激戦、対パワハーラ・ザイゼン! (決着編:現実、創作)
(現実世界)
会社を辞めた備前元専務は、新会社設立に向けて、大胆に準備を進めていた。
――自分がいるからこそ、『シーマウントソフトウエア』に発注をかけてくれる顧客が存在する。自分が独立して会社を設立したならば、こちらに発注を回してもらうよう営業をかけるのは容易い――そんな思い込みがあったようだ。
しかし、それは甘い幻想であったと思い知ることとなっただろう。
まず、スタッフが揃わないのだ。
自分の元部下達を、
「現状よりはるかに高給、好待遇で雇ってやるから」
と誘っていたようだが、ことごとく断られたという。
それはそうだろう、いかに備前元専務が現役時代に権力をふるっていたとしても、辞めてしまえばただの一般人だ。まだ顧客の付いていない、そんな不安定な会社などに転職を希望する訳がない……優秀なシステムエンジニアやプログラマーほど、計算高いものだ。
備前元専務は完全に空回り。
次第に、誰にも相手にされなくなっていった――。
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(創作世界)
亜空間であるマ○ー空間にて、俺とパワハーラ・ザイゼンの戦いは続いていた。
治癒魔法などのサポートを受けられるようになった俺は、ようやく再びザイゼンと向き合う勇気を取り戻すことができた。
そして、多少リスキーではあるが、魔法が使えなくなったザイゼンに対して接近戦を挑もう……そう考えたときだった。
「……ヒロ、待って! 今、レイさんがアイザックさんに連絡を取ってくれて……もう、戦う必要なんかないって!」
『インプレッシブ・ターボブースト』を媒体として、ミキの声が聞こえてきた。
「……どういうことだ?」
「財前さんは亜空間へと追放されてしまったんでしょう? ヒロが巻き込まれたのは、単純に凶暴化した財前さんに、あわよくば倒してもらおうという、邪鬼王の策略なの! もう、財前専務は帰ってこない。相手にして戦えば戦うほど、邪鬼王の思うツボよ!」
「……そうなのか? ……けど、ザイゼンを倒さないと、俺も元の空間に戻れないんじゃあないのか?」
「ううん、そんなことない……っていうか、関係無いわ。ヒロは帰って来られるの!」
「どうして、そう言い切れるんだ?」
「だってヒロ、なんにも悪い事、してないでしょう?」
……いまいち良くわからない理由だったが、何も悪い事をしていない俺の事は、いかに邪鬼王といえども、一時的に亜空間へ移動させることはできても、追放したままにはできないらしい。
「……と、いうことは、財前専務は……」
「そう、悪事を働いて亜空間に追放となった彼は、もう、帰って来られない。魂が浄化されることもなく、未来永劫、その亜空間で苦しみ続ける事になる……つまり、パワハーラ・ザイゼンとは、もう二度と、顔を合わせることもなくなる……」
なにげに恐ろしいセリフだった。
今、目の前で暴れている妖魔化・凶暴化したしたパワハーラ・ザイゼン、これが邪鬼王に逆らったものの末路なのかもしれない。
奴は、
「……なぜだぁ……なぜ魔法が使えない! なぜ、誰も俺を助けに来ない! ここから出せぇ、元の空間に連れて行ってくれぇ!」
と、泣き叫ぶように大声を出し続けているが、ある意味、自業自得なのだろう。
「……それで、俺はどうやったら、ミキ達のところへ帰れるんだ?」
「私達みんなが協力して、『召喚魔法』で呼び寄せる。だから、ヒロは魔力を感じたら、それに抵抗せず、受け入れて欲しいの!」
「……わかった! ちなみに、みんなって誰だ?」
俺はミキにそう確認した。
「えっと、私と、ユウちゃんと、シュン君と、あと、メイドのレイちゃんよ!」
「……フトシ課長代理は?」
「だって、フトシさんは魔力ゼロだから……」
「……いや、うん、ちょっと確認しただけだよ」
本音では、フトシが加わっていない方が安心できたが、聞こえてしまいそうなので口にはしなかった。
「ヒロさん、私も一生懸命、お祈りしますから、受け入れてくださいねっ!」
「ヒロさん、帰って来たら、盛大に祝勝会、しましょう!」
「……その祝勝会の料理、私、がんばって作ります……」
ユウの可愛い声、シュンの頼もしい励ましの言葉、そしてレイの、少し無愛想だが思いやりの込められたセリフに、俺は感動した。
「……わかった、みんな、頼む!」
俺はそうお願いした。すると、次の瞬間、
「「「「勇者召喚!」」」」
という呪文が重なって聞こえ、ふっと、自分の体が浮き上がるのを感じた。
そして、少し前方で何か喚きながら暴れている、誰一人として助けの来ないパワハーラ・ザイゼンに対して、少しだけ哀れみを感じた。
※メイドのレイは、相当若くなっていますが、モデルは虹山秘書です(『レインボー』のレイです。土屋の中で、途中からそういう設定になったようです)。
※まだ倒すべき敵は存在するため、冒険は続いていくことになります。




