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会社の上司を悪役にした異世界ファンタジーを書いていたら、読者が社長だった  作者: エール


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困惑 (現実)

 社長秘書の虹山さんと、美香、風見が、俺のアパートに集結した。


 秘密事項だが、全員、社長直下の『エージェント』という扱いになっている。

 幸か不幸か、まだ新人の優美はこのメンバーには入っていない。


 虹山さんからの緊急連絡でこういうことになったのだが、大体内容は分かっていた……つもりだった。

 しかし、彼女から伝えられた事実は、想像よりずっとシビアだった。


「まず、社長の即決で、社内の大胆な改革を進めていくことになりました。具体的には、全社員の総システムエンジニア化、です」


「……全社員、システムエンジニア?」


 虹山さんの意外な言葉に、俺は思わず聞き返してしまった。


「そうです。全社員、SEとしてのスキルと行動が求められるようになります。プログラムはもちろん、顧客からのヒアリングやシステムの設計も含めた技術が必要となります。労務管理部も例外ではありません」


「……そんな、今までとまったく異なる仕事になるじゃないですか……」


 美香が心配そうに言った。


「そうですね。でも、美香さんも、風見さんも、元々高専でプログラムの基礎は勉強していましたよね? 工学系ですし、PCを操作するのは得意なのではないですか?」


「いえ、授業で習ったのは本当に基礎だけですし……」


「それで十分です。後は実践で修得すればいいのです……まだ、貴方達はエンジニアとして向いている方なのですよ。例えば優美さんは、文系の短大出身で、プログラムの知識はないと聞いています。彼女の方が大変な立場になります」


「えっ……優美が? 一体、どうなるのですか?」


 俺は思わず身を乗り出してしまった。


「まず、今のグループからは、もともとSE部署に異動することになっていた土屋さん、それに加えて風見さん、美香さんがSEとして活動することになります。金田課長代理も、アプリケーションソフトの商談などに参加してもらいます。こうなると、実質の勤怠チェックなどの業務は全て美香さんがリーダーとなって作業を進めることになります」


「……そんな無茶な! まだ一年目の新人に、今四人がかりでやっている仕事を全部任せるなんて!」


 俺はそう抗議した。


「いえ、全作業を彼女にしてもらうわけではありません。補助として派遣社員を雇います。美香さんには、その方々に正社員として説明をしてもらう立場となってもらいます。そして彼女も、ゆくゆくはSEとして活躍してもらいます」


「……なるほど、事務系は派遣社員に任せて、技術力と販売力の底上げをするっていうことですね……でも、それでも優美ちゃん一人には荷が重いのではないですか?」


 風見も、優美の事を心配しているようだった。


「もちろん、相当厳しいことは分かっています。最初は貴方達のサポートも必要となるでしょう。でも、そうでもしないと生き残れないほど、我々の会社は切羽詰まった状況に追い込まれているのです」


 虹山さんの一言に、我々は息を飲んだ。

 やはり、ネット・クラウド・ソリューションシステム、『ラ・ミカエル』がライバル会社にコピーされてしまったことは、大損失だったのだ。


 他部署の管轄だし、直接は関係ないと思っていたが……美香、風見の業務移動、そしてまだ新人の優美にそれだけの負担を与える状況というのを聞いて、『小説のネタになる』などと軽く考えてしまっていた俺が、どれだけ甘かったのかを思い知らされた。


「……特に貴方達三人は、気心も知れているでしょうし、グループとして行動してもらう事を期待します。表の意味でも、裏の意味でも」


 虹山さんの最後の一言を聞いて、『来た!』と思った。


「裏……つまり、『特命を受けたエージェントとして』ですね……」


 風見がストレートに質問した。


「そうです。ご存じの通り、我々の『ラ・ミカエル』は、そっくりそのまま技術を盗まれ、月齢ソフトシステムの『ハーデス』としても発表されてしまいました。社内の誰かが横流ししたとしか思えない……社長はもっと早く、エージェントを大幅に強化するべきだったと嘆いていました。そして今後も必要な存在です……土屋さん、風見さん、美香さん。法律に触れない限り、どのような手段を用いても構いません。産業スパイをあぶり出してください」


 虹山さんの、悔しそうな強い口調に、事態の深刻さを改めて認識させられた。


「……しかし、風見や美香は、いきなり技術職に変更させられた上、エージェントの仕事もこなすなんて……負担が大きすぎます。ただでさえ、年末の忘年会の準備もしなければならないのに……あ、そうだ、忘年会、こんな状況でもやるのですか?」


「もちろんです。ただ、例年の『お疲れ様でした』、『来年も頑張りましょう』という気楽なものでは無く、社内の引き締めを実行する場になると思いますが」


 ……なんか、やらなければいけない仕事の多さに、クラクラしてきた。


 いや、このぐらいで音を上げる訳にはいかない。

 大変なのは他部署も同じ。特に『ラ・ミカエル』に関わっている部署は、営業による売り込みや、差をつけるための更なるシステム改修など、地獄のような作業になるだろう。


 また、同じ部署でも、優美の苦しさを考えれば、まだ俺達の方がマシかもしれない。


 そんな重苦しい雰囲気の中、特にエージェント活動についてどのように進めていくかの話し合いを二時間近くも実施し、十一月の中旬には何らかの成果は上げる必要がある、と念を押されて、その日は解散となった。


 虹山さんと風見はそれぞれ帰って、俺と美香は部屋でぐったりとしてしまった。


「……こりゃあ、思ったより大変な事態になったぞ……っていうか、ウチの会社、大丈夫なんだろうか?」


「……ひょっとしたら、潰れるかもしれないって、社内で噂、立ってたね……」


「……マジで? それはヤバイなあ……俺はまだマシだけど、例えば社内結婚して夫婦でこの会社に勤めているような人もいるし、そうなったらダブルで失業だ。景気もあまり良くないし、再就職だってそんなにすんなり決まらないだろうし……子供がいたりしたら、余計に大変だろうな……」


「……うん……そうだね……」


 美香は、そう気のない返事をしてきた。


「……美香? なんか元気ないな……具合悪いのか?」


 今日はいつもより口数が少ない気がしていた。

 よく見ると、顔色もあまり良くない。


「……うん、あの……こんな大変なときに、言うことじゃないのかもしれないけど……でも、今後もっと大変になるかもしれないし、早いうちに言っておくね……」


 ぞくん、と、嫌な予感が走った。


 美香は、いつになく真剣な表情だった。

 初めて見るそんな様子に、ゴクリ、と唾を飲み込んだ。


「……ごめん、ツッチー……言いにくいんだけど……」


 美香は、明らかに表情が冴えなかった。

 嫌な予感は、ますます大きく膨らむ。


 これは……この展開は……まさか、別れ話?


「……ちょ、ちょっと待ってくれ。俺の方こそ、ゴメン。何が悪かったか、今すぐには思い出せないけど……悪いところは直すから、もう一度、考え直してくれっ! いい男になるから……」


 と、何も言われていないけど、とりあえず謝った。

 すると彼女は、きょとんとした表情になって、少しだけ笑ってくれた。


「何か、勘違いしてない?」


「……えっと、別れ話、じゃないのか?」


「……あははっ、ツッチーらしいね。そうじゃないよ。でも、もっと深刻かも……」


「……もっと?」


「うん、あの……」


 美香は、一瞬、次の言葉を躊躇い、数秒間動きを止めて……しかし、意を決したように、次の言葉を口にした。


「……できちゃった、みたいなの……」


「……へっ?」

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