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番外 セーリア視点

獲物を探しているときにわらわと反対の力を感じた。

そちらをみやれば闇と星しかみえないが間違いなく空から落ちてくる気配のある存在。

危険なほど空腹ではなくそれをみにいくのも、また面白い。

おおかた天使でもおとされてきたのであろうが。

吸血鬼の力ですぐにその場につくことはできた、存外のんびりな天使なのか未だに地上におりてくる途中のようだ。

天使は神の力に守られているのかわらわの力に反発しまわりに光をもたらしている。

かなり眩しい。

日の光にあたらず光になれぬ目では見づらいものがあるが、天使が降りてくればその力も散り元の夜にもどりる。

予想にたがわずそこにはこちらを見あげてくる天使がいた。

天使の色をまとった全裸の少年が一心にみつめてくる。

反発するちからもなくなり、その頭に触れてみれば「きれいなにんげん」との思考しかない。

どうやら人間以外の種族だとは、かけらも思っていないようだ。

魔の世界では今、愛玩動物を飼うのが流行っている。

そう、これを愛玩にするのも悪くはない。見た目は綺麗なのだから。

その心の臓にふれ、エネルギーを確認すれば満点。これならしばらくは”もつ”だろう。

「おまえは今から下僕にする。せいぜいわらわに奉仕して可愛がってもらうようにな」

「うん」

ためらいもせず返事が来た。

わらわの服を任せている店へと連れて行き、服を作らせる。店の者は全裸の少年に困惑し赤くなっていたのが見ものであった。

まだ降りてきて間もないせいで天使自体は心ここにあらず、といった感じであった。

店の者に足りないものを買いに行かせ、そのまま連れ帰る。

服の着方を教えられていたが自分で着替えることぐらいはできるのだろうな?

人型ではあるのだから使用人と変わらずにつかえばよいだろうと最初は考えていた。


…見事に使えぬ天使である。

反対の力ゆえにわらわに触れると拒絶反応をしめすため、身の回りのことはできぬ、掃除等の使用人の仕事もできぬ、屋敷が汚れていようと気にしないが。

悪意はなく素直であるから言えば理解し実行する。

まぁ天使のトマトジュースだけはうまいのでよしとするか。

吸血鬼といえども味覚はあり、戯れに血以外のものを摂取する。

一番は成人になりかけた若い者の血がうまいが。

体を休めている時間たいに人間の子供が天使のまわりをうろついているのには気づいていた。

まわりの人間は近付かないが、たまに子供が怖いもの見たさが侵入してくる。

放置しておけば帰るが、どうやら天使になついているらしかった。

人間にとってはみめ麗しくただ優しい天使は好意的な存在であろう。

その力も日々、弱っていくのはみていればわかったが、そういったものだ。

忌々しいことに一番近い町の教会に天使が降臨したことも一因である。

天使は近いうちに崩壊する。

崩壊するからといって何も変わりはしない。

その体が塵に戻るだけのこと。弱弱しかった気配は消え失せ、屋敷には何も残らない。

あれがいたことを知っているのは、ごくわずかなものだけ。それも時間が経てば誰もが忘れる些細なこと。

わらわの生活から天使特製の飲み物がなくなっただけのことよ。


崩壊した天使の残骸である塵を集めて手元に残していた。

太陽の光を長時間浴びた吸血鬼と同じような消滅の仕方をするとは神も面白いものを作る。

われらを嫌っておるくせに。

これにわらわの血と力をなじませつつ加えてゆく。

さて、何が生まれるか。

それから数年がすぎ、きまぐれに血と力を与えてみていくが変化はみられない。

食事をとりにいこうと屋敷をでれば人間の若者が離れたところでこちらをみていた。

「お前が主人か?」

ごくりとつばを飲み込む音が聞こえ緊張をしているのがわかる。

今宵の食事は、この若者にしてしまおうか

種族特有の美しさが、この若者を惑わそうとしているのがわかる。

「お前は下僕にまとわりついていた子供だね?」

気配はあのときのまま、それなりの年月が過ぎていたようだ。わらわの問いに若者は確信をえたようだ。

「下僕はどうしたんだ、あれから天使様がきてから姿をみてない。お前が食ったのか」

人間とは本当に感情豊かである。

その姿には恐怖、後悔、怯え、欲求が見える。

面白い。

「特別に教えてやろう」

若者にせまり、その首元をなめあげる。

抵抗しようとしたが体はすでに動けまい。

「あれは天に帰ったのさ、人間があまりに美しくないからとね」

牙を突き立て、そこから流される血、それにふくまれる生命力がわらわの体を刺激しておく。

これが吸血鬼の食事。

力が抜け気絶した若者をそこに放りだした。また懲りずにくるだろうから。

そこから若者はわらわに食べられても懲りずに通い詰めてきた、正体をしってもなお来るとは余程こころのこりがあるようであった。


塵であったものが血と力によって質量を増やし、それに変化をもたらした。

生命力を感じるのだ、なじませ続けたかいがあったようだ。

それは赤子に変化た。

黒髪の赤い瞳、だがその背には黒い羽があった。天使の輪郭をのこしたまま闇に落とされたもののように見える。

幼い瞳でこちらをみあげてくる姿が天使がおりてきたときを彷彿とさせる。

ちょうど良い。

若者に育てさせるか。今宵も屋敷前に来ていることであるし。

「わらわの子ともいえるものだ、育てて見せておくれ」

口を引くだけの笑みととも渡せば、若者から成長した男は口を引き攣らせた。

「いつ子供なんて作った」

「生んだわけではない」

赤子は何も分かっていないのか男の手をしきりに触ってなめている。それを嫌がったのだろう抱え直して嫌そうにこちらをみた。

「背中に羽があんだけど…」

「そうだの」

「下僕に似てるのは気のせいか?」

「似ているというより本人だの」

「…」

「よく育てよ、わらわは生まれた地に帰られねばならぬからな。この屋敷をそちに与えよう」

「おいっ!」

そろそろうまれた家がきな臭くなってきたのだ、わらわにかかる火の粉は早くに処分したほうがいい。

あの男もひつこいほどに蝙蝠をよこしてきてうっとおしいばかり。

仕置きが必要だ。そう、恐怖に顔がゆがむような仕置きがね。

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