疑心暗鬼 (現実)
「……でも、あの人たちの誰かが、ツッチーこと恨んでいたりするかな? とてもそんなふうには思えないけど……」
「いや……別に俺を恨んで、陥れようとしてPCを操作したとは限らない。いや、むしろそれはカモフラージュで、実際は『ラ・ミカエル』を売り渡すことが目的だったのかもしれない。つまり、踏み台にされたんだ!」
俺は少し頭に血が上っていた。
「まあまあ、ちょっと落ち着いて……そっか、それでどこかからお金がもらえるとしたら……それが目的としたら、誰でも可能性が出てくるね……まあ、さすがに優美ちゃんは違うと思うけど……」
「……うーん……まあ、俺のPCのパスワードを破ったところで、優美が『ラ・ミカエル』本体のプログラムコードを入手できると思えないしな……けど、優秀な虹山さんや、恐ろしく器用な風見ならできなくはない、か……特に虹山さんは未だに得体の知れないところがあるしな。社長の秘書と見せかけて、実は他社からのスパイだった……あり得る話だ」
「そうかな……テレビや小説の見過ぎだと思うけど……って、一応、ツッチーも人気WEB小説作家だったね……それはともかく、取り調べで容疑は否認したんでしょ? まだ疑われているの?」
「取り調べとか、容疑とか、否認とかいう言葉……そっちこそ、刑事ドラマの見過ぎだよ。取り調べじゃなくて、事情聴取だよ。それも任意の。俺は善意の捜査協力者だ……とはいっても、まだ疑われていることには間違いないな。真犯人を見つけないと……って、どうやって見つければいいんだろうか……」
「うーん……難しいね……あ、いいこと思いついた!」
「……絶対に悪いこと思いついただろう?」
「ツッチー、前にもそんなこと言ってたね……そうじゃなくて、さっき言った三人に協力してもらうの」
「さっきの三人!? ……虹山さんも含めて?」
思わぬ美香の提案に、声が裏返ってしまった。
「そう。でも、私たちが疑っていることは隠すの」
「……つまり、こっちから情報を与えて泳がせて、化けの皮を剥ぐっていうことか? いや、それは無理だ。虹山さんの方が優秀だ。疑っていることを隠していることを気づかれて、それを気づかれていないフリをされて終わりだ」
虹山秘書を出し抜けるとは思えなかった。
裏のかきあいになれば、俺たちの方が圧倒的に不利だと思った。
「……なんか、わけわかんなくなるね……虹山さんが犯人確定になってるし……でも、いいんじゃない? 私たち、無実なわけだし、これ以上調べられても何にも出てこないでしょ? だったら、堂々と犯人捜しをすればいいし、協力してもらえばいい。少しでも不審なものを感じれば、刑事さんに相談する……ううん、最初っから相談しておけばいいかもしれない。そもそも、あの三人が真犯人だとは思えないし、私たちを裏切るとも思えない。だったら、尻尾を見せない真犯人を捜す意味でも、協力してもらうことに損はないと思うけど」
「……なるほどな。そうか、虹山さんが犯人でない可能性の方が高いんだ。今までも味方だったんだ、これからも味方でいてもらおう!」
そう、俺たちにやましい点なんて全くないんだ。
それに、万一、虹山秘書が犯人だったとしても、風見と優美は味方になってくれるんだ。なんにも恐れることはないじゃないか……俺はそう考えた。
「また、『犯人がいるとすれば』虹山さん限定になってるよ……まあ、サスペンスドラマとかだったら、一番重要人物っぽい雰囲気だけどね……そうだったとしても、風見君と優美ちゃんは味方になってくれるわけで……」
と、ここまでは俺と同じ考えを、彼女は口にしたが、そこで言葉が止まった。
「……でも、もし、単独犯じゃないとしたら……」
「……またまた、『単独犯』なんて、ドラマみたいな台詞を……三人が、結託して俺たちを陥れようっていうのか? さっきも言っただろう、そんなの何のメリットもないって」
「そうだけど、そういう可能性も考えておかないと……」
と、そこまで美香が話したところで、モニターホンの呼び出し音がなった。
誰だろう、と思って、その画面を見て、鳥肌が立った。
そこに映っていたのは、深刻な表情をした、優美、風見、そして虹山秘書の三人だったのだ。
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