異世界混浴 その④ ノック(創作、現実)
「……もちろん、ヒロさんの本命がミキさんなのは知っています。だから、これは本当に無理なお願いだと分かっています。でも、この聖地に来た影響なのか、どうしても自分の素直な気持ちを偽ることができなくて……」
ユウは、怯えたような、泣きそうな表情になっていた。
自分でも、無謀な告白だと思っているのだろう。
普通に考えれば、別の女性から逆プロポーズを受けてOKしたばかりの男性に、さらに逆プロポーズするなんてあり得ない。
しかし、ここは異世界だ。
彼女が言うとおり、複数の嫁を娶ることができるならば……。
しかし、それではミキを傷つけてしまうことになるのではないか。
いや、断っても、ユウを傷つけることになるのか……。
そもそも、俺がこんなにモテるはずがないのだが、これが異世界の成せる技なのか?
「やっぱり……私じゃダメなんですね……」
「そ、そんなことないよ。ユウは可愛いし、全力で俺の無謀な旅に付き合ってくれているし……さっき言ったように、ユウの事だって好きなんだ……ミキに負けないぐらいに……」
すらすらと、思っていたことが口から出ていく。
どうもこの温泉、やはり自分の気持ちを伝えずにはいられない……そんな奇妙な力が働いているようだ。
そう、俺は……実はユウの事も、単純な恋愛感情で言うならば、ほとんど差が無いぐらいに好きなのだ。
ただ、お互いに一緒に過ごしてきた時間の長さ……それが信頼の厚さと、積み重なった情として、俺はミキを選んだのだった……。
「本当ですか? じゃあ、私の事も、お嫁さんに……」
「それは……」
さすがに、ミキに悪い、と思った。
しかしここで、ふっと、先程のミキのセリフを思い出した。
『このあと、多分ヒロにとって、もう一つ嬉しいことがあるかも。その時は、私に遠慮なんかしなくていいからね。私も彼女の事、応援してるから』
あの言葉は、この状況を予言していたのだ。
「……俺は……俺は、ユウとも結婚したいって、本気で思っている……」
――また、すっと言葉が出てしまった。
「ありがとうございますっ! すごく嬉しいですっ!」
そう叫びながら、彼女は両手を祈るように組み合わせて立ち上がった。
――不意に現れた、美少女の全裸。
腕によって微妙に胸が隠れてはいるが、俺の鼓動は再びドクンと跳ね上がった。
「あっ……」
その事態に気付いたユウは、顔を真っ赤にして固まった。
「……奇麗な体だ……できれば腕で隠さず、全部見せて欲しい……」
俺の口から、素直に思っている言葉が漏れた。
ユウは一度、目を閉じて頷くと、ゆっくりと腕を下ろした。
彼女の裸体は、まだあどけなさがわずかに残るようで、しかし、それがミキとはまた違った『未成熟な美しさ』を体現した、芸術作品のように思えた。
「……あの……もういいですか?」
彼女のその一言に、俺は我に返り、慌てて目を逸らした。
「ああ、その……すごく綺麗だよ……」
「……ありがとうございます……でも、恥ずかしいです……」
小さくそう答えた彼女。
その後、湯の中に体を沈める音が聞こえたので、ようやく逸らしていた目を元に戻した。
そこには、さっきより真っ赤になって、肩から上だけを出している美少女の姿があった。
「……約束、しましたからね。少なくとも、この世界にいる間は……私の事、お嫁さんにしてくださいね!」
彼女はそれだけ言って、恥ずかしそうに、けれど、嬉しそうな様子で、洗い場の方へと帰って行った。
俺は、あまりに突然で、衝撃的で、しかし、この上なく幸せな事が連続で起こったことに、戸惑いと、喜びを感じていた。
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(現実)
ここまで一気に書き上げた俺は、それをウェブ上にアップした。
時刻は、深夜二時を回っていた。
いつもの習慣として、俺は更新された投稿サイトの内容を何度も見直して、誤字などがあればそれを修正する、という作業を繰り返していた。
――と、その時、小さくドアをノックする音が聞こえた。
気付くかどうか、本当に微妙な音……おそらく、眠っていれば気付かないぐらいのものだった。
こんな時間に誰だろう、と思いながらドアを開いてみると……そこには、顔を赤らめ、しかし、どこかもの悲しげな表情の美少女、優美が立っていた。




