勇者の決断 (後編、現実、創作)
「……美香、俺、挑戦してみようと思う。勇者かどうかはわからないけど、戦いに出ることは今後の自分に役立つだろうし。どこまでできるかわからないけど、全力で挑もうと思う」
俺はそう宣言した。
「……うん、ツッチーがそう決断するなら、応援するよ。厳しい戦いになると思うけど、私もできる限り支援していくから」
「ああ。そう言ってくれると嬉しいよ。それに……約束、覚えているか?」
「……何の約束?」
美香はとぼけているが、絶対に意識しているはずだ。
「備前専務と戦って、勝って、開発職に戻ったら結婚、っていう約束だよ」
俺はストレートにそう切り出した。
「……うん、もちろん覚えてるよ。条件の片方、クリアしたね」
「……片方?」
なんか嫌な予感がした。
「そう。あともう一つあったでしょう? 『三十五歳までにお互い相手がいなかったら』っていうの」
「……えっと、それって……ひょっとして、『AND条件』なのか?」
「えっ……ツッチー、『OR条件』のつもりだったの?」
……絶対にすっとぼけている。
もちろんここで言う『AND条件』とは、『両方とも満たして成立する』条件であり、『OR条件』とは、『どちらか一方でも満たせば成立する』だ。
俺はものすごく脱力した。
美香は、酔っていることもあって、顔を少し赤くしながら、
「あはは……まさかこんなに早く、本当に備前専務をやっつけるとは思わなかったからね。まだきちんと付き合っている訳でもないし、ちょっと早すぎるかな? でも、ツッチーが真剣に考えてくれるなら、私も考えるよ」
美香は、酔ってはいるが、きちんと考えることができているようだった。
俺はそれを聞いて、座っておつまみを食べている美香の背後に回り込み、後ろから抱き締めた。
彼女は、抵抗しなかった。
大胆な行動に出てしまった自分の心臓が、早鐘を打っているのが分かる。
「……今日、朝まで一緒にいてくれるんだよな?」
「うん……でも、飲み明かそう、って言ったんだよ」
「ああ、それは聞いた……だから、嫌だったらそう言ってくれればいいよ」
俺はそう言って、彼女の頬にキスをした。
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(創作世界)
アイザックは、興奮した様子で、館の会議室に俺達を集めた。
「……皆、聞いてくれ。邪鬼王の新たなる手下となり、猛威をふるっている『王下七邪界』と呼ばれる妖魔達の名前が判明した!」
「『王下七邪界』……」
その恐ろしげな呼称に、俺もミキもユウもシュンもレイも、おまけでフトシも、息を飲んだ。
「まず、それぞれの名前だけ紹介しておこう。『ネギーリ・アズミ』、『ドナール・イシカワ』、『タンノーキ・ウチムラ』、『トラブラー・エモト』、『ペテン・オカモト』、『ダツゼーイ・カガワ』……以上だ」
「……ちょっと待て……『七邪界』なのに、今、六人しか言わなかったぞ」
またしてもツッコミどころ満載な紹介に、俺は敬語を使うことすらしなかった。
「後一人は予備じゃ。そろそろ学習しろ!」
「学習するのはそっちだろうがっ! 結局前回も予備枠、埋まらなかったじゃないか! 何人倒して、あと何人だ、とか計算するときに混乱するんだよ!」
「ええい、うるさいっ! こんなの、5歳の子供でも計算できるじゃろう!」
「……まあ、人数の整合性はもうどうでもいい。六人だな……って、特に最後の二人、名前が完全にアウトだろう!? 『ペテン』とか『ダツゼーイ』とか! 確証があるのか?」
「そんなもん、ない! ただ、そういう黒い噂があるというだけじゃ!」
「そんな推測で名前を付けたのか!? 謝れ、全国のオカモトさんとカガワさんに謝れっ!」
「サイトのデフォルトに書かれておるじゃろう? 『すべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません』と。前にも言ったが、おぬしは勇者のくせに、細かい事を気にしすぎなんじゃ!」
俺はまた、頭が痛くなってくるのを感じた。
この爺さん、本当に、かつて世界を救った英雄の一人なんだろうか……。
それはともかく、邪鬼王の新たなる配下が、また本格的に活動を始めたのは由々しき事態だ。
「なお、今回からは『シャガーイ』と呼ばれる、今までとは別種族の妖魔となるため、戦闘能力はワシでもわからん。十分注意して戦うようにな」
アイザックは、自分では戦わないから余裕で物を言っている……まあ、高価な武器をタダで借りたり、館でも個室を与えられ、飲み食いさせてもらっているのであまり文句は言えない……いや、言ってるけど。
「……では、まず『ネギーリ・アズミ』の出没する場所じゃが……」
前回までとは、少し異なる戦いをしなければならないことは承知している。
しかし、勇者の称号を得てしまった今、俺は少々困難な闘いであったとしても、挑まなければならない。
現代日本に戻るため、邪鬼王を倒すべく、まだまだ戦いの日々は続く。




