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裏切者(創作、現実)

 (創作)


 俺とサイトウ遊撃隊長の戦いは、一進一退のまま十分以上続いた。

 刃をぶつけ合い、鍔迫り合いをしている最中、サイトウ遊撃隊長は一言、こう呟いた。


「貴様……なぜ本気を出さないんだ!? 貴様の今の実力なら、俺など一撃で倒せるはずだ」


「……あんたが本気を出さないからだよ」


 そう言って相手を押すと、彼はバランスを崩したものの、バックステップして距離を取り、見事に態勢を立て直した。


「ふっ……さすがは自称・勇者だな……そこそこ戦えるようだ。お前の腕前は分かった。怪しいところは多々あるが、決定的な証拠はないわけだし、このぐらいにしておいてやろう」


「……ちょっと、何勝手なこと言っているのよ!」


 ミキがめずらしく怒ってサイトウ遊撃隊長に突っかかった。


「俺としても、仲間の腕試しが必要な時があるんだ。そのときに、ある程度俺が本気と見せかけないと本当の腕試しにならないだろう?」


「そんなこと言って、ヒロが自分より弱いと思ったら切り殺していたでしょう!」


「ああ、そのぐらいのつもりでかかっていった。勇者なのだから、俺程度にやられるはずがないだろう?」


 サイトウ遊撃隊長は、ちょっとおどけるような仕草を見せた。


「何言ってるのよ、仲間だと思っていた相手にいきなり切り掛かられたら、いくら勇者だって本気で戦えないでしょう!」


「……では聞くが、そうならない保証はどこにある?」


 彼の思わぬ問いに、俺もミキも、固まってしまった。


「仲間だと思っていた相手に、裏切られ、不意打ちを受ける……それがあり得ないという保証がどこにあると聞いているんだ」


「……それは……」


 そう言われると、さすがにミキも反論できない。


「……あんたは、裏切られたことがあるんだな」


「……まあ、長いこと軍で働いていれば、いろんなことがあるさ。だからこそ、貴様のことを試させてもらった」


 悲し気な笑みを浮かべるサイトウ遊撃隊長。一体何があったのだろうか。


「サイトウ隊長、今回の件は、私の不手際です。勇者様の他、貴重な戦力をこの地に集めすぎました。しかも、非効率なバグ退治などさせてしまって……しかし、勇者様たちにはなんの非もありません」


 ミイケ副団長が仲裁に入ってくれた。


「そうだな、今回はおまえの不手際だ……裏切者を見抜けなかったお前のな」


「……裏切者!?」


 俺たち全員が、彼の言葉に驚愕した。


「そんなやつが……軍の中に紛れ込んでいるっていうのか?」


「ああ。例えば、俺だ」


「「「「「「……えっ!?」」」」」」


 彼の思わぬ自白に、全員、目が点になる。


「さっきの戦いで分かった。勇者ヒロ、貴様は本物だ……真っすぐな剣筋の中に、相手にケガをさせない気遣いまで感じ取ることができた。俺とは相当レベルの差があるのだろう。貴様は断じて裏切者などではない。そしてその仲間たちもそうだろう。その信頼関係は一朝一夕で築けるものではない」


「……それで、あんたの何が裏切者なんだ? 俺との戦いは腕試しだったんだろう?」


「いや……それは理由の半分だ。もう一つは、貴様と本気で戦ったという実績が欲しかった。善戦むなしく、俺は破れた……そういうことにしてほしい。そして俺は軍から出ていく」


「出ていく!? なんでそこまでするんだ!? あまりに自分勝手じゃないか」


 俺はそう抗議した。

 サイトウ遊撃隊長一人で、何かを完結させようとしている。俺たちは振り回されているだけだ。


「……確かにな。自分でも支離滅裂な行動だと思う。だが、もう、こうするより他ないんだ。勇者と真剣に戦い、破れ、軍を去る。それでいいだろう」


「いや、良くない。そうする理由を聞いておかなけば納得がいかない」


 ここは俺も引くことができない。


「……そうだな、勇者様とその一行、そしてミイケ副団長には一つだけ教えといてやるか……いいか、これから言うことは決して口外するなよ」


 彼の真剣な様子に、俺も、他のみんなも静かにうなずいた。


「パワハーラ・ザイゼンは、まだくたばっちゃいねえ……とてつもない執念で、マ○ー空間から舞い戻った。確かにその戦闘能力は大きく落ちたが、奴の本領は、その恐るべき奸計だ。そして俺も、それに嵌った一人だ……それだけだ」


 そのとんでもない一言に、俺たちも、そしておそらくミイケ副団長も、目の前が真っ白になるような思いだった。


*****


(現実)


 土屋が書き、投稿した『会社まるごと異世界召喚』の続きを、シーマウントソフトウエアの社員の一人が読んでいた。

 そしてこう、つぶやいた。


「……まさか……備前専務が!?」


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