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描写が下手なのもあるけど、
適当な描写のとこは何度もナギサが見てるから慣れてる感を出したかったんです許して
···やばい。やばいやばいやばい。
全身に汗を浮かばせながら、店長さんをじっと見つめる。あの人はいつもと同じ笑顔でこちらを見ている筈なのに、まるで感情だけを何処かに落としてきたかのように少しも安心感がない。
「怖くて避けちゃったんですよね。ご安心下さい、ナギサ様がそのままなにもせずこちらに来てくれれば、全く痛みがないままにあの世へ送ってあげられますよ。」
微笑みながら店長さんは優しく語りかけてくる。それもいつでも抜けるように刀を構えた状態で。
「しかし···抵抗や拒否をするようでしたら、私としては大変心苦しいですが···貴方を残酷にぶっ殺すしかありません。さあ、いかが致しましょうか?」
この人はどう転ぼうが俺を殺すつもりのようだ。それでも必要以上に近寄らずに話しているのは警戒しているからだろうか。いや、隙を見せたら間合いに飛び込むつもりでいるのか。
─────さてどうしよう。多分店長さんは勘違いをしている。しかもとても悪い方向に。
このままでは俺を問答無用で真っ二つにしてくるだろう。別に死亡までの最高記録を更新したい訳ではない上、今まで起きたことがない出来事が起きているんだ。それだけは避けたい。もし避ける事が無理だったとしても、この間に情報をある程度は集めないとまた同じように殺されそうだ。まあ同じ出来事が起きてくれるとは思わないが。
とりあえず、殺されないためにも勘違いを直さなければ。
「···返答が遅いですよ?どっちですか?ガキでも分かる二択でしょうに。死ぬ時に苦痛があるかないか聞いてるんだけどな?そろそろ決めてくれねえとさ、俺も困るんだよ。ぶっ壊したドアとお前含め二人分の死体を片付けないといけないんだが?」
店長さんの笑顔がなくなってきた。口調も悪くなっている。てか俺が殺される前提で会話されてる。早くしなければ。
「店長さん。」
「やっと決めたか。さあどっちがいい?」
「いや、先に言いたいことがあるんだ。」
俺がそう言うと、店長さんは不機嫌そうになる。
「あ?死にたくないってのなら、お断りするんだが。」
否定するように首を振ると俺は言う。
「犯人は俺じゃない!俺はこの人を殺してないですよ!」
喋り始めた瞬間に、抜刀しようとしていた店長さんは、俺の言葉に動きが止めた。
しばらくの間静かになった。
「·································ん?」
そして長い沈黙の後に、店長さんは間の抜けた声をだした。やっぱり信じてないようだ。当たり前だろうけど。戻って来た時に俺と死体が一緒にいたら、犯人だと思うのも無理はない。
「いや本当です!信じてください!」
こんな言葉だけで信じようなんて言うやつはそうそう居ないだろう。それでも間違っているのだから、ちゃんと言わなければ俺が危ない。
「確かに俺血塗れですけど!滑って転んでこうなっただけなんです!だから──────」
「んーちょっと待てナギサ?まさかお前、犯人と疑われて殺されそうになってると思ってんのか?」
「それ以外に店長さんが俺を殺そうとする理由なんてないじゃないですか!」
「···こいつマジか···」
明らかにまだ疑ってるようだ。どうしようか。どうすれば信じてもらえるだろうか。
「いや、流石にお前が殺したなんて思うわけないだろ。」
しかし店長さんは疑ってるワケではなかったみたいだった。
「え、じゃあなんで俺を殺す気で···?」
「いや、お前が分かれよ。ここ俺の店。調理室。ここの鍵一つ!俺しかもってない!つまり?」
そしてそれを知ってるのは三人だけ。なるほど。
「俺がこっそり鍵盗んで殺しの手伝いをしたって思ってるんですね!?そんな事ありませ」
「いやいやいや!?何言ってんだてめえ、簡単に分かるだろうが!?」
···?
「おいなんだその顔!?マジで分からねえのかバカかよ!?」
「ごめん全く分からない。」
刀を落としてまで店長さんが俺を揺さぶる。
「普通に考えりゃ俺が犯人だと思うだろうが!?てかそれ以外ねえだろうが!」
「······あ、そうか。」
確かにそうだな。鍵盗めるわけがないのに。
「···························バカらしくなってきた···」
店長さんは頭をおさえて壁に寄りかかる。
とりあえず、俺が犯人だとは思ってなかったみたいだ。良かっ···
「なっ···店長さんがこの人を!?」
「そのとおりだが。両方が両方疑心暗鬼になってる感じで殺してやろうと思ったんだが、まさか俺を疑うでもなく自分の身の潔白を先に言い出すとは···アホだな」
店長さんはため息をつくと、こちらに向かってきた。いつの間にか刀を拾いなおして。
···っやば···!?
「でも、いくらアホでも殺す事には変わらないけどな。」
言いながら瞬時に距離を詰めた店長さんは、俺の首めがけて刀を振りかざし、
「なにやってんですかシイラギさんっ!!!!!」
突如横から現れた猫さんに急所を膝蹴りされた。···そう、文字通りの急所だ。男なら分かる。
「どおぅ!?」
見事に膝蹴りされた店長さんが横に転がった。そのまま下半身をおさえながら猫さんを睨む。
猫さんは店長さんと俺の間で両手を広げて庇ってくれていた。いつもの尻尾は毛が逆立ち、ピンと真っ直ぐ伸びていた。
「おい、キャルツゥ···!!てめっ···やりっ···がったっ···なぁ···!!」
立ち上がれそうで立ち上がれていない店長さんはとてつもなく苦しそうだ。可哀想だ。
「殺りやがりかけたのはどこのどいつですかね!私のナギサさんになにしやがってんですか!!」
「仕方ないだろが!!見られちまったんだよ!」
そういえば猫さんって本名キャルツ・ストライドだったか。
「見られるシイラギさんが悪いでしょうに!!ナギサさんは悪くない!」
「何ふざけたこと言ってんだ!?バレたから悪くなくとも殺し──────」
「大体鍵もかけずに外に出た貴方が悪いでしょ──────」
なんか騒がしくなった。両方の口からいつもなら聞かないような暴言が飛び交う。
互いに全く譲る気はないようで、罵り合いは日が1つ分傾くまで続いた。
その間暇だった俺はずっと体育座りで待たされていた。
「ともかく!ナギサさんには手出しさせませんから!行きますよナギサさん!」
会話を一方的に締めくくると猫さんは俺の手をとって廊下に向かう。
「えっ、いいのか猫さん?」
心配になって聞いてみた。
「いいんですよあんな二流料理しかできないヤツ!」
必要なかった。
横を向くと、とてつもなく不機嫌そうな店長さんと目が合った。
「·········」
「·········」
早く行けと睨むような店長さんと少しだけ見つめあった後、俺は猫さんに引かれて行った。
猫さんは扉を乱暴に閉める。そしてそのまま俺を引っ張って進む。二人とも黙ったまま歩く。
そしてしばらく廊下を進んでいると、猫さんはこちらに向き直り頭を下げた。
「ナギサさん、すみません。こんな謝罪だけで許されるものでもないのは分かってます。でも、謝りたくて。」
悪い事をして怒られてる時の子供のような声で猫さんは言った。
「シイラギさんも悪くないんです。私が獣人だから、あんな事に手を染めているだけで。だからあの人はナギサさんに見られた時に言いふらされないように、って考えたんだと思います。許してあげてください。そして我儘ですが、この事は皆さんには内緒にして下さい。そうするなら、私はナギサさんが願い全てに従っても構いません。なので、どうか。」
少し震えた様子で言葉を続ける。でもこんな事言われなくても答えは決まってる。
だってもう知ってるから。この会話を何度かしていたから。
「大丈夫だ、絶対秘密にする。俺の願いは猫さんがいつも通りの日常を送り続けることだからな。」
覚えてる返答を簡単にまとめて、最善の言葉を選んだ。
「···ありがとうございます。ナギサさん。」
猫さんは頭を上げて笑ってくれた。ここまでに至る経緯が全く違うから分からなかったが、この瞬間だけは覚えていた。頭を下げる猫さん。優しく笑う猫さん。前回からズレていたものが理解出来た。
これは今までの死んで戻れる最大時間よりもっと前の時間に起きた、出来事だった。
この時からもう、全ては変わっていた。この日のこの時間。知人に会うと留守にして居ないはずの店長さんに攻撃された時点で、全てが変わっていた。何もかも、もう戻れる事はなかった。
この次から色々展開するハズ···です。
ここまで見てくれた方が居るなら、もう少しお付き合い下さい。
そして気に入ってくれれば重畳です。