プロポーズ (現実)
「えっと、できちゃったって……子供ってこと?」
「そう、私たちの、赤ちゃん……」
俺は、美香の言葉に混乱していた。
彼女は、少し怯えたような、それでいて決意を秘めたような、さらに言うなら、俺を試すような……複雑な感情が入り交じった、そんな表情だった。
正直、この展開は予想していなかった。
いや、彼女とそういう関係になったのだから、こうなる可能性は考えていない訳ではなかった。
しかし、実際のところはまだ早いと思っていたので、そうならないよう気をつけているつもりだったし、失敗もしていない……つもりだった。
けれど、彼女がこんなことで嘘をつくような性格でないことは分かっている。
そして、会社が、俺の立場が、大変な状況も知っており、だからこそ、言い出しにくかったことも理解できる。
つまり、本当だ。
美香は、本当に妊娠している。
そして、彼女が浮気することも絶対ないと、俺は知っている。
つまり美香は、俺の子供を宿しているのだ。
「じゃあ、その……順序が逆になったけど……美香、俺と結婚してください!」
咄嗟に、言葉が出た。
あまりに唐突な俺の一言に、美香はしばし、唖然として沈黙。
そして突然、笑い出した――目に涙を浮かべて。
「あはははっ……あー、おかしい。あれこれ心配してた私が馬鹿みたい……」
「……えっと、心配って、なんの心配だ?」
「だって……なんて言われるかなって、ちょっと怖かったから。たとえば、『こんなに大変なときに、そんなこと言われても困る』とか、最悪、『別れてくれ』とか……」
「……へっ? 『困る』はともかく、なんで『別れてくれ』ってなるんだ? それに、困るったって、それで本当に困るとしたら、美香の方だろう?」
「ううん、私は、困るとかはないよ。むしろ、とっても嬉しい。ツッチーの子供……勇者の子供を身ごもったんだからね。たとえ捨てられたとしても、私一人でも産んで、育てるつもりだった!」
「……だから、なんで俺が美香を捨てるんだって。そんなわけないだろう、俺が美香に逃げられるならともかく……だから、その……俺、真面目に言ってるんだ。ちゃんと結婚して、子供と一緒に暮らそう!」
俺は必死に、そう言った。
なんていうか……責任はきちんと取るから、逃げないで欲しい、側に居て欲しい、なんかそんな気持ちだった。
要するに、美香に嫌われたくなかったのだ。
「……えっと、確認だけど、ツッチーは私が妊娠したこと、どう思ってるの?」
「どうって?」
「その……嬉しいのか、困るのか」
「そりゃあ、嬉しいよ」
「……本当?」
「ああ。俺だって、真剣に美香との将来、考えてたんだ。幸せな家庭も考えてた。もちろん、その中に子供が出てきてた。だから、それが実現できるのなら、こんな嬉しいことはないよ。ただ……」
「……ただ?」
「その……美香の両親には、怒られるかもしれないけど……」
「……あははっ、やっぱり、ちょっと困ってるんだね。でも、多分大丈夫。私の両親も『授かり婚』だったみたいだし……」
「そ、そうなのか?」
「うん。そのおかげで私が生まれてこれた。だから、たぶん大丈夫。もし何か言われたら、私がその話、持ち出すから!」
いつもの明るい美香だった。
どうやら、吹っ切れたようだった。
「なら、その……改めて言うよ。指輪も何も用意できてないけど、真剣だから……美香、俺と結婚してください!」
「……はい、よろしくお願いします……」
かなりドタバタした俺からのプロポーズだったけど、美香は受け入れてくれた。
俺は彼女を抱きしめ、そして涙が伝う彼女の頬に、キスをした。




