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魔法 (現実)

 翌日から、俺達は備前専務や『ディープシーソフトウエア』、『大海原システム』について、こっそり調べていくことにした。


 俺達の会社から『ディープシーソフトウエア』へ発注されるプログラムの割合は、やはり相当高い。

また、なぜかその品質も、最高水準と評価されている。


 去年俺が見たときは、確かに一定以上の水準ではあったが、そこまで特別に優れていると思えるものでは無く、それなのに値段が高いと思っていた。


 つまり、今のこれは理不尽な評価だった。

 おそらく、システム部門を統括している備前専務の指示があるのだろう。


 また、風見は、週末の度に『大海原システム』に行って、あの女優のような美人が社長であること、そして備前専務と彼女の二人が、少なくとも週に一回はホテル通いをしていることも突き止めていた。


 美香と優美の二人は、それとなく社内における備前専務に関する噂や、情報を集めていた。

 やはり、人事などにも介入するその強引な手法に反感を持つ人も多かったが、だからといって何か不正を行っているような噂はなく、むしろ豪腕としてその力量を評価されているという印象らしい。

 なお、浮気や不倫、愛人ということの噂はないとのことだった。


 これらの調査内容から、会社内で直接備前専務の弱点を見つける事は困難、と俺達は判断した。


 一方、『ディープシーソフトウエア』から納入されるプログラムについては、ほぼ全てに『大海原システム』を下請け(俺達の会社からすれば孫請け)として採用している旨が、プロジェクトの報告書から明らかになっていた。


 ただ、納入されたプログラムに対する『大海原システム』の作成部分がどこまでの範囲なのかまでは明示されておらず、また、その義務もない。


 さらに、『大海原システム』の社員は、社長の他二名となっているが、二人とも社長の親族であることが判明している。


 あの衝撃の不倫現場目撃から三週間、集めた情報を元に、俺のアパートに四人集合して、定例となった『備前専務討伐会議』を開いていた。


「……みんな、なかなか俺が行動できない中、こんなにいろいろ調べてくれて、ありがとう」


 まず俺がそう感謝を述べると、


「ううん、ツッチーは悪い意味で目を付けられているんだから仕方ないよ……と言っても、私達も、大したことは調べられていないけど」


 美香が申し訳なさそうにそう言った。


「私も、頑張ったんですけど……美香さんのお手伝いが精一杯で……」


「いや、二人とも十分だよ、ますます疑いが濃くなった」


 俺はそう美香と優美の二人をねぎらった。


「……しかし、備前専務、なかなか決定的なしっぽがつかめないっすね……不倫は確定的なんですが、それはあくまで家庭内の問題ですし……直接取引している企業の社長ならまだしも、孫請けっすからね……」


 探偵に憧れていたという風見も、自分が集めた証拠が相手を追い詰める手段とならないことに、意気消沈しているようだった。


「ゲーム風に言うならば、『防御力が非常に高い』ってところか……せめて、俺達が立てた仮説の通り、『ディープシーソフトウエア』に対して『大海原システム』へ発注するよう圧力をかけていたことが判明すれば、打つ手はあるんだろうけどな……」


「……そうだ、ツッチー、そもそもどうやって『ディープシーソフトウエア』の社員から、うちの社長の発注はおかしい、みたいな情報を得たの?」


 美香が、思い出したようにそう聞いてきた。


「ああ、それはたまたま俺と同じ趣味の人がいて、ダイレクトメッセージでやりとりしているうちに、偶然そうだと教えてくれたんだよ。でも、素性が分からないし、会ったこともないので、俺からは『シーマウントソフトウエア』の社員であることも含めて、情報を隠している。彼も、なにかおかしい、ぐらいにしか思っていないようだ」


「……そっか……そっち経由で情報を得るのは難しい……っていうか、危険ね……」


 やはり、打開策には繋がりそうになかった。


「ツッチーさん、これはもう、俺達の手には負えないッスね……これ以上調査を進めるならば、本職の探偵を雇うか……でも、それでも解決にはなりそうもないッスけど……」


「ああ……不倫関係で攻めるのは無理だろう。だとしたら、これ以上の決定的な情報を得るのであれば、直接『大海原システム』や『ディープシーソフトウエア』の社長に接触するぐらいしかないが……」


「それはあまりに危険よ。相手にされないばかりか、すぐに備前専務に報告されて、それでツッチーは終わり、よ……」


 美香による生々しい表現だが、的を射ていた。


「あの……だったら、それなりの役職の人にお願いすればいいんじゃないでしょうか?」


 優美が、恐る恐るといった感じで意見を出してきた。


「それなりの役職といっても、専務の不正を、それもまだ疑いでしかない段階で調べてくれるような人がいるとすれば、社長ぐらいしかいないな……でも、社長に直接、訴える手段なんて……」


「目安箱! あれに投函したらどうッスか?」


 風見の声が弾む。


「いや……実はそれは俺も考えたけど、あれは『社長が読んでくれる』ことにはなっているが、『他の人は読まない』ものじゃない。回収する人だっているわけだし、社長に渡す前に読まれると考えた方がいいだろう……もしそれが、備前の息のかかった奴だったら……」


「……なるほど、だめッスね……」


 名案を思いついた、と一度は表情を明るくした風見だったが、すぐに意気消沈した様子に戻った。


「えっと、じゃあ、電子メールとかはどうでしょう?」


 今度は優美が提案した。


「いや、それもダメだ。社内のメールは、仕事中に関係のない私的なやりとりがされていないか、システム部門がチェックすることになっている。そして備前専務はシステム部門を統括している。それにそもそも、社長のメールアドレスは、一般社員には公開されていない」


「……そうですか……」


 落ち込む優美。なにか、可哀想になってきた。


「だったら、手紙とか……直接会いに行くとか……って、無理よね……」


「ああ、手紙なんかは、そもそも本人に届くかどうかもわからないし、それこそ誰に読まれるか分からない。いきなり直接会いに行くっていうのも無謀だ。できたら、匿名で、双方向でやりとりできる形で、確実に社長に連絡を取れる手段があったらいいんだが……」


 自分で行っておきながら、それが如何に難しいことか分かっていたので、ますます気分が落ち込む。


「……そんな都合のいい方法が、あるわけ……ああっ!」


 美香が、目を大きく見開いてそう叫んだ。

 全員、彼女の方に注目する。


「私、社長に直接、しかも匿名で連絡する手段を知ってる!」


「本当ですかっ! それ、どんな手段なんですかっ!」


 優美は、目をキラキラさせながら先輩である美香にそう尋ねた。


「優美ちゃんもそれ、できるよっ!」


「え……私も、ですか?」


「そう! あの、クレーマーを撃退した日、私達二人で、話、したよね? あれ、絶対社長よねって」


「……はい、それは覚えていますけど……」


「ユーザー同士だったら、秘密で直接連絡できる手段、あるじゃないっ!」


 美香のその一言に、優美も目を大きく見開いて、両手を口に持って行き、


「……ダイレクトメッセージ……」


 と呟いた……どうやら、本当に二人とも、なにか有効な手段を持っているらしい。

 俺も風見も、ポカンとしていたが。


「……優美ちゃん、ツッチーには内緒よ。もし知ったら、無理するに決まってるから」


「分かりました。私達だけで進めましょう!」


 と、二人は上機嫌だ。


「あの……よくわからないけど、それって危険じゃないのか?」


「うん、多分、危険は無いと思うよ。やっと、約束果たせそう……」


「約束?」


「うん……あの夜、私が言ったこと、覚えている? スイッチが入ったツッチーに対して、言った事……」


「ああ……」


 俺は、その時の言葉を、鮮明に覚えていた。


『私は……ツッチーのこと、全力で支えます……』


 その、彼女からの一方的な約束を、守ってくれると言っているのだ。


「……私も、微力ながらお手伝いしますね。一人からよりも、二人からの方が、信じてもらえると思いますから!」


 優美も、相当やる気になっていた。


 俺としては、社長に直接、それも匿名で、確実に連絡できるという、いわばそんな『魔法』が使えるという二人の言葉が、にわかには信じられなかったが、ここは頼る他にない。


「……わかった。でも、絶対に無理、しないようにな」


「うんっ!」


「はいっ!」


 二人は得意げにそう返事をして、それが何かおかしくて、みんなで笑ったのだった。


 そしてこれがきっかけで、事態は大きく動き出した。

※土屋は、『ダンディー』『カワウソ』『ゆうみん』の正体に、まだ気付いていません。

※結果が出るまで少し時間がかかりそうですので、土屋の創作(パワハーラの配下との対決)も、書いていきたいと思っています。


※引き続き、評価やブクマ登録、感想などを頂けますと、ヒロインや同僚社員一同と共に大喜びいたします。

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