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前より文が長くなって次に持ち越し···
ちなみに自分は、場面場所で区切ってるのですが···これは長すぎですね。多分後半は短くなるかと···
···ごめんなさい。
ーーーフォトル[喫茶店エブリデイ]ーーー
「······サラッと死んだな俺···」
俺はそう呟きながらゆっくりと起き上がる。そして大きなため息をつく。
「最初の町だけは戦いも無くゆっくり出来る。そう思ってたんだけどな···」
ポツリと自分のわがままを言ってみる。
「フォトル···これで何度目だったっけ···?」
また呟き、また同じようなため息。
「···苦しいな。痛いな。嫌だな。なんでだろうな。」
呟き。独り言。ただの愚痴。分かっている。こんな事言おうと何をしようと変わりはしない。
望みは、願いは叶ったりなんてしないと。
誰にも言えない、誰にも分からない、誰も信じない力。
「··················なんなんだよ、この『永遠の夢』って······」
その力の、自分がひとつだけ正確に知っているものを言葉に出す。
俺の能力『永遠の夢』。
名前しか知らない自分の能力。昔からあったかのようにいつの間にか持っていた能力。
どんな力なのかも、使うにはどうすればいいかも最初は分からなかったが、何度か殺されて、何度もこの寝床に戻ってきてやっと分かった。俺が死ぬと、最初から死ぬまでの出来事が、そこまでの出来事が無かったかのように、夢のように消え去って、フォトルに来て47日目の朝に目が覚める。これだけだ。
何故この日まで時間が戻るのかも、何故『永遠の夢』という名前なのかも分からない。けれど、俺がこんな能力を手に入れたのは、絶対宿命だ。宿命なんだと思う。俺はこの力を使って、みんなを救おうと頑張ることを決めた。
···決めたけど。
「···でもキツイな、辛いな···」
······こうやって誰かに言い聞かせるように能力を確認して自信を持つのもだいぶ堪えてきた。数十回と同じように繰り返してる。慣れてきてしまったのか、もう効果はあんまり無くなった。
「何度死んだっけ?でも、何回目の前で死なれたっけ?」
死神でもあるこの力は俺が一緒に···いや1回会ってしまった人達に、必ず理不尽な目を合わせる。今までずっとそうだ。救える人は限られてしまった。救えるだけの人は必ず助けて、救えない人達を悲鳴に歯を噛み締めながら見捨て、時には最低な事をした。救う人を選び、色々試した。数人救える筈なのに諦めた。無理矢理スグハを救って次の理不尽に備えた。人を多く見殺しにもして、選んだ人だけを生き延びらせて。一生懸命、いや支離滅裂か。そうやって醜く頑張った。それでもこの理不尽は終わる筈と信じて。あの城に居るはずの魔王を倒せば終わりだと、終わりなんだと。そう信じて、そう思っていた。けれど迎えた最期は···最期は···全滅だった。
「また考えた···終わった結末を考えても時間がもったいないだけ。苦しいだけなんだけどな···」
そう思い、ふと考えを改める。
「···いや···俺にもったいない時間なんてあるかは謎だな。こんな力を持ってて、ズルく自分だけ、選んだ人と生き残り、結局死ぬ。死なせる。こんな力を全く使いこなせないヤツに···」
なんて小さく笑う。
もう···諦めようか。全てに耳を塞いで、聞こえないふりして、ゆっくりと···
『···あーあ、良いよな恵まれた才能がある奴って。俺にはなにも無いのになー』
『能力持ってるならそれを役立てなくてどうする?使いこなすんじゃなくて、使いきるだけだ。』
折れそうになるほど、あいつの言葉は身に染みる。
「···············あーあ···············スグハめ···」
今度は吹っ切れたように笑えた。
···うん。よし、まず素振りをしよう。気分を変えないと、未来も変わらないだろ。
てかもうあいつの言葉思い出せば何度でも頑張れる気がするな。流石スグハだな。
戦場ですごい指揮が取れて、2日に1回告白されてるぐらいはある。うん。
というか···スグハにまだ何も恩を返せてない。全部終わらせて、ゆっくりあいつに使われてやる。
変な元気が出た。
···こんな元気の出し方をする奴は殆どいないだろうけどな。
窓から外を見れば日が町全体を徐々に明るくしようとしていて、大体いつもの俺なら素振りをしていて、終わり始めるぐらいの明るさだ。仕方ない、今日は短めで終わらせようか。
俺は毛布の中の危ない猫さんを避けてベットから降りる。そしてドアに手をかけて、
猫さんがカバっと起き上がった。
「うへへへ逃げられませんよー」
「っ!?」
起きてたのか!?うへへへってなんだ!?えっとどうするもしも起きてたならほっとくと後から色々大変そうだしとりあえずおはようだけでも言っておくか!?
慌てる俺に猫さんはフラフラと手を伸ばして···
「ふふふふ···もにゃん···」
そのまま倒れ込んだ。そのまま寝息をたてる。
「···························?」
··················寝言······か?
「すぅ···すぅ······」
一瞬起きているのかと思ったほどに的確な寝言を出した猫さんは幸せそうに俺の枕を抱きしめて眠る。
それを確認して、ドアをゆっくり開けて部屋の外に出る。そして階段に向かう。
向かいながらさっきの猫さんを思い返す俺がここに居た。
···あぁ。やっぱり可愛いな猫さんの耳。触り心地がすごく心地いい耳。いつもは許可を取って触ってるが今は勝手に触ってみたい···あの手触りを···い、いやダメだ勝手に触るなんて。確かに勝手に俺のベットにいる猫さんも悪いが、それはそれこれはこれ。獣人にとっては耳も尻尾も大切なものだ、なんの前触れもなくモフモフしては···
俺はふいに疑問を浮かべた。
そういえば猫さん···変だな。いつもはにこやかに「おはようございますナギサさんっ」と降りてきた俺に挨拶をしてくれるのに。耳を動かし、尻尾を振ってフサフサと···おぉう逸れるな集中しろ···
そういえば猫さんが1回前の俺に
『ふえ?だって昨夜はお楽しみだったじゃないですか〜』
って顔を赤らめながら言ってたけど、嘘だよな···?でも明らかに嘘を言っている感じじゃなかったような···
············本当に俺···猫さんにあんなことやこんなこと·········を?
想像した事を全部首を振って追い出す。
いやいやいや時間が戻るっていってもあそこまでの道筋は変わらないはず···だから、だか···ら······
···あれ、じゃあなんで猫さんは毛布に?いつもの道筋じゃあんな事起きなかったよな?
「うん···うーーん···?」
考えれば考えるほど猫さんが分からない。どれだけ考えても謎が深まるだけだった。
そんな事を考える間に1階の調理場の前まで、というか通り過ぎかけていた。
「調理場」
と雑な字でドアに直接書かれている。白く綺麗なドアに黒く汚く書かれてるからすごく目立つ。
この時間だと確か店長さんが開店の最終準備をしているはずだった。
裏にはここの調理場からしか出れないからな。店長さんの準備の邪魔になってしまうが、必ずここを通らなければいけないから正直申し訳ない。
とはいえ、忙しく準備している後ろを通れば、邪魔どころかお店が始められなくなるかもしれないから、入る時は大丈夫か大丈夫じゃないか確認してくれ、と言われているがな。
ドアの前に立つと、俺は目の前の扉を2回3回叩く。これで返事がくるはず。
「······?」
いつもならもう返事が来るはずだが、返ってこない。
明るさ的にも店長さん的にも絶対準備をしているぐらいなはずだから、居ると思うんだけどな?
耳をすましてみる。調理場の中からは焼いてるような、煮ているような多分料理の音が聴こえてくる。
うん、絶対居るよな。何も返事がないけど、そこまで集中しているのか?
「店長さーん、おはようございます。ここを通って裏口に行きたいんですが···」
心配になって声を出してみたものの···返事がない。
しばらく同じ事を繰り返す。
叩いては呼び、叩いては呼び···
·············································
先程より行動を強めにやってるのだが···
ドンドンドン!!!
「店長さん!店長さーん!!」
ダンダンダン!!!
「店長さぁあああん!!!」
全く返事は来なかった。
てかここまでうるさくすればあの店長さんなら『うるせぇ、折るぞ?』とか言われてても、投げられててもおかしくない。
「あれ、店長さん?店長さーん?」
けっこう心配になってきた。正直あの人なら揉め事どころか魔王軍幹部とか現れても軽くあしらえそうな気がするけど、こんなに返事がこないと不安になってくる。
ずっと聴こえるのはグツグツジュウジュウという音だけ。
今出かけているのかとも考えたが、あの人は長い時間作りかけの料理を放って何処かに行くなんてありえない。だからその考えは違う。
「まさか倒れてたりとかしないだろうな···?」
長い仕事の末についフラフラと···ってそんな事今まで無かっただろ、絶対ない。
あぁもう心配だ、悪いけど確認させてもらおう。
ドアの取っ手に手をかけた時
かすかに何かの音が聴こえた。
ポタポタと何度も聴こえる音。まるで液体が何度も落ちてるような、怪我から血が溢れて落ちるような
···あれ、血でも水でもヤバくね?
「すみません店長さん開けます···!」
そう呟くと俺は目の前のドアを少し開けた。
開けた隙間からやってくる、甘い匂い。幾度とない時間で覚えたこの匂いは。
···間違いなく、血の匂いで。
「っ店長さん!?」
俺は遠慮することなくドアを全開にした。明かりを付けてないらしく、中は凄く暗い。
全開にして濃くなる血の匂い。
「うえぇ、何度嗅いでもなれないなこの匂い···」
そう言いながらも中に入る。そして照明結晶を付けた。
すぐに見えたのは中身が真っ赤に染まった鍋と、その横の台に置いてあった切断されている人の身体だった。
「のわっ·········!!」
いきなりの赤々とした景色に俺は固まる。
何度も見たし、死体に慣れてるとはいえ流石に驚くわ!?何でここに死体があるんだよ!?
しばらく固まっていた俺だったが、気合いを入れると、血が広がる床を踏んで進み、死体を確認しにいく。
まず顔を見て、店長さんじゃない事を確認すると、ほっと息をついた。そこからゆっくりと死体を調べる。
なにか幸せそうな、苦しそうな顔をしているその男は上と下に半分に切られていて、切られた腹の部分から中身を見せながら、大量の血が溢れていた。右手が無くなって居ることを除けば、その場で綺麗に真っ二つにされている死体だった。切った跡はまだ新しく、断面から血が次々に零れている。
···俺がもう少し早く目が覚めてたら助けられた?
そんなことを考える。でもよく見れば新しいものは切られた所のみで、他の部分はそこまで新しくもない。俺が頑張ろうが頑張らなかろうが、救えない。無理だろう。
そうとわかれば、この人に申し訳ないがもうやれる事はない。先にやる事は店長さんが生きてるのかどうか、何処にいるかを確かめる事だろう。救えなかったのには仕方がない。救えない者は救えないのだから。
どう頑張ったって1日前には戻ることは不可能なのだから。
「ごめん···後で埋めてやるからな。」
そう手を合わせながら言う。そして、身体を裏庭の方へ向け
「············ナギサ様?」
裏庭に行くドアから顔だけを出して店長さんを見て。
「うわぁあああっ!!??」
見事にひっくり返った。
·········驚くことは何度もあったけど、ひっくり返ったのは久しぶりだと思う。血に濡れた床に身体を回すようにすっ転ぶ。その体勢からなんとか起き上がると、店長さんの方を見る。いつも通り感情が分かりずらい笑顔を見せながら、店長さんは中に入ろうともせずにただ顔だけを出す。
「てっ···店長さん!大丈夫でしたか!?怪我とかしてませんか!」
多分大丈夫そうだが、念の為聞いてみる。
「はい?何を心配していたかは分かりませんが、ご覧の通り私は五体満足で大丈夫ですよ?」
ご覧の通りって見えないんだけどな。顔以外。
「なんとなく察しがつきますが。何故そのような事を聞くんです?」
「俺が入った時にはこの人の死体があって、まだ近くにこの人を殺してここまで持ってきた犯人が居るはずなんです。だから今は大丈夫そうですが、ちょっと気をつけてて下さい。」
店長さんは死体の顔を見て、こちらに目線を戻すと言った。
「···こんな愚か者だったとは、まあ楽でいいですが。はいはい、分かりました。」
愚か者って言い方はなしでは店長さん···?あと楽ってなんだ?
まあさておき、店長さんは大丈夫そうだ。次は猫さんを起こしに行こう、まだ眠っていたら危ない。ちゃんと起こしたら、犯人を探しに行こう。いや先に埋めてあげるか。
「ごめん店長さん。その人埋められるよう準備しておいてくれ。」
それだけ言うと後ろに向き、
「ところで···ナギサ様。」
3階に戻ろうとした俺は店長さんに呼び止められた。
「うおっと···は、はい?どうかしたんですか?」
無理矢理止まって変な声をあげながらも、返事をする。
「用がありますのでこちらへ、裏口の方へ来てください。」
と言いながら店長さんは手招きをしていた。
悪いけど、猫さんを起こすのが先だろう。何処から襲いかかってくるか分からないからな。
「いや猫さんが心配なので一度起こしに行って来ます。すぐに戻ってくるのでそれまで待ってて下さい。」
「そんな心配もこちらに来ればなくなりますよ。」
言い終わると外に出ていく店長さん。
···何言ってるんだこの人?まさか、もう捕まえてたり?だからあまり気にしなかったのか?
とりあえず言う通りにするか。
捕まえてなくて別の用件だったらあれなので、急いで裏口の扉に行く。前につくと扉の取っ手を回して、
あれ、『そんな心配も』?なんでそんな言い方、
扉がゆっくり開く。
『楽でいいですが』?もしも、もしもあれが死体ではなく、俺に言ってたら?犯人は。
瞬時に後ろに飛んだ。
同時に扉が上下に切断される。しかも、三回分。切られたドアは壁に固定されている部分を除いて、ゆっくりとこちらに倒れた。
「···愚か者なのにこういう生死に関わる時だけカンが良い。あぁ、あぁ。苦痛をともわぬように終わらせてあげようと思ったのですがね。」
刀を構えて静かに笑う店長さんは、いつもよりも恐ろしく感じた。
〜キャラ説明〜
サザナミ・ナギサ 能力【永遠の夢】
帰ってきた?主人公。まぁ主人公は死んでもなんとかなるのが鉄則だよね。
極度の獣人好きで、自らの能力を使い死ぬ迄の一周分を獣人を眺める為だけに費やした事がある阿呆。
店長さん(シイラギ・アスズ) 男 [平人]
喫茶店の店長。彼の本名を出すと殆どの場所でざわめきが起きる。
ちなみに本編で使ってる刀は予備用の安物らしい。