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ごめんなさい一場面で区切るっているのでこの話だけ他より長くなりました。
ーーフォトル中央区の地下店『商品の寝床』ーー
そこ行けたのは完全に偶然で、つまづいて転んだ拍子に見つけたお店だった。そんな偶然でしか見つかるわけはなかった。というか普通に探すだけで分かるはずもなかった。あそこに地下への階段が隠されてるなんて分かるわけがなかった。絶対3発殴ろう。うん。
···ともかく、その階段を降りると目的の店はあった。降りていく途中はほとんど真っ暗でなにも見えはしなかったが、下まで降りてしばらく道を行くと、真っ白なドアがあったからだ。そのドアに刻むように『商品の寝床』と書いてあったからだ。ドアノブを捻ってギギギギ、と鳴らしながら開けて中に入る。するとドアのどこかに付いていたのか、あとから追いかけるように鈴の音が鳴り響く。そんな音を聴きつつドアをきちんと閉めて周りを見回した。
「それにしてもめちゃくちゃ暗いな、ここ。危ないし、どこかに明かりは」
ないのか、まで続かないうちにいきなり明かりがついて全体が見えるようになった。見えるようになってから思わず綺麗だな、と思った。
中は多数の赤と黄色のみで描かれた模様の床と壁があって、その床の上に一周する道を作るように青いショーケースが並んでいた。そして天井から吊るされている照明結晶が地下だと思わせない明るさで照らしだしていた。なぜか片隅にはショーケースもなにもないが。
「すごく綺麗な所だな···こんなとこがあるなんて知らなかった···まあ分かるわけなかったんだが。」
しかし、そこまでなら綺麗な店なんだなで終わったのだが、すぐ、危ないお店だとわかってしまう。ショーケースの中に、変な色の液体が入った容器、禍々しい本。少し見ただけでも色々すごいものがあるのだ。
こんな店に荷物を受け取りに行かせるって、というか荷物を頼むって。
「店長さんってホントなんなんだろうな···」
一言呟き、ショーケースを1つずつ見ていこうとした次の瞬間、
首になにかを突きつけられた。冷たい感触から刃物なのがわかった。
「···劣等種族の少年。ウチに何の用だ···?」
と後ろから男の声で話しかけられる。というか劣等種族って言われた。明らかに信用していない声と殺意のある気配に、息を飲みこむ。でもこんなので負けるか。
「頼まれて···荷物を受け取りに来たんです······店長さんに言われて···っ」
俺はそう言ったが後ろの気配は消えない。それどころか増した気がした。
「劣等種の貴様が受取人?はっ、なんだおつかいか?一体誰に···いや悪いがな、貴様らは信用できない、それに信用する気もない。」
後ろの男は信用しないと言い切った。ここまで信じてくれてないとすると、どうするのがいいのか。
「いっそなにか起こる前に、ここで殺し───────」
「はいはーい待つニャー。いきなりそんな事しないのニャ。少年くんも怯えてるのニャ。」
男の言葉を遮るように壁の中から声がきこえた。不思議に思っていると不意にショーケースがない片隅の壁が開いた。そこから1人の女性、狐獣人···いや猫獣人が現れた。猫獣人にしては目が緑色で、黄色い髪だが間違いない。みんな大抵黄色の髪の獣人を見るとみんな狐だと言う。だが彼女は絶対猫獣人だ。確かに猫獣人と狐獣人の獣耳は似ているがよく見れば違いが分かる。耳が縦に大きく先が尖っているのが多いのが狐で、横に大きく先が少し丸くなっているのが多いの猫獣人だ。そしてもっと分かりやすいのが、狐獣人は横に耳を向けられたり、左右に動かしたりできるが、猫獣人は耳が横に向く時、必ず畳み、左右には動かせられない。まあどちらの獣人も耳を畳めるのだが。ちなみに狼獣人は横に耳を向けられないが、左右に動かせるのだった。全部可愛い。
というか第一にみんな尻尾ですぐに分かるけどな。
まぁ水色のワンピースに遮られて見えなかったが。
···うん、やっぱり可愛いよな尻尾も耳も。うん、触りたい。モフモフ。モフモフ。ていうか後ろの人はなんの獣人だろうかな。同じ猫かな、それとも狐?狼?どちらにせよ触りたいモフりたい。
バレたら絶対殺されそうな事を思っている俺を挟んで2人の話は続く。
「···おいタマ、こいつはガキだが一応劣等種族の1人だぞ?身体能力も無いくせにズルい能力や卑怯な戦法をしやがるあんな野郎どもと同じな。もしもに備えて警戒しておかなくて何になるって言うんだ。」
タマと呼ばれた猫獣人はこちらに近づくと、俺の髪を撫で始める。
ちくしょう、俺は撫でなくていいからその耳を触らせて欲しいな···
そう願う俺には気づく様子もなく、タマさんは言う。
「まあ確かに只人だけど逆に一応子供、少年ニャ。そこまで警戒してしてニャくても大丈夫ニャア〜というよりこの少年の前で劣等種族とか言っちゃダメニャ。」
「でもな、髪色が紫の、で目色が緑のやつなんて。どんな力が有るのか分からねぇだろうが」
「そうかニャ?カワイイと思うのにニャア?それじゃ、いつも通り確認してみて、知ってたら少年を離してやるニャ。ほらほらヨシヨシ〜」
なんでほっぺを触るんっおわ!?やめてモニモニしないでくれ!?
「···はぁ···わかったよ。そのかわり、知らなかったら遠慮なく殺すからな?」
「それでいいのニャ。それじゃあお客さん。合言葉はな〜んニャ?」
──────合言葉?そんなの今初めて聞いたんだが。
合言葉のあの字も聞いていなかった俺はその言葉に固まるしかなかった。しかも間違えたら死ぬ。後ろのジイルって人に殺られる。でもまるで分からない。
そして期待をするようにじっと見てくるタマさん。まるで合ってても間違ってても問題ないかのような目だ。なにか言うしかない。そして俺がこの場で言えることは1つのみだった。下手に忘れたとか言えないし、適当に言えないために正直に、
「···ごめんなさいっ!!合言葉分かりませんっ!!!てか今初めて聞きましたぁっ!!!!」
謝る。これしかできなかった。
しばらくの静けさ。
いきなりタマさんは大きく笑い始めた。お腹を押さえてうずくまる。後ろからも隠しきれてない笑い声がきこえる。ちょっジイルさん刃物震わせないで!?
うん俺死んだかな、などと思っていたらタマさんは笑いながら言った。
「いやー合言葉の事を知らずにやって来る子が居るなんてニャ、大抵のヤツは偽の合言葉であれ、なんであれ知ってると思ってたけどニャー。ふふふっ、本当になにも聞かされずにおつかいに行かされたってヤツかニャ?」
よしよしと頭を撫でられる。
続けてジイルさんが
「···さっきのも今のも嘘じゃなさそうだな···誰だこいつに合言葉も教えずにここに来させた馬鹿は···」
呆れながら呟いていた。気づくとジイルさんは首から刃物を離してくれていた。首が自由になったので、彼がどんなヤツなのか見るために後ろを···と思ったが先にタマさんに聞いておく。
「えっと、もしかしなくても合言葉がないと荷物を受け取れないよな?」
「はい、もしかしニャくても合言葉がないと荷物を渡せませんニャ。」
ちょくちょくニャって言ってるのすっごく可愛い。
···いやっそれより荷物を受け取れないことが重要だ。このまま、
『テヘッ合言葉分からなくて受け取れませんでした☆』なんて聞きに戻ろうならどうなるか分からない。
『ふふっそうか、仕方がない。いっぺん死んでこい♡』とかでぶっ殺されそうだ。
あれ、おかしいな。震えが止まらない。
震えだした俺を見かねてか、ジイルさんが横からやってき···
「なら、合言葉は分からなくても頼んできた奴の名前は分かるだろうが。それを聞かせてもら······おい?どこを見てる?」
なにか言ってるが俺の意識は一点に集中していた。ジイルさんの見た目にだ。
そっか〜ジイルさんは黒髪の犬獣人か〜
黒い目でこちらを睨むように見てくるジイルさんは見事に男前な顔をしていた。そして黒コートに身を包み、垂れた耳をしきりに動かして、さっきまで俺に突きつけてたらしき短剣を左手でクルクル回しながら壁にもたれていた。そして後ろに見えるはクルリと曲がっている尻尾。
あぁ···モッフモフじゃないか···やっぱり犬の獣人は尻尾が魅力的だよな···
一定の間隔で左右に揺れる尻尾はモフるのを誘ってるようで、
······あぁ···触りたい癒されたい、抱きついてムギュムギュしたい···そしてっ!
出来ればタマさんの耳やジイルさんの耳をワサワサ触りたっ
トンッ
真横をジイルさんが持っていたハズの短剣が横切った。頬がちょっとだけ痛い。多分少しかすめた。
痛みに我に返った俺は目の前にいる無視をされて不機嫌なジイルさんと向き合った。
左手が投げた時の状態で真っ直ぐ伸ばされていて、尻尾を立たせ半目で見てくる姿は男前なのになぜだか可愛くてモフ···いや違う集中しろ殺られる。殺られる。違う例えをするんだ。
その姿は···そう!その姿はまるで物語に出てくるような暗殺者だ。
そんな事を考えているとジイルさんは言った。
「···おい、ガキ。なにか不愉快なことを考えていたな?」
今にも叫びだしそうな声で言われる。素直に頷いた。俺が頷いたのを見たジイルさんは続けてこう言った。
「今考えた事を俺にしてみろ···腕をもぐからな?」
腕をもぐ。腕をもぐ。腕を···もぐ?
腕を斬るとか、折る、千切るでもなく···もぐ。絶対1番痛い。
でもこの目は絶対やる。モフったら必ず有言実行する。どれだけ苦しもうと痛がろうとも時間がかかろうとも絶対もがれる。
「はい。すみませんでした。」
素直に謝った。
「···ったく。もう一度言うぞ。」
ジイルさんはため息をつきながら態度も変えずに言ったが、許してくれたようでさっきまで立っていた尻尾もクルリのモ(一瞬で睨まれたっ!睨まれたっ!!)······普通に戻っていた。
「お前にお使いを頼んだバカの名前を出せって言ってたんだよ。ほら、それならわかるだろ?」
あの人か。でも名前かぁ···
「あ、あぁ。確かに知ってるんだが···」
「···?何を渋る必要があるんだ?早く言え。」
「えっと···店長さんって言ったら分かるか?」
「いや分からないが?何故名前を出し惜しみする。ほら早く言え。」
···うーん···言っていいのか···?一回だけ教えてくれた時があったがあれ以来全く言ってくれないし、その教えて貰った名前で呼ぼうとした刹那、意識が飛ぶほど吹き飛ばされたもんな(ちなみに起きた直後に『次名前で呼ぼうとしたら殺す。』と脅されている)···俺がバラしたって事になればどうなる事か···
「あぁ、なるほど訳ありか?まぁ合言葉も言ってない上に只人に頼むくらいだからな···早急なんだろうな。大丈夫だ、ここに商品を頼みに来た時点でそいつは俺らに名前を明かしてる。」
「それにここで出した名前は絶対外には漏らさないのニャ。安心するニャ。」
横からタマさんがそう付け足す。
「あぁ、だから早く言え。どの荷物か分かり次第渡してやるから。」
とまた促してくる。よくよく話を聞いてるとこの人、只人只人言う割には優しいよな。それにタマさんは秘密は守るって言ってくれてるし、言ってしまうか。
「えっとな?本当にここだけの秘密だぞ?その人の名前はな、」
「名前は?」
「なんニャ?」
「店長さんはシイラギ・アスズっていう名前なんだけど······あ、あれ、タマさん?ジイルさん?」
名前が出た途端、2人は固まった。まるでこの世の終わりに出くわしたかのようだった。
「···い、いやー聞き間違いかな?もう一度言ってくれるか?」
引きつった笑いをしながらジイルさんが言った。なにか間違ったかな?
「えっとシイラギ・アスズって名前です。」
「「···っ!!!」」
目の前の2人は目を丸くした。
その後、タマさんは次第に目に涙を浮かべながら震えだして(ゴメンなさいすごい可愛い)、ジイルさんは「あいつの所のか···あいつの所の···と···と···」なにかブツブツ言いながら考えだす。
2人の反応に驚きながらも話しかけた。
「お、おーい?どうしたんですかいき···
「「も···申し訳ありませんでしたぁっ!!!!!」」
話しかけた瞬間、こちらに向かって頭を下げられた。
「ええぇえぇぇ!!??本当にどうしたんだ!?」
分からなすぎてそう質問する。
「どうしたのではなく、謝罪をさせてもらっています!!さっきは頬や頭を許可もなく勝手に触ってしまい、すみませんでした!!ゴメンなさい!!!」
頭を上げ、涙をボロボロ零しながら言うタマさん。
「さ···ささ先程は貴方様の首元に刃物などを突きつけ、挙句頬に傷を付けてしまいまして誠に申し訳ありません···何卒···何卒寛大な心を持ちまして、御容赦をお願い致します···!!」
さっきまで俺の扱いが酷かったジイルさんが顔を上げずにすごく丁寧な言葉を使って許しを乞う。
この場所は先程までの空気はなくなって、まるで神様でも降臨されたかのような雰囲気になっていた。
耐えきれずに俺は2人に言う。
「いやいやいや!?大丈夫ですから!?謝らなくていいですから!?もういいですから!?」
頑張って止めてもらうように説得してみるが···逆効果になった。
「···う······うわぁぁん!!もういいなんて言わないでニャァアア!!許してニャァ!!もうあれは嫌ニャァアア!!!」
『もういい』が悪い意味にとられたようでタマさんにもっと泣かれながら正面から抱きつかれた。いきなりの事で俺はバランスを崩してそのまま倒れた。そのまま被さられるようにタマさんがくっつく。フサフサの耳が目の前にあるのは嬉しいが、色んな所が密着してて恥ずかしい!
···い···いや···というか首元に手を回されてて苦しい···死···死ぬ···
「く···苦し···ジ、ジイルさん助け···」
助けを求めようと横をむく。
「もうあれは嫌だあれは嫌だあれは···あれ···うぐ···ぐぅっ!!!」
しかし居たのは何かに怯えて壁に蹲り、耳を塞いで震えているジイルさんだった。
「ジッ···ジイルさぁぁああん!!!???」
助けを求める俺。
「うわぁぁあああん!!!ゴメンなさいニャァ!!!」
ガン泣きをして抱きつくタマさん。
「やっやめろくるな···くるなぁああ!!??」
何かから逃げるジイルさん。
店の中は三者三様の声で埋め尽くされ、大混乱だった。
············結局逃げ帰るようにして、店長さんの所へ戻ったのだった。
もちろん荷物を受け取ってこられなかった。
作者のクソザコ説明ー
ーオリジナルの用語説明編ー
結晶···宝石類に晶素(魔素より貴重な大地の力。しかし扱えはしない)突然変異を起こし出来た石。元の宝石の種類や、晶素の量、純度で効果が変わる。まぁぶっちゃけ言っちゃうと科学技術の代わりに結晶がそれらを補っているのだ。
照明結晶···分かりやすく言うとライト。ダイヤモンドがこの結晶に変異しやすい。魔力を込めると込めた分だけ光る。純度によって込められる量が違い、純度が高いと閃光弾並の光が出せる。ここまでいくと閃光結晶として戦に使われる。
獣人···よくあるケモ耳。人より優れた力、魔法を誇り、一般人を只人といい差別する。
『人を喰わねば生きて行けず、暫くすれば息絶える。』
しかし人の血をある程度飲めば1ヶ月は生きられる上に、多く喰えばその分蓄えられる。
一人いれば戦や仕事で大活躍できる。その為、一般人とは微妙な関係で成り立つ。
今回は以上。次回はキャラを少々説明します。
色々追加されていくと思うのでよろしくです。