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パーティー結成! (現実)

(現実世界)


『プログラマー三年目』からダイレクトメッセージの返信をもらった俺だったが、


「すみません、こちらは具体的な会社名を挙げることができないので……なにか、海関係? の名前の会社にお勤めなのですね」


 とごまかして返事をした。

 すると、


「そうですね、すみません、気のせいだったようですね。プログラムの値段が高いのに定期的に発注をくれる、っていうのが引っかかったのですが、どこでもよくある話ですよね。さっき送ったメッセージは忘れてくださいね」


 という内容が、すぐに返ってきた。


 いや、そんなのよくある話のワケがない。

 彼も、『シーマウントソフトウエア』と『ディープシーソフトウエア』の関係が、おかしいと思っていたのだ。誰かに打ち明けずにはいられないほどに……。


 こうなってくると、さらに下請け……つまり、俺達の会社からすれば孫請けの会社のことが気になってくる。

 しまった、それは聞き出しておくべきだったか、とも思ったが、これ以上の詮索は危険を伴う……なにしろ、相手の正体がまったく分からないのだから。


 孫請け会社というのなら、調べる方法はある。

 下請け会社との契約の中で、孫請けとして取引する可能性のある会社についての資料を、提出してもらうことになっているのだ。


 プログラムというものは知的財産であり、その内容は第三者に知られてはならない事も多々ある。そのため、下請け、孫請けまで完全に把握して、秘密保持契約も結んでいるのだ。


 翌日から、会社での空き時間を少しずつ利用して、『ディープシーソフトウエア』について調べようとしたが……俺は一度、その会社がらみで目を付けられてしまっているので、どうも警戒されているような気がして動きにくい。


 さらに二日が過ぎ、金曜日の夜、俺は美香を、大事な話がある、といって自分のアパートに呼び出した。


 すると彼女は、なぜか少し顔を赤らめて、小綺麗に身なりを調えてやってきた。

 風呂に入りたてだったのか、シャンプーのいい匂いが漂っていた。


「えっと、ツッチー……その……大事な話って、何?」


 目をウルウルさせて、何かを期待しているような、少し怯えているような……色気のようなものも感じたが、今はそれどころではない。


「実は、とあるルートから、『ディープシーソフトウエア』とその下請け会社に、奇妙な関係があるっていう情報を入手したんだ。でもほら、俺は『ディープシーソフトウエア』がらみの事、あまり調べられないだろう? だから、美香に代わりに調べてもらいたい、って思ったんだ」


「……えっ? 大事な話って、仕事の話だったの?」


「まあ、仕事っていうか、興味本位っていうか……けど、こんなの会社じゃ話できないし、外じゃあなおさら話題にできない」


 俺が申し訳なさそうにそういうと、


「なーんだ、そっか……あははっ、そうよね。まだちゃんと付き合ってるわけじゃないしね」


「……どういう意味だ?」


「ううん、なんでもないよ……うん、ツッチーの為になるなら、仕方無いからできる範囲で協力するよ。でも、どうして今さら、『ディープシーソフトウエア』なの?」


 不思議そうにそう聞いてくる彼女に、俺は、小説投稿サイトのダイレクトメッセージ経由であることは隠して、


「『ディープシーソフトウエア』は、ものすごく低レベルなプログラムを作ってくる会社に、なぜか年間何千万円も発注をしているらしい。そんな情報が入ってきたんだ。さらに、その元請けが、どうも俺達の会社みたいなんだ。なにか得体の知れない、もやもやしたものを感じる。それで、俺たちにとっては孫請けとなるその会社が、何ていうところで、どんな会社なのか、突き止めて欲しいんだ」


「……ふーん、確かに、それが本当だとしたら、妙な関係ね……うん、わかった。調べてみるよ……えっと、それだけ?」


「ああ……俺にとっては、すごく大事な話になるかもしれないからな……もう九時か。遅くなったな、美香のアパートまで送っていくよ」


「え、あ、うん……ううん、近いし一人で帰れるよ」


「そうか? いや、それとも……いっそ泊まっていくか?」


 俺としては、彼女の事だから、また大げさに怒るか、または笑いながら断るだろうと思って、冗談っぽくにそう口にしてしまったのだが……。


「……いいの?」


 美香が、真剣な表情で顔を赤らめながらそう言ったのを聞いて、鼓動が跳ね上がるのを感じた。


「……えっと……」


 思わぬ展開にどぎまぎしてしまったが、ここで引いてしまうと、以前の……美香に言わせれば、スイッチが入る前の俺に戻る気がしてしまった。


 心臓が早鐘を打っているのを感じながら、


「美香……」


 そう言って、彼女の肩を抱き寄せようとした……その時、彼女のスマホが鳴り、驚いて飛び退いてしまった。


「……優美ちゃんからだ……」


 美香は慌てて電話に出た。


「もしもし……うん、今……ううん、ちょっと別の場所にいるの……えっ? うん……ツッチーも一緒……ち、違うよ、仕事の話、してたの。本当……大事な仕事の話。えっ……うん、まあ、そうだけど……違うよ……本当。えっと……ちょっとまってね」


 美香は、困ったように俺の方を見た。


「えっと……私がツッチーのアパートに一人で来てるって、何となく察したみたいで……正直にそうって言ったら、その、結構動揺しちゃったみたいで……どうしよう……」


 ……優美って、割と本気で、俺に好意を持っていたのか?

 でも、誤解だ。今のところ、美香との間には、なんにもやましいことはない。


「……じゃあ、いっそ優美にも来てもらうか? 遅い時間だけど、金曜だし、もう子供じゃないし……彼女にも、手伝ってもらえることがあるかもしれない」


 と、いうことになって、優美も誘ってみると、彼女はタクシーに乗って、本当に来た。


 はじめは、少し遠慮というか、拗ねているというか、そんな感じだったが、『ディープシーソフトウエア』とその下請け会社の話をすると、興味深そうな顔つきになって、一緒に調べてくれることになった。


 結局その日は、女性達は各々家に帰り、俺はいつも通りの週末の夜を一人ですごしたのだった。


 そして翌週の火曜日、美香と優美が協力して調べてくれたおかげで、わりとあっさりと、怪しい会社が見つかった。


『ディープシーソフトウエア』は複数の下請け会社と取引をしていたのだが、その中でも異彩を放っていたのが、『大海原システム』というソフトウエア作成会社で、従業員が二人、社長はまだ三十歳台半ばの、しかも女性だということだった。


 そしてこの『大海原システム』、他のソフトウエア作成会社とは契約をしておらず、まるで『ディープシーソフトウエア』専属の会社となっているようにも思われた。


 だが、そこまでだった。


『大海原システム』と俺達の会社は直接プログラムの売買をしているわけではないので、具体的な金銭の取引金額は不明だ。


 美香と美優は、この日も俺のアパートに来て、作戦会議を開いていた。


「……ここまで来たら、一度その会社を、外からでも見てみたいね……」


 美香が、今までの努力が水の泡になるのは惜しいから、と、そんな提案をしてきた。


「私も、美香さんに賛成です。ひょっとしたら、社員が働いている様子とか、窓越しに見えるかもしれませんし……ちょうど明日、私達の会社は創立記念日で休みですし、行ってみてもいいんじゃないでしょうか?」


 これは優美の言葉だ。


「そうだな……でもこの会社、あまり立地条件が良くなくて、駅から大分離れている……タクシーで行ってもいいけど、三人並んで窓から様子を覗く、なんて事はしたくないな……せめて車でもあれば、近くに止めて、車内から様子を見られるのにな……」


 俺も、女性二人も、車は持っていなかった。


「あ……だったら、風見君にお願いすればいいんじゃない? 確か高級車、買ったって言っていなかったっけ?」


「ああ、確かレ○サスだ……中古だけど。でも、それだと風見にも、事情を説明しなきゃならない」


 風見は俺と美香の一つ後輩で、歳も一つ下だが、無理をしてローンで中古の高級車を買っていたのだ。


「……えっと、別にいいんじゃないでしょうか? 同じフロアの同僚ですし……」


「そうね。それに、彼はカンが鋭いから、私達がコソコソ何か調べていること、気付いてたみたいよ。『仲間に混ぜてくださいよー』って言ってたから」


「……風見、か……」


 風見俊一は、イケメンで爽やかな好青年、おまけに仕事もできる、ちょっと嫉妬してしまうような人物だ。俺もとくに、悪い印象は持っていない……いや、むしろ、仲はいい方だ。


「……誘ってみるか……」


 早速、俺は風見に電話してみた。


 俺から電話をかけることはあまり無いのでちょっと驚いていたが、さらに重要な仕事の相談、それも美香や優美も一枚噛んでいると説明し、さらにみんな俺のアパートに集まっていると告げると、


「まじですか!? ツッチーさん、凄いじゃないですか! すぐに行きますっ!」


 と、興奮した様子で、本当に十五分ぐらいでやって来た。

 そして事のあらましを告げると、


「……すげーっ、俺、実は探偵みたいな仕事に憧れていたんです! 車出しますから、みんなでその何とかソフト、潜入調査しましょう!」


 と、子供の様にはしゃいでいたので、


「さすがに潜入までいくとやり過ぎだ」


と注意をしておいた。


 こうして、風見が仲間になった。

 さらに、移動手段まで手に入れた。


 創作の世界の、ヒロ、ミキ、ユウ、シュンのモデルとなった四人が、現実世界でもパーティーを組み、ある意味、危険を伴う冒険に出ることになる。


 ただ、フトシのモデルの金田課長代理については、


「あの人誘うと余計に話がややこしくなるので、やめておきましょう」


 という風見の一言で、創作の世界と同じく、冷遇されたのだった。

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