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妖魔ワニ (創作)

 俺とフトシ課長代理、ミキ、ユウ、レイ、アイの六人は、サポセンの街からアリーマ温泉まで馬車で移動した。


 ちなみにシュンは未だ夏風邪で熱を出したままで、高齢のアイザックはサポセンの宿屋でくつろいでいる。


 アリーマ温泉はかなりの秘境で、途中の山道は崖から転落しそうで怖かった。

 キャアキャア怖がっている女性達に、なぜかフトシは余裕で


「大丈夫だから、心配しなくていいよ」


 と励まし続けていた……高い生命力を誇る彼は、自分だけは落ちても助かるという自信があったのかもしれない……単に四人もの美女に囲まれて、いいところを見せようとしているだけの気もするが。


 数時間馬車に揺られて、ようやくアリーマ温泉に辿り着いた。

 ここはこの国有数の温泉地で、場所によっては入るだけで各種パラメータに補正が加わるという、冒険者にとっては一度は訪れる価値のある、いわば聖地だ。


 いくつも温泉宿があるのだが、その中でも特に大きく、異彩を放っているのが


「スーパー混浴温泉 パラダイス・イチャツキーネ」


 だった。


 もう、名前からして怪しいのだが、元々は神の子孫(男性)が、魅了を武器とする妖怪仙女と戦うために、数人の巫女と共に混浴して耐性をつけ、見事打ち勝ったという由緒正しい温泉だったのだ。


 ただ、一年ほど前に今の経営者になってからというもの、『混浴』を前面に押し出した売り出し方をして、目指す方向がおかしくなっているようだが……。


 看板も、ピンク色を主体としたちょっといかがわしいモノになっており、女性陣は顔をしかめた……フトシ課長代理だけはご機嫌だったが。


 建物の奥に大露天風呂があり、少し高台になっていることもあって見晴らしは良いらしい。

 まだ太陽は傾き始めたばかりで、十分に日差しはあって、雄大な景色を見ながら入浴できるはずなのだが……なぜか、出迎えてくれた店員の表情は暗かった。


 事情を聞くと、


「実は、常連の男性客三十人ほどと、この温泉施設の経営者が、奇妙な『毒』を受けたらしく、半分妖魔化してしまった」


 と言うではないか。


 数日前、一人で温泉に来た怪しげな美女が混浴の露天風呂に入った際に、常連の男性客と経営者に、持っていた肉団子を差し出してみんなで食べたらしいのだが、その結果、まるで爬虫類のワニのような容姿になってしまったのだという。


 そしてこの施設の目玉である大混浴露天風呂に住み着いてしまっているらしい。


 当然、俺達は信じられなかったし、せっかくここまで来たのに効果を得られないのはあまりに残念だ。


 とりあえず、妖魔なら俺達でなんとかなるかもしれない、と、自分達は歴戦の冒険者であることを(主にフトシが)アピールし、まず視察してみることにした。


 ところが、普通の格好でその露天風呂に行っても、巧妙に岩陰などに隠れ、一見しただけではどこに潜んでいるのか分からないのだという。


 そこで、不本意ではあるのだが、俺とフトシは腰にタオルを、四人の女性達はバスタオルを巻いた姿で、脱衣所から露天風呂に出た瞬間、ワサワサと三十体を超えるワニたちが、温泉の中や洗い場の側に出現してきた。


ミキ:「いやあぁ、気持ち悪いっ!」


ユウ:「こ、怖いですぅー!」


レイ:「……」


アイ:「ちょっと、近づかないでよ、変態っ!」


 女性陣からは大ブーイングだ。

 それに対してワニたちは、


「……オンセンニ バスタオルナド マナーイハンダ!」


「ソウダ、ヌゲヌゲッ!」


 と、自分勝手な事を口走っている。

 見かねたフトシ課長代理が、前に出た。


「ふっ……みんな、ここは私に任せてくれ。我が奥義を見よ! ヘ・リクツ!」


 フトシが呪文のように一言呟くと、そこには、どす黒い障壁のようなものが現れた。


「ナンダ、キサマハ!」


「ジャマスルナッ!」


 そんなもの無視するかのように、ワニたちは怒り狂ってフトシに襲いかかった!


「うぎゃぁぁぁぁーっ!」


 そんな屁理屈なんか、ワニに通じるわけもなかった。


「あ……フトシさん、噛まれた……」


 アイさんは冷静だった。


「ひっ……ひいいっぃ!」


 三十匹近いワニたちに、袋叩きにされるフトシ。

 一応、俺達も助けようとするものの、ワニたちが群がりすぎているせいで、フトシを巻き込まずに妖魔だけを攻撃する機会がなかなか見つからない。


 まあ、フトシは生命力だけは異常に高いので、死ぬことはないだろうが……。


「あっ……フトシさん、なんか姿が変わってきていますっ!」


 ユウが指差して指摘した。

 なんと、フトシまでワニの姿に変化してきているではないかっ!


「何てことだ……毒がうつされたのか……」


 ついにフトシは、妖魔……それもワニに成り下がっているようだ。

 そのまま温泉の中に引きずり混まれ、なおも攻撃を受け続ける……完全に妖魔化するのは時間の問題だろう。


「……こうなっては仕方ありません……フトシさんごと始末するしかないようですが……みなさん、それでいいですか?」


 レイの冷静な一言に、全員、躊躇(ちゅうちょ)無く頷いた。


「では……対覗魔変態撃滅雷撃アンチヘンタイスタンガン!」


 彼女の強力な雷撃呪文が炸裂し、岩場の影の妖魔はひっくり返り、フトシを含む温泉の中に入っていたワニたちは、腹を上にして浮かび上がった。

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