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会社の上司を悪役にした異世界ファンタジーを書いていたら、読者が社長だった  作者: エール


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混浴 その⑤ ワニとの対決!(後編、現実)

 虹山秘書の鋭い一言に対し、俺は


「いや、そんなことをしちゃあ、せっかくの風情が台無しになるだろう? せっかく皆で入っているんだから、雰囲気は大事にしなきゃあダメだ」


 と、(予定通り)余裕の返答を返す。


「……そうですか……」


 彼女は、(これも予定通り)ため息をついて、あきらめ顔だ。


 そして俺が、がっしりした体格の男性を見ると、あきらかに戸惑いの表情を浮かべて、仲間の方を見た。

 するとそのうちの一人が、


「そいつ、やばいぞ……」


 とでも言うような表情で首を横に振る。


 それを見た彼は、俺に目を合わせることもなく、別方向の景色を見る振りをしてゆっくり去っていった。

 こうなると、絶景ポイントは俺達の独占状態になる。


「……ほら、あそこ、あの橋の上……車が走っているの、見えますよ。あれって、私達も通って来たところですよね?」


 周りを気にする必要がなくなったのか、優美がはしゃぐように、右腕を白濁した湯から出して指差した。


 それだけでドキリとするのだが、俺は何処かの社長の御曹司か、でっかい組織の跡取りみたいに思われている? はずなので、余裕の表情で、


「ああ、そうだな……気付かなかったな、運転、任せていたのにな……」


 これは本当の事なのだが、周囲からすれば、運転手付きの車に乗ってきたと思われるかもしれない。

 よく耳をすますと、ワニ同士がこっそり話をしているのが聞こえる。


「……そういえば、黒塗りのでっかいジャ○ー、停まっているの見ましたよ……」


「そもそも、一人で四人も美女を侍らせている時点でヤバイだろう……」


 みたいなセリフが聞こえてくる。

 ちなみに、後でわかったことだが、ジャ○ーは虹山さんの愛車だった。


 また、子供っぽさの残る優美は、目線の高さになっている岩場に手をかけて、少し体を浮かせて下方をのぞき込んだ……結果、背中の上部が湯から出てしまっている。


「……あれ、あの下の方、一件だけぽつんと家がありますよ!」


 無邪気にそんな声を出すが、すぐ隣にいる俺からは、胸も上方が見えかけていて、慌てて視線をそらせてその民家の方を見た。


 露天風呂全体の雰囲気が少し変わる――ワニ達からすれば背中が少し見えただけだろうが、それでも優美自体が相当な美少女なので、彼等もドキリとしたことだろう。


 まあ、このぐらいは許容範囲か……。


 と思ったら、美香も俺のすぐ側、優美と反対側に来て、優美と同じように岩場から少しだけ身を乗り出す……彼女の方が小柄な分、背中も余計に見えていると思うのだが、気にしていないようだ。


「あ、本当ですね……しかも茅葺き屋根……多分観光用の施設でしょうね。若、後で行ってみましょうか?」


 まるで上司に提案するような口ぶりだが、俺にだけ見える彼女の横顔は、笑いを必死に堪えているのが分かる。


 これはコテージに戻ったら絶対、『若』という言葉でからかわれること必至だ。

 瞳も、すぐ背後まで近寄ってきていた。


「いいですね……みんなで記念写真撮りましょうね……虹山さんも、一緒に撮りますか? 今日は秘書の堅苦しい仕事は忘れて、楽しみましょう」


 瞳の場合は計算なのか素なのか分からないが、『秘書』という言葉を巧みに織り込んで、彼女が特別な存在であることをアピールしている……ウソではない分、リアリティがある。


「……そうですね……今回は祝勝旅行ですものね……遅くなりましたが、若、お疲れ様でした。それとご栄転、おめでとうございます。もうあの方と会うこともないでしょう」


「……今、あの人の事は思い出したくないな……俺のせいであんなことになったんだ、自業自得とはいえ、ちょっと可哀想な事をしたかなって思ってもいるんだ……」


「……若、お優しいのですね……」


 まったくウソは言っていないのだが、周囲にはどんな風に聞こえているだろうか。

 ちなみにこの会話、全部アドリブだ……ちょと調子に乗ってしまったかもしれない。


 その後、十分ほど、景色やぬめりけのある湯の感触を楽しんだ。

 ワニたちは、ほとんど無言で、事前に聞いていたようなガン見ではなく、チラチラと女性陣の様子を見ている感じだ。


「……若、そろそろ出ましょうか。あまり長時間入りすぎると、湯あたりをおこしますよ」


 虹山さんが、もう十分でしょう、というふうに目配せをしながら話しかけてきた。

 俺としても、これ以上絶景ポイントを独占するのは申し訳ない気がしてきた……といっても、ワニ達は景色なんてどうでもいいと思っているのかもしれないが。


 俺と女性陣が振り向くと、ワニたちによって塞がれていた女性専用通路までの道が、サァーっと見事に別れた……まるでモーゼの十戒だ。


 彼女たちは余裕の表情で、肩まで白濁した湯に浸かりながら、周囲の人達ににこやかに笑顔を振り撒いて帰っていった。


 その様子を見届けた俺も、男性用通路に戻ろうとしたのだが、明らかに避けられていた……それはそれで悪者になった気がして、あまりいいものではなかったが、まあ、今日だけだし、気にしなくてもいいか、と思うことにした。


 その後、虹山さんも同伴してコテージに戻って来て、大爆笑。


 案の定、


「若、お見事な演技でしたよ」


 とか、


「若のおかげで、お湯や景色を十分堪能できました!」


 とか、さんざんからかわれた。


「……でも、この後バーベキューするんでしょう? お肉を焼いた匂いが付くんじゃないかしら?」


 瞳が、せっかく温泉に入ったのに、という表情でそう話した。


「あら、だったらもう一度入ればいいでしょう? ここは温泉地、何度も入るのもいいと思いますよ」


 と、温泉好きの虹山さんがアドバイスしてくれた。


「……またさっきのところに入るんですか?」


 優美が、二回はちょっと飽きるかな、という表情で話した。


「いえ、入るのは日が暮れてからになるでしょう? だったら景色も見えなくなるし……せっかくだから、貸し切りの露天風呂を利用すればいいんじゃないかしら。それだったら遠慮なく入り放題よ……彼が一緒だったとしても」


 女性四人の視線が、一斉に俺に集まった。

※次回もこの続きです。


※引き続き、評価やブクマ登録、感想などを頂けますと、ヒロインや同僚社員一同と共に大喜びいたします。

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