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会社の上司を悪役にした異世界ファンタジーを書いていたら、読者が社長だった  作者: エール


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推理小説 (現実)

 その青年……田澤という名の彼は、シーマウントソフトウエアには土屋と同期で入社した。 ただし、その当時の年齢は、土屋が高専卒の二十歳であったのに対し、彼は大学院卒の24歳だった。


 それでも、同期というということでよく飲み会に参加することがあったし、田澤は土屋のプログラマーとしての能力を高く評価していた。

 しかし、土屋が備前専務の怒りを買い、事務職に移ってからは、親交がほとんどなくなってしまっていた。


 田澤は優秀な人物であり、特に交渉能力に優れ、システム面にも強かったため、システムエンジニアとしてすぐに頭角を表し、入社三年目でもう主任に抜擢されていた。

 そんな彼が、妙な噂を聞きつけたのは、つい最近だった。


「シーマウントソフトウエア社内の誰かが、この会社で起きていることをネタにしてウェブ小説を書いている」


 半信半疑だったが、もしそれが本当で、社内の秘密情報を無断で掲載しているようであれば大問題だと思った。

 特に、最近の情報流出問題があったばかりなので、これは確かめる必要があると考え、その噂のウェブ小説を特定し、全文読んでいた。


 結論としては、危惧は杞憂だったし、また、興味深い推測を立てることができた。


 心配していた「社内情報の流出」は、存在していなかった。

 なんとなく、自分の会社で起きていたパワハラやセクハラの問題に当てはまる部分はあるものの、決定的ではなかったし、また、登場人物の名前も完全に一致するものではなかった。

 もし、実際に社内で起きていた事件をもとにしているなら、実名を参考にしながらうまく隠しているな、と感心したほどだった。


 また、「突然の辞任」で社内中の騒動になった備前専務らしき人物が失脚する様子を、ある程度真実味を持たせて書かれている事にも興味を覚えた。

 専務は、より大きな権限を持っている人間の不興を買い、破滅した――。


 具体的に何があったかを読み取ることはできなかったものの、このウェブ小説作家の備前専務に対する怒り、そして報復を果たしたという達成感を感じることはできた。


 このウェブ小説が本当にシーマウントソフトウエアの社員が書いたとするならば、一体誰の仕業なのだろうか。

 田澤は、まるで推理小説で犯人を推察するようなノリで、その作者の正体を考えた。


 備前専務の辞任後、社内で急に、彼の希望する形で移動のあった人物。

 以前の課の女性達と仲良くしており、社長秘書とまで親交を持っていると噂される者。

 どこか抜けたところがあるものの、誠実な人柄で憎めない奴。

 そして田澤本人が感じていた、「なにか突拍子もないことをやってくれそうな男」という直感。


 ――該当する人物に、一人だけ心当たりがあった。

 いや、彼がそうなのではないかと逆算して、初めてたどり着く結論だった。

「備前専務を追い落とすほどの、豪腕で優秀な社員」という線から推理していったのでは、絶対に候補に挙がってこない人物だからだ。


 そしてここで、改めて備前専務という人間について考えてみた。

 一言で言えば、「パワハラの権化」だった。


 社内外の重要人物に太いパイプを持ち、良くも悪くも会社内で相当な権力を持っていた。

 彼の言動には誰も逆らえず、社長ですら手を焼いていたと聞く。

 なので、備前元専務が失脚した際には、余程のスキャンダルを掴んだか、あるいは綿密に追い落とす策を練っていたのだろうと噂が立った。


 備前元専務の派閥に所属していた者――といっても無理矢理参加させられていた者がほとんどだが――は、彼が辞任した際、驚きと困惑、そして安堵が広がった。

 田澤もその一人だったのだが、ここで例の小説の最新話が、どうしても気になった。


「パワハーラ・ザイゼンは、まだくたばってなどいない」


 もし、これが本当に備前元専務をモデルとしていたならば。

 さらに、例のプログラムコードの流出疑惑に、彼が関わっているのならば……。

 田澤は、なにか恐ろしい予感を感じて身震いした。


「……俺も、じっとしていないで動いた方が良さそうだな……」


 優秀なSEである彼の行動は早かった。

 すぐに信頼の置ける同僚に連絡を取り、備前専務の派閥の人間、およびこれまでのパワハラの被害者が、今、どうしているかを密かに調査しようと持ちかけた。


 そして彼は、「会社まるごと異世界召喚」の作者に、ダイレクトメッセージを飛ばした。


「小説、大変興味深く拝見させて頂いております。ところで、パワハーラ・財前のモデルって、ひょっとしてS社のB専務ではないでしょうか。もしそうなら、現在の大きな問題も踏まえて、ぜひ、お力になりたいと考えております。――黄金騎士団長より」

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