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真の主 (創作)

「……俺と、君の二人? いや、意味が分からない……」


 思っていたことが、素直に口に出た。


 ミキや、ユウならまだしも、アイザックの一番弟子にして、館のメイドであるレイからそんな事を言われても、戸惑うばかりだ。


「……いきなりお誘いして、困惑されるのは分かるのですが、どうしても急ぎであなたを、私の『真の主』の元にお連れしなければならないのです」


「真の主……それって、あの、アリーマ温泉で言いかけていた事か。確かに、あのときはアイさんに邪魔されてそれ以上、話を聞けなかったけど……一体、どういう人なんだ? その事を、アイザックさんは知っているのか?」


 と、そこまで話したときだった。


「無論、知っておる」


 老人の声が聞こえてきて、俺とレイは驚いてその方向を見た。

 気配などまったく感じなかったのだが、数メートル離れた廊下の奥に、七大英雄の一人、大賢者アイザックが立っていた。


「……勝手な事をして、申し訳ありません」


 レイは深々と頭を下げた。


「いや、構わぬ。あやつがヒロ殿に興味を持ったのならば、それは歓迎すべき事じゃ。いつか会わせるべきであろうと、ワシも思っておったところじゃった。数十年前、考え方の違いにより袂を分かち、それ以降会ってはおらぬが、今でも盟友と考えておる。向こうもそうじゃろう。だからこそ、これほど魔力に溢れる女子を、ワシのところにメイドとして送り込んだ。ワシが魔術を教える代わりに、こんな辺鄙(へんぴ)な場所でひっそりと暮らす老人の、生活が不便にならぬように気を使ってのう……そしてワシは、邪鬼王の野望を挫くため、建物まるごとの召喚術から勇者候補の強奪に成功した。貴殿は、立ちはだかる邪鬼王の配下を次々と打ち倒し、真の勇者として立派に成長した。その力は、もはやこの世界になくてはならないものとなった……ワシ一人で独占して良いはずがなかったのじゃ」


 珍しく、アイザックは真顔でそんな風に褒めてくれた。

 たまにすっとぼけたことを言う爺さんだが、七大英雄の一人なんだよな……。


「……なるほど、アイザックさんまでそう言ってくださるなら、レイ一人の独断、暴走って言う訳じゃなさそうですね。でも、みんなと離れて二人だけで旅って、一体どれだけの期間を考えているのか……」


「あ……申し訳ありません、旅というのは大げさ過ぎるかもしれません。私は上級転移魔法(ルーララ)が使えるので、ほんの数時間です」


 レイが、少し慌てた様にそう付け足した。


「……へっ?」


「つまり、明日の明け方には帰って来ることになります」


「……なんだ、全然大したことないじゃないか。それとも、なにか危険が伴うとか?」


「いいえ、基本的にそんな事はありません。ヒロ様が、私の主の機嫌を損なわなければですが……まあ、普通にしていれば大丈夫です」


 レイにそう言われて、ますます気が抜ける思いだった。


「……分かったよ。それなら問題ない、付き合うよ……かなり急だし、二人だけっていうのは気になるけど……何か理由があるんだろう?」


「……はい、あります。秘密満載です。転移先で知り得た情報に関しては、他言無用でお願いいたします」


「……分かったよ。それで、ええっと……着替えた方がいいよな?」


 俺はすぐ寝られるように、普通の部屋着のままだった。


「はい、『勇者らしい』格好に着替えていただいてよろしいですか?」


「勇者らしい、か……いつもの戦いに向かうときの姿でいいのか?」


「それで大丈夫だと思います」


 わずかに微笑むレイ。目標、あるいはノルマが達成出来ると、安堵したのだろう。


 そして俺は、一部金属板をはめ込んだレザーアーマーにて身を固め、さらに愛剣『インプレッシブ・ターボブースト』を装備した。


 俺とレイ、アイザックの三人は、館の地下室へと移動した……俺達が、最初に召喚された石畳の広間だ。


「……では、アイザック様。しばし、ヒロ様をお借り致します」


 レイは再び頭を下げ、アイザックが微笑みながら頷くのを確認してから、転移魔法を発動したのだった。


 一瞬の後、辿り着いた先は、先程までとあまり変わらない石畳の空間だった。


「え……もう、その『真の主』とやらの住む場所に辿り着いたのか?」


「いえ、建物としては同じなのですが、実際は相当離れた場所に住んでいます……今日はわからないでしょうけれども」


 レイは余り表情を変えないまま、頑丈そうな鉄製の扉に立った。

 彼女がなにか呪文を唱えると、ガチャリ、と錠が外れた。

 そして扉を開き、先に進んでいく。俺も後に続いた。


 しかし、歩く距離はそれほどではなかった。

 すぐ隣に、別の地下室が存在したからだ。


 そこには二十人ぐらいが座れそうな、質素ながら高級感溢れる会議机と、比較的豪華な椅子が用意されていた。


 一番奥に、まさにファンタジーアニメの貴族が着るような洋服を纏った、白髪の紳士が座っている。

 その周囲には八人もの騎士が紳士を守っており、それだけで重要人物だと知ることができた。


「……レイ、ご苦労だった。そしてよくぞ勇者を私の前に招待してくれた!」


 威厳に満ちた彼の一言に、レイは片膝を付き、


「もったいないお言葉、ありがとうございます……」


 と恭しく頭を下げた。


 そして彼は、じろりと俺を値踏みするように見つめた。


「……ようこそ、勇者殿、我らの城へ。我が名は、イクアスクと申す」


 白髪の紳士は、立ち上がってそう言葉にした。


 イクアスク……その言葉に聞き覚えがあり、そして思い出して、驚愕し、全身の肌が粟立つのを感じた。


「あなたが……元七大英雄の一人、竜騎士イクアスク様……そしてこの美しい国、リエージェ王国の現国王様……」


 少し怯えながら、俺はそう口にした。

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