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虫(バグ) (創作、現実)

(創作)


『邪鬼王軍が、妖魔数万を従えて、リエージェに攻め込む準備をしている』


 その報告を受けた俺達は、高齢のアイザックを館に残し、レイの転移魔法によって王都まで一気に移動した。


 転移先の城下街は、日が傾き始めた時刻であり、行き交う多くの人々で賑わっていた。

 俺達が出現したのは、中央広場だ。かなり目立つ場所に出てしまった。


 そもそも転移魔法を使用できるのが高レベルの魔術師に限定されている。

 にもかかわらず、比較的若いメンツしかいない我々がそれを使って移動してきたことに、目撃した人々は驚いていた。


(フトシだけ四十代だが、彼はどう見ても商人であり、魔法を使ったとは思われない)


 大体の出現場所を事前にレイが通信にて伝えていたこともあり、すぐ側に大型の馬車が手配されていた。


 御者にレイが何か許可証のような物を見せると、急いで乗るように指示されたので、その言葉に従って馬車ごと城内へ。


 中庭で馬車を降りると、待っていた二人の騎士が


「勇者ご一行様、お待ちしておりました!」


 と、ほっとした様子で声をかけてくれ、


「こちらです、お急ぎください!」


 と、なぜか地下へと案内された。


 手際が良すぎることに、逆に少し不安になったが、レイも知っている場所へと連れて行かれているようなので素直についていった。


 かなり厳重な警戒がされており、二回、三回と頑丈な鉄製の扉を抜けていく。

 それぞれに複数の屈強な兵士が番をしており、通路が狭いこともあって、外部からの侵入者があったとしても通り抜けることは不可能だろう。


 さらに奥に進むと、学校の教室ほどの、石造りの閉ざされた広間が現れた。

 アイザックの館にあった地下室に近い雰囲気を感じた。


 そしてそこには、二十五歳ぐらいに見える、耳が長く尖っている女性の姿があった。


「……あれって、人間か?」


 肌が白く、長い金髪で青い瞳、華奢な体つきながら革鎧を身に纏った美人さんを見て、フトシが思わず疑問とも、嘆息ともつかない言葉を発した。


 するとその女性はニッコリと微笑み、


「はじめまして、勇者御一行様。第2エスイー騎士団の副団長、ミイケと申します。人間かと言われると、微妙かもしれませんね。母がエルフ族ですので」


「なっ……それじゃあ、ハーフエルフ……」


 ファンタジー物語の好きなユウが、思わずそう口にした。


 あと、フトシの嘆息が、小声だったが聞こえていたようだ。よほど耳がいいのだろう。

 それに、歳も見た目よりずっと重ねているのだと思う。


 俺達が簡単に名前と属性、称号を話すと、彼女は


「この度、敵勢力との戦いにご助力いただけるとのことで、感謝申し上げます。早速ですが、邪鬼王軍の派生部隊に、我が国の砦の一つが攻め込まれています。しかし第2エスイー騎士団長とその主力部隊は、集結している邪鬼王軍の本隊への牽制のため、出払ってしまっているのです。今、攻め込まれている砦の人員だけでは戦闘力が不足しています。そこでぜひ勇者様にも戦力として加わっていただきたいのです」


「……事情は分かりました。でも、でしたらなぜ、こんな城の地下室に呼ばれたのでしょうか?」


 俺が代表して、皆が疑問に思っている事を聞いてみた。


「実はこの場所は、術式を変えることにより、国内のあらゆる重要拠点へと人員や物資を移動できる転移門となっているのです。一定以上の魔力があり、かつ、専用の契約魔法を行使している者であれば、その転移を実行することができます。重要拠点ゆえ、通常の転移魔法は無効にする結界が張られていますが、この転移門だけは例外です」


 つまり、制限付きの『転移魔法(ルーララ)』、という事のようだ。

 ということは、いきなり戦場に向かうことになる?


「そ、それで、今その砦には、どのぐらいの兵士と敵がいるのでしょうか?」


 フトシが恐る恐るといった様子で聞いた。


「兵士は、騎士と傭兵合わせて二百、といったところです。それに対して妖魔の数は百程度と、大したことはないのですが、厄介な問題が発生しているのです」


「……その問題とは?」


「戦場に、多数の(バグ)が発生しているのです。倒すには、高度な戦闘技術が必要です。我々だけでは人手が足りない状況です」


 それを聞いて、仲間のうち複数が、首を横に振った。


「あー、無理。私の魔法じゃ、(バグ)は倒せないよ。っていうか、魔法全般が効かないんじゃなかったっけ?」


 早々にミキが匙を投げた。


「うむ。私の『暗黒防御障壁(ヘ・リクツ)』も通用しない」


 そりゃそうだ、バグにヘリクツなんか意味が無い。


「私も今回は、疲れたときに元気になるようおまじないするぐらいしかお役に立てないかも……」


 ユウもあきらめ顔だ。


「そうですね……私の雷撃も、事によっては(バグ)を増やしてしまうかも……」


 レイの言うとおり、バグに電撃は、相性最悪だ。


「俺はお手伝いしますが、正直、弓で虫を倒すのは、効率が大分悪そうです……っていうか、俺は虫、嫌いなんです!」


 シュンも専門外のようだ。


「まあ、バグが好きな奴なんてそうそういないからな……。俺もどこまで役に立てるかどうか分からないけど……まずは、現場に行って直接状況確認したい。ミイケ副団長、転移、実行してください!」


 俺は彼女にそう進言した。


----------

 (現実)


 今回の話を、俺の部屋で最初に読んだ美香は、一言、


「……ヒロ君、なんか精神的に強くなったね。頼りがいがありそう……」


 と呟いた。


「そうかな? まあ、俺も守るものが増えたから……でも、今回の現場、本当に大混乱してるんだ。俺も二週間は毎日客先で夜中まで作業することになりそうだ……山口の奴、とんでもない置き土産を残して辞めやがって……」


 この場にはいない、同期の元SEに対して、思わず文句を言ってしまった。


「……ひょっとして山口君、敵として登場する?」


「もちろん。いい加減な仕事でバグを生み出すとんでもない奴だ。滅殺してやる!」


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