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連戦連勝 (創作、現実)

(創作世界)


 パワハーラ・ザイゼンにはまだ勝てないと悟った俺達は、引き続き情報収集を進めると共に、その配下の妖魔達とも戦っていた。


 パワハーラ側から『抵抗した街にはさらなる罰則を課す』という対抗策がとられていたので、今となっては手出しがしにくくなったのだが、それ以前は、少しでも戦力を減らす目的と、俺達のレベルアップも兼ねて、激戦を繰り広げていたのだ。


 戦闘力自体は大したことがないのに苦戦したのが、『スメル・タナカ』だった。

 とにかくこいつは、臭かった。


 半径三十メートル以内に入るだけで吐き気を催す異臭が漂ってくる。まるでアニメに出てくる、メシをも腐らせる○○○神だ。


 俺達は一度は対峙したものの、あまりの体臭のきつさに、逃げ出してしまった。


 どうしようかと悩んだのだが、とりあえず匂いだけでも抑えれば戦えると思い、ユウに水魔法(彼女は主に治癒術師だが、水系の魔法も使える。ただし、攻撃力はほとんどない)を使って体の洗浄を試みたもの、その程度では体臭を完全に抑えることはできず、失敗。


 そして調査を進めたところ、元々タナカは、会社員時代から彼女ができたことがなかったと判明。

 そこで、支配されている街の中から、比較的可愛い娘にお願いして、スメル・タナカへの献上品として、体臭消しの効果が高い香水を献上させた。


 若く、美しい娘からのプレゼントとあって、大喜びでそれを体に振りかけたタナカは、俺達との戦闘にも、そのまま香水をつけてやって来たのだ。


 それで多少、臭さの質は改善したものの、未だに近づくには耐え難いものがあった。

 しかし、ユウが新しい消臭魔法『ファブリリーズ』を修得しており、風上からそれを使用、匂いが若干落ち着いたところでシュンが『レクサシズ・アロー』でトドメを刺した。


 今回ばかりは、接近戦を挑むのは嫌だったので、シュンが


「浄化完了!」


 の決めゼリフを放って、天へと返したのだった。


 次なる相手は、街道を歩いている俺達に奇襲をかけてきた難敵、『ステルス・サイトウ』だった。


 こいつはとにかく、存在感がない。

 見つけようと思ってもなかなかその姿を捕らえられず、焦る俺達に対して、分かれ道の案内表示を変える、といった地味な嫌がらせをしてきたのだ。


 しかし、存在を隠しているということは、攻撃の術を持たない、ということでもある。

 だったら、放っておいても直接ダメージを受ける事はない。


 俺達がそいつのことを相手にしないでいると、


「てめえら、俺の事を無視しやがって。俺の孤独がわかるのか! 飲み会にも誘われず、同僚の結婚式にも招待されず……休日も、家で撮り貯めした番組を延々見るか、本屋で立ち読みするかの毎日だ。それに比べて、なんだ、てめえら、男女五人で仲良く冒険なんかに出やがって!」


 と、訳の分からない理屈で逆ギレして飛び出してきたところを、俺が『ホリゾナル・スラッシュ』一閃。

 ステルス・サイトウは、断末魔の悲鳴を上げて昇天した。


「なんだったんだ、あいつは……」


 あっけなく倒したことに、おれが唖然としていると、


「斎藤さん、可哀想に……誰かに相手、してもらいたかったんでしょうね……」


 と、ミキは少し、涙ぐんでいた。


「きっと、本当は戦いたくなかったんでしょう……パワハーラの使いっ走り、というところでしょうかね。ま、最後にヒロさんにトドメを刺してもらって、よかったんじゃないでしょうか」


 と、シュンはドライだった。


「……まあ、来世はリア充になることを祈っておくよ……滅殺完了!」


 俺は、若干の後味の悪さを感じながら、剣を鞘に収めたのだった。


 さらに厄介な相手だったのは、『マシンガンK』こと、加藤課長だった。

 彼のマシンガンのような小言、嫌み、叱責の連射は相当なものだった。


「もっとマシな字を書けないのか!」


「電話は三回以上待たせるな!」


 みたいな事を何十分でも言い続ける人だったが、こっちの世界に来てからはそれが増幅され、『口撃』として物理的ダメージを受けるから厄介だった。


(言われている事柄が社会人として正しいのは理解できるが、どうしても無理な場合があることを汲んで欲しい)


 最初、フトシ課長代理の『ヘ・リクツ』で対抗したものの、やはり攻撃力が違いすぎるようで、あっけなく粉砕されてしまった。


 そして凄まじい連続口撃を捌ききれなくなったフトシ課長代理は失神、その後、俺達は全員均等にダメージを受け、相当やばい状況まで追い込まれたのだが、ここで予想外のことが起きた。

 マシンガンKの口撃をまともに受けてしまったユウが、泣きだしてしまったのだ。


 これを見たKは、彼女に駆け寄って、


「だ、大丈夫か? すまない、ちょっと言い過ぎた。そんな泣かせるつもりはなかったんだ……」


 とかいうようなことを言っていたところを、チャンスと見た俺は、背後から『ホリゾナル・スラッシュ』を一閃したのだ。


「うぎゃあああぁぁ……」


 Kは、のけぞったかと思うと、そのまま体を爆散させ、そして一筋の光となって、そのまま天に帰っていった。


「……今の、ちょっと可哀想じゃない?」


 ミキのもっともな一言だったが、


「あのまましばらくして復活してしまうと、こっちがやられる可能性が高かった……やむを得なかったんだ……」


「まあ、そもそも奴は、俺達を全滅させるつもりだったんでしょうしね……ユウちゃんの演技が功を奏したってところでしょうか」


 シュンがそうフォローしたが、


「……あの、えっと……私、演技じゃなくて、本当に泣いてしまったんです……ごめんなさい……」


 と、彼女は謝った。


 うん、ユウは、本当に純粋で可愛い。

 そんな彼女の素直な心に、マシンガンKもやられてしまったに違いない。


「本当は、戦いたくなかったのかもしれないな……おそらくはパワハーラに強制的に出撃させられていたんだろうな……」


「そうね……パワハーラ・ザイゼンさえ倒せば、この侵攻は止まる……そんな気がする……それまでは、辛くても、悲しくても、戦い続けないといけないのね……」


 ミキも、そう覚悟を決めているようだった。


 パワハーラ・ザイゼン……。

 今だその倒し方が想像すらできない、最大の強敵だ。


**********


(現実世界、土屋視点)


 ここまでの内容を投稿サイトにアップすると、その後五分ぐらいで、なぜか美香からスマホに連絡が入った。


「ツッチー、やっぱり、実は優美ちゃんの事、好きだったりしない?」


 その内容にドキッとした俺だったが、何のことだか心当たりがない。


「いや、かわいいな、とは思っているけど、恋愛感情があるかって言われると、そういうんじゃあないような気がする。なんていうか、アイドルの女の子を見ているっていう感じ」


「それってやっぱり、好きなんじゃない? まあ、いいけど……それより、例の作戦、上手くいっているよ。社長、動いてくれるって」


「……本当か! 凄いな、どんな魔法使ったんだ?」


「それは秘密。でも、調べてなんにもなかったら、社長でも動きようがないっていう話だったけどね」


「それは仕方無いな……まあ、俺達はできるだけのことはやった。その行動が実を結ぶかどうか、だな……」


「うん。正義は必ず勝つって、信じてるよ!」


 現実世界でも、創作の世界でも、最大の宿敵を倒すための行動が、着実に進んでいた――。

※次週以降、いよいよ備前専務、及びパワハーラ・ザイゼンとの最終決戦に突入していきます。

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