衝撃 (現実)
翌日、昼前頃に風見が車で迎えに来て、まず俺と、すぐ近所の美香を乗せ、最後に優美も同乗して冒険の旅に出発。
といっても、謎のソフトウエア会社『大海原システム』の様子を外から眺めてチェックする、というだけの、大して危険でもないミッションで、車内はちょっと遊びに行くぐらいの明るい雰囲気だ。
実際、まずは腹ごしらえをしなければ、と、風見お勧めのおしゃれなイタリア料理の店で、パスタやピザのランチを堪能。こういう店をさらっとチョイスできるのが、風見の、顔だけではないイケメンなところだ。
女性陣もご満悦。やっぱり彼はモテるんだろうな……。
しかし、そんな風見は、俺のことを羨望の眼差しで見ていた。
「ツッチーさん、凄いッスね。いつの間にか、美香さんや優美ちゃんと、こんなに仲良くなってて、アパートにも遊びにくるような感じになってるなんて。最近、仕事もめっちゃやる気出してるじゃないですか。何かいいこと、あったんですか?」
「……いや、まあ……あったといえばあったかな……」
そう曖昧に返して、ごまかすためにピザをほおばった。
「……そういえば、いつのまにか優美ちゃんのことも『優美』って呼んでるし……ひょっとして、二人は付き合ってるんですか?」
風見の鋭いツッコミだったが、優美は
「ううん……残念ながら、ツッチーさんは私じゃなく、美香さんと付き合ってるんですよ」
と、苦笑いしながら返した。
「まじっすか! ……まあ、前から仲良いなとは思ってましたけど」
それに対して、美香は否定も肯定もせず、微笑みながら、やっぱり俺と同じようにピザをほおばっている。
「お二人、すごくお似合いだって思いますよ。私も、美香さんだったら、心から応援しますから……ご結婚、いつですか?」
優美の思わぬ言葉に、俺と美香は、揃ってむせた。
「い、いや……ま、まだそんな、具体的な事はなんにも決まっていないから……」
「そ、そう。ほんとに、友達の延長って感じだから」
少しだけ落ち着いた俺達は、揃って弁明した。
それに対して、優美も風見も、
「いいなあ……」
とか、
「うらやましいっス」
とか言って、笑っていた。
そんなこんなで、楽しい昼食時間が終わり、いよいよ問題の『大海原システム』へ。
八階建てぐらいの建物の一階部分が貸事務所になっており、その一室を、この会社が借りているようだった。上の階は、マンションなのだろう。
建物の前には、車を数台止められる駐車場があるが、さすがに用もないのにそこに駐めると怪しまれるので、道を挟んだすぐ前のコンビニに待機することにした。
目的のビルに対しては後ろ向きになっている。
車の後方はプライバシーガラスになっており、外からは見えないので、この方が都合がいい。
後列の美香と優美が常時後ろ向きでガン見、助手席と運転席の俺と風見が、ミラーで見たり、時々直接後ろを向いて確認するような形で、しばらく観察していた。
三十分ほどそのままだったが、その事務所の窓はそれほど大きくなく、また、室内の電気はあまり明るくないようで、この距離からだと、人がいるのかどうかもよく分からない。
また、出入りも全くなく、はたして仕事をしているのだろうか……。
この日は、俺達の会社は創立記念日で休みだが、世間一般は平日だから、普通に仕事をしていると思われるが、その気配があまり感じられない。
「車を降りて、買い物帰りか何かのフリをして、近くまで行って覗いてみようか?」
美香がそんな提案をしたが、ここで風見がミラーレス一眼レフカメラを取り出して望遠レンズを接続、後方に狙いを定めてEVFファインダーを覗いた。
「……おまえ、そんなものいつも持ち歩いているのか?」
「いいえ、今日は偵察っていうことなので、特別ッス。一瞬のチャンスも逃さないように、準備しておいたんです……これで見ても、あんまり変わらないですね。電気は点いているみたいですけど、暗くてよく見えないッスね……」
彼が探偵に憧れる、っていうのは本当かもしれない。
と、そうしているうちに、黒塗りの高級車が一台来て、ビルの共用の駐車スペースに停まった。
「レ○サス……新車だな……」
「あ、けど、ナンバーが『わ』です……レンタカーっすね……」
風見はそう言って、シャッターを何度も切っていた。
単に車の写真が撮りたかっただけかもしれないが……。
そのとき、『大海原システム』の事務所に動きがあった。
側面の出入り口のドアが開いて、高そうなスーツを来た、相当美形の女性が出てきたのだ。
まるで女優だ。
「……すごく奇麗な人……え、まさかあの人が大海原システムの社長?」
美香が驚きの声を上げる。
「まさか……三十代半ばの女性、って聞いてたけど……いや、ありえるのか?」
俺も、ちょっと声が上ずっていた。
優美は食い入るようにその女性を見つめ、風見はシャッターを連射している。
すると、彼女を迎えるかのように、レンタカーから、やはり高級そうなダークスーツを着た、壮年の男性が降りてきた。
サングラスをかけているのではっきりとは顔がわからないが、五十歳前後に見える。
二人は、親しげに話した後、車の方に歩き出した……と、ここでその男性、浮かれすぎたのか、駐車場の車止めに足を取られ、よろけてしまった。
なんとか踏みとどまったが、反動でサングラスが外れ、落としてしまった。
「「「「……ああっ!」」」」
俺達は、全員揃って声を上げてしまった。
その男性に、何か見覚えがある、と思っていたのだが、その素顔を見てはっきりと分かった。
「……備前専務……どうしてこんなところに……」
美香が、混乱した様子でそう呟いた。
俺も、おそらく優美も、同じ気持ちだっただろう。
風見は、相変わらずシャッターを連射していたが。
備前は慌ててサングラスをかけ、周囲を見渡した後、女性に一言、何か声をかけて、二人で車に乗り込んだ。
そしてそのまま、滑るように発車した。
「……風見、あの車を追うんだ!」
「はい、もちろんっ!」
風見はカメラをグローブボックスに素早くしまうと、慣れた手つきですぐに車を動かし、備前専務達が乗ったレンタカーを追いかけ始めた。
――彼の尾行は、巧みだった。
すぐ後ろに付けるのではなく、常に間に一台か二台、他の車を入れた。
信号にかかりそうになったときだけ車線を変更し、加速して、離されないように工夫していた。
「風見、前の車の後をつけるの、上手いな」
「そうでしょう? よく刑事物のドラマとか見てて憧れてて、車買ってから、よく練習してたんっすよ! なんか、ワクワクしますね!」
一歩間違うと犯罪者予備軍だが、俺としては、本当にこういうの、好きなんだなと、感心? した。
やがて、前の高級レンタカーは、郊外の、少し寂しい道に入っていった。
こうなると、あまり交通量がないので、間に車を入れるのが難しくなる。
仕方無いので、少し距離を取って追跡していると、不意にウインカーをつけて、派手で大きな建物の敷地内に入っていった。
さすがにそこまで追いかけていくことはできないので、風見は入り口をスルーして直進する。
その際、横目でちらっとその建物を見たのだが……。
「えっ……今の建物って……」
俺は、信じられないものを見たような気がして、確認の為にそう言って、後ろを振り返った。
後席の美香と優美も、目を見開き、両手を口に当てて驚いている。
隣の風見の方を見た。
「……ラブホっすね……」
彼の一言に、その事実を確信し、俺は……いや、おそらく俺達全員は、入社して以来、最大の衝撃を感じていた。
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