モデル (現実)
「……まあ、今更だけどね……あーあ、私達もバレちゃったか……」
美香は、彼女や優美をモデルにして異世界ファンタジーを書いていたこと自体には怒っていないようだった。
「……なんでわかったんだ?」
「えっと……それは、ツッチーが気付いたっていうことに対して?」
「ああ、まずはそれ」
「だって、あの感想に対する返信、なんか私達に対するいい訳っぽい感じだったから」
俺としてはいつもどおりに書いたつもりだったが、美香の目はごまかせなかったようだ。
「そっか……でも、優美はまだ気付いていないよな?」
と、その時、美香のスマホのアラームが鳴った。
「……優美ちゃんから、『気付かれたみたいです!』ってメール、来たよ」
……女のカンって、恐ろしい……。
さらにもう一通、メールが来たようだ。
「あと、『感想の、少しは恋愛感情を持っていてくれたみたいっていう部分は、ただ自分がそう思っただけですから』って、書いてるけど……ツッチー、優美ちゃんと二人だけの時、そう言ったんでしょう?」
「はい……」
美香、鋭いにもほどがあるだろう……。
「まー優美ちゃん、見た目も性格も可愛いから仕方無いし、逆にまったく恋愛感情がないって言われる方が信憑性ないけどね。……っていうか、なんであれだけ好かれているのに、私なんか選ぶんだか……」
「それは俺も同じだよ。何で俺なんだ?」
「……何でだろう?」
素でそう返してきた美香に、俺は脱力してしまう。
「あはは、ゴメン。でも、ツッチーの場合、理屈じゃないんだよね……って、それより、あの小説のこと。勝手に会社の同僚とか上司をモデルにしちゃって……しかも結構人気、出ちゃってるじゃない。どうするの?」
「いや、まあ、その……ばれなきゃ大丈夫だろう」
「私や優美ちゃんにばれちゃってるじゃない。まあ、私達はいいとして、『フトシ課長代理』って、金田課長代理のことでしょう? あまりに扱い、酷くない? あれこそバレたら怒られるよ」
「いや、あれだけぶっ飛んでいたらモデルもなにも関係無いよ」
「あははっ、確かに!」
どうやら他の人を勝手にモデルとして使用していた事にも、それほど危機感は持っていないようで、わりと楽しく話ができている。
まさか、美香とこんな話ができる日が来るとは思っていなかった。
「……でも、意外ね。ツッチーに、こんな小説の才能あったとはね……ブクマ登録、二千件超えてたよね? ってことは、二千人以上の人が見てくれてるってことだよね?」
「まあ、趣味で好き勝手に書いているだけだし、無料だから読んでくれているだけだと思うよ」
「そっかー、でも、ツッチーって、プログラムだけじゃなくて、こんな趣味もあったんだね」
美香は肩をくっつけながら、そう話しかけてくる。俺の新しい一面に興味を持ってくれているようだ。
「もともと、子供の頃からゲーム作るの、仕事にしたいなって思ってたんだ。プログラムを覚えたのもそのためだったし、いろんなシナリオ考えるの、好きだったんだ」
「なるほど、ゲーム、ね……うん、それならツッチーのキャラに合っているような気がする。あの話、ゲームになったら面白いかもね」
「あれを? フトシ課長代理がダメージを受けている間に剣や魔法で敵を倒すって言う、わりと酷い内容になるぞ」
「あははっ、でも、それが意外と受けるかもね……ところで、今後の展開ってどうなるの? やっぱり、SEになるから、社外の人達が敵になって、戦うっていうシナリオになるの?」
「いや、俺もそう思ってたし、それで準備してたんだけど、ひょっとしたら違う方向になるかもしれない」
「違う方向……まったくの創造ってこと?」
「いや、そうじゃなくて……なんか俺、社長に、変な意味で目を付けられているみたいなんだ。なんか、特命があるらしい。今って、リアリティを出すために、会社での体験談を小説にしているだろう? そしたら、その事もヒントにするかもしれない」
「特命? ……そんなの、勝手に題材にしていいの? っていうか、特命って、何?」
自分のように困惑した表情を浮かべる美香。
「えっと、俺も、さわりの部分しか聞いていないんだけど……」
と、その時、またしてもドアホンの呼び出し音が鳴った。
「誰だろう……優美かな?」
そんな事を話ながらモニターを見てみると、そこに映っていたのは、社長秘書の虹山さんの姿だった。
(なんで彼女が、一人でツッチーの家に来たの?)
美香の目は、そう訴えているようだった。




