漏洩犯 (現実)
(これまでのあらすじ:現実)
少し更新に間が空いてしまったので、現実世界でのこれまでのあらすじを簡単に紹介します!
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入社三年目、ダメ社員の土屋(二十三歳)は、上司達にいびられる毎日に嫌気が差していた。
ある日、復讐がてらに彼等をモデルとしたファンタジー小説を執筆開始。
その小説はネットで結構話題となっていたのだが、モデルとした自分の会社の社長や、同期の美香、後輩の優美に見られており、土屋本人が気づかぬまま、実生活に(良い方に)影響を及ぼしていた。
そして小説の中でも現時点で最悪の敵 (のモデル)としていた、自分の人生を狂わせた備前専務を、同じ部署の仲間(前述の2人の女性社員と、後輩の風見)、社長の協力を得てその悪事を暴き、事実上の諭旨解雇にまで追い込むことに成功した。
土屋はこの功績により、社内での栄転、および社長直属のエージェントとしてスカウトされる存在となる。
ところがその喜びもつかの間、会社が何者かのスパイ活動によって、新製品情報流出による危機にさらされてしまう。
さらに悪いことに、その情報流出には土屋のPCが踏み台とされており、彼は警察に任意同行を求められるほど疑われてしまっていた……。
※美香、優美、社長、社長秘書は、土屋が自分たちをモデルに小説を書いていることに気づいています。
※土屋は、美香、優美が気づいていることを知っていますが、社長が気づいているとは知りません。
※美香、優美、社長は土屋の小説に関して連携をとっています。社長秘書は気づいていることを隠しています。
※他のモデルになった人(シュンのモデルの風見、フトシのモデルの金田課長代理)は小説の存在自体知りません。
(現実)
今、俺の部屋には、俺と彼女の美香、後輩の優美、風見、そして虹山秘書の五人が揃っている。
この中で、優美を除く四人が社長直属のエージェントとしてスカウトされている。
優美も備前専務の事件の時には活躍してくれたが、まだ新入社員ということもあってエージェントとしては時期尚早と考えられているようだ。
そしてこの中で、誰かが、俺と美香が付き合っていることを外部に公表した可能性がある。
「……それで、ツッチーさん、警察で何聞かれたっすか?」
風見が、重苦しい雰囲気を何とも思わないかのように軽く聞いてきた。
まあ、この遠慮のなさが彼の(ある意味)いいところかもしれない。
「……まあ、簡単に言えば、『ラ・ミカエル』のプログラムコードを、俺が流出させていたんじゃないかって疑われてただけだよ」
俺は正直に話した。
この一言に、優美と風見は驚いた。
虹山秘書にとっては予想の範囲内だったようだが……それでも、俺が躊躇なく話したことに対しては、意外そうな表情を浮かべた。
「そんな……ツッチーさんに限って、そんなことないですっ!」
優美がムキになったように、涙目になりながらそう声を上げてくれた。
「そうっすよ! ツッチーさんにそんな大胆なこと、できるわけがないっす!」
……いや、風見、潔白を信じてくれるのは嬉しいが、それはちょっとディスりが入っているぞ……。
「そう……私もそう思う。でも……虹山さんはもう知っていると思うから、この際、ぶっちゃけるけど……ツッチーのPCが踏み台にされて、『ラ・ミカエル』のプログラムコード、抜かれたみたいなの」
「えっ……まじっすか?」
風見が目を丸くして驚いている……この反応、演技とは思えない……こいつは無実か?
「……俺のセキュリティ認識が甘かったところはあるかもしれない。でも、休憩時間はスリープモードにしていたし、帰るときも電源を切っていた。遠隔操作するにしても、パスワードを知らなきゃアクセスできないはずだ」
「……なるほど、必要最低限、セキュリティ対策をとっていたってことですね……それにパスワードは英字と数字の組み合わせでしか登録できないはず。まさか、自分の名前と誕生日、なんていう単純なものではなかったのでしょう?」
虹山秘書の的確な指摘。美香と同じだ。
しかし、これはあえて揺さぶりをかけてきているのかもしれない。
疑心暗鬼に陥っていた俺は、こちらも揺さぶり返すことにした。
「もちろん、そんな単純なものではないです……けど、ここにいるメンバーにとっては容易に想像できることだ……俺は、パスワードを、美香の名前と誕生日にしていたんだ……つまり、俺と美香が付き合っていることを知っている者が怪しい、ということになる!」
俺は、ズバッと言い放った。
その一言に、美香は黙ってうつむいた。
優美は驚きに目を見開いた。
虹山秘書は、表情を変えなかった。
風見は、一瞬驚いて、バツが悪そうに眼を泳がせた。
……って、えっ?
「……どうした、風見……顔色が悪いぞ」
挙動不審な風見に、まさかと思いながら、俺はそう問いただした。
「えっと……美香さんのことって、バラしちゃまずかったっすか?」
……あっけなく自白しやがった。
漏洩犯 (おそらく、なんの悪意もない)は、風見だった。




