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陥落 (現実)

 朝食を済ませた俺達は、全員でコテージの掃除をして、帰路についた。


 虹山さんは一足先に帰っているようで会うことがなく、


「若、振られてしまいましたね……」


 と、なぜか皆から、そんなふうにからかわれてしまった。


 帰りの運転も瞳だけで、また山道を怖々運転していたのだが、前日よりは慣れた感じだった。


 ようやくアパートに着いたときには午後になっており、俺と美香は近所ということもあって一緒に車を降り、また明日から仕事をみんなで頑張ろうと約束して、それぞれ帰って行った。


 自分の部屋に戻った俺は、朝方までラノベを書いていたことと、慣れない環境だったことの疲れもあって、すぐに仮眠してしまった。


 目が覚めると、すでに夕方。

 投稿サイトを開いてみると、主人公のヒロが、『レイ』、『アイ』と混浴したことについて、感想が寄せられていた。


『投稿者:カワウソ 20歳~25歳 女性


 ヒロ君、まさにハーレム状態ですね(笑)男の人って、やっぱりこういうお話にあこがれるのでしょうか? あまりヒロインが多すぎると、嫉妬してしまいます(笑)でも、複数のお嫁さんをもらう事ができるのは、逆にそれ以上浮気の心配がなくなるのでいいのかな? いずれにせよ、ヒロ君、あんまり女の子を泣かせちゃダメですよ(笑)』


 この投稿を読んで、そして過去の『カワウソ』から来た感想を読み返して、改めて気付いた。

 これ、絶対美香だ……。


 さらにもう一通。


『投稿者:ゆうみん 20歳~25歳 女性


 やっぱり、メインヒロインはミキさんになりましたね。でも、ユウちゃんもお嫁さんになれるみたいで、すごくうらやましいです。私も、この世界に入り込んでヒロさんのお嫁さんになりたいです! でも、現実はそうもいかず……それでも、最近ちょっとした冒険ができて、短い時間ですけど、好きな人と二人きりの時間ができて、とっても充実していました! 結果、振られてしまいましたが……それでも、少しは恋愛感情を持ってくれていたみたいで、それはそれで救われた気がしました。この作品にも、勇気をもらい続けています。ぜひ、更新を頑張って続けて、ミキさんとユウちゃんを幸せにしてあげてくださいね。でも、レイさんとアイさんは気になります……彼女たちもお嫁さんになるのかな?』


 ……これは絶対、優美だ……。


 だいたい、ユーザー名が『ゆうみん』なんて、そのままじゃないか。

 何で今まで気付かなかったんだろう……。


 二人して、俺が書いた小説を見て、多分俺の知らないところで話題にしていたんだろうな。

 そして、陰で『変態さん』などと呼んで、笑いものにしていたに違いない。

 いや、陰でだけでなく、表でもそう呼ばれていたが……。


 とりあえず、気付いていないフリをして返事を書くことにした。


『カワウソ 様

 感想、ありがとうございました!

 ハーレム、確かに男性の読者だと、好む展開だと思います。女性の方だと、ちょっと引いてしまうのかもしれませんね。でも、ヒロは本当にミキとユウの二人だけのことを真剣に考えているようなので、複数と結婚することになったとしても、これ以上、嫁が増える事はないと思っています。レイとアイの二人には、逆にヒロが弄ばれているというか……基本的に彼は不器用なので、こんなふうになってしまったようですよ』


『ゆうみん 様

 感想、ありがとうございました!

 たしかにメインヒロインはミキになりましたが、ユウにも幸せになってもらいたいと思った結果、小説の上ではこんなふうになりました。でも、ヒロ、ユウのことも好きなんだと思いますよ。あと、ゆうみんさん、実生活のほうでも、いろいろあったみたいですね。でも、元気でいてくれているみたいで、また、この小説で勇気を与えられているようでしたら、作者冥利につきます。これからも元気でいてくださいね!』

 

 その二通の返信を行った後、これからどうやって反撃しようか、と考えた。


 ミキ、ユウの二人を妖魔達に攫わせて、陵辱させる……いやいや、そんな事をしたら本格的に変態扱いされて、嫌われてしまう。


 単純に、出番を減らして、新しいヒロインを……ダメだ、それもできない。


 こう考えると、作品上では意外と何もできない……っていうか、もうミキもユウも、独立したキャラクターとして、自然と、生き生きと動き回っているのだ。


 俺は毎回、方向性を考えているだけで、後は自然と頭の中に浮かび上がってきた状況を文章にしているに過ぎない。

 となると、作品上でなにかやり返す、ということは不可能だ。


 あと出来る事と言えば……二人が、


『ツッチー、鈍感なんだから』


 とニヤけているところで、俺が何にも知らない振りをして、心の中で


『フッ……俺が気付いていることに気付かないなんて、鈍感なのはそっちだよ』


 と、逆にニヤけてやるぐらいか。


 うん、まあ、それでもいいか。今まで散々、そう思われてきたことだし。


 ……と、そのとき、誰かがアパートのドアホンのボタンを押した。

 モニターで見てみると、美香だった。


「ツッチー、ちょっと相談したいことがあって……」


 彼女は微笑んではいるが、なにか、嫌な予感がした。

 それでも、わざわざ来てくれたこと自体は嬉しいので、部屋に招き入れた。


 ソファーに並んで座って、


「……えっと、相談って、何だ?」


 と訪ねた。

 すると彼女は、俺の事をジト目で見つめながら、


「……ツッチー、気付いたでしょ」


 と切り込んできた。


「……えっと、何に?」


「……目が泳いでるよ」


「そ、そんなことはないよ……」


 ここでバレてはいけない、と、なんとか抵抗を試みる。


「今なら、怒らないから、正直に言って。気付いたでしょ?」


「だ、だから、何に?」


 じんわりと、汗が浮かんでくるのを感じた。


「……そもそも、私達に黙ってモデルに使ったの、ツッチーよね? 誰からも許可とか取ってないよね?」


「……ごめんなさい、すみません……」


 俺はあっけなく陥落した。

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