異世界混浴 その② ミキの決断(創作)
「来ちゃったって……なんで……」
「だって、ここ、混浴温泉でしょ? 別に不思議じゃないと思うけど……って、ちょっとこっち見過ぎ!」
「あ、ああ、悪い……」
俺はそう言って、景色の方に向き直った。
すると、すぐ隣にミキが来て、二人とも肩まで湯に浸かり、そして一緒に雄大な風景に見入った。
ミキは、腕が触れあうほどの近距離にいる。
湯は乳白色なので、今は彼女の体が見えてしまう心配はない。
「……すごいね、ずっと向こうまで見渡せる」
「ああ、結構な高台だからな」
「うん、本当にいいところ……でも、できれば日本で一緒に混浴、したかったね……最後に一緒にお風呂入ったの、幼稚園ぐらいだっけ?」
「……もう前すぎて、覚えてないな……」
「……そっか……じゃあ、あの約束も覚えてないね……」
「約束?」
「そう……私の事、お嫁さんにもらってくれるっていうの」
「ははっ、それ言ったのは覚えてるよ。あのころは純粋だったからな」
「私、今でも純粋だよ」
ミキはそう言って、肩を俺に触れさせてきた。
お互い全裸で、体の一部が触れあっている……その事に鼓動が高鳴るのを実感している俺がいた。
「……まさか、こんな異世界で混浴することになるとは思わなかったね……」
「ああ、それに『勇者』になんて祭り上げられて、戦いに出るハメになっている」
「そうね……ヒロが勇者で、私が魔法使い。まるで子供の頃のおとぎ話……それでこうやって一緒に旅してるんだから、不思議ね……」
「そうだな……夢見ているんじゃないかなって思うときがある」
「本当、そうね……でも、それほど悪い夢じゃないかな? ずっと一緒にいられるし、ヒロの役に立つ事ができてると思うし……」
「ああ、それは本当にありがたいと思ってる。俺一人じゃあ、とてもこれだけの旅を続けられなかった。特にミキが一緒にいてくれるのは本当に心強いよ」
「……よかった……」
彼女はそう言って、もっと肩を寄せてきた。
それだけで、幸せな気分になる。
「……ねえ、ヒロ……」
「うん?」
「結婚……しよっか?」
思わぬ彼女の言葉に、鼓動が跳ね上がった。
「結婚? 俺と?」
「うん。そう……嫌?」
「……嫌じゃないけど……」
「本当!?」
ミキの表情が、ぱっと明るくなった。
「けど、なんで突然そんなことを……恋人同士っていう関係にもなってないのに……思いつきか?」
「そういうんじゃないよ。なんていうか……夫婦になりたいなって思って。私達って、昔っから知っているし、恋人っていうより、夫婦っていう関係の方がしっくり来るかなって思って。もちろん、今すぐじゃなくていいけど」
イタズラっぽく笑みを浮かべ、それでいて頬を赤く染め、わずかに肩を出してこちらを見ている彼女に、俺は完全にやられてしまった。
「……そうだな……夫婦、いいかもしれない……けど、まずはこの旅を終わらせることの方が先、かな……」
「うん、それは分かってる。そしたら、元の世界に帰って……ううん、帰れなくても、結婚はできるかな……」
「うん? 帰りたくないのか?」
「ううん、そうじゃないけど……ちょっと訳があって……」
「訳?」
「そう……でも、それはヒロ次第」
「……意味がわからない……」
「すぐに分かるよ……えっと、じゃあ……もう一度確認だけど……結婚の約束、したからね。それは問題ない?」
「……本気でミキがそう思ってくれるなら、俺は問題ないけど……って、本当にいいのか?」
「うん……私は元々、そう願ってたから……あ、それともう一つ。このあと、多分ヒロにとって、さらに嬉しいことがあるかも。その時は、私に遠慮なんかしなくていいからね。私も彼女の事、応援してるから」
ミキは、そんな意味深な事を言ってきた。
「……どういう意味だ?」
「後で分かるから……こんな話してたから、ちょっと、のぼせてきたかも……私、もう戻るね」
「ああ……あ、ただ……」
「……なに?」
「……こんな話になったのも、今、俺が思っていることも……この温泉の神通力というか、そういう、『思った事が口に出てしまう』っていう不思議な力のせいかもしれないけど……俺……ミキの裸が見たい……」
普段なら絶対言えないような言葉が、すらっと、素直に出てしまった。
彼女はさらに顔を赤らめ、一瞬、口元すれすれまで湯に沈めたが……覚悟を決めたように一度目を閉じると、両手を下ろし、ゆっくりと立ち上がった。
幼馴染みの一糸まとわぬ美しい裸体は、午後の日の光に照らされて、その肌に付いた水滴がキラキラと乱反射し、俺の目には、まるで天女のように輝いて見えた。




