!!」
「た···確かにその通りだニャ···!!」
「ありえる、あれなら、確かにぶっ殺しかねん···!?」
我に返ったかのように飛び上がると、二人に普通に謝られて終わった。危惧していた事は不思議な事に自然と避けられた。
「で?でで?ででで?君はスグハ国おーとどのよーなご関係であらせられまつるんでござりまする!?ねえ、ねえ!?」
いきなりもどきさんはそう聞いてきた。もしも面識があると色々大変だが、服と性格を見て大丈夫そうだと思った。なので言ってやる。
「いや、けっこう仲のいい友達だよ。俺はスグハは好きだよ。」
「なっなぬ!?アイエエエBL!?BLかよジョナサン!?」
びーえるが何を示すのか全くわからないが、馬鹿にされてるのは分かる。とりあえずぶん殴r
「あっやっばい!?お仕事頼まれてたんだったドンドコ!!じゃあバイバイッ!!!」
といきなり猛ダッシュでドアから消えていった。あれが居なくなると、急に全てが静かに思えた。
「···なんだったんだ···あいつ···」
そんな事思ってもどうしようもないので、さっさと荷物受け取って戻ることにする。
その事を二人に話すと、合言葉は?なんて聴かれることも無く、俺の前に木箱が置かれる。なんの変哲もないただの木箱。でも重さから、けっこうな量が入ってることがわかった。
「重たい···一体何が入ってやがんだよ···?」
そう呟きながら持ち上げると、タマさんに聴かれていたようで、すぐに返事がきた。
「えっとですニャ、短剣数十本と、毒薬が数瓶。後は、お肉ですニャ。」
「···お肉?」
「はい、平人の肉ですニャ···わぁっと!?お客さん大丈夫ですかニャ!?」
何の肉か解った途端思わずぶっ倒れそうになる俺を支えてくれた。ありがたい。
「いや、流石にあちらには猫さんがいらっしゃりますからニャ。獣人が平人を食べるのは当たり前ですしニャ?出来るだけ···事故死だの野垂れ死になどした奴の肉を使ってるからそこまで心配はニャいですよ。」
···まぁ···仕方の無い事だろう。何をどう見繕ったって獣人が俺達の血肉を喰わねばならないのは。
···できれば先に言って欲しかったがな。
そう思いながら、俺はお店を出た。
さぁ、メンバーが登場してき始めました。
正直本編はこの町の次からだと思ってるんで、ペースが悪タンバリンなのも勘弁してやってください。