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ーーーズレた序幕ーーー
---フォトル[喫茶店エブリデイ]---
「うわああああああっ!?」
嫌な感触と一緒に目が覚める。と一緒に身を起こす。直後、俺は首に手を当てる。しかし血も傷もなく、息をする度に動く感触があるだけだった。そこに突き刺さったなど跡あるはずはないのだが、どうしてもあの感触が忘れられず、確認せざるを得なかった。しばらく触って何も無いことを確認すると、大きく息を吐き、再び横になる。
「ちくしょう···」
また終わってしまった。終わりだった。1人どころか誰も救えないという最悪な終わりで起きた今回は最悪な目覚めだった。苦しい。泣きだしそうだ。だがそんな事をずっと気にしているのもいけないことがわかっていた。こうやってずっと気にする間に、もう結末が変わるのかもしれない。切り替えようと何度も試みるが、それでもあの結末を思い返してしまう。
「···くそ···何処からダメなんだよ···」
最後までやっといけたはずなのに。あともう少しなのに。いや、まだもう少しでもなく、やっと後半だったのかもしれない。でも死んでしまえば、殺されればもう戻れない。もう、救えない。
「どうすれば···どうすればアイツらを···」
苦いものを食べたみたいに、口の中が苦く感じられた。そしてまた思いだすのはさっきの記憶。1番なって欲しくなかった最悪な結末。味方同士の殺し合い。吐いてしまいそうだった。
横からくる光にふと窓を見ると日が少し出ていて、いつもならもう目覚めて身体を動かしている時間だった。人も少しだが外に出てきている。
何も知らないで、平然と。そう思うと、少し、ほんの少し······
「·········顔を洗ってこよう···」
そう思い、ベットから降りようとして、毛布が膨らんでいるのが見えた。時折息をするように動いているのを見て、その時になってやっと横で誰かが寝ていたことに気がついた。モゾモゾする毛布の端を持ち、ゆっくりと取るとそこに、
「··················」
「むにゅー···」
獣人が寝ていた。
「····································」
「ふにゃぁ···むにゅ···」
頭についてピコピコと動く可愛い猫耳。もふもふな毛が目立つ黒い猫耳は、俺の思考を中断させて一新するには十分の可愛さで、その可愛さはまるで猫さんのような······まる···で···猫さん?
「·························································ん?」
「んぐぐぅ···にゃぁうん···」
紛うことなき猫さんだった。
···ふえあぁっ!!??
なんで!?なんで猫さんがここで寝てるんだよっ!?
そう叫びたかったが、ここまでぐっすり寝てるのを起こすことになるのでなんとか押し留めた。でも押し留めているだけで内心は全力で警報を鳴らしていた。
(···というかっ!いつもの朝ならこんなこと起きなかったハズだろう!?なんでこんなことに!?)
そう思考しようとも、叫びだしたいのをどれだけこらえてもがいても今起きていることは変わらなかった。
慌てふためく俺の横で猫さんは寝返りをうつ。その拍子に毛布がズレて、そこで俺は完全に動きを止めた。
なんと···猫さんは裸で寝ていたのだった!
「なんで裸なんだよっ!?!?」
思わず大声で叫んでしまった。叫んだ後すぐにハッとして口を塞いだ。でも意味はなかった。猫さんは俺の声に耳をぴょこんと動かしたあと、ゆっくりと目を開けた。ぐしぐしと目を擦って、そして綺麗な青い目で俺の方を見て、
「···ふあぁぁ······あ、ナギサさんおはようございます。」
普通に話しかけてきた。
「······あ、あぁおはよう···?」
あくびをして猫さんは身体を起こす。全く裸を隠す気もない猫さんは、体を伸ばしながら自然に俺に話しかける。
「今日もいい天気ですねー。お日様も上がってきていて···お日様?あれ?ナギサさん、いつもならもうとっくに起きてるぐらいですけど、どうかしたんですか?お身体の調子でも?」
なんで今の状況より俺の心配を···まぁ嬉しいけど分かってくれ···裸なのが一大事なのを···
「大丈夫だよ猫さん。気にしてくれてありがとな。ところでな猫さん?なんで俺のベットに入ってるんだ?」
そう言うと猫さんは不思議そうに首をかしげ、
「ふえ?だって昨夜はお楽しみだったじゃないですか〜」
「そっかーお楽しみだったかー」
「そうですよー。あぁ、夜遅くまで起きてましたし、それならこんな時間に起きても仕方ないですよねー」
そうかそうか。お楽しみだったのか、それならしょうがな────────
「·········え?」
猫さんを見る。
「······え?」
猫さんと目が合う。
「えっと···俺と?猫さんが?」
「はい。」
「昨日の夜にその···そういう事を···?」
もう一度首をかしげ、頬を染めながら、
「はい。しました。とっても情熱的な感じでナギサさんが私をめちゃめちゃに···」
そこまで言うと猫さんは、
「···ってあれ?もしかして、ナギサさん覚えていないんですか······」
俺に聞いてきた。
「·································あれ?」
昨日の記憶を探る。分からない。猫さんが関わっている出来事を全てを思い出して探す。しかし
「···分からない···覚えて······ない···」
そう言うと猫さんは少し慌てた様子で、
「···えっと、そ、そういえばナギサさんは店長さんにお酒を飲まされてましたし·········」
酔って···それで猫さんと·········いやそんな流れは今まで無いはずだ。いやしかし、猫さんが嘘をつく理由もない。話を聞く限り、自分からしてしまった?らしい。覚えていないにしても最低な行為だ。いやむしろ覚えていないからこそタチが悪い。なので、とりあえず俺は、
「ごめんっっ!!!猫さんっっ!!!!!!」
土下座、とやらをすることにした。
それにギョッとしながら猫さんが慌てて言った。
「いや!?そんな謝らないで下さいナギサさん!?私も合意でしたし!?······というか···ウソデスシ···」
オロオロして話す猫さん。小さくなにか言っているようだったが謝る。
「本当に悪かったっ!!なんでも言うこときくから許してくれ···」
「大丈夫です、大丈夫ですから···冗談だと思って忘れてくだ······え?なんでも?」
「ああ、できる限りの事は···本当にごめん···」
猫さんは一瞬目を輝かせた。そして少し悩む素振りをみせた後、
「なんでも···なんでも···なら全部脱いでください。」
「あぁわかった脱ぐよ···」
俺は服を脱いで、ズボンに手をかけると
「······ってなんだそれ!?」
と叫ぶ。
「なにって今からもう一回バチコイするんですよ?」
静寂。
「···えっ?」
「えっ?ナギサさんなんでもするんですよね?な、ん、で、も。ですよねぇ?」
にじり寄る猫さん。怖い。猫さんが怖い。じっくりと下から上まで舐めるように見てくる。
「いや、いやいやいや···なんでもって言ったがそれは···えと···できうる限りと···」
言葉が見つからないまま後ろに下がる。しかし後ろは壁だ、逃げられない。猫さんは獲物を追い詰めるように少しずつ少しずつ近づいてくる。
「いやいや〜できますよ全然、ナ〜ギ〜サ〜さ〜ん···うふふ···逃げられませんよ〜」
「あ···いや待ってくれ猫さん!?」
「いいや待ちませんっ!ナギサさん、いただきます!」
「やめっ···わあああああ!?」
タベッ···タベラレル!?
もうダメだ、と目を塞ごうとした時、
「猫さん?ナギサ様が何処にいるか知りませんかって、どうしてナギサ様の部屋に居るのですか?いったいな···にを···」
ドアが開いて店長さんが現れた。
店長さんは途中で黙って、呆れているのか、睨んでいるのかは分からないが、猫さんと同じ青い目を細めてこっちを見ていた。
き···奇跡だっ!?助かったっ!!
と思っていると店長さんはニコッと笑顔になると
「······お取り···込み中ですね。すみませんこんなタイミングで、邪魔するだけ野暮というものですし、ごゆっくり。」
店長さんはクルリと後ろを向いて立ち去ろうとしていた。
「待って!!待ってください店長さん!?助けてください!?」
微妙に涙が滲みながらそう言うと、店長さんは向き直ると、
「めんど···」
ん?今舌打ちみたいなのとなにかがきこえたような···
疑問に思う俺を遮るように店長さんは、
「···ほら猫さん?ナギサ様が嫌がっているではないですか?やめてあげて下さい」
と優しく止めるように言ってくれた。
「えぇーだってナギサさん可愛いじゃないですか〜こんなに初々しい人が居るんですよ?これで襲わゲフンゲフンッ!!お近付きにならないって言うのですか?女···いいえ獣人の恥ですよ!!」
いきなりとんでもない事を言い出す猫さん。明るくて優しくて可愛い〜などといった今までの猫さんのイメージが玉砕した。あれおかしいな。何回ここまで戻ったか分からないんだけどな。
店長さんは猫さんの言葉を予測していたのかため息をつくと
「···じゃあ獣人という獣を狩らないのは狩人の恥ですし、狩らないといけませんよね···?どうです。殺ります?殺られてみます?」
と低めに笑顔で脅し始めた。こっちに向けられてる言葉じゃないはずだが何故か震えが止まらない。
「か、狩られる!?いやというかマスターさんは狩人じゃないでしょうに!店長ですよね!?」
「今日から副業で狩人です。良ければ狩られます?」
「いいえっ!?大丈夫ですよ!?」
手を大きく振りながら遠慮する猫さん。店長さんはしばらく猫さんを見ていた後、
「···あぁ忘れるところでした。ナギサ様に言いたいこと、そしてお願いしたいことがありました。」
とこちらに目を向けた。
「? 何をお願いしたいんだ店長さん?」
「この紙に書いているものを全て受け取って来てください。」
紙をこちらに投げてきた(綺麗な紙飛行機で)。中を見ると、色々書いてあり、でもそれのどれもが食材ではなく、なにかの道具のようだ。ここ喫茶店だからいるかと言われると必要ないものなのだが。というかさっきの時点でもう分かっていたが、もう起きることが違う。こんなこと今までなかったはずだ。この変化から結末の変化にも期待が持てるのか。それとも前以上に酷くなるのか。分からないが断る理由もないし、店長さんの次の一言でこの道筋で行くことを確定された。
「まぁナギサ様が嫌というなら仕方がないのでここで斬りますが。猫さんのおやつぐらいn···」
「行きますっ!!行かせていただきます!!」
遮るように言った俺に店長さんは笑顔を崩さずに、
「おやそれは有難いですね。あ、斬るというのは冗談ですよ?いやーナギサ様ならそう言うと思っておりました。」
嘘だ。絶対嘘だ。断ったら斬るつもりだっただろ。今までの出来事を思い返しても絶対嘘だ。店長さんは明らかになにかあるが、猫さんや俺にはそれを隠す気はないようで(でも聞いたら殺されかけた)、わざとらしいというか、いつもお客さんに話す口調で話すが、こちらには何かを匂わせるような感じで話してくる。なのでめちゃくちゃ怖い。もう最後の敵が店長さんではないのかと思える。でもこんなこと思ってるのがバレたら折られそう。
「···どうかしましたか?」
「いやなんでもないです行ってきます。」
「そんな服装で行くつもりですか?止めませんが、今度から私は他人のフリをしますからね。」
「うわぁ···大胆ですねナギサさん?止めませんけど私はずっとナギサさんの味方ですよ。」
同時に言われた。同時に言われた!同時に言われたっ···!!
なにかあたたかい目で見られているのを気づかないふりをして、服を着る。そしてドア前の店長さんの横を、顔を隠すように通り過ぎ、1階へと降り、正面から出る。走り出した直後頭に衝撃。痛みに頭を押さえながら上を見る。さっきの3階から店長さんがいつもの笑顔で···いや怒ってる。分かる。俺には分かる。
「裏口から。出ましょうね。ナギサさん?」
「はい。スミマセンデシタ。」
「行ってよし。あ、ちなみに場所は『商品の寝床』ってところですので。」
「はい。イッテキマス。」
痛みに耐えながら俺は中心部へ向かった。
初投稿で、訳分からん所が多いと思います。
暖かな目で見てやって下さい。