アイ、参加 (創作)
(創作)
緊急事態だ!
『アリーマ温泉』に入り、いくらかステータスを上げようと計画していたのだが、シュンが夏風邪をこじらせたらしく、参加することができなくなった。
こうなるとその旅に出るのは、男性が俺とフトシ課長代理、女性がミキ、ユウの二人で、さらにアイザックの一番弟子であるメイドのレイも参加することになった。
ただ、三人ともフトシ課長代理が一緒であることにちょっと不満を持っているようだ……特に、男が『魅惑』耐性を上げるためには、女性と混浴する必要があるのだが、みんな彼と混浴するのはためらっているらしい。
そうとは知らないフトシ、混浴があるかもしれない、と意気揚々なのだが……。
仕方がないので、直前で混浴はできなくなったと言うしかなさそうだ。
(ちなみに、三人は、俺とだったらステータス向上のためギリギリ混浴してもいい、と言ってくれていたのだが、気を使っていてくれていただけかもしれない)
とりあえず、『アリーマ温泉』に最も近いサポセンの街まで、アイザックの転移魔法で移動した。
ここでは以前、近郊で『クレイジー・クレーマー』を倒している……そんなに前ではないのに、ずいぶん昔に感じてしまう。それだけ『パワハーラ・ザイゼン』との戦いの密度が濃かった、ということだろう。
まずは腹ごしらえ、と考えて食堂に行くと、そこで意外な人物と出会った。
「……あれ、『お客様相談センター』の……アイさん?」
ミキが、一人の女性の姿を見つけて、驚きながらも嬉しそうに声をかけた。
「あら、システム課のミキちゃん! それにユウちゃんも! 無事だったのね!」
三人は集まって、目に涙を浮かべ、肩を抱き合って喜んでいた。
アイさんの事は、俺も知っていた。
歳は俺やミキより一つ上だが、気さくで話しやすく、異世界転送前はその明るい性格で相談センターの相談員として活躍していた人だ。
感動の再会を果たし、せっかくなので一緒に食事をすることにした。
彼女は今、武器や防具の中古を販売する店で見習いとして働いており、昼休憩でこの食堂に食事に来たところで、俺達にばったり出会ったのだという。
アイさんも邪鬼王に召喚されたのだが、邪念が無かったためか妖魔化しなかったらしい。
しかしそれが原因で『不必要』と判断されて邪鬼王から追い出され、しばらく旅をして着いたのがこの町で、彼女は『鑑定』の能力を持っていたために仕事に就くことができたという。
前回この街を訪れた時には、お互いの存在を把握していなかったので会うことができなかったが、『クレイジー・クレーマー』が勇者一行に倒されたこと、そして彼等が『異世界転送者』と聞いて、ひょっとしたら元同僚かもしれない、と薄々気付いていたのだという。
そして今回の旅の目的を伝えると、
「温泉!? いいな、私もそこ、行ってみたいって思っていたの!」
と、かなりの食いつきを見せた。
「でも、仕事があるんじゃないですか?」
俺がそう確認したところ、
「一日か二日ぐらいだったら、休みもらえると思うから、ぜひご一緒させて!」
と目を輝かせている。
まあ、今回は妖魔を倒す旅ではないし、危険は少ないだろう。
この世界のことに詳しいレイによれば、
「もし混浴をするのであれば、基本的に、混浴してくれる女性は多ければ多いほど『魅惑』耐性が強くなる」
ということだった。
また、その特性上、
「温泉の特別な効能と、女性の体を見ることで、その効果を得られるので、多少恥ずかしくとも、ほんの少しでも肌を見せる必要があり、男女とも全裸で入らなければならない」
という話もされた。
「全裸で混浴? ヒロ君と一緒だったら楽しそう! あ、フトシ課長代理はダメですよ!」
アイさんは結構ズバズバ本音を言う性格みたいで、フトシは苦笑いを浮かべながら、相当落ち込んでいるようだった。
っていうか、なぜか俺となら構わないんだ……。
アイさん、俺達とあまり歳が変わらない上に、ショートカットで猫のような瞳の、かなりの美人さんだ。
そんな彼女が、俺との混浴を「楽しみ」と言ってくれている……かなりドキドキしている自分がいて、思わずアイさんの顔を見つめてしまう。
すると突然、隣に座っていたミキに腕を思いっきりつねられ、俺は奇妙な大声を上げて、注目を浴びてしまったのだった。
※「アイ」のモデルは、『瞳』→『目』→『アイ』です。
※この土屋の創作を、美香や優美が読んでることに、彼は未だ気付いていません。
※時系列的には、彼はこの話をコテージの中で書いています。




