濡れ衣 (現実、創作)
俺と美香は、顔を見合わせた。
彼女も、若干青ざめているように見えた。
ほんの少し前まで、
「ひょっとしたら裏切られていたのかもしれない」
と話していた、まさにその3人が、まるで俺たちの会話を聞いていたかのようなタイミングで、しかも3人揃って尋ねてきたのだ。
「……まさか、盗聴器とか仕掛けられていないよな?」
「まさか……それはともかく、ここは何にも知らないふりした方がよくない?」
「あ、ああ、そうだな。ここは笑顔で迎えよう」
そう、まだこの3人が、俺たちを裏切ったという確証はないのだ。
裏切られたとか、そうじゃないとか、そんなこと考えてもいない……そう演じる必要があった。
俺はモニターホンには出ず、すぐに玄関に行ってドアを開けた。
「あ、出てきた! もー、ツッチーさん、遅いですよっ」
ちょっと拗ねたように、しかしそれでも笑顔を見せる優美がそう話した。
「……や、やあ、どうしたんだ、3人揃って」
俺は、なるべく自然にそう言葉にしたつもりだったが、
「……その不自然さ……やっぱり、土屋さんも警察に事情、聞かれたんですね……美香さんも居るんでしょう?」
虹山秘書からの鋭い突っ込みだった。
「俺もってことは……みんなも、署に任意同行させられたのか?」
と、俺がそう口にすると、全員、唖然とした表情になった。
「任意同行って……私たちは、尋ねてきた刑事さんに事情を聞かれただけっすよ……」
風見の一言に、俺は自分の失言を悟った。
「……もう、ツッチー……相変わらず慌てん坊なんだから……えっと、深刻な話なんですよね? だったら、みんな中に入りませんか?」
美香が、俺の後ろからそうフォローしてくれた。
「やっぱり、美香さんも居たんですね……はい、なんか、警察まで動き出したみたいで……えっと、確かに、ここじゃあ話しにくいことだと思いますので……」
優美が、風見と虹山秘書に目配せし、3人ともうなずくと、全員
「おじゃまします……」
と、深刻な表情のまま、俺の部屋へと入ってきた。
そして、彼、彼女らもまた、俺たちほどではないにしろ、警察に目をつけられていたという事実が発覚した。
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(創作)
俺とミキ、ユウ、シュン、フトシ、レイの6人は、ヤマグチが遺したバグの退治を、ずっと続けていた。
もうあれから5日も経っている。
ようやくバグは減ってきて、もうすぐ消え去りそうなところまで来ていた。
手伝ってくれている兵士達も疲労困憊、精神的にも大分追い詰められていたので、目処が立っただけでも良かったと考えるべきだろう。
ようやく、俺たちにも、兵士達にも、笑顔が戻ってきた。
ハーフエルフの美人副団長、ミイケさんも、もう何度目になるか分からないお礼を、俺たちに言ってくれていた。
「……ミイケよ、こいつらが自称『勇者』っていう連中か……」
急に、太い声が聞こえた。
振り向くと、いつの間にか俺たちの背後に、ガタイのいい、頑丈そうな鎧を身につけた、三十歳半ばぐらいの男が立っていた。
全く気配を感じることができなかった……相当の手練れだと感じ、少し寒気を覚えた。
「サイトウ遊撃隊長……どうしてこんなところに?」
ミイケ副団長の表情が、明らかに曇っていた。
「俺が戦場に来ることが、そんなにおかしいか?」
「……いえ、ここはもう、勇者様たちの活躍によって大きな危機は逃れて、後始末だけだと思っていましたので……」
「ああ、確かにな。そして俺たちもそう思っていたし、だからこそ、おまえがここにとどまっているのを黙認していた――そしてその結果、ハクア大森林の砦が落ちた」
「……なんですって!?」
ミイケ副団長が、みるみる青ざめる。
「ここの砦に、予想外に人員が割かれていたからな……あの砦を守るのに最適な、ハーフエルフのおまえがここに引き留められていたことも響いた」
「……そんな……けれど、私には勇者様達に……」
「分かっているよ。ここを守ってもらう以上、同行しなければならなかったってことだろう? けど、それにしても時間かけすぎじゃあなかったか?」
「それは、確かに……しかし、バグ達が多すぎて……」
「そう、そこだ……本当に勇者が、力ある存在だったなら、バグなんて簡単に倒せたんじゃあなかったのか?」
その男は、厳しい視線で俺のことを見つめていた。
「いえ、それは買いかぶりすぎです。バグは、凄くやっかいで、すぐに潰せるもんじゃあなかったので……」
俺がそう申し開きをすると、その男は、ゆっくりと抜刀した。
わずかに湾曲した、細身の片刃剣だ。
日本刀にそっくり……いや、日本刀じゃないのか?
「……ハクアの砦を攻めて来た敵幹部の一人を捉えて拷問にかけ、締め上げると、素直に全部話してくれたよ……勇者を語る仲間が、国王軍に潜入し、兵力の分断、ハーフエルフの副団長の引き留めを行っているってな……」
その言葉に、俺たちが疑われているということを悟った。
「そ、そんな……誤解だ、ついさっきまでだって、俺たちは懸命にバグを潰していたんだ!」
俺は慌てて追加の申し開きをする。
「……そうやって、時間稼ぎをしていたんだな……一つ言っておく。俺は相手の嘘を見抜ける。自分の信念にのみ忠実であり、そしてそれを貫き通し、悪は決して許さない。悪が続くなら、それを断つのみ……俺のその信念は、実に単純だ……すなわち、悪・続・断!」
なんかどこかで聞いたことのあるような台詞だが、微妙に字が違うっ!
その言葉、使っていいのか!?
俺がそんなふうに戸惑っていると、たたみかけるように、サイトウ隊長は質問してきた。
「――おまえは、真の勇者か?」
その問いに、即座には答えられない。
確かに、ステータス上はそうなっている。
けれども、本当のところは『勇者』なんて、そんな大それたものの自覚なんかないのだ。
「やはりな……悪が続くなら断つのみ。食らえ、我が秘奥義、我凸!」
だから字が違うし、言葉にするの、ヤバい技だって!
俺は必死に、インプレッシブ・ターボブーストで防御を試みるっ!
互いの剣がぶつかり、俺は後方に大きく弾き飛ばされるっ!
(つっ……強い……パクリキャラのくせにっ!)
頬に冷たい汗が流れるのを感じた。




