決戦前日 (現実)
美香と優美の二人が、何かの『魔法』を使って二階堂社長にコンタクトを取ってから、さらに三週間が過ぎた。
本当に、社長と情報のやりとりができたのかどうか、半信半疑ではあった。
しかし、社長秘書である虹山茜が俺の元にやってきて、特別な打ち合わせをしたい、と言ってきたことから、
「ああ、これは本当に大事になったんだな……」
と直感した。
虹山秘書は、二十代後半ですらっとしたモデルのような高身長、美形の女性で、眼鏡をかけていることもあって、近寄りがたいほどの知的な印象を受ける。
実際、東大出身という話だし、課長程度の役職者なら論破するだけの能力もあるという。
そんな彼女が、特別な打ち合わせに俺を呼んだのだ、事情をまったく知らない金田課長代理が驚いたのは言うまでもない。
「土屋、一体何をやらかしたんだ?」
怪訝そうに訪ねて来る金田課長代理に、
「……すみません、ちょっと言えないです。でも、金田さんにはまったく関係のないことですから」
とだけ伝えて、そのあとは沈黙を貫いた。
美香や優美、風見は見て見ぬフリだが、
「ああ、いよいよか……」
と思ったに違いない。
課長代理は、風見達にも、
「何があったのか、みんな本当に知らないのか?」
と尋ねていたが、当然のように、みんなすっとぼけてくれた。
そして、指定時間通りに打ち合わせスペースに行くと、他には誰もおらず、俺と虹山秘書の二人だけだった。
やや緊張したものの、彼女が思っていたよりも気さくに話しかけてくれたため、すんなりと話が始まった。
しかし、その内容は衝撃的なものだった。
社長が突き止めたという、備前専務の不正の事実と糾弾内容……それは、俺の想像を超えていた。
よくこのわずかな期間に調べ上げ、行動したものだと驚愕すると同時に、社長の手腕に、背筋が寒くなる思いをした。
そして、専務と直接話をする機会を設けるから、ぜひ俺にも参加してもらいたい、と言っているのだという。
なぜ俺が、と聞いてみると、
「『ディープシーソフトウエア』のプログラムの値段が高いと指摘したこと、そしてそれが備前専務の逆鱗に触れ、別の部署に強制的に移動させられたこと……そのことを証言して欲しいのです。今回、その事実が決定的な証言になり得るのです」
と言われてしまった。
そこまで大事になっているのであれば、確かに、俺は参加しなければならないだろう。
「……それと、二階堂社長は、あなたという人物にかなり興味をお持ちのようです。なぜなのかまでは分からないのですが……でも、少なくとも同僚の女性社員からは、すごく慕われているようですね」
ニッコリと笑みを浮かべてそういう彼女の様子に、ああ、結局二人の正体はバレてしまったんだな、と直感した。
「心配いりませんよ、協力して頂いた方が不利になることは、何一つありません」
その彼女の言葉を聞いて、俺も糾弾の場に参加し、戦うことを決意した。
風見が、その行動力で備前専務と『大海原システム』の美人社長とのただならぬ関係を暴き出した。
美香と優美は、満足に身動きが取れない俺に変わって、下請け会社『ディープシーソフトウエア』と孫請け会社『大海原システム』の関連を調査し、さらに、社長と直接コンタクトを取るという、魔法としか思えない技をやってのけた。
そのどれもが、備前専務やその配下に知られてしまえば、ただでは済まない危険な作業だった。
そんな彼、彼女等の熱い思いがあって、ついに社長や社長秘書を動かし、俺と備前専務との、いわば直接対決の場を設けてくれるというのだ。
「……それでは、最終確認です。明日の社長と備前専務の特別会合の場に、ご参加いただけますか?」
その問いに、俺は即答した。
「はい、もちろん参加させて頂きます!」
――明日、全てを賭けて最大の宿敵、備前専務と対決する。
俺は、自然と武者震いしている自分に気付いたのだった。
※次回、いよいよ備前専務と直接対決となります。




