許さんっ! (現実)
その後、実は大した情報は得られないと思っていたので、せっかくだから四人で、普段の仕事の鬱憤晴らしにどこか遊びに行こうか、というような話もしていたのだが、あの衝撃の光景を見て取りやめになった。
ほとんど無言のまま、一旦俺のアパートに集まることになった。
「……備前専務って、奥さんいたよね……」
美香が、ぼそりと呟いた。
「ああ……確か、専務と同い年ぐらいだったと思う」
それ以上、会話が続かない。
風見がミラーレス一眼レフカメラで撮影した画像を確認する。
間違いなく備前専務と、大海原システムから出てきた、三十歳手前ぐらいにしか見えない、相当な美人だった。
特にショックを受けていたのは、優美だった。
さすがに、創作の中に出てくるユウのように、『子供は夫婦が祈るだけで神様が授けてくださる』と信じているわけではないようだが、それでもやはりまだ二十の純情な彼女にとって、ドロドロした大人の男女の、おそらく不倫か浮気の現場を見たことは、かなりこたえたようだった。
「……まあ、あのぐらい上層部の人間なんだったら、愛人とかいても不思議じゃないんじゃないっすか? 奥さん公認かもしれないし……」
風見が、慰めにもならないような言葉を発した。
「……いや、そこが問題じゃない。専務が浮気しようが、不倫しようが、愛人がいようが、俺達にも会社にとっても、どうでもいいことなんだ。問題は、その相手が俺達の会社にとって、孫請けの会社の人間だった、っていうことなんだ……しかも、ほとんど中身のないプログラムに対して、年間数千万円っていう報酬が流れているっていう、まだ未確認だけど、そんな情報もある」
俺のその一言に、全員、顔を上げた。
「あ……そっか。それって……もしかしたら、愛人に貢ぐために、備前専務がなにか細工をしているっていうこと?」
美香は、何かに気付いたようだ。
「ああ……例えば、こうは考えられないか? 何かのきっかけで、大海原システムの社長があれほど美人だと知った備前専務、『自分の愛人になったならば、ほとんど何もせずとも大金が入るようにしてやろう』と持ちかけた。その誘いに乗った彼女の会社に対して、直接取引をすると不正がバレるから、下請けの『ディープシーソフトウエア』を、いわばトンネルにして資金が流れるようにした……」
そんな俺の仮説に、風見が頷いた。
「あり得ますね……ディープシーソフトウエアに、『大海原システムを孫請けにしてプログラムの発注をしろ。その分の金額は上乗せして、俺の会社に請求すればいい』と持ちかけた……いや、そうしなければ、お前のところに発注はしない、と脅した……」
「そうだ。そう考えれば、あの会社のプログラムが他社よりずっと高かったことも、それでも備前専務が発注し続けるようにこだわったことも説明がつく」
「……えっ、ちょっと待ってよ。それじゃあ、その、『ディープシーソフトウエア』のプログラムが高いってツッチーが指摘して、備前専務が激怒したのは……それで開発の仕事から外されて、今の、希望しない職場に異動させられたのって……全部、専務の愛人との関係を継続するためだけなの?」
美香は、呆れたようにそう言った。
「そんな……ひどい、ひどすぎます……」
優美は泣声になっている。
「……俺だけじゃない、そうなれば、年間何千万円も会社に損害を与え続けたことになる……自分の懐は痛めることなく、権力をふるって、会社の金を愛人に貢いでいたんだからな……」
今、俺達の会社は、決して楽な状況ではない。赤字にならないよう、全社を挙げて経費削減に取り組んでいるような状況だ。そんなときに、こんな私的な、俺達からすればくだらない理由で、あれほどの無駄金をつぎ込んでいたことになる。
「……これって、このまま黙って見過ごしていいことじゃないよね……」
美香が、決意を秘めた様子で顔を上げた。
風見も、優美も頷いた。
そして俺は一言、こう叫んだ。
「……許さん……絶対に許さんっ!」
※次回以降、備前専務を倒すべく、土屋達が本格的に活動を開始します。




