曲げない信念 (現実、創作)
「……だったら……いいな……」
俺は、優美の
「今の日本で、一人の男の人がお嫁さんを二人以上もらう事ができるなら、どんなに良いことかな」
という言葉に、曖昧に返事をした。
「……もうそろそろ、戻らないと、美香さんに申し訳ないから……でも、本当にお話できて良かったです。繰り返しになりますけど、救われた気分になりました。これでこの先、生きていく自信が持てました!」
少々オーバーだが、吹っ切れたような笑顔になっていたので、ある程度本心だったのだろう。
「なにかの役に立ってもらえたなら、俺としても良かったよ……あ、みんなまだ寝てるだろうから、あんまりはしゃいで起こさないようにな」
「はい、気を付けます!」
二人で静かにコテージに戻り、彼女は、慎重に女性達の部屋の扉を開け、俺に軽く手を振って、そして中へと戻っていった。
俺も、極限までゆっくりと自分の部屋の扉を開け、静かに中に入った。
さっきまでもう寝ようと思っていたが、今の優美との会話で目が覚め、当分眠れそうもない。
「優美や美香が、俺の書いた異世界ファンタジーを見ている……いや、あり得ないか。それだったら、とっくに俺にそういう話をしてくるだろうし……でも、ブクマ登録は二千超えてたな……いやいや、日本の人口は一億人を超えているわけだし、単純計算で五万分の一だ。気にしすぎだな……」
俺はそう独り言をつぶやきながら、ふと、累計ユニークアクセスの欄に目をやった。
「ユニーク……十五万!?」
そう、俺は勘違いをしていた。
この小説を読んでくれている人が、全て投稿サイトのブクマ機能を使ってくれているわけではなかったのだ。
こんなに沢山の人が読んでくれていたのか、と、俺は驚愕した。
(……これで単純計算で666分の1……まあ、けどまだ、確率的には低いよな……)
普通、この確率で偶然見てくれることはまずないだろう。
それに、たとえ目にしたとしても、名前などは変えているし、会社の設定も異なるし、俺が書いている小説だとは気付かないはずだ。
(ま、まあ……大丈夫だろう……それに二人に見られているかもしれないからといって、ここで信念を曲げるわけにはいかないな……創作の中の世界では、ヒロにもっともっと強くなってもらわないといけないんだ……ここまで読んでくれている読者の期待にも応えないといけないし、あと二人の美女と混浴させないと……それに、多分これで、もしあの二人が見ているならば、何か反応があるはずだ……いや、大丈夫、見てない、見てない……)
俺は自分にそう言い訳して、完全に目が覚めてしまっていることもあり、さっきアップしたばかりの異世界ファンタジーの続きを書き始めた――。
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(創作)
ユウが洗い場へ帰っていった後、濃い霧の中、二人の美女の全裸を見たことに、幸福感と、ある種の達成感を感じていた。
なるほど、これなら多少の『魅了』や『魅惑』に対しても、動揺しないだけの耐性がついたことだろう……と、そう思っていると、何も隠さず、何も身につけていない人影が近づいてきて、驚いてしまった。
霧の影響ではっきりとは見えないが、女性の裸体であることは間違いなかった。
そしてさらに近づき、その正体が少女レイであることにさらに驚き、そして不覚にも、また鼓動が跳ね上がるのを感じた。
彼女は、ユウよりもさらに若く、瑞々しい肌をしており、本当に水が弾けるような透明感溢れる裸体だった。
それでいて、やや小ぶりながらも形の良い胸と、引き締まった腹部の均整が取れており、先程の二人とはまた違った意味で鮮烈な印象を、俺の脳裏に残した。
「……ヒロ様……私の裸、見ましたね?」
愛想なく、しかし顔を赤らめながら事務的にそう話すレイの言葉に、俺は正直に頷くしかなかった。
「……これで私の義務の一つは果たせました」
彼女はそう言って、ゆっくりと、肩まで湯に浸かった。
「……義務って……その……俺に肌を見せることが? やっぱりあの、耐性が付く、っていうやつ?」
「そうです。もし、その……私の裸なんかで少しでも動揺したなら、今後は同じような状況で取り乱しにくくなっていくはずです」
彼女のその言葉に、先程の二人とは異なる、なにか使命感のようなものを感じた。
「それは、そうかもしれないけど……でも、あの……なんか、本当に良かったのかなって思うけど……」
「私は、平気ですよ。なんといっても、勇者様ですし……それに、あるお方の指令です。それをこなせるのなら、私は本望です」
「……あるお方? アイザックじゃなくて?」
「はい、言うなれば私の『真の主』……その方も、ヒロ様、あなたに大変興味を持たれています」
「……あの方……それって、一体……」
と、俺が真相を問おうとしたその時だった。
「もー、遅いっ! 私だけ除け者なんて、ずるいんだからっ! ヒロ君、かわいいっ!」
俺達の会話に、強引に割り込んできたのは、素っ裸でまったく隠そうともしていない、元『お客様相談センター』担当で、一つ年上のアイさんだった。
「な……ちょ、ちょっと、アイさん、酔っているでしょう! ダメですよ、そんな状態で温泉に入るなんて! 危ないですから……」
という俺の抵抗も空しく、彼女は俺に抱きついて来た。
「もう、堅いこと言わないの! 大体、なんで君、美女四人と次々混浴してんのよ、その方がよっぽど危険でしょう!?」
「ちょ、ちょっとま……ヒイィーッ!」
聖地であるこの温泉郷に、俺の情けない悲鳴がこだました。
※最後、現実ではこのシーン、湯浴み着を来ていたのに対して、創作の中では全員全裸です。
※レイのモデルは社長秘書の虹山で、実際より相当若く描写されています。




