祝勝会からの暗転 (創作)
(創作世界)
パワハーラ・ザイゼンは、亜空間に封印された。
邪鬼王の怒りを買い、追放された以上、もう二度と帰って来ることはないだろう。
俺は、帰って来られた……信頼する仲間達の、召喚魔法によって。
これで、三人しかいないハラスメント四天王は、全て始末した。
アイザックの館に戻り、彼に戦いの首尾を報告。もうすでに知ってはいたようだが、それでも満足げに何度も頷き、
「良くやってくれた、さすがは勇者殿とその仲間達じゃ!」
と褒めてくれた。
さらにアイザックによれば、邪鬼王によって転移した会社員の中には、パワハーラと同等の能力を持つ者もいたのだが、邪心や虚栄心が財前専務よりずっと少なかったため、妖魔化されなかったか、もしくは、もっと弱い妖魔にしかならなかったらしく、もう脅威となる敵は存在しないだろう、ということだった。
しかし、まだ肝心の邪鬼王が残っている。奴を倒さぬ限り、我々は日本に帰れないのだ。
……と、その懸念をアイザックに伝えたところ、彼は、
「いや……その事なのじゃが、私は、ずっと不思議に思っていた……圧倒的な戦闘力を持つはずの邪鬼王が、なぜ、自ら出撃してこないのかと……そして、調査を進めている内に、ある一つの結論に達した……邪鬼王は、先代勇者との激闘の末に相打ちとなり、その肉体を失ってしまっておるようなのじゃ」
と説明してきた。
「肉体を? ……それで、生きているんですか?」
俺の疑問に、アイザックは深く頷きながら答える。
「うむ……奴は、『神』に近い存在じゃからの……魂を保管する『器』さえあれば、生きながらえることはできるし、強力な魔法を使うことはできる。とくに時空を操ったり、配下に指令を出したりするような呪文は得意なはずじゃ。ただし、移動ができないこともあって、我々に直接攻撃を加えるような真似はできないがのう」
「なるほど……それで、奴にとっては異世界となる現代日本から我々の会社ごと召喚して、社員を配下に仕立てあげ、操っていた、というわけですか」
「その通りじゃ。ただし、勇者候補であったヒロを闇に染められなかった時点で、その計画も中途半端なものになってしまった。今となってはもう、時間が経ちすぎており、ヒロを取りこむことはできぬ。そこで比較的能力が高く、邪心も持ち合わせていたパワハーラ・ザイゼンを重用しておったのじゃが、裏切られてしもうた。もう邪鬼王にろくな駒は残っておらぬ。しかも、肉体は蘇っておらぬままじゃ。奴の魂の拠り所となっておる『器』を破壊することができれば、おぬしたちは元の世界に戻ることができるじゃろう」
「『器』……それはいったい、どこにあるのですか?」
「今ははっきりとは分からぬが……おそらく、邪鬼王の居城の何処かに隠されておるじゃろう。今のおぬしたちであれば、パワハーラ無き今、そうそう妖魔達に遅れは取るまい。準備を調え、罠に気を付けながら慎重に潜入して、『魔力探知』を頼りに『器』を見つけ出し、それを破壊するのじゃ!」
アイザックが、この世界での戦いを終わらせるべく、道筋を示してくれた。
「……それで私達、日本へ帰れるのね……」
ミキは、目を潤ませている。
「……いや、まだ喜ぶのは早い。さっき言われたとおり、周到な調査や準備が必要だし、それには時間がかかるだろう。でも、今日のところは、パワハーラを始末したことだし……」
と、俺がそこまで話したところで
「そうです! 宴にしましょう!」
ユウが、元気よく大きな声をあげて、みんな思わず笑ってしまった。
――その宴会は、今まででもっとも楽しかった。
俺もシュンも、この世界の、少し濁っているが、ものすごく旨いビールを、浴びるように飲んだ。
ミキとユウは、甘いカクテルとデザートを美味しそうに味わっている。
普段あまり愛想の良くない、メイドでアイザックの一番弟子である少女レイも、この日は腕によりをかけてご馳走を作ってくれていて、皆がその味を絶賛していることに、まんざらでもない様子だった。
フトシ課長代理は、最初日本酒が無いことに不満を漏らしていたが、それでも上質のワインが提供されたことにご満悦。酔いが進むとオヤジギャグを連発していたが、俺達も酔っていたのでついつい笑ってしまった。
そんな中、アイザックも笑顔ではあったが、飲酒は程々。
物事が上手くいっているときほど、少しの油断が致命的となることもある、と、慎重な姿勢を崩さず、みんなから
「ノリが悪い!」
と指摘され、苦笑いだった。
――と、そんな楽しい宴会も、みんな相当酔いが進み(フトシ課長代理は完全に酔いつぶれていた)、もうお開きにしようか、と話していたときだった。
突然、俺の背筋に、凍り付くような寒気が走った。
周囲を見渡すと、俺だけでなく、アイザックも、シュンもミキもユウもレイも、要するにフトシ以外、全員が驚愕の表情を浮かべていた。
二回、三回……いや、数え切れないほどの寒気が俺達を襲い、一気に酔いが覚めていくのを実感した。
「……バカな……これほどの魔力を、邪鬼王は溜め込んでいたのか……」
アイザックは青ざめていた。
「……一体、何があったというのですか?」
恐る恐る、俺はアイザックに尋ねた。
「建物ごと異世界召喚……それを、複数回……おそらく二十回以上も使ってきおった……一回ごとの規模は、おぬし達の時よりずっと小さいが、少数精鋭……それぞれに相当な邪気を持つ者が、最低一人は含まれておった……」
「……そんな……それじゃあ、また敵が増えたっていうことですか?」
ミキは泣きそうになりながらそう尋ねた。
「そうじゃ……残念ながら、まだ被召喚者達との戦いは終わらぬじゃろう……」
アイザックの悲痛な表情に、俺は気が遠くなるのを感じた。
※土屋がこのような展開にしたのは、現実世界において、彼にとって大事件(基本的には栄転、ただし考えようによっては、その分戦いが増える)が発生したためです。これについて、次回、少し時間を遡って書いていきたいと思っています。




